「マグロ危機」は、漁業者だけに背負わせられない課題を投げ掛ける。国際社会は資源の持続性を厳しく問い、寡占化した量販店は安さを追い求め、外国船や蓄養(養殖)産地との競争に駆り立てる。過剰漁獲から魚価安、資源減少―。悪循環は日本の漁業全体を覆う。世界で水産物需要が高まる中、安定した国内供給には漁業地域の存続が不可欠だ。船にとっての港のように、漁の現場は地域が支える。地域の流通・加工業や消費者の力も借り、持続可能な漁業への歩みを始めよう。豊かな海に面した三陸に、その一歩を探した。(マグロ危機取材班)


0619.JPG 水揚げ優秀船に贈られる「優勝旗」が船上にたなびく。13日午前11時すぎ、宮城県南三陸町の志津川漁港。近海マグロはえ縄船「第31幸栄丸」(116トン)が出漁した。
 幸栄丸は2008年度、2億1700万円を水揚げし、気仙沼遠洋漁協(気仙沼市)の所属船26隻で1位に輝いた。07年度も2億円以上の好成績を収めている。
 1年を通して狙うのは主にメカジキとヨシキリザメ。メバチマグロと違い、大規模な巻き網漁の影響を受けず、資源は今のところ安定している。
 「少ない丸もの(メバチ)を追っても、見合うだけの魚価がつかない」。漁労長の近藤幸喜さん(60)らは割り切っている。

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0620.JPG 資源の減少はマグロに限らず、三陸の沿岸・沖合にも押し寄せている。
 水産庁によると、資源水準が「低位」とされる日本周辺の主な魚介類は全体の4割を超える。
 水産総合研究センター東北区水産研究所(塩釜市)は「今のところ三陸で危機的な資源はないが、『低位』の魚は配慮して捕る必要がある」と指摘する。
 資源と漁業の存続に向け、注目されている漁業者の取り組みがある。
 一つは、2001年ごろから資源悪化が指摘された仙台湾のマコガレイ漁だ。05年度から一部の漁場で産卵期を禁漁とした。漁獲量は近年、回復傾向にある。宮城県七ケ浜町の刺網漁業組合副組合長渡辺鉄郎さん(57)は「組織や漁法の違いを超え、漁業者たちが協力している」と胸を張る。
 県漁協の担当部会は07年度、網に入った産卵後の雌を買い取り、再放流する試みにも乗り出した。産卵後のやせた雌は1キロ100円前後。魚体が太る夏場は2000円以上の値が付くからだ。
 再放流は七ケ浜町で始まり、08年度は塩釜市浦戸の刺し網、亘理町の小型底引き網の漁業者に拡大した。渡辺さんは「再放流した魚を別の漁師が捕るかもしれないが、逆もあり得る。お互いさまだよ」と言う。
 もう一つは磯部漁港(相馬市)のホッキ漁。漁業者は31年前から、「早い者勝ち」の漁獲競争を抜け出すため、操業・販売を共同化して水揚げを均等割りにする「プール制」を続けている。
 ホッキ貝は年ごとに稚貝の発生にばらつきがあり、資源変動が激しい。プール制は1960年代後半から70年代前半の厳しい不漁を経て編み出された。
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090621maguro_full.jpg 宅配生協「あいコープみやぎ」(仙台市)の生産者グループが5日、地域の魚について理解を深める「水産井戸端会議」を始めた。生協の主婦らが来年1月まで月1回程度、水産業関係者と意見交換したり、現地見学したりする計画だ。
 開催を呼び掛けたのは石巻市の食品加工会社の社長高橋英雄さん(58)。合成添加物ゼロのおでん具材などを生産する。
 原料は主に地元の石巻港に水揚げされた魚。自分の目で選んだ魚でないと、完成品の形が崩れ、なかなか無添加では作れない。地域の漁船漁業がもたらす「前浜モノ」が本物の味を支える。
 高橋さんは「もっと生産現場を知りたいという消費者は多い。消費者との情報共有から水産業再生の糸口を探りたい」と考えている。
 仙台名物の笹かまぼこに代表される宮城県のかまぼこ類。生産量は約7万3000トン(2007年)で、この四半世紀は不動の日本一を誇る。かつて北洋漁業の拠点だった塩釜、石巻、気仙沼の各港に集積した加工業が、その地位を支えてきた。

 県水産加工業協同組合連合会会長の岩崎務さん(74)は「量販店主導の価格決定で、原料高に見合う値上げが見込めない。小規模経営が多いだけに、『日本一』の足腰もかなり疲弊している」と打ち明ける。

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