第3部/砂上の都市
(5完)高度化/救命率向上 負担も増加

わずかな室内光の下で、幼い命が少しずつ成長している。東北大病院(仙台市青葉区)の新生児集中治療室(NICU)。1000グラム未満や合併症を伴って生まれた赤ちゃんを四六時中見守っている。
温度や酸素を厳密に管理できる保育器で、新生児たちは眠る。栄養を体に送り込む細いパイプは命綱。脈拍、心拍数を示すモニターが動き続ける。微妙な異常にも電子アラームが鳴る。
「100人中95人は、どんな病院でも安全に生まれてくる。残り5人をいかに救うかが大切」。NICUも担当する小児科医師の松田直さん(44)は表情を引き締めた。
NICUは周産期医療の高度化の象徴だ。超音波診断の普及で、胎児の異常は早期に察知できる。妊娠25週程度の早産でも、亡くなるケースは極めて少なくなった。
2000年、東北大病院で誕生した1000グラム未満の未熟児は8人。06年には23人と2倍以上に増えた。NICUに隣接した回復期ベッドには、1年以上も入院している子どもが2人いる。
不妊治療が一般化したことなどが影響し、双子、三つ子も増えている。宮城県立こども病院(青葉区)では、新生児科に入院する赤ちゃんの約2割が双子だ。
「双子というのは多くの場合、未熟児が同時に生まれる。気を抜くことはできない」。新生児科部長の丸山英樹さん(40)は神経をすり減らす日々が続く。
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(4)連携と分業/進む専門化 悩む大病院
宮城県立こども病院(仙台市青葉区)の一室。午前の診療が一段落した昼すぎ。産科医長の国井周太郎さん(35)と新生児科部長の丸山英樹さん(40)を、両科の医師、看護師長が囲んだ。
「前回は早産だったので、少し注意して様子を観察しています」「データの数値はどれくらいでしたか」。患者の治療方針を話し合う毎週火曜のカンファレンスだ。
約30分間、入院と外来計14人の症状をカルテを見ながら検討する。細心の注意を払う産前産後の手当て。超音波や採血のデータを参考に綿密な打ち合わせが進む。
お産にかかわるのは産科医とは限らない。大病院には、中小の病院や診療所で対応できない高リスクの母体が集中する。未熟児や合併症を伴った赤ちゃんは誕生後、新生児科医がバトンを引き継ぐ。
「産科医だけでは、どうしようもない部分もある。リスクが高いお産は、新生児科と麻酔科の医師がそろわないと緊急手術もできない」。国井さんは信頼のまなざしを丸山さんらに向けた。
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(3)予約競争/どこで分娩 情報戦過熱
仙台市宮城野区の加藤真理子さん(33)は昨年12月、仙台市立病院(若林区)でもらったリストを手に、途方に暮れた。
5歳になる長女は市内の病院で産んだ。その病院は現在、分娩(ぶんべん)を受け付けていない。2人目を授かり、最初は自宅近くの国立仙台医療センターに行った。予定日は7月。既に予約でいっぱいだった。
次に向かったのが市立病院。出産可能だった。ほっとしたところで、医師から告げられた。「うちはセミオープンシステムでやっています」。耳慣れない言葉とともに、一枚の紙を手渡された。市内の産科診療所名がずらりと並んでいた。
セミオープンシステムは、限られた産科医療の機能を分担して生かすため仙台で行われている試みだ。2005年3月にスタートした。分娩を扱う6つの大病院が、それぞれ20から50程度の開業医と連携。妊娠33週までは開業医で妊婦健診を受ける。
「仙台で産むことが、こんなに大変になっているとは思わなかった。病院は大小幾つもある。少子化なので逆に歓迎してくれるのかなと、少しは期待していたのに」。車を運転しない加藤さんはリストの中から、JR仙台駅に近い開業医を選んだ。バスと徒歩で通う。
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(2)空床情報/「×」ばかり 開業医焦燥
仙台市泉区にあるS・Sレディースクリニック院長の新川尹(おさむ)さん(57)は、パソコンで宮城県内の主な病院の産婦人科空床情報をチェックするのが日課だ。
宮城県周産期医療情報システム。県が県地域医療情報センターに委託し、2004年10月から運用が始まった。二次、三次医療を手掛ける基幹病院13カ所の状況を集約し、開業医などに提供している。
分娩を扱う病院や診療所のほとんどは、産科医が1人か2人。切迫早産や妊娠高血圧症などの兆候が表れた母体は、早めに設備が整った大病院に移す必要がある。どこが受け入れ可能か。常に情報収集は欠かせない。
システムは関係する医療機関だけが使える。病院名が並んだモニター画面。空きがあれば「○」、いっぱいなら「×」が表示される。「いつ見ても×ばかりが目立つからね」。新川さんはため息をついた。
開業医が頼りにする空床情報は、各病院がそれぞれデータを入力する仕組み。更新日時もばらばらだ。いつ見ても「○」は少ない。「本当に埋まっているのか」。搬送先を求める側は、こんな疑心暗鬼も抱いてしまう。
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(1)高リスク優先/搬送続々 苦渋の転院も
仙台赤十字病院(仙台市太白区)の総合周産期母子医療センター。宮城県内で唯一のセンターは切迫早産や妊娠高血圧症、胎児の先天性異常などリスクの高いお産に対応する。
新生児集中治療室(NICU)の9床と回復期用のベッド26床を備える。担当するスタッフは産科と新生児科の医師、助産師、看護師ら約100人。1000グラムに満たない未熟児や合併症のある新生児を24時間体制で看護する。
1月上旬。病院は休診日。センターが慌ただしさを増した。仙台近郊の医療機関から、母体搬送の要請が入った。
妊娠二十週前半の早産。救急車が飛び込むと、当直の医師が素早く指示を出す。「分娩(ぶんべん)室に運んで」。母体を乗せた担架は長い廊下を急いだ。



