河北新報社

(4)進む協業化<上>養殖と漁船、役割分担成功

saisei0126_01.jpg 三陸の浜では、協業化に対する抵抗感が依然、根強い。協業化で新たな漁業に挑戦する西日本の先進地3カ所を取材し、収益性向上やブランド化、後継者確保などのメリットを検証した。

<1億円を突破>
 薩摩半島西端にある鹿児島県南さつま市の野間池漁港は、鹿児島弁で「すんくじら(隅っこ)」と呼ばれる人口200余の小さな漁村だ。9年前に発足した協業体のマグロ養殖は2010年度、売上高1億円の大台を突破した。
 「養殖マグロはしばらく売り手市場が続く。2億円はいける」。野間池マグロ養殖協業体の代表森剛さん(48)は余裕の表情を見せた。

 夏場、野間岬の沖合に来遊する天然のクロマグロ(ホンマグロ)の稚魚「ヨコワ」を漁獲し漁港内のいけす8基へ投入。小魚の生き餌を2、3年与え、丸々と太らせる。
 スーパーなど小売りのニーズに応じ、40キロ前後に成長した時点で水揚げする。全量を流通業者と相対で取引し、空輸便で東京・築地をはじめ首都圏の卸売市場に届ける。
 鹿児島県は、国内生産量の3割強を占める最大の養殖マグロ拠点だ。大手水産会社の系列企業もしのぎを削る中、全員が地元の漁業者で構成される野間池は、協業化の輝かしい成功事例として知られる。

<バブル後 窮地>
 野間池では戦後、ハマチ、カンパチの養殖が盛んになったが、バブル経済崩壊の前後から魚価の長期低落傾向が続いてきた。かつて高値がついた養殖カンパチも同業者が増え、浜値は1キロ当たり1000円を切るようになった。
 燃料・飼料代の高騰も追い打ちを掛けた。協業体の取り組みを支援する南さつま漁協参事の森晃さん(57)は「浜から船がなくなり、人もいなくなった」と振り返る。
 この地域では、東京の社団法人が1990年代前半からマグロの試験養殖を実施。法人や漁協が事業の引き受け手を探していたところ、カンパチ養殖の実績があった森剛さんが名乗りを上げた。
 新たなマグロ養殖への挑戦に当たり、森剛さんが着目したのが協業化という手法だった。
 野間池の協業体の構成メンバーは現在16人。森剛さんら9人の養殖業者と7人の漁船漁業者のジョイントビジネスだ。漁船漁業者は、ヨコワを1匹3500円で養殖業者に提供している。

<若者の定住も>saisei0126_02.jpg
 マグロ養殖は、良質な稚魚の確保が成否を左右する。「漁船漁業者は閑漁期の夏場に収入が増えるメリットがあり、養殖業者には稚魚の安定的な入手にめどが立つ。両者の利害が一致した」と森剛さんはみる。
 協業化は雇用拡大という果実も生んだ。野間池には、県内外から30代後半の若者3人が新規参入。養殖業の即戦力になっているだけでなく、にぎわいの消えた浜を活気づけた。
 野間池の協業化を調査している鹿児島大の鳥居享司准教授(漁業経済学)は「マグロ養殖は個人では到底無理だが、漁業者間の役割分担と協力によって可能になった。若者の定住まで促した協業化が地域に与えた影響は大きい」と評価する。

【写真】漁港のいけすから養殖マグロを水揚げする協業体の若手メンバー。協業化の成功は浜の後継者難も克服した=11日、野間池漁港


(2012/01/26)