河北新報社

安全安心のまちづくり

 被災地での新しいまちづくりは、地域のアイデンティティーやコミュニティーの一体性に十分配慮しつつ、「減災」の考え方に基づいた土地利用・建築規制や避難教育の徹底などソフト分野を重視しなければならない。地域医療の再生に向けては、先進的医療・福祉体制の確立を急ぐとともに、医療人材の安定供給システムを築いていくことが求められる。スピーディーな復興を果たすため、国内外からの多様な支援の輪を広げ、被災地の人々と結び付けて、新たな絆を生み出す仕掛けも工夫したい。

(1)高台移住の促進・定着/被災土地に定期賃借権を設定

2.jpg 津波被災地から高台への移住を促すため、被災者が所有する土地を自治体が一定期間借り上げる定期賃借権を、特別法や復興特区などによって制定する。土地 所有者には私権制限の代償として地代を支払い、生活再建を強力に支援する。現行制度の不備を補うことで、被災者救済に大きな役割が見込める。

 定期賃借権の対象は(1)移住を希望しながら地域の合意形成に至らなかった世帯(2)自治体が確保する宅地以外への移住を希望する世帯―など。

 賃借権の設定期間は30年、あるいは50年などが考えられる。事業主体は被災自治体で、国は各自治体に賃借料を全額補助する。

 実現すれば、被災者はスピード感を持って安全安心な土地に移住が可能だ。自治体側にも、被災土地を一体的、面的に開発できる利点がある。

 賃借権のニーズがどれだけあるか、期間満了後にどう被災者へ返却するかなど、制度設計には工夫の余地がある。将来の首都直下地震や東海・東南海・南海3連動地震に備える観点からも法制化が望まれる。

 現行制度の「防災集団移転促進事業」は、合意形成や区画整理に時間がかかるなど課題が多い。

 東日本大震災の被災地は広範囲で、地理的、文化的条件が多様だ。全体を一つの制度でくくろうとするのは難しい。定期賃借権は、現行制度の隙間を埋める施策となる。

 この考え方は、政府が設置した東日本大震災復興構想会議検討部会でも示された。しかし国は新たな枠組みの法制化には消極的。集団移転の弾力運用にとどめる意向だ。

 津波や地盤沈下で危険が増大した低地から安全な高台への移住は、自然の猛威から地域住民の命を守り、子々孫々に被災の教訓を伝える最も有効な手段の一つである。

 一方で、切り立ったリアス式海岸の被災地ではまとまった広さの土地に限りがある。高台に用地を確保するのが難しい地区も少なくない。

 そうした地区ではある程度の浸水は見越しながら、緑地の減災効果を活用したり建築物の形態を制限したり、対策を多層的に組み合わせる「多重防御」で安全安心を確保せざるを得ない。

 いずれにせよ、被災地の生活再建は住民主体の選択と決断によって進められなければならない。

 宮古市角力浜地区は町内会が中心となって毎年実施する避難訓練などが奏功し、100人余の住民のほとんどが無事だった。高台移住、多重防御も、訓練と教育が大前提となる。

 移転先のまちづくりの在り方も考えたい。過去の津波災害でも世代交代とともに、低地に戻った集落があった。住民が安心して生活でき、愛着を感じられるようなまちをどうデザインするかが問われる。

【写真】津波によって壊滅的な被害を受けた沿岸部。被災地では今後、高台移住を含めたまちづくりが本格化する=宮城県南三陸町志津川

(2)地域の医療を担う人材育成/仙台に大学医学部新設

img03.jpg 仙台に臨床重視の大学医学部を新設し、慢性的に不足している病院勤務医の養成を推し進め、医師の地域偏在や診療科偏在を解消する。被災地をはじめ東北で は今後、少子高齢化や過疎化がますます深刻化する。限られた医療資源の選択と集中を進めて効率化を図りつつ、福祉と一体となった新たな地域医療モデルを構 築する。

 仙台厚生病院(仙台市青葉区)を運営する財団法人厚生会は2011年1月、仙台市内に大学医学部を設置する構想を発表した。

 震災後の6月には、連携先の東北福祉大(青葉区)と合同で、医学部新設の基本構想検討委員会を設置。基本方針や教育目標について協議を重ねてきた。

 委員会がまとめた報告書によると、新しい医学部の基本方針は「臨床重視」「地域医療貢献」の2本柱。いわゆる「東北の自治医科大」をつくろうとする構想だ。

 仙台市内には東北大医学部(12年度入学定員125人)があるが、研究と臨床を一手に引き受け、負担が集中している。仙台に「臨床第一」の医学部が誕生すれば、東北大は臨床負担が軽減し、研究や高度医療により力を傾注できる。

 民主党は10年参院選の政権公約に、医師不足解消に向け医師数を1.5倍に増やすと明示。これを受け文部科学省は医学部定員の在り方検討会を設置し、新設を容認するかどうか検討を始めた。

 国が医学部新設を認めた場合、厚生会は14年4月の開設を視野に準備を進める。しかし、国の検討会では新設に反対するメンバーもおり、前途は険しい。

 東日本大震災では、沿岸部で地域医療の最前線を担ってきた自治体病院の多くが一時的に診療不能に陥った。復旧までの間に、勤務医が相次いで離職した病院もある。

 東北は各県に一つずつ医学部、医大があるが、郡部の公立病院で医師不足が深刻だ。診療科の偏在も大きな課題となっている。医師の持続的で安定的な確保が、地域医療再建の鍵を握る。

 実際、医師数の潤沢な福岡、石川、岡山などには医学部が複数設置されており、そうした偏在が東北の医師不足の一因とする指摘もある。

 被災地の復興には、保健医療や介護福祉、各種生活支援サービスを一体的に提供する「地域包括ケア」の体制整備が欠かせない。少子高齢化へ進む全国、そして世界に開かれた地域医療モデルとなり、医療・福祉ビジネスの展開が期待できる。

 医療・福祉関連産業の伸展は被災地雇用にも大きく貢献。医療機器産業の集積が進む福島などでは、医工連携による新産業創出が望まれる。高等教育機関の新設や地域医療の充実は、東北進出を検討する企業のインセンティブにもなり得る。


(3)新たな「共助」の仕組みづくり/自治体相互支援の制度化


img04.jpg 各自治体が支援を担当する被災市町村を特定して職員の派遣、物資の供給に取り組む自治体相互支援(ペアリング)を制度化する。東北で起こりうる災害に万 全の備えをし、首都直下地震や東海・東南海・南海3連動地震への支援体制を整える。災害ボランティア活動を持続的、効率的に進めるため、専門職のコーディ ネーター養成を図る。

 自治体相互支援は2008年の中国・四川大地震で中国政府が実施。北京市や上海市などが3年間にわたり被災地を支援し、復興に貢献した。

 国内でもあらかじめ支援の相手方となる自治体の組み合わせを行い、日ごろから訓練や交流などを重ねておけば「転ばぬ先のつえ」になる。

 組み合わせの基準には(1)太平洋側と日本海側(2)沿岸部と山間部(3)都市と地方―など、地域特性を補完する関係が考えられる。太平洋側の交通機能がまひした大震災で、人員や燃料の輸送を支えたのは日本海側ルートの道路や鉄路、空路だった。

 関西広域連合の7府県は阪神大震災の経験と教訓を踏まえ、担当県を固定するカウンターパート方式で岩手、宮城、福島3県を支援。内陸部にある遠野市、登米市、山形市、郡山市などは支援物資やボランティアなどを集約、被災地に届ける前線基地の役割を担った。

 東北各県はまず、隣接県と結んでいる防災協定をより深化させ、域内では「自助」で対応する力を備えたい。さらに他の圏域を組織的に支援する体制の構築を急ぎたい。

 各市町村も自治体相互支援の意義を強く認識し、従来の災害時応援協定や姉妹・友好都市関係を効果的に利用、充実させなければならない。政府は組み合わせの在り方などの検討に早急に着手し、必要な法整備や財源確保に当たるべきだ。

 ボランティアの意欲とエネルギーを復旧・復興に生かし切るには、ボランティアと被災地の双方のニーズを的確にくみ上げ、両者を橋渡しするボランティアコーディネーターの存在が不可欠だ。

 自治体や社会福祉協議会などが開設するボランティアセンターで、志願者と被災地をマッチングするのがコーディネーターの役目だ。しかし今回の震災では、一部の自治体や地域で受け皿づくり、派遣先の振り分けなどが難航、混乱した。

 国はコーディネーターを確保する制度設計と財政的な裏付けを急ぎ、その養成と能力向上に努めるべきだ。経験豊富で専門性の高いNPOや国際非政府組織(NGO)を被災地に結び付けるため、コーディネート拠点となる中間支援組織を各地に整備したい。

 被災地では、大学生ボランティアの活躍も目立った。学内にボランティアセンターを開設した各大学のノウハウを大学間で共有し、将来に備える手だてが求められる。

(2012/01/01)