河北新報社

新しい産業システムの創生

 復興は単に震災前に戻す復旧であってはならない。被災地は、3・11の以前から少子高齢化や産業衰退などの課題を突き付けられていたからだ。次世代自動車やエレクトロニクスなどの産業集積に加え、再生可能エネルギー時代をにらんだ創造的産業や地域資源を最大限活用した産業興しが欠かせない。さらに企業が立地しやすい環境、事業しやすい環境を整備することも重要だ。「復興特区」制度を活用し思い切った規制緩和、立地優遇措置を講じるとともに、インフラ整備や安定的エネルギー確保にも知恵を絞っていかねばならない。

(4)世界に誇る三陸の水産業振興/多様な協業化を本格導入

3.jpg 被災地の基幹産業である沿岸漁業の立て直しに向け、地元の漁業者がグループをつくり自発的に収益性向上や省力化、資源管理などを図る協業化に本格的に取り組む。拠点漁港や産地市場、加工場、流通網などの高度化を急ぎ、豊かな三陸の海がもたらす水産物を持続的、安定的に国内の消費地へ供給し、輸出産業としての展開も目指す。

 協業化は、漁業者が自ら生き残りを模索する取り組みとして全国で実績がある。津波により高額な養殖施設や漁船を失った三陸の漁業者も、一部で復旧期の過渡的な措置として協業化を検討する事例が見られる。

 協業化には、収益性向上や労働負担の軽減、過度の競争による過剰な生産・漁獲の回避、資源の保全、または浜値を維持する価格調整機能などのメリットがある。

img05.jpg グループ内で施設や船を共有することで、後継者や新規参入者を受け入れやすくなる。生産から加工、流通まで手掛ける6次産業化が進めば、体力のいる洋上作業は若手に任せて、高齢者は陸上の加工・販売施設で働くといった雇用も可能だ。

 広い漁場に恵まれる西日本に比べ、リアス式の狭い湾に小さな浜がいくつも連なる三陸は、協業化への抵抗がより大きいとされる。

 政府や自治体、漁業団体などは現場の協業化に対する理解不足を解消し、補助金や税制優遇措置などを通じて、復旧までの過渡的な協業化を持続的な取り組みへと誘導する姿勢が求められる。

 宮城県は養殖業の漁業権を開放し、企業など民間資本を呼び込んで再興を目指す「水産業復興特区」構想を提案。政府も復興基本方針に盛り込むなどして県を後押ししているが、地元漁業者の強い反発を招いている。

4.jpg 今後の特区構想の進展を視野に入れつつも「協業化」をキーワードに、まずは漁業者がイニシアチブを取ってグループ化し、その上で外部資本との連携を検討する復興像を描くべきではないか。

 漁業者は、浜単位の従来型の漁業形態から脱却し、湾全体や半島といった広域的な視点で、より開かれた漁業を目指すべきだ。地域主導による民間資本の活用も積極的に検討する時期が来た。

 産地市場の再建は、国際的食品管理方式HACCP(ハサップ)対応型荷さばき場の導入が不可欠だ。背後地の水産加工業などと連動し、アジアをはじめ世界のマーケットに販路を持つ「国際水産都市」に成長させる。

 資源管理の方策として海外ではIQ(個別漁獲割当制度)、ITQ(個別譲渡性漁獲割当制度)の導入が進む。日本版IQ・ITQの可能性を真剣に検討したい。地域レベルで、漁業者と水産加工業界、自治体、消費者の代表らが水産業の将来像を話し合う場も必要だ。

【写真上】ロープを巻き上げ、養殖カキを水揚げする沿岸漁業者=2011年10月、石巻市
【写真下】定置網にかかった秋サケを引き揚げる漁師たち=2011年11月、気仙沼市

(5)仙台平野の先進的な農業再生/都市近郊型の地域営農推進

5.jpg 思い切った土地利用調整を前提に、被災農地を集団的に利用し、集落単位で効率的かつ安定的な農業生産に取り組む「地域営農」の組織化を強力に推進する。100万都市・仙台の近郊という好立地条件を踏まえ、産地直売所や地域支援型農業(CSA)などを通して産消連携を深め、全国に発信する地域農業のモデルを確立する。

 農地の「所有と利用の分離」を原則とし、一括利用権の設定や農地信託などの土地利用調整(農地保有合理化)事業を導入。個々の農家が所有する小区画の農地を集積し、作業効率の高い大規模区画の圃場や共同利用施設などを配置する。

 生産する作物は、従来のように土地利用型の水稲や麦、大豆などにこだわらない。より換金性の高い野菜や花卉(かき)、漢方薬草などとのベストミックスを模索する努力が求められる。

img06.jpg 都市住民向けに市民農園を有料開放したり、都市部で需要の大きいプレカット野菜の工場を誘致したりすれば、農家・非農家を問わず地域の高齢者や女性に雇用の場と生きがいを提供することが可能だ。

 いずれ、集積した農地をどう利用するかは、地域営農組織を構成する農家の意思に基づく。家族構成や生活設計から必要な収入を算出し、それに見合った収益を上げられるようにする。

 6次産業化や組織マネジメントについては、外部資本との協力関係の構築も考えられる。東北農業の主産地の一つである仙台平野で先進的なモデルを構築できれば、宮城県南や福島県相双地区、さらには東北各地に波及するインパクトとなる。

 地域営農はこれまで農家の側に農地転用への期待が高かったり、農地への愛着や執着が強かったりしたことから集積がなかなか進まず、成功事例は限られていた。

6.jpg 人口減が著しい東北では今後、被災地に限らず耕作放棄地が急増することが懸念される。政府や自治体は、農家に地域営農組織への参画を誘導する施策を講じ、持続可能な農業に道筋をつけなければならない。

 大消費地・仙台の近郊というメリットを生かすには、生産者と消費者の接点である産地直売所に着目したい。農地と宅地が入り組む仙台近郊では、災害時の支援拠点を兼ねた直売所を開設することで、互いの顔が見える産消連携を実現できる。

 作付け前に消費者が代金を前払いし、生産者を支えるCSAの試みも持続性のある地域農業につながる。大崎市の「鳴子の米プロジェクト」など内陸部の先進事例に学ぶ点は多い。

 消費者にファンを増やす取り組みとして、伝統野菜をメニューに取り入れた地産地消型レストランをはじめ、グリーンツーリズムや農家民宿の展開も期待される。

【写真上】震災後初めて出荷された宮城県亘理町産のイチゴを試食する仲買人ら。再生農地ではイチゴなど収益性の高い作物の栽培が期待される=2011年11月、仙台市中央卸売市場
【写真下】がれきが残る仙台平野の農地。再生への期待がかかる=2011年10月、仙台市若林区
          
(6)地域に密着した再生可能エネルギー戦略/蓄電池技術の向上・普及

img07.jpg 東京電力福島第1原発事故は、戦後一貫して原子力依存度を高めてきた日本のエネルギー政策に見直しを迫る。注目が集まるのは地域資源の活用が図れ、環境負荷が小さい再生可能エネルギーの開発で、自然の豊かな東北の潜在能力は極めて高い。再生可能エネルギーの有用性を高めるのは、電力の供給安定に有効な蓄電池技術の進化だ。

 再生可能エネルギーの中で普及が早いのは太陽光発電だろう。住宅用ソーラーパネルなど設備導入が比較的容易で、日本は1980年代まで世界をリードする技術力を有していた実績もある。

 東北電力は大規模太陽光発電所(メガソーラー)を八戸市で運転開始し、宮城県七ケ浜町で建設中。トヨタ自動車と子会社のセントラル自動車、ソフトバンクもそれぞれ東北各地へのメガソーラー設置構想を掲げる。

 風力発電はコストが安く、世界中で再生可能エネルギーの主力となっている。年間を通じて安定した風力を見込める東北は適地が多い。

7.jpg 東北には2010年3月末時点で、出力10キロワット以上の風車が434基設置されている。青森が全国1位、秋田が5位と既に風力発電の先進地域となっている。

 国内初の地熱発電所が稼働したのは66年の八幡平市だった。高い建設コストと熱源の大半が自然公園内にあるという事情で、長らく新規の建設が見送られてきた。

 しかし長期的に安定稼働が見込めるため、コストは高くないとの指摘もある。環境省も、自然公園内での開発を推進する規制緩和に踏み切る。

 農業用水路などを利用する小水力発電は、コメどころの東北のポテンシャルを最大限に引き出せる可能性がある。

 自然エネルギー開発を重点目標に位置付けた秋田県では、地元ベンチャー企業が大学などと連携して小水力発電システムの開発に着手。発電施設建設が遅れる東南アジアを中心に、東北発の技術移転が可能になる。

 エネルギーの地産地消では岩手県葛巻町がモデルとなる。畜ふんバイオマスや木質バイオマスを活用し、電気と熱の併給システムを構築。これに太陽光、風力、小水力の各発電システムを組み合わせ、電力自給率180%を成し遂げた。

 再生可能エネルギーの大量導入に当たり、安定性、経済性は十分検討されなければならない。そこで重要な役割を果たすのが蓄電池だ。

 蓄電池は、気象条件などに左右される太陽光や風力による電力供給を安定化させるのに欠かせない技術。スマートグリッド(次世代送電網)の導入においても、核心的な役割を果たす。

 実際、震災後に蓄電池の需要は急増した。産学官連携で、高性能蓄電池開発を進める研究機関の東北設置を提案する。

【写真】東北に強みのある再生可能エネルギーとして注目を集める風力発電用風車。青森県は全国一の設備容量を誇る=2011年12月、六ケ所村

(7)世界に先駆けた減災産業の集積/先端的リサーチパーク整備を

 あらゆる自然災害に備え、地域住民の安全安心を確保する技術、製品を生み出す事業活動を「減災(安全安心)産業」と位置付け、被災地に産業集積を図る。拠点として国内外の産官学の研究開発機関、ベンチャー企業のオフィスなどが入居するリサーチパーク(研究開発拠点)を整備し、被災地発の新技術・製品を世界に発信する。減災産業の進展は、災害に強い次世代型コミュニティーの構築にも欠かせない。

 減災の産業分野は広い。さまざま防災機器を手掛ける製造業や、IT産業、警備保障業のほか、災害時医療の資機材を開発する医療機器メーカー、非常食・飲料水を供給する食品産業などが考えられる。地域の防災教育や避難訓練のパッケージ化・商品化を目指すなど、教育産業から進出する試みがあってもいい。

 減災産業の集積を促すため、企業の開発部門や大学、行政の研究機関などが入居する「東北減災リサーチパーク」を被災地に整備したい。

 津波の浸水地域などを面的に開発し、敷地周辺に関連する企業・工場群を誘致できれば、被災経験を生かしたハードやソフトの分野で新技術・製品の開発が可能になる。

 直接の被害を受けていない都市部への立地も検討したい。中心市街地の再開発を兼ねて新たに高層、中低層のビルを建設するほか、既存のオフィスビルの空き室を有効活用する手もある。

 被災地をはじめ、東北の全域で再生可能エネルギーに支えられた分散型エネルギー供給システムの構築を急ぎ、しなやかで災害に強く、高齢者にも優しい次世代型コミュニティーを目指すよう提言する。

 太陽光や風力、地熱、小水力発電など複数の電源を利用した分散型エネルギー供給システムの構築と、その前提となるスマートグリッド(次世代送電網)の導入が基本となる。多様な再生可能エネルギーの電源を分散配置することは災害リスクを低減することから、分散型は「究極の防災システム」と言われる。

 次世代型の地域社会の構築には、多様な減災産業の展開が求められる。再生可能エネルギー源の開発はもちろん、一体的なシステム開発を担うシステムインテグレーター(総合情報サービス企業)を中核に、家電メーカー、ゼネコン、ハウスメーカーなどさまざまな業種の参入が期待される。

 震災後には釜石市、石巻市、東松島市などが、新しいまちづくりにスマートグリッドを取り入れる方針を打ち出している。こうしたまちづくりの前提として、地域の文化・歴史に根差したコミュニティーの在り方が十分議論されるべきだ。政府には復興特区などを使って、被災地発の次世代型コミュニティー形成を積極的に後押しすることが求められる。

(8)地域再生ビジターズ産業の創出/三陸ジオパーク構想実現へ

8.jpg 三陸をはじめ東北各地を訪れる国内外の観光客、視察目的の研究者らを案内するプラットホーム「東北再生ビジターズセンター」の設立を提案する。都市部などから受け入れたボランティアと被災地を結び付けることや、観光産業への参入を検討する地域住民の支援にも取り組む。併せて学術的に重要な地質遺産を公園として活用する「三陸ジオパーク構想」を実現し、被災地に地域再生ビジターズ産業の集積を進める。

 大震災の以前から人口減が著しかった東北では、交流人口の拡大につながる観光産業に地域活性化のけん引役としての期待が年々高まっていた。被災地の産業活性化、雇用の創出という観点からも、むしろ被災地であることを逆手にとった観光産業の再生が急務となっている。

 震災の発生から時間が経過するにつれて、現地の地理に不案内な観光客がますます増えると考えられる。センターはそうした人たちに三陸沿岸の観光情報を集約し、分かりやすく案内するほか、モデルとなる周遊型の観光ルートを提案したり、各旅行会社による企画商品を紹介したりするワンストップ機能を果たす。

9.jpg 津波被害の全体像や地震学、地質学、防災工学などの学術データ、研究成果を集積するアーカイブ機能も担い、研究者や視察の自治体関係者らのニーズに応じて提供、支援していく。

 生活再建に一区切りがついた被災者の中からもボランティアの観光ガイドなどに名乗りを上げる人が出てくると予想され、センターはこうしたボランティアらと観光客を結び付けるコーディネート役の機能も果たす。

 ジオパークは、地球や大地を意味する「ジオ」と、公園の「パーク」を組み合わせた造語で、地球史レベルの地質的事象、災害遺構などを公園として活用する。自然・文化遺産の保護を目的とする世界遺産と異なり、保護だけでなく科学教育や地域振興に活用するのが目的だ。

 三陸沿岸では震災後、地質学、地理学の専門家らが宮城県内の沿岸部をジオパークとするための準備委員会をつくった。岩手県側では、県などが2011年2月に「いわて三陸ジオパーク推進協議会」を設立している。

 ジオパーク認定は、被災の経験を一過性に終わらせず、持続的に防災教育の重要性を国内外に向けて発信する大きな契機となる。

 研究者ら長期滞在型の誘客も期待され、こうした来訪者らを相手として地域住民らによる観光産業がコミュニティービジネスとして発展すれば、三陸沿岸の地域再生ビジターズ産業の集積に一層厚みが増すだろう。東北再生ビジターズセンターがジオパーク推進組織の事務局を担うなど、連携も考えられる。

【写真上】ボランティアの体験観光メニューに加えようと、浮き玉作りの練習をする観光協会のスタッフら=2011年10月、気仙沼市
【写真下】津波で基礎部分のくいごと横倒しになった石巻署女川交番。災害の記憶を伝える災害遺構を、どう利活用するかが問われる=宮城県女川町

(2012/01/01)