河北新報社

(5)建築家・伊東豊雄氏/個性重視した街並みを

20120107.jpg ―河北新報社の提言では、高台への移住促進と、地域一体の環境整備を後押しする施策として、被災土地への「定期賃借権」の設定を掲げた。

 「災害に強いまちをつくり直すには、個人が所有する土地や建物などの問題に立ち返らざるを得ない。復興を加速するために、定期賃借権のシステムは有効だと思う。住まいの再建には経済的な負担が大きく、被災者支援にもつながるだろう」

 ―釜石市で復興計画のアドバイザーを務め、市民と新たな都市づくりを模索している。課題をどう認識しているか。
<縁側文化重要>
 「海との関係性や平場から高台への土地利用、街並みの配置などは被災地ごとに違う。地域の特性を最大限生かす発想が欠かせない。海に臨む斜面を活用した住居、切り妻屋根で共生をイメージした集合住宅などを提案している。各地に長方形の住宅団地ばかり立ち並んだら、東北の風景は台無しになってしまう」

 ―これまで津波防災をめぐっては多重防御に通じる「安全のグラデーション(段階的変化、階調)」を主張してきた。
 「日本には『縁側文化』がある。内と外を壁で切らずに、縁側やひさしでつなぐ。防潮堤もしかりだ。『こっちは怖い自然、こっちは安全な人間のすみか』と分断した考えが、被害拡大に災いしたような気がしている」

 ―どのように具体化していくべきか。
 「提言でも指摘しているように、小高い丘や並木、公共施設などを3重4重に配置することで減災は図れる。海が眺められ、波の音が聞こえる生きたまちにしていくのが重要だ」

 ―仙台市宮城野区では、仮設住宅に共有スペース「みんなの家」の建築を手掛けた。現場に入り、見えたものは。
<都市部へ発信>
 「落ち着きを取り戻しつつある街並みに、先行きへの不安を抱える被災者の思いが複雑に折り重なっている。現実に触れながら、地域の住民と一緒につくり上げた喜びはひとしおだった。忘れかけていた人間関係の強さを思い起こし、復興に大切なのは心を通じ合う作業だとかみしめた」

 ―「コミュニティー」を基本にした東北再生は、提言を貫く基軸でもある。
 「東北の独自性を求める姿勢が色濃くにじんでいる。中央から遠かった分、残されてきたコミュニティーの強さをアピールし、発信するのは日本社会の在り方を考える上で必要なことだと思う」

 ―幅広い人々と連携する建築の力が試されている。今後の針路を。
 「被災者から何を感じ取り、どう形にするかが問われている。建築の思想を変える土台であり、まちづくり全般にも通じる。自然と建築、人間の調和を保持した東北の営みから、都市部に向けて新たな価値を示せるのではないか。それは決して昔に戻ることではない」

<いとう・とよお>1941年、韓国ソウル市生まれ。東大卒。主な作品は大館樹海ドーム(97年・大館市)せんだいメディアテーク(2001年・仙台市)。

<防災集団移転促進事業>津波や地盤沈下による被害を受けた住宅を、高台や内陸の安全な場所に集落単位で移す事業。2011年度第3次補正予算で制度を改正。移転先の土地取得や造成費などは国が負担し、適用要件を10戸以上から5戸以上に緩和した。一方、家屋の新築費は被災者が自己負担で賄う。被災で価値が下がった移転元の土地は市町村に売却する仕組みだが、買い取り価格などの明確な基準は示されていない。地域の合意形成に時間がかかるなどの課題が指摘される。

 

(2012/01/07)