河北新報社

(3)開かれた扉/新設か増員か、渦巻く賛否

0428.jpg<琉球大が最後>
 大学医学部は30年以上新設されてこなかった。文部科学省が認可しない姿勢を堅持してきたためだが、民主党政権になって潮目が変わった。
 民主党は、政権交代を果たした2009年衆院選で、マニフェスト(政権公約)に「医師養成数を1.5倍に増やす」と明記。文科省は有識者による検討会を10年12月に設置し、入学定員増や新設の是非をめぐる議論が解禁された。
 文科省が医学部新設を認めた場合、1979年の琉球大(沖縄県)以来となる。検討会ではしかし、全国に16万6000人の会員を持つ日本医師会(日医)が強硬に新設に反対した。

 「既存医学部の入学定員は増やしており医師不足は将来的に解消する。新設は屋上屋を架すことになる」。検討会委員を務める日医の中川俊男副会長が語気を強める。
 医学部の入学定員は、08年に自民党政権が打ち出した新医師確保総合対策によって確かに、年々増加している。
 12年度の入学定員は8991人で、5年間で1366人増えた。1校の入学定員を100人とすると「13、14大学を新設したのに等しい」というのが日医の言い分だ。
 国はそれまで、医師数を減らして医療費を抑制するという観点から、長く入学定員の削減を図ってきた。全80校の総入学定員は1981~84年の年間8280人から、2003~07年は7625人に減少し、いまに続く地方の医療崩壊の要因ともなった。

<高齢化 考慮を>
 民主党が「医師数1.5倍」を主張する根拠に、臨床医数の国際比較(08年)がある。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均が1000人当たり3.24人なのに対し、日本は2.15人にとどまっている。
 日医の試算では、今の定員を維持すれば25年には現在の先進7カ国並み(2.8人)に追いつき、「医師過剰時代を迎える」という。「新設すると減らしにくい。定員増であれば柔軟に対応できる」と中川氏はみる。
 これには異を唱える専門家も多い。文科省の検討会に参考人として出席した東大医科学研究所の上(かみ)昌広特任教授(医療ガバナンス論)は「日医の試算は単純過ぎる。医療の高度化や専門化などの条件を無視している」と指摘する。
 団塊世代が65歳に到達したわが国は、世界に例を見ない超高齢社会に突入しつつある。高齢者ほど病気にかかる割合が増す一方で、医師自身も高齢化が避けられない。
 加齢とともに医師の勤務時間は減少するし、超過勤務が当たり前の病院勤務医の労働時間が見直されれば、必要医師数はさらに増加する。
 高度医療や医療訴訟への備えを背景に、近年は複数の医師によるチーム医療が普及した。「現在の定員増加分を考慮しても、少なくとも50年までは医師不足は解消されない」と上氏は語る。

<伸びしろない>
 そもそも単純に定員だけ増やしても、地方の医師不足は解消されないとの見方もある。東北大医学部長を務めた久道茂同大名誉教授は「卒業生の多くが地域に定着するような仕組みを持った医学部ができなければ、東北の医師不足解消の決め手にはならない」と話す。
 「既存医学部の定員増は最大限やった」と切り出すのは、検討会設置時の文科副大臣だった民主党の鈴木寛参院議員(東京選挙区)だ。「定員増の申請はほぼ認めてきた。だが、もう伸びしろがない。だからこそ新設を議論している」と言う。
 検討会は11年11月までに9回の会合を重ねて論点を整理し、意見公募を実施。宮城県からは医学部新設を後押しする声が多かったという。

写真:医学部の新設に対し、日本医師会は「定員増で十分」と反対姿勢を貫く=東京都文京区の日本医師会館

(2012/04/28)