河北新報社

(2)見えない壁/「自治体」超え、6県で対応を

saisei0604_01.jpg<ヘリ出動せず>
 東日本大震災の巨大津波が岩手県沿岸を襲った直後の昨年3月11、12日、県境を接する八戸市の市民病院で待機していた青森県のドクターヘリに出動命令が下されることは、ついになかった。
 医師が同乗し、初期治療しながら患者を搬送するドクターヘリは、平時は市民病院内の通信センターが管理するが、災害時は県の指揮下に組み込まれる。出動要請を受けて県が運航の可否を決めるのだが、被災地からの「SOS」はなかった。

 しかし同じころ、花巻空港には全国のドクターヘリが続々と集結していた。北海道と群馬、埼玉、愛知、岐阜、高知各県は自主判断で出動を決め、給油を繰り返して12日午前に到着。即座に沿岸部へ向かった。
 ドクターヘリは最大で半径100キロの航行が可能だ。八戸市からなら宮古市の一部が含まれる。だが、岩手県は「現場が混乱しており、派遣要請に思いが至らなかった」(医療推進課)という。
 
 青森県にも「自ら進んで隣県に派遣しようという発想はなかった」(医療薬務課)。「ドクターヘリは県内運航が基本」との認識で、県境という見えない壁を乗り越えられなかった。青森県がドクターヘリによる支援を始めたのは、ようやく震災3日目だった。
 東北では、青森、福島が震災前から各1機のドクターヘリを保有。秋田がことし1月、岩手も4月に配備し、山形は12月運航を始める。青森は2機目を10月に導入する。
 宮城は財政難などを理由に「配備予定なし」としているが、これら6機によって東北のほぼ全域がカバーされる。ネックとなるのは「県内運航が基本」という原則論だ。
 河北新報社は、東北が自立的な復興を遂げるためには、6県を包括する広域行政組織の創設が不可欠だと提言した。根底には、県や市町村の境界を取り払うことが災害対応や復興に力を発揮する、との思いがある。

<終始蚊帳の外>
 東京電力福島第1原発の事故では、県境を盾にして事態の矮小(わいしょう)化が図られた節があり、復興の足かせにさえなっている。
 福島県境に接する宮城県丸森町。福島第1原発からの距離は約55キロで、福島市と変わらないが、原発事故では終始、蚊帳の外に置かれた。
 震災から1カ月後、町内の牧草から放射性物質のセシウムが検出された。町は正確な線量測定を求めたが、宮城県の回答は「近隣自治体の測定結果を参考にしたらどうか」だった。県の目は沿岸部の被災地にくぎ付けになっていた。
 細野豪志原発事故担当相が丸森町を訪れたのは震災から4カ月後。県の担当部長の視察は、さらに遅れて7カ月後だった。保科郷雄町長は「県は風評被害が宮城に波及するのを恐れ、県境の町を見捨てるつもりではないか」といぶかる。

saisei0604_02.jpg<役割の整理を>
 孤立無援と悟った丸森町は、福島県内なら国が負担する住民の健康影響調査を自前で行うことを決めた。国の原子力損害賠償紛争審査会や東電との交渉には、地図を携えて上京し「県境によって対応に差が生じるのはおかしい」と訴える。
 「福島県ではないから」と言い張る国や東電との交渉は一進一退を繰り返し、保科町長は「町が単独で対応するレベルを明らかに超えている」とため息をつく。
saisei0604_03.jpg 浅野史郎慶応大教授(前宮城県知事)は「復興の担い手である住民の意向を反映するのに、広域で対処した方がかえって適切なケースもある。市町村、県、さらに広域のどのレベルが役割を担うべきか、整理が必要だ」と指摘している。

写真:八戸市市民病院のドクターヘリ。東北6県での共同運航を求める声もある

(2012/06/04)