河北新報社

(2)経営感覚/法人設立し、安定収益確保

0722.jpg<兼業は不要に>
 仙台東部道路と仙台空港に挟まれた水田地帯に、真新しい大型のハウス3棟がお目見えした。ハウスの中では、長さ35メートルの水耕栽培の架台に、レタスやサンチュなど葉物野菜が青々と茂る。
 津波で浸水した名取市植松の塩害農地で、株式会社「さんいちファーム」が野菜工場の経営に乗り出している。
 さんいちファームは仙台市宮城野区岡田の兼業農家瀬戸誠一さん(62)ら地元の農家3人が、東京の環境コンサルティング会社と昨年11月に設立した農業生産法人だ。
 「農地と農業機械が海水に漬かり、自宅も勤め先の運送会社も全て失った」と瀬戸さん。一からの出直しを迫られ、再起を模索している中、コンサルティング会社から野菜工場の提案を受けた。

 国の震災対策交付金と、銀行からの借り入れで事業費3億5200万円を賄った。交付金の要件に農家3人以上の組織化があり、申請と同時並行で会社設立を急いだ。
 工場はことし3月に完成し、これまで試験栽培を重ねてきた。7月中の本格生産に向け、加工業者や外食チェーンとの商談に忙しい毎日だ。
 葉物野菜の水耕栽培は1500万円の初期投資で年間300万円の収益を得られるという。「水耕栽培を収益構造のベースにし、コメや他の野菜と組み合わせれば兼業しなくても経営を安定させられる」。運送会社で経営を任されていた瀬戸さんがそろばんをはじく。

<信用力アップ>
 農業生産法人には、会社法に基づく株式会社や合同会社、農業協同組合法による農事組合法人がある。株式会社は1人で設立可能だが、農事組合法人は農家3人以上の参加が必要になる。
 農業生産法人が任意の集落営農組織と決定的に異なるのは、その「経営感覚」だ。
 東北農政局は「法人には企業会計に沿った財務管理の義務が生じる。農家の負担は増すが、財務管理を通して経営に対する意識が磨かれ、取引先や金融機関などへの信用力も増す」と説明する。
 被災後に法人化を果たした例はまだ少数だが、仙台市東部地区で「把握しているだけで、農事組合法人設立の動きが2、3ある」(仙台農協営農企画課)という。

0722_zu.jpg<後継者育成も>
 津波でイチゴのビニールハウスが被害を受けた宮城県山元町では、岩佐隆さん(56)ら農家4人が昨年6月、東北最大の産地復活を目指し株式会社「山元いちご農園」をいち早く設立した。
 国や銀行から4億6000万円を調達し、浸水した同町山寺の農地にハウス8棟を建設。「もういっこ」「とちおとめ」などを作付けしことし3月、初収穫した。
 5月の大型連休にはイチゴ狩りの観光客が1日に約200人来園。青果卸やスーパー、コンビニとも取引し、将来は加工などにも事業を拡大したい考えだ。
 栽培歴は約40年でイチゴ農家として兄貴分に当たる岩佐さんが、30、40代の若手農家に声を掛けて法人化した。
 岩佐さんは「投資したハウスの耐用年数が仮に20年として、70代後半まで一線で働けるか正直不安だ。会社組織なら、社員の中から後継者を確保することが可能。被災地の雇用拡大にも貢献できる」と語り、法人化のもう一つの効用を説いた。
 河北新報社の提言は、農地を集団的に利用して集落単位で効率的、安定的な農業生産に取り組む「地域営農」の組織化を訴えた。
 仙台平野から全国に発信する農業モデルとなる地域営農のけん引役は、経営感覚に優れ、後継者に門戸を開いた法人こそふさわしい。

写真:株式会社が経営する野菜工場。法人の優れた経営感覚が仙台平野の生産性を大きく向上させると期待される=10日、名取市のさんいちファーム

(2012/07/23)