河北新報社

(3)夢の作物/高付加価値へ、構造転換図る

0723.jpg<塩分、逆に効果>
 津波にのまれた岩沼市下野郷の畑で、漢方薬草の甘草(かんぞう)がたくましく育っていた。宮城県のNPO法人「薬用植物普及協会みやぎ」が民有地を借りて行っている小さな実験場だ。
 「津波が3日間も引かなかった場所でこんなに立派に成長するなんて...」。試験栽培を手伝っている主婦原田教子さん(71)は、地中深く根を張った生命力に驚く。
 海岸線から2キロの原田さんの畑は1メートルを超す津波に襲われた。被災後、試しに植えた大豆は塩害で全て枯れてしまった。
 野菜作りを諦めかけていた原田さんに「甘草を栽培してみないか」と持ち掛けたのが、元大阪薬科大教授で漢方薬草に詳しい普及協会みやぎの草野源次郎理事長だった。

 草野理事長の指導で昨年7月、原田さんは甘草の苗400本を植えた。収穫はことし11月の予定で、当初の見込みより2年早まった。
 「国内では漢方薬草の研究は遅れ、栽培技術も確立されていない。多年草の甘草は、生育に普通4、5年かかるが、塩分が適度なストレスになり、速く育つようだ」と草野理事長は喜ぶ。
 甘草は乾燥させた根が生薬となる。漢方薬の7割に配合され「生薬の王様」と呼ばれる。国内消費量は1200トン以上で、全量を中国からの輸入に頼ってきた。
 中国では野生種を無計画に採り続けたり、国内の需要が急増したりしたため近年、輸出を厳しく制限しており「日本での栽培技術の確立が急務」(草野理事長)という。
 原田さんは「甘草栽培は農薬や肥料が要らず、手間もかからない。試験栽培を成功させ、被災地の農家を勇気づけたい」と意気込んでいる。

<10倍近い値段>
 仙台市若林区荒井では、健康ブームで注目を集める桑の試験栽培が始まった。コメ農家の菊池柳秀さん(69)の畑には、昨年6月に植えた200本が根を張っていた。
 菊池さんは「仲間の多くが農業の将来に希望を見いだせないでいる。農薬がいらず作業が楽で、高齢になってもできる桑栽培を地域に根付かせたい」と夢見る。
 栄養価の高い桑は健康茶やサプリメントなどに加工され、10アール当たり200万~300万円の値が付く。一般的な露地野菜の10倍近い値段は農家にとって魅力に映る。
 桑栽培を支援する東京農大の長島孝行教授(昆虫利用学)は「桑は葉も実も木も全て使える。仙台平野のような平たん地で栽培できれば作業は格段に楽になり、高齢者でも農作業が可能だ」とメリットを説く。

0723_zu.jpg<国家戦略化を>
 河北新報社は提言で「土地利用型の水稲や麦、大豆などにこだわらず、より換金性の高い野菜や花卉(かき)、漢方薬草などとのベストミックスを模索する努力が求められている」と先進的な農地利用を訴える。
 宮城大の大泉一貫副学長(農業経営学)は「国土面積が狭いオランダの農産物輸出額はアメリカに次いで世界2位。背景には高付加価値の花を作り、情報産業と結び付けた新たな農業モデルを輸出している点が大きい」と指摘する。
 「海外は機械に頼り生産性を上げるのか、知恵に頼り付加価値の高い農産物を生産するのかが明確。日本はそこが不明確なままだった」と大泉副学長。「今こそ、日本ならではの付加価値の高い農業を国家戦略に据えるべきだ」と主張する。
 甘草を推す草野理事長と桑を勧める長島教授。「成功事例を積み重ね、被災地の農業再生に寄与したい」。高付加価値で低労働性という「夢の作物」を根付かせようと努力する2人は期せずして同じ言葉を口にした。

写真:甘草の生育状況を調べる草野理事長(右)と原田さん。生薬の商品化に被災地の期待が高まる=13日、岩沼市下野郷

(2012/07/23)