河北新報社

11提言 現状と課題/一歩ずつ将来像実現を(上)安全安心のまちづくり

 河北新報社は昨年1月、東日本大震災後の東北再生に向けた針路として「安全安心のまちづくり」「新しい産業システムの創生」「東北の連帯」の3分野の11項目からなる提言をまとめた。
 東北の自立的復興を考えようと、震災後に東北再生委員会(委員長・一力雅彦社長)を設置し、学識経験者ら東北にゆかりのある18人の委員・専門委員で構成した。委員会の討論や被災地調査を重ね、それらの議論を基に具体的なプロジェクトを掲げた。
 提言は「東北一体の再生」という視点を重視。既存の法制度や先例にとらわれることなく、大胆な発想で「災後」の東北像を示した。

<東北再生委員会>
 【委員】一力雅彦(河北新報社社長)伊東豊雄(建築家)黒田昌裕(東北公益文科大学長)今野秀洋(元経済産業審議官)首藤伸夫(東北大名誉教授)藤原作弥(元日銀副総裁)増田寛也(元総務相)
 【専門委員】阿部重樹(東北学院大教授)大滝精一(東北大大学院経済学研究科長)小野田泰明(東北大大学院教授)数井寛(東北大理事)神田玲子(総合研究開発機構研究調査部長)小松正之(政策研究大学院大教授)鈴木貴博(日本政策投資銀行東北支店長)鈴木素雄(河北新報社論説委員長)須能邦雄(石巻魚市場社長)松沢伸介(東北経済連合会副会長)宮原育子(宮城大教授)=敬称略、五十音順、肩書は委嘱当時=

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◎提言1/高台移住の促進・定着/住宅移転補助、自治体に差

 <提言要旨>津波被災地から高台への速やかな移住を促すため、被災宅地などを自治体が一定期間借り上げる賃借権を設定する。

20130103_01.jpg 高台移住の現行制度である国の「防災集団移転促進事業」をめぐり、事業が適用される区域と適用外の区域の格差が広がっている。
 仙台市は、災害危険区域内(約2000戸)から集団移転先以外への単独移転や、危険区域外でも津波による浸水が想定される地域であれば、移転のために促進事業と同等の利子補給や引っ越し費用を助成する。
 こうした独自支援は仙台市のように財政規模の大きい自治体や、被災規模が比較的小さい自治体に限られる。
 石巻市の試算では、危険区域外の全壊世帯約1万5000戸に仮に仙台市並みの支援策を講じると、約550億円もの膨大な財源が必要になる。
 気仙沼市、宮城県女川町なども同様の悩みを抱えている。宮城県は災害危険区域外の住宅再建を独自支援する市町が、復興交付金を活用できるよう国に要望した。
 しかし国は「個人資産の形成につながる」などと否定的だ。県は次善の策として県の取り崩し型基金を積み増し、財源とすることが可能になるよう働き掛けている。

写真:津波被災地で防災集団移転促進事業や区画整理事業を活用した高台移住の取り組みが進む=2012年9月、宮城県女川町


◎提言2/地域の医療を担う人材育成/医学部新設、市長会が要請

<提言要旨>仙台市に臨床重視の医学部を新設して病院勤務医の育成を図り、医師の地域偏在や診療科偏在を解消する。

 東北75市でつくる東北市長会(会長・奥山恵美子仙台市長)は昨年5月の総会で、大学医学部の新設を求める特別決議を全会一致で承認した。
 決議は、沿岸の病院や医師が被災し、地域医療は崩壊の危機にあると強調。「早急に医師偏在の解消を図り、医学部新設で地域に根差した医師を養成するなど抜本的な対策が必要だ」と求めた。
 その後奥山市長ら5市長は復興庁を訪問し、要望書を提出した。全国市長会(会長・森民夫新潟県長岡市長)も同様の決議を採択し、与野党に実現を要請した。
 東北以外でも医学部新設の動きが広がる。北海道函館市は昨年末、医学部・医大誘致に向けた勉強会を設置。市は同志社大(京都市)を創始した新島襄が函館から渡米した縁で、医学部・医大の新設構想がある同大に誘致を働き掛けている。
 昨年5月には医学部新設や医学教育改革を考える公開シンポジウム(日本医学ジャーナリスト協会主催)が東京都内で開かれた。医師や大学、自治体から約140人が参加。会場では、河北新報社の提言も紹介された。


◎提言3/新たな「共助」の仕組みづくり/相互支援協定 締結相次ぐ

<提言要旨>災害時の自治体相互支援を制度化する。被災地でのボランティア活動を持続的、円滑に進める支援組織をつくる。

 被災時に行政機能をカバーし合うため、自治体間による支援協定の締結が相次いだ。大津波による被害を教訓に太平洋側と日本海側、沿岸部と山間部、都市と地方など、地域特性を補完する関係が目立つ。
 石巻、大崎、新庄、酒田の4市協定は、石巻-酒田間160キロを結ぶ地域高規格道路の整備構想が縁になった。宮城県蔵王町と東京都葛飾区は災害時に加え、平時から住民同士の交流を深める。
 一方で、自治体の職員不足はなお深刻だ。宮城県の沿岸15市町の不足数は昨年12月1日現在で計272人。年度替わりに伴い、全国の自治体からの職員派遣が継続されるかどうか懸念される。
 NPOやボランティア団体の活動も深化。ピースボート災害ボランティアセンター(東京)は石巻市と宮城県女川町で、希望者が漁師と寝食を共にして仕事を手伝い、浜の復興を後押しするプロジェクトに乗り出した。
 宮城県美里町は昨年5月、NPOなどと連携して地域課題の解決に取り組む地域活動サポートセンターを開所。共助の輪が広がりつつある。


(2013/01/04)