河北新報社

提言発表から1年 東北再生委員会フォローアップ会合(下)東北一体の発想重視

◎福島へのメッセージ/制度乗り越え「仮の町」実現・増田寛也氏/国民全体でエネ政策議論・黒田昌裕氏

0225T07.jpg -原発事故に見舞われた福島は、提言では「東北全体で支えていく」としています。エネルギー政策の今後も含め、福島へのメッセージをお願いします。

 増田氏 長期避難者が暮らす「仮の町」構想こそが、今後、東北全体で考えていくべき課題となる。住民票の二重登録など制度上の問題を乗り越え、仮の町は実現させなければならない。

0225T05.jpg 今野氏 2001年に起きた同時テロの翌年、米国では交通事故が急増した。国民の多くが飛行機での移動を回避した結果だとされる。リスクゼロを目指すと別の箇所にひずみが生じる。エネルギー政策も同じ。全体的視野で将来の道筋を考えたい。

 首藤氏 福島の事故は「原子力を手なずけることができるのか」という問いを突き付けた。原発に依存しないのなら、みんなでどういう生活をしていくのか、これらを真剣に考えていかねばならない。

 藤原氏 核兵器廃絶を訴える「ノーモアヒロシマ」は国是となったが、エネルギー政策に原発をどう位置付けるかが問われる「ノーモアフクシマ」は、極めて難しい問題をはらんでいる。科学的知見に基づいて検討すべきだ。

0225T06.jpg 黒田氏 国民も政府も日本全体が安全神話にどっぷり漬かり、管理能力もないまま、環境コストだけで原発を推進してきた。原発を今後も推進するかどうかの判断は国民に委ねられる。十分な情報公開が前提だが、われわれには選択する責任がある。

 増田氏 福島の人は、もう原発はこりごりと思っているが、使用済み核燃料の中間貯蔵施設を引き受けた青森は、このままでは核の「ごみ捨て場」になってしまうと懸念している。同じ東北でも立場は違う。成長の負の部分を東北が引き受けてきた事実を痛感した。


◎専門委員から

<ユートピアを築こう・阿部重樹氏>
 被災地では急速な人口減少が進んでいる。日本は2050年ごろに超高齢化社会を迎えるが、震災によって東北が先取りした格好だ。
 震災後、東北が積極的に取り組んでいる「安全安心なまちづくり」は、50年の日本社会の在るべき姿に直結している。これからの東北を日本のユートピアとして創り上げていきたい。
 災害時に支援が必要な人たちは、平常時から生活上の課題を抱えている。平常時から安否確認システムが機能すれば、災害時も役立つはずだ。
 この1年でボランティアの人数は急激に減った。被災地に生きる者として今後も共助の大切さを発信していく。

<医療産業連携強化を・数井寛氏>
 国直轄の港湾や道路などインフラの再生は比較的進んでいる。一方で高台移転はなかなか進展しない。私権が絡む区画整理事業が停滞しているためだが、スピード感を持って進めないと人口の流出に歯止めがかからなくなってしまう。
 東北の連帯は、県境に縛られない製造業から考えたらどうか。産学官による「とうほく自動車産業連携集積会議」が既にあり、協力体制を築いている。福島が積極的な医療など他分野にも連携を広げていきたい。
 福島再生は電力供給を受けていた東京にとってはひとごとではない。国策だった原発がもたらした苦境だけに、日本全体で福島を支えるべきだ。

<予算の透明性高めよ・神田玲子氏>
 復旧復興の度合いを示す指数の上では、被災3県は既に8、9割復旧している。ただ、震災2年目の昨年は世界経済の落ち込みと連動し、各種指数も低迷した。
 復旧需要の高まりと復興予算の配分に伴い、被災地の外からは何か変わっているだろうと期待されている。巨額の予算がどこにどう使われているのか、透明性を高めることで全国的な共感を得る努力も欠かせない。
 震災後の高台移転は土地区画整理ばかりで、そこでどういう医療や教育、介護が提供されるのかが見えてこない。民主主義は合意形成や熟議に時間がかかるが、後世に委ねられる部分は委ねるなどスピードも必要だ。

<水産資源回復が急務・小松正之氏>
 300万トンから50万トン台に激減した水産資源の回復が喫緊の課題だ。三陸では震災後、さらに漁獲が減っている。乱獲につながった戦後のシステムを内包したままで漁を再開すれば、資源はいったん回復してもすぐ減少に転じる。
 新潟県がホッコクアカエビ漁へのIQ(個別漁獲割当制度)導入に取り組んでいる。魚種別に漁獲が可能な総量の上限を定め、漁業者ごとに配分するIQには、資源回復や魚価上昇、経営の合理化といった効用がある。
 新しい発想や制度を導入することで、漁業者は経営感覚を働かせることができる。三陸も具体的な取り組みに早急に着手しなければならない。

<上場企業100社目指せ・鈴木貴博氏>
 東北経済は比較的、好調だ。ただ、地元企業が独自に販路を開拓したわけではなく、公共事業が下支えしている。
 阪神大震災との一番大きな違いは民間企業の復元力。東北には上場企業が約50社しかなく、阪神地区に比べ力のある企業の絶対数が少ない。
 2050年までに上場企業100社という目標を掲げ、力の差を是正していくべきだろう。東北人は内弁慶で、域内で事業を完結しようとするから価格の交渉権が持てないでいる。積極的に域外へ出て行くべきだ。
 産学官連携の仕組みを生かし、東北の中にあるベンチャーキャピタルを活用できるシステム構築も必要となる。

<自治体の壁取り払え・鈴木素雄>
 この1年間で被災3県から岩沼1市に相当する人口が流出した。一方で仙台は毎月1000人以上増えており、東北の域内で人口の再配置が進んでいる。「仮の町」の問題も含め、市町村境や県境の垣根を取り払って広域行政を考えたい。
 震災後、東北の連帯は全く進んでいない。被災者が主人公と言っておきながら、国にすがろうとする市町村長が多い。東北の地方分権論議は震災を経て、歴史の針が一回り戻った印象だ。
 自治体のマンパワー不足も続く。任期付き職員の採用で人材は果たして地域に定着するか。復興予算に25兆円を積まれても、消化しきれない問題が浮上しかねない。

<行政の能力不足残念・須能邦雄氏>
 日本は戦後、経済発展を優先し過ぎて第三者に責任を転嫁する傾向が強まった。震災後、被災地では地域住民がさまざまな議論に参加した。復興はなかなか進んでいないが、住民は自らの問題と捉えて主体的になっている。
 復興過程で個人が部分最適を目指した結果、全体最適が大きくゆがんでしまう恐れがある。その調整をすべき行政に能力が不足しているのは残念でならない。市町村合併によって専門性の高い職員が分散してしまった。
 原発事故で日本政府は海外の信用を失った。行政や専門家が危機に関し意見を交換し、情報公開するリスクコミュニケーションを徹底すべきだ。

<ILC誘致起爆剤に・松沢伸介氏>
 国は7月にも超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の候補地を岩手県か九州に絞り込む。東北全体で誘致活動を盛り上げ、国際的な巨大プロジェクトを震災復興につなげたい。
 産業の再生に電力は欠かせない。再生可能エネルギーが一定の戦力に育つまでどうするか。既存エネルギーに代わるものがない中、電力量の確保、環境への影響などメリットとデメリットを中長期的な視点で考えるべきだ。
 地場産業の強化には東北大との共同研究による付加価値の高いものづくりが求められる。復興予算を研究開発に充てられるよう、国は柔軟な対応をしてほしい。

<被災体験技術に直結・宮原育子氏>
 被災地ではいまだ日常を取り戻せていない人が大勢いる。震災が起きたとき、日本中が大勢の人を救おうと持てる限りのエネルギーを注ぎ込んだ。あの時の気持ちを忘れてしまうことこそが、震災の風化ではないか。
 震災後、多くの高齢者が長い間、菓子パンなどで暮らした。被災体験を基にした食べやすい保存食の開発など、東北の強みである食料生産や食品加工の技術を生かしてほしい。
 東北が連帯する上で教育が果たす役割は大きい。震災だけを教えるのではなく、東北人の教養として震災前の地理や歴史、経済を学び、将来、質の高い交流や観光につなげたい。

写真:これからの復興に求められる視点などを話し合った東北再生委員会のフォローアップ会合=12日、河北新報社
顔写真:(上から)増田寛也氏、黒田昌裕氏

(2013/02/25)