河北新報社

特集/仙台に大学医学部新設/復興の象徴、被災地に

 「東北の、東北による、東北のための医学部を」。東日本大震災の被災地に医学部を新設しようと、政治が新たなアクションを起こしている。河北新報社が「東北再生への提言」に盛り込んだ「地域の医療を担う人材育成」とも軌を一にする動きだ。その狙いと政治が果たすべき役割を聞いた。併せて、震災後の東北を取り巻く医療事情を探る。

◎政治の責任で実現 包括モデル構築を支援/平沢勝栄衆院議員に聞く

20130423_01.jpg 自民党所属の国会議員有志でつくる「東北地方に医学部の新設を目指す議員連盟」(会長・大島理森前副総裁)は2月末、復興のシンボルとなる医学部の新設を決議した。議連副会長として政府与党内の調整に奔走する平沢勝栄衆院議員に、今後の見通しを聞いた。

 -決議に反響はありましたか。
<各地から賛同>
 「ぜひ実現してくれ」という地域住民や自治体の声が、東北はもとより全国から寄せられている。中でも現場で働く多くの医師が、医学部新設を強く望んでいることに驚いた。それだけ医療の現場は疲弊しているということ。医学部新設は、政治の責任として必ずやり遂げなければならない。

 -与党内での検討は、どうなっていますか。
 当初は文部科学、厚生労働両部会の部会長了承などを取り付けて与党内合意とし、本年度予算で調査費を計上するシナリオだった。だが与党内にも慎重論があり、もう少し時間がかかりそうだ。
 7月に参院選を控え、政策課題は選挙後に先送りしようという雰囲気も漂っている。大島会長とは、この時間的猶予を利用し、理論武装をしっかり構築しようと確認し合った。
 参院選の地域公約として東北では、医学部新設を掲げることもあり得る。8月の各省庁による来年度予算の概算要求などをにらみながら、調査費計上を目指す。

 -医学部新設には、日本医師会が反対しています。
<反対意見ない>
 われわれ政治家が、地べたをはいつくばって拾ってきた現場の声にそんな意見はなかった。反対しているのは医師会の一部、というのが率直な感想だ。
 医師数は充足しつつあるとか、将来的には医師過剰に陥るという推計もあるようだが、実態から遊離した統計上の数字を振りかざし、現に医療過疎が常態化している被災地の人たちを説得できるだろうか。
 仮に現行制度の範囲内で地域医療を充実できるという青写真があるのなら、直接被災地に出向いて地域住民や自治体に説明したらどうか。医師会の一部の人には、現場感覚を共有してほしい。

 -医師の質の低下を懸念する意見もあります。
 議連の主張は、東北に1校だけ医学部を新設しようというものであり、指摘は当たらない。そもそも医師の質を担保するために医師国家試験があるのではないか。

 -被災地に求められる医学部のイメージは。
 超高齢社会に突き進んでいるわが国にあって被災地は、その切っ先に立たされている。こうした逆境を克服し、医療、介護、福祉を融合した社会モデルを東北に構築してほしいし、新医学部は、そのための人材を育成する場になってほしい。政治も、規制緩和や特区制度を活用して被災地の地域包括ケアを支援する。

<ひらさわ・かつえい>1945年、岐阜県生まれ。東大卒。警察庁審議官などを経て96年、衆院東京17区から自民党公認で立候補し、初当選。現在6期目。総務政務官などを歴任し、現在は党政務調査会副会長。

◎崩れる需給バランス/医師の不足、一気に広域化

 震災で被災地からその周辺部へと被災者が大量避難したため、東北では医師と患者の需給バランスが大きく崩れた。多くの避難住民を受け入れている地域で、医療機関にあふれかえる患者たち。震災を期に医療過疎が広域化した格好だ。

20130423_02.jpg いわき市の中央台遠藤内科クリニック。近くには、福島県広野、楢葉両町の住民向け仮設住宅475戸が立ち並ぶ。
 院長の遠藤到医師(53)は「患者は震災前に比べて3割増えた。この状態がずっと続いている」と説明。「診察まで4時間以上待たせてしまうこともあった」と語る。
 仮設住宅で暮らす避難住民には高齢者が多く、徒歩圏内の医療機関に患者が集中する傾向にあるという。
20130423_zu01.jpg 被災3県の沿岸部に位置する医療圏を見ると、震災後に医師数(常勤医と非常勤医の合計)が増えているのは宮古、仙台、いわきの3医療圏。残る6医療圏は、震災前後で医師数が減少している(表)。
 特に福島第1原発事故に見舞われた相双医療圏は、医師数が半分以下に減少。代わりに隣接するいわき医療圏は増加している。医師の一定割合が相双医療圏からいわき医療圏に移動したようにも見えるが、実態はそうではない。
 双葉郡8町村からいわき市への避難住民は現在、約2万3000人。これに対し、いわき医療圏の常勤医師数は257人で震災前と同じだ。増加分は、遠隔地から派遣されている支援医師ら非常勤の医師数が反映されているにすぎない。
 福島県沿岸部のある首長は「震災で崩れてしまった医師と患者の需給バランスを、現有医師の配置見直しだけで修正するのは不可能だ」と訴える。

写真:仮設住宅近くの病院では、診察まで2、3時間待ちが常態化している=12日、いわき市の中央台遠藤内科クリニック

◎岩手・一戸町の試み/常勤医確保、留学生に投資

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岩手県一戸町は今春、全国的にも例のない医師確保策に乗り出した。外国人留学生に日本で医学を学んでもらい、町の常勤医に育成する計画だ。稲葉暉町長は「医師不足対策に一石を投じたい」と話している。

 3月末にベトナムから来日したルー・ホン・ゴックさん(19)は、ホーチミン市国家大付属英才高を昨年5月に卒業。町にホームステイしながら、盛岡市の専門学校で日本語の特訓が始まった。
 2年間で日本語をマスターし、大学医学部の受験を目指す。順調に行けば、8年後には日本で医師免許を取得できる。
 ゴックさんの受け入れを念頭に町は、独自の医学生奨学金貸付制度を創設した。学費、生活費などの費用を貸し付け、貸与期間と同じ期間を地元の県立一戸病院に勤務すれば、返済を免除する。8年間で約2000万円の支出を見込んでいる。
 町の期待を一身に担うゴックさんは「プレッシャーはあるが、頑張りたい」と意欲的だ。同時に、先進国日本の医師不足を「とても不思議に思った」と語る。
 一戸病院は、14人いた常勤医が今春、9人に減った。2008年以降は、医師の不在で眼科が休診になり、高齢者が大半という患者は、不自由な目で盛岡市などへの通院を強いられている。
 町内には「外国人留学生に先行投資するような手法は、リスクが大きすぎる」との異論もあった。それでも稲葉町長は「国レベルで医師不足対策の本格的な議論がないまま、地方の医療にしわ寄せが来ている。町から行動を起こしたい」と強調する。

写真:日本で医学部受験を目指すベトナム人留学生のゴックさん

◎卒業生の地元定着策/出身自治体が奨学金 病院が肩代わり返済

 新医学部は、「臨床重視」と「地域医療への貢献」を目標に掲げる「東北の自治医大」であることが認可の条件になりそうだ。既に医学部構想を発表している東北福祉大と仙台厚生病院の基本計画などを参考に、新医学部の卒業生が地元に定着する仕組みをシミュレーションしてみた。

20130423_zu03.jpg 一般的に考えられるのは、入学定員の一定割合を東北出身者に優先的に割り振る地域枠制度の導入だ。新医学部では、これに連動する奨学金制度を東北の市町村や医療機関に創設してもらう。
 例えば、A市出身の高校生は、内申点なども加味した地域枠で医学部に進学。A市から奨学金を支給される。卒業後は、A市の病院に一定期間勤務することで奨学金の返済は免除される(図1)。
 医療機関による奨学金制度も同様の仕組みだ。自治体病院や民間病院にとっては、安定的な医師の確保が見込める。
 医学部が主体的に奨学金を支給する手法も考えられる(図2)。
 まず、研修医の受け入れを希望する東北の自治体病院や民間病院は、事前に医学部と契約を結ぶ。その上で医学部は、卒業生を契約病院に研修医として派遣する。
 派遣の見返りとして契約病院は、研修医が受給してきた奨学金を肩代わりして返済。返済された奨学金を医学部は、新たな入学生に支給する奨学金の原資として活用する。
 自治体病院や民間病院は従来、医師を確保するため、研修医の給与に特設手当を上乗せしてきた。こうした手当を奨学金返済に振り分ければ、病院側の負担が新たに増えることはない。
 この手法なら、東北出身者でなくても奨学金の受給が可能だ。しかも、東北の病院に研修医を誘導できる。また、契約病院は医師の確保、研修医は奨学金の返済免除、医学部は奨学金制度の維持と、それぞれがメリットを共有できる。

 東日本大震災を踏まえて河北新報社は2012年1月、「おこす」「むすぶ」「ひらく」を基本理念に3分野11項目から成る「東北再生への提言」を発表しました。復旧期から復興期へと差し掛かった被災地の現状と提言実現に向けた課題を掘り下げた特集を随時掲載します。

(2013/04/23)