河北新報社

特集/蓄電池技術の向上・普及/地元資本で資源開発

 東日本大震災をきっかけに、太陽光、風力、水力など再生可能な自然エネルギーが脚光を浴びている。多様な自然資源を擁する東北にとっては、エネルギー開発を新たな産業として打ち立てる好機だ。環境との調和を図りつつ、地域の潜在能力を存分に引き出すには、地元密着の開発戦略が欠かせない。活況を呈する自然エネルギー開発の最前線で、現状と課題を探った。

◎地銀、援軍に名乗り 新制度導入が呼び水に/風力発電開発「ウイネット秋田」原田美菜子さんに聞く

20130527_01.jpg 全国有数の風力発電適地とされる秋田県では、震災前から市民の出資による風車の建設が続いていた。導入から間もなく1年となる国の固定価格買い取り制度は、こうした地道な取り組みにも大きな変化をもたらそうとしている。自然エネルギー開発の現場で今、何が起きているのか。風力発電事業を展開する「ウイネット秋田」の原田美菜子さんに聞いた。

 -震災後、事業環境に変化はありましたか。
<市民 関心高く>
 「風車の建設費は、出力2000キロワットで1基当たり5億円。全国から個人出資を募る従来の方式では、1基ずつ設置するので精いっぱいだった。それが震災後は、瞬く間に4基を建設できた。市民や企業の関心の高さを肌で感じる」

 -固定価格買い取り制度の影響は。
 「風車で生み出した電気の買い取り単価が従来の2倍程度に跳ね上がり、収支は大幅に改善した。さらに、自然エネルギー開発が有望な投資先として認知されるようになった」
  「昨年9月には、地元の北都銀行を傘下とするフィデアグループ、空調設備工事の羽後設備とともに風力発電を展開する新会社『ウェンティ・ジャパン』を設立した。自然エネルギー分野に金融機関が直接参入するのは、全国でも初めてだ」

 -金融機関が参入する意義とは何ですか。
 
  「メガバンクではなく、地元の金融機関である点が重要。これまでは、大規模に開発する大手資本を相手に市民の出資だけでは太刀打ちできなかった。地銀が援軍に名乗りを上げたことで、地元の資源を、地元の資本と人材で開発し、地元で収益を分け合う仕組みが整っていく」
 「新会社は、2015年度までに30基の風車建設を当面の目標としている。建設費の大部分は北都銀行の融資で賄うが、市民からの出資も一定割合で組み入れるなど住民参加の仕組みを考えていきたい」

 -開発の勢いでは、太陽光が風力を上回っています。
 <頓挫例も散見>
 「規格品のパネルを設置する太陽光は、工期が短くて済むため参入が容易。ほかの発電形態に比べて電気の買い取り価格も高い。自然エネルギーの開発全般が加速するという点では歓迎すべきかもしれない。だが、発電形態の多様性が損なわれるのではないかと不安も覚える」

  -開発の過熱を懸念する声もあります。
 「確かに経済産業省による認定事例を見ると、地権者の合意が十分でない事業者もいるようだ。買い取り価格が今後下落する可能性を見越し、開発許可だけでも早めに確保したいという考え方だろう」
 「拙速な計画がたたり、事業化が頓挫したケースも既に散見される。ずさんな計画で電気の買い取り量が埋められてしまえば、まっとうな事業者が割を食う。乱開発を食い止め、地域の信頼を得るためには今後、私たち発電事業者に自らを律する真摯(しんし)な姿勢が求められる」

<はらた・みなこ>1970年、秋田市生まれ。聖霊女子短大付属高卒。会社員などを経て2003年1月、風力発電開発のウイネット秋田に入社。用地交渉などを担う事業開発を担当。これまでに市民風車7基の建設に携わった。

[固定価格買い取り制度]太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなど環境への負荷が小さい自然エネルギーで生み出した電気の買い取りを電力会社に義務付ける制度。原子力や火力に比べて発電コストが高いとされてきた再生可能エネルギーの普及を促すために2012年7月、再生可能エネルギー特別措置法の施行で導入された。発電事業者認定時点の価格で一定期間、買い取りを保証する。ただし、500キロワット以上の太陽光と風力の発電事業者に対して電力会社は、状況に応じて発電量の抑制を要請できる。

◎現状と課題/出力既に原発1基分 太陽光が突出、東北に適地多い風力・水力

 固定価格買い取り制度の導入以降に経済産業省が認定した東北6県と全国の再生可能エネルギー発電設備は表の通り。出力ベースで見ると、既に全国では、原発1基分に相当する108万キロワットの発電が始まっている。

20130527_02.jpg<太陽光(運転開始出力102.7万キロワット)・1キロワット時4円下げ>
 発電形態別で全体の9割を占める。このうち72.3万キロワットが住宅の屋根などにパネルを設置した個人事業者による発電。宮城県では、被災住宅の再建に合わせて事業者となるケースが多い。
 買い取り価格は、出力10キロワット以上の場合で1キロワット時当たり42円からことし4月、37.8円に引き下げられた。

<風力(3.7万キロワット)・大手5社で寡占>
 世界的には自然エネルギーの主力。国内では北海道、東北、九州に適地が多い。建設コストが高く、開発は大手5社による寡占状態になっている。青森県では大手による大規模開発が進み、運転開始出力の約9割を占める。

<水力(0.1万キロワット)・技術輸出に期待>20130527_03.jpg
 起伏に富んだ地形と豊富な水量を有する東北は全国有数の適地。農業用水を利用する小水力発電の場合は水利権が課題となるが、一関市では土地改良区が発電を手掛けて成果を挙げている。
 発電システムの開発に既存技術の応用が見込めるため、海外への技術輸出にも期待が集まる。

<バイオマス(1.9万キロワット)・認定1ヵ所だけ>
 サトウキビや間伐材、家畜排せつ物などの有機性資源が燃料。東北での認定は会津若松市の設備1カ所にとどまっている。

<地熱(0キロワット)・業者と調整難航>
 認定は九州での3件のみ。開発可能発電量が74万キロワットと推定される東北だが、事業計画の表明は湯沢市など限定的だ。環境省は国立公園内での開発基準を緩和したが、温泉業者らとの調整が難航している。

◎甲府の蓄電設備工場/技術革新で大型化を実現

 自然エネルギーは従来、気象条件などに左右される不安定な電力供給が普及のネックになっていた。安定供給の鍵を握るのは、蓄電池の性能向上だ。技術開発で世界の最先端を行くわが国の蓄電設備生産ラインを紹介する。

20130527_04.jpg 甲府市でことし2月、NECグループのリチウムイオン蓄電設備の組み立てラインが稼働した。電気自動車(EV)への蓄電池供給で培った技術を生かし、家庭用と中・大型の蓄電設備の量産化が始まっている。心臓部の電極は、相模原市にある世界最大級の工場で生産し、甲府工場が組み立てを担う。生産目標は家庭用蓄電設備だけで月産800台。現在、ラインを増設中で、年度中に生産台数の倍増を目指す。
 NECエネルギーインテグレーション事業部主任の山口研也さん(41)は「震災を受けて蓄電設備を標準装備とする住宅メーカーが増えている。その分、量産化、高性能化、軽量化、低価格化といった開発競争も激しくなっている」と説明する。
 家庭用には、インターネット回線で蓄電量を管理するシステムを組み込んだ。地域内の蓄電池を一括管理して電気を融通し合うスマートグリッド(次世代送電網)の導入を見越した対応だ。
 出力の大きい自然エネルギー発電には、発電設備と従来の送電網の中間に設置して電力の安定供給を図るため、中・大型蓄電設備が用いられる。NECでは、国内外の自然エネルギー発電施設で実証実験に参加し、蓄電性能の向上に必要なデータを収集している。
 高性能だが、大容量、高電圧への対応が技術的に困難とされてきたリチウムイオン蓄電池は、EVへの搭載を目指す過程で弱点を克服。NECコンピュータテクノ(甲府市)事業支援部の久保寿康さん(57)は「中・大型蓄電設備の量産が可能となり、大規模な自然エネルギー発電にも対応できる」と今後の市場拡大に期待を込めた。

写真:量産化に乗り出したNECの蓄電池組み立てライン。工程ごとに検査を繰り返し、高品質の蓄電設備を生産する=甲府市

 東日本大震災を踏まえて河北新報社は2012年1月、「おこす」「むすぶ」「ひらく」を基本理念に3分野11項目から成る「東北再生への提言」を発表しました。復旧期から復興期へと差し掛かった被災地の現状と提言実現に向けた課題を掘り下げた特集を随時掲載します。

(2013/05/27)