河北新報社

特集/産消連携拡大目指す/都市近郊型の地域営農推進

 東日本大震災の津波に見舞われた仙台平野で、農地の復旧が本格化している。壊滅寸前に追い込まれた農業地帯は、隣接する大消費地・仙台との産消連携を手掛かりに再生への道を歩み始めた。広大な農地を着実に次代へと残すには、地域営農の組織化も避けては通れない選択だ。東北農業の主産地が逆境を乗り越え、新たな飛躍を遂げるための課題を探る。

◎6次産業化に活路/市場の動向敏感に対応/仙台農協農産物直売所「たなばたけ」店長・庄司和広さんに聞く

20130627_t1.jpg 震災を乗り越え、2011年10月にオープンした仙台農協の農産物直売所「たなばたけ」。店舗を核にした都市近郊型農業の成長戦略が注目を集めている。「生産者と消費者、双方が交流する場にしたい」と語る庄司和広店長に聞いた。

 -震災後は商品が集まらず、苦労したのではないですか。
<加工品も販売>
 「直売所は消費地と生産地の結び目に位置する好立地だが、それは津波の浸水、非浸水域のちょうど境界線上でもあった。出荷農家が軒並み被災する中、当初は提携する他地域の農協の協力が大きかった」
 「畑作地域は塩害からの復旧もだいぶ進んでいる。現在、1日平均120~130戸の農家から出荷を受けており、昨年の売り上げは5億6000万円に上った。直売所の創業が仙台農業復興の足掛かりになった」

 -全国的には産直施設の減少傾向が続いています。
 「消費者ニーズに適応しないと淘汰(とうた)される時代だ。生産サイドが加工や販売も担う6次産業化が生き残り戦略のキーワードになる。店内で総菜、豆腐などの加工食品を販売しているのもその一環。特に東京・中目黒の有名専門店が監修した野菜スイーツは、直売所の目玉商品になっている」
 「出荷農家の意欲を引き出すため、生産者に店員が集めたお客さまの声を伝えたり、メールで売り上げの途中経過を連絡したりといった取り組みも欠かせない。生産者自身が売り場に足を運び、いま、何が品薄なのかを確認するといった努力が、売り上げを左右する」

20130627_map1.jpg -農家にもビジネス感覚が求められているということですか。
<若年層開拓へ>
 「以前の農業は、同じ品種を大量生産し、規格品を市場に出荷するのが主流だった。作業負担の大きい重量野菜の作付けが減ってしまうなど生産と消費のミスマッチが起きることもあった」
 「だが、直売所で一定の所得を確保するには、少量多品種の作付けが求められる。われわれ農協も、市場動向に敏感に対応し、生産指導を強化しなければならない」

 -消費者の反応はどうですか。
 「仙台には、ハクサイや雪菜、曲がりネギなど伝統野菜も数多い。こうした産直品の良さを多くの人に知ってもらうには、若年層のファンを獲得しなければならない。野菜ソムリエを招いて毎月、料理教室を開くなど食農教育の発信基地として消費者と生産者の懸け橋を目指している」

 -環太平洋連携協定(TPP)は、今後の戦略に影響しますか。
 「農協としてはTPPに断固反対の立場。ただ、直売所に出荷している農家の作物が、品質で海外品に負けることは絶対にない。大消費地・仙台との結び付きを盤石にすれば、都市近郊型の農業は、外圧に最も強い農業になれるのではないか」

<しょうじ・かずひろ>1973年、名取市生まれ。仙台商高卒。91年、仙台農協に就職。信用・共済部門などを経て2011年6月、「たなばたけ」(仙台市宮城野区福室2丁目)店長に着任。生産指導、商品管理などを総括する。

◎除塩農地に試練/新しい土、乏しい養分/防風林消失、冷気侵入

20130627_t2.jpg 仙台平野の東部沿岸で今春、3年ぶりの田植えが行われた。待望の営農再開に胸をなで下ろしたのもつかの間、被災農家からは、震災前とは大きく変わってしまった栽培環境に戸惑いの声が上がっている。

 仙台市若林区種次では、除塩のために土を入れ替えて田植えの準備を進めてきた。それでも、水田の全面復旧はかなわなかった。兼業農家の男性(62)は「いよいよ代かきと思ったら、農機が土をかんでくれない。結局、ことしも田植えはあきらめた」と言う。
 入れ替えた土は硬く、養分も乏しい。今春、作付け可能となった900ヘクタールのうち350ヘクタールは、いったん大豆栽培などで地力を回復した後、稲作に戻していくという。
 仙台農協は「耕作を再開しないと土作りも進まない。適切な施肥など営農指導を強化する」としている。
 もうひとつの懸念材料が冷たい海風だ。仙台平野の海岸線を南北に貫いていた防風林は、津波でほぼ消失。幅300~400メートルの分厚い松林で食い止めていた冷風は、ストレートに陸側へと吹き込む。
 専業農家の男性(65)は「肌に当たる空気が、以前とは全然違う。土の入れ替えで、ただでさえ稲の根付きが悪いところにやませが吹いたら冷害になる」と気をもむ。
 気象庁は「今夏、東北の太平洋岸で強いやませが発生するような気象条件は見あたらない」としているが、農研機構東北農業研究センター(盛岡市)は「むしろ恒常的に吹き込む海風にこそ警戒が必要」と注意を促す。
 地表をはって進入する海風は仙台東部道路の土盛りで遮断されるため、その西側では、ほとんど影響がない。だが、東部沿岸は、そうした風よけが一切なくなった。
 農研機構農業気象グループの菅野洋光上席研究員(54)は「気象に関して仙台平野に震災前の常識は通用しなくなった。7月下旬前後の稲の減数分裂期に深水管理を徹底するなど、従来にない対策を講じてほしい」と呼び掛けている。

写真:3年ぶりの田植え作業。防風林の消滅で冷気の侵入が懸念される=5月14日、仙台市若林区種次

<営農再開計画 内陸から海側へ順次>
 東北農政局と仙台市は、津波の被害を受けた仙台市東部(宮城野区、若林区)の農地1800ヘクタールを3区分して順次、営農再開を目指す計画だ。並行して水田の大区分化を軸にした国営圃場整備事業も始まる。
 農地の復旧は、被害程度が比較的軽微だった内陸側から海側へと進んでいる。仙台東部道路の西側を中心とする500ヘクタールは昨春、東部道路東側の900ヘクタールは今春、それぞれ営農を再開。最も海側に近い県道塩釜亘理線沿いの農地400ヘクタールは来春の作付けを目指す。
 農機具や農業施設の大半が流失した地区では、農機具を共同所有する機械利用組合や、販売まで共同化した営農集団が多数誕生。転作を目的とする従来の集落営農組織が新たに水稲栽培も担うなど、震災を経て農業経営の形態は大きく変わりつつある。

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◎トヨタのパプリカ生産/農・工共存、モデルを築く

20130627_t3.jpg トヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)の敷地内で7月、水耕栽培によるパプリカの本格生産が始まる。土を使わず、コンピューターで管理されたハウスは「工場」そのもの。「農商工連携のモデルを示し、被災地の1次産業を支援したい」というトヨタグループの試みだ。

 パプリカの生産は、トヨタ傘下の農業生産法人「ベジ・ドリーム栗原」(栗原市)が手掛ける。震災後にトヨタ東日本の工場に隣接する1.8ヘクタールの巨大ハウスを整備した。春からの実証栽培が終わり、作付けが本格化する。
 最大の特徴は、トヨタ東日本の自家発電で発生した廃熱を再利用するコージェネレーション(熱電併給)システムの導入だ。90度以上の温水がハウス内を循環し、冬場でも室温を24~25度に保つ。ベジ・ドリームの高橋誠一郎代表(61)は「エネルギーの有効利用で工場と農場が共存共栄する仕組みを目指した」と説明する。
20130627_map3.jpg ハウス内の床面はコンクリートとシートで覆われ、温水と養液がパイプで循環。温水や養液の供給はコンピューターが一元管理する。
 高所作業車による作業の効率化、外部タンクに蓄えた雨水の利用、養液の殺菌・再循環システムなど無駄を徹底的に省いたトヨタ生産方式を随所に取り入れた。
 全面作付けが始まると、10月下旬から翌年6月まで継続して収穫が可能となる。年間生産高は約315トンを見込む。
 高橋代表は「被災農地では、津波による塩害の克服と収益性の高い農業の模索が続いている。われわれの取り組みを農業再生のヒントにしてほしい」と話している。

写真:トヨタ自動車東日本に隣接する国内最先端のパプリカ農場=宮城県大衡村

 東日本大震災を踏まえて河北新報社は2012年1月、「おこす」「むすぶ」「ひらく」を基本理念に3分野11項目から成る「東北再生への提言」を発表しました。復旧期から復興期へと差し掛かった被災地の現状と提言実現に向けた課題を掘り下げた特集を随時掲載します。

(2013/06/27)