河北新報社

特集/仙台空港、迫る民営化/東北一体のバックアップ体制急げ

 東日本大震災の津波で甚大な被害を受けながら、わずか半年で全面復旧を遂げた仙台空港が、さらなる成長戦略を仕掛ける。目指すのは、わが国初の空港民営化だ。災禍をはね返した東北の拠点空港は、航空自由化という世界規模の気流をつかむことができるのか。

◎経営の時代に突入 着陸料引き下げ不可欠/大和総研シニアコンサルタント・平井小百合さんに聞く

T0829_01.jpg ことし6月に民活空港運営法が成立し、日本も空港民営化時代の入り口に立った。中でも仙台空港は「民営化第1号」の最有力候補だ。空港ビジネスの世界潮流と民営化の意義を、大和総研シニアコンサルタントの平井小百合さんに聞いた。

 -日本の空港行政の問題点を以前から指摘されています。

<運営 非効率的>
 「仙台空港など全国に28ある国管理空港の整備費は、着陸料などを原資とする空港整備勘定で賄われる。その結果、稼ぎ頭の羽田空港に他空港が依存する状態だった」  「空整勘定から切り離されたターミナルビルを整備するために第三セクターを設置したり、駐車場を外部委託したりと、空港施設の非効率な運営を招いてしまった」

 -民活空港運営法が、問題の解決策になりますか。
 「新法施行で、国や地方自治体が管理する空港の運営を民間に委託できる。空港が『整備』の時代から『運営』の時代を飛び越え、一気に『経営』の時代に突入することを意味する」

 -具体的には。
 「民営化された空港は、着陸料などの航空系収入と、ターミナルビルのテナント料、駐車料金などの非航空系収入を得る。二つの財布を合体させれば、着陸料の柔軟な設定、サービス向上などに民間の知恵を生かせる」  「目指すのは非航空系収入を増やし、その分、着陸料を低く抑える経営だ。これまでは、空港整備のために着陸料が高いまま据え置かれ、国際競争力が身に付かなかった」

 -仙台空港は格安航空会社(LCC)の誘致にも積極的です。
 「LCC誘致に必要な条件は二つ。一つは、利益を確保できる需要があること。需要は将来性も加味される。民営化は空港の将来性を高める手段だ。もう一つは、低運賃を実現するための低コスト。鍵を握るのは、やはり着陸料の引き下げだ」  「アジア各国ではLCCが急成長している。飛行機に乗るのを諦めていた人たちが新たな需要になる。国際線LCCの就航は、東北全域に大きな波及効果をもたらす」

 -民営化の手法は多様です。日本の選択は。

<主流は「民活」>
 「最も思い切った手法に英国などで見られる株式の上場がある。広く資金調達できるメリットはあるが審査基準は厳しい。また、空港は単なる交通インフラではなく、防災など有事の拠点だ。所有権を市場原理に委ねてしまうことを不安視する意見もある」  「現在、世界で主流になっているのは、土地と施設の所有権を政府や自治体に残し、空港の運営・維持・整備を一定期間、民間に任せる契約で『コンセッション』と呼ぶ。所有権を残して民間の能力を活用するのだから『民活化』という言い方が的確かもしれない」

 -仙台空港を中心にした東北9空港の一体経営は可能ですか。
 「それは地域の人が判断すべきことだろうが、空港のグループ化は仙台空港への依存を強めてしまうかもしれない。仙台空港を大きく育てる方が、東北全体の利益にかなうのではないだろうか」  「運営権に売却価値の付く日本の空港は少ない。赤字空港であっても運営権を民間に譲渡し、赤字幅を国や自治体が穴埋めする方法もある。民営化の方が空港の価値が向上する場合は、この手法が適切だ」

<ひらい・さゆり>1959年、京都府生まれ。同志社大卒。メリルリンチ証券を経て96年、大和総研入社。「日本の交通ネットワーク」(中央経済社・共著)など空港経営に関する著作、論文多数。

◎宮城県の戦略/三セク事業権 売却を検討

 宮城県は、民営化された時点を起点に30年後の仙台空港の目標を「年間旅客数600万人、貨物取扱量5万トン」と設定している。民営化はどのような手順で進むのか。関係者の証言から「新生仙台空港」を占う。

T0829_02.jpg 県が民間委託の対象としているのは、ターミナルビルを運営する仙台空港ビル、国際貨物を取り扱う仙台エアカーゴターミナル、仙台空港アクセス鉄道を運行する仙台空港鉄道の3社。いずれも第三セクターだ。
 ただ、仙台空港鉄道について国は「空港敷地外の施設は民営化の対象外」と難色を示している。県は「効率的な空港経営には、鉄道部門も一体化した民営化が不可欠」と主張しており、国との交渉を続ける方針だ。
  2015年度の民営化移行に向け、来年4月以降に委託先の公募が始まる。県の検討会には総合商社や流通大手、金融機関が多数参加し、空港ビジネスに対する関心の高さをうかがわせた。
 そんな中、県を慌てさせたのが、安藤圭一・新関西国際空港会社社長の発言だ。仙台空港の事業権取得に「手を挙げない選択肢はない」と意欲を示した。
  新関空の負債は総額1兆2000億円に上る。県幹部は「仙台空港を傘下に収め、新関空の価値を高めたいという意図がうかがえる」と指摘。村井嘉浩宮城県知事も「(新関空は)国がコントロールする企業。仙台空港は完全な民間企業が運営する」と火消しに走った。
 空港民営化に詳しい専門家は「どの企業も仙台空港でいち早く経営ノウハウを蓄積し、今後拡大する民営化に備えたい。複数企業の相乗りで特定目的会社を設立し、入札に参加するのではないか」と予測する。
T0829_03.jpg 委託形態は、所有を県に残して事業権のみを売却するコンセッション方式が採用される見通しだ。契約期間は30年。
 昨年11月に村井知事が視察したロンドン郊外のルートン空港は、英国で唯一、コンセッションで民営化した空港だった。経営方針を格安航空会社重視に転換し、15年で旅客数を3倍に増やすなど仙台空港が目指す民営化と類似点も多い。
 村井知事は「30年で旅客数、貨物取扱量の倍増は十分に達成可能」と自信を深めている。

写真:4月に就航した格安航空会社ピーチ・アビエーション。民営化で増便を目指す=仙台空港

◎英国の光と陰/中小のLCC台頭、利便性向上後回し

 空港民営化の先駆けとなったのは、サッチャー政権の下で市場経済路線を推し進めた1980年代の英国だった。空港ビジネスの新モデルが脚光を浴びる陰で、利便性向上が後回しにされるなどの弊害も指摘される。

 英国空港公団(BAA)は86年に株式会社化。国際線の旅客数世界一を誇るヒースローなど主要7空港を傘下に収めた。  収益はターミナルビルのテナント料、駐車場料金などで確保。その分、着陸料を引き下げるビジネスモデルを確立した。
 欧州連合(EU)では、93年以降の航空自由化で空港民営化の動きが広がる。EU協定は(1)国内空港間の輸送を自国の航空会社に限っていた規制を撤廃(2)域内の航空会社は政府交渉なしに運賃を決定-などが特徴だ。
 こうした規制緩和をテコに格安航空会社(LCC)が台頭した。
 日英の航空市場を比べると、日本の空が大手2社による寡占になっているのに対し、英国内を往来する飛行機は「フラッグ・キャリアー」のブリティッシュ・エアウェイズを差しおいて中小や新規の航空会社が6割を占める。
T0829_04.jpg 空港民営化のモデルとされるBAAだが、ヒースロー空港では離着陸の慢性的な遅れや乗り継ぎの悪さ、荷物の紛失が一向に改善されない。
 日本の公正取引委員会に当たる英国競争委員会は「国内の主要空港を独占所有した結果、利便性向上の努力を怠っている」と指摘。BAAに所有空港の一部を売却するよう勧告した。
 2006年には、スペインに拠点を置く企業グループがBAAを買収。行き過ぎたグローバル化を懸念する声が上がった。


  東日本大震災を踏まえて河北新報社は2012年1月、「おこす」「むすぶ」「ひらく」を基本理念に3分野11項目から成る「東北再生への提言」を発表しました。復旧期から復興期へと差し掛かった被災地の現状と提言実現に向けた課題を掘り下げた特集を随時掲載します。

(2013/08/29)