あるもの探しの旅

  •  美味しいものって、私たちを幸せな気持ちにしてくれますよね。
  • ふだん私たちが何気なく口にしているもの。
  • それはどんな人が、いかなる風土のもとで、どんな思いで作っているのか。
  • そんなことを考えてみたことってありますか。
  •  自分の体に取り込むものだからこそ、もっと知りたい。
  • 大量生産品が持ち得ないモノたちが秘めた飛びっきりなストーリー。
  • どうやら東北に暮らす私の足元と、ハンドメイドな職人王国のイタリアには
  • そんな物語がたくさんあるようです。
  •  ご一緒に「あるもん探しの旅」にちょっと出てみませんか
  • 読んで美味しい知ってうれしいお話を、どうぞ召し上がれ。Buon appetito!

2016/05/22

余は如何にしてバッカス信徒となりし乎

Road to バッカス @カラヴァッジョ展


 幼少期から水で薄めたヴィーノを体内に摂取することが珍しくないイタリア人は、自身のアルコール摂取に関する限界を知悉しているため、人前で泥酔する醜態を晒すことがありません。

 そんな前世における幼児体験のおかげか、庄イタは常に品行方正な飲み方を心掛けています。とはいうものの、過去において脛にキズがないわけではありません。

 東京支社勤務時代、JR市ヶ谷駅のすぐ目の前にあった越前料理店「みくに」を会場に、現在は合併により社名が無くなった某大手広告会社と全国各地の新聞社有志による宴席が例年12月に開催されていました。

sake-yawaragi-acqua.jpg

【Photo】〝百薬の長〟は楽しく適量を。和らぎ水も忘れずに。週に2日は休肝日。以上、自戒の意味を込めて。(本文と画像は関係ありません)

 そこでは大杯に注がれた日本酒を飲み干す儀式が恒例化しており、座の盛り上がりとともに、清酒+ビール、そこに+刺身のワサビ醤油、さらに+その他モロモロが加わり、正体不明の特製日本酒カクテルと化してゆくのでした。

 ゆえに悪酔い必至ゆえ、参加するブロック紙・地方紙業界では知らぬ人の無かったこの酒席。初参加した転勤1年目は、猫をかぶっていたために大過なく乗り切ったものの、標的となった2年目は翌朝出社できない羽目に。その反省から自分なりにコツとペースをつかんだつもりの3年目。事件は起きました。

 陶酔の極みへと至るディオニューソス的な盛り上がりは例年通り。被弾多数で撃沈は免れるも、したたか呑んでお開きとなりました。店の出口付近では、「次の店行くぞo(`・д・´)ノ━!!」的な雄叫びが響き渡っていましたが、奈落の底への誘いには応じない理性は働いていました。

Dionyusos-heracles.jpg

【Photo】酒神ディオニューソス(バッカス)とヘラクレスの酒豪ぶりを寓意化した1世紀頃のモザイク。カエサルやアウグストゥスの時代、対立するパルティア帝国への前線都市として、東地中海地域最大のローマ属州都市として栄えたアンティオキア(現トルコ南部アンタキヤ)。AD526 に発生した大地震で大打撃を受け衰退した都市の屋敷跡より出土した(本文と画像は関係ありません)

 当時、社宅があったJR常磐線松戸駅に向かうべく、背後の絶叫を振り払うように、市谷見附の横断歩道を急ぎ渡り終えました。そしてJR市ヶ谷駅の改札を通過した時、勝利を確信したのです。

 「ムフフ...。今年は昨年よりは飲んでないぞ

 市ヶ谷から4駅目の秋葉原、そしてJR山手線日暮里駅で乗り換えるため、JR総武線の各駅停車電車に乗り込んだのが、夜9時過ぎ(路線図参照)

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 ところが暖房が入った車内で酔いが回ったのでしょう。家路について安心したのも手伝い、吊革につかまったまま、知らぬうちにzzz...。ふと我に返ったのが、乗り換えるつもりだった秋葉原を14駅も通り過ぎた先の津田沼の手前。

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 「emoticon.jpg あ゛ーっ、乗り過ごした!

 かくなる上は、作戦変更。西船橋まで3駅ほど戻り、JR武蔵野線で5つ目の新松戸駅へ向かい、JR常磐線上り電車で3つ戻って松戸を目指そうと、津田沼駅で慌てて電車を降りました。

 総武線上り電車に乗り換え、西船橋駅で電車を降り、階段で武蔵野線ホームに移動。5分間隔で運行する総武線ほどは運転本数が多くはない武蔵野線ゆえ、間隔が10分以上空いていたはず。電車を待つ間、ベンチに腰掛けると再び睡魔が襲ったのです。

JRE_MusashinoLin.jpg

 ...zzzz。そのままどれほど時間が経過したのでしょう。なかば意識が朦朧としつつも、覚醒した庄イタが乗り込んだ武蔵野線上り電車。5つ目の新松戸で乗り換えをするはずが、空いていた座席に腰掛けてしまったことで、さらに深手を負う羽目に。

 電車に揺られるうち、意識は遠のき、再び夢の世界へ。zzzzz...。トロイメライの幻聴とオーバーラップして耳に届いた車内アナウンスに促されるように目覚めたのが、終点の府中本町駅の手前。

LineMap_Musashino.jpg

 西船橋から乗車して間もなく眠りにつき、新松戸で常磐線に乗り換えることなく、なんと1時間あまりをかけて関東平野を半周していたのです。そこは目指すべき松戸とは正反対の方向(上路線図参照)

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 「マンマ・ミーア!!

 もはや酔いも醒めた頭で、「やれやれ、下り電車に乗り換えて新松戸経由なら、1時間30分ほどで松戸まで戻れるかしらん」と思ったのも束の間。

 日付が変わって零時半近くに府中本町を出る下り最終電車は、わずか5つ先の東所沢駅止まりであるという冷酷な事実を車内アナウンスは告げていました。

 「オー・マイ・ガーっ!!!

【Photo】 Skrik/ The Scream by Edvard Munch,ムンク(1863-1944)「叫び」1893年 (本文と画像は関係ありません)

 朝が来れば、また出勤せねばなりません。窮地に立たされた庄イタに残された道は、少しでも家の近くまで電車で戻り、訪れたこともない東所沢から深夜タクシーに乗るしかないのでした。

 総武線の吊革、そして西船橋駅のベンチ(⇒この滞留時間が最長だった)、さらに武蔵野線の座席で、都合3時間近くも睡眠をとったため、これっぽっちも眠くありません(笑)。財布の中を確認し、所持金で社宅まで戻れるであろうことを確認。わずかな乗客を乗せた最終電車に揺られること20分にも満たない小さな旅はあっけなく終了。

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【Photo】さすがは酩酊の神。〝出しながらも葡萄酒を飲み続ける〟の図 Bacco che beve / Drinking Bacchus by Guido Reni, ボローニャ派のグイド・レーニ(1575-1642)「酒を飲むバッカス」1623年 (本文と画像は関係ありません)

 否応なしに初めて降り立った終着の東所沢駅。ヨーロッパの鉄道のような始発終着となる大きなターミナル駅でもなく、予想だにしない小さな駅だったので、タクシーがいるか不安に駆られました。

 捨てる神あれば拾う神あり。南口駅前のタクシープールには客待ちのタクシーが数台。ドライバーに「松戸まで」と告げた時のリアクションは、今もはっきりと覚えています。 

 深夜割増時間帯で、40km 離れた松戸まで乗車する上客が舞い込んだ運転手は、後部座席に乗り込んだ庄イタに対して開口一番、弾んだ声でこう言ったのです。

 「お客さーん、電車乗り過ごしちゃったんでしょ?」

 はっきり言って余計なお世話。言わずもがなの指摘を受けた庄イタは、ぐうの音も出ません。自嘲的な愛想笑いを返すのがやっとでした。そうしてまんじりともせず1時間以上をかけて社宅に到着。2万円+α が飛んで行ったとさ (T T。

 この痛すぎる出来事があって以来、「酒は飲んでも飲まれるな」を信条に、宴席ではバッカス神のご加護を願うようになったのです。

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【Photo】画家としての活動は15年ほどだったにも関わらず、バロック絵画の先駆者となったカラヴァッジョ初期の傑作「バッカス」(背景)。1917年に見出されるまで、ウフィッツィ美術館の収蔵庫で眠っていた。ギリシャ神話に登場するブドウ酒と酩酊の神は、ブランデーを中に閉じ込めたチョコレート、ロッテ「Bacchus (バッカス)」でもおなじみかと

 ドラマチックな陰影表現を取り入れ、バロック絵画への扉を開いたのが、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)。フィレンツェ・ウフィッツィ美術館で対峙して以来、日本初公開となるバッカス像との再会が、東京上野・国立西洋美術館で6月12日(日)まで開催中の「カラヴァッジョ展」で実現しました。

 次回は、不世出の天才カラヴァッジョが遺したバッカスのイコンについて語ります。

to be continued...
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投稿者 vam : 17:00 | カテゴリー : Libro e Cinema, Arti 書籍と映画, 芸術/| カテゴリー : ・Fuori Tohoku 圏外遠征

2016/05/14

正真正銘、これぞトリュフチョコレート!!

アルバの薫り高きトリュフ入りトリュフチョコ


 2010年10月にオープンした旧店舗近くにこの春移転し、装いを一新した福島市「Osteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ」。

 信仰するバッカス神との対面をウフィツィ美術館以来、久方ぶりに果たした「カラヴァッジョ展」、異才ぶりに圧倒された「若冲展」と続いたGW期間中の東西美術展巡り。その締めくくりとして、福島県立美術館で開催された「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち 」を鑑賞がてら、1カ月半ぶりに店を訪れました。

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Osteria-Gioie.jpg【Photo】移転前のダークグリーンの外壁とオレンジ色の扉から、黒を基調としたシックな外装に生まれ変わったファサードとエントランス(右)。 外扉を開けると、ワインボトルをかたどった内扉が出迎えてくれる(左)。 旧店舗より広くなった店内はカウンタ-席をセンターに配し、明るく開放的な雰囲気

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sugopo-modoro@gioie.jpg【Photo】昨年11月、旧店舗で食したランチコース「Degustazione 」のプリモピアット「自然放牧豚の自家製サルシッチャと自家製サンマルツァーノトマトソース・ペコリーノ風味リガトーニ」(上写真)の味に魅了され、帰り際に購入した「Sugo al pomodoro fresco con San Marzano フレッシュサンマルツァーノトマトのソース 我が家風」(左写真)。イタリアの家庭と同じく夏の収穫期にまとめて製造、瓶詰めする

 サンマルツァーノトマトの自家製ソースしかり、ラグーしかりの滋味あふれる味付けで、いつに変わらぬ身も心も満たされるコストパフォーマンスの高いランチコース「Degustazione デグスタッツィオーネ」(税込2,940円)を頂きました。

 会計を済ませたところに厨房から出ていらした梅田勝実シェフとご挨拶を交わし、5月25日に開催する生産者交流イベント「自由で自然な仲間のマルシェ ナチュラ・フクシマ」について教えていただいた折のこと。

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【Photo】(3月中旬から5月初旬にかけてのDegustazione コースより。左上から順に)イタリア種の黄色いニンジンポタージュ、アンティパスティ・ミスティ(奥州いわいどりレバーのブルスケッタ、プロシュット、白いんげん豆、赤ダイコンとヘーゼルナッツ、イタリア風卵焼き、カポナータ、ニンジンのマリネ)、熊本産アサリのポモドーロソース・レモンの香りスパゲティ(⇒ 絶品!)、ふるや農園自然放牧豚肩ロースのグリッア、ピスタチオのジェラート・ブラッドオレンジのソルベ、SIMONELLI で淹れるLAVAZZA

 横目でレジカウンターのガラスケースの中に鎮座する「トリュフ入りチョコレート(下写真)の存在を見逃さないトリュフ犬顔負けの庄イタなのでした。

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 シニョーラ梅田から「お味見にどうぞ」と渡されたトリュフチョコからは、庄イタの嗅覚細胞に深く染みついた特徴的な白トリュフに通じる芳香が包み越しに立ち昇ってきます。

 人間の五感において記憶の最も奥底に刻まれるのは嗅覚。ある香りを嗅いだ途端に、遠い過去のシーンが突如として蘇った経験をお持ちの方は、少なくないかと。

 めくるめく香りに誘われるように、5粒入りパッケージ(税込1,260円)を所望。その時イメージしたのは、定番のNebbiolo ネッビオーロ、それも極めつけの作り手との組み合わせ(下写真)

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 熟成によって現れる妖艶なトリュフ香が顕著なバローロを醸すのが、「Giuseppe Rinaldi ジュゼッペ・リナルディ」。

 獣医の資格を有する 5代目当主のBeppe ベッペことジュゼッペ・リナルディ氏は、地元バローロでは、郷土史家としても知られる舌鋒鋭いキャラの濃い人物。申請手続きをすれば容易に取得できるはずの認証機関による有機認定には全く無頓着。

 2人の娘との共同作業で祖父の代から受け継ぐ4カ所のブドウ畑8haから、土着品種の良さを認識させてくれる「Freisaフレイザ」、「Ruché ルケ」ほか、「Dolchettoドルチェット」、「Barberaバルベーラ」などの黒ブドウから年産平均3.8万本のヴィーノ・ロッソを生産します。

vini-rinaldi.jpg

 単一畑Le Coste レ・コステ産ネッビオーロ15%に、同Brunate ブルナーテ産のネッビオーロをブレンドする「Brunate ブルナーテ」、単一畑Cannubi San Lorenzo カンヌビ・サン・ロレンツォ, 同Ravera ラヴェーラ, レ・コステの3つを瓶詰め前にブレンドする「Tre tine トレ・ティーネ」のクリュ・バローロ2種が、生産量全体の半数を占めます。

 世に名高い名醸地を1980年代から2000年代初頭にかけて席巻したモダニズムの嵐など、5代目にとってはどこ吹く風。先人が培った伝統に敬意を払い、1カ月を要する一次発酵には足踏み破砕の名残りとなる上部開放式の木製樽「Tini ティーニ」を、発酵後の熟成には、ファシズム期に普及したクロアチア東部・Slavonija スラヴォニア地方産オーク材を使った2,000ℓクラスの大樽「Botte ボッテ」を用います。(下写真)

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no-barrique-no-bel.jpg 225ℓ 容量のオーク樽(通称 Barrique バリック)は、ワインとの接触面積が多い分、木質由来の甘いバニラ香がワインに反映され、土地や作り手の個性が薄れる側面も。よって近年では地元では「Fustoフスト」と呼ばれる500~600ℓ容量のオーク樽やボッテの良さが見直され、地域性と伝統への回帰が顕著となっています。

 なるほど熟成庫の壁には、親戚筋にあたるバローロ村の伝説的な作り手「Bartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロ」の先代が手書きした秀逸なマニフェスト「No Barrique No Berlusconi」(=反バリック樽, 反ベルルスコーニ)の有名なエチケッタ(ラベル)が掲げられています(右写真)

 バローロ5大クリュでは最北のLa Mora ラ・モーラ村は、優美で比較的早くからアプローチしやすいタイプのバローロとなります。深みのある偉大なバローロへと変貌してゆく単一畑ブルナーテで収穫されたブドウの発酵には、1世紀以上に渡って使われてきた栗材とオーク材を組み合わせた黒光りするひと際大きな専用樽を使用します。(上動画の1分20秒過ぎから登場)

 DOCGバローロに関しては、イタリアワイン法が規定する法定熟成期間36カ月を上回る樽熟42カ月が、ジュゼッペ・リナルディにおけるスタンダード。

 バローロ村の北東15kmと至近のピエモンテ州クーネオ県Alba アルバの街では、トリュフシーズンの秋に「Fiera Internazionale del Tartufo Bianco d'Alba(白トリュフ祭り)」が毎年開催され、黒トリュフでは到底代えがきかない魅惑的な香りに魅了された人々が世界中から集います。

CassaforteBIG.jpg

 アルバ市街地の北を流れるタナロ川を挟んで川向かいにあたるPiobesi d'Alba ピオベシ・ダルバには、グラッパの蒸留元として、またグラッパ入りチョコでも名高い「Sibona シボーナ」があります。

 そのグラッパとも相性が良かろうサマートリュフを練り込んだ正真正銘のトリュフチョコ製造元「TartufLanghe タルトゥフランゲ」もまた、ピオベシ・ダルバに製造所を構え、パスタやペースト類など、トリュフを使った加工食品を世に送り出してきました。

 タルトゥフランゲの自信作、フリーズドライ加工した夏トリュフ入りのトリュフホワイトチョコ「Dulcis Tuber Plalina con Tartufo(下写真)には、熟成してこそ真価を発揮するバローロではなく、早飲みが可能なDOCLanghe Nebbiolo ランゲ・ネッビオーロ2011」を合わせてみました。

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 醸造所の前に広がる3haのクリュ「ラヴェーラ」の樹齢が若いブドウを用いるDOC ランゲ・ネッビオーロは、大樽による熟成期間18カ月。平均年産はわずか5,500本。熱烈な信者が多いバローロよりも希少性は高いかもしれません。

 完璧な仕上がりとなった前年ほどではないにせよ、夏の猛暑と収穫期の好天で優良な2011年ヴィンテージは、ネッビオーロの特性といえる強靭なタンニンが意外なほどソフト。若飲みできるワインは、ともすると抜栓後のヘタリも早いのですが、大樽で時を重ねたヴィーノは、そんなことはありません。時間をかけて変化してゆくさまをじっくりと味わえます。

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 樹齢が高いネッビオーロ、特にバローロほどの高貴な複雑味はないにせよ、出汁がきいた旨味をたっぷりと堪能でき、エレガントな血筋の良さは十分に感じられます。インパクト重視でグイグイ押しまくるのではなく、ジ~ンワリ心に沁みる寄り添い型ヴィーノ・ロッソ。

 重量ベースでは0.3%の含有量ながら、芳醇で濃厚な香りが特徴の夏トリュフ(Tuber Aestivum Vitt.)がしっかりと存在感を示し、ピエモンテ産ヘーゼルナッツの風味が、かすかな塩味を伴ったホワイトチョコと相まって、予想通りランゲ・ネッビオーロ2011との良好なカップリングが成立します。

 国家財政は火の車で、公務員の仕事ぶりはいい加減でも、人生を謳歌する名人たるイタリア人の仕事って、何故にこうも味わい深いのでしょうね。

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logo_gioie.jpgOsteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ
 ・住:福島市鳥谷野字二ツ石12-3
 ・Phone:024-529-6656
 ・営:11:30-14:00 L.O. 18:30-20:30 L.O.
 ・水曜日・第二火曜日定休 Pあり カード可 禁煙
 ・URL:https://www.facebook.com/OsteriaDelleGioie/?fref=ts


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投稿者 vam : 02:50 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : Vino ヴィーノ/| カテゴリー : ・Pref.Fukushima 福島

2016/05/02

延長戦 三番勝負

Gli abbinamenti tre vini contro formaggio la Rossa
Formaggio CigliegioAtto さくらチーズ 第四幕


shiogamazakura2016.jpg

【Photo】種自体が国指定天然記念物に指定される「鹽竈桜(しおがまざくら)」。国府が置かれた多賀城の鬼門となる北東に位置する宮城県塩竈市「志波彦神社・鹽竈神社」。その境内には60本ほどの八重咲きのサトザクラの一種、鹽竈桜があり、うち27本が天然記念物に指定されている。ソメイヨシノに遅れること10日ほどで、30~50枚の花弁が手毬状に花開く見ごろを迎える。4月24日に催された今年の鹽竈神社花まつりにて

 桜前線の北上に合わせてお届けして参りました桜の香り漂うチーズに関する話題。加熱したモッツアレラチーズのように、伸ばしに伸ばしてきましたが、いよいよ今回が最終章となる第4 弾です。

 ピエモンテ州南部、リグーリア州にほど近いアルタ・ランゲ地方産の山羊乳チーズ「La Rossa ラ・ロッサ〈2016.4拙稿「Formaggio CigliegioAtto II 】 さくらチーズ 第二幕」参照〉と、Vini Bianchi との組み合わせ三番勝負で消費しきれなかった残り1/4は、熟成が一段と進んでいます。

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 そんな山羊乳チーズの特徴であるピリっとした風味が加わり、表面のオレンジ色が濃くなり、香りが一段と強くなって購入当初は感じられた桜葉の香りを覆い隠してきました。

 チーズに限らず日本で流通する加工食品には、食品衛生法で賞味期限の表示義務があります。その日付が迫りつつある状況ではありましたが、そもそも賞味期限とは、美味しく食することができる期日の目安にすぎません。

 多種多様な微生物や菌の活動によって熟成が進む(=風味が変化する)ナチュラルチーズは、加熱して菌が死滅するプロセスチーズとは違い、誤解を恐れずに言えば、食べ頃はあっても厳密な賞味期限など存在しないに等しい発酵食です。

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 日を追うごと濃厚さが増したLa Rossa から想起したワインの組み合わせは、フルボディのヴィーノ・ビアンコを筆頭格に、渋味として感じるタンニンが強くない赤ワインや濃密なデザートワインなど。 

 延長戦1本目は、「San Michele Appiano サン・ミケーレ・アッピアーノ」の最上級ライン「Sanct Valentin サンクト・ヴァレンティン」の辛口白ワイン全5種類の中でも、特に傑出した「Pinot Grigio ピノ・グリージオ2010」。(左写真)

 第三幕で最良の組み合わせだった「Graminè グラミーネ2013」と同じトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州の同じブドウ品種から作られており、比較の意味でキャスティングした次第。

 ロゼのような色合いのグラミーネは個性が際立つ演技派でしたが、オーストリアと国境を接し、ハプスブルグ帝国時代はオーストリアに併合されていたため、現在も優勢な独語表記ではSt.Michael-Eppan ザンクト・ミカエル・エッパンとなるサン・ミケーレ・アッピアーノは、いわば誰もが認める二枚目スター的なキャラ。ブドウ品種が同じでも、造り手によって個性が全く異なる見本のよう。

 アルト・アディジェ地方の中核となる街、ボルツァーノ周辺のブドウ生産農家350軒が組合員として加盟する協同組合組織に関しては、2013年6月に醸造家ハンス・テルツァー氏をお招きし、仙台で行われた試飲会レポートで詳報しています。〈2013.8拙稿「ビアンキスタ、面目躍如。」参照〉
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  試飲会で気に入って3本まとめ買いした時の印象から、キンキンには冷やさず、香りをたたせるため、あえて赤ワイン用の大ぶりなグラスを選びました。

 白の専門家〝Bianchista ビアンキスタ〟の異名を持つ醸造家が理想とするブドウの個性がピュアに伝わるボリューミーで密度の高い白ワインの世界観が、余すところなく表現されています。

 グラスからは熟れたマスクメロンやアップルマンゴーのゴージャスな香りが立ち上がってきます。フルボディでスモーキーなニュアンスがあるピノ・グリージオと、熟成が進んだLa Rossa との相性は、極めて申し分ありません。

 スケールの大きなサンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージオ2010ヴィンテージは、長熟に耐える白品種としてのピノ・グリージオの可能性を雄弁に物語る出来栄え。
 
 単体でもワインと対話するメディテーションも可能な素晴らしいヴィーノゆえ、ついスルスルとグラスが進みます。我に返って下した組み合わせ評定は、言わずもがなの★★★。

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 さらに熟成が進み、一段と風味が増してきたLa Rossa には、もはや赤ワインが似つかわしいように思えました。〝コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし〟とは、前回述べたアッビナメントの常道。

 そこで取り出したのが、アドリア海にほど近い中部イタリア・マルケ州アンコーナ県Morro d'Alba モッロ・ダルバ周辺だけで栽培されるブドウ品種「Lacrima Nera ラクリマ・ネラ」から醸したヴィーノ・ロッソ2本(左写真)。エチケッタをご覧の通り、作り手はいずれも「Marotti Campi マロッティ・カンピ」。

 共働学舎さくらとのアッビナメントでは、ラクリマを泡仕立てにしたスプマンテと組み合わせましたが、泡ものとの相性は今ひとつ。〈2016年3月拙稿「さくらの便りは北の国から」参照〉 捲土重来を期してラクリマのスティルワインに候補を絞り、アッビナメント延長戦第2ラウンドに臨みました。
LaRossa-lacrima2013.jpg

 完熟すると実割れしやすく、裂け目から果汁が滲み出すさまが、涙(伊語:Lacrima )に似ているため、ラクリマと名づけられたというこの品種。

 そのリスクが高まる9月下旬まで収穫を控え、最適なタイミングで手摘みしたブドウを2-3年落ちのフレンチバリック樽で12ヵ月熟成後、6ヵ月の瓶熟後にリリースされる一般に上級ラインを意味するSuperiore スーペリオーレ(上写真左側)という選択肢も手元にあるにはありました。
 
 La Rossa との相性を考慮し、最終的に選んだのは、「Lacrima di Morro d'Alba Rubico ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ・ルビコ2013」。

 こちらは、収穫したブドウの8割は通常のアルコール発酵を施しますが、2割を房のまま密閉したタンクで醗酵させる(イタリアの新酒ノヴェッロに用いる)炭酸ガス浸漬法で醸してから圧搾し、両者をブレンド後にステンレスタンクで6ヵ月、瓶熟2ヵ月の熟成を経て出荷されるカジュアルなタイプです。

 ピエモンテ州モンフェラート原産とされ、食事との汎用性が高い黒ブドウ「Dolcetto ドルチェット」と風味が似ているアロマティックな希少品種ラクリマ〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉。前回のスプマンテでは、★評価に留まったものの、相手を変えた二度目の桜チーズとのアッビナメント結果はいかに。

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 ヴィーノが樽を使っていない分、ストレートに感じられる品種の特徴であるバラの甘い香りが、刺激的なチーズの風味をマイルドに和らげてくれます。スプマンテでは阻害要因となった泡がない分、組み合わせの妙が生かされ、評定は及第点の★★。

 残りわずかとなったLa Rossa。延長戦の最後は、北イタリアのデザートワインで締めましょう。桜はバラ科の植物であることから、選んだのはバラの花を意味する「La Rosa ラ・ローザ2006」。

 ラ・ロッサにラ・ローザ。そう、単なるイタリア語の語呂合わせです(^ ^;ゞ。

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 La Rosa は、赤用に混醸されるケースが多い黒ブドウ「Molinaraモリナーラ」と、微発泡のMoscato d'Asti が第三幕1本目で登場した白ブドウ「Moscato モスカート」を収穫後、潜在アルコール度数が18度に達する12月まで陰干してから圧搾。年明けの春に瓶詰めされます。

 醸造所でブドウの陰干しを目の当たりにした2003vinを今年開けた「Vin San Giusto ヴィン・サン・ジュスト」のように、6年に及ぶ樽熟期間に60%まで凝縮する珠玉のデザートワインと比べれば、あっさりした仕上がりです。

 ガルダ湖の南東、アディジェ川流域の盆地に醸造所を構える「Cavalchina カヴァルキーナ」という作り手によるものです。

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 今年50 回目を迎えたイタリア最大のワイン見本市「Vinitaly ヴィニタリー」が毎年4月に開催されるヴェローナを擁するヴェネト州のD.O.Cゾーンでいえば、そこは同郷の「Soaveソアーヴェ」の名声に隠れがちな佳酒「Bianco di Custoza ビアンコ・ディ・クストーザ」や、軽やかな赤「Bardorinoバルドリーノ」を産出する地域です。

 凝縮したブドウを圧搾して得られる天然の甘味と綺麗な酸味が絡み合うこのデザートワインと、刺激的な風味の山羊乳チーズとの組み合わせには、美味しいものには目がないイタリア人もそうするように、媒介役となる蜂蜜を加えた方が良さそうでした。

 ラベルに「Sapore pungente accostalo ai formaggi (=刺激的なチーズの風味を和らげる)」と記されたトスカーナ産クリの花蜜Miele Castagno (上写真)を取り出しましたが、後味に苦味が残り、熟成した山羊乳チーズとの相性はよくありません。

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 そこで引っ張り出したのが、共働学舎さくらにも使った盛岡・藤原養蜂場の石割桜一番蜜。

 国指定天然記念物に指定される石割桜や、桜の名所として親しまれる盛岡城址に近いビルに設置した巣箱の蜜蜂が集めた花蜜はメープルシロップを煮詰めたような上品な風味で、心地よい甘い香りが広がります。

 チーズのコクはそのままに、鋭角的な刺激を蜂蜜が優しく包み込んでゆきます。そこに加わるLa Rosa の適度な甘味と酸味。
 
 チーズ、ヴィーノ(⇒桜はバラ科)、蜂蜜の全てが桜というキーワードでつながり、色合いまで揃って三位一体の調和を生み出します。

 「che Buono !♪ (=なんて美味いんだっ!♪)」と感嘆しつつ、庄イタが下した評定は、最高点に星半分オマケして★★★

石割桜2.jpg

【Photo】盛岡地方裁判所前庭の真っ二つに割れた周囲21mの花崗岩の裂け目からは、高さ10m・根回り4.3mの樹齢380年と推定されるエドヒガンザクラ「石割桜」が生えている。例年4月中旬に開花するが、過去40年で最速だった昨年と同じ4月8日に今年は開花した。国指定天然記念物

 お届けして参りました桜にちなんだチーズとヴィーノのアッビナメント劇場全4幕。こうして大団円を迎えたのでした。 

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投稿者 vam : 01:35 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : Vino ヴィーノ

2016/04/21

いざ、紅白三番勝負。

Gli abbinamenti tre vini bianchi contro formaggio la Rossa.
Formaggio Cigliegio Atto さくらチーズ 第三幕


vino_rosso_Sanitatis.jpg 日々の食卓を豊かにする佳酒があれば、それで良しとする〝ノムリエ〟の庄イタが、尊敬の念を抱く職業のひとつがソムリエです。

【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地奥にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた赤ワインの効能に関する挿絵

 広範な知識に基づく的確な助言、サーヴ時に最良の状態を引き出す温度管理、ヴィンテージごとにピークが異なるワインの秘めたる香りを開かせる抜栓のタイミング...。

 改まった雰囲気のレストランで現場経験を積んだプロフェッショナルならではのサービスと、深いワインへの愛情とその美点を引き立たせようというという情熱、一期一会の時間を提供しようという心遣いを感じる接客。そんな立ち振る舞いには感心するばかり。

Degustazione-del-vino.jpg ソムリエが首から下げるTastevin タストヴァン(左写真)は銀製が正式とされ、これは権謀術策渦巻く中世ヨーロッパにおいて、ヒ素による毒殺を未然に防ぐための名残りだといいます。
 
 かたや一介のノムリエにすぎない庄イタは、山梨・勝沼産ワインを好きなだけ飲み比べできる「ぶどうの丘」をかつて訪れた際、試飲用に購入する〝なんちゃってタストヴァン〟(代金1,100円。持ち帰り可)しか持ち合わせておりません(^0^;。

 ソムリエ教則本的には、チーズに限らず食事とワインのabbinamento アッビナメント(=組み合わせ、マリアージュ)には、いくつかの法則が存在します。

 一般論として、(白身肉には白ワイン、赤身には赤ワインといった風に)食材とワインの色合いを合わせるべし。それぞれの産地を合わせるべし。コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし。チーズとの組み合わせに迷ったら、とりあえず赤ワインを合わせてみるべし。

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【Photo】スローフード協会が主体となってお膝元のピエモンテ州クーネオ県ブラで開催するチーズの祭典「CHEESE」で用意されるプログラムのひとつMaster of Food 。フレッシュ・硬質・スモークなどタイプの異なるチーズとワインとの相性に関するレクチャー

 こうした基本を踏まえた正攻法では、塩気のある食べごたえがある青カビ系には同じ産地のしっかりとした赤がピッタリ。(例:熟成した北イタリア産Gorgonzola piccante ゴルゴンゾーラ・ピカンテ(下写真)には、北イタリアのAmarone アマローネまたはBarbaresco バルバレスコ。南仏のRoquefort ロックフォールならばChaor カオールないしはBordeaux ボルドー)

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 ブルーチーズとの組み合わせの変則技として、コクがある芳醇な甘口デザートワイン(例:Recioto di Soave レチョート・ディ・ソアーヴェ、Passito di Pantelleria パッシート・ディ・パンテッレリーア、 Vin santo ヴィンサントなど)を合わせると、塩味が穏やかに中和され、見事な調和を生み出します。

 ワインとチーズに限らず、漬物と日本酒といった発酵食品同士の組み合わせは、基本的に相性が良い場合が多いもの。最良のカップリングがなされた時は、互いを高めあう素晴らしい出合いとなることでしょう。

marco-bartori@tsukushi.jpg

【Photo】シチリア沖の孤島パンテッレリーア島産デザートワイン。2014年、栽培法が世界無形文化遺産に登録された地面を這うような形状に仕立てたブドウ「Zibibbo ジビッボ(別名:Moscato di Alessandria モスカート・ディ・アレッサンドリア)」を収穫後、8月の日差しのもとで乾燥。凝縮した甘味の雫を堪能できるPassito di Pantelleria BUKKURAM Sole d'Agosto パッシート・ディ・パンテッレリーア・ブックラム・ソーレ・ディ・アゴスト2012(右) 酒精強化のマルサラ酒に用いる品種「Grilloグリッロ」をアルコール発酵後50hℓの樽で20年以上熟成させたVecchio Samperi Ventennale ヴェッキオ・サンペーリ・ヴェンテンナーレは、複雑な辛口(左)。いずれもチーズとの相性が良い ※ ロケ地:「土筆

 さくらの季節に連作で取り上げている「La Rossa ラ・ロッサ」は、山羊乳を使ったチーズ。一般的に山羊乳のチーズは、山羊乳由来の個性的な風味があります。組み合わせるワインは、爽やかな酸味を感じる若いうちは青草のニュアンスが好相性であろう「Sauvignon Blanc ソーヴィニョンブラン」を。シャープで濃密なコクが加わる熟成した山羊乳チーズには、カリンやナッツの風味がある「Fiano フィアーノ」など、ボディがある白やタンニンが強すぎない軽めの赤でもOK。

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 このイタリア版さくらチーズを購入したばかりの頃は、桜葉の甘い香りが山羊乳の酸味を和らげ、ベースとなったクセの少ない「Robiola ロビオラ」のフレッシュタイプに桜の香りが乗っている印象でした。

moscato2014-vajra.jpg La Rossa の熟成度合いに合わせて抜栓するヴィーノ(上写真)を思い浮かべた上で、第1ラウンドにお出まし願ったのが、「Giuseppe Domenico Vajra G.D.ヴァイラ」のD.O.C.G.Moscato d'Asti モスカート・ダスティ2014」。

 ピエモンテ州きっての名醸地Barolo バローロにおいても、屈指の好条件に恵まれた畑を所有する作り手による爽やかな微発泡性のヴィーノ・ビアンコです。

 前回、プロフィールをご紹介したLa Rossa はピエモンテ州ランゲ丘陵南部アルタ・ランガ地方産のチーズ。ゆえに〝産地を合わせるべし〟という鉄則に沿った選択ですね。

 ワインに関する嗜好が庄イタとほぼ合致するオンラインショップ「にしのよしたか」を運営する西野嘉高氏が店主を務める大阪市生野区の観光名所になっている生野コリアタウンにほど近い「西野酒店」を訪れて購入したうちの1本です。

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 10℃~12℃が飲用適温であること、そして果物との組み合わせほか、全卵+卵黄に砂糖とモスカート・ダスティを加えて撹拌したカスタードクリーム状のZabaione ザバイオーネ、ヘーゼルナッツのタルトといったピエモンテの郷土菓子が、推奨するアッビナメントとして、バックラベルに記載されます(上写真)

DSCF7626.jpg マスカットの豊かなアロマが香るモスカート・ビアンコ種は、庄イタが愛好する白ブドウ品種のひとつ。アルコール度数が6%程度に達した時点で発酵を止め、微発泡性に仕立てるモスカート・ダスティの産地ピエモンテ州アスティからアルバにかけての地域では、ロビオラに合わせることが少なくありません。

 バローロの作り手として高い評価を受けるG.D.ヴァイラの現当主、アルド・ヴァイラ氏は、1881年に創設された「La Scuola Enologica di Alba アルバ醸造学校」で1985年まで教鞭をとっていた知性派。

 微発泡ゆえのヴェルヴェットのごとき口当たりと、心地よいモスカートの甘い香りが、La Rossaの塩味を包み隠してくれます。比較的あっさりした若めのRobiola ロビオーラのトロ~っとした食感と、ほのかに香る桜の香りとの相性は★★判定。

tag-longaliva.jpg 第2ラウンドは、共働学舎の「さくら」とドンピシャのアッビナメントとなったPasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラの「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」を購入した青葉区広瀬町のワインショップ「Wine Store ぶどうの木」オーナー・ソムリエの奥山和茂さんセレクトによる個性派の出番。
 
 山羊乳100%チーズながら、酸味を打ち消す桜の香りが漂うLa Rossa の特徴をお伝えすると、トレント自治県にある醸造所「Longariva ロンガリーヴァ」のIGT(=典型的地域表示付)クラスの「Graminè グラミーネ2013」を奥山さんから推奨いただきました。

 Longariva は、ロミオとジュリエットの街ヴェローナから、オーストリア国境のブレンナー峠を目指して高速A22を北上したラガリーナ渓谷に位置する街、ロヴェレートでマルコとロザンナのマニカ夫妻が1976年に創業した醸造所です。

Vallagarina-torentino.jpg

【Photo】ドロミテの山並みが北方に迫り、背後にはイタリア最大の湖沼ガルダ湖が控えるトレンティーノ地方。オーストリアと国境を接するトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州は秀逸な白ワインの産地。アディジェ川沿いから急峻な岩山に続く傾斜地に、この地域伝統のブドウ棚「pergola ペルゴーラ」(=パーゴラ)で白ブドウが栽培される

 Graminè は、イタリア語と併用される公用語ドイツ語が優勢なアルト・アディジェ地方では、ドイツ語表記で「Ruländerルーレンダー」となる白ブドウ品種「Pinot Grigio ピノ・グリージョ」100%のヴィーノ。
gramine-longariva.jpg

 ロゼに近い透き通った独特の色合いは、破砕したブドウ果汁の醸しの段階で、品種名の由来となったグレー(伊語:Grigioがかった淡い赤銅色の果皮とのマセレーション(=醸し発酵)を時間をかけて行うため。

 グラスから立ち上がる完熟した白桃や上品な花の香りから察する予想に反して味わいはドライ。品種の特徴である分厚いボディを備えており、飲み応えもあります。

 角が取れた酸味にしろ、コクとして認識される土壌由来のミネラリーさにしろ、突出した要素がなく、飲み口はあくまでも滑らか。アフターに心地よい余韻が長く残ります。「う~む、これは印象的」

 同郷で組み合わせるセオリーからすれば、ピエモンテとトレンティーノの距離は決して近くはありませんが、気候的には同じ冷涼な北イタリア。次第に山羊乳ならではのコクが増してきたLa Rossaとの組み合わせはバランス良好。カップリングとしては期待を上回る最上ランク★★★を献上です。

 耳障りの良い〝自然派〟なるキーワードを掲げ、日本のワインマーケットを席巻してゆく状況に率直な疑問を呈した(2008年11月拙稿「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話」参照) 経緯がある庄イタ。個性的な風味のワインを数多く取り揃える某インポーターが取り扱うだけに、いささか構えて開けたのですが、これは〝当たり〟でした。

giacosa-arneis06.jpg 第3ラウンドは、ピエモンテ州クーネオ県ネイヴェに醸造所を構え、地元では誰もが偉大な作り手として尊敬する「Bruno Giacosa ブルーノ・ジャコーザ」が復活させた白品種「Arneis アルネイス」100%のD.O.C.G.Roero Arneis ロエロ・アルネイス2006」。

 作り手の見極めと品質管理において信頼できるインポーター「AVICO アビコ」社が輸入したピエモンテの優良ヴィンテージ2006年を指名買いしたものです。

〝産地を訪れたヴィンテージを確保すべし〟とは、庄イタが自らに課している鉄則。

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【Photo】早熟なアルネイスの収穫はとうに終え、黒ブドウのバルベーラや収穫期を迎えたネッビオーロなどのブドウの葉が色づいた2006年10月末のロエロ。1杯のグラスを通して、10年前に訪れたこのブドウ畑へとタイムスリップできるのもワインの愉しみ

 熟成が進み、一段とコクが増したLa Rossa の塩気を、硬質なミネラル感と、時間を置いて温度が上がり始めてから開いてくる完熟リンゴや清楚な花のニュアンス、後味として残る嫌みのない苦味が和らげてくれます。

 率直な感想としては、アンティパストからオイル系パスタ、そしてグリルした鳥や豚肉といった料理と合わせたいワイン。抜栓直後は★★かと思った相性は、次第にボディの厚みと複雑味を増した最終ジャッジでは、★半分を積み増して★★+判定。

antipastimisti-gioie2016.3.jpg

【Photo】ロエロ・アルネイスの規範とされるジャコーザにふさわしいのは、例えばこんな美味しいアンティパスト。 (奥から順に) 鶏白レバーのブルスケッタ、福島県郡山市田村町ふるや農園の放牧豚プロシュット、トスカーナ風インサラータ、春キャベツのピューレ、イタリア風卵焼き、紅白ダイコンのピクルス、カポナータ ※ロケ地:福島市 「 オステリア・デッレ・ジョイエ

 山羊乳チーズとの相性が良いとされるVini Bianchi(=白ワインの複数形)と、La Rossa(=赤)とのアッビナメント紅白三番勝負の模様を今回はお届けしました。

 三番勝負を終えた時点で、まだ1/4が残っていたLa Rossa は、山羊乳らしいワイルドな風味が増す一方、桜の香りは風前の灯となり、購入直後とは別物へと変貌してきました。時間無制限アッビナメント延長戦の実況中継は、また次回。

to be continued...


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投稿者 vam : 01:34 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : Vino ヴィーノ

2016/04/09

Formaggio Cigliegio Atto II さくらチーズ 第二幕


Robiola di capra in foglia Cigliegio


 前回は北海道から一足早い桜の便りとなるチーズ、共働学舎「さくら」を取り上げました。盛岡では早くも石割桜が開花。過去40年で最速だった去年と同じペースで桜前線が北東北に到達し、仙台で満開宣言が出された今回は第二幕。

 西ヨーロッパ各地にチーズ作りを広めた古代ローマ以前に起源を持つイタリア版さくらチーズの話題をお届けします。

formaggi-Taccuino_Sanitatis.jpg【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地を入った先にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた中世のチーズ作りの様子

 仙台市泉区「グリーンマート桂店」のチーズ売り場には、数こそ多くはありませんが、時として希少な輸入チーズがお目見えします。

 先日、そこを物色していて目に留まったのが、さくらと同じような小さな円筒形をしたチーズを濃緑色の葉で包み、赤い紐で縛った「La Rossa ラ・ロッサ」。

 「ムムッ、チーズのこんなパッケージングには見覚えがあるぞっ!

Ciliegia_Cerise2.jpg それもそのはず。La Rossa(下写真 / 税込1,975円)は、美味の宝庫である我が郷里ピエモンテ州南部、Alta Langa アルタ・ランガ地方産なのでした。

 それは牛・羊・山羊のいずれかの乳を用いる小ぶりなチーズを指す「Robiola ロビオーラ」の中でも、最も数が少ない山羊乳100%のチーズを、ピエモンテに自生する桜の葉を塩蔵し、包み込んだ変わり種です。

【Photo】「Tacuina sanitatis 」に収録の14世紀イタリアにおけるサクランボ狩りの模様

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 2006年(平成18)に製品化された当初は日本から空輸した桜の葉を使用していたというLa Rossa。日伊合作によるこのチーズが誕生する契機を作ったのが、ナチュラルチーズの輸入販売会社「フェルミエ」代表で、欧州各地のチーズに関する多くの著作がある本間るみ子さん。

formaggi-italiani-RHomma.jpg ヨーロッパのナチュラルチーズに魅了された本間さんがフェルミエ社を立ち上げたのが、ちょうど30年前。設立当初チーズは絶対にフランスに限ると考えていた本間さんが、イタリアのチーズの奥深い魅力に開眼したのは、彼の地を訪れるようになってからだといいます。

【Photo】作り手に会うため訪れたイタリア全土から、バリエーション豊かな19 のチーズを紹介する本間るみさんの著作「チーズで巡るイタリアの旅」〈駿台曜曜社1999年刊〉。 ランゲ丘陵や山岳地域を中心に伝統製法によるチーズが数多いピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ自治州には、冒頭の1章を割り当て、写真入りで5つのチーズを紹介。かぐわしい香りが届くような内容で旅情をかきたてられる

 正式な名前がないマンマの味的な自家製を含めると、イタリア全土に存在するチーズの数を正確に把握するなど、どだい無理な話。個性派揃いのチーズに限らず、製法や道具に対して画一的な衛生基準を求め、域内の市場拡大を狙ったEU 統合には功罪両面があり、本来の製法、つまるところ本物の味が失われていった側面も。

mappa-formaggi-DOP.jpg

 農産・畜産・海産物の生産・加工・調整の全工程が、特定の地域内で規定に沿って行われなければならないD.O.P (保護指定原産地表示)や、工程のいずれかが該当すれば認定を受けられるI.G.P (保護指定地域表示)に認定される50種近いFormaggi (チーズの複数形)が各地に存在しています(上写真)

IGP-logo.jpgDOP-logo.jpg 食に対する飽くなき情熱にかけては目を見張るものがあるイタリアは、製法や産地などに関してEU が定める厳格な規定をクリアした製品が最も多いお国柄。
 
【Photo】D.O.P (左)I.G.P (右)認定マーク

 フレンチレストランがそうであるように、食事の締めくくりに(飲み残した)ワインとともにチーズを食するのがフランス。イタリアでもそうした食ベ方をしますが、むしろ(魚介系を除く)料理の素材としてチーズが活用されることが多いように思います。

 パスタ料理にブロックごとすりおろすハードチーズはいわずもがな。たとえば北部のリゾットやポレンタの味付けのほか、パンとともに食するフォンデュータ、中部ならばピアディーナやカルボナーラ、そして南部ではナポリピッツァやインサラータ・カプレーゼと、枚挙に暇(いとま)がありません。

gianni_paula_lorena.jpg【Photo】ジャンニ(中央)とパオラ(右)の娘ロレーナ(左)、息子のフランチェスコほか、9名のスタッフで運営されるCORA Formaggi で生産する多彩なチーズの一例

 リグーリア州との境界が5kmほど南に迫るピエモンテ州南部、小高い山々と丘陵地帯が広がるアルタ・ランガ地方の小さな村Monesiglio モネジーリオにLa Rossa の作り手であるCORA Formaggi 社はあります。この地域の女性たちは、自家用や地元消費用に山羊乳のチーズを何世代にもわたって作ってきました。

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【Photo】イタリアの食とワインに関して最も影響力がある出版社「ガンベロ・ロッソ」が、その味がIndimenticabile (=忘れられない)で、最も美味しい山羊乳で作るロビオーラチーズだというお墨付きを与えたのが、CORA Formaggiの「Robiola del Castello ロビオーラ・デル・カステッロ」。2014年からは原料のミルクは、全て自社の飼育場「La Cravette」で生産。飼育場を支えるスタッフとコーラ夫妻

 ともにアルタ・ランガ地方で生まれ育ち、1985年に若くして結ばれたジャンニ・コーラとパオラ・フラッキア夫妻。二人が趣味で自宅用に手作りしていたチーズの本格的な製造に乗り出したのが1998年。近隣の生産者から牛乳や羊乳を仕入れるほか、2014年には自前の飼育施設「La Cravette ラ・クラヴェッテ」でヤギ300頭の自家飼いを開始。以前にも増して搾乳したての新鮮なミルクの調達が可能となりました。

SF0147630.jpg【Photo】スローフード運動発祥の地、ピエモンテ州ブラで隔年開催される乳製品の多様性に触れることができる国際イベント「Cheese 」には、このCastagno (=クリ)の葉で包み込んだチーズ「Castagneto」のような小規模な生産者による多種多様なチーズが一堂に会する

 燻製のほか、塩水や蒸留酒に浸したイチジク・クリ・ブドウ・クルミなどの葉で包み込んだり、さまざまなハーブ、干し草、トリュフ、殺菌効果がある灰、ワインの醸造過程の副産物である発酵したブドウ果皮などで表面を覆うことで、風味付けや保存性を高めた個性豊かなチーズは、イタリアやフランスを中心に欧州各国に多数存在します。

 La Rossa の原型となるチーズ「Robiolaロビオラ」は山羊乳製。古代ローマ以前の先住民族ケルト人まで歴史が遡る「Robiola Di Roccaverano ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」は、ロンバルディア州ヴァレーゼ県の山岳地域で作られる「Formaggella del Luinese フォルマッジェラ・デル・ルイネーゼ」と並び、D.O.P 認定チーズでは数少ない山羊乳チーズとなります。

SF0149356.jpg【Photo】ピエモンテ州アスティ県Roccaverano からクーネオ県にかけての丘陵地帯がD.O.P エリアとなるチーズ「ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」。50%以上の山羊乳の使用が義務付けられており、季節によっては牛乳と羊乳の混入が規定上では可能。新鮮なうちは寄せ豆腐のような外観だが、熟成が進むと黄色から赤っぽく変化。味わいもまた変わる

 ジャンニとパオラは、製法を受け継ぐ農家を訪ね歩いたり、文献を通してチーズ作りの技術を磨きました。彼らが使用するのは、2月から11月にかけての最も風味がよい山羊の乳。

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【Photo】CORA Formaggi の原料乳生産を担う「La Cravette ラ・クラヴェッテ」で飼育するヤギの中で頭数が最も多いのは、原産地であるスイスの地域名に由来する「Saanen ザーネン種」

 ピエモンテ伝統の葉包みチーズですが、加工に適した葉を確保し、殺菌してから一個ずつ手で包み込む手間がかかるため、近年ではあまり見られなくなりました。

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【Photo】La Cravetteではスイスアルプス地域原産のヤギ「Camosciate delle Alpi カモシアーテ・デッレ・アルペ種」も飼育する

 スローフード協会では、本部があるピエモンテ州Bra ブラを会場に、チーズと乳製品の祭典、その名もズバリ「Cheese チーズ」を1997年から隔年で開催しています。昨年9月のCheese 2015には、3日間の会期中に世界中から27万人が参加するブラを挙げての一大イベントに成長しています。

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【Photo】 目移りするほどのチーズをはじめとする伝統食材が勢ぞろいしたCheese 2015。トスカーナ州南部ピエンツァ近郊で作られる「Pecorino ペコリーノ」を、クルミの葉を敷き詰めたテラコッタ製の壷で追熟させた「Riserva Foglia Noce リセルヴァ・フォーリア・ノーチェ」ほか、羊乳チーズがてんこ盛り

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 伝統を重んじ、品質向上のための労を惜しまないCORA Formaggi は、2013年に開催されたCheese2013で、地域性豊かな秀れた作り手が対象となる「Locale del buon formaggio」に選出されています。

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【Photo】 レンネット(凝乳酵素)を加えた山羊乳の成型作業を行うパオラさん

 フェルミエ社の本間さんが、Cheese 2003 を視察した足で、当時すでに取引があったCORA Formaggi の工房を訪れたのが、2003年9月末のこと。

 そこにはチーズを包む目的でグラッパに漬け込まれたさまざまな木の葉がありました。CORA Formaggi では、木の葉で熟成・風味付けする伝統的な製法によるチーズ作りの合間に、野山から葉を集め、洗浄してからグラッパで殺菌する作業を自前で行っていました。

 ジャンニとパオラは、桜・笹・柏・柿などの葉を和菓子や寿司に取り入れる文化が日本で培われてきたことを本間さんから教わります。
 
foglia_ciliegia.jpg

【Photo】近隣の野山に自生する西洋サクランボの木から採取した桜葉は、水で洗浄してから塩蔵。La Rossa のためだけに使われる

 そこでイタリアに自生する「Ciliegia(西洋サクランボ)」の葉を塩蔵して山羊乳チーズと組み合わせてはどうか、という話の展開から、伝統を踏まえた新たなチーズ作りに向けた挑戦が始まります。

 脂肪酸が多い山羊乳のチーズは、フランスの「Chèvre シェーヴル」、イタリアの「Caprino カプリーノ」、スイスの「Ziegenkäseツィーゲンケーゼ」など、タイプは多様。程度の違いはありますが、酸味を感じるのが一般的。

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 試行錯誤の末に出来上がった試作品は、桜葉の甘い香りが素材由来の酸味を和らげ、桜餅(上写真は青葉区北目町「村上屋餅店」謹製)を彷彿とさせる香りがかすかに漂う上々の出来栄えでした。

 2年目からは桜餅のように葉ごと食べることができるよう、西洋サクランボの葉よりも芳香性が強い日本のオオシマザクラの葉を空輸。チーズの中に刻んだ葉を含ませることで、より桜のニュアンスが強く出た仕上がりとなりました。2013年からは再びピエモンテの桜葉を使用しています。

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【Photo】日伊合作によるCORA Formaggi 社のLa Rossa。直径10cm×高さ4cmほどの山羊乳100%のロビオラを、自ら集めた地元の桜葉で一つずつ包み込み、10日から15日の熟成を経て出荷される。賞味期間は45日

 La Rossa は、山羊乳チーズの常で日を追うごとに風味が変化するため、まずはフレッシュなうちに御開帳。イタリアの桜葉は、日本のそれとは違って硬く食用には不向き。うっすらと赤っぽい外皮に覆われた白いロビオラの中身は、とろ~りクリーミーな食感。

 繊細なヤマトナデシコのような共働学舎の「さくら」と比較すると、塩味が強く、山羊乳チーズらしい酸味は感じません。しっかりしたミルクの風味の余韻に桜の残り香が重なります。

la-rossa-abbinamento.jpg

 クセがない優しい味わいの牛乳製のさくらとはタイプを変えて試みたヴィーノとLa Rossa のアッビナメント(上写真)に関しては、長くなるので【 Atto】第三幕にて。

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投稿者 vam : 01:25 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城

2016/03/20

さくらの便りは北の国から

桜が香る〝春待ちチーズ〟共働学舎「さくら」
× バラ香るロゼ・スプマンテ+α


 仙台市街地中心部を南北に貫く東二番町通りを挟んで、仙台市役所の筋向かいが青葉区役所。その裏手にチーズ専門店「Fromagerie & Café Au Bons Ferments オー・ボン・フェルマン(下写真)はあります。

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 Viaggio al Mondo では、「Sale dolce サーレ・ドルチェ(=甘い塩)」と称されるエミリア・ロマーニャ州チェルヴィアの天日塩を取り上げた折〈2008.7 拙稿「こっちの塩は甘いぞ」参照〉と、ソメイヨシノが開花した直後、仙台では最も遅い積雪記録となった降雪について記した「桜と名残り雪」でご紹介しました。〈2010.4 拙稿「桜と名残り雪」参照〉

 花便りで驚いたのが、仙台市宮城野区の榴岡天満宮で、昨年12月25日に梅が開花したこと。天満宮によれば、ここ数年、梅の開花は2月下旬から3月上旬だったといいます。極端な暖冬が自然の営みにも影響していたのですね。

Au_Bons_Ferments2.jpg【Photo】国内外のさまざまなタイプのチーズを取り揃えたある日のオー・ボン・フェルマン。フランスチーズ鑑評騎士のショップオーナー足立武彦さんは、シニアワインアドバイザーの資格も有し、店内でワインとチーズの組み合わせを体感できる催しを定期的に実施している

 そんな暖冬傾向が一変したのが、年が改まった1月中旬から。連日寒い日が続いた仙台では、梅の見頃が続いています。そんな春まだ浅い3月。スギ花粉症の方にとっては、ありがたくない花粉前線も東北まで北上。咽喉や目鼻の不快感に苛まれるじっと我慢の季節が今年もやって参りました。

 三寒四温を繰り返し、やがて寒さに震える季節が終わります。ウグイスの初鳴きを観測した仙台でも週後半からは寒さが緩み、春近しを感じる陽気となりました。日本気象協会による桜の開花予想では、総じて昨年に続き、今年も早咲きのようです。

kobai-hakubai.jpg【Photo】接ぎ木されて一株となった早咲きの紅梅と、遅咲きの白梅とが凍える寒さの中で咲き揃う。オー・ボン・フェルマンからほど近い勾当台公園の一角で見つけた小さな春の足音(2016.3.12 撮影)

 イタリアかぶれの庄イタをしても、ニッポンに生を受けて良かったと思うのが、間もなく訪れる桜の季節。うららかな陽気のもとで愛でるソメイヨシノは、こと長い冬を越す東北の地においては、春を迎えた喜びの象徴にほかなりません。

 冬から春への境となる春分の日は、昭和23年に施行された「国民の祝日に関する法律」では〝自然をたたえ、生物をいつくしむ〟日と定義されています。

 昼と夜の長さが同じになる春分の日は、年によって日が変わります。今年は本日3月20日で、日曜日と重なるため、翌日が振替休日となります。連休で得をした気分になるのは、やはり精神構造がイタリア人ゆえでしょうか。

hitome-senbon2015.jpg【Photo】1922年(大正12)に植樹されたソメイヨシノやシロヤマザクラなど、1,200本ほどの桜並木が見られる「一目千本桜」。阿武隈川の支流・白石川沿いに8kmにわたって続く宮城県南きっての桜の名所。父親が小さな男の子を乗せた車を曳く姿がほほえましい親子を見守る満開の桜(2014.4.12 撮影)

sakura_logo2.jpg カトリック国のイタリアでは、キリストの生誕を祝う「Nataleナターレ(クリスマス)」と同様、主の復活を祝う「Pasquaパスクア(復活祭)」は、重要な意味を持つ祝日。敬虔なキリスト教徒にとっては、すべからく万人に訪れる誕生より以上に十字架からの復活は、意味深い奇蹟と考えられるわけですね。

 春分の日を過ぎた最初の満月の夜が明けた日曜日がパスクアと定められており、春分の日と同じ移動祝日で、今年は3月27日。月の満ち欠けの関係から、来年は4月16日がパスクアと、振れ幅が大きい祝日でもあります。

 啓蟄を過ぎ、風ぬるむ季節の訪れを待ち焦がれる今の時季、毎年いち早く春の息吹を届けてくれるのが、ほんのりと桜の香りがするチーズ「さくら(下写真)

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 繊細な日本人の感性が生んだこのチーズは、北海道上川郡新得町の農事組合法人「共働学舎新得農場」で生産されます。1月初旬から、桜の季節が終わる5月下旬にかけての季節商品となります。

 十勝平野の最北部に拓かれた共働学舎新得農場には、自閉症や引きこもりなど、心身にハンディを抱え、一般社会に居場所を見つけられない人々が集います。そこでは日々の糧を生み出す家畜とともに、自然の摂理に沿った農作業を行うおよそ70名が、自給自足による共同生活を送っています。

 林業とソバ栽培が盛んな新得町にあって、西に日高山脈、北に大雪連峰を望む総面積70haほどの南東向き斜面に拓かれた新得農場では、有機農法による野菜・そば栽培なども行いますが、生産活動の主力は酪農。

 付加価値が高いチーズ生産ほか、ブラウンスイス種の肉牛・ホエー豚などの飼育に取り組んでいます。現在はブラウンスイス85頭とホルスタイン10頭から、朝夕2回の搾乳が行われます。

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【Photo】広大な十勝平野の北部、新得町は昼夜の寒暖差を生かしたそば栽培に適している。約6,300人の人口に対して、飼育される牛の頭数は33,000以上!!

nozomu_miyajima_libro.jpg 開設以来、農場主を務めるのは宮嶋 望氏(65)。米国内でチーズ生産量が最も多いウィスコンシン州にある農場「Vogel Farm 」での2年間の実地研修後、酪農学を専攻したウィスコンシン大学マディソン校を卒業。1978年(昭和53)に入植しました。

 6頭の乳牛からスタートし、翌年モッツァレラから着手したチーズ作りは、1984年(昭和59)に本格稼働。お手本となったのは、酪農やチーズ生産に関して工業化が進んだ米国ではなく、地域の伝統に培われた欧州各地のチーズ作りでした。

【Photo】共働学舎の理念を記した宮嶋氏の最新刊「いらない人間なんていない」(いのちのことば社2014/6刊)

 1998年(平成10)、79点が出品した「第1回 ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」(主催:中央酪農会議において「ラクレット」が最高賞を受賞。2004年(平成16)には、スイス・フランス・イタリア3ヵ国で構成する「Caseus Montanus (山のチーズ委員会)」主催の「山のチーズオリンピック」ソフトチーズ部門で、さくらが金賞に輝きます。

 共働学舎新得農場は、競争社会からドロップアウトした人々が集い、生きがいを感じる仕事を通して、自分の居場所と、もう一人の自分を見いだす場でもあります。そのありようは、色も形も異なる花たちが、共働学舎という一本の木に、それぞれのペースで花開いてゆくかのよう。そんな作り手たちの姿と、さくらとが、重なります。

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【Photo】半地下の床下に炭を敷き詰め、札幌軟石を積み上げた共働学舎新得農場のチーズ熟成庫。成形した凝乳の塊を塩水に浸し、熟成庫に移して後も、時おり塩水を染み込ませた晒(さらし)で磨きながら寝かせること3ヵ月。スイスでは表面を溶かしてジャガイモに塗って食するセミハードチーズ「ラクレット」が完成する

 トッピングされた一輪のエゾヤマザクラは、ヨーロッパの人々に日の丸を連想させ、エキゾチックな桜のフレーバーが、遠い日本を想起させるのでしょう。さくらは、国内はもとよりチーズの本場ヨーロッパで催される各種コンテストで、数々の受賞歴を積み重ねてきました。

 春先限定のさくらは、表皮までホロホロとした淡雪のようにしっとり柔らかな食感。桜餅に通じる和の香りに牛乳の甘さ、薄味の塩気、そしてヤギ乳から作るシェーブルチーズに似たほのかな酸味が加わります。出荷までの熟成期間を10日程度に留め、繊細な風味を残しています。

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 全体を覆う白い粉は、味噌の仕込みで用いる酵母「ジオトリカム・カンディダム」によるもの。カビではなく、この酵母を用いる製法で作られる共働学舎のチーズが、「プチ・プレジール」(上写真)

 プチ・プレジールを桜葉で香り付けし、熟成が進み過ぎない段階で一輪のヤマザクラを添えたソフトタイプのチーズが、さくらです(下写真)

 さくらのベースとなるPetit plaisir の意味は、フランス語で「小さな喜び」。さくらには、冬のモノクローム世界から芽吹きの季節を迎える今の時季に似つかわしい、ほんのり桜色のロゼがイメージ的にぴったりです。

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 今シーズン初のさくらは、共働学舎の各種チーズを取り扱うオー・ボン・フェルマンで例年通り購入。アドリア海に面したイタリア中部マルケ州のごく限られた地域だけで栽培されるブドウ「Lacrima ラクリマ」から醸したスプマンテを合わせてみました。

 ラクリマは、顕著なバラの香りが特徴となるアロマティックなブドウです。桜はバラ科の植物。バラの香りとの親和性は高いだろうという読みでした。ただ、果皮に割れが生じやすく、収穫時期の見極めが難しいため、栽培が難しい品種とされます。〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉

 素晴らしいDOCG 白ワイン「Verdicchio dei Castelli di Jesi Riserva ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージ・リセルヴァ」 の造り手である「Marotti Campi マロッティ・カンピ」は、通常DOC 赤ワイン「Lacrima di Morro d'Alba ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ」を醸すこのブドウを、アロマ感を活かすシャルマ方式(密閉タンク方式)で、発泡性のある辛口スプマンテに仕上げました。

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【Photo】イタリア中部マルケ州アンコーナ県のごく一部だけで栽培されるバラの薫香を漂わせる品種「ラクリマ」。個性的なこのブドウをスプマンテに仕立てたのが、モッロ・ダルバ地区の造り手「マロッティ・カンピ」。バラ科の桜の香りが魅力のさくらとの相性はいかに

 淡いピンクの色調からイメージする品種特有のバラ香との相性はまずまず。時間と労力を要する瓶内二次発酵を行うため、いきおい高価となるシャンパーニュやフランチャコルタのように持続性が高い細やかな泡の立ち上がるシルキーさはありません。泡の感触が食感に障(さわ)るうえ、渋みのもととなるタンニンを意外と感じるため、ガンベロロッソ式3段階評価では★で第1ラウンドを終了。

 半分ほど残ったさくらには、蜂蜜のワンダーランド「藤原養蜂場」で購入した「盛岡石割桜一番蜜」を少しだけ垂らしてみました。その途端、さくら本来の香りが数倍増しとなり、一気に花開いたのです。予定外の第2ラウンドは寺内大吉さんの採点(⇒昭和世代はご存じかと)でも1.5ランクアップで★★ の満点に迫る組み合わせとなりました(下写真)

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 さくらと合わせるため、自宅にストックしていたヴィーノとのアッビナメント(組み合わせ・マリアージュ)を試みるべく、今季2個目のさくらを買い求めようと、仕事帰りに再び訪れたオー・ボン・フェルマン。店内では、さくらと3種類の産地が異なるロゼとの組み合わせを体感するショップイベントの真っ最中でした。

 テーブル席では6名ほどが、淡いピンク色のグラス3杯と切り分けたさくらを前に、真剣な面持ちでロゼとさくらの相性を確かめています。自転車で移動中だったため、同好の輪に加わることはできません。「そっちがグラス3杯なら、こっちはボトル3本返しだっ!」 堺雅人ばりの意気込みを胸に、家路を急ぎました。

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【Photo】赤と比べて圧倒的に数少ないロゼの自宅ストック。(右から順に)「Cerasuolo Montepulciano d'Abruzzo チェラスオーロ・モンテプルチァーノ・ダブルッツォ1999」、「Dolcedorme Rosé ドルチェドルメ・ロゼ 2014」、「Principessa Cerasuolo プリチペッサ・チェラスオーロ2014」。特別な日に飲みたいアブルッツォの巨人「Valentini ヴァレンティーニ」はお飾り(^ ^; 。結局選んだのは左端のヴィーノ・ロッソ

 当初考えていたアッビナメントの本命は、カラブリア州の作り手「Ferrocinto フェッロチント」が、長期熟成型の偉大な「Taurasi タウラージ」を生む南イタリアの赤品種「Aglianicoアリアニコ」から醸したロゼ。畑の標高が400m以上と高く、南らしからぬエレガントな造りが魅力。

 対抗は2013年に新潟市西蒲区に誕生した「カンティーナ・ジーオセット」を起業した瀬戸潔さん(54)が、山形の契約農家が生産するスチューベンをチャーミングに仕上げた1本。第1ラウンドでは、さくらの繊細な風味を覆ってしまうタンニンの存在が気になったため、結局は知り合いのソムリエが推奨するプーリア州のヴィーノ・ロッソを選んでみました。

 捲土重来を期す第3ラウンド。挑戦者はイタリア半島のかかとの位置にあたるプーリア州産「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」。本来は高い熟成能力を備えた力強い赤ワインとなる品種「Primitivo プリミティーヴォ」を、15℃から18℃程度に冷やして飲む造りをあえて狙った変則パターンです。

fatalone-sakura2.jpg 「Ridge」や「Clos du Val」など、成功を収めているカリフォルニアの「Zinfandel ジンファンデル」と同一品種であることが、20世紀後半のDNA検査で判明したプリミテーヴォ。色が濃いロゼ風に仕立てたファタローネ・テレスとの組み合わせは、いわば変化球勝負。

 州都Bariバーリから、どこまでも平坦な地形が続く内陸側へ40kmあまり南下した「Gioia del Colle ジョイア・デル・コッレ」は、良質な赤ワイン産地。円錐形の石積み屋根が特徴の住居「トゥルッリ」で名高い「Alberobello アルベロベッロ」の西方約30km の海抜365mの丘陵地にブドウ畑を所有する「Pasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラ」。

 イタリアにおけるオーガニック認証機関の先駆けであるICEAから有機認定を受けているパスクアーレ・ペトレーラ醸造所の信条は、ブドウの樹を人と同じように慈しむこと。自らが欲することをブドウにも同じように与えるため、常に細心のケアを怠りません。

 太古そこが海底だったことを物語る貝の化石が出てくる石灰岩と粘土の赤黒い土壌。ヴィーノ・ロッソとしては淡く、ロゼとしては濃い微妙な色合い(上写真)は、発酵前に果汁に果皮を浸すマセレーションを、ロゼと同程度の30時間に留めたスキンコンタクトによるもの。樹齢25年ほどのプリミティーヴォが完熟する10月後半に収穫後、樽は用いずステンレスタンクで12ヵ月、瓶内3ヵ月の熟成を経て、リリースされます。

 「Negroamaro ネグロアマーロ」種をメインとするイタリアン・ロゼの発祥とされるDOC Salice Salentino サリーチェ・サレンティーノ」を含め、お値打ち品が多いこの地域では、夏の日中は40℃越えが珍しくありません。5代前の創業者ニコラ・ペトレーラが好んだという、冷やして飲むロゼ風の仕上がりのヴィーノ・ロッソです。

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 青葉区広瀬町のワインショップ「Wine Store ブドウの木(下写真)で、さくらとの組み合わせを前提に、選択のお手伝いをして下さったのが、オーナー・ソムリエの奥山和茂さん。

tag-fatalone.jpg セラーに200種前後を取り揃えるワインには、奥山さんがプロフィールを記したタグ(右写真)が1本ごとついています。

 ワインは店内のカウンターやテーブル席でフード類と共に頂くことができます。家飲み用には、表示価格の25%引きで購入可能(6本以上の場合30%OFF)。 よって店頭価格3,440円のファタローネ・テレスの購入価格は2,580円でした。

 比較的手頃な価格帯のヴィーノ・ロッソですが、安ワインにありがちな単調さやヌケ感は皆無。ふくよかな果実の旨味が伸びやかに広がります。渋味のもととなるタンニンは希薄で、飲み口は滑らか。

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 パスクアーレ・ペトレーラ醸造所の地下セラーには、クラシックやヒーリング音楽が流れています。えもいわれぬ心地よさを感じさせる癒しの秘術は、ワインがそこで体得するのかもしれません。

 ファタローネ・テレスは過剰な自己主張をせず、繊細なさくらの風味がより引き立つよう、優しくエスコートするかのよう。ファタローネの名は、2代目フィリッポ(左写真)のニックネームにちなんだもので、il Fatalone とは、俗にいう〝女たらし〟のこと(笑)。

 ただでさえ情熱的なイタリア男をして、そう言わしめるのですから、フィリッポは相当お盛んだったのでしょう( ^0^;)。自家製のヴィーノ・ロッソと牛乳を500mℓずつ飲むことを朝の日課としていたフィリッポ。98歳で天寿を全うした日とて、その例外ではなかったといいます。そんな酒とバラの人生を謳歌したフィリッポの精神と、作り手のブドウへの愛情がこの1本に体現されているように感じました。

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 北の大地に春の訪れを告げる桜が香り立つ共働学舎のさくら。そこに集う心に悩みを抱える人たちのように遅咲きのさくらに寄り添い、引き立て役を果たしてくれたFatalone Teres 2014 vinには、アッビナメント★★に加え、あっぱれ助演男優特別賞を献上したいと思います。

【Photo】共働学舎のさくらに添付の栞(しおり)に描かれた一輪の桜

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Fromagerie & Café Au Bons Ferments
 フロマージュリー&カフェ オー・ボン・フェルマン
 住:仙台市青葉区上杉1丁目4-10 庄建上杉ビル1F
 Phone : 022-217-2202
 営) 12:00~22:00 月曜定休

Wine Store ブドウの木
 住:仙台市青葉区広瀬町3-48
 Phone : 022-796-2293
 営) ・ダイニングバー 13:00~22:00 L.O.  ・カフェ13:00~17:00 日曜定休


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投稿者 vam : 00:24 | カテゴリー : Vino ヴィーノ/| カテゴリー : ごちそうさまでした/| カテゴリー : ・Fuori Tohoku 圏外遠征/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城

2016/03/06

おまさん まっこと上等な「ぬた」を知っちゅうが?

あなたはホントに美味しい「ぬた」をご存知ですか ?

Sa la molt buona salsa verde da Tosa ?

ryoma_sakamoto.jpg タイトルがコテコテの土佐弁であることから明らかなように、出張で訪れた高知で、旧交を温める機会に恵まれました。

 仙台から伊丹経由で高知龍馬空港入りした庄イタ。大政奉還への道筋を示した幕末の志士は、空の玄関口のニックネームとして平成の世の土佐に蘇ったぜよ。

【Photo】大阪・伊丹を経由して高知入りした庄イタを含む一行8名。出迎えて下さった高知新聞社の計らいで、高知龍馬空港から市内への移動の道すがら立ち寄ったのが、観光名所として名高い桂浜。太平洋を睥睨するかのように立つ坂本龍馬像

 出張初日の講演会会場となった自由民権記念館で地元紙・高知新聞社のS氏と合流したのが20時過ぎ。互いに旧知の仲であり東京から参加したD社のK氏を伴って、20年ぶりの再会となるS氏に案内されたのが、噂通りにがっかりポンだった(笑)観光名所「はりまや橋」からほど近い「鮨処すごろく」。

 「酔鯨」や「土佐鶴」など比較的ポピュラーな銘柄ではなく、「文佳人」「美丈夫」「しらぎく」といった地元ならではの日本酒を飲み比べ。

utsubo.jpg【Photo】端麗な飲み口で盃が進んだ文佳人特別純米を相伴に「鮨処すごろく」で食したのが、コラーゲンの宝庫なのだというウツボの唐揚げ。太平洋に面した沿岸部以外は山がちな地形の高知県。冷蔵技術が発達する以前、時間を要する内陸部までの運搬後も生きながらえる生命力が強いウツボ料理が伝わってきた

 幸いなことに鮨処すごろくは、居酒屋風の一品料理が充実しており、清流・四万十川の汽水域だけで育まれる香り高いアオサノリの天ぷら、塩味で頂くカツオのたたき、土佐清水で揚がる脂が乗った清水サバ、高知の山間部で食するのだというウツボの唐揚げなど、土佐ならではの味覚を堪能できました。

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 皿盛りの刺身の付け合わせとして小皿で登場したのが、鮮やかな緑のペースト(上写真)。前世イタリア人が、こうしたSalsa verde (=緑のペースト)で真っ先に思い浮かべるのは、リグーリア州ジェノヴァ発祥のバジル香るペスト・ジェノヴェーゼです。

 リグーリア地方では、細長く捻じったショートパスタ「Trofie トロフィエ」に和えるペスト・ジェノヴェーゼよりも、高知のサルサ・ヴェルデは幾分か淡い色合い。枝豆を漉して滑らかにした「土佐ずんだ」が登場したのか?とも思いましたが(笑)、それは「ぬた」と呼ばれる冬の土佐ではポピュラーな合わせ調味料なのでした。

 一般に「ぬた和え」=「酢味噌和え」として認識されることが多いと思います。ところが高知における「ぬた」は一味違います。

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 決め手となるのは「葉ニンニク(上写真)。結球部が肥大化する前段階で、茎と葉を食用とするのです。土佐のぬたは、ニンニク葉を刻んで鉢ですりおろし、白味噌と和え、砂糖と酢で味を調えるのが基本。柑橘栽培が盛んな高知ならではの柚子酢や麦味噌を用いたり、砂糖の分量を変えたりと、それぞれ家庭の味が存在するのだそう。

 鮨処すごろくで出されたのは、そうした自家製ぬたでした。定番のブリのみならず脂が乗ったアジやカツオとも好相性。これは断言できます。「げに うまいぜよ!(=ホント美味しい! )」

 高知新聞社のS氏は「サニーマート」や「サンシャイン」など、質と価格では全国展開する大手スーパーが到底太刀打ちできないという地元資本の食品スーパーでも置いている既製品もさることながら、手作りのぬたを推奨するのでした。

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【Photo】比較の意味で購入した食品スーパー「サニーマート」のPBブランド「よいち水産」製の「土佐のにんにくぬた」。鶏の唐揚げ、豆腐、コンニャクなど、汎用性が高い万能調味料となる

 その意味で幸運だったのが、高知での宿泊先ブライト パーク ホテルの立地と曜日回り。宿は高知城の追手門から一直線に伸びる追手筋(おうてすじ)に面しており、そこでは元禄時代から300年以上続き、現在は「日曜市」の名で知られるメルカート(街路市・マルシェ)が開かれるのです。

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【Photo】天守閣の大手(正面)に位置する追手門。本丸と大手門とを、こうして一か所から眺めることができるのは、高知城が唯一なのだという

 露店に並ぶのは、高知市近郊の農家が持ち寄る野菜や果物、山菜などの生鮮品。そして刃物・骨董・植木などの日用品。さらには創傷ややけどに効くといわれる「狸の油」といった珍品まで、品揃えのバリエーションは実に豊富。およそ430軒の露店が、1.3kmにわたって軒を連ね、観光客を含む多くの人出で賑わいます。路上で終日開かれる露天市としては、日本一の規模を誇ります。

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 2泊3日で訪れた高知出張の最終日が日曜日に当たったため、ちょうどホテルの目の前で日曜市が開催される巡りあわせに恵まれた次第。そこで早めに朝食を済ませ、南国情緒を醸し出すカナリーヤシ(フェニックス)が、中央分離帯に列をなす追手筋へと繰り出しました(上写真)

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【Photo】日曜市を散策していて目に留まった珍品の一例。土佐の大皿料理「皿鉢(さわち)料理」の「組みもの」で中心に盛られるのが、尾頭付きのまま背開きにして酢で締めたサバで酢飯を包み込んだ「サバ姿寿司」(上写真左)。その応用編「アジ姿寿司」(上写真右)。 やけどに効能があるという「狸の油」(下写真)。乗り合わせたタクシーの運転手氏に言わせると、本物とあえて銘打っているものの、実際のところは何が入っているかは闇鍋に近いのだという(笑)

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 高知城に向かう西行き2車線を車両通行禁止として日曜市は開かれます。一方で東向き2車線側を対面通行に変更(下写真)。いかにも柔軟かつ合理的なシステムではありませんか。

 これは、可動式の中央分離帯を2か所を開放することで、特段の減速指示をせぬまま、大胆にも対面通行をさせてしまうイタリアの高速道路工事でも恒常的に行われる運用法です。

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【Photo】高知での宿泊先となったブライトパークホテルの部屋から追手筋を撮影。通常は西方向に向かう車両が通る2車線を占有使用して日曜市が開かれる。設営準備中につき、まだ人影はまばら

 「自由は土佐の山間より出づ」という自由の精神を尊び、薩長の専制に反発し、自由民権運動の推進役を担った異骨相(いごっそう)気質を受け継ぐ高知市民からは、「南国土佐はラテンやき、当然ちゃ。」という声が聞こえてきそう。

 万が一の保険のため、サニーマート系列の毎日屋大橋通り店で、PBブランドよいち水産製「土佐のにんにくぬた」5袋入り1パックを入手してはありました。なれど庄イタが目指すは、前夜の打ち上げの席で地元の事情通から聞き出していた〝とある容器〟に入った自家製葉ニンニクのぬた。

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【Photo】日曜市で長ネギと横並びで売られていた高知市宗安寺地区産の「葉ニンニク」。地元では「ニンニク葉」とも。葉ニンニクは、高知と沖縄で栽培が盛んだが、ニンニク生産量が国内では最も多い青森では、ほぼ見かけない

 まず見つけたのは、材料となる「葉ニンニク」そのもの。麻婆豆腐など中華料理に用いる事が多く、通常は結球部を食するニンニクを若いうちに葉と茎を食用にする野菜です。秀吉の朝鮮出兵に参加した長宗我部元親の兵が土佐に持ち帰ったとのこと。高知市に隣接する南国市に位置する高知龍馬空港の周辺でも、葉ニンニクが盛んに栽培されている様子が見て取れました。

 葉ニンニクが身近な存在である高知においては、すき焼きに入れるのは長ネギではなく葉ニンニク。焼き鳥もネギ間ではなく、葉ニンニク間。炒め物での登場率も高いとのこと。このように葉ニンニクは土佐の暮らしに深く根付いた食材なのです。

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 そこには肝心のぬたが見当たらなかったため、駅前電車通りと接する東端の「1丁目」から高知城に向かって「6丁目」まである日曜市を西へ向かって歩みを進めてゆきました。街路樹がクスノキの巨木へと変わるのが5丁目から。

 日曜市の露店にはすべからく「〇丁目北〇番」といった地番がついており、したがって位置も固定の割り当て制になっています【MAP】。

 その一角、5丁目南322番に目指すものがありました。お手製の目印だと事情通から教えられたのが、かつて駅弁とセットで売られていたお茶が入っていたポリエチレン製の茶瓶。昔懐かしい半透明のポリ容器に入った農家のお母さんお手製のぬたを遂に発見したのです。

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 爪楊枝が刺さった細切れの自家製コンニャクが、ぬたの試食用として用意されています。それは鮨処すごろくのぬたとは一味違うピリリと辛いぬたでした。冷凍すると色褪せずに日持ちすると店主の高橋光江さんから聞き出し、迷わず購入。

 すぐ近くにも赤いスクリューキャップ容器に入った自家製のぬたが置いてあったので、そちらもゲット。そうして日曜市をくまなく散策し、確保したお手製のぬたは、2個という結果でしたが、食べ比べができるという点では上々の成果と言えましょう。

 こうして初期の目的を果たしたものの、訪れてみたい場所が一つ残っていました。それは日曜市6丁目角の「ひろめ市場」。7時の開店と同時に、屋台村がオープンするというのです。

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【Photo】朝9時をまわったばかりのひろめ市場。夜9時にはあらず。これが高知における朝のスタンダードであるかどうかは定かではない

 およそ4,000平方メートルの敷地に500の客席がある飲食コーナーでは、予想通り、朝っぱらからカンパーイ!! の声が響いており、「箸拳(はしけん)」や「可杯(べくはい)」「返杯」といった酒豪文化が息づく高知ならではの土地柄に感心するやら呆れるやら。
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【Photo】ひたすら酒を呑みたいがためとしか思えない土佐伝統の「可杯(べくはい)」。大きさが異なる3つの杯(天狗・ひょっとこ・おかめ)の絵が描かれたサイコロを「♪ベロベロの神様は・・・」で始まる囃子唄とともに振り、サイコロが向いた人が絵柄の出た杯で酒を呑む。ひょっとこの口には指で塞ぐ穴が空いている。いずれも座りが悪いので、呑み干すまでは杯を置くことができない

baca-wine.jpg Quando sei a Roma, vivi come i romani (=郷に入っては郷に従え)を旅先での行動規範とし、赤ワイン体験なら数知れない庄イタ。

 大ジョッキで飲み干す「バカワイン(右写真)を、見識を広めるためと称し、出張初日にS氏に案内された2軒目「大衆酒場はりまやオリバ」で注文。同じ穴のムジナなのでした。

 お酌をしたお猪口を飲み干した相手が、即座にその杯を差し返し、一つの杯で延々と差しつ差されつを繰り返す返杯も初体験。興が乗るまま久方ぶりに興じた可杯も登場。高知2日目の夜も存分に満喫しました。

 前日の大雨から一転、青空が広がった3日目は、日曜市に繰り出すことを固く心に誓っていました。昼前の便で伊丹に向かう段取りだったため、さすがに乾杯の輪には加わることなく高知を発ちました。
 
 高知のお母さんの言いつけ通り、日曜市で手に入れた2個のぬたは、帰宅後すぐに冷凍室へと直行(下写真)

due-nuti.jpg 鮨処すごろくでは、S氏の薦めで寒ブリやアジを食べ合わせたように、ぬたは脂乗りの良い刺身との相性は抜群なのです。

 そこで翌週末、マリンゲート塩竃前に震災翌年オープンした「Pizzeria La Gita」でナポリピッツァを食すために訪れた塩竃で仲卸市場に立ち寄り、冬に旬を迎える生食可能な新鮮なメカジキを購入しました。

 メカジキは、英語でSword fish、イタリア語でPesce spadaspada =剣)と呼ばれる通り、長く尖った上顎が特徴のカジキの一種。気仙沼が水揚げ日本一ですが、これは塩竃に水揚げされた大型のメカジキだったそう。

pesca-spada@nuta.jpg 果たせるかな、宮城の味メカジキと高知の味ぬたとの食べ合わせの相性は、非のつけどころなし。はやいっさん(=もう一度)言うきに。「げに うまいぜよ!!

 19年連続日本一の記録を更新している気仙沼のカツオ水揚げ高を少なからず支えているのが、高知のカツオ漁船。

 高知の漁船員の皆様、カツオを追って黒潮を気仙沼まで北上する際は、船の冷凍庫にぬたを忘れずに保管されますよう。束の間の休息を気仙沼でとられる際、こってりとした脂が乗ったメカジキと、ぬたの食べ合わせを試されてはいかがでしょう。

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今回の高知出張ミッションの成果は、震災から5年を経る3月11日(金)と12日(土)に防災プロジェクト「いのぐ」の一環として高知新聞紙上に。河北新報朝刊には3月13日(日)に3ページ特集「高知むすび塾」詳報として掲載予定。出張の趣旨に関して皆さまが曲解なさらぬよう、付け加えておきます。

土佐の日曜市
 毎週日曜日開催: 夏期間(4月-9月)5:00~18:00
             冬期間(10月-3月)5:30~17:00
             ※ 上記は設営および撤収に要する時間を含む
             ※ 1月1日・2日・よさこい祭りと重なる場合は休み
 

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投稿者 vam : 23:53 | カテゴリー : ・Fuori Tohoku 圏外遠征

2016/02/27

Piovere dal cielo棚からボタ餅

pescare un'orata rara con gamberi
海老で鯛を釣った件


1456218845721.jpg 今回は、ネタ元を明かさぬことをお許し願います。何故ならば、バックラベル(右写真)に表記された42%という高いアルコール度数もさることながら、希少性も極めて高いボトルの中の液体が、瞬間蒸発しかねないがため。と、いう訳で異例の投稿となりますが、どうぞご了承ください。

 とある庄イタの立ち回り先で、とある一品を食しながら、その店のオーナー氏とカウンター越しに会話をしていた時のことです。

astiLaSelvatica.jpg グラスでオーダーできるワインやビールがストックされている冷蔵ショーケースの片隅に、見覚えのある特徴的な手描き風のイラストが描かれたカートンボックスが置いてあるのが目に留まりました。

 庄イタが箱の中身として想像したのは、エチケッタ(ラベル)に、そのイラストをDOCG アスティ・スプマンテとして唯一使っている作り手「La Caudrina ラ・カウドリーナ」のアスティ・ラ・セルヴァティカです。

【Photo】プリントラベルのドンナ・セルヴァティカ。ラ・カウドリーナのアスティ・ラ・セルヴァティカ

 なぜならば、このアスティ・スプマンテは、輸入飲料や食品を扱う「カルディコーヒーファーム」ほか、楽天市場などでも取扱いがあり、日本で唯一入手しやすいがため。

 「イラストが描かれているその箱だけど、アスティ・スプマンテを仕入れたのですか?」という庄イタの問いに対するオーナー氏の答えは、予想を覆す意外なものでした。

 直訳では〝野生の女〟となる「Donna Selvatica ドンナ・セルヴァティカ」と呼ばれるそのイラストに庄イタの視線が釘付けとなった理由は、Viaggio al Mondo 2007年6月の投稿「伝説のグラッパ職人、ロマーノ・レヴィ ~ 天使のグラッパ職人は生き仏だった」をご覧ください。

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【Photo】2006年10月。ピエモンテ州クーネオ県ネイヴェの自宅兼蒸留所のアトリエにて。頸椎を痛めて体調が優れない中、まさに一期一会の時間を割いて下さったロマーノ・レヴィさんは、この1年半後、80歳で天に召された。数え切れぬほどのファンタジーを紡ぎ出してきたその手の温もりと柔らかな感触は、今も庄イタの右手に鮮明に残っているPhoto by Takashi Aoyagi

 レヴィさんとの橋渡しの労をお願いしたアグリツーリズモ「Rupestr ルペストゥル」オーナーのジョルジョ〈2007.9「アグリツーリズモRupestr との出逢い」参照〉からの依頼を受け、レヴィさんとのご縁を直接つないでくれたのが、ジョルジョの友人であるラ・カウドリーナの当主で醸造家のロマーノ・ドリオッティさんでした。

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【Photo】2015年7月。青森市のイタリアン「AL CENTRO 」でコース料理の締めくくったのが、レヴィさん生前の2005年に瓶詰めされたグラッパ(右)。これが庄イタ的には直近のレヴィ体験だった。レヴィ翁の没後にボトリングされた復刻版ながら、記録更新は、つい先日、予期せず某所にて果たされた

 そのイラストは、ワインの醸造過程で発生するブドウの果皮や種などの搾り滓を原料に、加熱釜でアルコール成分を蒸留・抽出する蒸留酒「Grappa グラッパ」を、イタリアでは唯一直火式の蒸留設備で製造していたロマーノ・レヴィ(1928-2008)のグラッパのラベルに登場していたもの。

libro-levi22.jpg 著名なワインジャーナリスト、ルイジ・ヴェロネッリ(1926-2004)により〝Grappaiolo Angelico (天使のようなグラッパ職人)〟と世に紹介され、伝説となったロマーノ・レヴィ。2008年5月にレヴィさんが逝き、2年後にはハーブ入りグラッパを担当していた姉リディアさんも亡くなります。

 創刊にスローフード協会が関わった「Vini d'Italia」と同格の影響力があるイタリアワイン評価本「I Vini di Veronelli 」の版元がヴェロネッリ出版。同社からはラベルを150ページに渡って収録した画集(右写真)が出版されるほど。

 現在、市場に出回るレヴィさんが生前にラベルを描いたグラッパ、特にドンナ・セルヴァティカがモチーフとなると、ゆうに5万円以上。90年代以前のヴィンテージグラッパには、桁違いの驚くようなプレミア価格がついています。世界中にマニアが存在する一方、希少性が徒(あだ)となり、まがい物が出回っているとのまことしやかな噂も。

   

【Movie・前編】2012年公開のレヴィ・セラフィーノ蒸留所におけるグラッパ造りの模様。冒頭に登場するレポーターを挟んで左側がマウロ・マルティーニ氏、右側がファブリツィオ・ソブレロ氏。深さ7mの貯蔵庫でおよそ1年保管したDOCG バルバレスコの醸造に用いられたヴィナッチャから、直火式の銅製蒸留釜カルダイアを含む蒸留装置アランビッコでアルコール蒸留をする工程

 レヴィさんの晩年、「Distilleria Levi Serafino レヴィ・セラフィーノ蒸留所」のアシスタントとして働いていたファブリツィオ・ソブレロ氏と、マウロ・マルティーニ氏が、蒸留所を引き継ぎ、レヴィさん亡き後の今も以前と変わらぬ製法でグラッパ造りを続けています。 

   

【Movie・後編】マウロ・マルティーニ氏により1本づつ手詰めされるボトリングから、ファブリツィオ・ソブレロ氏によるラベルの手貼り工程の模様。ロマーノ・レヴィさんの生前と変わらぬ大量生産がきかない伝統的な製法を受け継いでいることが窺える

 レヴィさんの健康状態が思わしくなくなって以降、ラベル以外のほとんどの仕事を任されていた二人の後継者が、レヴィ・セラフィーノ蒸留所で作り続けるグラッパは、現在日本の正規代理店を通して1本2万円前後で入手が可能です。印刷に変わったラベルは、生前レヴィさんが描いたドンナ・セルヴァティカのバリエーション違い。

levi-serafino-barolo.jpg カウンター越しに見つけた冷蔵ショーケースの中のボトルは、そんな1本でした。エチケッタにはBaroloと記されていることから、バローロ地区の造り手が持ち込んだ高貴品種ネッビオーロのヴィナッチャを原料としているグラッパです。(左写真)

 オーナー氏が語るその用途を聞いて驚いてしまいました。「調理酒として、素材との組み合わせを試そうと思っています

 「エッ!? 」 素材選びには妥協を知らぬショップオーナーであることは、これまでの付き合いから重々承知していたつもり。それにしても贅沢極まりない話ではありませんか!!

 レヴィさんのもとを訪れた経験があることを明かすと、心の広いオーナー様(⇒ここは敬称付き♥)は、「グラッパグラスがなくて申し訳ありません」と言いながら、なんとデミタスカップに注いだ1本2万円以上もするグラッパを味見させてくれたのです。

 その日私がオーダーした一品は380円。いわば海老で鯛を釣った格好。イタリア語ならば「晴天から雨が降ってくる」という意味のPiovere dal cieloという慣用句がピッタリな展開です。
 
levi-serafino-tazza.jpg

 店としては、ディジェスティーヴォ(食後酒)として仕入れたのではなく、あくまで香り付けの〝調理酒〟。まして、こちらはゴチに預かっている身。「せっかくだからグラッパグラスで...。」などと、本音 ワガママを言える立場ではありません。まして、女性客中心の業態からして、仮にグラッパグラスを置いていても、恐らくニーズはゼロ(笑)。

 補糖や香料・カラメル色素など人為的な添加を一切行わない本来のグラッパならではの力強さ、そして4年に及ぶオーク樽熟成による円熟味。長い余韻を残す琥珀色の液体を飲み干し、謝意を伝えた去り際、こう言い残すのを忘れませんでした。

grappa-glass.jpg 「またグラッパを味見させてもらってもいい? 次はちゃんとお代も払うので。」

 おそらくはオーナーが望む本来の客筋とは程遠いであろう、調理酒を飲ませて欲しいという庄イタのリクエスト。

 店のメニューとの興味深いアッビナメント(=組み合わせ)を試みるべく、「次回は自前のグラッパグラス(左写真)を持参するかも・・・」と、二の矢を放つ庄イタ。

 「ハイ、どうぞ。」と言いつつも、オーナー氏が浮かべた笑いが、若干引きつって見えたのは気のせいでしょうか(;^ω^)。

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投稿者 vam : 00:55 | カテゴリー : ごちそうさまでした/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城

2016/02/13

Bravissime Monte Bianco

ハートまでトロけるモンブランはいかが?


 この冬、仙台ではジェラートが熱い。Viaggio al Mondo には昨年6月に登場した青葉区一番町の「GELATI BRIO ジェラーティ・ブリオ」が、その発信地です。

〈2015.6拙稿「Il dolce e l'amaro スウィート & ビター 〈後編〉」参照〉


 ジェラテリアにとってはシーズンオフにあたるこの季節。ジェラーティ・ブリオのショーケースには、定番のシチリア産ピスタチオや岩手・中洞ミルクジェラートほか、果実系では柑橘類やリンゴを主とする旬のラインナップが並びます。

 DSCF7480.jpg DSCF7480-001.jpg

【Photo】山形県舟形町産ブラウンマッシュルーム+ブラックチョコレート風味「Fungo & Choco フンゴ&チョコ」(右)。同ホワイトマッシュルーム+ホワイトチョコレート(左)のカップリングも(シングル¥ 380・ダブル¥ 450・トリプル¥ 520)

 原価率を著しく押し上げるに違いないマニア垂涎の某レアもの樽熟グラッパを仕込みで使うケースもあるチョコレート系やナッツ系ジェラートも充実。そんなこの季節ならではのフレーバーとともに、付け合わせとしてお試し頂きたいのが、外はサクサク、中はモチモチ&フワフワの香ばしく軽い食感の「ポップオーバー」です。

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【Photo】冬季限定のポップオーバーとの組み合わせを楽しむ真冬のジェラート。熱々&フワフワと、ひんやり&トロ~リ冷たい組み合わせが目新しい。

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【Photo】新食感スイーツとして人気上昇中のポップオーバーは、店内のオーブンで毎日45分をかけて焼き上げる自家製。ジェラートと交互に召し上がれ(Mサイズ ¥ 200 Sサイズ ¥100)

 そして何よりも、この冬に食べ逃しては一生の不覚!! に相違ない皿盛りのTorta Gelato トルタ・ジェラート(=ジェラートケーキ)が、ジェラーティ・ブリオのスペチャリテとして密かに登場しているのをご存知でしょうか ?

brio-tiramisu.jpg

 3月中旬までのイートイン限定の皿盛りトルタ・ジェラートが、「Tiramisù ティラミス(上写真・税込¥750)と、「Monte bianco モンテ・ビアンコ(下写真・税込¥890)のツートップ。

 クリスマスシーズンに数量限定で登場し、好評を博したというトルタ・ジェラート。開店した2014年の冬から登場したティラミスに関しては、食べる前から想像がある程度つき、実食した印象も期待にたがわぬ結構なお味でした。

 辛党・甘党の二刀流を標榜する庄イタのイチオシは、この冬デビューの新作モンテ・ビアンコ(下写真)。この投稿を最後まで読み終えた皆様が抱くであろう期待値を、少なくとも150%は上回る美味しさに悶絶すること請け合いです。

montebianco-brio.jpg

 そもそもMonte Bianco モンテ・ビアンコとは、イタリア・フランス国境に聳えるMont Blanc モンブラン(4,810m)のイタリア語名。1789年のフランス革命以前は、15世紀初頭から山全体がサヴォイア公国の領地でした。

 1792年、武力による領土拡大の野望を抱いたナポレオン・ボナパルトが、首都をトリノに置いたサヴォイア公国の流れをくむサルデーニャ王国第3代国王ヴィットーリオ・アメデオ3世に対し、欧州最高峰モンブランを含むサヴォワ(伊語:サヴォイア)地域や、ニースの割譲を迫ります。

Aosta_Monte-bianco.jpg

【Photo】ヴァッレ・ダオスタ自治州の温泉保養地「Pre-Saint-Didier プレ・サン・ディディエ」は、古代ローマ時代から属州ガリアへと通じる要衝の地。背後に標高4,000m級のモンブラン(モンテ・ビアンコ)山塊が迫る海抜1,000mを超える高地に温泉が湧出する保養地。山側の2kmほど先が、モンブラン観光の起点となるCourmayeur クールマイユール

 1796年のパリ条約によって、サヴォワはフランス領とされますが、皇帝ナポレオン1世失脚後のウィーン会議(1814-1815)によって、パリ条約の無効が宣言されます。その結果、サヴォワ県全体がサルデーニャ王国に返還されます。

 イタリア王国成立後の1861年、初代イタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエレ2世とナポレオン3世との間で、モンブラン山頂に国境線を引くことで妥協が成立。現在に至るまで、モンブラン山頂は両国の領地という玉虫色の定義がなされています。

 こうした歴史的な経緯を踏まえ、日本ではモンブランの名で広く認識されているこの名峰を、イタリア式のモンテ・ビアンコと呼ぶべきと考える前世イタリア人の庄イタ。さて、皆さまいかがでしょうか。 以下、紛らわしいので山をモンブラン、ジェラートはモンテ・ビアンコと表記しますが、庄イタ的には、どちらもモンテ・ビアンコ以外の何物でもありません)

【Movie】本格的な登山を志すのでなければ、モンブラン観光には、フランスと国境を接するクールマイユールから出るケーブルカー「Skyway」が便利。高所恐怖症の方には厳しいかもしれない360°のパノラマを楽しみつつ、往復40€(18歳-64歳。年齢による各種割引あり)で万年雪に覆われたモンブラン山頂が、すぐ眼前に迫る標高3,466m地点のプント・エルブロネへと難なく到達が可能

 フランス語表記のMont Blanc 、イタリア語表記のMonte Bianco のいずれもが〝白い山〟を意味するこの山は、山頂付近を分厚い氷塊に覆われています。ゆえに夏と冬では標高がメートル単位で異なるのだといいます。そうした自然のメカニズムに加え、自然環境に影響を与えているのが、一向に止まらない地球温暖化です。

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【Photo】モンテ・ビアンコのベースとなるジェラートは、ピエモンテ州クーネオ県特産のヘーゼルナッツを使ったNocciola ノチオーラ。ポップオーバーとの相性も良好。モンテ・ビアンコで使用するマロンのジェラートは、専用のオリジナルレシピによるもの

 ここ数年、アルプスの氷河が溶け出し、アルピニストを生命の危機にさらす雪崩が頻発するようになってきました。異常気象を誘因する温室効果ガスを排出しない移動手段が自転車。宮城県民にとって喫緊の課題である脱メタボに向けた「みやぎカイゼンプロジェクト」推進にも繋がる一石二鳥のツールでもあります。

 もともと仙台は東北でも積雪が少ない土地柄。ましてや路面の凍結が少ない今年。体内の内燃機関を活性化させる街乗りに適したBianchi Lupo号で駆ける機会を減らさぬよう、心がけています。

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 そんな庄イタのカロリー燃焼のための努力を水の泡と帰する甘い罠(?)の極め付け、モンテ・ビアンコ。ティラミスもそうですが、トルタ・ジェラートは注文を受けてから一皿ずつの手作り。店主でジェラタイオの磯部智広さんによる作業過程を、カウンター奥のガラス越しに眺めていると、否応なしに期待感は高まります。(上写真)

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 ベースは冬場の定番ジェラート、Nocciola ノチオーラ(=ヘーゼルナッツ)。その上にピエモンテ産の栗を原料とするマロングラッセを刻んで挟み込むように、別誂えのラム酒が香る大人の栗ジェラートをドッキング。握りこぶし大に盛りつけされたジェラート×2には、絞り袋に入ったバニラ香る濃厚マロンペーストをぐーるぐると半回転(上写真)

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 残り半周にはフワフワの生クリームをたっぷりとトッピング(上写真)。最後の仕上げにはバージンスノーのように粉糖をサーラサラ(下写真)

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 付け合わせには甘酸っぱい洋ナシのコンフィチュールが箸休め的に添えられます(下写真)。皿の上で繰り広げられる多彩なマロンの風味とヘーゼルナッツ、そして生クリームの饗宴。やがて訪れるのは、めくるめく至福の時。それではボナペティート。

montebianco2-brio.jpg

 完成形。まさにこれは万年雪を頂く山頂を挟んで、北西フランス側はメール・ド・グラース氷河と雪原が広がり、南東イタリア側には切り立った岩壁がそびえ立つモンブランの山容そのもの。

 世界の登山家を魅了する名峰が連なるヨーロッパアルプス。その最高峰モンブラン。そして世の美味しいもの好きを魅了してやまない(はずの)冬季限定 トルタ・ジェラートの最高峰、モンテ・ビアンコ@ジェラーティ・ブリオ。

 ひと匙ごとに幸福が訪れるモンテ・ビアンコは、ボリューミーで食べごたえも十分。半分まで食べ進んだところで、皆様にもお裾分け(下写真)。ハイ、あーん

brio-montebianco3.jpg

 どうです? 今すぐにでも食べたくなるでしょ ? ココロの奥底まで満たされるはずの一皿を召し上がられた後は、落とした頬っぺたの持ち帰りをお忘れなく(^ ^。

 1911年にモンブラン登頂を果たし、13年後に世界初のエベレスト登頂に挑んだのが、英国の登山家ジョージ・マロリー(1886-1924)。山頂付近で消息を絶つ前年、「どうしてエベレストを目指すのか?」というニューヨークタイムズ紙記者の問いかけに答えたマロリーの言葉はあまりに有名です。

Because it's there.(=何故なら、そこにエベレストがあるから)〟

 たとえ貴方がダイエット中だろうと、ここは理性をかなぐり捨ててモンテ・ビアンコ攻略に取り掛かりましょう。庄イタがお薦めする理由は至って単純明快です。

 何故なら、そこにモンテ・ビアンコがあるから。

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GELATI BRIO ジェラーティ・ブリオ

・住:仙台市青葉区一番町1-6-23 shuon 358 ビル1F
・Phone:022-302-5669

logo_brio.jpg・12月~2月末まで冬季短縮営業
   (火~金) 12:00~19:00 (土) 10:00~19:00
    (日・祝) 10:00~18:00  月曜定休(2/15~18 臨時休)
・3月より通常営業
   (火~木) 11:00~20:00  (金) 11:00~21:00
   (土) 10:00~21:00  (日) 10:00~20:00  月曜定休
    禁煙 バンコ(カウンター)6席 テラス4卓12席   Pなし
・URL:https://www.facebook.com/GELATI.BRIO


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投稿者 vam : 00:03 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城

2016/02/07

Pizzoccheri al citron giapponesi

柚子切りは J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲とともに


Hoya-soba2014akagawa.jpg【Photo】鶴岡市宝谷(ほうや)。8月の朝。白い花を咲かせたソバの蜜を吸いに来た小さな蜂。蕎麦どころ山形県下において、玄ソバ産出量が最も多いのが鶴岡市。「ふるさとむら宝谷」では、地元産の蕎麦粉を打った「宝谷そば」を食することができる

 庄イタにとって、現在の主食はイタリアン。なれど過去において、蕎麦食いを極めた男といえば、誰あろう、私なのです。

 そう豪語するには、理由があります。まずはピエモンテ州で生を受けた前世において、隣接するイタリア最北部、ロンバルディア州北部ソンドーリオ県Valtellina ヴァルテッリーナ地方に、十字軍の時代から根付いているソバ食文化に(おそらく)触れた原体験があってこそ。

 ミラノの北、コモ湖からアルプス側へとさらに北上したヴァルテッリーナ地方は、寒冷な気候と痩せた土壌ゆえに小麦の栽培が困難な土地柄。ソバの実を挽いた平打ちのショートパスタ「Pizzoccheri ピッツォッケリ」を食します。〈2008.1拙稿「すったもんだのお年越し」,2010.1拙稿「ソムリエfromトリノ」参照〉

Morbegno_sondorio.jpg【Photo】コモ湖へと流れ込むアッダ川上流域。アルプスの急峻な山あいにV 字型渓谷が形づくられ、そこにわずかな平地が東西に広がっている。こうしたヴァルテッリーナ地方の典型的な風景は、山あいに平地が開ける信州や山形内陸と相通じる
 
 ヴァルテッリーナと似通った風土が、世界最大のソバ産出国であり、消費国たるロシア。蕎麦粥の「каша カーシャ」は、ロシア版おふくろの味。そば粉クレープ「galetteガレット」は、フランス北部ブルターニュの郷土食。アジア地域では、そば粉を用いる「平壌冷麺(ピョンヤンネンミョン)」の本場である朝鮮半島ほか、ネパールなど標高2000mを超えるチベット高地でも、香辛料とともに韃靼(だったん)ソバを食します。

raksi-yeti.jpg 蛇足ながら、気仙沼が誇るネパール・インド料理の名店「Yetiイエティ」<2012.9「Yeti イエティ@気仙沼」参照>オーナーの小野一太さんから、ヒマラヤ登山で訪れたネパール土産として頂いた蒸留酒が「raksi ロキシー」。昨年の地震で大きな被害が出たカトマンズ周辺の先住民族や、山岳民族の家庭では、専用の器具を用いて自家蒸留します。原料には、山間地では貴重な白米ではなく、多くの場合、ヒエやソバなどの雑穀を用いるとのこと。

【Photo】無造作なペットボトル詰めパッケージが、何よりの自家製の証。Yeti オーナーの小野さんから頂いたネパールの庶民にとっては身近な蒸留酒「ロキシー」。琥珀色の焼酎はストレートで馬子にも衣裳な江戸切子の酒器でクイッとな

 蕎麦食いを極めたと自認するもう一つの理由は、蕎麦好きだった父に連れられ、中学に通い始めた頃から、仙台では蕎麦どころと喧伝される山形内陸部で蕎麦屋巡りのお供を重ねたがゆえ。大学生活や支社勤務で通算10年以上を過ごした東京生活でも、都内ほか松戸小淵沢・信州などの名店を訪れたものです。

 最新の統計である2014年(平成26)の国内そば生産高では、北海道が作付面積21,600ha・収穫量13,000tで第1位。作付面積では4,880haの山形県が第2位、長野県が4,060haで続きます。収穫量では第2位の長野県が2,560t。第3位は茨城県で2,120t。山形県は僅差の2,100tで4番目となります。

 仙台と隣接する村山地域を中心にハシゴすることも珍しくなかった「そば街道」。そうして長年にわたって続けた蕎麦屋通いから、きっぱりと決別したのが2003年(平成15)。同じ山形県でありながら、内陸とは異次元の多彩な食体験ができることを実感した食の都・庄内と出合うまでのことでした。

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【Photo】「♪ 冬が来れば思い出す」 更科の一番粉に絡むふんわりとした柚子の香りが季節を感じさせる変わり蕎麦「柚子切り」。ロケ地:山形市「手打 梅蕎麦」(ゆず切り 1,200円)

 もはや食傷気味の蕎麦ではありますが、それでも寒い季節に食したいのが、季節の変わり蕎麦「柚子切り」です。その味を覚えたのが、JR山手線目黒駅東口近くのビルの谷間に暖簾を掲げていた今はなき「目黒一茶庵」。

 一茶庵系ならではの変わり蕎麦の極めつけが、年間を通して目黒一茶庵では定番だった柚子切り。辛口のつけ汁と好相性の香り高くコシの強い蕎麦を、仕舞屋(しもたや)風の座敷で、せんべい座布団と小ぶりな卓袱台で頂くという、気取らない雰囲気までがご馳走だったように思います。

 庄イタにとってはセンチメンタルジャーニーに他ならない目黒近辺では、目黒通りからプラチナ通りに左折すると、およそ30年前の開店当初から通っていた「利庵(としあん)」があります。運が良ければ、目黒一茶庵よりも上品な印象の柚子切りを、行列が絶えないその店で食することができるでしょう。

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【Photo】山形市上町「手打蕎麦 竹ふく」。更科粉に柚子を練りこんだ柚子切りと上品なもりそばの組み合わせ「二色せいろ」(950円)。単品の「柚子切り」(1,030円)も

 角が立った極太の手打ち田舎蕎麦ゆえに、数本ずつ噛むように食し、うすもり(1人前)板蕎麦を食べ進めるうちに顎が疲れてくるのが、山形県村山市「あらきそば」。個人の好みですが、のど越しも重要な蕎麦の風味のファクターだと考える庄イタ。あらきそばに限らず、板蕎麦の多くは、つけ汁が甘い点も致命的。ゆえに山形営業所に勤務した1年間で訪れたのは一度のみで、その後は足が向かなくなりました。

 山形市の「手打蕎麦 竹ふく」は、「神田まつや」などで修業した主人が打つ江戸風蕎麦。蔵王の伏流水を打ち水とする地粉「でわかおり」を主体に、玄そば10割につなぎ1割未満の十一(といち)の細打ちで、あくまでものど越し爽快。辛口でスッキリしたつけ汁と上品な更科蕎麦との組み合わせの妙は、神田まつやに相通じるところ。

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【Photo】この1月末、久方ぶりに訪れた山形市東原町「手打 梅蕎麦」。山形産と北海道産の玄そばの更科粉・一番粉・二番粉を調合。とても十割とは思えない極細に仕上げてもコシがあり、辛めのつゆとの馴染みが良い。もりそばと柚子切りとの組み合わせ「二色せいろ」(1,000円)

 定番のもりそばに加え、桜・青紫蘇・菊・柚子と四季ごとの変わり蕎麦も同時に味わえる「二色盛り」がお勧めです。とりわけ12月~2月に供される柚子切りは、冬ならではの醍醐味といえる逸品。今シーズン初訪問の竹ふくで二色せいろを食した1月末、久方ぶりにハシゴをしたくなりました。出がけの〆は蕎麦猪口で蕎麦湯を1杯半。

 その足で向かったのが、竹ふく店主・山川敦司さんの実家が営む「手打 梅蕎麦」です。2003年10月からの半年間、梅蕎麦から徒歩2分の〝食住近接〟の場所に住んでいました。その年のGW明けに遠征した旧・櫛引町で、当時全くの無名であった「アル・ケッチァーノ」を発掘していました。<2007.6拙稿「庄内系転生伝説 プロローグ」参照>

 往時は庄内に軸を置き、野に山に、そして厨房で刻苦勉励していた奥田シェフ (遠い目)。その水先案内のもと、いのちを支える食を介した得がたい出会いを重ねて庄内系へと変容。山形内陸各地のそば街道巡礼からは足を洗って5か月が経過していました。2004年4月に仙台へと戻ってからも、柚子切りの季節には年1回ペースでリピートしていたのが、変わり蕎麦を供する竹ふくか梅蕎麦のいずれかでした。

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【Photo】柚子切りを始めたことを電話で確認し、梅蕎麦を訪れた2006年11月末。柚子切りの「二色せいろ」。極細の度合いが今年(上写真)と比べ、それほどでもなかったことがわかる

 ところが5年ほど前、神田やぶそばの「せいろう」を思わせるほど、梅蕎麦の盛りが妙に少なくなりました。必然的に梅蕎麦からは足が遠のきましたが、今回は竹ふくで二色せいろを食した後だったので、かえって極薄盛りで好都合。そう踏んで久方ぶりのハシゴ蕎麦を決行したのです。
    

【Movie】少年時代のパブロ・カザルス(1876-1973)が、バルセロナの楽器店で古い楽譜を発見するまでは、久しく世に知られることがなかったヨハン・セバスチャン・バッハの「無伴奏チェロ組曲」。ひときわ味わい深いこの演奏は、母国の旧ソ連を追われ、艱難辛苦を乗り越えた生きざまが音に深みを与える当代屈指のチェリスト、ミシャ・マイスキーによるもの。愛器モンターニャは、1720年ヴェネツィア製

 変わらぬ店構えの暖簾をくぐると、まず耳に入ってくるのが店内に流れるJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第一番。私がこの店と出合った13年前から、梅蕎麦のBGMは唯一無二。心の奥底に響くこの名曲です。(動画を再生しつつ読み進むと、疑似体験が可能かと)

 店主・山川純司さんが打つ香り高くコシの強い細打ち蕎麦は、以前よりもさらに極細へと進化し健在でした。この時季の変わり蕎麦は柚子切りであることは織り込み済み。チェロの旋律に浸りながらテーブル席で待つことしばし。運ばれてきた二色せいろは、嬉しいことにかつてのボリュームを取り戻していました。

ume-sobayu.jpg【Photo】蕎麦の茹で汁だけでなく、相当の割合でそば粉を溶かし込み、白濁したトロ~っと粘性が高いゲル状を呈する梅蕎麦の蕎麦湯。徳利や猪口は山形市千歳山に文化年間より伝わる平清水焼

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 人の声に最も近いといわれるチェロの内省的な響き。無伴奏組曲のはずが、極細ゆえの心地よいのど越しを堪能すべく、ズズズ・・・と威勢よく蕎麦をすする庄イタが奏でる調べが合いの手となり、サラバンドと重なります。

 そこにはフーガト短調のように複数の旋律が重なり合うことで調和を生み出すポリフォニーが成立していたのです。それは大バッハもびっくりポンな対位法なのでありました。

 米国の前衛音楽家ジョン・ケージ(1912-1992)や、Starless And Bible Black におけるキング・クリムゾンのような偶然性が生み出すインプロビゼーション(即興演奏)の妙といえなくもありません。

 梅蕎麦での楽しみが、〆の蕎麦湯です。茹で湯とは別誂えで、そば粉を加える梅蕎麦の白濁した蕎麦湯は、ポレンタの濃厚スープか煮詰まったポタージュを噛みしめるかの如き食感。旨し蕎麦の余韻まで味わえます。

J.S.Bach.jpg

 ドイツ・チューリンゲン地方で存命中、J.S.バッハは、作曲家としてよりも教会オルガンの即興演奏家として知られました。

 蕎麦を食するズズズ・・・という音と、無伴奏チェロ組曲第一番との不協和音とも、和音とも受けとれる即興が繰り広げられる梅蕎麦。少なくとも梅蕎麦の蕎麦湯に関しては、きっとバッハも「Wunderbar ! ブンダバー! (=素晴らしい!と感心してくれることでしょう。

*****************************************************************

手打蕎麦 竹ふく
住:山形市上町2-3-1
Phone:023-643-8003
URL: http://www.ab.auone-net.jp/~takefuku/
営:11:30-15:00 水曜定休
24席 禁煙 無料P(10台分)あり

手打 梅蕎麦
住:山形市東原町3丁目5-10
Phone:023-622-8377
営:11:30-14:30 火曜定休 年始休
URL:なし
24席 禁煙 無料P(11台分)あり

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投稿者 vam : 21:26 | カテゴリー : ごちそうさまでした/| カテゴリー : ・Pref.Yamagata 山形

2016/01/17

Nostalgia del paese

ノスタルジアな絵地図で妄想里帰り


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【Photo】スイス(C.H.)・フランス(F)と国境を接するピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ自治州。両州各地の建築や名産品、観光資源を細密なイラストで表した1950年代にイタリアで作成された絵地図 (W237mm×H310mm)

 このヴィンテージマップは、旧市街の四方をルネッサンス期の城壁が囲むトスカーナ州の古都Lucca ルッカで購入したもの。地図の裏面には、1950年代から60年にかけて作成されたことを示す古書店による証明書(右下)が貼付されています。

certificato-garanzia.jpg ピエモンテの州都トリノのモニュメントとして登場するのが、市街地郊外の高台に建つスペルガ聖堂と、16世紀に欧州の覇権を競ったフランスを撃破し、サヴォイア公国の首都をトリノに定めたエマヌエーレ・フィリベルトの銅像。

 さらにFiat の生産工場「Lingotto リンゴット」<2007.7拙稿「そしてトリノ」参照>で、トリノの自動車産業が華やかりし1950年代から60年代に生産されたモデルFiat1100。スイスやフランスとの国境を越える鉄道を疾走するのは蒸気機関車。こうしたアイコンからも、およそ半世紀前の時代背景がうかがえます。

 この絵地図を眺めていて浮かんできたのが、1918年(大正7)に発表された室生犀星(1889-1962)の「抒情小曲集」に収められた「小景異情その二」でした。

    ふるさとは遠きにありて思うもの
    そして悲しくうたふもの
    よしや
    うらぶれて異土の乞食となるとても
    帰るところにあるまじや
    ひとり都のゆふぐれに
    ふるさとおもひ涙ぐむ
    そのこころもて
    遠きみやこにかへらばや
    遠きみやこにかへらばや

map-con-frame.jpg 文学の道を志して上京後も、室生犀星が抱き続けたのが故郷金沢への複雑な感情。元加賀藩士の父と女中との間に生まれ、生後間もなく養子に出された金沢は、血の通った親の愛情を知らずに育った犀星を暖かく迎え入れてくれる地ではありませんでした。

 そんな近親憎悪にも似たアンビバレンスな思いを抱かせるでもなく、庄イタにとってのイタリアは、降りたつたび、そこが異郷であることなど微塵も感じさせません。帰りたい。でも帰れない・・・。

 年末年始にふるさとへ帰省をされた方でも、曜日まわりの関係で、今年はお正月休みが例年になく短かったと感じておいでの方が多いのでは?

 生まれ故郷にひとかたならぬ愛着を持つ郷土愛の権化のごときイタリア人。その常として、郷里には強い帰巣本能が働くもの。庄イタの場合は、その対象が前世のピエモンテほかイタリア各地であり、現世における第二の故郷である庄内地方だったりするわけです。

 さりとて、年末年始に久しく訪れていないイタリアを満喫するに足る長期の休みをとることなど、現実には仕事の関係で夢のまた夢。そんな籠の鳥である庄イタが、遠く離れた故郷を懐かしむに十分な風物が多数ちりばめられたのがこの絵地図。

 芸術の国イタリアでは多くの家庭がそうするように、絵画には似つかわしい額装を施します。この絵地図とて例外ではなく、そうして彼の地へと思いを馳せるのです(上写真)。いざ、地図の旅へ。行け! 我が思いよ。黄金の翼に乗って。

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【Photo】Fiat1100、市街地郊外の高台に建つスペルガ聖堂、サン ・ カルロ広場のエマヌエーレ・フィリベルト像の3点セットはピエモンテ州の州都Torino トリノ(左上)  ランゲ丘陵の銘醸地の中で最も名高いBarolo バローロは、白トリュフが香るAlba アルバ近郊の小さな村。スプマンテ発祥の地がCanelli カネッリ(右上)  Cuneo クーネオ一帯のランゲ丘陵の森は、欧州きっての良質なヘーゼルナッツと栗の名産地(左下)  Biella ビエッラはイタリア繊維産業の中心地(右下)

 魅力が地に満ち、幸福が天から降臨する稀有な国・イタリアは言うに及ばず、ここ数年、歳末の恒例だった庄内&新潟村上への爆買いツアーにすら出向けなかったこの年末年始。地図中に登場するピエモンテゆかりの産品を愛で、里帰りの妄想に少しだけ浸れました。

gianduiotti.jpg【Photo】トリノ生まれのヘーゼルナッツ風味のチョコレート「Gianduiotto ジャンドゥイオット」(中)と、少し小ぶりな「Gianduiottino ジャンドゥイオッティーノ」(左)は、一個づつ金紙に包まれている。〈2007.8拙稿「チョコレートの街トリノ」参照〉  H27年産「ゆきむすび」〈2008.10拙稿「鳴子の米プロジェクト 稲刈り交流会」参照〉の現地受け取りのため、12月末に訪れた鳴子への道すがら立ち寄ったのが「あ・ら・伊達な道の駅」。ROYCE'コーナーで購入した北海道生まれの生チョコ・ジャンドゥイオット風味(右)

 例えばローストすると比類なき芳香を放つクーネオ県特産のヘーゼルナッツを練りこんだジャンドゥイオット。ナターレ(=クリスマス)に北イタリアで食する菓子パンドーロやパネトーネにぴったりなのが、Moscato d'Asti モスカート・ダスティ。

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【Photo】バニラがほのかに香るヴェローナ発祥の八角形をした円錐型のクリスマス菓子「Pandoro パンドーロ」。内袋から取り出す前に粉砂糖を加え、全体にまぶすようにシェイクしてから食するのがコツ

 1990年代半ばに飼育頭数が激減し、スローフード協会が小規模な生産者による保護すべき地域の伝統食材「Ark アルカ(味の箱舟)」に指定する「Razza piemontese ピエモンテ牛」。白毛でコレステロール値が低いこの希少な牛肉の入手はかなわずとも、黒毛和牛の霜降りのような過剰な脂肪がない赤身の旨味が凝縮した赤毛の「いわて山形村短角牛」を盛岡で調達。(2008.6拙稿「元気いっぱい! 放牧牛」参照)〝おせちもいいけど、ピエモンテ料理もね〟ということで、ワインの過剰在庫を抱えるTaverna Carlo タヴェルナ・カルロでピエモンテ風煮込みに仕立てました。

pandoro-moscato.jpg【Photo】上品なマスカット香が特徴のアスティ特産の微発泡性白ワイン「Moscato d'Asti モスカート・ダスティ」が、まさに鉄板の組み合わせ

 ピエモンテ牛と同様、アルカ認定されている日本短角種。噛めば噛むほど滋味深い短角牛の頬肉煮込みにピタピタと合ったのが、ピエモンテ人が愛してやまない「Dolcettoドルチェット」100%のヴィーノ・ロッソ。その極め付けが、土壌の異なる3か所の畑に由来する複雑味と目が詰まった重厚さがあり、しなやかな味わいのバランスに優れた「Dogliani Superiore Vigna Tecc ドリアーニ・スーペリオーレ・ヴィーニャ・テック」2011年ヴィンテージ。

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【Photo】多くの場合はミディアムボディで汎用性が高い赤品種ドルチェットが、持てるポテンシャルを最大限に発揮するのが、2011年にDOCGに昇格したエリア「Dogliani ドリアーニ」。10kmほど北のDOCGバローロ産地では、ネッビオーロを植える最も条件の良い南斜面の畑で育った完熟ドルチェット100%のヴィーノ・ロッソ「ドリアーニ・スーペリオーレ」。作り手はイタリア共和国第二代大統領を務めたルイージ・エイナウディ(1874-1961)が、政界引退後に興した醸造所「ポデーリ・ルイージ・エイナウディ」

 ドルチェットだけでは終わらないのが庄イタ。日頃は整理がつかないTaverna Carloのセラーから取り出したのが、冬場が最もおいしく感じるネッビオーロの精華Barolo バローロです。どれにしようかな~♪と、目移りする良作年ストックのうち〝そろそろ試してみてもいいかも棚〟より両手で一つかみ(下写真)。ボトルを立てて滓を落ち着かせアイドリング状態に。

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 こうして不摂生を重ねた年末年始明け。年初までの暖冬モードが一変、今週から厳しい寒波に見舞われています。かくなる上は酒と薔薇で体脂肪を蓄え、冬を乗り切るロードマップ作戦を展開中 (*^-^)ノY☆Yヾ(^-^*)。そんな他愛のないオチで今回は締めましょう。

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投稿者 vam : 01:40 | カテゴリー : ITALIA/| カテゴリー : Libro e Cinema, Arti 書籍と映画, 芸術/| カテゴリー : Vino ヴィーノ/| カテゴリー : @Taverna Carlo

2016/01/10

苦難を乗り越え、かなえた夢の雫

鼎ヶ浦の美酒「酒也 鼎心(かなえ)

 皆さま、本年も「Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅~」をご贔屓に預かりますよう、お願い致します。一陽来復。2016年の幕開けを飾るのは、穏やかな新年を迎えた宮城県気仙沼市本吉町大谷海岸からの初日の出の画像から。

alba-2016@oya.jpg 出合いから5年を経た今も鮮烈に記憶に残っている美酒にまつわる物語を2016年幕開けの話題として今回はご紹介します。発端は2011年に年が改まった日。それは東日本大震災発生が発生する2ヶ月あまり前のことでした。

fukuyoshi-otokoyama-daigin.jpg【Photo】今が旬のキンキ(吉次)、唐桑産カキ、サンマ、カレイなど、気仙沼で揚がった鮮度抜群の地物に丹念に火入れした〝日本一の焼き魚〟を食べさせてくれる海鮮居酒屋「福よし」。ご主人の村上健一さんの筆になる福よしオリジナルラベルの伏見男山純米大吟醸の相伴は、絶品の烏賊腑味噌焼き

 海とともに生きる気仙沼の地酒といえば、「金紋両国」・「船尾灯(ともしび)」・「別格」・「福宿(ふくやどり)」などの銘柄を醸す角星(明治39年創業)と、「伏見男山」・「蒼天伝」が二枚看板となる男山本店(大正元年創業)が両雄。

 2011年3月に発生した東日本大震災では、両社とも内陸部にあった酒蔵は大きな被害を免れました。しかしながら、ともに国指定有形登録文化財に指定されていた趣ある本社屋が津波で壊滅。震災発生から5年を迎え、嵩上げや防潮堤工事が進むなか、現地再建に向けてそれぞれ始動しています。

iwao-saya_okoshi.jpg【Photo】津波で店舗兼自宅が流失。現在も大谷小中仮設住宅で暮らしながら、親類宅の敷地に設置したコンテナの仮店舗で業務を続ける大越商店。2013年4月に訪れた店舗の中で宿題をしていた長女の彩弥ちゃん(当時小学3年生)と大越巌さん(当時46歳)。先日会った彩弥ちゃんは、お父さんの胸ぐらいの背丈まで背が伸びていた

 震災直前の5年前、初めて口にする機会があったのが「鼎心かなえ」という気仙沼の酒。それは、同市本吉町大谷(おおや)の酒販店「大越商店」の現当主・大越巌さんが、1993年(平成5)から栽培に取り組み始めた地元のコメと水だけを使い、男山本店に750ℓ容量のタンク1つ分だけ醸造を委託したという極めて稀少な純米吟醸酒でした。

 朱色のラベルは、大越さん自身による墨痕鮮やかな〝酒也 鼎心〟の揮毫。口に含むと完熟メロンに通じる上品な吟醸香が適度にあり、長い余韻を伴った芳醇なコメの旨みがどこまでも広がるのでした。

kanae_hiire.jpg【Photo】もろみを搾った生原酒を湯煎した「純米吟醸 鼎心 火入 無濾ろ過原酒」。大越巌さんの筆によるラベル

 気仙沼市本吉町大谷は、遠浅の海原に面した全幅1kmの砂浜が弧を描く白砂青松の地。「日本の水浴場55選」や「快水浴場100選」として、環境庁から認定を受けた大谷海岸には〝日本一海水浴場に近い駅〟といわれたJR気仙沼線の大谷海岸駅がありました。

 ピンク色のハマナスが浜辺を彩る季節、宮城県内だけでなく岩手県南や山形内陸から訪れる多くの海水浴客で賑わいました。海沿いを並走するR45には道の駅「はまなすステーション」が併設され、定置網にかかったマンボウが、のんびりと水槽で漂う姿に和んだものです。

 しかしながら、地区の世帯のおよそ半数にあたる1,670棟の家屋が流失するなどの大きな被害を受け、75名が犠牲となった震災を境に、こうした記憶の中の風景は全て過去形で語らざるを得なくなりました。

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【Photo】仙台でガソリンの供給が幾分なりとも改善し、生活物資や食料を積み込んだ車で気仙沼を被災後初めて訪れたのが2011年4月10日。20m超の津波で全壊した道の駅はまなすステーション展望台の最上部から心が折れそうになりながら撮影した1枚。大谷の人々の暮らしが無残に打ち砕かれた爪痕が痛々しい変わり果てた光景。瓦礫を取り除いただけで砂塵が漂うR45とJR気仙沼線の線路が延びる方角に大越商店があった(上写真)。同日撮影した下写真右手の建物が大越さんが地震と遭遇した「はななす海洋館」の一部

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 大谷海岸には9.8mの防潮堤が整備される計画で、黒い土嚢の仮堤防が築かれている現在は、ほとんど美しい海を眺めることができません。R45から大谷漁港に分岐する脇道沿いに、かつて酒類とLPガスを扱う大越商店はありました。

 あの日、大越さんは酒の配達に来ていた大谷海岸に面した「はまなす海洋館」で、体験したことのない強烈な揺れに遭遇。6mの津波襲来をニュースが告げていたため、車で2分とかからない距離の海抜5m地点に建っていた店舗兼自宅に営業車で戻り、家族をワゴン車に乗せて高台に避難させました。業務用の車を移動させようと自宅に戻ったところで津波が大越さんを襲います。膝まで水につかりながら、かろうじて動いた車で高台まで避難し、難を逃れることができました。

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【Photo】2013年5月。遠目には震災前とさして変わらぬ気仙沼湾を眼下に見渡す標高239mの安波山(あんばさん)山頂からの眺め。震災で発生した火災で焼け野原となった鹿折(ししおり)と南気仙沼は地表が露出している(両端)。外洋に面した沖合いに気仙沼大島があるため、波静かで天然の良港であるこの入江を「鼎ヶ浦」と命名したのは仙台藩学問所「養賢堂」指南役を務めた詩人・書家の油井牧山(ゆいぼくさん 1799-1861)

 千葉での会社勤めを経て家業を継いで間もない大越巌さんが、地元のコメと水だけで地元の蔵人が作った本当の地酒を自身の手で作ろうと一念発起したのが24歳のとき。酒造りや酒米に関する書籍をむさぼり読み、県内外の酒米生産者や農協・蔵元を訪問。種籾を手に吟醸酒の醸造に必要な1,500kgの酒造好適米の栽培に協力してくれる農家探しに明け暮れること数ヵ月。

shikomi-mizu_otokoyama.jpg【Photo】鼎心にも使用される男山本店の仕込み水は、北上山地の伏流水が湧出する旧JR大船渡線の上鹿折駅近くにある、この個人宅の井戸を使用している

 ようやく見つけた地元3軒の農家の水田で、支援者とともに気仙地域で初めてとなる酒造好適米「美山錦」の作付を試みたのが1993年(平成5)の春。ところが種籾の確保や田植えから始まった大越さんの果敢な挑戦に天は味方をしてくれませんでした。外米の緊急輸入に踏み切った「平成の大凶作」にあたった挑戦初年の収穫はわずか360kg。初年度は酒造りを見送った翌年は2軒の生産農家が加わりますが、猛暑による水不足と収穫期の長雨、台風の直撃に見舞われました。

 初年度の10倍にあたる3,600kgの美山錦と新たに「亀の尾」を収穫した2年目。男山本店の蔵人から指導を仰ぎ、1基の750ℓタンクに仕込んでから上槽。念願かなって初めて吟醸酒が仕上がったのが1995年3月。自身で本物の地酒を作ろうと思い立ってから4年の歳月が流れていました。

 「理想とはほど遠い出来でした」と笑いながら当時を振り返る大越さんは、田植えや稲刈りに参加した支援メンバー15名が考えた150もの候補から、その酒を「鼎心」と名付けます。

【Movie】岩手県境に近い気仙沼市北西部の山あいにある水清らかな廿一(にじゅういち)地区。初年度から酒米の植え付けに協力してきた農家のひとり千葉清幸さんの圃場。当初は信州生まれの酒造好適米「美山錦」を作付けしていたが、現在は平成9年に奨励品種に採用された宮城県古川農業試験場生まれの「蔵の華」を酒米としている

 蜂ヶ崎・神明崎・柏崎という3つの岬に内湾を囲まれた気仙沼湾は、別名「鼎ヶ浦」と呼ばれ、高校の校名にもなっていたほど地元では馴染みある言葉。もともと〝鼎〟は中国最古の王朝「夏」以来、王権の象徴とされた3本足の青銅製炊器の呼称です。鼎心とは栽培農家・蔵元・飲み手が三位一体となって、王位の称号にふさわしい酒を目指そうという気概を込めた名前なのです。

 以来、生産農家と支援者に支えられ、合計90アールの水田に作付を行ってきたコメ作り。理想の味を求め、男山本店の杜氏との二人三脚で鼎心の酒質を高めてきた大越さんにとって、二度目の大きな試練となったのが東日本大震災でした。避難所暮らしを続けていた2011年5月、大谷海岸から少し内陸部に入った本吉町寺谷の親類宅の敷地に仮店舗を構えます。

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 不屈の精神で、震災発生の翌年から醸造を再開。一昨年からは、仕込みを大越さんと気心が知れた同級生の杜氏が担当するようになりました。その結果、鼎心の完成度が更に高まった印象があります。

 今醸造年度27BYは11月末に搾りを行いました。今年も納得の仕上がりだという搾りたての「純米吟醸 槽口(ふなぐち)無ろ過生原酒」を、大晦日に伺った仮店舗で購入しました。

 火入れしていないフレッシュな飲み口を堪能できる搾りたてを楽しむもよし。しばらくは冷蔵して春先以降まろやかさが加わった円熟の味を堪能するもよし。

 今年3月には4年9カ月を過ごした仮設住宅を出る予定という大越さん。その再出発のお祝いを兼ね、震災から5年を経る3月11日以降、新酒を開けるつもりです。

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okoshi-shoten_2013.jpg大越商店
・仮店舗住所:宮城県気仙沼市本吉町寺谷88-13
・Phone:0226-44-2701
・F a x :0226-44-2212
純米吟醸 酒也 鼎心(かなえ)
 1800mℓ 税込3,085円 / 720mℓ 税込1,644円


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投稿者 vam : 23:31 | カテゴリー : Vino di Riso(Sake) 日本酒/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城/| カテゴリー : 再生へ 心ひとつに


「庄内系イタリア人」こと
木村 浩人

外見と所持するパスポートの国籍は日本人。なれど脳細胞はイタリア人。≫詳細

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