あるもの探しの旅

  •  美味しいものって、私たちを幸せな気持ちにしてくれますよね。
  • ふだん私たちが何気なく口にしているもの。
  • それはどんな人が、いかなる風土のもとで、どんな思いで作っているのか。
  • そんなことを考えてみたことってありますか。
  •  自分の体に取り込むものだからこそ、もっと知りたい。
  • 大量生産品が持ち得ないモノたちが秘めた飛びっきりなストーリー。
  • どうやら東北に暮らす私の足元と、ハンドメイドな職人王国のイタリアには
  • そんな物語がたくさんあるようです。
  •  ご一緒に「あるもん探しの旅」にちょっと出てみませんか
  • 読んで美味しい知ってうれしいお話を、どうぞ召し上がれ。Buon appetito!

2016/06/27

リング、らせん、ループ。

連鎖する言霊現象2016

 作家・鈴木光司氏のホラー小説3部作のタイトルを列記した今回。「言霊」は心霊現象ではありませんが、立て続けに3度目の美味しい言霊現象が起きました。

 前稿「念ずれば すなわち是 通ず(≒ 届く)」をアップした日曜日。朝食後に言霊フルーツ第2弾で頂いた佐藤錦の残りを食べ尽くし、カフェラッテでまったりしているところにインターフォンのチャイムが鳴りました。

 モニター画面には、お隣りの奥様が玄関先に佇んでいる姿が映し出されています。「どうぞ召し上がって下さい。(^^)」とお裾分けに頂いたのが、ぷるんとした赤い輝きを放つコレ。

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 山形県寒河江市と並んでサクランボ栽培が盛んなのが、佐藤錦発祥の地で仙台市と隣り合う東根市。観光サクランボ園に向かう車で混み合うR48で県境を越え、土曜日にご家族4人で東根の果樹園に行っていらしたそう。

 大きさが25mm以上の2L~3Lサイズはあろうかという真っ赤に色づいた果実を食してみると、酸味と甘味のバランスが絶妙な佐藤錦とは風味が異なります。酸味が弱いことから、入れ替わりでこれから旬を迎える「紅秀峰」と思われます。

 二度あることは三度ある。言霊現象は連鎖するようです。「♪ Oooh きっと来る~」という映画「貞子」のテーマ曲「feels like "HEAVEN" by HⅡH」が、今も頭の中を駆け巡っております。

 昨日に続いて「どうもごちそうさまでした m(_ _)m」

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投稿者 vam : 00:37 | カテゴリー : ごちそうさまでした

2016/06/26

念ずれば すなわち是 通ず(≒ 届く)

イリュージョン・チェリー from 庄内

フェロモンメロン ~ 奇蹟の遭遇@道の駅フェスタ in 仙台」続編

 言霊(ことだま)アムさんメロンの甘い香りに包まれた拙宅に、言霊フルーツ第2弾が届いたのは、もはや必然だったのかもしれません。

 それが届いたのは、山形内陸で、お久しぶり & お初にお目にかかる場所を訪れた休日明け。蕎麦を食したいと言う家人を伴い、今の時季はサクランボ狩りに向かう車で渋滞必至のR48は避けたほうが得策と考え、山形自動車道笹谷峠経由で山形市を訪れたのが先週日曜日。

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 それがアンビリーバボーな言霊果実第2弾の伏線となりました。

 J.S.バッハをBGMに冬の変わり蕎麦「柚子切り」を食したのが今年1月末。〈2016.2拙稿「Pizzoccheri al citron giapponesi 柚子切りは J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲とともに」参照〉山形市を訪れたのは半年ぶりです。

 伺ったのは山形では最古参のそば処だという有名店「そば処 庄司屋本店」。

 慶応年間に創業したこの蕎麦処を訪れるのは、山形総局に勤務していた2003年(平成15)、蕎麦好きの総局長Kさんと訪れて以来。

 庄司屋本店再訪の目的は、期間 & 数量限定の「天保そば」。

 1998年(平成10)、福島県双葉郡大熊町の古民家の解体中、屋根裏の古びた俵の中から、炭や灰に覆われた玄ソバが発見されます。これは天明の大飢饉を生き延びた祖先が、再び襲う飢饉への備えに残したと推測されるもの。

 前々回の〝屋根裏カラヴァッジョ〟@トゥルーズは150億円相当ですが、子孫に託され160年の時を経て屋根裏から目覚めた天保そば@福島の価値は、まさにPriceless

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 とはいえ傷みが目立つ玄ソバを発芽させようという研究機関や大学による試みは、ことごとく失敗。1999年(平成11)に発芽から開花・結実・収穫までを成し遂げたのが、福島の製粉業者仲間から100gの玄ソバが送られてきた山形市「鈴木製粉所」社長の鈴木彦市氏(故人)

 品種改良がなされる前の江戸末期からタイムトンネルを越えて復活した天保そば。製粉業者や蕎麦店主などで構成される「幻の山形天保そば保存会」では、交雑を避けるため、酒田から39km沖合いの飛島で原種栽培を行うなどして作付を増やしてきました。

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 2005年(平成17)からは保存会メンバーの蕎麦店で生そばの提供を始めました。今年も6月1日から会員が営む上記13店舗で、昨年秋に収穫し、低温保存していた天保そばの提供が始まっています。早い店では1週間から10日ほどで完売するのだといいます。

 江戸風の上品な更科とコシの強い田舎の相盛りが庄イタの定番だった庄司屋本店。12時半を過ぎ、混み合う蔵座敷には、早咲きのヒマワリを生けた鉢と最上川の雪景を描いた真下慶治の風景画「デルタが見える最上川」が掛かり、夏と冬とが共存しているようでした。

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 山形内陸ならではの「板そば」(1人前1,450円)には目もくれず、一点買いした「せいろ天保そば」(同1,080円)は、これまで食べてきたいかなる蕎麦とも異なるものでした。

 雑味のない本枯節と利尻昆布で出汁をとる辛口そばつゆ、蕎麦粉10割+つなぎ1割の「といち」が基本の庄司屋。パスタで例えれば、ブロンズダイス成形による表面の細かい凹凸があるルヴィタタイプの天保そばは、コシがありながらも、もちっとした食感が特徴。力強い蕎麦の香りの後に甘味が残ります。

 蕎麦湯には柚子七味を加え、稀少な江戸の味を堪能した余韻に浸ることしばし。白濁した蕎麦湯の後は、蔵王温泉の白濁した強酸性の硫黄泉が恋しくなります。温泉街がある蔵王の標高880m地点に向かう前にチェックしたのが、旬真っ盛りのサクランボ。春先から温暖だった今年は豊作なのだとか。

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 昼夜の寒暖差が大きい盆地性気候で果樹栽培に適した山形県内陸部。サクランボ栽培が盛んな村山地域でも、全生産量の3割程度しかない秀クラス以上で大玉Lサイズの代表品種「佐藤錦」は、たとえバラ詰めだとしても1kg4,000円を下回ることはありません。まして贈答用の手詰めともなれば価格は推して知るべし。

 仙台とそう変わらぬ産地価格を前に、無念のスルーを決断したのです。

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 蔵王へ向かう道すがら、平清水の窯元「七右エ門窯」を訪れ、震災で破損して揃いが不足していた湯飲み茶碗を五客購入しました。

 窯元の敷地内には酒田在住の日本酒師匠Aさんご推奨の純米酒専門店「正酒屋六根浄」があります。初対面の店主・熊谷太郎さんからお薦め頂いたのが、福島県郡山市田村町で、江戸中期の1711年に創業した金寶(きんぽう)酒造・仁井田本家の純米吟醸「田村」。

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 自社田で蔵人が無農薬自然栽培する「亀の尾」を全量使用しており、18代目蔵元とこの道60年の杜氏をはじめとする作り手の思いが伝わる1本。平清水で購入した茶碗は、酒器にも適しているようで。。。(^ω^;)

 凄みすら感じるコメの旨味。素材の良さを余すところなく引き出したふっくらとした味わい深さと力強さを兼ね備えた田村は、冷で良し、燗で良し。これは旨い!!

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 そして翌月曜日。拙宅に届いたのが、品名に「佐藤錦」と記載されたこちらの箱(上)。前日、山形で購入を見送ったサクランボが、イリュージョンのごとく目の前にありました。

 すわプリンセス・テンコーこと2代目引田天功の所業か? そんな妄想を巡らせるまでもなく、送り主は鶴岡在住の知人でした。

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 高まる期待を胸に開けてびっくり玉手箱。中身は高級品の証であるぎっしり手詰めの言霊サクランボ。箱に記載された生産者名は平藤丈司さん。

 昨年JA全農山形などが主催した佐藤錦に次ぐ優良品種として期待がかかる新品種「紅秀峰」の品評会において、食の都・庄内地域から唯一入賞を果たしている生産者です。

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 いわずもがなですが、これまた旨い!! どうもごちそうさまでした。(昨年は送り主に牛タンをお送りした今年のお返し。今年はちょっと気張らねば...。)
  
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投稿者 vam : 07:56 | カテゴリー : ごちそうさまでした/| カテゴリー : ・Pref.Yamagata 山形

2016/06/19

フェロモンメロン

奇蹟の遭遇@道の駅フェスタ in 仙台


 どこで区切るのか紛らわしい今回のタイトルですが、フェロモン+メロンと読み解いて下さい。

 それは仙台市役所で行われた会議を終え、同僚と共にタクシーで勤務先に戻ろうとした6月16日(木)のことです。

 市役所前の勾当台市民広場で開催されていた「東北6県『道の駅』まるごとフェスタ」が、ふと気になり、広場を素通りできませんでした。

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 今回が初開催となるこの催しは、NPO法人東北みち会議が主体となり、各駅長らで組織した実行委が主催したもの。東北6県から39の道の駅が集結。各地自慢の産品を販売したほか、熊本県産品の委託販売も行われました。

 「ちょっと覗いてみていい?」と同僚に声を掛け、3年前、立佞武多(たちねぷた)の折に訪れた〈2013.8拙稿「庄内系イタリア人的青森〈後編〉燃え立つ夏2013@青森:津軽編」参照〉青森県北津軽郡鶴田町の道の駅「鶴の里あるじゃ」のブース前で、ごく淡い期待を胸に足を止めました。

 昨年、激しい戦いの末、タレントのモト冬樹さんが準優勝した「吸盤綱引き全国大会」が開催される鶴田町特産のブドウ「スチューベン」果汁100%ジュースは置いていましたが、アルコール発酵したブドウ果汁や、並外れた美味しさの路地ものメロン「優香(ゆうか)」は残念ながら見当たりません。

amu-san@kotodai-001.jpg ブースにいらした係の方と「優香メロンが出回るのは7月中旬からですよねー」と恨めし気に言葉を交わし、すぐ左隣のブースに移動すると...。

 そこに黄色味がかった淡い緑のマスクメロン(右)が鎮座していたのです。
 
 何が起きているのか、事態の展開が飲み込めないまま、ある確信をもって看板を見ると「青森・道の駅 ひろさき」とあります。

 間違いありません。オレンジ色のラベルが貼られたそのメロンは、ここ何年か庄イタが夏に恋してやまない「アムさんメロン」なのでした。

 夏場の豊富な日照、昼夜の寒暖差、水はけのよい砂丘地帯といった津軽の風土、そしてハウス栽培による徹底した品質管理のもとで生産され、弘前中央青果が商標を有する「アムさんメロン」(品種名:優香(ゆうか))。

 果皮ぎりぎりまで食すことができる緑色系のキメ細やかな果肉のみずみずしさ、時に糖度18度に達する食味と香りの良さは、一度体験したら忘れられません(北海道産の有名ブランド高級メロンは、最高級の特秀で糖度13 %以上)

 よもや勾当台市民広場で遭遇しようとは、予想だにしないアムさんメロンを前に、庄イタが興奮冷めやらぬのには理由がありました。

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 梅雨の晴れ間が広がったその日。今年の春先に発見したアルデンテな平成進化形ナポリタンを食した足で、すぐ近くの「GELATI BRIO ジェラーティ・ブリオ〈2015.6拙稿「Il dolce e l'amaro スウィート & ビター 〈後編〉」参照〉で、店主の磯部智広さんとアムさんメロンの噂話をしていました。

 過去2年連続で品評会出品メロンを入手している「青森マルシェ」の今年度第1回目が、7月17日(日)に青森市で開催されることから、「出荷の最盛期を迎える来月、青森に行けたらサンプルを買ってくるよ」という話の流れになっていたのです。

 古来、言葉には不思議な霊力が宿ることがあると申します。勾当台公園にあったアムさんメロンを、言霊(ことだま)メロンと呼ばずして何と呼べばよいでしょう。
 
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【Photo】週末に食べ頃を迎えた2016年の初物アムさんメロン。まだ旬の走りの初物にして、期待を裏切らない素晴らしい食味に魅了された

 青森以外にはまず出回らないアムさんメロンと勾当台公園で遭遇するとは、まさに渡りに船。川で洗濯中にモモではなくメロンが流れてきた上、葱ではなくメロンを背負ったカモまでが飛来したに等しい展開なのでした。
 
 しかも、催し最終日の閉幕時刻間近とあって、定価2,000円のところ2個以上購入で1個あたり1,000円という好条件が提示されていました。そこで3個は自家消費用に、1個はサンプル用に購入し、帰り足で店に届けました。

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 メロンは俗にいう下のお尻部分を押して弾力が出てきたら食べ頃。この週末に食した1個目は、庄イタのアナログ式バイオ官能糖度計(⇒ 伊語:lingua, 英語:tongue, 日本語:舌)の計測では、優に推定糖度17度を超える高貴な甘さを有しており、昨年に続いて今年の作柄にも期待が持てそうです。

 今、こうしている間にも、追熟中のアムさんメロンからは、えもいわれぬ芳香が漂ってきます(上画像)。敢えてリビングルームに置くことで、天然成分100%の心地よいアロマで部屋は満たされてゆきます。

 アムさんが発する「完熟してからワタシを食べて~♥」フェロモンに、ここ数日魅了されまくっていたところ、冴えわたる超能力の成せる業としか解釈のしようがない言霊フルーツ第二弾が待ち受けていました。

to be continued...

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投稿者 vam : 20:43 | カテゴリー : イベント&催し/| カテゴリー : ・Pref.Aomori 青森/| カテゴリー : 食をめぐる出会い

2016/06/12

光と闇。二つの肖像 〈後編〉

二つのバッカス。そしてダヴィデとゴリアテ


 かの万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)と同様に、出身地の名で広く知られるミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)が本格的に創作を行ったのは、15年にも満たない歳月に過ぎません。

 存命中から1620年代にかけて登場した「カラヴァジェスキ」と呼ばれる多くの追従者を輩出するものの、没後は人々の記憶から急速に忘れ去られました。

Ottavio_Leoni,_Caravaggio.jpg【Photo】「ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの肖像(部分)」(1621 フィレンツェ:マルチェリアーナ図書館蔵)ローマ出身の肖像画家オッタヴィオ・レオーニ(1578-1630)は、カラヴァッジョとは7歳差。両者はともにマーダマ邸に住まうフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿の庇護下にあり、面識があった

 ごく一部の知識人を除けば、忘却の彼方に埋没していた画家に対する再評価がなされたのは20世紀半ば。バロックへの扉を開いた巨匠として復活を果たすまで、実に300年以上を要しました。

 謎多き生涯と作品についての新たな発見は、現在も続いています。

 2014年4月、フランス南西部トゥルーズで、民家の雨漏り補修のため、住民が鍵をこじ開けた屋根裏部屋に放置された1枚の油絵を見つけます。鑑定の結果、それがカラヴァッジョがローマで精力的に創作を行っていた1604~05年に描かれた真筆であるとセンセーショナルな発表がなされたのが今年4月。

 この鑑定が正しければ、1億2千万ユーロ(約150億)と評価された「ホロフェルネスの首を切るユディット」が、恐らくはナポレオンの配下によってイタリアから略奪された後、150年以上も人知れず屋根裏部屋で眠っていたのです。これぞ〝棚カラぼた餅、屋根裏カラヴァッジョ。〟(蛇足ながら、150億円を支払う財力が庄イタにあったとしても、発見された絵を部屋に飾ろうとは思いません)

bacchino-matrato.jpgBacchino malato 病めるバッカス(バッカスとしての自画像)(1593~1594 頃 ローマ:ボルゲーゼ美術館蔵)】鏡の前で酒神に扮してポーズをとる画家自身を描いたこの作品と対峙する時、バッカスが視線を向ける鑑賞者の位置にいた画家本人が仕掛けたアイロニカルな罠に慄然とする。皮肉にも酒乱だったミケランジェロ・メリージが引き起こした幾多の警察沙汰は、少なからず酒の勢いだったという。同時代を生きた伝記作家の証言や犯罪記録をまとめた「カラヴァッジョ伝記集」〈右下〉(石鍋真澄編・訳 / 平凡社ライブラリー2016.3刊)

 庄イタが信奉する酒神ディオニューソス(バッカス)を題材にカラヴァッジョが描いた二つの作品は、1917年から1940年代後半になって真筆として確認されています。

caravaggio_storia.jpg 寵愛を受けたクレメンス8世(1536-1605)からカヴァリエーレ・ダルピーノの名を拝命したローマ教皇庁ご用達の画家ジュゼッペ・チェーザリ〈左下〉(1568-1640)に師事していた1593年頃、ミケランジェロ・メリージは馬に蹴られて足に重傷を負います。

 モデルを雇う所持金がなかった画家自身を鏡像として描いたのが「病めるバッカスバッカスとしての自画像)」。困窮者に無償で医療行為を行うコンソラツィオーネ病院から退院した直後、青白い顔に笑みを浮かべる病み上がりの姿を投影したとされます。

 
Giuseppe_Cesari_Ottavio_Leoni.jpg 病的なバッカスが冠とするのはセオリー通りのブドウではなく、永遠性を示す常緑のセイヨウキヅタ。バッカスが手にする白ブドウは復活、黒ブドウはキリストの血と犠牲の象徴。解くことを促すかのように差し出された腰紐や、救済の果実モモは、一部の研究者が指摘する初期の作品における同性愛の傾向を読み解くことも無理ではなく、多様な解釈がなされてきました。

【Photo】ジュゼッペ・チェーザリ「カヴァリエーレ・ダルピーノの肖像(部分)」1621

 風変わりな酒神に自身を重ねたこの肖像は、師であるダルピーノの手元に当初ありました。粗末な藁の寝床しか与えず、静物画を主に描かせて厚遇したとはいえないダルピーノのもとをミケランジェロ・メリージが去った時、この油絵がダルピーノの工房に残されていたのでしょう。

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 現在は美術館としては最多の6点を所蔵するカラヴァッジョ作品ほか、ルネッサンス・バロック期の壮麗なコレクションを有するボルゲーゼ美術館の所蔵となっています。

 これはカラヴァッジョのみならず美術品の蒐集に情熱を傾けたシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿〈右〉(1577-1633)が、1607年に銃の不法所持を理由に投獄したダルピーノから押収したもの。ボルゲーゼ家出身のローマ教皇パウルス5世(1552-1621)も、甥の強引なやり方を黙認しました。

【 Photo】プロテスタントに対抗するカトリックの威信を示すため、ローマ教皇庁は宗教的な題材の美術品や彫像を数多く発注した。大理石を自在に扱った造形の天才ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(1598-1680)作「シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の胸像」(部分・1632 ローマ:ボルゲーゼ美術館蔵 / 上画像)とディオニューソス的などんちゃん騒ぎで子どもに弄ばれる牧神ファウヌスの大理石像「バッカナールBacchanal: A Faun Teased by Children」(1616~1617 ニューヨーク:メトロポリタン美術館蔵 / 下画像)

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 枢機卿が美術品を収蔵するために造営したボルゲーゼ家の別荘は、1903年に国立ボルゲーゼ美術館として公開され今日に至ります。ローマ市民憩いの場となっている広大なボルゲーゼ公園ともども、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿は大いなる遺産を残してくれたのです。 

 ギリシャ神話に登場するブドウ酒と陶酔の神ディオニューソス(バッカス)。彫刻やモザイク画の題材ほか、古来多くの芸術家に創作の霊感を与えてきました。

Velazquez_Baco.jpgEl triunfo de Baco バッカスの勝利(1628~1629 マドリッド:プラド美術館蔵)】スペインバロックの黄金期を築いたディエゴ・ベラスケスが描いたバッカスを囲む酒宴。酒神の姿にはローマから欧州一円に広まったカラヴァッジョの影響が感じられる

 レオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロ・ブオナロッティ、バロック期のグイド・レーニ、ディエゴ・ベラスケス(上画像)、ピーター・パウル・ルーベンス、さらにはカラヴァッジョに扮したセルフポートレートを1990年に発表したシンディ・シャーマンに至るまで、芸術家がバッカスを題材とした例は枚挙に暇がありません。

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 5年前、イタリア在住のワインジャーナリスト中川原まゆみさんによる被災したイタリア料理店のための義援金の呼びかけに応じて下さった〈2011.6拙稿「Colletta per Giappone イタリアから届いた義援金)」参照〉トスカーナ州ピサ県ファウリアのカンティーナ「I Giusti & Zanza イ・ジュスティ・エ・ザンツァ」の「Nemorino ネモリーノ」のエチケッタ(上画像)を飾るのもバッカス。

 2作目となるバッカス(下画像)は、第3代トスカーナ大公フェルディナンド1世・デ・メディチに贈る目的で、ミケランジェロ・メリージのパトロンとなったフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿がカラヴァッジョに描かせたもの。

caravaggio-baccos.jpgBacco バッカス(1596~1597 フィレンツェ:ウフィツィ美術館蔵)】酩酊しているのか、紅潮した顔で鑑賞者に気だるげな眼差しを向けつつ、ワインを注いだグラスを左手で差し出すバッカス。片肌を露わにして寝台に横たわりながら、右手は腰紐に手をかけており、なんとも官能的。熟れ切った果物は腐り始めており、透徹したリアリストぶりが発揮されている

 デル・モンテ枢機卿は、教皇庁内で対抗宗教改革を推し進めた親スペイン派に対し、近代化に寛容だった親フランス派に属する教養人でした。

 ユリウス2世(在位1503-1513)やレオ10世(同1513-1521)の庇護のもと、ラファエロ・サンティやミケランジェロ・ブオナローティがローマに遺した業績に接し、枢機卿から科学的知見に基づいた表現技法を授かった賜物として、ローマにおける画業初期に描かれた中性的な一連の半身像の完成形といえます。

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【 Photo】伝統的なヴェネツィアングラスのゴブレットにもみられる形状の酒杯に注がれたワインの表面には、波紋状にさざ波が立っており、グラスを差し出すバッカスの左腕の動きを表現している。グラスを持つ手の爪先には汚れが挟まっており、全能の神ゼウスの子であったバッカスの理想化を避け、あえて神性を奪おうという画家の意図が表れている

 1913年、美術研究家マッテオ・マランゴーニは、ウフィツィ美術館の倉庫で、額装すらされず埃にまみれた状態で捨て置かれたこの絵を見いだします。

Caravaggio-Bacco3.jpg カラヴァッジョ研究の第一人者ロべルト・ロンギによって真筆と確認され、修復を経てウフィツィで公開されたのが1922年。

 同じバッカスを主題としながら、自画像とされる1作目と、この2作目とでは、与える印象は随分と異なります。

 共通項は、デキャンターの液面に自身の顔を極めてさりげなく描き込む自我の強さを画家が持ち合わせている点でしょうか(左)

 感情の起伏が激しいメランコリー気質だった画家が、安定した環境で創作に向き合った作風の充実ぶりを示す作品「エジプトへの逃避途上の休息」を、ここで提示しておきましょう。

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Riposo durante la fuga in Egitto エジプトへの逃避途上の休息(1596~1597 ローマ:ドーリア・パンフィーリ美術館蔵)】エジプトへと逃れる途上、疲れ果てて眠り込むの聖母子の前に現れた天使のため、聖処女マリアを称える雅歌の楽譜を掲げるヨセフ。平穏な安らぎに満ちた画風は、背景の風景描写と併せて異例だが、敬虔な祈りを込めた深い精神性を示す宗教画と同時に、斬首に代表される凄惨な場面も少なからず描いた画家の多面性を示す作品でもある

 1606年に犯した殺人による死刑宣告を受け、ローマ近郊からナポリ、マルタ島、シチリア、そしてかつて父が仕えたカラヴァッジョ侯の未亡人コスタンツァ・コロンナ・スフォルツァがナポリ・キアイア地区に所有する屋敷へと再び舞い戻る逃亡生活を送っていたカラヴァッジョ。

 1607年7月から翌年10月にかけてのマルタ滞在中、血の気が多いカラヴァッジョは、とある聖マルタ騎士に剣で怪我を負わせました。1609年10月24日、居酒屋「チェリーリオ」で騎士が復讐に差し向けた4人の暗殺者に襲撃されます。顔の傷は死亡説が流布されるほどで、翌春まで療養生活を余儀なくされます。

 現時点で明らかになっている資料に照らし合わせ、前回ご紹介した遺作とされる「聖ウルスラの殉教」(1610)の直前に描かれたと推定されるのが、こちらの「ゴリアテの首を持つダヴィデ」。

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David con la testa di Golia ゴリアテの首を持つダヴィデ(2010または2009~2010 ローマ:ボルゲーゼ美術館蔵)】旧約聖書サムエル記に登場する羊飼いの少年ダヴィデが、投石器で倒したペリシテの巨人兵ゴリアテの首を剣で刎ねた場面。殺人犯の汚名を晴らす恩赦への望みを抱きつつ、迫りくる暗殺者と死の恐怖に慄きながら描いた二重の自画像

 額の傷がチェリーリオでの襲撃事件を連想させる巨人の首。馘首(かくしゅ)されたゴリアテが、30代後半にさしかかった罪深き画家。勝ち誇るというよりは愁いを込めた表情で、落とした首を指し示すダヴィデが、若き日のミケランジェロ・メリージだと推測されます。

 1610年7月18日、画家はパウルス5世により恩赦が認められた朗報を知ることなく、トスカーナ南部の港町ポルト・エルコレで客死しました。享年38。

 ウフィツィで対面して以来の再会となった日本初公開「バッカス」を含む真筆11点と、影響を受けたカラヴァジェスキと呼ばれる画家の作品、そして興味深い〝アーティーチョーク事件〟の裁判記録などが国立西洋美術館で一堂に会した「カラヴァッジョ展」は、本日をもって会期を終了。

Caravaggio2016.3-6.jpg

 開催にあわせてミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの光と闇に彩られた矛盾に満ちた生涯を2回にわたって追いかけてきました。

 日本では、まだ真価が理解されているとは言い難いカラヴァッジョ。Viaggio al Mondo 読者の皆さまにおかれましては、いつの日か謎多き画家の足跡を訪れ、逃れがたい魔力の実相を確かめてみられてはいかがでしょう。

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投稿者 vam : 23:54 | カテゴリー : Libro e Cinema, Arti 書籍と映画, 芸術

2016/05/30

光と闇。二つの肖像 〈前編〉

日伊国交樹立150周年記念 「カラヴァッジョ展」


michelangelo-merisi-caravaggio.jpg メソポタミア・エジプトを起源にギリシャ・ローマで開花した西洋美術は、盛期ルネッサンスで頂点を極め、16世紀中葉に〝マンネリ(ズム)〟の語源となったマニエリスムの時代を迎えます。

 ルーベンス、フェルメール、レンブラント、ベラスケスらに多大な影響を与え、新潮流バロックへの扉を開いたのが、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)。

【 Photo】今回のカラヴァッジョ展に出品されたカラヴァッジョの没後間もない1617頃に描かれた作者不詳「ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョの肖像(部分)」( ローマ:サン・ルカ国立アカデミー蔵)

 1527年5月、新教徒派スペイン王カール5世の軍勢とドイツ人傭兵が、破壊と略奪の限りを尽くした「Sacco di Roma ローマ劫掠(ごうりゃく)」で、ひどく荒廃した都の復興を果たすべく、ローマでは1585年に教皇に就任したシクストゥス5世以降、17世紀にかけて街並みの再整備が進みます。

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【 Photo 】2002年のユーロ導入により消滅したイタリア・リア紙幣のうち、ラファエロ・サンティが描かれた最高額の500,000リラに次いで2番目に高額な100,000リラ紙幣の表図柄(上)は、オッタヴィオ・レオーニが描いたカラヴァッジョの肖像とカラヴァッジョが親友マリオ・ミンニーティをモデルに描いた「La Diseuse de bonne aventureBuona Ventura 女占い師」(1596~97 パリ:ルーヴル美術館蔵)。裏面(下)はイタリア初にして最高峰の静物画とされる「果物籠」(1599~1601頃 ミラノ:アンブロジアーナ絵画館蔵 / 下画像)

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 共和制・帝政ローマの圧倒的な遺跡群とバロック様式の建築や彫刻、世界に現存するオベリスク30基のうちエジプトから運ばれた13基までもが重層的に混在する劇場都市ローマの景観は、造形の天才ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(1598-1680)やフランチェスコ・ボッロミーニ(1599-1667)らの功績によるところが大。

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Canestra di frutta 果物籠(1599~1601?)ミラノ:アンブロジアーナ絵画館蔵】カトリックの正当性を示す図書館設立に動いていたフェデリコ・ボッローメオ枢機卿が、併設の絵画館に収蔵するべく発注した。籠が手前にせり出して見えるだまし絵効果を含め、みずみずしいブドウ・マルメロ・リンゴ・イチジクなどの果物が写実的に描かれている。リンゴの虫食い跡や枯れた葉などに、生命の儚さを象徴的に表現した画家の意図を汲むことができる

 帝政期に推定人口120万に達するも、16世紀末には10万人が暮らすテヴェレ川沿いを除けば、樹木が生い茂る廃墟となったローマ。その再生とバロック芸術の黎明期における記念碑の一つとなったのが、ローマ在住のフランス人のため1589年に建てられた「Chiesa di San Luigi dei Francesi サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会」。

 サン・ピエトロ大聖堂の設計やナヴォーナ広場の南北にある2つの噴水などを手掛けたジャコモ・デッラ・ポルタ(1532-1602)の設計による聖堂ですが、最大の見どころは、左側廊で最も奥まった「Cappella Contarelli コンタレッリ礼拝堂」の壁面を飾るカラヴァッジョの出世作「聖マタイ三部作」(1600~1602)。

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Vocazione di san Matteo 聖マタイの召命(1599~1600)】画家のまぎれもない信仰の深さを示す出世作は「マタイ福音書第9章9節」の場面。救世主の背後から差す一筋の光。「私に従いなさい」と言うキリストが指差す先、左端が後に福音書記者・十二使徒の聖マタイとなるローマ帝国の徴税吏レヴィ

 鮮烈な明暗のコントラストが緊迫した臨場感を生む「聖マタイの召命」と「聖マタイの殉教」が公開されるや、コンタレッリ礼拝堂に群がる黒山の人だかりが引きも切らなかったといいます。〝ローマは1日にしてならず〟ですが、カラヴァッジョはローマで画家としての名声をわずか1日にして確立したのです。

 デフォルメを多用するマニエリスムとは無縁の正確なデッサン技量。陽光溢れるイタリアならではの明るい青を背景に多用したラファエロの画風に代表される盛期ルネッサンスとの決別を告げるかのようなカラヴァッジョの独創的な光と闇のドラマチックな表現は、衝撃的でさえありました。

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Martirio di san Matteo 聖マタイの殉教(1599~1600)】 聖人伝記集「黄金伝説」によれば、聖マタイは布教に訪れたエチオピアで洗礼ミサの最中、再婚に反対されたことに激怒したエチオピア王が差し向けた刺客(剣を手にした中央の半裸姿の男?)の手にかかり殉教した。天使がマタイに差し伸べる棕櫚の葉は殉教の象徴。中央奥に画家自身の顔が描かれている

 教皇クレメンス8世が布告した聖年にあたった1600年に免罪符を求めて集った巡礼者やローマ市民は、天才の出現に熱狂したことでしょう。カラヴァッジョはミレニアムにふさわしい新時代の幕開けを飾る寵児となったのです。

 礼拝堂の正面、中央祭壇画として描かれた「聖マタイと天使」は、対抗宗教改革を推し進めるカトリックの聖職者にとっては、旧来の宗教画の定石を覆すものでした。発注主コンタレッリ枢機卿の遺志を継いだ甥・フランチェスコから描き直しを命じられた2年後、全く異なる構図(下写真)の2作目で3部作は完成をみます。

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San Matteo e l'angelo 聖マタイと天使(1602)】天使から霊感を授けられ、福音書を記述する聖マタイ。カラヴァッジョは聖人を描くモデルとして農夫のごとき風貌の人物や娼婦を起用したことから、保守的な人々から攻撃されることがあった

 一躍時の人となった彗星のごとき画壇デビューの背景には、最初のパトロンとなったフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿との出会いや、巡りあわせの幸運がありました。その波乱万丈の半生を紐解くと....。

 ミラノの貴族カラヴァッジョ侯フランチェスコ・スフォルツァに仕える執事であった父フェルモが、ミラノだけで17,000人が犠牲になった深刻なペスト禍により1577年に死亡したことで、生活が保障されていたメリージ家は経済的に困窮してゆきます。

 メリージ家の長子であった12歳半の少年ミケーレ(=ミケランジェロ)が、生まれ育ったカラヴァッジョの街からは40kmほど離れたミラノで工房を構えていた画家シモーネ・ペテルツァーノ(1535-1599)のもとで4年間の徒弟契約を結んだのが1584年。

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【 Photo 】6月12日(日)まで東京上野国立西洋美術館で開催中のカラヴァッジョ展のフライヤーより。「トカゲに噛まれる少年(部分)」(右:1594 頃 ロンドン:ナショナル・ギャラリー蔵) 「ナルキッソス(部分)」(左:1598 頃 ローマ:バルベリーニ宮国立古典美術館蔵)

 契約満了後に帰郷した翌年、1590年11月に母ルチーアが没し、弟と妹の3人でわずかな財産を分け合います。生来の激しい気性が災いし、(一説に殺人のかどで)1年間投獄されたのち、郷里を離れて単身ローマに向かったのが1592年。

 やがて無一文となり、貧民街で野垂れ死に寸前のところをバチカンの要職にあったパンドルフォ・プッチ宅に住まうことを許されます。見返りは夕食のサラダ一品だけ。厨房の下働きをしながら、宗教画の模写や最初期の作品「トカゲに噛まれる少年」(上画像)を残しています。

 皮肉を込めてミケーレが「Monsignor Insalata サラダ殿下」と呼んだ雇い主のもとを去った後、徒弟となった画商やクレメンス8世から寵愛され、カヴァリエーレ・ダルピーノの名を授与された画家ジュゼッペ・チェーザリ(1568-1640)の助手となります。

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Buona Ventura 女占い師(1594~95 ローマ:カピトリーノ絵画館蔵)】 フランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿が、ミケランジェロ・メリージの画才を見出した作品。身なりの良い世間知らずの若者から指輪を抜き取ろうとするロマの女性。細部が異なる1596~97作のほぼ同じ構図の絵をパリ・ルーヴル美術館が所蔵している

 日伊国交樹立150周年記念事業として6月12日まで開催中のカラヴァッジョ展に出品されている「女占い師」(カピトリーノ絵画館蔵)(上画像)、「果物籠を持つ少年」(下画像 :1593~94 ローマ:ボルゲーゼ美術館蔵)ほか、「I bali いかさま師」(1594~95 テキサス州フォートワース:キンベル美術館蔵)などを証左とする才能を開花させてゆきます。

 1596年に天賦の才を見抜く審美眼を備えたフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿(下画像)に見い出され、(現在は改築されてイタリア国会上院となった)枢機卿の邸宅パラッツォ・マーダマで寝食の憂いなく創作に専念できる環境が整います。

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【 Photo】オッタヴィオ・レオーニ「フランチェスコ・マリア・デル・モンテの肖像(部分)」(1616 フロリダ州サラソタ: リングリング美術館蔵) 

 当初、マーダマ邸に隣接するサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会コンタレッリ礼拝堂の壁面フレスコ画装飾を任されたのは、かつてミケランジェロ・メリージが師事した法王庁の御用画家ダルピーノでした。ところがダルピーノは聖年を控えて多忙を極めたため、仕事が遅延。依頼主によって契約は白紙に戻されます。

 恐らくはデル・モンテ枢機卿の取り計らいで、ミケランジェロ・メリージは依頼主の聖職者を納得させるに十分なデッサンを提出する機会を得て、当代きっての売れっ子画家と同額の報酬を得る好条件のもと、初の大仕事を成し遂げたのです。

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Fanciullo con canestro di frutta 果物籠を持つ少年(1593~1594 頃 ボルゲーゼ美術館)】肩をさらけ出しアンニュイな表情でこちらを見つめる少年が抱える籠に盛られた果物の描写は、後に描かれる前述の「果物籠」に通じる画家の手腕の確かさを物語る

 ミケランジェロ・メリージは、生まれる7年間に亡くなった著名な芸術家と同じ名を拝しながら、皮肉なことに郷里ロンバルディア方言では〝ならず者〟を意味する〝Michelaccio ミケラッチョ〟さながらに激しい気性の持ち主でした。

 2週間ほど創作に没頭した後には(都市の治安が悪かった当時、護身用として一般的だったにせよ)小柄な体躯には不釣り合いな刀身が90cmもある剣を携え、風紀の芳しくない地区に2カ月間も入りびたっては、暴行・武器不法所持・名誉棄損などの警察沙汰を引き起こすのでした。

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Decollazione di san Giovanni Battista 洗礼者ヨハネの斬首(1607~08)】強大なイスラムに対抗するカトリックの軍事拠点マルタ島の要塞都市ヴァレッタに本拠を置く聖ヨハネ騎士団の守護聖人、聖ヨハネを称えるサン・ジョヴァンニ大聖堂の祈祷所に描かれた最大(361mm×520mm)にして、唯一画家の著名が入った至高の作。この功績により、念願だった聖ヨハネ騎士としての叙列が果たされた1カ月後、上位の騎士との諍いを引き起こして騎士の称号は剥奪され地下牢に投獄されるが、騎士団長の手引きで脱獄。シチリアへ逃げ延びた

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 謎多き画家を知る資料が裁判記録。1604年4月、デ・モーロ旅館でバター炒めと油炒めで注文した好物のアーティチョーク料理を運んできた給仕の態度に立腹し、皿を投げ付けた上、剣を抜いて脅したかどで訴えられ、罰金を支払って放免されています。

 4対4の乱闘で殺人を犯し、死刑宣告が出されたローマから逃亡したのが1606年5月。デル・モンテ枢機卿の庇護のもとにあった1600年から、カラヴァッジョが官憲に連行されたり告訴された回数は、公的な記録に残っているだけで13回。

 問題が発生するごと火消しに尽力したデル・モンテ枢機卿や、新たなパトロンとなったボルゲーゼ枢機卿ほか、父フェルモがミラノで仕えたカラヴァッジョ侯フランチェスコ・スフォルツァ夫人コスタンツァ(右上)もまた、問題児ミケランジェロ・メリージを庇護する役回りを務めました。

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Cena in Emmaus エマオの晩餐(1606)】逃走資金を得るために描かれた作品。エルサレム近郊のエマオの宿で、夕食となるパンに祝福を与えた人物が、復活したキリストであると両側の使途が悟った瞬間、姿を消したというルカ福音書の記述による。1601年に同じ場面を描き、現在はロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する前作(下画像)から一転、背景のトーンを抑えた静謐な作風への転換点となった

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 命を狙われるお尋ね者となり、決闘で負傷したミケランジェロ・メリージは、旧知の関係にあった侯爵夫人の実家であるコロンナ家が所有するローマ近郊の山中に建つ邸館に身を寄せます。

 4カ月に及んだ潜伏中に描かれ、今回の展示会に出品されているのが、「エマオの晩餐」(1606 ミラノ・ブレラ美術館蔵)と、2年前に真筆と認定されて以降、初公開された「法悦のマグダラのマリア」(1606 ローマ・個人蔵)。

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Maria Maddalena in estasi 法悦のマグダラのマリア(1606)】〝発見次第、殺害せよ〟という死刑宣告を受け、追手からの逃避行の間、画家が携えていた3枚の中のひとつ。娼婦だった過去を悔いるマグダラのマリアに自身を投影したのか、背景を覆いつくす闇はどこまでも深い。死の淵で神の秘蹟に触れ恍惚とする瞬間を大理石で表現したベルニーニ作「福者ルドヴィカ・アルベルトーニ」ほどのR18な印象は希薄

 当時はスペイン領でコロンナ家の庇護が期待できたナポリからマルタ島、シチリアまで4年以上に及んだ追手からの逃避行の末、恩赦を求めてローマを目指すも熱病に冒され、トスカーナ州南部ポルト・エルコレで38年の生涯を終えます。支援者による恩赦請求が教皇パウルス5世によって認められたのは、その直後。

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Martirio di S.Orsola 聖ウルスラの殉教(1610 ナポリ Palazzo Zevallos Stiglianoパラッツォ・ゼヴァロス・スティリアーノ美術館 蔵)】ジェノヴァを支配していたアゴステーノ・ドーリア侯が、子息マルカントニオ侯の愛娘で修道女となったオルソラのために注文し、1610年6月18日に受領した記録が残る。異教徒フン族の王アッティラの求婚を拒んだため、聖ウルスラが胸を射られた瞬間が左から射す光に浮かび上がる。命を狙う追手を逃れ、2度目のナポリ滞在中に描かれた最晩年の作。聖女の肩越しに惨劇の場面を目撃する人物として、画家は最後となる自画像を描き込んだ

 没後400年を控えた2010年、ポルト・エルコレのサン・セバスティアーノ礼拝堂の共同墓地で発見された遺骨が、炭素年代測定やDNA鑑定によって、85%の確率でカラヴァッジョのものだろうと推定されています。

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【Photo】ヴィットリオ・ストラーロ監督作品「カラヴァッジョ~天才画家の光と影~(完全版)」 カラヴァッジョの生涯を描いた劇場映画のDVD版

 現存する真筆としては60点あまりが確認されているカラヴァッジョの作品から11点と、影響を受けたカラヴァジェスキと呼ばれる画家たちの作品で構成される「カラヴァッジョ展」の会期は、残すところわずか。

 画家として活躍した15年に満たない期間、華やかな名声とともに生前から毀誉褒貶にさらされたカラヴァッジョ。画家の生涯こそが、残された圧倒的な画業以上に劇的だったように思えてなりません。

 ピエモンテ州アルバ出身の美術史家ロベルト・ロンギ(1890-1970)による〝カラヴァッジョなくしてはバロック芸術は存在しなかった〟とする再評価が、1920年代になって定着するまで、カラヴァッジョは長らく忘れられた存在でした。

 西洋美術史に偉大な足跡を残し、20世紀になって輝きを取り戻した男の栄光と悲惨を、この機会に目撃してはいかがでしょう。続編では庄イタのイコン「バッカス」を読み解きます。

to be continued...

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日伊国交樹立150周年記念 カラヴァッジョ展
・会期: 6月12日(日)まで
・開場時間:9:30~17:30 *入館は閉館の30分前まで
6/1(水)~4(土),6/7(火)~11(土)は9:30~20:00に延長
・会場: 東京上野 国立西洋美術館 東京都台東区上野公園7-7
・観覧料金: 大人1,600円 大学生1,200円 高校生800円 (団体各200円引)
・URL: http://caravaggio.jp

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投稿者 vam : 06:20 | カテゴリー : Libro e Cinema, Arti 書籍と映画, 芸術

2016/05/22

余は如何にしてバッカス信徒となりし乎

Road to バッカス @カラヴァッジョ展


 幼少期から水で薄めたヴィーノを体内に摂取することが珍しくないイタリア人は、自身のアルコール摂取に関する限界を知悉しているため、人前で泥酔する醜態を晒すことがありません。

 そんな前世における幼児体験のおかげか、庄イタは常に品行方正な飲み方を心掛けています。とはいうものの、過去において脛にキズがないわけではありません。

 東京支社勤務時代、JR市ヶ谷駅のすぐ目の前にあった越前料理店「みくに」を会場に、現在は合併により社名が無くなった某大手広告会社と全国各地の新聞社有志による宴席が例年12月に開催されていました。

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【Photo】〝百薬の長〟は楽しく適量を。和らぎ水も忘れずに。週に2日は休肝日。以上、自戒の意味を込めて。(本文と画像は関係ありません)

 そこでは大杯に注がれた日本酒を飲み干す儀式が恒例化しており、座の盛り上がりとともに、清酒+ビール、そこに+刺身のワサビ醤油、さらに+その他モロモロが加わり、正体不明の特製日本酒カクテルと化してゆくのでした。

 ゆえに悪酔い必至ゆえ、参加するブロック紙・地方紙業界では知らぬ人の無かったこの酒席。初参加した転勤1年目は、猫をかぶっていたために大過なく乗り切ったものの、標的となった2年目は翌朝出社できない羽目に。その反省から自分なりにコツとペースをつかんだつもりの3年目。事件は起きました。

 陶酔の極みへと至るディオニューソス的な盛り上がりは例年通り。被弾多数で撃沈は免れるも、したたか呑んでお開きとなりました。店の出口付近では、「次の店行くぞo(`・д・´)ノ━!!」的な雄叫びが響き渡っていましたが、奈落の底への誘いには応じない理性は働いていました。

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【Photo】酒神ディオニューソス(バッカス)とヘラクレスの酒豪ぶりを寓意化した1世紀頃のモザイク。カエサルやアウグストゥスの時代、対立するパルティア帝国への前線都市として、東地中海地域最大のローマ属州都市として栄えたアンティオキア(現トルコ南部アンタキヤ)。AD526 に発生した大地震で大打撃を受け衰退した都市の屋敷跡より出土した(本文と画像は関係ありません)

 当時、社宅があったJR常磐線松戸駅に向かうべく、背後の絶叫を振り払うように、市谷見附の横断歩道を急ぎ渡り終えました。そしてJR市ヶ谷駅の改札を通過した時、勝利を確信したのです。

 「ムフフ...。今年は昨年よりは飲んでないぞ

 市ヶ谷から4駅目の秋葉原、そしてJR山手線日暮里駅で乗り換えるため、JR総武線の各駅停車電車に乗り込んだのが、夜9時過ぎ(路線図参照)

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 ところが暖房が入った車内で酔いが回ったのでしょう。家路について安心したのも手伝い、吊革につかまったまま、知らぬうちにzzz...。ふと我に返ったのが、乗り換えるつもりだった秋葉原を14駅も通り過ぎた先の津田沼の手前。

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 「emoticon.jpg あ゛ーっ、乗り過ごした!

 かくなる上は、作戦変更。西船橋まで3駅ほど戻り、JR武蔵野線で5つ目の新松戸駅へ向かい、JR常磐線上り電車で3つ戻って松戸を目指そうと、津田沼駅で慌てて電車を降りました。

 総武線上り電車に乗り換え、西船橋駅で電車を降り、階段で武蔵野線ホームに移動。5分間隔で運行する総武線ほどは運転本数が多くはない武蔵野線ゆえ、間隔が10分以上空いていたはず。電車を待つ間、ベンチに腰掛けると再び睡魔が襲ったのです。

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 ...zzzz。そのままどれほど時間が経過したのでしょう。なかば意識が朦朧としつつも、覚醒した庄イタが乗り込んだ武蔵野線上り電車。5つ目の新松戸で乗り換えをするはずが、空いていた座席に腰掛けてしまったことで、さらに深手を負う羽目に。

 電車に揺られるうち、意識は遠のき、再び夢の世界へ。zzzzz...。トロイメライの幻聴とオーバーラップして耳に届いた車内アナウンスに促されるように目覚めたのが、終点の府中本町駅の手前。

LineMap_Musashino.jpg

 西船橋から乗車して間もなく眠りにつき、新松戸で常磐線に乗り換えることなく、なんと1時間あまりをかけて関東平野を半周していたのです。そこは目指すべき松戸とは正反対の方向(上路線図参照)

scream-munch.jpg

 「マンマ・ミーア!!

 もはや酔いも醒めた頭で、「やれやれ、下り電車に乗り換えて新松戸経由なら、1時間30分ほどで松戸まで戻れるかしらん」と思ったのも束の間。

 日付が変わって零時半近くに府中本町を出る下り最終電車は、わずか5つ先の東所沢駅止まりであるという冷酷な事実を車内アナウンスは告げていました。

 「オー・マイ・ガーっ!!!

【Photo】 Skrik/ The Scream by Edvard Munch,ムンク(1863-1944)「叫び」1893年 (本文と画像は関係ありません)

 朝が来れば、また出勤せねばなりません。窮地に立たされた庄イタに残された道は、少しでも家の近くまで電車で戻り、訪れたこともない東所沢から深夜タクシーに乗るしかないのでした。

 総武線の吊革、そして西船橋駅のベンチ(⇒この滞留時間が最長だった)、さらに武蔵野線の座席で、都合3時間近くも睡眠をとったため、これっぽっちも眠くありません(笑)。財布の中を確認し、所持金で社宅まで戻れるであろうことを確認。わずかな乗客を乗せた最終電車に揺られること20分にも満たない小さな旅はあっけなく終了。

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【Photo】栴檀は双葉より芳しというべきか。どう見ても成人年齢に達していないバッカス神。下から出しながら葡萄酒をグビグビ飲み続ける秘技はさすが酩酊の神 Bacco che beve / Drinking Bacchus by Guido Reni, ボローニャ派のグイド・レーニ(1575-1642)「酒を飲むバッカス」1623年 (本文と画像は関係ありません)

 否応なしに初めて降り立った終着の東所沢駅。終点とはいうものの、ヨーロッパの鉄道のような始発終着となる大きなターミナル駅でもなく、予想だにしない小さな駅だったので、タクシーがいるか不安に駆られました。

 捨てる神あれば拾う神あり。南口駅前のタクシープールには客待ちのタクシーが数台。ドライバーに「松戸まで」と告げた時のリアクションは、今もはっきりと覚えています。 

 深夜割増時間帯で、40km 離れた松戸まで乗車する上客が舞い込んだ運転手は、後部座席に乗り込んだ庄イタに対して開口一番、弾んだ声でこう言ったのです。

 「お客さーん、電車乗り過ごしちゃったんでしょ?」

 言わずもがなの指摘を受けた庄イタは、ぐうの音も出ません。自嘲的な愛想笑いを返すのがやっとでした。そうしてまんじりともせず1時間以上をかけて社宅に到着。2万円+α が飛んで行ったとさ (T T。

 この痛すぎる出来事があって以来、「酒は飲んでも飲まれるな」を信条に、宴席ではバッカス神のご加護を願うようになったのです。

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【Photo】画家としての活動は15年ほどだったにも関わらず、バロック絵画の先駆者となったカラヴァッジョ初期の傑作「バッカス」(背景)。1913年に見い出されるまで、ウフィッツィ美術館の収蔵庫で人知れず眠っていた。ギリシャ神話に登場するブドウ酒と酩酊の神は、ブランデーを中に閉じ込めたチョコレート、ロッテ「Bacchus (バッカス)」でもおなじみかと

 ドラマチックな陰影表現を取り入れ、バロック絵画への扉を開いたのが、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)。フィレンツェ・ウフィッツィ美術館で対峙して以来、日本初公開となるバッカス像との再会が、東京上野・国立西洋美術館で6月12日(日)まで開催中の「カラヴァッジョ展」で実現しました。

 次回は、庄イタのイコンともいうべき二つのバッカスを遺した不世出の天才カラヴァッジョについて語ります。

to be continued...
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投稿者 vam : 17:00 | カテゴリー : Libro e Cinema, Arti 書籍と映画, 芸術/| カテゴリー : ・Fuori Tohoku 圏外遠征

2016/05/14

正真正銘、これぞトリュフチョコレート!!

アルバの薫り高きトリュフ入りトリュフチョコ


 2010年10月にオープンした旧店舗近くにこの春移転し、装いを一新した福島市「Osteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ」。

 信仰するバッカス神との対面をウフィツィ美術館以来、久方ぶりに果たした「カラヴァッジョ展」、異才ぶりに圧倒された「若冲展」と続いたGW期間中の東西美術展巡り。その締めくくりとして、福島県立美術館で開催された「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち 」を鑑賞がてら、1カ月半ぶりに店を訪れました。

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Osteria-Gioie.jpg【Photo】移転前のダークグリーンの外壁とオレンジ色の扉から、黒を基調としたシックな外装に生まれ変わったファサードとエントランス(右)。 外扉を開けると、ワインボトルをかたどった内扉が出迎えてくれる(左)。 旧店舗より広くなった店内はカウンタ-席をセンターに配し、明るく開放的な雰囲気

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sugopo-modoro@gioie.jpg【Photo】昨年11月、旧店舗で食したランチコース「Degustazione 」のプリモピアット「自然放牧豚の自家製サルシッチャと自家製サンマルツァーノトマトソース・ペコリーノ風味リガトーニ」(上写真)の味に魅了され、帰り際に購入した「Sugo al pomodoro fresco con San Marzano フレッシュサンマルツァーノトマトのソース 我が家風」(左写真)。イタリアの家庭と同じく夏の収穫期にまとめて製造、瓶詰めする

 サンマルツァーノトマトの自家製ソースしかり、ラグーしかりの滋味あふれる味付けで、いつに変わらぬ身も心も満たされるコストパフォーマンスの高いランチコース「Degustazione デグスタッツィオーネ」(税込2,940円)を頂きました。

 会計を済ませたところに厨房から出ていらした梅田勝実シェフとご挨拶を交わし、5月25日に開催する生産者交流イベント「自由で自然な仲間のマルシェ ナチュラ・フクシマ」について教えていただいた折のこと。

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【Photo】(3月中旬から5月初旬にかけてのDegustazione コースより。左上から順に)イタリア種の黄色いニンジンポタージュ、アンティパスティ・ミスティ(奥州いわいどりレバーのブルスケッタ、プロシュット、白いんげん豆、赤ダイコンとヘーゼルナッツ、イタリア風卵焼き、カポナータ、ニンジンのマリネ)、熊本産アサリのポモドーロソース・レモンの香りスパゲティ(⇒ 絶品!)、ふるや農園自然放牧豚肩ロースのグリッア、ピスタチオのジェラート・ブラッドオレンジのソルベ、SIMONELLI で淹れるLAVAZZA

 横目でレジカウンターのガラスケースの中に鎮座する「トリュフ入りチョコレート(下写真)の存在を見逃さないトリュフ犬顔負けの庄イタなのでした。

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 シニョーラ梅田から「お味見にどうぞ」と渡されたトリュフチョコからは、庄イタの嗅覚細胞に深く染みついた特徴的な白トリュフに通じる芳香が包み越しに立ち昇ってきます。

 人間の五感において記憶の最も奥底に刻まれるのは嗅覚。ある香りを嗅いだ途端に、遠い過去のシーンが突如として蘇った経験をお持ちの方は、少なくないかと。

 めくるめく香りに誘われるように、5粒入りパッケージ(税込1,260円)を所望。その時イメージしたのは、定番のNebbiolo ネッビオーロ、それも極めつけの作り手との組み合わせ(下写真)

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 熟成によって現れる妖艶なトリュフ香が顕著なバローロを醸すのが、「Giuseppe Rinaldi ジュゼッペ・リナルディ」。

 獣医の資格を有する 5代目当主のBeppe ベッペことジュゼッペ・リナルディ氏は、地元バローロでは、郷土史家としても知られる舌鋒鋭いキャラの濃い人物。申請手続きをすれば容易に取得できるはずの認証機関による有機認定には全く無頓着。

 2人の娘との共同作業で祖父の代から受け継ぐ4カ所のブドウ畑8haから、土着品種の良さを認識させてくれる「Freisaフレイザ」、「Ruché ルケ」ほか、「Dolchettoドルチェット」、「Barberaバルベーラ」などの黒ブドウから年産平均3.8万本のヴィーノ・ロッソを生産します。

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 単一畑Le Coste レ・コステ産ネッビオーロ15%に、同Brunate ブルナーテ産のネッビオーロをブレンドする「Brunate ブルナーテ」、単一畑Cannubi San Lorenzo カンヌビ・サン・ロレンツォ, 同Ravera ラヴェーラ, レ・コステの3つを瓶詰め前にブレンドする「Tre tine トレ・ティーネ」のクリュ・バローロ2種が、生産量全体の半数を占めます。

 世に名高い名醸地を1980年代から2000年代初頭にかけて席巻したモダニズムの嵐など、5代目にとってはどこ吹く風。先人が培った伝統に敬意を払い、1カ月を要する一次発酵には足踏み破砕の名残りとなる上部開放式の木製樽「Tini ティーニ」を、発酵後の熟成には、ファシズム期に普及したクロアチア東部・Slavonija スラヴォニア地方産オーク材を使った2,000ℓクラスの大樽「Botte ボッテ」を用います。(下写真)

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no-barrique-no-bel.jpg 225ℓ 容量のオーク樽(通称 Barrique バリック)は、ワインとの接触面積が多い分、木質由来の甘いバニラ香がワインに反映され、土地や作り手の個性が薄れる側面も。よって近年では地元では「Fustoフスト」と呼ばれる500~600ℓ容量のオーク樽やボッテの良さが見直され、地域性と伝統への回帰が顕著となっています。

 なるほど熟成庫の壁には、親戚筋にあたるバローロ村の伝説的な作り手「Bartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロ」の先代が手書きした秀逸なマニフェスト「No Barrique No Berlusconi」(=反バリック樽, 反ベルルスコーニ)の有名なエチケッタ(ラベル)が掲げられています(右写真)

 バローロ5大クリュでは最北のLa Mora ラ・モーラ村は、優美で比較的早くからアプローチしやすいタイプのバローロとなります。深みのある偉大なバローロへと変貌してゆく単一畑ブルナーテで収穫されたブドウの発酵には、1世紀以上に渡って使われてきた栗材とオーク材を組み合わせた黒光りするひと際大きな専用樽を使用します。(上動画の1分20秒過ぎから登場)

 DOCGバローロに関しては、イタリアワイン法が規定する法定熟成期間36カ月を上回る樽熟42カ月が、ジュゼッペ・リナルディにおけるスタンダード。

 バローロ村の北東15kmと至近のピエモンテ州クーネオ県Alba アルバの街では、トリュフシーズンの秋に「Fiera Internazionale del Tartufo Bianco d'Alba(白トリュフ祭り)」が毎年開催され、黒トリュフでは到底代えがきかない魅惑的な香りに魅了された人々が世界中から集います。

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 アルバ市街地の北を流れるタナロ川を挟んで川向かいにあたるPiobesi d'Alba ピオベシ・ダルバには、グラッパの蒸留元として、またグラッパ入りチョコでも名高い「Sibona シボーナ」があります。

 そのグラッパとも相性が良かろうサマートリュフを練り込んだ正真正銘のトリュフチョコ製造元「TartufLanghe タルトゥフランゲ」もまた、ピオベシ・ダルバに製造所を構え、パスタやペースト類など、トリュフを使った加工食品を世に送り出してきました。

 タルトゥフランゲの自信作、フリーズドライ加工した夏トリュフ入りのトリュフホワイトチョコ「Dulcis Tuber Plalina con Tartufo(下写真)には、熟成してこそ真価を発揮するバローロではなく、早飲みが可能なDOCLanghe Nebbiolo ランゲ・ネッビオーロ2011」を合わせてみました。

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 醸造所の前に広がる3haのクリュ「ラヴェーラ」の樹齢が若いブドウを用いるDOC ランゲ・ネッビオーロは、大樽による熟成期間18カ月。平均年産はわずか5,500本。熱烈な信者が多いバローロよりも希少性は高いかもしれません。

 完璧な仕上がりとなった前年ほどではないにせよ、夏の猛暑と収穫期の好天で優良な2011年ヴィンテージは、ネッビオーロの特性といえる強靭なタンニンが意外なほどソフト。若飲みできるワインは、ともすると抜栓後のヘタリも早いのですが、大樽で時を重ねたヴィーノは、そんなことはありません。時間をかけて変化してゆくさまをじっくりと味わえます。

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 樹齢が高いネッビオーロ、特にバローロほどの高貴な複雑味はないにせよ、出汁がきいた旨味をたっぷりと堪能でき、エレガントな血筋の良さは十分に感じられます。インパクト重視でグイグイ押しまくるのではなく、ジ~ンワリ心に沁みる寄り添い型ヴィーノ・ロッソ。

 重量ベースでは0.3%の含有量ながら、芳醇で濃厚な香りが特徴の夏トリュフ(Tuber Aestivum Vitt.)がしっかりと存在感を示し、ピエモンテ産ヘーゼルナッツの風味が、かすかな塩味を伴ったホワイトチョコと相まって、予想通りランゲ・ネッビオーロ2011との良好なカップリングが成立します。

 国家財政は火の車で、公務員の仕事ぶりはいい加減でも、人生を謳歌する名人たるイタリア人の仕事って、何故にこうも味わい深いのでしょうね。

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logo_gioie.jpgOsteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ
 ・住:福島市鳥谷野字二ツ石12-3
 ・Phone:024-529-6656
 ・営:11:30-14:00 L.O. 18:30-20:30 L.O.
 ・水曜日・第二火曜日定休 Pあり カード可 禁煙
 ・URL:https://www.facebook.com/OsteriaDelleGioie/?fref=ts


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投稿者 vam : 02:50 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : Vino ヴィーノ/| カテゴリー : ・Pref.Fukushima 福島

2016/05/02

延長戦 三番勝負

Gli abbinamenti tre vini contro formaggio la Rossa
Formaggio CigliegioAtto さくらチーズ 第四幕


 桜前線の北上に合わせてお届けして参りました桜の香り漂うチーズに関する話題。加熱したモッツアレラチーズのように、伸ばしに伸ばしてきましたが、いよいよ今回が最終章となる第4 弾です。

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【Photo】種自体が国指定天然記念物に指定される「鹽竈桜(しおがまざくら)」。国府が置かれた多賀城の鬼門となる北東に位置する宮城県塩竈市「志波彦神社・鹽竈神社」。その境内には60本ほどの八重咲きのサトザクラの一種、鹽竈桜があり、うち27本が天然記念物に指定されている。ソメイヨシノに遅れること10日ほどで、30~50枚の花弁が手毬状に花開く見ごろを迎える。4月24日に催された今年の鹽竈神社花まつりにて

 ピエモンテ州南部、リグーリア州にほど近いアルタ・ランゲ地方産の山羊乳チーズ「La Rossa ラ・ロッサ〈2016.4拙稿「Formaggio CigliegioAtto II 】 さくらチーズ 第二幕」参照〉と、Vini Bianchi との組み合わせ三番勝負で消費しきれなかった残り1/4は、熟成が一段と進んでいます。

 そんな山羊乳チーズの特徴であるピリっとした風味が加わり、表面のオレンジ色が濃くなり、香りが一段と強くなって購入当初は感じられた桜葉の香りを覆い隠してきました。

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 チーズに限らず日本で流通する加工食品には、食品衛生法で賞味期限の表示義務があります。その日付が迫りつつある状況ではありましたが、そもそも賞味期限とは、美味しく食することができる期日の目安にすぎません。

 多種多様な微生物や菌の活動によって熟成が進む(=風味が変化する)ナチュラルチーズは、加熱して菌が死滅するプロセスチーズとは違い、誤解を恐れずに言えば、食べ頃はあっても厳密な賞味期限など存在しないに等しい発酵食です。

 日を追うごと濃厚さが増したLa Rossa から想起した延長戦の組み合わせは、フルボディのヴィーノ・ビアンコを筆頭格に、渋味として感じるタンニンが強くない赤ワインや濃密なデザートワインなど。

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 1本目に選んだのは、南チロル地方屈指の優れた作り手「San Michele Appiano サン・ミケーレ・アッピアーノ」。

 その最上級ライン「Sanct Valentin サンクト・ヴァレンティン」の単一品種から作られる辛口白ワイン全5種類の中でも、特に傑出している「Pinot Grigio ピノ・グリージオ2010」。(左写真)

 第三幕で最良の組み合わせだった「Graminè グラミーネ2013」と同じトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州の同じブドウ品種から作られており、比較の意味でキャスティングした次第。

 ロゼのような色合いのグラミーネは個性が際立つ演技派でしたが、オーストリアと国境を接し、ハプスブルグ帝国時代はオーストリアに併合されていたため、現在も優勢な独語表記ではSt.Michael-Eppan ザンクト・ミカエル・エッパンとなるサン・ミケーレ・アッピアーノは、いわば誰もが認める二枚目スター的なキャラ。ブドウ品種が同じでも、造り手によって個性が全く異なる見本のよう。

 アルト・アディジェ地方の中核となる街、ボルツァーノ周辺のブドウ生産農家350軒が組合員として加盟する協同組合組織に関しては、2013年6月に醸造家ハンス・テルツァー氏をお招きし、仙台で行われた試飲会レポートで詳報しています。〈2013.8拙稿「ビアンキスタ、面目躍如。」参照〉

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  試飲会で気に入って3本まとめ買いした時の印象から、キンキンには冷やさず、香りをたたせるため、あえて赤ワイン用の大ぶりなグラスを選びました。

 白の専門家〝Bianchista ビアンキスタ〟の異名を持つ醸造家が理想とするブドウの個性がピュアに伝わるボリューミーで密度の高い白ワインの世界観が、余すところなく表現されています。

 グラスからは熟れたマスクメロンやアップルマンゴーのゴージャスな香りが立ち上がってきます。スモーキーなニュアンスがあるピノ・グリージオと、熟成が進んだLa Rossa との相性は、極めて申し分ありません。

 スケールの大きなフルボディのサンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージオ2010ヴィンテージは、長熟に耐える白品種としてのピノ・グリージオの可能性を雄弁に物語る出来栄え。
 
 単体でもワインと対話するメディテーションも可能な素晴らしいヴィーノゆえ、ついスルスルとグラスが進みます。我に返って下した組み合わせ評定は、言わずもがなの★★★。

 さらに熟成が進み、一段と風味が増してきたLa Rossa には、もはや赤ワインが似つかわしいように思えました。

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〝コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし〟とは、前回述べたアッビナメントの常道。

 そこで取り出したのが、アドリア海にほど近い中部イタリア・マルケ州アンコーナ県Morro d'Alba モッロ・ダルバ周辺だけで栽培されるブドウ品種「Lacrima Nera ラクリマ・ネラ」から醸したヴィーノ・ロッソ2本(左写真)。エチケッタをご覧の通り、作り手はいずれも「Marotti Campi マロッティ・カンピ」。

 共働学舎さくらとのアッビナメントでは、ラクリマを泡仕立てにしたスプマンテと組み合わせましたが、泡ものとの相性は今ひとつ。〈2016年3月拙稿「さくらの便りは北の国から」参照〉 捲土重来を期してラクリマのスティルワインに候補を絞り、アッビナメント延長戦第2ラウンドに臨みました。

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 完熟すると実割れしやすく、裂け目から果汁が滲み出すさまが、涙(伊語:Lacrima )に似ているため、ラクリマと名づけられたというこの品種。

 そのリスクが高まる9月下旬まで収穫を控え、最適なタイミングで手摘みしたブドウを2-3年落ちのフレンチバリック樽で12ヵ月熟成後、6ヵ月の瓶熟を施す(一般に上級ラインを意味する)Superiore スーペリオーレ(上写真左側)という選択肢も手元にあるにはありました。
 
 La Rossa との相性を考慮し、最終的に選んだのは、「Lacrima di Morro d'Alba Rubico ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ・ルビコ2013」。

 こちらは、収穫したブドウの8割は通常のアルコール発酵を施しますが、2割を房のまま密閉したタンクで醗酵させる(イタリアの新酒ノヴェッロに用いる)炭酸ガス浸漬法で醸してから圧搾し、両者をブレンド後にステンレスタンクで6ヵ月、瓶熟2ヵ月の熟成を経て出荷されるカジュアルなタイプです。

 ピエモンテ州モンフェラート原産とされ、食事との汎用性が高い黒ブドウ「Dolcetto ドルチェット」と風味が似ているアロマティックな希少品種ラクリマ〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉。前回のスプマンテでは、★評価に留まったものの、相手を変えた二度目の桜チーズとのアッビナメント結果はいかに。

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 ヴィーノが樽を使っていない分、ストレートに感じられる品種の特徴であるバラの甘い香りが、刺激的なチーズの風味をマイルドに和らげてくれます。スプマンテでは阻害要因となった泡がない分、組み合わせの妙が生かされ、評定は及第点の★★。

 延長戦の最後は、北イタリアのデザートワインで締めましょう。桜はバラ科の植物であることから、選んだのはバラの花を意味する「La Rosa ラ・ローザ2006」。

 ラ・ロッサにラ・ローザ。単なる語呂合わせです(^ ^;ゞ。

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 La Rosa は、赤用に混醸されるケースが多い黒ブドウ「Molinaraモリナーラ」と、微発泡のMoscato d'Asti が第三幕1本目で登場した白ブドウ「Moscato モスカート」を収穫後、潜在アルコール度数が18度に達する12月まで陰干してから圧搾。年明けの春に瓶詰めされます。

 醸造所でブドウの陰干しを目の当たりにした2003vinを今年開けた「Vin San Giusto ヴィン・サン・ジュスト」のように、6年に及ぶ樽熟期間に60%まで凝縮する珠玉のデザートワインと比べれば、あっさりした仕上がりです。

 ガルダ湖の南東、アディジェ川流域の盆地に醸造所を構える「Cavalchina カヴァルキーナ」という作り手によるものです。

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 今年50 回目を迎えたイタリア最大のワイン見本市「Vinitaly ヴィニタリー」が毎年4月に開催されるヴェローナを擁するヴェネト州のD.O.Cゾーンでいえば、そこは同郷の「Soaveソアーヴェ」の名声に隠れがちな佳酒「Bianco di Custoza ビアンコ・ディ・クストーザ」や、軽やかな赤「Bardorinoバルドリーノ」を産出する地域です。

 凝縮したブドウを圧搾して得られる天然の甘味と綺麗な酸味が絡み合うこのデザートワインと、刺激的な風味の山羊乳チーズとの組み合わせには、美味しいものには目がないイタリア人もそうするように、媒介役となる蜂蜜を加えた方が良さそうでした。

 ラベルに「Sapore pungente accostalo ai formaggi (=刺激的なチーズの風味を和らげる)」と記されたトスカーナ産クリの花蜜Miele Castagno (上写真)を取り出しましたが、後味に苦味が残り、熟成した山羊乳チーズとの相性はよくありません。

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 そこで引っ張り出したのが、共働学舎さくらにも使った盛岡・藤原養蜂場の石割桜一番蜜。

 国指定天然記念物に指定される石割桜や、桜の名所として親しまれる盛岡城址に近いビルに設置した巣箱の蜜蜂が集めた花蜜はメープルシロップを煮詰めたような上品な風味で、心地よい甘い香りが広がります。

 チーズのコクはそのままに、鋭角的な刺激を蜂蜜が優しく包み込んでゆきます。そこに加わるLa Rosa の適度な甘味と酸味。
 
 チーズ、ヴィーノ(⇒桜はバラ科)、蜂蜜の全てが桜というキーワードでつながり、色合いまで揃って三位一体の調和を生み出します。

 「che Buono !♪ (=なんて美味いんだっ!♪)」と感嘆しつつ、庄イタが下した評定は、最高点に星半分オマケして★★★

石割桜2.jpg

【Photo】盛岡地方裁判所前庭の真っ二つに割れた周囲21mの花崗岩の裂け目からは、高さ10m・根回り4.3mの樹齢380年と推定されるエドヒガンザクラ「石割桜」が生えている。例年4月中旬に開花するが、過去40年で最速だった昨年と同じ4月8日に今年は開花した。国指定天然記念物

 お届けして参りました桜にちなんだチーズとヴィーノのアッビナメント劇場全4幕。こうして大団円を迎えたのでした。 

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投稿者 vam : 01:35 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : Vino ヴィーノ

2016/04/21

いざ、紅白三番勝負。

Gli abbinamenti tre vini bianchi contro formaggio la Rossa.
Formaggio Cigliegio Atto さくらチーズ 第三幕


vino_rosso_Sanitatis.jpg 日々の食卓を豊かにする佳酒があれば、それで良しとする〝ノムリエ〟の庄イタが、尊敬の念を抱く職業のひとつがソムリエです。

【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地奥にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた赤ワインの効能に関する挿絵

 広範な知識に基づく的確な助言、サーヴ時に最良の状態を引き出す温度管理、ヴィンテージごとにピークが異なるワインの秘めたる香りを開かせる抜栓のタイミング...。

 改まった雰囲気のレストランで現場経験を積んだプロフェッショナルならではのサービスと、深いワインへの愛情とその美点を引き立たせようというという情熱、一期一会の時間を提供しようという心遣いを感じる接客。そんな立ち振る舞いには感心するばかり。

Degustazione-del-vino.jpg ソムリエが首から下げるTastevin タストヴァン(左写真)は銀製が正式とされ、これは権謀術策渦巻く中世ヨーロッパにおいて、ヒ素による毒殺を未然に防ぐための名残りだといいます。
 
 かたや一介のノムリエにすぎない庄イタは、山梨・勝沼産ワインを好きなだけ飲み比べできる「ぶどうの丘」をかつて訪れた際、試飲用に購入する〝なんちゃってタストヴァン〟(代金1,100円。持ち帰り可)しか持ち合わせておりません(^0^;。

 ソムリエ教則本的には、チーズに限らず食事とワインのabbinamento アッビナメント(=組み合わせ、マリアージュ)には、いくつかの法則が存在します。

 一般論として、(白身肉には白ワイン、赤身には赤ワインといった風に)食材とワインの色合いを合わせるべし。それぞれの産地を合わせるべし。コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし。チーズとの組み合わせに迷ったら、とりあえず赤ワインを合わせてみるべし。

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【Photo】スローフード協会が主体となってお膝元のピエモンテ州クーネオ県ブラで開催するチーズの祭典「CHEESE」で用意されるプログラムのひとつMaster of Food 。フレッシュ・硬質・スモークなどタイプの異なるチーズとワインとの相性に関するレクチャー

 こうした基本を踏まえた正攻法では、塩気のある食べごたえがある青カビ系には同じ産地のしっかりとした赤がピッタリ。(例:熟成した北イタリア産Gorgonzola piccante ゴルゴンゾーラ・ピカンテ(下写真)には、北イタリアのAmarone アマローネまたはBarbaresco バルバレスコ。南仏のRoquefort ロックフォールならばChaor カオールないしはBordeaux ボルドー)

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 ブルーチーズとの組み合わせの変則技として、コクがある芳醇な甘口デザートワイン(例:Recioto di Soave レチョート・ディ・ソアーヴェ、Passito di Pantelleria パッシート・ディ・パンテッレリーア、 Vin santo ヴィンサントなど)を合わせると、塩味が穏やかに中和され、見事な調和を生み出します。

 ワインとチーズに限らず、漬物と日本酒といった発酵食品同士の組み合わせは、基本的に相性が良い場合が多いもの。最良のカップリングがなされた時は、互いを高めあう素晴らしい出合いとなることでしょう。

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【Photo】シチリア沖の孤島パンテッレリーア島産デザートワイン。2014年、栽培法が世界無形文化遺産に登録された地面を這うような形状に仕立てたブドウ「Zibibbo ジビッボ(別名:Moscato di Alessandria モスカート・ディ・アレッサンドリア)」を収穫後、8月の日差しのもとで乾燥。凝縮した甘味の雫を堪能できるPassito di Pantelleria BUKKURAM Sole d'Agosto パッシート・ディ・パンテッレリーア・ブックラム・ソーレ・ディ・アゴスト2012(右) 酒精強化のマルサラ酒に用いる品種「Grilloグリッロ」をアルコール発酵後50hℓの樽で20年以上熟成させたVecchio Samperi Ventennale ヴェッキオ・サンペーリ・ヴェンテンナーレは、複雑な辛口(左)。いずれもチーズとの相性が良い ※ ロケ地:「土筆

 さくらの季節に連作で取り上げている「La Rossa ラ・ロッサ」は、山羊乳を使ったチーズ。一般的に山羊乳のチーズは、山羊乳由来の個性的な風味があります。組み合わせるワインは、爽やかな酸味を感じる若いうちは青草のニュアンスが好相性であろう「Sauvignon Blanc ソーヴィニョンブラン」を。シャープで濃密なコクが加わる熟成した山羊乳チーズには、カリンやナッツの風味がある「Fiano フィアーノ」など、ボディがある白やタンニンが強すぎない軽めの赤でもOK。

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 このイタリア版さくらチーズを購入したばかりの頃は、桜葉の甘い香りが山羊乳の酸味を和らげ、ベースとなったクセの少ない「Robiola ロビオラ」のフレッシュタイプに桜の香りが乗っている印象でした。

moscato2014-vajra.jpg La Rossa の熟成度合いに合わせて抜栓するヴィーノ(上写真)を用意。1ラウンドに選んだのが、「Giuseppe Domenico Vajra G.D.ヴァイラ」のD.O.C.G.Moscato d'Asti モスカート・ダスティ2014」。

 名醸地Barolo バローロ屈指の好条件に恵まれた畑を所有する作り手による爽やかな微発泡性のヴィーノ・ビアンコです。

 前回、プロフィールをご紹介したLa Rossa はピエモンテ州ランゲ丘陵南部アルタ・ランガ地方産のチーズ。ゆえに〝産地を合わせるべし〟という鉄則に沿った選択ですね。

 ワインに関する嗜好が庄イタとほぼ合致するオンラインショップ「にしのよしたか」を運営する西野嘉高氏が店主を務める大阪市生野区の観光名所になっている生野コリアタウンにほど近い「西野酒店」を訪れて購入したうちの1本です。

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 10℃~12℃が飲用適温であること、そして果物との組み合わせほか、全卵+卵黄に砂糖とモスカート・ダスティを加えて撹拌したカスタードクリーム状のZabaione ザバイオーネ、ヘーゼルナッツのタルトといったピエモンテの郷土菓子が、推奨するアッビナメントとして、バックラベルに記載されます(上写真)

DSCF7626.jpg マスカットの豊かなアロマが香るモスカート・ビアンコ種は、愛好する白ブドウ品種のひとつ。アルコール度数が6%程度に達した時点で発酵を止め、微発泡性に仕立てるモスカート・ダスティの産地ピエモンテ州アスティからアルバにかけての地域では、ロビオラに合わせることが少なくありません。

 バローロの作り手として高い評価を受けるG.D.ヴァイラの現当主、アルド・ヴァイラ氏は、1881年に創設された「La Scuola Enologica di Alba アルバ醸造学校」で1985年まで教鞭をとっていた知性派。

 微発泡ゆえのヴェルヴェットのごとき口当たりと、心地よいモスカートの甘い香りが、La Rossaの塩味を包み隠してくれます。比較的あっさりした若めのRobiola ロビオーラのトロ~っとした食感と、ほのかに香る桜の香りとの相性は★★判定。

 第2ラウンドは、打って変わって個性派の出番。

tag-longaliva.jpg 共働学舎「さくら」とドンピシャの好相性だったPasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラ「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」を購入した青葉区広瀬町「Wine Store ブドウの木」オーナー・ソムリエ奥山和茂さんのセレクトです。
 
 山羊乳100%チーズながら、酸味を打ち消す桜の香りが漂うLa Rossa の特徴をお伝えすると、トレント自治県にある醸造所「Longariva ロンガリーヴァ」のIGT(=典型的地域表示付)Graminè グラミーネ2013」を推奨いただきました。

 Longariva は、ロミオとジュリエットの街ヴェローナから、オーストリア国境のブレンナー峠を目指して高速A22を北上したラガリーナ渓谷に位置する街、ロヴェレートでマルコとロザンナのマニカ夫妻が1976年に創業した醸造所です。

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【Photo】ドロミテの山並みが北方に迫り、背後にはイタリア最大の湖沼ガルダ湖が控えるトレンティーノ地方。オーストリアと国境を接するトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州は秀逸な白ワインの産地。アディジェ川沿いから急峻な岩山に続く傾斜地に、この地域伝統のブドウ棚「pergola ペルゴーラ」(=パーゴラ)で白ブドウが栽培される

 Graminè は、イタリア語と併用される公用語ドイツ語が優勢なアルト・アディジェ地方では、ドイツ語表記で「Ruländerルーレンダー」となる白ブドウ品種「Pinot Grigio ピノ・グリージョ」100%のヴィーノ。

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 ロゼに近い透き通った独特の色合いは、破砕したブドウ果汁の醸しの段階で、品種名の由来となったグレー(伊語:Grigioがかった淡い赤銅色の果皮とのマセレーション(=醸し発酵)を時間をかけて行うため。

 グラスから立ち上がる完熟した白桃や上品な花の香りから察する予想に反して味わいはドライ。品種の特徴である分厚いボディを備えており、飲み応えもあります。

 角が取れた酸味にしろ、コクとして認識される土壌由来のミネラリーさにしろ、突出した要素がなく、飲み口はあくまでも滑らか。アフターに心地よい余韻が長く残ります。「う~む、これは印象的」

 同郷で組み合わせるセオリーからすれば、ピエモンテとトレンティーノの距離は決して近くはありませんが、気候的には同じ冷涼な北イタリア。次第に山羊乳ならではのコクが増してきたLa Rossaとの組み合わせはバランス良好。カップリングとしては期待を上回る最上ランク★★★を献上です。

 耳障りの良い〝自然派〟なるキーワードを掲げ、日本のワインマーケットを席巻してゆく状況に率直な疑問を呈した(2008年11月拙稿「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話」参照) 経緯がある庄イタ。個性的な風味のワインを数多く取り揃える某インポーターが取り扱うだけに、いささか構えて開けたのですが、これは〝当たり〟でした。

giacosa-arneis06.jpg 第3ラウンドは、ピエモンテ州クーネオ県ネイヴェに醸造所を構え、地元では誰もが偉大な作り手として尊敬する「Bruno Giacosa ブルーノ・ジャコーザ」が復活させた白品種「Arneis アルネイス」100%のD.O.C.G.Roero Arneis ロエロ・アルネイス2006」。

 作り手の見極めと品質管理において信頼できるインポーター「AVICO アビコ」社が輸入したピエモンテの優良ヴィンテージ2006年を指名買いしたものです。

 庄イタが自ら課している鉄則が〝産地を訪れたヴィンテージを確保すべし〟。

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【Photo】早熟なアルネイスの収穫はとうに終え、黒ブドウのバルベーラや収穫期を迎えたネッビオーロなどのブドウの葉が色づいた2006年10月末のロエロ。1杯のグラスを通して、10年前に訪れたこのブドウ畑へとタイムスリップできるのもワインの愉しみ

 熟成が進み、一段とコクが増したLa Rossa の塩気を、硬質なミネラル感と、時間を置いて温度が上がり始めてから開いてくる完熟リンゴや清楚な花のニュアンス、後味として残る嫌みのない苦味が和らげてくれます。

 率直な感想としては、アンティパストからオイル系パスタ、そしてグリルした鳥や豚肉といった料理と合わせたいワイン。抜栓直後は★★かと思った相性は、次第にボディの厚みと複雑味を増した最終ジャッジでは、★半分を積み増して★★+判定。

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【Photo】ロエロ・アルネイスの規範とされるジャコーザにふさわしいのは、例えばこんな美味しいアンティパスト。 (奥から順に) 鶏白レバーのブルスケッタ、福島県郡山市田村町ふるや農園の放牧豚プロシュット、トスカーナ風インサラータ、春キャベツのピューレ、イタリア風卵焼き、紅白ダイコンのピクルス、カポナータ ※ロケ地:福島市 「 オステリア・デッレ・ジョイエ

 山羊乳チーズとの相性が良いとされるVini Bianchi(=白ワインの複数形)と、La Rossa(=赤)とのアッビナメント紅白三番勝負の模様を今回はお届けしました。

 三番勝負を終えた時点で、まだ1/4が残っていたLa Rossa は、山羊乳らしいワイルドな風味が増す一方、桜の香りは風前の灯となり、購入直後とは別物へと変貌してきました。時間無制限アッビナメント延長戦の実況中継は、また次回。

to be continued...


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投稿者 vam : 01:34 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : Vino ヴィーノ

2016/04/09

Formaggio Cigliegio Atto II さくらチーズ 第二幕


Robiola di capra in foglia Cigliegio


 前回は北海道から一足早い桜の便りとなるチーズ、共働学舎「さくら」を取り上げました。盛岡では早くも石割桜が開花。過去40年で最速だった去年と同じペースで桜前線が北東北に到達し、仙台で満開宣言が出された今回は第二幕。

 西ヨーロッパ各地にチーズ作りを広めた古代ローマ以前に起源を持つイタリア版さくらチーズの話題をお届けします。

formaggi-Taccuino_Sanitatis.jpg【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地を入った先にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた中世のチーズ作りの様子

 仙台市泉区「グリーンマート桂店」のチーズ売り場には、数こそ多くはありませんが、時として希少な輸入チーズがお目見えします。

 先日、そこを物色していて目に留まったのが、さくらと同じような小さな円筒形をしたチーズを濃緑色の葉で包み、赤い紐で縛った「La Rossa ラ・ロッサ」。

 「ムムッ、チーズのこんなパッケージングには見覚えがあるぞっ!

Ciliegia_Cerise2.jpg それもそのはず。La Rossa(下写真 / 税込1,975円)は、美味の宝庫である我が郷里ピエモンテ州南部、Alta Langa アルタ・ランガ地方産なのでした。

 それは牛・羊・山羊のいずれかの乳を用いる小ぶりなチーズを指す「Robiola ロビオーラ」の中でも、最も数が少ない山羊乳100%のチーズを、ピエモンテに自生する桜の葉を塩蔵し、包み込んだ変わり種です。

【Photo】「Tacuina sanitatis 」に収録の14世紀イタリアにおけるサクランボ狩りの模様

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 2006年(平成18)に製品化された当初は日本から空輸した桜の葉を使用していたというLa Rossa。日伊合作によるこのチーズが誕生する契機を作ったのが、ナチュラルチーズの輸入販売会社「フェルミエ」代表で、欧州各地のチーズに関する多くの著作がある本間るみ子さん。

formaggi-italiani-RHomma.jpg ヨーロッパのナチュラルチーズに魅了された本間さんがフェルミエ社を立ち上げたのが、ちょうど30年前。設立当初チーズは絶対にフランスに限ると考えていた本間さんが、イタリアのチーズの奥深い魅力に開眼したのは、彼の地を訪れるようになってからだといいます。

【Photo】作り手に会うため訪れたイタリア全土から、バリエーション豊かな19 のチーズを紹介する本間るみさんの著作「チーズで巡るイタリアの旅」〈駿台曜曜社1999年刊〉。 ランゲ丘陵や山岳地域を中心に伝統製法によるチーズが数多いピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ自治州には、冒頭の1章を割り当て、写真入りで5つのチーズを紹介。かぐわしい香りが届くような内容で旅情をかきたてられる

 正式な名前がないマンマの味的な自家製を含めると、イタリア全土に存在するチーズの数を正確に把握するなど、どだい無理な話。個性派揃いのチーズに限らず、製法や道具に対して画一的な衛生基準を求め、域内の市場拡大を狙ったEU 統合には功罪両面があり、本来の製法、つまるところ本物の味が失われていった側面も。

mappa-formaggi-DOP.jpg

 農産・畜産・海産物の生産・加工・調整の全工程が、特定の地域内で規定に沿って行われなければならないD.O.P (保護指定原産地表示)や、工程のいずれかが該当すれば認定を受けられるI.G.P (保護指定地域表示)に認定される50種近いFormaggi (チーズの複数形)が各地に存在しています(上写真)

IGP-logo.jpgDOP-logo.jpg 食に対する飽くなき情熱にかけては目を見張るものがあるイタリアは、製法や産地などに関してEU が定める厳格な規定をクリアした製品が最も多いお国柄。
 
【Photo】D.O.P (左)I.G.P (右)認定マーク

 フレンチレストランがそうであるように、食事の締めくくりに(飲み残した)ワインとともにチーズを食するのがフランス。イタリアでもそうした食ベ方をしますが、むしろ(魚介系を除く)料理の素材としてチーズが活用されることが多いように思います。

 パスタ料理にブロックごとすりおろすハードチーズはいわずもがな。たとえば北部のリゾットやポレンタの味付けのほか、パンとともに食するフォンデュータ、中部ならばピアディーナやカルボナーラ、そして南部ではナポリピッツァやインサラータ・カプレーゼと、枚挙に暇(いとま)がありません。

gianni_paula_lorena.jpg【Photo】ジャンニ(中央)とパオラ(右)の娘ロレーナ(左)、息子のフランチェスコほか、9名のスタッフで運営されるCORA Formaggi で生産する多彩なチーズの一例

 リグーリア州との境界が5kmほど南に迫るピエモンテ州南部、小高い山々と丘陵地帯が広がるアルタ・ランガ地方の小さな村Monesiglio モネジーリオにLa Rossa の作り手であるCORA Formaggi 社はあります。この地域の女性たちは、自家用や地元消費用に山羊乳のチーズを何世代にもわたって作ってきました。

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【Photo】イタリアの食とワインに関して最も影響力がある出版社「ガンベロ・ロッソ」が、その味がIndimenticabile (=忘れられない)で、最も美味しい山羊乳で作るロビオーラチーズだというお墨付きを与えたのが、CORA Formaggiの「Robiola del Castello ロビオーラ・デル・カステッロ」。2014年からは原料のミルクは、全て自社の飼育場「La Cravette」で生産。飼育場を支えるスタッフとコーラ夫妻

 ともにアルタ・ランガ地方で生まれ育ち、1985年に若くして結ばれたジャンニ・コーラとパオラ・フラッキア夫妻。二人が趣味で自宅用に手作りしていたチーズの本格的な製造に乗り出したのが1998年。近隣の生産者から牛乳や羊乳を仕入れるほか、2014年には自前の飼育施設「La Cravette ラ・クラヴェッテ」でヤギ300頭の自家飼いを開始。以前にも増して搾乳したての新鮮なミルクの調達が可能となりました。

SF0147630.jpg【Photo】スローフード運動発祥の地、ピエモンテ州ブラで隔年開催される乳製品の多様性に触れることができる国際イベント「Cheese 」には、このCastagno (=クリ)の葉で包み込んだチーズ「Castagneto」のような小規模な生産者による多種多様なチーズが一堂に会する

 燻製のほか、塩水や蒸留酒に浸したイチジク・クリ・ブドウ・クルミなどの葉で包み込んだり、さまざまなハーブ、干し草、トリュフ、殺菌効果がある灰、ワインの醸造過程の副産物である発酵したブドウ果皮などで表面を覆うことで、風味付けや保存性を高めた個性豊かなチーズは、イタリアやフランスを中心に欧州各国に多数存在します。

 La Rossa の原型となるチーズ「Robiolaロビオラ」は山羊乳製。古代ローマ以前の先住民族ケルト人まで歴史が遡る「Robiola Di Roccaverano ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」は、ロンバルディア州ヴァレーゼ県の山岳地域で作られる「Formaggella del Luinese フォルマッジェラ・デル・ルイネーゼ」と並び、D.O.P 認定チーズでは数少ない山羊乳チーズとなります。

SF0149356.jpg【Photo】ピエモンテ州アスティ県Roccaverano からクーネオ県にかけての丘陵地帯がD.O.P エリアとなるチーズ「ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」。50%以上の山羊乳の使用が義務付けられており、季節によっては牛乳と羊乳の混入が規定上では可能。新鮮なうちは寄せ豆腐のような外観だが、熟成が進むと黄色から赤っぽく変化。味わいもまた変わる

 ジャンニとパオラは、製法を受け継ぐ農家を訪ね歩いたり、文献を通してチーズ作りの技術を磨きました。彼らが使用するのは、2月から11月にかけての最も風味がよい山羊の乳。

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【Photo】CORA Formaggi の原料乳生産を担う「La Cravette ラ・クラヴェッテ」で飼育するヤギの中で頭数が最も多いのは、原産地であるスイスの地域名に由来する「Saanen ザーネン種」

 ピエモンテ伝統の葉包みチーズですが、加工に適した葉を確保し、殺菌してから一個ずつ手で包み込む手間がかかるため、近年ではあまり見られなくなりました。

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【Photo】La Cravetteではスイスアルプス地域原産のヤギ「Camosciate delle Alpi カモシアーテ・デッレ・アルペ種」も飼育する

 スローフード協会では、本部があるピエモンテ州Bra ブラを会場に、チーズと乳製品の祭典、その名もズバリ「Cheese チーズ」を1997年から隔年で開催しています。昨年9月のCheese 2015には、3日間の会期中に世界中から27万人が参加するブラを挙げての一大イベントに成長しています。

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【Photo】 目移りするほどのチーズをはじめとする伝統食材が勢ぞろいしたCheese 2015。トスカーナ州南部ピエンツァ近郊で作られる「Pecorino ペコリーノ」を、クルミの葉を敷き詰めたテラコッタ製の壷で追熟させた「Riserva Foglia Noce リセルヴァ・フォーリア・ノーチェ」ほか、羊乳チーズがてんこ盛り

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 伝統を重んじ、品質向上のための労を惜しまないCORA Formaggi は、2013年に開催されたCheese2013で、地域性豊かな秀れた作り手が対象となる「Locale del buon formaggio」に選出されています。

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【Photo】 レンネット(凝乳酵素)を加えた山羊乳の成型作業を行うパオラさん

 フェルミエ社の本間さんが、Cheese 2003 を視察した足で、当時すでに取引があったCORA Formaggi の工房を訪れたのが、2003年9月末のこと。

 そこにはチーズを包む目的でグラッパに漬け込まれたさまざまな木の葉がありました。CORA Formaggi では、木の葉で熟成・風味付けする伝統的な製法によるチーズ作りの合間に、野山から葉を集め、洗浄してからグラッパで殺菌する作業を自前で行っていました。

 ジャンニとパオラは、桜・笹・柏・柿などの葉を和菓子や寿司に取り入れる文化が日本で培われてきたことを本間さんから教わります。
 
foglia_ciliegia.jpg

【Photo】近隣の野山に自生する西洋サクランボの木から採取した桜葉は、水で洗浄してから塩蔵。La Rossa のためだけに使われる

 そこでイタリアに自生する「Ciliegia(西洋サクランボ)」の葉を塩蔵して山羊乳チーズと組み合わせてはどうか、という話の展開から、伝統を踏まえた新たなチーズ作りに向けた挑戦が始まります。

 脂肪酸が多い山羊乳のチーズは、フランスの「Chèvre シェーヴル」、イタリアの「Caprino カプリーノ」、スイスの「Ziegenkäseツィーゲンケーゼ」など、タイプは多様。程度の違いはありますが、酸味を感じるのが一般的。

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 試行錯誤の末に出来上がった試作品は、桜葉の甘い香りが素材由来の酸味を和らげ、桜餅(上写真は青葉区北目町「村上屋餅店」謹製)を彷彿とさせる香りがかすかに漂う上々の出来栄えでした。

 2年目からは桜餅のように葉ごと食べることができるよう、西洋サクランボの葉よりも芳香性が強い日本のオオシマザクラの葉を空輸。チーズの中に刻んだ葉を含ませることで、より桜のニュアンスが強く出た仕上がりとなりました。2013年からは再びピエモンテの桜葉を使用しています。

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【Photo】日伊合作によるCORA Formaggi 社のLa Rossa。直径10cm×高さ4cmほどの山羊乳100%のロビオラを、自ら集めた地元の桜葉で一つずつ包み込み、10日から15日の熟成を経て出荷される。賞味期間は45日

 La Rossa は、山羊乳チーズの常で日を追うごとに風味が変化するため、まずはフレッシュなうちに御開帳。イタリアの桜葉は、日本のそれとは違って硬く食用には不向き。うっすらと赤っぽい外皮に覆われた白いロビオラの中身は、とろ~りクリーミーな食感。

 繊細なヤマトナデシコのような共働学舎の「さくら」と比較すると、塩味が強く、山羊乳チーズらしい酸味は感じません。しっかりしたミルクの風味の余韻に桜の残り香が重なります。

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 クセがない優しい味わいの牛乳製のさくらとはタイプを変えて試みたヴィーノとLa Rossa のアッビナメント(上写真)に関しては、長くなるので【 Atto】第三幕にて。

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投稿者 vam : 01:25 | カテゴリー : Cuccina Italiana/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城

2016/03/20

さくらの便りは北の国から

桜が香る〝春待ちチーズ〟共働学舎「さくら」
× バラ香るロゼ・スプマンテ+α


 仙台市街地中心部を南北に貫く東二番町通りを挟んで、仙台市役所の筋向かいが青葉区役所。その裏手にチーズ専門店「Fromagerie & Café Au Bons Ferments オー・ボン・フェルマン(下写真)はあります。

Au_Bons_Ferments.jpg

 Viaggio al Mondo では、「Sale dolce サーレ・ドルチェ(=甘い塩)」と称されるエミリア・ロマーニャ州チェルヴィアの天日塩を取り上げた折〈2008.7 拙稿「こっちの塩は甘いぞ」参照〉と、ソメイヨシノが開花した直後、仙台では最も遅い積雪記録となった降雪について記した「桜と名残り雪」でご紹介しました。〈2010.4 拙稿「桜と名残り雪」参照〉

 花便りで驚いたのが、仙台市宮城野区の榴岡天満宮で、昨年12月25日に梅が開花したこと。天満宮によれば、ここ数年、梅の開花は2月下旬から3月上旬だったといいます。極端な暖冬が自然の営みにも影響していたのですね。

Au_Bons_Ferments2.jpg【Photo】国内外のさまざまなタイプのチーズを取り揃えたある日のオー・ボン・フェルマン。フランスチーズ鑑評騎士のショップオーナー足立武彦さんは、シニアワインアドバイザーの資格も有し、店内でワインとチーズの組み合わせを体感できる催しを定期的に実施している

 そんな暖冬傾向が一変したのが、年が改まった1月中旬から。連日寒い日が続いた仙台では、梅の見頃が続いています。そんな春まだ浅い3月。スギ花粉症の方にとっては、ありがたくない花粉前線も東北まで北上。咽喉や目鼻の不快感に苛まれるじっと我慢の季節が今年もやって参りました。

 三寒四温を繰り返し、やがて寒さに震える季節が終わります。ウグイスの初鳴きを観測した仙台でも週後半からは寒さが緩み、春近しを感じる陽気となりました。日本気象協会による桜の開花予想では、総じて昨年に続き、今年も早咲きのようです。

kobai-hakubai.jpg【Photo】接ぎ木されて一株となった早咲きの紅梅と、遅咲きの白梅とが凍える寒さの中で咲き揃う。オー・ボン・フェルマンからほど近い勾当台公園の一角で見つけた小さな春の足音(2016.3.12 撮影)

 イタリアかぶれの庄イタをしても、ニッポンに生を受けて良かったと思うのが、間もなく訪れる桜の季節。うららかな陽気のもとで愛でるソメイヨシノは、こと長い冬を越す東北の地においては、春を迎えた喜びの象徴にほかなりません。

 冬から春への境となる春分の日は、昭和23年に施行された「国民の祝日に関する法律」では〝自然をたたえ、生物をいつくしむ〟日と定義されています。

 昼と夜の長さが同じになる春分の日は、年によって日が変わります。今年は本日3月20日で、日曜日と重なるため、翌日が振替休日となります。連休で得をした気分になるのは、やはり精神構造がイタリア人ゆえでしょうか。

hitome-senbon2015.jpg【Photo】1922年(大正12)に植樹されたソメイヨシノやシロヤマザクラなど、1,200本ほどの桜並木が見られる「一目千本桜」。阿武隈川の支流・白石川沿いに8kmにわたって続く宮城県南きっての桜の名所。父親が小さな男の子を乗せた車を曳く姿がほほえましい親子を見守る満開の桜(2014.4.12 撮影)

sakura_logo2.jpg カトリック国のイタリアでは、キリストの生誕を祝う「Nataleナターレ(クリスマス)」と同様、主の復活を祝う「Pasquaパスクア(復活祭)」は、重要な意味を持つ祝日。敬虔なキリスト教徒にとっては、すべからく万人に訪れる誕生より以上に十字架からの復活は、意味深い奇蹟と考えられるわけですね。

 春分の日を過ぎた最初の満月の夜が明けた日曜日がパスクアと定められており、春分の日と同じ移動祝日で、今年は3月27日。月の満ち欠けの関係から、来年は4月16日がパスクアと、振れ幅が大きい祝日でもあります。

 啓蟄を過ぎ、風ぬるむ季節の訪れを待ち焦がれる今の時季、毎年いち早く春の息吹を届けてくれるのが、ほんのりと桜の香りがするチーズ「さくら(下写真)

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 繊細な日本人の感性が生んだこのチーズは、北海道上川郡新得町の農事組合法人「共働学舎新得農場」で生産されます。1月初旬から、桜の季節が終わる5月下旬にかけての季節商品となります。

 十勝平野の最北部に拓かれた共働学舎新得農場には、自閉症や引きこもりなど、心身にハンディを抱え、一般社会に居場所を見つけられない人々が集います。そこでは日々の糧を生み出す家畜とともに、自然の摂理に沿った農作業を行うおよそ70名が、自給自足による共同生活を送っています。

 林業とソバ栽培が盛んな新得町にあって、西に日高山脈、北に大雪連峰を望む総面積70haほどの南東向き斜面に拓かれた新得農場では、有機農法による野菜・そば栽培なども行いますが、生産活動の主力は酪農。

 付加価値が高いチーズ生産ほか、ブラウンスイス種の肉牛・ホエー豚などの飼育に取り組んでいます。現在はブラウンスイス85頭とホルスタイン10頭から、朝夕2回の搾乳が行われます。

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【Photo】広大な十勝平野の北部、新得町は昼夜の寒暖差を生かしたそば栽培に適している。約6,300人の人口に対して、飼育される牛の頭数は33,000以上!!

nozomu_miyajima_libro.jpg 開設以来、農場主を務めるのは宮嶋 望氏(65)。米国内でチーズ生産量が最も多いウィスコンシン州にある農場「Vogel Farm 」での2年間の実地研修後、酪農学を専攻したウィスコンシン大学マディソン校を卒業。1978年(昭和53)に入植しました。

 6頭の乳牛からスタートし、翌年モッツァレラから着手したチーズ作りは、1984年(昭和59)に本格稼働。お手本となったのは、酪農やチーズ生産に関して工業化が進んだ米国ではなく、地域の伝統に培われた欧州各地のチーズ作りでした。

【Photo】共働学舎の理念を記した宮嶋氏の最新刊「いらない人間なんていない」(いのちのことば社2014/6刊)

 1998年(平成10)、79点が出品した「第1回 ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」(主催:中央酪農会議において「ラクレット」が最高賞を受賞。2004年(平成16)には、スイス・フランス・イタリア3ヵ国で構成する「Caseus Montanus (山のチーズ委員会)」主催の「山のチーズオリンピック」ソフトチーズ部門で、さくらが金賞に輝きます。

 共働学舎新得農場は、競争社会からドロップアウトした人々が集い、生きがいを感じる仕事を通して、自分の居場所と、もう一人の自分を見いだす場でもあります。そのありようは、色も形も異なる花たちが、共働学舎という一本の木に、それぞれのペースで花開いてゆくかのよう。そんな作り手たちの姿と、さくらとが、重なります。

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【Photo】半地下の床下に炭を敷き詰め、札幌軟石を積み上げた共働学舎新得農場のチーズ熟成庫。成形した凝乳の塊を塩水に浸し、熟成庫に移して後も、時おり塩水を染み込ませた晒(さらし)で磨きながら寝かせること3ヵ月。スイスでは表面を溶かしてジャガイモに塗って食するセミハードチーズ「ラクレット」が完成する

 トッピングされた一輪のエゾヤマザクラは、ヨーロッパの人々に日の丸を連想させ、エキゾチックな桜のフレーバーが、遠い日本を想起させるのでしょう。さくらは、国内はもとよりチーズの本場ヨーロッパで催される各種コンテストで、数々の受賞歴を積み重ねてきました。

 春先限定のさくらは、表皮までホロホロとした淡雪のようにしっとり柔らかな食感。桜餅に通じる和の香りに牛乳の甘さ、薄味の塩気、そしてヤギ乳から作るシェーブルチーズに似たほのかな酸味が加わります。出荷までの熟成期間を10日程度に留め、繊細な風味を残しています。

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 全体を覆う白い粉は、味噌の仕込みで用いる酵母「ジオトリカム・カンディダム」によるもの。カビではなく、この酵母を用いる製法で作られる共働学舎のチーズが、「プチ・プレジール」(上写真)

 プチ・プレジールを桜葉で香り付けし、熟成が進み過ぎない段階で一輪のヤマザクラを添えたソフトタイプのチーズが、さくらです(下写真)

 さくらのベースとなるPetit plaisir の意味は、フランス語で「小さな喜び」。さくらには、冬のモノクローム世界から芽吹きの季節を迎える今の時季に似つかわしい、ほんのり桜色のロゼがイメージ的にぴったりです。

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 今シーズン初のさくらは、共働学舎の各種チーズを取り扱うオー・ボン・フェルマンで例年通り購入。アドリア海に面したイタリア中部マルケ州のごく限られた地域だけで栽培されるブドウ「Lacrima ラクリマ」から醸したスプマンテを合わせてみました。

 ラクリマは、顕著なバラの香りが特徴となるアロマティックなブドウです。桜はバラ科の植物。バラの香りとの親和性は高いだろうという読みでした。ただ、果皮に割れが生じやすく、収穫時期の見極めが難しいため、栽培が難しい品種とされます。〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉

 素晴らしいDOCG 白ワイン「Verdicchio dei Castelli di Jesi Riserva ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージ・リセルヴァ」 の造り手である「Marotti Campi マロッティ・カンピ」は、通常DOC 赤ワイン「Lacrima di Morro d'Alba ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ」を醸すこのブドウを、アロマ感を活かすシャルマ方式(密閉タンク方式)で、発泡性のある辛口スプマンテに仕上げました。

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【Photo】イタリア中部マルケ州アンコーナ県のごく一部だけで栽培されるバラの薫香を漂わせる品種「ラクリマ」。個性的なこのブドウをスプマンテに仕立てたのが、モッロ・ダルバ地区の造り手「マロッティ・カンピ」。バラ科の桜の香りが魅力のさくらとの相性はいかに

 淡いピンクの色調からイメージする品種特有のバラ香との相性はまずまず。時間と労力を要する瓶内二次発酵を行うため、いきおい高価となるシャンパーニュやフランチャコルタのように持続性が高い細やかな泡の立ち上がるシルキーさはありません。泡の感触が食感に障(さわ)るうえ、渋みのもととなるタンニンを意外と感じるため、ガンベロロッソ式3段階評価では★で第1ラウンドを終了。

 半分ほど残ったさくらには、蜂蜜のワンダーランド「藤原養蜂場」で購入した「盛岡石割桜一番蜜」を少しだけ垂らしてみました。その途端、さくら本来の香りが数倍増しとなり、一気に花開いたのです。予定外の第2ラウンドは寺内大吉さんの採点(⇒昭和世代はご存じかと)でも1.5ランクアップで★★ の満点に迫る組み合わせとなりました(下写真)

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 さくらと合わせるため、自宅にストックしていたヴィーノとのアッビナメント(組み合わせ・マリアージュ)を試みるべく、今季2個目のさくらを買い求めようと、仕事帰りに再び訪れたオー・ボン・フェルマン。店内では、さくらと3種類の産地が異なるロゼとの組み合わせを体感するショップイベントの真っ最中でした。

 テーブル席では6名ほどが、淡いピンク色のグラス3杯と切り分けたさくらを前に、真剣な面持ちでロゼとさくらの相性を確かめています。自転車で移動中だったため、同好の輪に加わることはできません。「そっちがグラス3杯なら、こっちはボトル3本返しだっ!」 堺雅人ばりの意気込みを胸に、家路を急ぎました。

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【Photo】赤と比べて圧倒的に数少ないロゼの自宅ストック。(右から順に)「Cerasuolo Montepulciano d'Abruzzo チェラスオーロ・モンテプルチァーノ・ダブルッツォ1999」、「Dolcedorme Rosé ドルチェドルメ・ロゼ 2014」、「Principessa Cerasuolo プリチペッサ・チェラスオーロ2014」。特別な日に飲みたいアブルッツォの巨人「Valentini ヴァレンティーニ」はお飾り(^ ^; 。結局選んだのは左端のヴィーノ・ロッソ

 当初考えていたアッビナメントの本命は、カラブリア州の作り手「Ferrocinto フェッロチント」が、長期熟成型の偉大な「Taurasi タウラージ」を生む南イタリアの赤品種「Aglianicoアリアニコ」から醸したロゼ。畑の標高が400m以上と高く、南らしからぬエレガントな造りが魅力。

 対抗は2013年に新潟市西蒲区に誕生した「カンティーナ・ジーオセット」を起業した瀬戸潔さん(54)が、山形の契約農家が生産するスチューベンをチャーミングに仕上げた1本。第1ラウンドでは、さくらの繊細な風味を覆ってしまうタンニンの存在が気になったため、結局は知り合いのソムリエが推奨するプーリア州のヴィーノ・ロッソを選んでみました。

 捲土重来を期す第3ラウンド。挑戦者はイタリア半島のかかとの位置にあたるプーリア州産「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」。本来は高い熟成能力を備えた力強い赤ワインとなる品種「Primitivo プリミティーヴォ」を、15℃から18℃程度に冷やして飲む造りをあえて狙った変則パターンです。

fatalone-sakura2.jpg 「Ridge」や「Clos du Val」など、成功を収めているカリフォルニアの「Zinfandel ジンファンデル」と同一品種であることが、20世紀後半のDNA検査で判明したプリミテーヴォ。色が濃いロゼ風に仕立てたファタローネ・テレスとの組み合わせは、いわば変化球勝負。

 州都Bariバーリから、どこまでも平坦な地形が続く内陸側へ40kmあまり南下した「Gioia del Colle ジョイア・デル・コッレ」は、良質な赤ワイン産地。円錐形の石積み屋根が特徴の住居「トゥルッリ」で名高い「Alberobello アルベロベッロ」の西方約30km の海抜365mの丘陵地にブドウ畑を所有する「Pasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラ」。

 イタリアにおけるオーガニック認証機関の先駆けであるICEAから有機認定を受けているパスクアーレ・ペトレーラ醸造所の信条は、ブドウの樹を人と同じように慈しむこと。自らが欲することをブドウにも同じように与えるため、常に細心のケアを怠りません。

 太古そこが海底だったことを物語る貝の化石が出てくる石灰岩と粘土の赤黒い土壌。ヴィーノ・ロッソとしては淡く、ロゼとしては濃い微妙な色合い(上写真)は、発酵前に果汁に果皮を浸すマセレーションを、ロゼと同程度の30時間に留めたスキンコンタクトによるもの。樹齢25年ほどのプリミティーヴォが完熟する10月後半に収穫後、樽は用いずステンレスタンクで12ヵ月、瓶内3ヵ月の熟成を経て、リリースされます。

 「Negroamaro ネグロアマーロ」種をメインとするイタリアン・ロゼの発祥とされるDOC Salice Salentino サリーチェ・サレンティーノ」を含め、お値打ち品が多いこの地域では、夏の日中は40℃越えが珍しくありません。5代前の創業者ニコラ・ペトレーラが好んだという、冷やして飲むロゼ風の仕上がりのヴィーノ・ロッソです。

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 青葉区広瀬町のワインショップ「Wine Store ブドウの木(下写真)で、さくらとの組み合わせを前提に、選択のお手伝いをして下さったのが、オーナー・ソムリエの奥山和茂さん。

tag-fatalone.jpg セラーに200種前後を取り揃えるワインには、奥山さんがプロフィールを記したタグ(右写真)が1本ごとついています。

 ワインは店内のカウンターやテーブル席でフード類と共に頂くことができます。家飲み用には、表示価格の25%引きで購入可能(6本以上の場合30%OFF)。 よって店頭価格3,440円のファタローネ・テレスの購入価格は2,580円でした。

 比較的手頃な価格帯のヴィーノ・ロッソですが、安ワインにありがちな単調さやヌケ感は皆無。ふくよかな果実の旨味が伸びやかに広がります。渋味のもととなるタンニンは希薄で、飲み口は滑らか。

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 パスクアーレ・ペトレーラ醸造所の地下セラーには、クラシックやヒーリング音楽が流れています。えもいわれぬ心地よさを感じさせる癒しの秘術は、ワインがそこで体得するのかもしれません。

 ファタローネ・テレスは過剰な自己主張をせず、繊細なさくらの風味がより引き立つよう、優しくエスコートするかのよう。ファタローネの名は、2代目フィリッポ(左写真)のニックネームにちなんだもので、il Fatalone とは、俗にいう〝女たらし〟のこと(笑)。

 ただでさえ情熱的なイタリア男をして、そう言わしめるのですから、フィリッポは相当お盛んだったのでしょう( ^0^;)。自家製のヴィーノ・ロッソと牛乳を500mℓずつ飲むことを朝の日課としていたフィリッポ。98歳で天寿を全うした日とて、その例外ではなかったといいます。そんな酒とバラの人生を謳歌したフィリッポの精神と、作り手のブドウへの愛情がこの1本に体現されているように感じました。

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 北の大地に春の訪れを告げる桜が香り立つ共働学舎のさくら。そこに集う心に悩みを抱える人たちのように遅咲きのさくらに寄り添い、引き立て役を果たしてくれたFatalone Teres 2014 vinには、アッビナメント★★に加え、あっぱれ助演男優特別賞を献上したいと思います。

【Photo】共働学舎のさくらに添付の栞(しおり)に描かれた一輪の桜

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Fromagerie & Café Au Bons Ferments
 フロマージュリー&カフェ オー・ボン・フェルマン
 住:仙台市青葉区上杉1丁目4-10 庄建上杉ビル1F
 Phone : 022-217-2202
 営) 12:00~22:00 月曜定休

Wine Store ブドウの木
 住:仙台市青葉区広瀬町3-48
 Phone : 022-796-2293
 営) ・ダイニングバー 13:00~22:00 L.O.  ・カフェ13:00~17:00 日曜定休


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投稿者 vam : 00:24 | カテゴリー : Vino ヴィーノ/| カテゴリー : ごちそうさまでした/| カテゴリー : ・Fuori Tohoku 圏外遠征/| カテゴリー : ・Pref.Miyagi 宮城

2016/03/06

おまさん まっこと上等な「ぬた」を知っちゅうが?

あなたはホントに美味しい「ぬた」をご存知ですか ?

Sa la molt buona salsa verde da Tosa ?

ryoma_sakamoto.jpg タイトルがコテコテの土佐弁であることから明らかなように、出張で訪れた高知で、旧交を温める機会に恵まれました。

 仙台から伊丹経由で高知龍馬空港入りした庄イタ。大政奉還への道筋を示した幕末の志士は、空の玄関口のニックネームとして平成の世の土佐に蘇ったぜよ。

【Photo】大阪・伊丹を経由して高知入りした庄イタを含む一行8名。出迎えて下さった高知新聞社の計らいで、高知龍馬空港から市内への移動の道すがら立ち寄ったのが、観光名所として名高い桂浜。太平洋を睥睨するかのように立つ坂本龍馬像

 出張初日の講演会会場となった自由民権記念館で地元紙・高知新聞社のS氏と合流したのが20時過ぎ。互いに旧知の仲であり東京から参加したD社のK氏を伴って、20年ぶりの再会となるS氏に案内されたのが、噂通りにがっかりポンだった(笑)観光名所「はりまや橋」からほど近い「鮨処すごろく」。

 「酔鯨」や「土佐鶴」など比較的ポピュラーな銘柄ではなく、「文佳人」「美丈夫」「しらぎく」といった地元ならではの日本酒を飲み比べ。

utsubo.jpg【Photo】端麗な飲み口で盃が進んだ文佳人特別純米を相伴に「鮨処すごろく」で食したのが、コラーゲンの宝庫なのだというウツボの唐揚げ。太平洋に面した沿岸部以外は山がちな地形の高知県。冷蔵技術が発達する以前、時間を要する内陸部までの運搬後も生きながらえる生命力が強いウツボ料理が伝わってきた

 幸いなことに鮨処すごろくは、居酒屋風の一品料理が充実しており、清流・四万十川の汽水域だけで育まれる香り高いアオサノリの天ぷら、塩味で頂くカツオのたたき、土佐清水で揚がる脂が乗った清水サバ、高知の山間部で食するのだというウツボの唐揚げなど、土佐ならではの味覚を堪能できました。

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 皿盛りの刺身の付け合わせとして小皿で登場したのが、鮮やかな緑のペースト(上写真)。前世イタリア人が、こうしたSalsa verde (=緑のペースト)で真っ先に思い浮かべるのは、リグーリア州ジェノヴァ発祥のバジル香るペスト・ジェノヴェーゼです。

 リグーリア地方では、細長く捻じったショートパスタ「Trofie トロフィエ」に和えるペスト・ジェノヴェーゼよりも、高知のサルサ・ヴェルデは幾分か淡い色合い。枝豆を漉して滑らかにした「土佐ずんだ」が登場したのか?とも思いましたが(笑)、それは「ぬた」と呼ばれる冬の土佐ではポピュラーな合わせ調味料なのでした。

 一般に「ぬた和え」=「酢味噌和え」として認識されることが多いと思います。ところが高知における「ぬた」は一味違います。

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 決め手となるのは「葉ニンニク(上写真)。結球部が肥大化する前段階で、茎と葉を食用とするのです。土佐のぬたは、ニンニク葉を刻んで鉢ですりおろし、白味噌と和え、砂糖と酢で味を調えるのが基本。柑橘栽培が盛んな高知ならではの柚子酢や麦味噌を用いたり、砂糖の分量を変えたりと、それぞれ家庭の味が存在するのだそう。

 鮨処すごろくで出されたのは、そうした自家製ぬたでした。定番のブリのみならず脂が乗ったアジやカツオとも好相性。これは断言できます。「げに うまいぜよ!(=ホント美味しい! )」

 高知新聞社のS氏は「サニーマート」や「サンシャイン」など、質と価格では全国展開する大手スーパーが到底太刀打ちできないという地元資本の食品スーパーでも置いている既製品もさることながら、手作りのぬたを推奨するのでした。

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【Photo】比較の意味で購入した食品スーパー「サニーマート」のPBブランド「よいち水産」製の「土佐のにんにくぬた」。鶏の唐揚げ、豆腐、コンニャクなど、汎用性が高い万能調味料となる

 その意味で幸運だったのが、高知での宿泊先ブライト パーク ホテルの立地と曜日回り。宿は高知城の追手門から一直線に伸びる追手筋(おうてすじ)に面しており、そこでは元禄時代から300年以上続き、現在は「日曜市」の名で知られるメルカート(街路市・マルシェ)が開かれるのです。

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【Photo】天守閣の大手(正面)に位置する追手門。本丸と大手門とを、こうして一か所から眺めることができるのは、高知城が唯一なのだという

 露店に並ぶのは、高知市近郊の農家が持ち寄る野菜や果物、山菜などの生鮮品。そして刃物・骨董・植木などの日用品。さらには創傷ややけどに効くといわれる「狸の油」といった珍品まで、品揃えのバリエーションは実に豊富。およそ430軒の露店が、1.3kmにわたって軒を連ね、観光客を含む多くの人出で賑わいます。路上で終日開かれる露天市としては、日本一の規模を誇ります。

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 2泊3日で訪れた高知出張の最終日が日曜日に当たったため、ちょうどホテルの目の前で日曜市が開催される巡りあわせに恵まれた次第。そこで早めに朝食を済ませ、南国情緒を醸し出すカナリーヤシ(フェニックス)が、中央分離帯に列をなす追手筋へと繰り出しました(上写真)

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【Photo】日曜市を散策していて目に留まった珍品の一例。土佐の大皿料理「皿鉢(さわち)料理」の「組みもの」で中心に盛られるのが、尾頭付きのまま背開きにして酢で締めたサバで酢飯を包み込んだ「サバ姿寿司」(上写真左)。その応用編「アジ姿寿司」(上写真右)。 やけどに効能があるという「狸の油」(下写真)。乗り合わせたタクシーの運転手氏に言わせると、本物とあえて銘打っているものの、実際のところは何が入っているかは闇鍋に近いのだという(笑)

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 高知城に向かう西行き2車線を車両通行禁止として日曜市は開かれます。一方で東向き2車線側を対面通行に変更(下写真)。いかにも柔軟かつ合理的なシステムではありませんか。

 これは、可動式の中央分離帯を2か所を開放することで、特段の減速指示をせぬまま、大胆にも対面通行をさせてしまうイタリアの高速道路工事でも恒常的に行われる運用法です。

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【Photo】高知での宿泊先となったブライトパークホテルの部屋から追手筋を撮影。通常は西方向に向かう車両が通る2車線を占有使用して日曜市が開かれる。設営準備中につき、まだ人影はまばら

 「自由は土佐の山間より出づ」という自由の精神を尊び、薩長の専制に反発し、自由民権運動の推進役を担った異骨相(いごっそう)気質を受け継ぐ高知市民からは、「南国土佐はラテンやき、当然ちゃ。」という声が聞こえてきそう。

 万が一の保険のため、サニーマート系列の毎日屋大橋通り店で、PBブランドよいち水産製「土佐のにんにくぬた」5袋入り1パックを入手してはありました。なれど庄イタが目指すは、前夜の打ち上げの席で地元の事情通から聞き出していた〝とある容器〟に入った自家製葉ニンニクのぬた。

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【Photo】日曜市で長ネギと横並びで売られていた高知市宗安寺地区産の「葉ニンニク」。地元では「ニンニク葉」とも。葉ニンニクは、高知と沖縄で栽培が盛んだが、ニンニク生産量が国内では最も多い青森では、ほぼ見かけない

 まず見つけたのは、材料となる「葉ニンニク」そのもの。麻婆豆腐など中華料理に用いる事が多く、通常は結球部を食するニンニクを若いうちに葉と茎を食用にする野菜です。秀吉の朝鮮出兵に参加した長宗我部元親の兵が土佐に持ち帰ったとのこと。高知市に隣接する南国市に位置する高知龍馬空港の周辺でも、葉ニンニクが盛んに栽培されている様子が見て取れました。

 葉ニンニクが身近な存在である高知においては、すき焼きに入れるのは長ネギではなく葉ニンニク。焼き鳥もネギ間ではなく、葉ニンニク間。炒め物での登場率も高いとのこと。このように葉ニンニクは土佐の暮らしに深く根付いた食材なのです。

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 そこには肝心のぬたが見当たらなかったため、駅前電車通りと接する東端の「1丁目」から高知城に向かって「6丁目」まである日曜市を西へ向かって歩みを進めてゆきました。街路樹がクスノキの巨木へと変わるのが5丁目から。

 日曜市の露店にはすべからく「〇丁目北〇番」といった地番がついており、したがって位置も固定の割り当て制になっています【MAP】。

 その一角、5丁目南322番に目指すものがありました。お手製の目印だと事情通から教えられたのが、かつて駅弁とセットで売られていたお茶が入っていたポリエチレン製の茶瓶。昔懐かしい半透明のポリ容器に入った農家のお母さんお手製のぬたを遂に発見したのです。

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 爪楊枝が刺さった細切れの自家製コンニャクが、ぬたの試食用として用意されています。それは鮨処すごろくのぬたとは一味違うピリリと辛いぬたでした。冷凍すると色褪せずに日持ちすると店主の高橋光江さんから聞き出し、迷わず購入。

 すぐ近くにも赤いスクリューキャップ容器に入った自家製のぬたが置いてあったので、そちらもゲット。そうして日曜市をくまなく散策し、確保したお手製のぬたは、2個という結果でしたが、食べ比べができるという点では上々の成果と言えましょう。

 こうして初期の目的を果たしたものの、訪れてみたい場所が一つ残っていました。それは日曜市6丁目角の「ひろめ市場」。7時の開店と同時に、屋台村がオープンするというのです。

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【Photo】朝9時をまわったばかりのひろめ市場。夜9時にはあらず。これが高知における朝のスタンダードであるかどうかは定かではない

 およそ4,000平方メートルの敷地に500の客席がある飲食コーナーでは、予想通り、朝っぱらからカンパーイ!! の声が響いており、「箸拳(はしけん)」や「可杯(べくはい)」「返杯」といった酒豪文化が息づく高知ならではの土地柄に感心するやら呆れるやら。
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【Photo】ひたすら酒を呑みたいがためとしか思えない土佐伝統の「可杯(べくはい)」。大きさが異なる3つの杯(天狗・ひょっとこ・おかめ)の絵が描かれたサイコロを「♪ベロベロの神様は・・・」で始まる囃子唄とともに振り、サイコロが向いた人が絵柄の出た杯で酒を呑む。ひょっとこの口には指で塞ぐ穴が空いている。いずれも座りが悪いので、呑み干すまでは杯を置くことができない

baca-wine.jpg Quando sei a Roma, vivi come i romani (=郷に入っては郷に従え)を旅先での行動規範とし、赤ワイン体験なら数知れない庄イタ。

 大ジョッキで飲み干す「バカワイン(右写真)を、見識を広めるためと称し、出張初日にS氏に案内された2軒目「大衆酒場はりまやオリバ」で注文。同じ穴のムジナなのでした。

 お酌をしたお猪口を飲み干した相手が、即座にその杯を差し返し、一つの杯で延々と差しつ差されつを繰り返す返杯も初体験。興が乗るまま久方ぶりに興じた可杯も登場。高知2日目の夜も存分に満喫しました。

 前日の大雨から一転、青空が広がった3日目は、日曜市に繰り出すことを固く心に誓っていました。昼前の便で伊丹に向かう段取りだったため、さすがに乾杯の輪には加わることなく高知を発ちました。
 
 高知のお母さんの言いつけ通り、日曜市で手に入れた2個のぬたは、帰宅後すぐに冷凍室へと直行(下写真)

due-nuti.jpg 鮨処すごろくでは、S氏の薦めで寒ブリやアジを食べ合わせたように、ぬたは脂乗りの良い刺身との相性は抜群なのです。

 そこで翌週末、マリンゲート塩竃前に震災翌年オープンした「Pizzeria La Gita」でナポリピッツァを食すために訪れた塩竃で仲卸市場に立ち寄り、冬に旬を迎える生食可能な新鮮なメカジキを購入しました。

 メカジキは、英語でSword fish、イタリア語でPesce spadaspada =剣)と呼ばれる通り、長く尖った上顎が特徴のカジキの一種。気仙沼が水揚げ日本一ですが、これは塩竃に水揚げされた大型のメカジキだったそう。

pesca-spada@nuta.jpg 果たせるかな、宮城の味メカジキと高知の味ぬたとの食べ合わせの相性は、非のつけどころなし。はやいっさん(=もう一度)言うきに。「げに うまいぜよ!!

 19年連続日本一の記録を更新している気仙沼のカツオ水揚げ高を少なからず支えているのが、高知のカツオ漁船。

 高知の漁船員の皆様、カツオを追って黒潮を気仙沼まで北上する際は、船の冷凍庫にぬたを忘れずに保管されますよう。束の間の休息を気仙沼でとられる際、こってりとした脂が乗ったメカジキと、ぬたの食べ合わせを試されてはいかがでしょう。

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今回の高知出張ミッションの成果は、震災から5年を経る3月11日(金)と12日(土)に防災プロジェクト「いのぐ」の一環として高知新聞紙上に。河北新報朝刊には3月13日(日)に3ページ特集「高知むすび塾」詳報として掲載予定。出張の趣旨に関して皆さまが曲解なさらぬよう、付け加えておきます。

土佐の日曜市
 毎週日曜日開催: 夏期間(4月-9月)5:00~18:00
             冬期間(10月-3月)5:30~17:00
             ※ 上記は設営および撤収に要する時間を含む
             ※ 1月1日・2日・よさこい祭りと重なる場合は休み
 

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投稿者 vam : 23:53 | カテゴリー : ・Fuori Tohoku 圏外遠征


「庄内系イタリア人」こと
木村 浩人

外見と所持するパスポートの国籍は日本人。なれど脳細胞はイタリア人。≫詳細

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