あるもの探しの旅

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Salone del Gustoサローネ・デル・グスト体感レポート

◆File2:スローフード運動の理念を体現した「サローネ・デル・グスト」

Salone_logo.jpg テッラ・マードレの会場「オーバル」に隣接する広大な「リンゴット」国際展示場では、「Salone del Gusto サローネ・デル・グスト(=「味のサロン」の意)」が催されました。10回目を迎えた当イベントのスローガンは、「GOOD,CLEAN,FAIR (=おいしく、きれいで、正しい)」

 こちらは、20ユーロの入場チケットを購入すれば、一般参加者も入場可能です。幕張メッセで開催される日本最大の食の見本市「FOODEX JAPAN」の出展ブース数はサローネより多いものの、あくまで業者向けの商談の場・見本市の性格が強いもの。一方、スローフード協会は、サローネを広く一般消費者に門戸を開放しています。

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【Photo】広大なサローネ・デル・グストの会場。世界各国の個性ある伝統食品が並ぶ "Slowfood archives"
  
 かようにサローネ・デル・グストは単なる食の見本市ではなく、スローフード運動が目指す生物多様性のあり方と、味覚・環境・社会的公正さを備えた質の高い健康な食の世界を、訪れた人が多面的に体感できる場なのでした。事実、初開催となった10年前は、食品メーカーや小売店などの商工業者出展の割合が75%だったのに対し、第一次産業に携わる人々の出展が25%の割合だったものが、今回はその割合が生産者出展75%・商工業者出展25%に逆転していたのです。

ViaDolci.jpg【Photo】来場者でごった返すサローネ会場。甘党にはたまらない菓子類がずらりのVia dei Dolci (=お菓子通り)。チョコレート作りが盛んなトリノの老舗 Venchi ほか、ほとんど全てのブースで試食が可能。生き方そのものがDolce vita (=甘い生活)なイタリア人が作るドルチェだけに、さすがに美味 "Slowfood archives"

 そこでは開場時間の11時から23時までの間、胃袋と気力が続く限り、食の五大陸一周旅行を堪能できるのです。ワインやオイル、チーズや食肉加工品、トリノ名産のチョコレートなどイタリアを代表する伝統的産品の300あまりのブースや、世界各国の特色ある食品が広大な会場にぎっしりと並び、一日で会場のすべてを食べつくし、学ぶことなど、とても不可能なスケールです。

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【Photo】イタリア・トスカーナ州アレッツオ県のアルノ川沿いのヴァルダルノ地方で作られるプレジディオ指定された独特の製法によるパンチェッタ「Valdarno Tarese」のブース

 「Ark アルカ(味の箱舟)」認定産品のなかでも、特に重要で良質な食材はスローフード協会から「Presidio プレジディオ」(=庇護・防衛の意)指定を受けます。私が訪れた2006年大会からは、個性豊かなプレジディオが、大陸別に展開するブースが300ほど設けられました。そこにはスウェーデンのトナカイの干肉や、チベット高地で飼育されるヤクの乳のチーズなどの、さまざまな国籍の生産者がおり、いわば異文化と触れ合う坩堝(るつぼ)さながらの様相を呈していました。

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【photo】パスタ製造が盛んなアブルッツォ州の小麦粉挽き職人のパスタワークショップには、同州のみならず、イタリアを代表するワイン醸造家、ジャンニ・マシャレッリ氏も登場、講座に華を添えた

  特色ある世界中の伝統食品・飲料に関するワークショップが会期中に行われ、そこでは英語の同時通訳による生産者自身や生産組合などの関係者らの解説を聞きながら、試食・試飲ができました。私が参加したのは、ふたつの講座。まずはイタリア中南部アブルッツォ州の小麦粉挽き職人ニコラ・ディ・ラッロ氏が、小麦粉を手ごねして作るパスタ「マッケローニ・アッラ・ムニャイア」 (注1)の製造過程を実演し、打ち立てのパスタを試食するというもの。

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【Photo】小麦粉挽き職人ニコラ・ディ・ラッロ氏による「マッケローニ・アッラ・ムニャイア」作りの実演。熟練のラッロ氏の手つきは日本人からみれば"うどん打ち"そのもの

 コシのある麺にトマトソースが軽めに絡めてあり、小麦の香りが活きた仕上がり。アブルッツォならではの素朴なパスタと共に出されたのは、2006年に亡くなった伝説的なワイン生産者、エドアルド・ヴァレンティーニ氏亡き後、同州のリーダーと目される著名な醸造家ジャンニ・マシャレッリ氏の赤ワインでした。ワインと共に登場したのが、アブルッツォのみならずイタリアでも屈指の醸造家、ジャンニ・マシャレッリご本人でした。イタリア人らしいビシっとしたスーツ姿の同氏の登場は事前のリリースには一切記載されておらず、私にとってはうれしい誤算です。

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【Photo】 日本人にとっての醤油味のように、イタリア人の味覚において最もベーシックな味付けとなるトマトソースによるシンプルな味付けでパスタを味わった。醤油とダシで頂く讃岐うどんと同じく、パスタのコシと小麦の香りが際立った「マッケローニ・アッラ・ムニャイア」

 フレンチオークのバリック樽100% (注2) でモンテプルチアーノ種のブドウを36カ月間長期熟成をさせるフルボディのD.O.C.赤ワインMarina Cvetic Montepulciano d'Abruzzo'03。マシャレッリ氏がアブルッツオ州キエーティ県マルッチーナに1978年から所有していたブドウ畑に新たに興したマリーナ夫人の名前を付けた醸造所、Azienda agricola Marina Cveticからの初リリースとなるモンテプルチアーノ種100%で仕込んだI.G.T.赤ワインRosso colli Aprutini ISKRA'03の2種類が用意されました。

 前者はプルーンのような上品な香りでクラシックな造り。エレガントさも持ち合わせています。スロベニア語で"閃光"や"きらめき"を意味するという後者は、よりバリックが効いたモダンでインパクト重視な味わい。タイプは違えど、フルボディでいずれも極めて魅力的。醸造家ご本人の解説を聞きながら試飲できるとは願ってもない機会。 ん~、至福のひととき。

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【Photo】Marina Cvetic Montepulciano d'Abruzzo'03Rosso colli Aprutini I.G.T ISKRA'03。記録的な夏の灼熱がイタリアを覆った年ながら、アドリア海沿岸のマルケ州とアブルッツオ州はブドウの作柄に恵まれた。輪郭を際立たせるイタリアらしい酸味もあり、さすがはマシャレリと唸らせる出来。スローフード協会が発行するワイン評価本「Vini d'Italia 2007・通称Gambero Rosso ガンベロ・ロッソ」で、前者は最高評価のTre bicchierri トレ・ビッキエリと、コストパフォーマンスに優れたワインに与えられるアスタリスクマークを共に獲得。後者はファーストヴィンテージながら、次点に当たるDue bicchierri ドゥエ・ビッキエリの評価をされた

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【Photo】ジャンニ・マシャレッリ氏と。マシャレリのトップキュベ "Villa Gemma"の'97年産は、「Vini d'Italia 2001」に掲載された全イタリアワイン12,000本あまりの頂点"ワイン・オブ・ジ・イヤー"に選ばれた。「Villa Gemma'97を持っていますよ」と、この稀代の醸造家に伝えると、トークセミナー中の近寄りがたい雰囲気を漂わせる鋭い眼光のエネルギッシュな表情から一変、破顔一笑のもと親しげに写真に納まってくれた。これが2年後の8月に急逝したジャンニとの最後の一枚となろうとは・・・

 もうひとつのワークショップは、エミリア・ロマーニャ州パルマ北東40キロのポー川沿いにあるジベッロ村で作られるプレジディオ指定の生ハム「Culatello di Zibello クラテッロ」 (注3) 。有名なパルマ産プロシュット(=生ハム)が年産900万本なのに対し、クラテッロがわずか年産5万本なのは、豚の尻から脛にかけてのごく限られた部位しか使用せず、しかも冬場にポー川の発する霧が肉の熟成に欠かせない要素になるという完全手作りなるがゆえ。需要が増えた最近は、輸出向けに本来の部位以外の肉を使用し、製造過程で一部機械を使用する製品も出回っているといいます。

 今回クラテッロ協会マッシモ・スピガローリ会長の解説で12カ月、20カ月、24カ月、36カ月の熟成期間別に試食に出されたのは、会長自身の加工場で製造された間違うことなき伝統的製法による逸品。ここでは北イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州産の辛口発泡ワイン「スプマンテ」が5種類出されました。

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【Photo】クラテッロ協会加盟の製品に張られるラベルを掲げる男性の左側がクラテッロ協会マッシモ・スピガローリ会長

 熟成期間が長いほど肉に乳酸系の発酵臭が加わり、味わいに複雑さと深みが増してゆくのがよく分かります。特に36カ月熟成を経たものは、地元エミリア・ロマーニャでも希少。かつて冷蔵技術がなかった時代、ヨーロッパの食肉加工文化は必要に迫られて発達した側面もあります。長い伝統が培ったイタリアの食肉加工技術は、イタリア屈指の美食の里といわれるエミリア・ロマーニャ州で、独自の発展を遂げたのです。ジベッロ村の自然環境を活かす人智が生み出したクラテッロの深い味わいには唸らされました。

12mesie20mesi.jpg【Photo】フレッシュ感が残る12ヶ月熟成(左) 味に幾分深みが出る20ヶ月熟成(右)

24mesie36mesi.jpg【Photo】24ヶ月熟成は更に複雑味が増す(左) 色合いが変化し、乳酸系の発酵感が強い36ヶ月熟成は全く別物。至高の味となる(右)

 そのワークショップ会場で出会ったのが、神奈川出身の茂垣綾介さん(25歳)。2003年春に渡伊し、料理修行からサラミなど肉の加工に転進したのが一年前。スピガローリ会長が経営する会社では半年ほどクラテッロ作りを学んでいるといいます。イタリアのリストランテでは、実に多くの日本人が料理修行のために働いていますが、彼は異色といってよいでしょう。

mogaki.jpg【Photo】サローネ会場で修行先のクラテッロを手にする茂垣 綾介氏。隣りは公式行事がなく、この日はリラックスモードで会場を回っていたアラン・デュカス御大。そこはさすがにプレス慣れしたもので、しっかりとカメラ目線でポーズをとってくれた。世界のトップフレンチシェフは実に如才がないのだった

 日本からはサローネ・デル・グストに築地の寿司店「寿司岩」がブース出店していたほか、「テアトロ・デル・グスト(=味覚の劇場)」と銘打たれた催しでは、江戸前握りの実演も。京都吉兆の徳岡邦夫総料理長は、湯葉と胡麻豆腐を使った懐石料理を紹介していました。世界中の有名シェフの調理の様子が間近に見られ、試食もできるこの催事のチケットは全てあっという間に売り切れたようです。

 昭和40年代から古酒を手がけてきた岐阜の蔵元「達磨正宗」の昭和54年産の古酒と鮎の熟れ寿司の組み合わせを試みるという日本人にとってもマニアックな?ワークショップや、静岡産有機栽培緑茶と和菓子のワークショップもあり、日本の食文化にスポットライトが当てられる局面もありました。

 メイン会場の州都トリノを離れたピエモンテ各地では「Gli Appuntamenti a Tavola(=食卓へのいざない)」という28ものディナーが催されました。ピエモンテ州が誇る高級食材・白トリュフの産地、クーネオ県アルバや、バローロ・バルバレスコといった名醸地のブドウ畑が広がるランゲ地方のリストランテや歴史的建造物を会場に、世界各国から選ばれた料理人が、伝統料理を振舞いました。ホスト国イタリアからも、アマルフィ近郊の名店「ドン・アルフォンソ1890」ほか各種Guida(=レストラン評価本)で高い評価を受けるシェフたちが腕を振るったのは申すまでもありません。

 主だったサローネ・デル・グストの催しをざっとご紹介しましたが、食いしん坊な私には、体と胃袋が幾つあっても足りない5日間でした。

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【注1】
アドリア海に面したアブルッツォ州では、パスタ製造が盛ん。日本でも有名なDE CECCO(イタリアでは「デ・チェッコ」と発音)やDue Pastori(ドゥエ・パストゥーリ)が本拠地を構える。こうした乾麺のほか、アブルッツォ州では、「マッケローニ・アッラ・キタッラ」という伝統的な手打ちパスタが有名。Chitarraとはイタリア語でギターのこと。弦を張った専用の道具(下写真)で生地を押し切るため、麺が四角い。

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ちなみにワークショップでラッロ氏が作ったマッケローニ・アッラ・ムニャイアは、同州南部に伝わる類似のパスタで、生地に使用したのは、デュラム小麦ではなく普通の小麦だった

【注2】
ワインの醸造過程において、ボリュームと風味付けのために樫(オーク)材の樽を使用する。一般に225リットル容量のものをバリックと呼ぶ。ワイン醸造用バリックの主な産地、アリエやトロンセなどフランス産のものは、タンニンなどのエキス成分を多く含む。一方アメリカ産のバリックは木の香りが強い。よって、カリフォルニアワインは樽香が一般に強くなる。形成過程で内側を火であぶるため、その焙煎具合もワインの仕上がりを左右する。ローストが強いと焦げた香りがワインにつく。新樽は成分が強く、一回使用した樽は、樽由来の成分が幾分穏やかになる。よって、生産者は樽の産地やロースト具合、熟成期間をいろいろと組み合わせてワインを作り出す。「新樽100%」とは、全て新樽を使用して仕込んだということ

【Photo】クラテッロ協会による審査を受けたブロック製品にのみ付けることが許されるタグ。流通市場では、ほぼパック詰めのスライス製品に限定される日本では望むべくもないが、これが本物の証

curatello.jpg【注3】
パルマやサンダニエレ産の生ハムは豚のモモからスネにかけての骨付き肉から作られる。かたやクラテッロは、骨抜きにした豚肉の尻(Culo=クーロ)からモモにかけての最上の部位のみを使用する。完成品で3キロあまりの重量しかできないクラテッロは、一本9キロ前後のパルマ産生ハムとほぼ同額。つまり3倍の値がつく。伝統的製法では、脂肪を削ぎ落とした豚肉を岩塩・コショウ・ガーリックパウダーなどで下処理。三日間の冷蔵後、細心の注意を払って再び塩を加え、白ワインで表面をさらす。これら一連の作業を終えてから、洗浄処理した膀胱に詰めた上で、ひもで網目に縛って円筒状に成形する。それを10ヶ月以上、湿度がこもったロフトと地階で自然熟成させる。

こうした製法のため、熟成過程で劣化する場合もあり、一級品はより希少性が高まる。EU統合により、画一的な衛生管理が求める動きもあり、本来のクラテッロに出会ことが困難になりつつある

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