あるもの探しの旅

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Terra Madre テッラ・マードレ」に参加して

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スローフードの祭典「テッラ・マードレ」

 食の均一化がもたらす弊害に警鐘を鳴らしたスローフード運動発祥の地がイタリア北部ピエモンテ州。その州都Torino トリノを主会場として、2006年10月末に開催された食の国際イベント「Terra Madre テッラ・マードレ(=「母なる大地」の意)」。

 グローバル化と均一化が進む世界の潮流に抗うかのように、個々の伝統に根ざした質の高い食を通じた人々の新たなネットワーク作りを模索したこのイベントには、協会が指定する「アルカ(=味の箱舟)」 (注1)登録生産者に加え、今回初めて料理人と学術研究者らが招聘され、東北からも関係者が多数参加しました。

 テッラ・マードレと同時開催されたのは、スローフード運動が目指す食の世界を体感できる「Salone del Gustoサローネ・デル・グスト(=「味のサロン」の意)」。主催は2006年が創立20周年に当たったスローフード協会です。五日間の会期中に両イベントを延べ19万人以上が訪れたといいます。幕張メッセで行われる日本最大の食の見本市「FOODEX JAPAN」の2006年における来場者は、四日間で9万5千人あまり。スローフード運動が、いまや地球規模で広がりをみせていることを物語る数字といえるでしょう。

 美食の国イタリアが誇る味の数々を求めて、実りの季節を迎えたピエモンテ州とその周辺各地を、イタリア人顔負けの"爆走系"に変身した庄内系イタリア人が訪れました。思い出すだにヨダレがじ~んわりな突撃レポートをタント・マンジャーレ(=たんと召し上がれ)。

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【photo】テッラ・マードレの会場となったリンゴット・オーバルを埋めるさまざまな国籍の人・人・人... <clicca qui> ここはトリノ冬季五輪のスピードスケート競技会場となった


◆食の新たなネットワーク作りを模索した「テッラ・マードレ」

 テッラ・マードレ2006に参加したのは、世界150カ国から1,600の生産団体・5,000人の生産者、1,000人の料理人、400人の大学研究者ら。(初の開催だった2004年の前回は、130カ国1,200の生産団体・5,000人の生産者が参加。)開会式は、トリノ冬季五輪のスピードスケート競技会場となった同市内リンゴット内の見本市会場「オーバル」で、イタリア共和国ナポリターノ大統領列席のもと、2006年10月26日に行われました。

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【photo】開会式に駆けつけたナポリターノ伊大統領 "slowfood archives"

 広大な会場内に国名のアナウンスが続くなか、国旗を掲げ民族色豊かな衣装で続々と登場する五つの大陸から集った生産者たち。その様子はテレビで観た冬季五輪の開会式さながら。各国の風土・伝統が育んだ多様な食文化を駆逐する食のグローバル化を阻止しようというスローフード運動が、世界規模で広範な支持を受けていることを実感させられます。恐らくは自分が生まれ育った土地から離れたことすらないであろう第三世界からの参加者も数多く見受けられました。

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【photo】世界中から生産者が集った開会式のオープニング "slowfood archives"

 急速な工業化・効率優先主義が招いた食のグローバル化・味の均一化に対して、スローフード運動が掲げる「地域の伝統に根ざした個性豊かな生物多様性を守る」という理想を雄弁に語る幕開けといえましょう。

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【photo】国際色豊かなテッラ・マードレの会場「オーバル」前で

 冒頭挨拶に立ったスローフード協会カルロ・ペトリーニ会長は、生産者・知識人・料理人が立場を超えてお互いを認め合い、同じ目線で消費者との新たな関係を築くように会場を埋めた参加者に訴えました。そして質の高い食に携わる人たちが異業種とつながりを持つことによって、より良い食に関する情報が発信され、やがて地球の生態系に好影響を及ぼすよう期待を表明しました。

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【photo】新たな食のコミュニティ作りを訴えるスローフード協会カルロ・ペトリーニ会長 "slowfood archives"

 テッラ・マードレ会期中、大学の研究者による集会や国・地域ごとの集会が催されました。日本をテーマにした地域集会では、日本茶の紹介がされていました。また、農業・水産業におけるアグロエコロジーやGM(遺伝子組み換え)食品に関する各種テーマごとの分科会、さらに「アルカ」指定産物の生産者による各種分科会などのさまざまな公式行事が行われました。

 地域に順応した環境負荷が少ない牧畜に関する分科会に東北から参加し、日本短角種の飼育事例発表を行った合砂 哲士(あいしゃ さとし)さん(19)=岩手県岩泉町=は、「短角種同様、絶滅の危機にある希少な牛を飼育するカメルーンやスコットランドなどの生産者と意見交換し、良い励みになった」といいます。 

 余目ネギを生産する関内 清一さん(59)=仙台市宮城野区=も「希少種の保存に意欲的な生産者同士が国境を越えて出会えたことが収穫だった」と参加の意義を振り返ります。生産者らの滞在先となったのは、冬季五輪の選手村となった施設。関内さんらは、トリノ滞在中にピエモンテのネギ生産農家を訪問し、Porro(ポッロ=ポロネギ)生産の様子を見学したそうです。訪問先の農家では、ネギ畑の中に即席のテーブルをしつらえて、地元のワインと心づくしの料理で歓待してくれたのだとか。

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【photo】ファストフード大国アメリカの食意識を変えたといわれるカリフォルニア・キュイジーヌの祖「シェ・パニース」のアリス・ウオーターズ "slowfood archives"

 今大会における生産者と並ぶもう一方の主役は、世界中から集まった1,000人の料理人でした。その中には、料理雑誌やテレビなどのさまざまなメディアに登場する有名な料理人も含まれます。日本からは、スローフード協会の末端組織にあたる「コンヴィヴィウム」から推薦され、協会本部が最終的に選抜した11人の料理人が招聘されました。

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【photo】テッラ・マードレ開会式に参加した日本の料理人の中から。右から鶴岡市「アル・ケッチァーノ」奥田政行シェフ、京都「吉兆」徳岡邦夫料理長、パリにある日本料理店で腕を奮う山形出身の女性料理人、宮城「ふみえはらはん」渋谷文枝さん

 彼らが一同に会した席上、フランスのレストラン評価本「ミシュラン」の星をもっとも多く獲得している著名な料理人アラン・デュカス氏は、食のオピニオンリーダーである料理人が固有の文化を反映した郷土料理を伝承する必要性を述べました。

 現在、世界で最も予約が困難だといわれるスペインの人気レストラン「エル・ブジ」のシェフ、フェラン・アドリア氏の「西欧の価値観に基づく料理を模倣する時代は終わった。皆さんは自身の多様性を誇りにして良い」とのスピーチに、会場は喝采に包まれました。

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【photo】エル・ブジのフェラン・アドリアは一段と大きな拍手で迎えられた

 農家レストラン「ふみえはらはん」の渋谷文枝さん(59)=宮城県加美町=は、「バイオ技術によって耐病性や収穫効率を上げる一方で、採種不能にしたため、毎年農業生産者に種子の購入を強いる "F1種子" の販売権を巨大資本が独占している現状に、改めて自然な農業のあり方でもある自家採種の大切さを痛感した」といいます。インドの経済学・物理学者のバンダーナ・シーバ女史は、綿花のF1種子販売権を独占する米国系多国籍化学メーカーM社に負債を抱えたインドの農業生産者が、数千人単位で毎年自殺に追いやられている現状を閉会式のスピーチで報告したのです。

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【photo】生産者に種子の選択の自由を与えよ!と訴えるバンダーナ・シーバ女史のスピーチに、会場はスタンディング・オベ-ションと鳴り止まない拍手に包まれた"slowfood archives"

 庄内ベジ・イタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行さん(37)=鶴岡市=は、「効率優先の風潮の中で失われた人間同士の食を通じた結びつきが、東北にはまだ残っている。関係性を重んじるスローフードの精神が息付いている東北から、大切なものは何かを、今まで通り発信してゆきたい」と抱負を語りました。

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【photo】世界中からテッラ・マードレに集った1,000人の料理人たちが、再会を誓ったファイナルセレモニー。高く放り投げたのは、協会から贈られた調理帽
 
 閉会式でジャーナリスト枠で参加した私を含む参加者全員に配布されたのは、世界中から選ばれた1,600ものプレジディオに指定された食材を紹介した冊子。その名もズバリ「Terra Madre 2006」。生物多様性と個性ある食文化の縮図ともいうべき760ページあまりの分厚いこの一冊には、各プレジディオ生産団体のプロフィールや連絡先などが記載されています。

 その冊子を手に「ここに集った皆が、帰国後も連絡を取り合おう」と、生産者・料理人・研究者・マスメディアらのネットワーク構築の意義をアピールして締めくくったペトリーニ会長の演出が印象的でした。

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【photo】閉会式で連帯の必要性をアピールするカルロ・ペトリーニ会長 "slowfood archives"


【注1】
「味の箱船」とは?
◆生産や流通の過程で効率を優先する近年の考え方、あるいは過度な衛生管理規定によって、伝統的な製法で作られる個性的で安全な食品の多くが、消滅の危機にある。スローフード協会は、それらの食品を「味の箱船」に指定して、保護に乗り出した

スローフード協会が規定した登録基準および禁止事項は以下の通り
●登録基準1:その生産物が、特別においしいこと
     (この場合の「おいしい」とは、その土地の習慣や伝統を基準にする)
●登録基準2:その生産物が、ある特定の集団の記憶と結びついており、相当程度の年月、その土地に存在 した植動物の種であること。また、その土地の原材料が使われた加工・発酵食品であるか、地域外からの原料であっても、その地域の伝統的製法で作られること。(この場合の「記憶」や「年月」は、現地の歴史に照合して判断する)
●登録基準3:その地域との環境・社会経済・歴史的なつながりがあること。
●登録基準4:小規模な生産者による、限られた生産量であること。
●登録基準5:現在、または将来的に消滅の危機にあること。

▲禁止事項1:遺伝子組み替えではないこと、遺伝子組み換え食品が生産の一部にも一切、関与していないこと。
▲禁止事項2:トレードマークや商業的ブランド名がついてない生産物であること。
▲禁止事項3:選定後も、スローフード協会のロゴやかたつむりマークを、直接、食品に掲載しない。

2005年12月にスローフードジャパンが認定した日本の「味の箱船」9品目のうち、6品目が東北から選ばれた。その6品目は以下の通り。
 「日本短角種」「安家地ダイコン」(岩手)
 「花作ダイコン」「米沢雪菜」(山形)
 「余目ネギ」「長面の焼きハゼ」(宮城)


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コメント

余目ネギの生産者、関内 清一氏の人柄と野菜作りへの姿勢を知る事から始まりterra madreを知る事に繋がりました。
現在植物工場のプログラムにかかわっておりますが、大地の恵みと作る人の情熱の魅力は素晴らしく心に刻まれます。

▼小野瀬七洋様
 コメントを頂戴し、有難うございます。今朝NHK総合TVで放送された「産地発!たべもの一直線」に余目ネギが紹介され、生産者として関内さんが登場していました。こうしてコメントを頂戴したということは、ひょっとしてそちらをご覧になられたのでしょうか。

 播種から丸一年をかけて、できるだけ農薬を使わずに手間のかかる仕事を黙々とこなす関合さんご夫妻と種を選抜するお父様が紹介されていましたね。ネギは曲がっていても、仕事は真っすぐで筋が通ったものでしたね。

 関合さんもそうですが、先人が残してくれた次世代に伝えるべきかけがえのない在来種を受け継ぐ人々には、「損得」ではなく、綿々と受け継がれてきた種を守る者としての自負と使命感を感じます。そんな“地上の星”のような方たちに少しでも光を当てたいと思います。

はじめまして、長野のりんご農家の3代目のうさぎです。テッラ・マードレ2010に初参加してきます。事前の情報収集で、こちらのブログを発見致しました。現場の感動が伝わってきて、感激しながら読ませて頂きました。ありがとうございました。

 F1種の件は、本当に各生産者が自家採取して伝統的な野菜などを守っていく必要性を感じてます。

       松木武久農園
       営業担当・うさぎ

▼松木規恵さま

 こんにちは。信州でリンゴの自然農法栽培に取り組んでおいでの松木武久農園さんのことは、木村秋則さんとのご縁で存じ上げておりました。なにやら不思議な巡り合わせを感じます。

 世界共通語の食、それも揺るがぬ信念のもとでpricelessな価値を持つ食にかかわる人々が一同に会するTerra Madreに参加されるとのこと。得がたい出会いをどうぞ大事にしてください。

 Buon viaggio ~♪

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