あるもの探しの旅

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モノづくり大国

 小さな子どもがボロボロになっても肌身離さず持っているぬいぐるみのように、どんな人にもお気に入りのモノがあるはず。使いやすさを追求した便利なモノ、コンパクトで多機能なモノ、デザインが秀逸なモノ etc...。技術革新が進んだ現代では、インターネットや燃料電池車のように、ちょっと前には考えられなかったようなモノすら私たちは生み出しました。
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【Photo】イタリア・トスカーナ州Monteplcianoモンテプルチアーノで立ち寄ったBottega del Rame(=銅製品工房)「Mazzetti」三代目の Cesare Mazzetti チェーザレ・マツェッティさん(66歳)。父から受け継がれた銅の加工技術と職人の誇りは、製品ひとつずつに注ぎ込まれる

 ものづくりが大きく転換したのは、18世紀後半にイギリスで始まった産業革命から。省力化・効率化による利潤の拡大を至上命題として、19世紀から20世紀かけて人類の生産効率は飛躍的に向上しました。市場の拡大によって資本が巨大化し、やがて大企業の論理が国家戦略と同義語となってゆきます。新たな富を生み出す市場と資源・労働力の確保のために、アジア・アフリカ諸国は英・仏・露・独・蘭ら西欧諸国によって次々と植民地化されてゆきました。19世紀末、大英帝国は地球上の陸地面積の5分の2を植民地化するまでになり、空前の繁栄を謳歌しました。やがて訪れた20世紀は、モノの豊かさへのあくなき希求が、戦争や格差・環境悪化といった負の現象も生み出してきたことを私たちは知っています。

 広大な国土が世界一の生産高をもたらす小麦や大豆・トウモロコシなどの農産物と、木材・鉄鉱石・石炭・石油の豊富な国内資源をもとに"モノが豊かな社会"を出現させたのは、アメリカ合衆国でした。鉄鋼・自動車・航空機などの産業が牽引したその国の豊かさは、大量生産・大量消費に支えられていました。新大陸へと渡った欧州からの移民たちは、開拓者精神を尊び、新しいものに価値を見出してきたのです。そこには、長い伝統を持つ彼らのルーツ、旧大陸こと欧州に対するアンビバレント(二律背反)な心理が働いていたのかもしれません。

 今日、GDP国内総生産でみるとアメリカがダントツで世界第一位。以下、その半分以下の数値で日本・ドイツと続きます。ひとたびは焦土と化した国土から復興を遂げた日本の躍進の原動力は、優秀な人的資源でした。高い品質の Made in Japan 製品は、電器・精密機器・自動車の分野で、世界市場を席巻しました。 Made in Germany 製品も高級自動車や化学・薬品・機械・精密機器などの分野で確固たる地位を確立しています。

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【Photo】豚肉を蒸し焼きにする銅鍋。すべてチェーザレさんが打ち出して形成する。鍋には四本の脚が付いており、姿がユーモラス。後述のワインクーラーともども欲しかったが、がさばるしスーツケースが重くなりそうだったので断念。小ぶりな型抜きをふたつ買い求めた

 20世紀末、自由競争経済がグローバルな広がりを加速させると、企業は生産コストを抑えて収益を上げる必要に迫られます。製造業の多くはアジア各地へと生産拠点を移してゆきました。それによって高い品質を売りにしていた日本やドイツは、製造コストを抑えつつ品質を維持するという命題と国内産業の空洞化という難題にも直面したのです。その中で、中国は安価で豊富な労働力を提供してきました。13億を上回る人口を抱える中国は、市場としても将来性が高いため、欧米の企業を中心に進出が進んでいます。この改革解放のうねりの中で、中国は世界市場に台頭し始めました。最近では、一部の粗悪な製品の事例が Made in China 全体のブランドイメージを失墜させています。それでも21世紀半ばには、現在のアメリカによる一極支配が崩れ、成長著しいBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)が世界経済の命運を左右するだろうと指摘する見方も存在します。

 産業革命以降のマシンとコンピュータを駆使したモノづくりは、劇的に私たちの生活の質を向上させました。インターネットの登場によるIT革命は、更なる生活変革をもたらそうとしています。こうしてモノづくりの歩みを概観した上で改めて思うのは、実は私たちが追い求めてきたのは、暮らしの質的充実ではなく、量的な拡大だったのではないかということ。豊かなモノへの希求が推し進めた自由競争は、明と暗の側面を生み出しました。

 スピードと効率を尊ぶ経済的な成長に対する信仰は、今もなお私たちに根深く巣食っています。ほどよい人間的な尺度(Human Scale)を越えた先には真っ暗な闇が待ち受けている気がしてなりません。私たちは、高度な科学技術が破綻する場面を幾度も目にしてきました。ふと気が付くと、物質的な繁栄を謳歌してきた人類は、温暖化や人口爆発による食料と水の不足など、存亡にかかわる地球規模の環境変化にさらされています。

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【Photo】チェーザレさんは4歳の時から、お父さんや兄と工房で銅細工を作り始めたという。62年の職人としての歴史を刻んだ分厚い手に触らせてもらったが、がっちりと固く力強かった

 「ヒューマン・スケール」は、建築やまちづくりで使われる用語です。人間の体の大きさに適合して過大でも過小でもないこと、人間にとっての心地よさを大切にすることを指します。IT万能のようにいわれますが、私たちが生きているのは、バーチャルな仮想世界ではありません。モノは人間が使うもの。ボタンひとつで地球を滅ぼすことが可能な時代だからこそ、モノ造りにもヒューマン・スケールな発想が必要だと思うのです。その人間には、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感が備わっています。人が使って心地良いモノは、人間が五感を駆使して生み出したものではないでしょうか。マスプロダクツではない人の手がかかったモノには、時としてファンタジーやインスピレーションという第六感も加わって、えもいわれぬ味わいが生まれます。

 ・視覚に訴える "フォルムが美しいこと"
 ・聴覚に訴える "妙なる響きを奏でること"
 ・触覚に訴える "肌触りが良いこと"
 ・味覚に訴える "美味しいこと"
 ・嗅覚に訴える "かぐわしさを放つこと"

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【Photo】歴史ある銘醸「Vino Nobile di Montepulciano ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ」の産地で育った人ならではの自ら考案したという銅製ワインクーラーを手にするチェーザレさん。ローマ法王ヨハネ・パウロ二世にも銅細工を献上したことがあるという確かな技術は、ともに工房で働く息子さんに引き継がれている

 私は、この人類不変の価値観に沿ったモノつくりでは、イタリアこそが世界に冠たるモノ造り大国だと思っています。どこかしら人間臭さが感じられる Made in Italy 製品は、スペックだけでは語れない特別な魅力を醸し出します。それを支えるのは数多くのArtigiano アルティジャーノ(=職人)と、その域を超えMaestro マエストロ(=巨匠)と呼ぶにふさわしい誇り高き人たち。  いざ、麗しのモノ造りの国へ。

「水の都が生み出すヴェネツィアン・グラス」に続く 
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コメント

うわあ、懐かしい!
数年前にモンテプルチァーノを訪れたときに、この工房の前を通りかかり、
入って見てもいいですか?と声をかけ、
私も、見せていただいたのです。
チェーザレさんは、快く見せてくださり、
銅板の切れ端で、一片の葉っぱを打ち出し、
「これはバラの葉です。貴女がバラの花ですからね。」
と言って、私にくださいました。
ク~~~、いくつになってもイタリア男は枯れませんね。
今、その葉は我が家に飾ってあります。

▼ぐら姐様

 こちらへもお越しいただき誠にありがとうございます。

〉「これはバラの葉です。貴女がバラの花ですからね。」

 ムム、おぬしやるな~チェーザレ。
隠忍の情を美徳とする文化の日本の男がなかなか言えないようなこうした相手を気分良くさせる言葉や立ち振る舞い。これをイタリア男がやるとキザにならない。世の男性諸氏、バラには陽を当て、水をあげましょうね。

 さて、私がチェーザレさんの所に伺った時は、連れは女性ふたりでした。“両手に花”だったはずですが、彼女たちには、こんな気の利いたセリフは吐いていませんでしたよ。

 やはりチェーザレさんにとって、ぐら姐様がバラの花だったのでしょうね。…でも“綺麗なバラには棘がある”なんちゃって(^^;)。いやいや、ぐら姐様に限ってそんなことは絶対にありません。

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