あるもの探しの旅

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Bar バール

「Bar バー」じゃないのよ「Bar バール」は

 わが国のコーヒー消費量は'80年代に緑茶を追い抜き、現在も増加を続けています。一方でオーナーの個性を反映した個人経営の喫茶店は、'81年をピークに徐々に姿を消してゆきました。これは低価格のコーヒーを提供する全国チェーンが増えていった時期と符合します。

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【Photo】イタリアの街角に溶け込むBARの看板

 米国シアトルで'71年に創業以来、北米以外では初の海外進出を果たしたスターバックスが、東京銀座に日本一号店を開店したのが'96年。以降、通称「スタバ」は瞬く間に日本中に広まり、昨年日本国内の店舗数が600軒を突破しました。スターバックスの急成長は、現会長兼最高国際戦略責任者のハワード・シュルツ氏が、出張先のミラノで立ち寄った Bar バールがヒントになっています。そこで出されたエスプレッソに代表されるイタリアのコーヒー文化に感銘を受けたシュルツ氏は、'84年にバールスタイルを取り入れた店舗をシアトルに開業させています。

ipa_tazza.jpg【Photo】Milano の陶器メーカー「ipa」がスタバとコラボしたイタリアの都市シリーズのデミタスカップ ROMA AMOR(=イタリア語の回文でローマ・愛 の意。ローマは愛の街だった?)とVENEZIA。【clicca qui】。肉厚で重みがあり、家庭用のエスプレッソ・マシーンでカッフェを抽出する際に重宝する

 スターバックスが米国で産声を上げた年、同じく北米大陸以外への初展開となった一号店を東京銀座にオープンさせたのが、マクドナルドです。世界を席巻するマクドナルドとスターバックスが最初に海外への足がかりとしたのが日本だったことは象徴的です。農業大国でもあるアメリカ食産業のグローバル戦略を、日本は積極的に受け入れてきたのです。増殖著しいスターバックスですが、手本とした本家本元のイタリアには、いまだ上陸を果たしていません。日本同様にアメリカ文化に対しては比較的寛容なイタリア人ですが、自国の食文化については非常に保守的。節操のない日本とは好対照に映ります。

 いまなおスターバックスが進出していないイタリアのコーヒー文化は、Barバールを抜きには語れません。イタリア全土のバールはおよそ16万軒といわれます。そこかしこにある"Bar"の看板を見て「なーんだ、飲み屋ばっかりじゃないか」なんて思っちゃいけません。スペルは同じでも、イタリアのそれは日本で言うところのBar=バーとは全く趣を異にします。そこは甘いパンとカップチーノのイタリア式朝食の場として、仕事の息抜きの場として、イタリア人が大好きなおしゃべりに興じる情報交換の場として、馴染みのバールはイタリア人の一日に欠かせない存在です。

signromabar.jpg【Photo】イタリア人の生活にBARは欠かせない存在

 旅行者にとっては、トイレを借りたり、ミネラルウォーターをテイクアウトする際にもバールは重宝します。レストランの形態同様、一口にバールといってもさまざま。パニーニなどの軽食を出す店もあれば、しっかりとした食事(⇒作り置き惣菜の場合が多い)を取れる店、Gelateria ジェラテリア(=ジェラート店)や Pasticceria パスティチェリア(=ケーキ店)を兼ねるバールもあります。日中に出される飲み物がコーヒー類だけでも、夕方以降はアルコールも扱うケースが多いようです。皮肉なことに日本ではスターバックスの出店によってその名が認知されつつある「バリスタ」とは、バールでエスプレッソマシンを操作する店員 「Barista 」から名付けられたものです。本家筋のイタリアでは、カクテルなどのアルコールを扱える職能も上記の理由でバリスタに求められます。

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 イタリア人に言わせると、カラメルを加えたりするアレンジカフェを得意とするシアトル系カフェのエスプレッソは、まがい物となります。日本にいながらイタリアに近い雰囲気やメニューをお望みなら、美食の街ボローニャで誕生した「Segafredo Zanetti セガフレード・ザネッティ【clicca qui】」はいかがでしょう。同社は本国イタリアをはじめ、ヨーロッパ諸国・北米・南米各国のほか東京周辺でコーヒーショップを展開中です。トリノに本社を構えるイタリア最大のシェアを持つコーヒーブランド「LAVAZZA ラヴァッツァ」や「illy イリー」も東京には進出しているので、シアトル系カフェとの違いを確かめるのも一興。しかし、それらもBanco バンコ(=カウンター)で立ち飲みするのが主流のイタリアのバールとは雰囲気が違うことも確かです。

 エスプレッソとは似て非なるコーヒーの氾濫に危機感を募らせたイタリア国内のコーヒー豆や関連機材の製造業者・組合らが、イタリアで飲まれているスタイルのエスプレッソの保護と啓蒙を目的として「Istituto Nazionale Espresso Italiano イタリア・エスプレッソ協会」を1998年に設立しました。協会では一定の技能を備えたバリスタの認証制度や国内外での講習会などを実施しています。こうした自国の伝統を墨守しようというイタリア人の気概が世界に冠たるイタリアの食文化を支えているのです。エスプレッソ同様に世界中に広まったピッツァ発祥の地ナポリで1984年に発足した「Associazione Verace Pizza Napoletana 真のナポリピッツァ協会」しかり。ローマのスぺイン広場にマクドナルドのイタリア第一号店がオープンしようとした1986年、イタリア上陸を阻止しようとピエモンテ州 Bra ブラで発足したスローフード協会誕生の経緯もまたしかり。どうやらスターバックスのイタリア上陸作戦は容易ではなさそうです。

barista-doro.jpg【Photo】Cassaで支払いを済ませた客が持ってくるレシートをさっと一瞥、湯煎したカップに鮮やかなマシン操作でカッフェを淹れる Tazza d'Oro のクールなバリスタ

 オーナーのオヤジさんやお姉さんが一切を切り盛りしているバールもありますが、大きな町のバールでは、まず Cassa (=レジ)で注文・先払いするのがイタリア式。レシートをBanco に持って行くと、バリスタが手際よくコーヒーを淹れてくれます。イタリアでは単に「カッフェ」とバリスタにオーダーすれば、エスプレッソが出てきます。」 【注1】都市部のバールでは、立ち飲みが普通。テーブル席があるバールもありますが、大方の場合、値段は立ち飲みよりも高く設定されています。ただし地方のバールでは必ずしもそうとは限りません。

 多様性の国イタリアでは、バールで飲むエスプレッソの味にも地域性が表れます。北部では豆の焙煎が南部に比べると浅く、4~5口で飲み干せる量。それが南へ向かうにつれて量が少なくなり、ナポリ以南では厚めのカップの底に申し訳程度に入っているかのよう。焙煎がぐっと深くなる上、凝縮度も増してゆくのがわかります。少なくともスプーン2杯は砂糖を加えてカッフェを攪拌し、ちびちびとではなくクイッと飲み干すのがイタリア式の粋な飲み方。私も本格的なエスプレッソには必ず砂糖を入れるようにしています。そのほうが苦味に柔らかさが加わり、美味しくカッフェを飲むことができます。

【Photo】Pantheon パンテオン(写真奥)がある Piazza della Rotonda ロトンダ広場から少し陰に入ったところにあるTazza d'Oroタッツァ・ドーロ

pantheonecaffe.jpg  私がイタリアで飲んだ数あるカッフェの中で最も感動したのは、ローマのパンテオン近くにあるバール「Tazza d'Oro タッツァ・ドーロ」のエスプレッソとカプチーノでした。 【注2】天才画家ラファエロや初代イタリア国王ヴィットリオ・エマヌエレ二世の墓所でもあるパンテオン。建築史の奇蹟といわれるローマ時代の遺構そのままのクーポラに穿たれた天窓から光射す静謐な空間を味わうため、観光客でごった返す前を狙って早朝に訪れたパンテオンの扉は未だ閉ざされたまま。係員に確認した入場開始時刻の8 時半まで時間を過ごすために立ち寄ったのが Tazza d'Oro でした。8 時前というのに、すでにBanco では常連と思しき数名が、カッフェを飲みながら思い思いの時間を過ごしています。

caffetazzadoro.jpg  湯煎したデミタスカップで出されたエスプレッソは、表面を厚い褐色のクレマ(泡)で覆われ、キメの細かなクレマの上にグラニュー糖を加えても一向に沈む気配を見せません。おぉ、さすがはローマ一との呼び声高い店のカッフェ。芳醇なエスプレッソの香りを閉じ込める見事なバリスタの技です。深煎り豆特有の甘味と雑味のない苦さの絶妙なマッチングが華やかなアロマとあいまって、口腔から鼻を豊かに満たしてゆきます。そのあまりの美味しさに、パンテオンを訪れた後、再びカプチーノを飲みに立ち寄った次第。

cappucino-doro.jpg 「また来たのか」と顔に書いてあるバリスタが鮮やかな手つきでいれたふんわりとしたフォームドミルクと絶品エスプレッソが織り成すカプチーノには再びやられました。ここはオススメです。パンテオンの目の前という場所柄、私のような観光客も見かけますが、地元ローマっ子がふらっと立ち寄り、新聞を読みながらさっと一杯引っかけて店を後にしてゆきます。自家焙煎のコーヒー豆にも定評があり、自宅で楽しむために豆を買い求める客も多い名店です。私も土産用に豆を買い求めたのは申すまでもありません。

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Tazza d'Oro タッツァ・ドーロ
  Via degli Orfani, 84 (Pantheon) - 00186 Roma
  http://www.tazzadorocoffeeshop.com/

【注1】カプチーノは朝しか飲まない。食後の一杯はエスプレッソに限る。これがイタリア人の常識。観光客が多い大都市ではそうでもないが、小さな町のトラットリアやバールで食後や昼時間帯以降にカップチーノを頼むとカメリエーレやバリスタに変な顔をされるかも?

【注2】Tazza d'Oro のカッフェに感銘を受け、バリスタを志したというのが仙台市泉区桂にあるカフェ兼自家焙煎コーヒー豆店「Bal Musette バル ミュゼット」のオーナー川口千秋氏。Tazza d'Oro と 同じ "La Casa del Caffé"(=カッフェの館)を名乗る川口氏の店。エスプレッソとカップチーノ用スチームに専用の加熱機能を備えた"ダブルボイラー方式"を採用するフィレンツェ製の至高のエスプレッソ・マシン「La Marzocco ラ・マルゾッコ」を操作して、とろけるようなフォームドミルクで覆われたコクのあるカップチーノ(テーブル着席料金¥500 /Banco立ち飲み料金¥320)を飲ませてくれる
       sig.kawaguchi.jpg tazzart.jpg
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Bal Musette バル ミュゼット
  仙台市泉区桂 4-5-2 TEL&FAX 022(371)7888
  11:00~22:00(日祝~19:00)木曜定休
  URL:http://www.bal-musette.com/index.html

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コメント

イタリアの「Caffè文化」を
ここまで端的にまとめた兄貴に、またまた感動(笑)
BARのあり方ひとつとっても、説明にちょっと苦労してしまう、奥の深い、それでいて、生活の一部と化している『BAR』。

地域性の話ですが、この前ナポリに行った時に聞いた話では、味の違いは、やはり「水」の違いも大きいらしいですね。ちなみにナポリではペルージャではほとんど見かけないKIMBOが多かったです。

追伸・さくらんぼ入りのBACIは、LIQUORE漬けなので、販売は秋冬限定、10月にならないと買えないそうです。。。

▼Kissyさま
私とKさんがAstiのEuropcarでMaccinaをピックアップする間、うすら寒いAstiで立ち寄ったBarは、さぞかしオアシスだったことでしょう。

運転しながら飲んだカッフェ、冷えたカラダに染み入りました。おごっていただいたご恩ともども忘れません。

さて、Perugiaではどのメーカーの豆が多いのでしょう?日本では窒素封入を施した缶入りillyやパック入りのLAVAZZAをよく見かけます。イタリア国内シェアNo.2というKIMBOはひところ輸入飲料・食料品を扱う大手チェーン店Yでも扱っていたので、缶入りの豆をかつて愛飲していました。焙煎したての豆にはかないませんが、濃厚な味わいのナポリスタイルのカッフェの片鱗は感じさせてくれました。

飲んでみたいのは、クリーミーなナポリスタイルのカッフェの典型といわれるPassalacquaのコーヒーMEKICOないしはMEKICO PLUS。カッフェにうるさいナポレターノは、メジャーなKIMBOよりもアラビカ種100%のこちらを薦めるようです。どう見てもインディアンに変装した「ペコちゃん」にしか見えないキャラクターがカワイイパッケージや下記サイトも秀逸です。http://www.passalacqua.com/

ただしイタリア国内でも、ナポリ周辺以外ではあまり扱っていないようです。Baciよりもこっちがいいなぁ(笑

なんか懐かしい。。そんな事もありましたねぇ、あんな風に「ちょいと」お持ち帰りも悪くないでしょ?まぁ、本当に「ちょっとそこまで」なら。

Passalacqua、ペルージャで見たことないなぁ。。探してみます。
HP見たら、送ってもくれるみたいなので、時間的に間に合えばProvoしてみますが、なんせ相手はナポリ人なんで。。(苦笑)

今日は、Montefalcoまでお買い物。VINOだと思ったでしょー、お気に入りのお肉屋さんがお目当て。そこで造っているFegatoのsalsiccia最高に美味しいんです。雨上がりの空の下、ペルージャから30分程度のドライブ、ウンブリアも良いですよ、兄貴。
もう、すっかり秋の気配です。

▼Kissyさま
レバーのサルスィッチャを買出しにちょいとモンテファルコまでオリーブやブドウの畑が広がる“緑の心臓”Umbria平原をTommy君とドライブすか。まさにDolce Vitaですね…。ごちそうさまです。

私もかつて同じ道をFiat Puntoで走りましたが、雨上がりは空気も澄んでAssisiが綺麗に見えたでしょう。くぅ~、塩味がきいたポルケッタが食べたいねぇ。

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