あるもの探しの旅

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アモーレ・カンターレ・マンジャーレ?

異議あり!! ニッポン人のイタリア人観

アモーレ・カンターレ・マンジャーレの国」。イタリアという国を形容するお馴染みのこの言い回し。ひょっとして鵜呑みにしていませんか?

 日本で発行されるイタリア観光のガイドブックには必ず「イタリアはアモーレ・カンターレ・マンジャーレの国」と記載されている。よって大方の日本人は、イタリア人が常に恋愛にうつつを抜かし、陽気に「オオ・ソレ・ミオ」を歌い、食べることが生き甲斐だと思い込んでいる ― と当事者であるイタリアでは半ば呆れたニュアンスで紹介されていることは、日本では全く知られていません。

napoliamore.jpg【PHOTO】ヴェズービオ火山とナポリ湾、そしてNapoli ナポリ市街を一望する「 Posillipo ポジリポの丘」で。"ナポリを見て死ね"といわれる絶景に見とれていると、目の前の広場では美しい風景そっちのけで延々とカップルが熱く抱擁中

 確かに南イタリアの有名な観光地カプリ島にある「青の洞窟」を訪れた際、乗り込んだ手漕ぎボートの60歳はとうに越えていると思われる船頭は、私の目の前で「Beautiful, I love you」と私の妻をずっと口説いていたし(苦笑)、歴史上名高いプレイボーイの代名詞 G・カサノバはヴェネツィア出身、チョイ悪オヤジの代名詞 P・ジローラモはナポリ出身です。菰(こも)被りのワインを飲みながらワイワイ鼻歌交じりで楽しく食事に興じるイタリア人という日本人が思い描くイメージは間違っているのでしょうか。 
 
 今年2007年が没後30年にあたる名ソプラノ、マリア・カラスが幾度も演じたプッチーニのオペラ「Tosca トスカ」第二幕でトスカが歌うアリア「Vissi d'arte,vissi d'amore 」の邦題「歌に生き、恋に生き」を連想させる「Amore 愛して、Cantare 歌って、Mangiare 食べて」というステレオタイプな日本特有のイタリアへの先入観。私見ですが、この背景には、働き者で生真面目な日本人のイタリアへの憧憬とその裏返しの感情が入り混じっているように思われます。

 この言葉が本国を含めて万国共通の言い回しなのか。いつどういう形で日本で使われるようになったのかを、前世イタリア人の名誉にかけて?在東京イタリア大使館の文化部が主宰する「イタリア文化会館」に問い合わせました。数日後に戻ってきた回答によると、本国イタリアやその他の国では全く使用されず日本に特有の表現であること。このフレーズに関する資料が存在せず(⇒当然だろう)、語源は不明であるが、推測では日本の観光業界が発信元ではないか?とのことでした。「え~? ウッソー!」と思われた方は、検索エンジンで "Amore Cantare Mangiare" とイタリア語表記で入力した上で、このフレーズを並列で扱っているWebサイトを探してみて下さい。この言い回しが、日本語のサイトに限定されることがお判り頂けるはずです。

 新興国アメリカの黒船来訪により鎖国を解き、急速な近代国家建設を推進した明治初頭。日本は憲法や軍隊・教育制度など国家の基盤造りの規範をプロイセンやイギリス・フランスに求めました。その準備のため1871年からおよそ2年をかけて西欧諸国を視察した岩倉使節団は、25日間イタリア各地にも滞在しています。東洋から訪れた一行に対し、権威ぶらないイタリア人と美術工芸品の素晴らしさと出会いつつ、ローマを訪れた一行は、西欧文化の源泉がそこにあることを見抜いています。しかし1861年に統一国家となったばかりのイタリアは、社会体制の未整備ゆえに近代国家を目指した当時の日本の指導層にとって、規範とすべき国から外れたのです。その後1990年代になって、ようやくイタリアの魅力が広く日本で注目されるまでには、長い時間を要すことになります。

 ここで興味深いデータをご紹介しましょう。社会経済生産性本部が'06年12月に発表した「労働生産性の国際比較2006年版」によれば、イタリアの2004年の名目国内総生産(GDP)と労働生産性(単位時間あたりの労働がどれだけの価値を生んだかの指数)は、どちらも世界第7位。ちなみに日本はそれぞれ2位と19位。関連データで、年間労働時間を比較すると、日本が1812時間、イタリアは1482時間。数値上では労働時間が短いイタリアのほうが、日本より生産性が高いということです。実際、イタリア人の朝は早く、特に午前中の彼らの仕事への集中ぶりには目を見張るものがあります。デザイン性、希少性など付加価値が高い MADE IN ITALY 製品を生み出すイタリアの面目躍如といったところでしょう。

 かたや有給休暇など眼中になく、責任感が強い企業戦士が残業に精を出す脇で、同僚に気兼ねしてかズルズルと会社に居残るオンとオフが曖昧な国。かたや年間最大のイベントというべき夏の Vacanza バカンスで、一カ月近く(⇒最近都市部ではヴァカンツァが短縮傾向にあり、せいぜい2~3週間だというが、それでも長い!)海辺に滞在し日焼けに精を出すため【注1】、一生懸命仕事をするオンとオフの切り替えがはっきりした国。

bologna-spacca.jpg 【PHOTO】美食の都として名高い Bologna ボローニャ。町の中心 Piazza Maggiore マッジョーレ広場の東側の露地には、生鮮品から食肉加工品・チーズ・トルテリーニなどのパスタ類に至るまで、この町の胃袋とも言うべき食料品店やトラットリアなどが立ち並ぶ

 たとえば...仕事の後も会社の同僚と居酒屋や焼き鳥屋になだれ込み、ネクタイを鉢巻にしてしたたか酔いつぶれるまで焼酎を傾けつつ、酒席は無礼講とばかり会社や上司の悪口を並び立てるのがストレス発散。お互いに次の日には何を言ったか記憶を定かにせぬよう、いわば「酔った者勝ち」が人間関係円満のコツ?という日本。そして一方は、仕事の後は気のおけぬ友人や家族と一緒の時間をトラットリアやオステリアでVinoヴィーノを傾けつつ、悲喜こもごもの日常の出来事や、いい加減なお役所仕事の悪口など、てんでに並び立てるのがストレス発散。お互いに自分の話に夢中になるので酒に飲まれることはないが、相手の話はロクに聞いていないので、話にも飲まれない。いわば「言った者勝ち」が人間関係円満のコツ?というイタリア。
 
 いささかシニカルな表現になってしまいましたが、社会制度や文化の違いといえばそれまででしょうか。いずれにしても今日から短絡的にイタリア人をアモーレ・カンターレ・マンジャーレの色眼鏡でひと括りにするのはやめましょうね。


【注1】紫外線が肌に与えるダメージが知られるようになり、イタリア国営放送 RAI で UV ケアの必要性を紹介するようになった近年でも、小麦色の肌はイタリア人のステータスであることに変わりは無い。強い日差しが降り注ぐビーチで真っ黒に日焼けすることが、余裕のある暮らしぶりを物語る証なのだ。それが女性の場合でもヴァカンツァ明けのイタリア人同士の話題は、いかに相手の日焼けした肌を褒めるかから始まる。その次は留守中に空き巣に入られた話かもしれないのがイタリアらしいところ

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