あるもの探しの旅

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Cafè カフェ文化

       
【photo】パリを代表する老舗カフェ「レ・ドゥ・マゴ」。観光客に占拠されたそこに往時の文化サロンの面影を求めるのは難しい

 イタリア人たちが日常生活でコーヒーを楽しむ情報交換の場として欠かせないのは、気取りのない Bar バールであることはすでにご紹介しました。一方で、かつて芸術家や文化人らが集い芸術論を交わすサロンとして、あるいは人々が天下国家を論じ、政治談議に花を咲かせるジャーナリズム発祥の揺籃としての役割も担っていたカフェが、今も欧州各国に残っています。
 パリ・サンジェルマンの「Les Deux Magots レ・ドゥ・マゴ」(1813年創業)や「Café de Flore カフェ・ド・フロール」(1887年頃創業)など、通りに張り出したテラス席で薄めのエスプレッソをすする観光客と慇懃な態度のギャルソンは、おフランスに憧れたかつての日本人が思い浮かべるカフェのイメージそのものかもしれません。

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【photo】モーツァルトの生家や映画サウンド・オブ・ミュージックが撮影されたミラベル庭園、飾り看板が見事なゲトライデガッセなど、ザルツブルグの旧市街巡りに立ち寄りたい「カフェ・トマッセリ」。店内の時計は、どれほどの時を刻んできたのだろうか

 文献によるとコーヒーを客に提供するコーヒーハウス(英語)・カフェ(仏語)の原型の業態は、1554年にコンスタンチノープル(現イスタンブール)で開業したとか。アドリア海の制海権を手中に収め、東方交易でコンスタンティノープルと関係が深かったイタリア・ヴェネツィアには1645年に、1652年にはロンドンにもカフェが店開きしました。ヨーロッパ最古参といえるこれらの店は、時の流れの中でやがて消えてゆきます。1683年、包囲戦に失敗して引き揚げたオスマントルコが残したコーヒー豆を商売に転用したのがルーツといわれるウイーンのカフェ。地元では Kaffeehaus カフェハウスと呼ばれ、居心地の良い居間のような感覚で新聞を広げて長居する市民の姿を目にします。映画「第三の男」が撮影された現在の「Cafè Mozart モーツァルト」の前身 Café Katzmayr カッツマイヤーは1794年にオープンしています。それに先立つ1705年には、オーストリア・ザルツブルグのアルター・マルクト広場に「Cafè Tomaselli トマセリ」が開業。今も2階テラス席からは、メンヒスベルグ山に築かれたこの美しいこの町のシンボル、ホーエンザルツブルグ城が遠望されます。水が有料である場合が多い他の欧州諸国とは異なり、アルプスの水に恵まれたオーストリアのカフェでは、コーヒーとセットで水が入ったグラスに銀のスプーンが載せられて出てきます。現存するパリ最古のカフェ「Le Procope プロコープ」は、シチリア貴族コルテッリ家出身のフランチェスコ・プロコッピオによって1686年に創業しました。現在の Le Procope は軽食堂を意味するブラッセリー・ビストロとなり、創業当初のカフェとは異なる業態をとっています。

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【photo】暗くなっても人通りが絶えないサン・マルコ広場に面した「カフェ・フローリアン」。入り組んだカッレ(通路)を彷徨った疲れを癒すには、申し分のない場所といえる。しかし、この店が発祥とされるカッフェ・ラッテ(エスプレッソ+ミルク)を味わうには、相応の覚悟が必要。店頭で甘美な旋律を奏でるお抱え楽団のギャラや、華やかな歴史を今に伝える空間の維持費が、この店のカッフェの値段にはしっかり上乗せされているのだから

 かつてゲーテ、ワーグナー、オスカー・ワイルド、バイロン、ルソーなど歴史に名を留める各国の賓客を迎えたクラシックなカフェは、ヨーロッパ文化の源泉となったイタリアにも存在します。有名どころでは、ドゥ・マゴやフロール同様にそれなりの出費を覚悟した上で訪れたいヴェネツィアのサン・マルコ広場にある「Caffé Florian カフェ・フローリアン」(1720年創業)が筆頭格でしょう。このイタリア最古のカフェは、広場を挟んで向かいに位置する「Gran Caffè Quadri グラン・カフェ・クワドリ」 (1775年創業)とともに、ナポレオンが"世界で最も美しい広場"と称えた劇場都市の顔ともいえる空間の演出に一役買っています。ローマのスペイン広場から高級店が建ち並ぶコンドッティ通りに入ってすぐ右手の「Antico Caffé Greco アンティコ・カフェ・グレコ」(1760年創業)も、数多くの芸術家に愛されてきた老舗カフェです。今年の8月、UCC上島珈琲が日本におけるカフェ・グレコの商標権を獲得しました。1860年の創業と若干時代は下りますが、ナポリ最古のカフェ「Gran Caffè Gambrinus グラン・カフェ・ガンブリヌス」は、19世紀の絵画40点以上を収蔵する美術館さながら。町の喧騒から一歩足を踏み入れたそこは、あくまでも格調高く雰囲気も抜群です。今年の秋、東京の某百貨店のイタリアフェアに出店したガンブリヌスは、実物と似ても似つかないものだったと、そこを訪れた友人が語っていました(^^;)
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【photo】精巧な浮き彫りが施されたストゥッコ仕上げの漆喰とエレガントなリバティ様式の装飾。ナポリの「ガンブリヌス」では、濃厚なナポリスタイルのカッフェと共に Sfogliatella スフォリアテッラや Babà ババなどのナポリ菓子も味わいたい

SANCARLOSalone.jpg【photo】バロック様式の内装が見事なトリノの Caffè San Carlo サン・カルロ

 トリノには、歴史的なつながりが深いフランスやオーストリアと相通じるクラシックな香りが漂うカフェ文化が残っています。昨年のTerra Madre テッラ・マードレ会期中に、トリノ市内にある歴史的カフェ巡りツアーがトリノ市の主催でプレス向けに催されました。統一イタリア初代首相 Cavour カヴールが公務の合間を縫って通い詰めたという「Caffè al Bicerin カフェ・アル・ビチェリン」(1763年創業)。そこでカヴール首相のために考案されたのが、秘伝のレシピで作られる自家製チョコレートにエスプレッソを混ぜ、ホイップミルクをのせた二重構造を持つトリノ名物の飲み物「Bicerin ビチェリン」です。今ではトリノにあるカフェの定番となった脚付きのグラス(⇒伊語では Bicchieri ビッキエリ。共通性を感じますね)と銀のスプーンが添えられ、うやうやしく出されます。 【注1】

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【photo】現在のオーナーによって2004年に一部改装されたが、Ferdinando Baratti と Edoardo Milano の二人の菓子店オーナーが合同で創業した当時のエレガントな雰囲気はそのまま。ウインドーから垣間見える Baratti e Milano の店内は道行く人の目を引く

 内装の豪華さではトリノ随一との評価を得ている「Baratti e Milano バラッティ・エ・ミラノ」(1875年創業)や、その名もずばり「Torino トリノ」(1903年創業)は、創業当時流行したリバティ(=アール・ヌーボー)様式の装飾がふんだんに施され、華やかでスノッブな雰囲気が漂います。ホールに下がる大きなヴェネツィアングラスのシャンデリアがまばゆい「Caffè San Carlo サン・カルロ」(1822年創業)は、典型的なバロック様式の内装。「Caffè Mulassano ムラッサーノ」(1907年創業)のまばゆい金装飾が施された内装も見逃せません。いずれのカフェも折り目正しいカメリエーレが気持ちの良いサービスをしてくれます。Bar バール文化が主流のイタリアでは、こうしたカフェは珍しい存在といえます。こうした歴史あるカフェを訪れたならば、ぜひその雰囲気も味わいたいもの。

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【photo】カッフェや美味しいドルチェもさることながら、見事な装飾もご馳走のうち。「バラッティ・エ・ミラノ」(写真左)
トリノ発祥のアレンジカッフェ「ビチェリン」が生まれた店「カフェ・アル・ビチェリン」。小さな店内で売られているチョコレートも美味(写真右)

 プロコプの名を冠した老舗のカフェが仙台にあります。パリにあるその店のように、文化の発信拠点となるカフェたらんとその店「カフェ・プロコプ」が開店したのが1968年。開業当初から仙台でいち早く自家焙煎に取り組み、コーヒーと共に歩んできたマスターの熊谷 徳人さん。オーナー自ら厳しく選別した豆を使った定番のプロコプブレンドやカフェノワール、コハクの女王といったアレンジコーヒーなど、来年で開店40周年を迎えるマスターが淹れる薫り高いコーヒーに親しんだファンは数知れません。

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【photo】ビルの階段を上ると、ドアのガラス越しにカウンターに立つ熊谷さんが迎えてくれる(左写真)歴史を感じさせる店内。一人でも、あるいは大切な人とのとっておきの時間を過ごせる(右写真)

アール・デコ様式のガラス張りの木製ドアの先には、ゆったりとした時間が流れる心地よい空間が広がっています。ほの暗い店内は全てアール・デコで統一され、照明器具やさりげなく置かれた小物類にも趣味のよさが感じられます。
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【photo】照明・小物に至るまでアール・デコで統一された店内(左写真) 生クリームと深煎りのコーヒーが絶妙な調べを奏でる「コハクの女王」500円(写真中) 置物?いえ、現役の電話機です(写真右)

グランドピアノが置かれた店内では、第一線で活躍する長谷川 きよし氏や榊原 光裕氏らのライブ演奏会が不定期で催されてきました。そして今、そうしたミュージシャンと触れ合えるプロコプを遊び場として育ったという熊谷さんのご長男・和徳さんが、タップダンサーとして世界を舞台に活躍しています。プロコプを文化発信の拠点にしたいという40年前に熊谷さんが抱いた夢は、こうして実現しつつあるのです。

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カフェ・プロコプ
住所:仙台市青葉区一番町4丁目5-2 
TEL:022-227-2045 
営)平日:11:00-19:30 土日祝12:00-19:00 不定休

bicherin.jpg【注1】仙台でトリノ名物のビチェリンを飲ませてくれるお店がある。仙台市太白区のイタリアン「Al Fiore アル・フィオーレ」では、本場より若干甘みをおさえたビチェリン(600円)を提供してくれる。ここの存在感たっぷりなエスプレッソマシンは、フィレンツェの La Victoia 社製のレバー式。レバーの微妙な加減で抽出具合が変わってくるので、バリスタの個性が出るマシン。

Al Fiore アル・フィオーレ 仙台市太白区向山2丁目2-1-1F
TEL:022-263-7835 営)12:00-14:00 (土日月火のみ)18:00-23:30 水曜休


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コメント

先日、向山の近くを通りかかりましたが、あいにく時間がなく、AL FIOREの美味しいビチェリンを逃しました・・。

今度こそ!

▼ポレンタ育ち様
それは残念でしたね~。

そのうち、ナポリ直送のコーヒー豆が友人の Perugina さん経由で届きます。どうやら、注文したものとは激しく異なる巨大な業務用のブツが届いたらしく、一旦は返品するのだとか。やはり恐るべし、ナポリ人ですね。

無事到着の暁には、愛用のカフェ・ナポレターノをご持参いただき、試飲会とシャレ込みましょう!

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