あるもの探しの旅

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コーヒーの新たな地平へ

 新たな世界を予感させるコーヒーが仙台で味わえる。今回はそんなお話です。

 世界のトップバリスタたちが熱い視線を向けるマシンが今年日本に上陸しました。コーヒー本来の旨みを理想的な状態で抽出できる「Vacuum-Press バキューム・プレス」という世界初のメカニズムを取り入れたマシン「Clover 1s」。この米国シアトルにある「Clover Equipment クローバー・イクイップメント社」製のコーヒーマシンは、2007年11月現在、日本に3台しかありません。福岡と名古屋にあるコーヒー豆の焙煎業者(ロースター)に続き、仙台市泉区桂にあるカフェ「Bal Musette バル ミュゼット」のオーナーバリスタ・川口 千秋氏が、日本のカフェでは初めてこのマシンを導入しました。

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【PHOTO】全く新しい抽出法を採用した Clover 1s

 川口バリスタによれば、これまで一般ユーザーが家庭でコーヒーを楽しむ場合、最も忠実にコーヒーの持ち味を引き出す抽出法は「フレンチプレス」だったといいます。デンマークの「bodum ボダム」社の製品でお馴染みのフレンチプレスは、コーヒー豆に含まれる油脂成分が抽出時お湯に溶け出してきます。そのため、コーヒー特有のアロマ(香り)や味に深みが生まれるのです。私が愛用するナポリ生まれのCaffettiera (=コーヒーポット)、次回ご紹介する Napoletana ナポレターナも同様の抽出が可能です。かつては主流だったペーパーフィルターやネルドリップの場合、香りを構成する油脂成分がフィルターに漉されてしまうため、そうはいきません。それでも、フレンチプレスの4分前後という抽出時間と、直火にかける間の蒸らし時間が長くなるナポレターナの場合、劣化のリスクから逃れることはできませんでした。

 「理想的なコーヒーマシンが登場した」と川口氏が語るこの新兵器。蒸らしから抽出にわずか25秒~40秒ほどしか要しないため、コーヒー豆が加熱によって受けるダメージや、抽出時間が長引くことによって、雑味が出る危険を極力無くした画期的な設計だといいます。9月末にセッティングをした新世代マシンの実力を確かめに、先日バル ミュゼットを訪れました。

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【PHOTO】マシン上部はお湯でカップを温める機能があるラ・マルゾッコの「GB-5-3」はオールステンレス製。(写真左)背面には La Marzocco のロゴが誇らしげに刻印される(写真右)

 川口氏に促されカウンターの中を覗いて、まず驚いたのがその大きさ。業務用のマシンとして開発されたこの Clover 1s は、設置場所を選ばない幅285mm×奥行き551mm×高さ577mm というコンパクト設計なのです。その向かいで Made in Italy 特有の色気を放って存在を主張するエスプレッソマシン「LA MARZOCCO ラ・マルゾッコ社」の上級機種「GB-5-3 」(幅950mm×奥行き620mm×高さ475mm)と比べると幅の小ささが際立ちます。エスプレッソマシンの最高峰として、0.5℃単位で温度設定が可能なラ・マルゾッコ「GB-5」シリーズ。カプチーノを立て続けにサービスしなければならないハードな状況下でも、温度を一定に保つ独立した加熱装置「ツインボイラー」を備えた同社の製品は、プロフェッショナルなバリスタの愛用者が多いといいます。制限時間内にエスプレッソやカプチーノを提供する実地技能と創作飲料の完成度を競う世界バリスタチャンピオンシップ(WBC)で使用されるのもラ・マルゾッコのマシンです。扱いが難しそうなボタンやレバーがズラリと並ぶフィレンツェ製のこのハンドメイドマシン。アルファロメオのプレミアムコンパクトカー「alfa147 1.6ツインスパーク」【click!】のメーカー希望小売価格(259万円)とほぼ同じ価格設定がされています。

 こちらと比べると、湯温・湯量・抽出時間などを設定するダイヤルとスタートボタンがひとつずつしかない Clover 1s は家庭用の廉価版エスプレッソマシンと見まごうほどのシンプルさ。それでも、川口氏によればラ・マルゾッコほどでないにせよ、この最新鋭マシンもそれなりの価格なのだとか。

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【PHOTO】高地に位置するブラジル・ダテーラ農場のコーヒー・プランテーション

 ロースターとして自家焙煎も手がけるバル ミュゼット。「まずはこの豆から試して下さい」と川口氏がチョイスしたのは、WBC 2006年度の優勝者 Klaus Thomsen クラウス・トムゼン氏(デンマーク)が使用したブラジル Daterra ダテーラ農園の「ブラジル」中煎りでした。酸味と苦味のバランスが取れた豆でマシンの特徴を掴んでほしいというのでしょう。ちなみにこの農場では、加熱や酸化による油脂成分の劣化や水分の散逸を防ぐため、アラビカ種の生豆を真空パックにして低温輸送する細心の配慮をしています。同農場はサンパウロにあるカンピナース農学研究所やイタリアのエスプレッソ・メーカー「illy イリー」などと共同研究により、環境に配慮した生産法をいち早く導入、ISO14001や米国に本部を置くNGO団体「Rainforest Alliance レインフォレスト・アライアンス」の認証(RA認証)を受けています。RA認証は、厳格なガイドラインに則った営農管理(栽培手法、環境保全、労働者の保護)を行う農場にのみ与えられるもの。ほかにも 「IBD (Instituto Biodinâmico Certification Association)ブラジル有機認証協会」の認証など四つの国際機関によって、持続可能な生産体制にあることを認められています。
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【PHOTO】12年以上の研究を経て、non-GMO(非遺伝子操作)でカフェインを1%以下しか含まないアラビカ種のコーヒー豆「Opus 1 Exotic」の開発に成功したというニュースが先月末、ダテーラ農園より伝えられた

【PHOTO】中米 エル・サルバドルのコーヒープランテーションで働く女性

 世界中で飲まれるコーヒーの1/3~1/4を生産するブラジルをはじめ、地球上では、およそ2,500万人がコーヒー栽培に従事しているといわれます。コロンビア・ベトナム・インドネシアといった熱帯地域の途上国では、コーヒーの樹は、熱帯雨林を切り開いて栽培されています。高温多湿な気候ゆえ、病害虫の発生を未然に防ごうと大量の農薬が散布されたり、生産効率を上げようと化学肥料が多用される場合も多いのです。こうした地域では深刻な環境汚染が起きています。コーヒーの生産には、地球温暖化が招いた異常気象による干ばつや大雨などのリスクを伴います。コーヒー豆は、石油に次いで取引額が多い産物。そのため相場変動によるリスクを回避するため、仲買人は末端の買取り価格を恒常的に低く抑えようとします。この構図が、コーヒー生産の現場に貧困を生み出しています。生きてゆくために最低限の対価を得ることなく過酷な単純労働を強いられる人々は、満足な教育の機会もなく、無知ゆえに農薬による自身の健康被害に苦しんでいるケースもあるといいます。最近は日本でも欧州で誕生した「Fairtrade フェアトレード」の考え方に基づくコーヒーや紅茶・バナナ・衣類などを見受けるようになりました。適正価格で継続的に商品を購入することを通じて、立場の弱い第三世界の生産者の支援と自立を目指すこの運動。あなたが口にする一杯のコーヒーから参画できるのです。


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【PHOTO】キメ細かなメッシュ構造になっているマシン上部の投入口にグラインダーで挽いた豆を投入(写真左) 正面上部左のブリューボタンを押すと注湯口からお湯が出てくる。(写真右)

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【PHOTO】湯と粉を攪拌し「蒸らし」を数秒。マシンのコンパクトさがお分かり頂けるかと(写真左) 水分を含んだ豆が膨らんだところでバキューム・プレスによる抽出へと移行(写真右)

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【PHOTO】シリンダー内でコーヒーの粒子内部までお湯が浸透し、余すところなく旨みを抽出する(写真左) メッシュフィルターを通してカップにコーヒーが出てくるまでおよそ50秒(写真右)

 1杯のコーヒーを淹れる川口バリスタの作業は、マシン正面右のダイヤルで抽出時間や湯量を設定してから、スタートボタンを押すだけで、後はマシンがほぼ全てやってくれます。抽出が終わったコーヒーダストを排出口に掻き出して、サッと乾拭きすればOK。その一連の作業は、いかにもあっけないものです。しかし、このマシンがもたらすコーヒの美味しさには舌を巻きました。口に含むとまず甘さとクリーミーな食感が広がり、エグミや雑味は皆無。アフターテイストにも不快な重さが残りません。それでも川口氏は「このマシンはコーヒーを美味しくするものではありません」とそっけないもの。マシン自体はコーヒー豆のポテンシャルを余すところなく引き出す能力を持つだけで、鮮度や焙煎の優劣などの豆の持ち味がコーヒーにストレートに反映されるということでもあるわけです。とどのつまり、変質した油脂に由来するエグミをペーパーフィルターが漉すという副次効果が無いため、高い品質を備えたコーヒー豆を選別するバリスタの見識とその豆の特徴を活かすバリスタの技能が問われるマシンでもあるのですね。

 いずれにせよ、スペシャルティコーヒーの新たな可能性はこのマシンが切り開くのかもしれません。Don't miss it !

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la casa del caffè Bal Musette カフェ バル ミュゼット
住所:仙台市泉区桂4-5-2
TEL / FAX:022-371-7888
営 : 11:00~22:00 (日祝~19:00) 木曜休
URL http://www.bal-musette.com

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コメント

庄内系イタリア人様

kuishinbo大河内です。

このクローバーってエノテカの吉田さんのブログに載ってたものですよね。

すごく興味があったんですよ。

バルミュゼットが錦町から桂の本店だけになってからあのコーヒーが飲めなくなってしまったのが残念に思っていました。

ぜひ機会をねらって桂にいってみたいです。

私、プレス器ってコーヒー用かと思ってましたが、友達からは変と言われてました。変じゃなかったのね。 よかった。

プレスしたコーヒーも好きですがマッドなコーヒーも好きです。熱湯を注いで待つだけの、インドネシア風?あるいはトルコ風?

最後に口にじゃりじゃりとコーヒー粒が残るのも、また味わいのうち。

▼kuishinbo大河内さま

早速にコメントを頂き有難うございます。
そう、チルコロの吉田シェフもオフの時間に通いつめるというBal Musetteさんの新兵器がコレです。

まろやかさと甘みを感じさせながら「コクがあるのにキレがある」味わいとでも言いましょうか・・・どこぞで聞いた事があるビールのコピーのようですが、まずは実際にお確かめ下さい。

川口さんが使っておられるコーヒー豆の品質の良さを再確認いただけるかと思います。

このマシンで淹れたコーヒーが食後に楽しめるダイコンの温製スープとキッシュがセットされたガレットやオープンフォカッチャのランチセット(980円)も美味しいです。

私も「バル ミュゼット」が錦町から移って、行く機会がめっきり減りましたが、先日吉田さんのイル・チルコロで発見しました。「バルミュゼットスペシャル」エスプレッソ。

格別の味と至福の時間。食後はやっぱりこうでなくては・・と思いました。 

今度は仕事の合間にランチセットを狙いに桂まで行ってみようと思います。
もちろん名目は「市場調査」ですけど・・。

▼ポレンタ育ち様
オイシイ「市場調査」ですねぇ。
鶴岡や弘前も市場調査の対象エリアになるのでしたら、いつでもご案内しますよ。

最近、仙台にLA MARZOCCOのGB-5を導入したカフェが登場しました。「あなぶきんちゃん」でお馴染みの大手マンションデベロッパーがオーガニックをテーマとしたカフェ&バーを全国に先駆けて仙台に出店しました。

青葉通りと国分町通りの角にある「SURPIST」がそれです。研修のため川口バリスタのもとを訪れたというこちらのバリスタ氏がサーブするカプチーノもなかなか、でした。

チルコロとハシゴで市場調査なんてのも悪くないかも、ですね(^0^

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