あるもの探しの旅

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プレゼーピオで迎えるNatale

 今回は、ほんの僅かしか食べ物は登場しませんので、食いしん坊の皆さんはあしからず。

s-christkindlmarkt-mercatino_di_natale.jpg【Photo】南ティロル、アルト・アディジェ地方の都市 Bolzano ボルツァーノのクリスマス市。11月末からナターレ直前まで毎日、町のCentroチェントロ(=中心)にある Piazza Walther ヴァルター広場に80もの屋台が並ぶ

 キリスト生誕の場面をジオラマで表現する「Presepio(Presepe)プレゼーピオ(プレゼーペ)」は、イタリアだけのものではありません。日本でもカトリック教会によってはプレゼーピオを飾ることがあります。北ヨーロッパや北米など、プロテスタントが多い国では、クリスマスツリーが主流。 Trentinonatale.jpgシュバルツバルト(黒い森)の針葉樹林が広がるゲルマン文化の影響が強い北イタリア、トレテンティーノ・アルト・アディジェ州では、「Mercatini di Natale メルカティーニ・ディ・ナターレ(クリスマス市)」の雰囲気も白木のマリア像やピューター(錫)製のオーナメント類が多くなり、ぐっと北方の様相が濃くなります。ことに1918年のイタリア編入以前はオーストリア領だったため、ドイツ系住民が多い北部アルト・アディジェには、ほとんどイタリアらしさがありません。クリスマスの時期に焼かれるこの地方の伝統的なタルト菓子「Zelten ツェルテン」の甘い香りが漂う周りから聞こえてくる会話は、clicca qui多数派のドイツ語と少数派のイタリア語が入り混じったもの。"北に来た~"という実感が湧くことでしょう。この時期欧州各地で行われるクリスマス市は、「Weihnachtsmarkt ヴァイナハツマルクト」と称されるドイツが発祥とされます。

 【Photo】ボルツァーノのメルカティーニの屋台で。白木のマリア像・キリスト像やオーナメント類が多く、プレセピオは少数派。そこがドロミテの山懐にある南ティロル地方であることを改めて感じさせる。オーストリアはもう目と鼻の先

 そのほか規模の大小はありますが、トリノやミラノ・ヴェネツィアなど各地でナターレのメルカティーニが立ちます。そこにはクリスマス用品のみならず、アンティークや食料品なども並び、市民の活気で溢れます。クリスマス用品をメインで扱う有名どころのメルカティーニは、ヴェローナやフィレンツェ・ローマといったところでしょうか。ヴェローナではPiazza Brà ブラ広場とVia Roma ローマ通りで。フィレンツェではPiazza Santa Croce サンタ・クローチェ広場で。ローマではPiazza Navona ナヴォーナ広場で大規模なメルカティーニが開かれます。
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【Photo】1世紀に造られたヴェローナのArena アリーナから、メルカティーニが立つブラ広場へと流れるベツレヘムの星を形どった巨大な輝くオブジェ

 11月末の「Avvento 待降節」からナターレを経て、1月6日の「Epifania 公現節」にかけてイタリアの街を歩いていると、教会や広場・駅などにキリスト降誕の場面をジオラマで再現したプレセピオが飾られているのを目にします。敬虔なカトリック教徒が多い南イタリアでは、今も各家庭でプレセピオが手作りされることもあるようです。街中のTabacchi タバッキ(=キオスク)で売られる卓上用の小さなものから、s-bambinello.jpg実物大の人形が当時のベツレヘムを再現した洞窟や馬小屋に配置される大掛かりなものまでさまざま。前回写真でご紹介したバチカン・サンピエトロ広場に作られるプレセピオが規模や精巧さにおいては一番かもしれません。 そのプレセピオ、今日12月24日の夜中に少しだけ様相が変わります。そう、マリアとヨゼフの間にある飼い馬桶は、24日までは空っぽなのですが、25日に日付が変わる夜中に幼子イエスの人形が加わるのです。こうして主イエスの誕生を皆で祝福するのですね。

【Photo】24日Viglia ヴィジリアの深夜、プレセピオに加えられるBambinello 幼子イエスの人形

s-giotto_percorsi.jpg このプレセピオ、アッシジの聖フランチェスコ(1181?~1226)が13世紀に始めたものと伝えられています。アッシジの裕福な織物商人の家庭に生まれながら、出家して清貧の生涯を貫いたフランチェスコは、今も人々から最も慕われる聖人と言ってよいでしょう。12世紀末ごろはラテン語による説教が一般的で、意味を解せない信者が大方でした。フランチェスコは当時の封建的な聖職者の位階制度と距離を置き、一部の特権階級にではなく、各地を回って貧しい人々と向き合って教えを説きました。s-francescogreccio.jpg

【Photo】フランチェスコが世を去って800年近くを経た今も、グレッチオでは村民によるフランチェスコのプレセピオ劇が毎年クリスマス休暇が始まる12月24日の22時45分と、12月26日(聖ステファノの祝日)・1月1日(カポダンノの祝日)・1月6日(公現節の祝日)の17:45に演じられる


 1223年12月25日にフランチェスコはウンブリアとの境に近いラッツイオ州の小村Greccio グレッチオを訪れます。その際、崖の中腹にある洞窟にキリスト降誕を再現した人形を飾って主イエスの誕生を人々と共に祝ったといいます。文字が読めない人々にとって、キリスト教の教えを理解する近道は、モザイクやフレスコによる宗教画や磔刑像などの彫像でした。その模様は後に画家Giotto ジョットによって、アッシジのサン・フランチェスコ聖堂の壁に描かれた28の連作フレスコ画「聖フランチェスコの生涯」で広く知られるようになります。聖堂の建設が始まったのはフランチェスコの死から2年を経た1228年のこと。フレスコ画がある聖堂上部の着工は1230年。フランチェスコと同時代の人々が生きている中でフレスコ画が描かれただけに、その信憑性は高いと考えられます。

s-spaccanapoli.jpg 【Photo】12月の Via San Gregorio Armeno サン・グレゴリオ・アルメーノ通り。所狭しとプレセピオをはじめとする人形が並ぶそこでは、一年中ナターレ気分に浸れる


 メルカティーニ・ディ・ナターレは、通常11月末頃からイタリア各地で立ち始めますが、例外もあります。それはナポリの下町「Spaccanapoli スパッカナポリ」のほぼ中心にある「Via San Gregorio Armeno サン・グレゴリオ・アルメーノ通り」のこと。ここは芸術性の高さで名高いプレセピオ・ナポレターノの職人街になっており、路地の両側には、プレセピオを扱う店が一年中開いているのです。夏場は開いている店が若干少なくなるものの、11月末ともなれば、プレセピオを求める人や観光客で細い路地はごった返します。ナポリの治安の悪さがとやかく言われたのは過去の話。1994年のナポリサミット以降、ナポリ市が本腰を入れて治安の回復に取り組んだ成果は着実に現れています。
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【Photo】人でごった返す12月のサン・グレゴリオ・アルメーノ通り

 スパッカナポリ地区では徒歩での移動となります。見事な体躯の肝っ玉母さん同士の会話や、頭上にはためく洗濯物に目を奪われるよりは、爆音を上げてすり抜けるスクーターにひるまず、"身の回りの物に注意を払っているぞ"というオーラを放ちながら歩みを進めましょう。そこはかつてスリの本場(?)といわれたナポリの下町。用心に越したことはありません。「Via Benedetto Croce ベネデット・クローチェ通り」を「Piazza San Domenico Maggiore サン・ドメニコ・マッジョーレ広場」まで来ると、真っすぐな通りの名が「Via San Biagio dei Librai サン・ビアジオ・デイ・リブライ通り」へと変わります。そこから300mほど進むと1800年に創業した「Ospedale delle Bambole オスペダーレ・デッレ・バンボーレ(=人形の病院)」という店があります。世界中から送られてくる傷んだ古い人形の修理をするのは、今年71歳になるルイジ・グラッシさん。人形修理専門店はナポリでもここだけです。
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【Photo】シルクハットを頭におどけてみせるルイジ・グラッシさん。71歳にしてこのやんちゃぶり(左)すわ! 猟奇事件発生か? いえいえ、修理を待つ人形の頭部です(右)
 
 ナターレが近くなると、サン・グレゴリオ・アルメーノ通りの店先には、ありとあらゆる人形が並びます。Natività 聖家族、Bambinello 幼子イエス、乳香を献ずるBalthasar バルタサール・黄金を献ずるMelchior メルキオール・没薬を献ずるCaspaer カスパールの三人からなる東方三博士、大天使ガブリエル。こうしたプレセピオの中核をなす人形はもちろんのこと、天使・羊飼い・生き生きとした表情の民衆の人形、周辺の風景や羊や馬・牛などの動物の人形など、あるわあるわ。そこではさまざまなジオラマのパーツが売られています。星が輝くもの・建物の窓に明かりが灯るもの・川が流れるものなどの細工をされたプレセピオがある上、店のディスプレーにも工夫を凝らしており、店頭で絵付けをする職人の姿を目にすることも。店めぐりをしているだけで、結構楽しむことができるはず。イタリア人の家庭では、毎年少しずつ買い足して、見事なジオラマを完成させるのです。

s-sacrafamiglia.jpg【Photo】丹念に手縫いされた衣装をまとった聖家族のプレセピオ・ナポレターノ。バロック絵画のようなドラマチックな構図と精緻な人形の表情は見るものの心を捉えて離さない
 
ほかにも、ナポリの伝統的な即興仮面劇に出てくる道化役「Pulcinella プルチネラ」【click!】はよく見かけます。プラスチックでできた土産用のもの(⇒ここでもMade in China は大活躍)は別にして、豪奢な生地を丹念に縫い合わせた表情豊かなガラスの目を持つ陶製の頭部にハンドペイントを施されたナポリの職人の手になる人形はお値段もそれなり。一体1,000エウロ以上もする芸術品のようなプレセピオ・ナポレターノもあります。近年では、イタリアでもクリスマスツリーを飾る家庭が増えてきたといいますが、敬虔なカトリック教徒が多い南イタリアでは、プレセピオがまだまだ健在のよう。
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【Photo】東方三博士。別売りの馬に跨れるよう、関節が動くように造られている(左)キリストが生まれた馬小屋にいたという牛と羊飼い(右)

 あまねく人々と神の子イエスが生まれた喜びを分かち合いたいと、山中の洞窟に聖家族の人形を供えた聖フランチェスコ。その無垢な心が生み出したといえるイタリアの素晴らしい習慣を絶やしてほしくない。そう願わずにはいられません。
 最後になりましたが、Buon Natale! Merry Christmas!

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コメント

プレセピオ・・なぜか仏教徒の我が家でもやってます(笑)
イタリアの風習がとても懐かしく、今年もまたこの季節かぁ、なんて思いながら先日つくりました。
 もしかして今は現地でしょうか?であれば羨ましいですねぇ。思いっきり楽しい時間をお過ごし下さい。美味しい情報も楽しみにしております。
 Buon natale e felice anno nuovo.

▼ポレンタ育ち様
 いえいえ、思いっきり日本の寒空の下におります。
 ポレンタ育ちさま宅のプレセピオはどんなものでしょう?ローマ法王ベネディクト16世も顔負けの縦横 5m なんていう巨大な飾りだったりして。

 我が家のお手頃プレセピオは、組み立てる手間の要らない樹脂製です。ゆえにエピファーナまでは出しておきませんけど(笑)。写真でご紹介したプレセピオ・ナポレターノは1,450エウロの値段が付いていました。とても手が出ません・・・

 いずれにしても、良いクリスマスを、そして良い年をお迎え下さい。(・・・って、この時期のイタリア式時候の挨拶のまんま和訳ですね。)

 

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