あるもの探しの旅

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Vino Azzurro 青ワイン

 「青ワイン」って飲んだことありますか? 赤ワインでもなければ、白ワインでもありません。今回は私がつい最近出合った青ワインの話です。したたか酔っ払って赤ワインが青く見えたのだろうって? いえいえ、そうではありません。ワインラヴァーにはお馴染みの「Terroir テロワール」というフランス語は、特にワインに関して産地の土壌や標高の違いによる気候風土などブドウの生育環境を意味しますが、青ワインは、まさにテロワールの賜物でした。

 仙台の百貨店「藤崎」で、恒例のワールドリカーフェアが12月12日(水)まで催されているというので、出掛けてみました。時節柄、スパークリングワインの出品が多かったのですが、冬場はフルボディの赤ワインが美味しい季節。掘り出し物の赤ワインを狙って、あれもこれもと試飲していると、顔見知りのインポーターさんたちが「やっぱり来たの」と声を掛けてくるし、売り場をうろつく知り合い数人ともバッタリ。いわく「いると思ったよ」。うーむ、行動パターンを読まれているぞ |||(-_-;)|||||| 。

capanelle_03vista_ottobre.jpg 【photo】緩やかに起伏を繰り返す緑豊かなガイオーレ・イン・キアンティ。照葉樹林帯の中にブドウとオリーブの畑が点在する。Capannelle カパンネッレ付近にて

 "タダ酒の試飲ばかりではフードライターの名折れ"とばかりに、会場内にあったENOTECA のワインバーにも立ち寄りました。そこでは、ボルドーのオールド・ヴィンテージや希少なブルゴーニュなどをグラスで有料試飲できるのです。脇目も振らず私が選んだ2本は、イタリア・トスカーナ州キアンティ・クラシコのエリアでは最も南に位置するGaiole in Chianti ガイオーレ・イン・キアンティ地区に畑を所有する優良生産者「Capannelle カパンネッレ《Link to website 》」が、かの有名リストランテ「エノテカ・ピンキオリ」向けに造ったのが始まりだという「Solare ソラーレ'99」。

MAIPOVALLEY.jpg【Photo】カベルネ・ソーヴィニョンにとって理想的な栽培環境とされるチリのマイポヴァレーは、世界の注目を集めるプレミアムワインを生みだすテロワールに恵まれている

 もう1本はチリの「Concha y Toro コンチャイトロ」社とボルドー一級格付けの「Chateau Mouton Rothschild シャトー・ムートン・ロトシルド」がジョイント事業としてサンティエゴ南東部のMaipo Valley マイポ・ヴァレーで造るプレミアムワイン「Almaviva アルマヴィーヴァ'01」。マイポ河が運んだ土砂交じりのPuente Alto プエンテ・アルトの畑は、Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニョンの耕作に適した土壌といわれます。加えて内陸特有の激しい気温差とアンデスの清涼な風が健全なブドウを育てるのです。

 グラスの中で最初は閉じていたSangiovese サンジョヴェーゼが、徐々に開いて複雑さを増してぐんぐん良くなってくるソラーレ。最初からパワー全開、バランスも良く完成度が高いアルマヴィーヴァと、個性が異なるワインを2杯頂いたところで、再び無料試飲へandiamo!(=レッツ ゴー)。

kikusuisetsugorou.jpg【Photo】二番目に印象的だったのは、元禄期の清酒(すみさけ)を再現した越後・菊水の「節五郎元禄酒」

 口直しに新潟新発田市にある菊水酒造のコーナーへ寄り道してみました。創業125周年にあたる昨年、同社が設立した「日本酒文化研究所」が江戸元禄期に飲まれていた清酒(すみさけ)を再現したという「節五郎元禄酒」に興味を持ったからです。安政期に生まれた蔵の創業者・高澤節五郎の名を付けたこの酒。淡い黄金色を呈し、アルコール度数17度のトロリとした濃醇な味わい。90%の精米歩合といいますから、私たちが普通に頂く白米と同じ磨きに留め、お米自体の旨みを感じさせます。同研究所所蔵の浮世絵をもとにデザインしたという江戸情緒溢れるパッケージもあいまって、時代劇に出てくる呑み屋の風情を味わえました。

MANCINI_MARE_CERRO-1.jpg【Photo】アドリア海に面した崖の上に切り開かれたFattoria Mancini のブドウ畑

 そうして古今東西、試飲した中で特に面白かったのが、中部イタリア・マルケ州ペーザロ・ウルビーノ県の県庁所在地、Pesaroペーザロの近郊で造られた「BLU ブル(ー)(=伊語で「青・紺色」の意)」という名の赤ワインでした。「なぁ~んだ、青ワインって単に名前がBLUというワインなのか」と早合点しないで下さいね。おもに北隣りのエミリア・ロマーニャ州で混醸用に栽培される「Ancellotta アンチェロッタ」というブドウと、「Pino Nero ピノ・ネロ」を50%ずつ混醸した珍しいセパージュ(=ブドウの品種構成のこと)のこのワイン。確認されているだけで400種以上のブドウ品種が存在するため、個性的なワインが数多く存在するイタリアですが、このBLU は印象的な特徴を持ちあわせていました。

 原産地のブルゴーニュ地方では「Pinot Noir ピノ・ノワール」種として知られるこのブドウ。イタリアワインにほぼ占拠された我がワインセラーには、ピノ・ノワールのワインは一本もありません。寒冷な気候と乾燥して痩せた土壌に向くピノノワールは、栽培環境の影響を受けやすいブドウ品種です。よって産地のテロワールが明確にワインに現れるブドウといえます。過去にブルゴーニュやカリフォルニアなどのピノ・ノワールから造られたワインをいくつか試してみましたが、エレガントと個性を形容されるこのブドウから造られるワインは、要するに自分の好みではないのです。概して生産量が少ない一方で知名度が高いため、"需要≧供給" な図式にあるブルゴーニュワイン。法外な値段が付くロマネ・コンティは極端にしても、私にはいかんせん割高感が拭いきれません。

MANCINI_VINICLIFF.jpg【Photo】珪藻質の石灰岩でできた崖が続くペーザロ北方のアドリア海沿岸の一角にあるマンチーニ家のブドウ畑。目がくらむような崖っぷちの畑の眼下には、海が広がる

 栽培環境を選ぶ気難しい品種ゆえ、同様に偉大なブドウ品種といわれるピエモンテ原産の「Nebbioloネッビオーロ」ほどでないにせよ、"旅ができないブドウ"といわれるピノ・ノワール。ピノ・ネロからは、中部イタリア以北で優れた赤ワインが造られます。北部イタリアLombardia ロンバルディア州 Franciacorta フランチャコルタでは、フランスのブドウ生産地としては最北部のChampagne シャンパーニュ同様に優秀な発泡ワイン生み出します。オーストリア国境に接するイタリア最北部のAlto Adige アルト・アディジェ地方では、ドイツ語も話される南チロル地方らしく「Blaubrugunder ブラウブルグンダー」とドイツ風の名前で栽培されます。マルケ州へは、19世紀初頭のナポレオン統治時代、ブルゴーニュからペーザロへとピノ・ノワールがもたらされました。

0960.jpgEttore%20Mancini.jpg【Photo】先代・4代目のエットーレ・マンチーニ(左)と現在醸造所を切り盛りする息子のルイージ・マンチーニ(右)

 アドリア海に面したペーザロから世界遺産の街 Urbino ウルビーノにかけては、DOC 「Colli Pesaresi コッリ・ペサレージ」の赤ワインと白ワインが生産されます。海抜201mのサン・バルトロ山周辺は、渡り鳥の楽園としても自然環境が保たれた州立自然公園に指定されています。このエリアで唯一ピノ・ネロを栽培するのは、19世紀中頃からカンティーナ「Fattoria Mancini ファットリア・マンチーニ」を所有するMancini 家です。このカンティーナの主力は、独自の遺伝子を持つクローンのピノ・ネロだけで造られる「IMPERO インペロ」(=帝国・王国、特にナポレオンの第一帝政時代の形容詞でも使われる)という名の赤ワインと白ワイン。先代のエットーレ・マンチーニ氏の努力によって、2000年には単独のDOC「Colli Pesaresi Focara Pinot Nero コッリ・ペサレージ・フォカーラ・ピノ・ネロ」が認められました。現在は高齢のエットーレ氏に代わって息子のLuigi ルイージがカンティーナを運営しています。

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【Photo】この2000年ヴィンテージまでは、アンチェロッタとピノ・ネロが 50%ずつ使用されていた。翌年からはピノ・ネロの割合を減らし、代わってマルケ州で優良な赤ワインを生み出すMontepulciano モンテプルチアーノ種を40%混醸するようになった「BLU」。ノンフィルターでボトリングしているため、澱(オリ)が出ている旨がバックラベルに記載されている

 私が試飲したBLUは、2000年ヴィンテージのものでした。7年を経過しているにもかかわらず、ワインの色調は明らかに色調の淡いピノ・ネロ由来のそれではなく、色の濃いワインに仕上がるアンチェロッタによる黒っぽさを湛(たた)えたものです。1998年に初めてこのワインを仕込もうとした際に、醸造所の床にこぼれた果汁による青いシミが出来たのだそう。それで、このワインはBLUと名付けられたといいます。ちなみに2001年からは、Ancellotta 50%+Montepulciano 40%+Pinot Nero 10% にセパージュが変更されています。
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【Photo】マンチーニ家が受け継いできたピノ・ネロはミラノ大学の分析によって、独自の遺伝子構造を持つクローン(=突然変異)種であることが判った

 ペーザロ旧市街の北側、海岸線から陸地へ500m~1,500m入った海抜100~170mにある珪藻質の石灰岩土壌の畑で栽培されるピノ・ネロとアンチェロッタを手摘みで収穫後、フランス・アリエ産のバリック樽(新樽を50%・一年落ちの樽を50%ずつ使用)で14ヶ月熟成。瓶詰め後、セラーの熟成庫で18ヶ月寝かされた後、リリースされます。しっかりとしたボディを持つこのワインの特徴は、アフターになんと海の香りが残ること。マルケ州の海沿いにある地域特有の風によってアドリア海の潮の香りがブドウの個性となるのでしょう。これぞBLUなアドリア海のTerritorio テリトーリオ(=テロワールの伊語)。

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 興味深いことに、栽培環境の影響を受けやすいピノ・ネロ100%で造られるIMPEROよりも、BLU はよりテロワールを反映したワインに仕上がると5代目を継いだルイジは語ります。BLU は名前だけでなく、青い海のアロマ(=本来は「ブドウに由来する香り」を指す)を感じさせてくれる"青ワイン"なのでした。

【Photo】サン・バルトロ山自然公園は、野鳥と花々の楽園。アドリア海に面して変化に富んだ地形が続く

 こうして、晴れて我がセラーで唯一、Pinot Nero が使われたヴィーノが一本仲間入りしました。ご参考まで、購入価格は4,725円。極端なユーロ高の昨今。酒質からすれば、納得のゆく買物ができました。

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