あるもの探しの旅

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すったもんだのお年越し

決死の潜入レポートinナポリ

【PHOTO】放送作家の鶴田 純也氏(写真右奥)が持参した北イタリアのProdotto tipico(=典型的な産品)のひとつ蕎麦パスタ「ピッツォッケリ・デッラ・ヴァルテリーナ」
 
 多分にイタリアナイズされた我が食生活ですが、大晦日には今年も年越し蕎麦を頂きました。喉越しも味わいのうちのこの縁起ものを頂く場合は、威勢良くズズズ~と大きな音を立てるのが流儀。堅苦しいテーブルマナーには寛容なイタリアですが、ロングパスタを頂く場合だけは、そこがイタリアだろうと日本だろうと音を立ててススるのはやめましょう。周囲から顰蹙を買うこと請け合いですので。    ┏ (・||| ・) ヾ(- _ -;)

 北イタリアの山岳地帯では、寒冷な気候と痩せた土地でも育つ Grano saraceno グラーノ・サラチェーノ(=ソバ)がニョッキなどのパスタ料理やポレンタで食べられています。ソバを使ったポレンタと聞くと、日本人はちょっと緩めの「蕎麦掻き」を連想してしまいますね(笑)。

 朝日放送制作の「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」や季刊「四季の味」でエッセイ「おやつの時間」を手掛ける放送作家の鶴田 純也 氏とピエモンテで合流した際に、鶴田氏がスイス国境に程近いロンバルディア州最北部ソンドリーノ県 Prata Camportaccio プラータ・カンポルタッチョで買ったという乾燥パスタ「Pizzoccheri della Valtellina ピッツォッケリ・デッラ・ヴァルテリーナ」を持参されました。

 スイス国境にほど近い4,000m級の山々が連なるヴァルテリーナ渓谷では、山の南斜面で栽培されるブドウの間や、小麦が育たない狭小な平地の耕作地でソバが栽培されているのです。幅1cm 長さ5cmほどの平面状のパスタ、ピッツォッケリは、山あいで採れるジャガイモやサヴォイアキャベツなどの野菜と共に食べられます。

Valtellina-Panorama.jpg 【PHOTO】ソンドリーノ県 Castello dell'Acqua カステッロ・デッラ・アックアの風景。ともにソバが栽培される松本市や山形市周辺とこのヴァルテリーナ渓谷は、さして景色が変わらない

 ピエモンテ州の北、スイス・フランスに国境を接するイタリア最小の州ヴァッレ・ダオスタや、ドロミテ渓谷の山あいにある前回登場したBolzano ボルツァーノ、Trento トレントなどアルト・アディジェ地域では、Gocchi di grano saraceno (=ソバのニョッキ)が家庭料理としてはポピュラー。グラーノ・サラチェーノが育つ風景は、どこかしら信州や山形などの蕎麦どころと相通じるとは思いませんか? 適地適作は世の東西を問わないのです。

 「細く長く達者に暮らせるように」と、縁起を担ぐ年越し蕎麦は日本の年越しに欠かせません。蕎麦切りを大晦日に食べる理由には、その年の災厄を断ち切るという意味や、鶴鶴亀亀(つるつるかめかめ)で縁起が良いなど、後付けでこじつけたと思われるものもありますよね。年越し蕎麦で災厄を断ち切り、人間が抱える108の煩悩を消し去る除夜の鐘で新年を迎える厳(おごそ)かな日本の年越しは至って静かなもの。なぜか大晦日の定番となりつつある格闘技中継でエキサイティングな憂さ晴らしをするか、"歌手の衣装"と呼ぶよりも、むしろ数億を費やした"歌手が組み込まれた舞台セット"に呆れるかは皆さんのお好みで。

s-capodannoauguri.jpg【PHOTO】カポダンノを祝うコンサートで大いに盛り上がる「Piazza del Plebiscito プレビシート広場」。ド派手に花火を打ち上げて新年を祝うのがナポリ式

 la notte di San Silvestro (=大晦日)にその年の厄を落とすやり方が過激なのは、南イタリア随一105万人の人口を擁するナポリにとどめを刺します。イタリアに限らず、ヨーロッパでは大晦日に花火を上げて新年のお祝いをします。なかでもイタリアの花火は、熱いラテンな国民性を反映してか、他の国よりもかなり派手。特にナポリのそれは美しさを愛でる花火というよりも、Petardo(=爆竹)や、Cipolla(=丸い形状から、「玉ネギ」を指すこの名で呼ばれる小型爆弾と呼ぶべき派手な爆音を発する花火)が主役です。街角に立つ屋台で売られる花火・爆竹の中には粗悪品が混じっており、暴発で指が吹き飛んだとか、興奮した不心得者が発砲した銃の流れ弾で死者が出るなどの騒ぎが夜を徹して繰り広げられます。 

s-hanabistand.jpg【PHOTO】露地の屋台で売られる花火。ロケット花火や爆竹はナポレターノたちの熱いラテンのハートにも火をつける

 ナポリのPalazzo Reale (=王宮)に隣接するPiazza del Plebiscito プレビシート広場では、毎年ナポリ市主催の年越しイベントが行われ、5万もの人々が屋外コンサートでCapodanno カポダンノ(=新年)の到来を待ちます。「Capodanno まであと何分」とカウントダウンが始まる頃には、夜空を焦がす花火も一段と増え、会場ではチンクエ(5)・クアットロ(4)・トレ(3)・ドゥエ(2)・ウーノ(1)、Auguri ! (おめでとう!)と皆が唱和、新年の幕開けと共にスプマンテで乾杯します。広場を半円状に囲む柱廊をもつ Chiesa di San Francesco di Paola サン・フランチェスコ・ディ・パオラ教会の鐘が鳴り出します。すると興奮は最高潮に達し、スプマンテの瓶を叩き割ったり、爆竹を入れた小瓶を炸裂させたりと、やりたい放題。これぞナポリの真骨頂!! と、その場の殺気立った雰囲気を楽しめるあなたは私のお仲間です。

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【PHOTO】ナポリの夜空を明るく染める花火は新年の到来を賑やかに告げる。遠目には美しい光景だが、町に繰り出すにはそれなりの覚悟が必要。「ナポリを見て死ね」にならぬよう・・・

s-ilmattinonapoli.jpg【PHOTO】毎年恒例となったCapodanno におけるナポリの騒乱ぶりを一面トップで伝える地元IL MATTINO

 今年はどうなることかと思っていましたが、案の定この大晦日もナポリ市内で45名、ソフィア・ローレンの故郷ポッツオーリからソレント半島、イスキア島・カプリ島を含む一帯のナポリ県で40名の死傷者が出ています。それもそのはず、建物の窓やバルコニーからロケット花火が発射され、火がついた爆竹が下の通りに投げ捨てられるのですから。誰かが下を歩いていようと知ったこっちゃありません。ナポリ市民は、決して大晦日の夕方以降は不要不急の外出はしないのですが、家の中にいても必ずしも安全とはいえません。

bomba.jpg 火薬の匂いが立ち込め、Cipolla の炸裂音が窓を揺るがすカポダンノのナポリは戦場さながら。興奮した誰かが放った銃の流れ弾で今年は家族とのカード遊びに興じていた30代の男性が死亡。更に頭に流れ弾を受けた10歳の子どもが命を落としました。カモッラ(ナポリのマフィア)が介在するといわれる銃の密売や、安全基準を満たさない花火による事故が絶えないため、警察もそれらの押収に躍起になっていますが、いたちごっこで根絶は難しいようです。

【PHOTO】押収された違法花火

s-CAPODANNONAPOLIFIRE!.jpg【PHOTO】火薬の匂いと燃え上がるゴミ。煙に顔をしかめるナポリのスィニョーラ

 普段は路上駐車の車で溢れ返るナポリの市街地が、大晦日の午後になると路上に停まっていた車がいなくなります。何故か? 花火で車が燃えないよう避難させるから、という理由に加えて、ナポリには大晦日の夜に窓から不要なゴミを捨てる悪しき習慣があるのです。ゴミと言ってもいろいろで、ポリ袋に入った家庭ごみはもちろんのこと、粗大ゴミも含まれるというから穏やかではありません。何も知らずに夜に外出でもしようものなら、さあ大変。上から壊れた冷蔵庫や家具が落ちてくるのです。過去には不幸にも粗大ゴミにぶつかって死者が出たこともあるのだとか。現在は危険だというので法律で禁止された行為ですが、なにせそこはナポリ。日本では一般化したコンプライアンスという言葉と法令遵守の精神は彼らには理解できなのかもしれません。ゴミの山に投げ込まれる爆竹で、市内各所のゴミ集積場からは火の手が上がります。

rifiuti.jpg 【PHOTO】Rifiuti,la guerra di pianura (=ゴミ、地上戦だ)の見出しが躍るIL MATTINO 紙。燃え盛るゴミを尻目に夜を徹して回収作業に当たるナポリ市のゴミ処理業者

 そうしてすったもんだの一夜が明けた後に残されるのが大量のゴミ。残り火がくすぶる一部のゴミ置き場からは、まだ煙が上がっています。路上には爆竹や花火の残骸が落ちています。観光客が訪れる市内中心部は清掃車が夜半にゴミを回収しますが、周辺部まではとても手が及びません。自前の処理施設を持たないナポリ市では、通常ゴミを地中に埋め立て処理をします。しかし一晩で大量廃棄されるカポダンノのゴミは、そうはいきません。しばらく放置された後、一部はわざわざ列車で環境先進国ドイツに運ばれて分別の上、焼却処分されるといいます。

NEWYEAR.jpg【PHOTO】正月の朝のナポリ。夜通し騒いだナポレターノたちはベッドの中にいるため、人通りはまばら。かわりに目に付くのは宴のあとのゴミの山ばかり

 血の気が多いナポリは極端な例ですが、厳かなクリスマスの後で賑やかに新年を迎えるイタリア。クリスマスの喧騒に浮かれた後で、しっとりとした年越しを迎える日本の正月。
あなたならどちらがいいですか?

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コメント

ナポリのゴミ問題は深刻です。

 昨今『ナポリ・ゴミの山』はCapodanno だけの風景ではないのですから。昨年から引続き解決されずにいるゴミ収集の問題、地下埋め立てに反対する住民とのトラブル。もはやこのゴミ風景自体「ナポリの姿」となっているのです。今朝のニュースによると、国会はCapo della polizia(警察長官)を本日付けで4ヶ月間ナポリに送ることを決定。彼の能力を信頼し軍隊まで派遣。不法にゴミを放置したり、火を放つ放火魔等の犯罪者を警備すると言います。また焼却場建設の為の下準備も始めるとの事。

 すでにナポリ郊外に候補地を4つ見つけたと発表しました。確実に予想されるのは「焼却場建設」に反対する動き。この問題、すでに半年以上が経過、埋め立てできずにいる信じられない量のゴミ、ゴミ、ゴミ。イタリアでこのニュースが流れない日はありません。

 今年のナターレ、ナポリの子供がゴミ収集場に貼った手紙「バッボナターレへ。今年は何もくれなくていいから、ナポリのゴミを全部もっていってください。」ニュースで何度も紹介されてました。

▼ねーさん様
 私がナポリを訪れた数年前は、ここまでゴミが町中に放置される異常事態ではありませんでした。

 Campania州における Emergenza rifiuti は、もはやナポリのローカルニュースではなく、イタリア中の関心事のようですね。プロディ首相も各州知事にゴミ処分場の受け入れ協力要請をしたようですが、今のところSardegna州以外は、前向きなところはないようですし。

 廃タイヤや粗大ゴミなど、全然分別をしないでゴミを出しちゃうナポレターノもナポレターノ。でも回収されないまま町中に放置されたゴミや郊外の路肩に延々とゴミの山が続く異常ともいえる光景を放置してきたいい加減な行政組織の責任も問われるべきですね。

 これもイタリア国内に根深く存在する南北格差の表れ。このままゆくと、いずれナポリは Vesuvio の火山灰に埋もれたポンペイと命運を同じくするのでしょうか?
 そう、ゴミに埋もれて。

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