あるもの探しの旅

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グレートヴィンテージ・1990年のキアンティ

Castello di Ama の希少なクリュワイン

 無類の旨さとコストパフォーマンスを兼ね備えた庄内・羽黒産「山伏豚」を使った自家製ラグーソースのラザニアを作った週末。"そろそろ飲み頃かな?"とワインセラーから取り出したのがCastello di Ama カステッロ・ディ・アーマ Chianti Classico Vigneto Bellavista キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ベッラヴィスタ1990。中部イタリア・トスカーナ州キアンティ・クラシコ地区南東部「Gaiole in Chianti ガイオーレ・イン・キアンティ」産のヴィーノです。1990年はヨーロッパ全域で気候に恵まれ、健全なブドウが収穫されて素晴らしいワインが生まれた年。そのため、世のワインラヴァーたちにとっては、期待度の高いヴィンテージでもあります。

autumnoama.jpg【Photo】標高600m前後の照葉樹が生い茂る丘陵「Collioコッリオ」に覆われたキアンティ・クラシコ南部。その一角の高台にあるCastello di Amaからの眺め。収穫を待つ黄金色のブドウと青緑のオリーブのBellavista(=美しい眺め)


 世界中で最も名が知られたイタリアワインといえば、中部トスカーナ州のChianti キアンティか北イタリア・ピエモンテ州のBarolo バローロを挙げる方が多いかと思われます。多産な白ワインSoave ソアーヴェとともに日本に最も早く紹介されたイタリアワインのひとつが、トウモロコシの皮から作った菰(こも)被りのフィアスコボトルに入ったキアンティでした。1865年にガラス職人のPaolo Caprai パオロ・カプライが生み出したフィアスコボトルをワインにいち早く使用したのは、Adolfo Laborel Melini アドルフォ・ラボレル・メリーニ(1848-1920)が創業したカンティーナ「Melini メリーニ」です。輸送に適したフィアスコボトルで一世を風靡した素朴なキアンティも、今では菰を藁づと状に被せる職人が少なくなったため、観光地の土産物店以外では、イタリアでもほとんど見ることが無くなりました。品質向上の足かせとなっていた「白ブドウを混醸しても良い」という旧時代的な法規が2006年産から撤廃される以前から、villaama.jpgトスカーナ原産とされる「Sangiovese サンジョヴェーゼ」や「Canaiolo カナイオーロ」といった黒ブドウだけで作るしっかりとした体躯を備えたキアンティを作っていた生産者が存在しました。

【Photo】平均海抜480mの丘陵に広がるCastello di Ama のブドウ畑は粘土質と石灰岩・泥炭岩からなる

 一口にキアンティと言っても、リリース時点で1,000円前後の若飲みに向いた軽いものから、1万5,000円以上する長熟タイプのヴィーノまで、酒質はさまざま。その産地 は州北西側のティレニア海に近い平坦なPisa ピサの南「colli Pisane コッリ・ピサーネ」から、フィレンツェの南東側で主にエレガントなタイプのヴィーノを産する「colli Fiorentini コッリ・フィオレンティーニ」と、その北東側アペニン山脈が迫る標高が高い「Rufina ルフィーナ」を経由してArezzo アレッツォの西「colli Aretini コッリ・アレティーニ」、さらに南部Siena シエナ・Montalcino モンタルチーノ・San Gimignano サン・ジミニャーノ周辺の「colli Senesi コッリ・セネージ」などの広大なエリアが含まれます。さらに作り手によっては、26ヶ月以上という長い法定熟成期間を経てリリースする「Riserva リゼルヴァ」を作っており、ヴィンテージによっては20年以上の長期熟成に耐える偉大なヴィーノとなります。
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【Photo】13世紀の建造とされるCastello di Ama のセラーには、仏アリエ産やスロヴェニア産のバリック樽が整然と並ぶ。Chianti Classico Vigneto Bellavista は新樽80%、前年使用した樽を20%の割合で14ヶ月熟成。良年のみの生産

 生産者数が多いだけに多種多様なキアンティにあって、優れた品質のヴィーノを産出することで知られるのが、キアンティ地方の中心部にあたる「Chianti Classico キアンティ・クラシコ」です。樫や栗などの照葉樹が生い茂る標高600m前後の「Collioコッリオ」と呼ばれる丘陵に覆われた「Monti del Chianti(=『キアンティの山々』の意)」西側の内陸一帯およそ7万haがキアンティ・クラシコの産出地となります。北から「Greve in Chianti グレーヴェ・イン・キアンティ」、「Radda in Chianti ラッダ・イン・キアンティ」、「Castellina in Chianti カステッリーナ・イン・キアンティ」、「Gaiole in Chianti ガイオーレ・イン・キアンティ」などに産地が分かれています。これらの銘醸地を訪れると、思いのほか山間地にブドウ畑が広がっていることに軽い驚きを覚えるかもしれません。周辺の野山には野生のCinghiale(=イノシシ)が数多くCINGHIALE.jpg棲息しており、プロシュットに加工されたり、パスタ料理のラグーに使用されたりします。キアンティ・クラシコはそうしたトスカーナ料理と抜群の相性を発揮します。ほとんどが足の便が悪い立地となるカンティーナ(=醸造元)巡りには、何といっても小回りが利く車が一番です。これらのクラシコゾーン以外では、Chianti Rufina で長期熟成に耐える赤ワインが作られています。

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【上Photo】トウモロコシをくわえたイノシシが店頭に立つ土産物屋にはフィアスコボトルのヴィーノがズラリ。Chianti colli Senesi キアンティ・コッリ・セネージに含まれるSan Gimignano サン・ジミニャーノで

【右Photo】Bellavista の区画最上部3.8haほどの一角で栽培されるCastello di Ama のメルロ。1982年に栽培を始めたメルロは、畑(クリュ)指定のキアンティ「La Casuccia ラ・カズッチャ」とクリュ指定ではないキアンティ・クラシコにブレンドされる以外の最良のものが、カルトワイン「Vigna l'Apparita」としてリリースされる

 クラシコゾーンの南に位置するガイオーレ・イン・キアンティは、一般にボディのしっかりしたワインに仕上がります。以前にご紹介した「Capannelle カパネッレ」や「San Giusto a Rentennano サン・ジュースト・ア・レンテナーノ」に加え、「Barone Ricasoli バローネ・リカソリ」、「Badia a Coltibuono バーディア・ア・コルティブオーノ」、「Riecine リエチーネ」などの優良生産者がひしめく地域です。そのひとつが今回開けたChianti Classico Vigneto Bellavista を生産する「Castello di Ama カステッロ・ディ・アーマ」です。1972年、当時は住む人もなく荒廃しきったAma 村に4人のローマ在住の実業家が200haの土地を購入しました。ボルドーのシャトー・ムートン・ロートシルトで醸造責任者を務めたパトリック・レオンを迎え入れ、ブドウとオリーブの栽培を始めたのがカンティーナの始まりです。1982年、二代目エノロゴとしてスカウトされたMarco Pallanti マルコ・パッランティの手腕が世のワインラヴァーを驚かせたのが、'91年に行われたブラインド・テイスティングで、メルロー100%からなる「Vigna l'Apparita ヴィーニャ・ラッパリータ」'87(→オフヴィンテージである)が、ボルドーの最高峰メルロー「ch Petrus シャトー・ペトリュス」の優良ヴィンテージ'88を破ったことでした。後にトスカーナでは、他の作り手が「Redigaffi レディガッフィ」pallantielorenza.jpgや「Masseto マッセト」、「Messorio メッソリオ」といったモンスターメルローを排出することになりますが、カステッロ・ディ・アーマでは、主力のキアンティ・クラシコを補完する品種として植えたに過ぎないといいます。

【Photo】Castello di Ama のエノロゴ、マルコ・パッランティ氏とカンティーナのオーナーの一人で妻のロレンツァ。パッランティ氏は2003年「ガンベロ・ロッソ」の最優秀エノロゴに選ばれ、'06年からはキアンティ・クラシコ協会の第12代会長に就任した

 イタリアの名醸地でも、北のピエモンテではブルゴーニュ同様、畑の区画ごとの特徴を表現した「クリュ」(イタリア語では「Sottozona ソットゾーナ」、ピエモンテ方言で「sorì ソリ」と言う。かのGAJAの名高い畑指定バルバレスコ、sori San Lorenzo,sori Tildin の名に使われている)の概念に基づく畑の名前が付いたバローロやバルバレスコが数多く造られています。しかし、トスカーナを代表する産地のキアンティ・クラシコでは、そういったクリュの名前が付いたワインは前出のMelini が先駆けとされますが、あまり造られていません。カステッロ・ディ・アーマでは、一般的なRiservaは生産せず、作柄の良い年にのみ「Bellavista」と「La Casuccia」のクリュワインを造っています。これはかつて法定熟成期間が36ヶ月とされたRiserva の長い樽熟期間によって、ブドウの個性が失われてしまうリスクを嫌ってのことだそう。多くの場合、同じ生産者でも品質の良いブドウはRiservaとなるか、カベルネ・ソーヴィニョンやメルローなどの国際品種と呼ばれるブドウの混醸比率を高めたり、自由な発想による醸造法を取り入れて国際市場で高い評価を得た「スーパー・トスカーナ」としてリリースされました。70年代に始まった「Tignanello」や「Sassicaia」の成功がその動きを決定付けたのです。確かにそういった一連のワインの登場は、ワイン産地としてのトスカーナの名声を押し上げるのに一役買ったのは事実。しかしCastello di Amaは、カルトワインのVigna l'Apparita を看板にするのではなく、あくまでもトスカーナの風土と伝統に沿ったワインに活路を求めてゆきました。
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【Photo】9612本目の瓶詰ロットであることを表す刻印がなされたChianti Classico Vigneto Bellavista '90 のエチケッタ。DOCG名のChianti classico よりも作り手の名前Castello di Ama と畑の名前が大きく記され、作り手の誇りと自信が伺える

 かつては「Vigneto San Lorenzo サン・ロレンツォ」と「Beltinga ベルティンガ」の二つのクリュワインを造っていたカステッロ・ディ・アーマでは、その区画のサンジョヴェーゼの樹齢が上がってきた'90年にレギュラークラスのChianti classico の醸造用にそのブドウを使うため、後者ふたつのクリュを廃止しました。その結果、サンジョヴェーゼ種にマルヴァジア・ネロ種を15%ブレンドし、スパイシーで収斂性が強い良質なタンニンを備えた「Bellavista ベッラヴィスタ」('78年初リリース)と、メルローを15%ブレンドして鉄分と共に柔らかさを備えた「La Casuccia カズッチャ」('85年初リリース)の二つにクリュを絞りました。bellavistabicherre.jpgその背景には、同じサンジョヴェーゼのクローン種サンジョヴェーゼ・グロッソ(ブルネッロ)種から醸す「Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」と並んでトスカーナを代表する赤ワイン、キアンティ・クラシコの底上げを図るというアーマの思いがあったのです。その決断から9年を経た'99年産のキアンティ・クラシコが、ガンベロ・ロッソで最高評価のトレ・ヴィッキエーリを獲得したのです。

【Photo】グラスのエッジに熟成による明るさが見て取れるが主調は濃いガーネット。エキス由来の粘性もまだ高いベッラヴィスタ'90

 5年ほど前に飲んだベッラヴィスタ'93に比べてヴィンテージに恵まれた'90もさすがに収穫後18年を経て、抜栓直後から香りが立ちはじめますが、本領発揮は1時間近く経って香りが開いてから。ビシっと目が詰まった密度の高さと高貴さを兼ね備えた充分なボリューム。熟成により丸みを帯びたタンニンが心地よく感じられます。湿った落ち葉や微かな動物香などの複雑味も文句なし。サンジョヴェーゼの美点である果実由来の活き活きとした酸味が芯にしっかりと感じられます。熟成のピークに差し掛かりつつあるものの、まだ10年以上は熟成による向上を維持しそう。抜栓後、バキュバンをして数日に分けて飲みましたが、2-3日後が最もシルキーかつ高い次元で味わいのバランスの良さが感じられ、さすがというポテンシャルの高さを見せてくれました。

 このベッラヴィスタ、1995年からは極端に生産本数を絞り、価格もリリース時点での小売価格が15,000円以上と跳ね上がってしまいました。5,000本程度が良年のみの生産ということもあり、レア度は増すばかり。既にミラノのPECKで入手済みの'97年以降は、'99年・'01年・'04年と生産され'06年も生産予定とのこと。いずれもトスカーナのグレートヴィンテージ。今のうちに一本入手して、何年か後に至高のキアンティ体験をしてみてはいかがですか?

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