あるもの探しの旅

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春の雪

「わた雪」は春の淡雪さながら

 東京ではソメイヨシノが満開だという便りが伝わる弥生3月も残すところあと僅かとなりました。とはいえ仙台では冬の名残りの寒い日がここ数日続いています。そんな三寒四温の季節にふさわしい酒を頂きました。

 旧奥州街道を仙台から北に向かって二つ目の宿場町が「富谷宿」。1618年(元和4年)の開宿以降、宿場町の事務・治安管理を任された町役人「検断」を代々勤めたのが内ヶ崎家です。1661年(寛文元年)に内ヶ崎作右衛門が創業したのが「内ヶ崎酒造店」。今年で347年目を迎える宮城県内随一の長い歴史を刻む蔵元です。本家筋の儀左衛門は代々造り酒屋を営んできました。

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 酒の仕込みが行われる季節限定でほんの僅かの本数だけ作られている酒が純米吟醸 鳳陽「わた雪」です。"作られている"と言ってはみたものの、正確には、この酒は作ろうという意図のもとで確実に醸せる酒ではありません。吟醸クラス以上の高級酒用に磨いた酒米を仕込んだ醪(もろみ)を酒粕と酒に分離させる上槽の際、槽(ふね)で搾ったばかりの新酒にはわずかに濁り成分が含まれます。酵母が分解した米と酵母の残滓からなる澱(おり)は、やがてタンク内に沈殿してゆきます。澱の量は搾ってみなければわからず、ほとんどオリが出ない場合もあるのだといいます。そのため、もともと希少な吟醸用タンクから四合瓶で10本もとれないことがほとんどで、極めて希少な酒といえるでしょう。

 今回は、蔵元の妹・内ヶ崎みちさんのご好意で、希少な酒を2本確保できました。バックラベルには精米率45%とあるので、大吟醸クラスの醪から搾ったものです。一本は"袖の下"として店に寄贈した上で、美味しい料理と共にせっかくの美酒を楽しもうと友人と画策。そんなワガママを聞いてくれたのが、仙台のイタリアン「Francesca フランチェスカ」のオーナー鳥山さんでした。パスタとピッツァだけではない良質なイタリア料理の真髄を豊富なラインナップのワインと共に提供していた「Vino il Salotto ヴィーノ・イル・サロット」を一旦閉店。充電期間を経て昨年10月に開店したフランチェスカでは、仙台から青森・津軽までのおよそ310km もの移動を全く厭わせない本場と見まごう完成度のFormaggio(=チーズ)やProsciutto(=生ハム)をはじめとする絶品の"自給自足イタリアン"を食べさせてくれる弘前の「Osteria Enoteca Da Sasino オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」笹森シェフのもとで修行した原田シェフが腕を揮っています。

 魚介中心に料理はお任せ。繊細な味付けのイタリア料理と鳳陽 わた雪を共に楽しみました。蔵元では、わた雪を「うすにごり」と規定していますが、ワインクーラーで冷やしたわた雪の瓶を静かに揺らしてみると、にごりが思いのほか強いように映ります。火入れ前で酵母が生きているため、watayukibiccheri.jpg 瓶詰め後10日以内に飲み切らなければならないという点も春の淡雪を連想させますね。口に含むと、まず軽く炭酸ガスを感じます。大吟醸もろみの繊細な透き通った甘さが口腔に広がり、ピチピチとした発泡感とともに心地よい余韻を残します。それが消え行くさまは、まさしく春の雪。

 その夜、自宅に持ち帰ったグラス一杯分のわた雪を飲み直しました。日持ちがしない淡雪のような酒だけに、早く飲み切ったほうが良いはずと、ほろ酔いの頭で考えたからです。ヴェネツィアン・グラスの明かりにわた雪をかざしながら改めて一口。
「うまっ!」と、思わずつぶやくのでした。


純米吟醸 鳳陽「わた雪」 
※期間限定・電話注文のみ
問:合資会社 内ヶ崎酒造店 TEL022-358-2026

  http://uchigasaki.com/H20feb.html

 

 

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