あるもの探しの旅

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2008/05/19

食料自給率100%のレストラン

行くべし弘前!! 「ダ・サスィーノ」

Cellar2007.8.jpgAntipastimisti2007_10.jpg【photo】クオリティの高いイタリアワインが揃うダ・サスィーノの「ワインセラー」兼「自家製食肉加工品熟成庫」兼「自家製チーズ熟成庫」兼「その他もろもろ実験室!?」

 味を追求し安全で美味しい素材の調達のために信頼の置ける農家と契約するだけではなく、自身で畑を持つ料理人が最近では珍しくなくなってきました。私が「食WEB研究所」の「飲食店ブログ」にお招きした仙台市太白区向山にあるイタリアン「AL FIORE アル・フィオーレ」の目黒シェフのように、自ら畑に足を運んで無農薬自然栽培や有機栽培で育てる野菜類だけでなく、生ハムなどの食肉加工品まで自作してしまう料理人も登場しています。

【photo】ベストマッチな自家製イチジクとともに味わう自家製ハム類7種(右写真)

 しかしながら"餅は餅屋"と言うとおり、畑仕事は作物と常に向き合う農家の野菜や果物にいささか分がありそうなのもまた事実。日本在来の野菜は別にして、西洋野菜や生ハム類を気候風土が異なる日本で作ると、どうしても本場とは風味が異なる仕上がりになりがちです。特に、20ヶ月前後の熟成期間を要する生ハムのような食肉加工品を湿度が高い日本で自家製造するには、雑菌の繁殖を抑える細心の注意と加工技術が必要となります。

FormaggiSasamori2007_10.jpg

【Photo】自家製チーズを切り分ける笹森シェフ

 地方にある飲食店が進む一つの指針を示してくれる1軒のレストランが青森県弘前市にあります。イタリアンレストラン「Osteria Enoteca Da Sasino オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」。オーナーシェフの笹森 通彰(みちあき)さんは、1973年(昭和48)岩木町(現弘前市)生まれ。仙台・東京・イタリアでの数年間の修行を経て、郷里の弘前に戻ったのが2003年(平成15)。弘前大付属病院前の路地を入ってすぐの場所に現在の店を開いたのが同年8月。スタート当初は、笹森さんが修行中に口にした本場イタリアの輸入食材を使った本格イタリアンを志向しましたが、弘前ならではの特色を打ち出せずにいたそうです。その頃、かつて笹森さんが修行した仙台のイタリアン「Vino il Salotto」(当時)のオーナー鳥山さんから、「ウチにいたヤツが祖父母がやっている畑のある郷里で店を出したから、行ってみて」 と誘い水をかけられていました。その年の夏といえば、今でこそ「食の都 庄内」と呼ばれるものの、当時はその価値が全く認知されていなかった彼の地の凄さに開眼した頃。Formaggi2007_10.JPG当時はまだ無名ながら無類の輝きを放っていた鶴岡「アル・ケッチァーノ」と、店を支える珠玉の素材を提供する生産者の取材のため、仙台から足が向くのは月山の先ばかり。昨年の夏まで弘前へは、ついぞ向かわずじまいでした。

【photo】白カビ系から黒カビ系・青カビ系、セミハードタイプとさまざまな自家製チーズと付け合せの自家製モスタルダ

 そんな私がダ・サスィーノ初見参を果たしたのは2007年(平成19)8月のこと。TBS系全国ネットの某TV番組放映後、それまで毎月複数回のハイペースで訪れていたアル・ケッチァーノが迷走し、私の足がそこから遠のいていた時期でした。ランチを"フレンチの街 弘前"が誇る名店「レストラン山崎」で頂き、その足で向かったのが、病害虫に弱いリンゴを「奇跡」といわれる自然農法で栽培する弘前のリンゴ農家、木村 秋則さんのもとでした。このとき畑で2時間じっくりと伺った木村さんの今日に至る波乱万丈な逸話は機会を改めて〈Link to back number〉。

 その夜に出合ったダ・サスィーノ 笹森シェフの自給自足への取り組みと、運ばれてくる料理が私に与えた驚きは予想をはるかに超えるものでした。以降、木村さんのリンゴがたわわな実を結んだ10月と、冬を挟んで可憐なリンゴの花が咲き揃った今年5月にも畑の様子を確かめながら、ダ・サスィーノに通いつめるまでに。アルファ・ブレラを駆って片道310kmの移動を厭わせない理由とは・・・。

Antipastimisti2007_8.jpg【photo】2007年8月、初めて店を訪れた際に「イタリア本国で食べるプロシュット類と変わらぬ美味さでこりゃイケル!」と舌を巻いたフィノッキオーナやソプレッサータ、コッパ、バルバリー鴨の生ハム、プロシュット・クルードといった全て自家製によるハム各種とお約束の組み合わせのマスクメロンもまた自家製。いやはや恐れ入りました(左写真)


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【photo】ピエモンテ州の優良カンティーナ「Braida ブライダ」のオーナー、ラファエッラ・ボローニャ女史から開店記念に贈られたという同醸造所のフラッグシップ・ワイン「Bricco dell'Uccellone ブリッコ・デルッチェローネ」の3 リットルボトルの木箱に納まる自家製プロシュット・クルードはこのとき熟成22ヶ月目。こうしてブロックが客の前でスライスされる(右写真)

 笹森さんの転機となったのは、食肉加工技術が高度に発展したイタリアで習得した技術を遺憾なく発揮して作るProsciutto プロシュット(=生ハム)などのハム作りでした。フェンネルの芳香が心地よいキアンティ地方のサラミ「Finocchiona フィノッキオーナ」や、甘味のある豚の首肉を使う「Coppa コッパ」、塩とハーブで下処理した豚モモをスモークする北イタリアのアルト・アディジェ地方発祥の「Speck スペック」、頭の部位を使い、コリコリした食感が楽しめる「Sopressata ソプレッサータ」などの材料には、地場産の黒豚や隣町の鯵ヶ沢「岩木山麓いのしし牧場」で飼育される絶品のイノシシ、青森産のバルバリー鴨などを使います。それらの素材を加工して作る非加熱のプロシュット・クルードや Lardo ラルド(=脂身を加工・熟成させたもの)は、いまや本場モノと見まごう完成度であることは、口にすればお分かり頂けるはず。アンティパストでブロックから切り立てで提供されるそれら鮮度抜群の自家製ハムやラルドは、スライスしてから時間が経過した輸入物のパック詰め生ハムなどとは比較にならない風味のよさ。地場産シャモロックのレバーをTerrina(=テリーヌ)にして、陰干しブドウで造られるイタリアの極甘口ワイン「Vin santo ヴィン・サント」で風味付けした甘美な一品に至っては、悶絶すること請け合い。
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【photo】大鰐産シャモロックレバーのパスティッチョ・ヴィンサント風味

 地元で飼育されるジャージー種の牛乳を使って仕込むゴルゴンゾーラやカマンベールなどのチーズ類は、凝固剤をイタリアやフランスから取り寄せて作ります。相当のヴィーノ好きであることが伺えるイタリアワインのセレクションが眠る店内のワインセラーで熟成されるこれらのチーズも、熟成が進んで食べ頃を迎えたものが提供されます。弘前市街を望む岩木山の裾野にある実家の畑で育てる野菜や果実はおろか、イタリアの代表的なワイン醸造用ブドウであるネッビオーロやサンジョヴェーゼほか数種のブドウも栽培。自宅で飼育するウコッケイの卵や蜂蜜、アンチョビに至るまで、店で使う素材は自家調達のほか、青森原産の優れた食味をもつ地鶏「シャモロック」や、近海で揚がる魚介類を含めて地元産がほとんど。味に妥協を許さない笹森さんは、地元産の素材のほかに脂と赤身の食味が良い島豚「アグー種」を沖縄から取り寄せたり、日本中のグランシェフがこぞって使う山形・庄内町にある「スパール」の山澤 清さんが日本で唯一飼育するピジョン鳩なども使用しています。

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【photo】カボチャのトルテリーニ・セージとケシの実ソース ズッキーニの花フリット添え

 詰め物をした「Tortellini トルテリーニ」や太めの平麺「Pappardelle パッパルデッレ」、トスカーナ州シエナのパスタで、うどんのような食感が面白い「Pici ピィチ」などの手打ちパスタ類がラインナップされ、充実したプリモピアットも楽しみのひとつ。徹底した自給自足への取り組みは、店の背景となる広い畑と、発酵食品類なら何でも手作りしてしまう店内のワインセラー兼熟成庫を舞台に発揮される飽くなき探究心があって初めてできること。なかば本気で素材の自給率100%を目指すと決意を語ります。自宅の周りにある畑と店内の熟成庫でおおかたの素材を調達してしまうゆえ、恐らくはフードマイレージazienda_sasamori.jpgが日本一低いであろうダ・サスィーノ。最近ではユニークな笹森さんの仕事ぶりがメディアに取り上げられることが増えてきました。そんな状況下にあって、こうしてご紹介するのをちょっと躊躇しましたが、地方ならではのアプローチで頑張っている姿にエールを送りたいと思います。

【photo】畑の一角ではサンジョヴェーゼなどのイタリア品種をメインにブドウの木が育つ。ワイン醸造免許取得のための準備も怠りない。左奥のハウス内では、オリーブやLimone(レモン)Calciofi(アーティチョーク)なども栽培する

 今回も満ちたりた時間をくれたダ・サスィーノを振り返ると、外壁に掛かるテラコッタ製のバッカスが笑顔で見送ってくれました。

Entorata2008.5.jpg
 
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Osteria Enoteca Da Sasino
オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ

弘前市本町56-8 グレイス本町2F
PHONE:0172-33-8299
URL: http://www.dasasino.com/
日曜定休 / 営 11:30-13:30(L.O.) 18:00-21:00(L.O.) 

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2008/05/10

タケノコ取物語@丸森

これぞ雨後のタケノコ。
タケノコ山はザックザックの大豊作っ!

 初夏の陽気と快晴に恵まれた連休最後の5月6日。眼前を阿武隈川が滔々と流れる丸森町耕野(こうや)地区を訪れました。川沿いから山あいにかけて孟宗竹の林が広がるその地は、宮城県内最大の孟宗筍の産地です。
kouya_abukuma.jpg

【photo】 阿武隈川沿いから山あいにかけて孟宗の竹林が広がる丸森町耕野地区

 この地に孟宗竹がもたらされたのは、宝暦から明和年間にかけての1760年代とされます。伊達政宗の家臣、中目六左衛門安定(なかのめろくざえもんやすさだ)が、政宗が豊臣秀吉から拝領した近江国(現在の滋賀県)の代官として赴任。そこで目にした孟宗の美林に惹かれた安定が、二株の孟宗を仙台城に持ち帰りました。当時の耕野地区一帯は仙台藩の直轄領だったため、苗字帯刀が認められた住民たちは「勤番」と呼ばれる城勤めが課されていました。恐らくは城内に参内した勤番がこの地に孟宗竹を持ち帰ったのでしょう。こうして県内で最も温暖な丸森の耕野地区一帯に孟宗竹は広がってゆきました。

 設立33年目という「耕野たけのこ生産組合」が主催するタケノコ狩りは今年で22年目。旬の恵みを朝採りで頂こうと9時50分の集合時間に集まったのはおよそ100人。定員を20人以上もオーバーする盛況ぶりでした。組合の広報担当・八島 哲郎さんによれば、仙台をはじめとする宮城からの参加者が7割、福島2割、その他岩手・山形・首都圏takenokokaido.jpgからの参加者が1割といった按配だそう。鮮度が命ともいえるタケノコ。食味に優れる孟宗筍を掘りたてで味わえるとあって、この組合主催のタケノコ狩りを毎年楽しみにしているリピーターが多いとのことでした。昼食とお土産のタケノコの水煮・飲み物が付いて参加費は大人3,300円、小学生2,000円(土産なし)。収穫したタケノコは、直近の卸価格(1kg300円~400円程度)で買い求めることが出来ます。旬真っ盛りのこの日はキロ当たり250円という買取価格でした。

【photo】「たけのこ街道」のロードサインが立つR349 耕野地区。阿武隈川沿いを2kmも上流に向かって走れば、もうそこは福島県梁川町


sig_yatsu.jpg私がタケノコの美味しさに目覚めたのは、例によって山形県庄内でのこと。湯田川周辺と滝沢地区・谷定地区ら、いずれ劣らぬ孟宗の名産地で採れるキメ細やかな絶品のタケノコとの比較を兼ねて参加しました。隣接する福島県梁川町まで阿武隈川沿いに延びるR349 (通称「たけのこ街道」)を12 km ほど走ることしばし。産直施設「あがらいん伊達屋」を過ぎるとすぐ右手にある集合場所、「耕野ふるさと交流センター」に着きました。8名の生産者からなるという組合に所属する生産者が所有する竹林3箇所に分かれて、マイクロバスでいざ出発。案内されたのは、耕野地区の山あいに竹林を所有する谷津 友儀(ともよし)さんのもとでした。

【photo】 タケノコ採りのコツを伝授いただいた谷津 友儀さん(右上) 来年は展望台も作りたいという谷津さんの竹林(下)

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 施肥や間引きなどの手入れが行き届いた谷津さんの竹林には、5年目前後の青々とした立派な孟宗竹が生えています。長靴に履き替えて、鍬(クワ)を片手に山へと足を踏み入れると、地表から頭を出した孟宗がニョキニョキ。前夜に降った雨と、この日の好天によって、タケノコ狩りには最高のコンディションに恵まれたようです。タケノコの見立ては庄内で培った経験があります。お目当ては葉によって日光が遮られる湿度を含んだ土壌に育つメタボな(?)孟宗筍。いやはや、あるわあるわ。これぞ! というタケノコに目をつけると、鍬を入れて親竹から伸びる地下茎を探り当てます。タケノコ採りの名人揃いでもある組合加盟の生産者が丁寧に掘りかたを指導してくれるので初心者でも安心です。

dig_it.jpg 仙台から訪れたという小学5年生の女児も果敢に初めてのタケノコ採りに挑戦していました。傷をつけぬよう慎重に掘ってゆき、赤い斑点がある根元が見えたところで生え方の向きを確認、一気に鍬を振り下ろすと、ヘイ、一丁上がり。採れたてのタケノコを逆さまにすると、産毛で覆われた茶褐色の皮の隙間からポタポタと水が滴り落ちてきます。その水を口に含むとほのかな甘味が。

【photo】 ヨイショ! 樹齢5年という立派な孟宗竹の根元近くに生えたこれまた立派なタケノコ

 山の斜面を物色しながら、およそ一時間で収穫したのは、5本の大きな孟宗筍しめて10kg。谷津さんも「いいですよ、これは」と太鼓判を押してくれました。掘りたてのタケノコを生で噛り付くと、シャキシャキした歯ごたえと、みずみずしい青リンゴのようなほのかな香りがします。「生のまま薄切りにして砂糖醤油で採れたての味を確かめてみて下さい」という谷津さんによれば、小ぶりなものよりも30cmほどのタケノコが食味が良いとのこと。実はそれ以上伸びてしまい、節が立って"竹の子"と呼ぶには躊躇するような1mあまりに伸びた孟宗筍も、輪切りにして味噌汁の具にすれば美味しく頂けます。形状が名前の由来と思われるこの「眼鏡汁」を教えてくれたのは、鶴岡・湯田川温泉の旅館「ますや」の料理達者な大女将、忠鉢 泰子さんでした。庄内の郷土料理「孟宗汁」の達人でもある女将が白味噌と酒粕でじっくりと煮込んだとろとろの孟宗汁がこの季節食べたくなるのは庄内系なるがゆえの性(さが)。おっと今回は庄内ネタじゃなかった・・・。

takenoko_pranzo.jpg【photo】 産地ならではのふんだんにタケノコを用いた昼食

 再びバスで集合場所の耕野ふるさと交流センターに戻って、昼食タイムとなりました。朝8時に集合したという地区の女性たちがこの日用意した心づくしの料理は、短冊に切った孟宗筍がたっぷりと入った味噌汁、筍の炊き込みご飯、酢味噌で和えた筍の刺身、こごみやタラの芽などの山菜と筍の天ぷら、醤油で甘辛く煮付けた筍、ホウレンソウと山椒・味噌をヌタ状にした筍の木の芽和え。そして「かまぼこの鐘崎」が月替わりで旬の県産食材を使用した「笹ごよみ」シリーズの人気商品、「丸森のたけのこかまぼこ」というタケノコ尽くしの昼食。あー、お腹いっぱい。

kouya_mousoujiru.jpg【photo】庄内地方の郷土料理「孟宗汁」。一晩置いた二日目以降のとろりとした食感が病み付きになる(下)

 常温では味を損ねるので、保冷材の入ったクーラーボックスで自宅に持ち帰ったタケノコを早速調理しました。一つは大ぶりに乱切りした孟宗筍にシイタケや厚揚げを加えて白味噌と酒粕で味を調えて煮込む庄内の郷土料理「孟宗汁」。薬味に山椒の葉を載せて頂きます。下茹でした丸森の孟宗筍は、庄内産孟宗と比べて柔らかくなるのが幾分早いようでした。茹で汁自体が美味しいダシになる谷定などの庄内孟宗とも味や香りの出方が違うようです。食に関してはイタリア人と同じ発想をする私にとって、"料理と酒は切っても切れない関係"にあります。同郷の相性が悪かろうはずがありません。そこで選んだのが、生態系が維持され、おのずと健康な土壌環境が生まれる冬季冠水田で栽培された有機米ササニシキを酒米として100%使った「一ノ蔵」の意欲作「ふゆみずたんぼの酒」。宮城県の食材には宮城の酒を合わせるのですよ、いくら庄内系でも(^0^;

grande_takenoko.jpg【photo】この日収穫した孟宗筍のなかでも大物の一本。ちなみに「ふゆみずたんぼの酒」は四合瓶。一升瓶ではありません。大きさからすれば当たり前か・・・(笑)

 もう一品はダイスにカットした孟宗筍を下茹で汁と野菜ダシで作るリゾット。白味噌と酒粕少々を隠し味に、パルミジャーノ・レッジャーノチーズをおろしてコクと深みを出す鶴岡「アル・ケッチァーノ」奥田シェフのレシピを拝借しました。こちらも薬味に山椒の葉を使います。ご本家の人気メニューである孟宗のリゾットよりも、淡白な仕上がりになったのは、タケノコの持ち味の違いによるものでしょう。こうした素材の差異が鮮明に感じられたのはイタリアンならではの醍醐味です。酒田市八幡地区から汲んで来た「湯の澤霊泉」の軟水で煮込んだリゾットに使用したのは、北イタリア産のRiso リーゾ(=米)、カルナローリ米ではありません。庄内系に変異した2003年(平成15)から、La Terra e il Cielo や DE CECCOのパスタと並ぶ我が家の主食の定番は、鶴岡市藤島地区の専業農家、井上 馨さん・貴利さん親子のコメです。

risotto_nussubaumer.jpg【photo】 孟宗汁をイタリアナイズした孟宗筍のリゾット。Not al.che-cciano but 我が家

 豊かなブナの原生林が広がる月山山系の出羽丘陵に源を発する梵字川(ぼんじがわ)と京田川(きょうでんがわ)の滋養豊富な水を引いて米作りをしている井上さん。農協に依存する従来の米作りではなく、トマト・小松菜などの転作作物を含めて自立した農業を目指した井上さんは、自前の精米・低温保管施設を地域でいち早く導入。抗生物質を与えていない希少な鹿児島の養鶏場から鶏糞を取り寄せ、土作りから食べる人の安全と食味の良さの両立を目指しています。そんなエコファーマーである井上さんのもとを訪れた昨年夏、炎天下汗まみれになって酢や木酢液を希釈した害虫忌避剤を人力で散布しておられる姿を目にして、改めて頭の下がる思いがしました。粒の揃った「はえぬき」や「コシヒカリ」「ひとめぼれ」など、いずれも食味の良さは過去幾多の受賞暦でも折り紙付き。 2007年に庄内町で初めて開催された「あなたが選ぶ日本一美味しい米コンテスト」に出品した井上さんのコシヒカリは、日本全国から応募のあった269件の中から30件だけが選ばれた決勝へ進出、見事入賞を果たされました。

 本来は銀しゃりで頂くのが最高に美味しい井上さんのはえぬきを、孟宗入りの和魂洋才なリゾットに仕上げました。アルプスの山並みを映す水田が広がる北イタリア・ピエモンテ州やロンバルディア州が本場となる米料理に合わせたのは、同じく北イタリアは南チロル地方、アルト・アディジェ州のヴィーノ・ビアンコ「Nussbaumer ヌッスバウマー'06」。最高のコメには至高のヴィーノでなければ釣り合いません。地元Termeno sulla strada del vinoテルメーノ・スッラ・ストラーダ・デル・ヴィーノ(ドイツ語表記ではTramin an der Weinstraße トラミン・アン・デア・ヴァインシュトラーセ)のブドウ生産者290軒が加盟し、秀逸なヴィーノを生産する1898年創立の組合組織「Tramin トラミン」のフラッグシップとなる一本です。はっきりとしたライチやピーチのニュアンスを感じる個性的な芳香のワインに仕上がるブドウ品種Gewürztraminer ゲヴルツトラミネール種を用いたワインでは、イタリアのみならず世界の頂点にあると言って差し支えないでしょう。日本ではフランス・アルザス地方のイメージが強いブドウですが、実はドイツ語読みのTraminから察しがつくように、この村こそが原産だとされます。地元では「Traminer Aromatico トラミネール・アロマティコ」とも呼ばれるこのブドウの醸し出すフローラルなアロマと、冷涼な北イタリアらしい酸味が長い余韻とともにデリケートな孟宗筍といつまでも共鳴しあうのでした。

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耕野たけのこ生産組合
TEL / FAX 0224(75)2569 (「やしまや」内)
HP / http://www008.upp.so-net.ne.jp/yashima/
Eメール / yashima@ka2.sonet.ne.jp
今年は既に4回のタケノコ狩りツアーを終了、今後は5月10日(土)・11日(日)、17日(土)・18日(日)に開催。要・事前予約。阿武隈急行あぶくま駅より送迎バスあり

組合の広報担当 八島哲郎さんからのメッセージ
 「ご参加いただいた皆さんから、耕野のタケノコを食べるようになってから『今まで食べていたタケノコは何だったのか?』というコメントをよく伺います。参加いただいた皆さんは、ほとんどがリピーターになって頂けます。あなたもぜひそうした"耕野タケノコ依存症"になってください(笑)」


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2008/05/09

さようなら、レヴィさん

天に召された天使のようなグラッパ職人

イタリアから悲しい知らせが届きました。

 Addio a Romano Levi, il grappaiol' angelico (=さようなら、天使のようなグラッパ職人 ロマーノ・レヴィ)の見出しで始まる記事でその人の死を伝えたのは、トリノの日刊紙「La Stampa ラ・スタンパ」。同紙が伝えるところによると、2008年5月1日(木)、ユーモラスで温かみのある手書きラベルのグラッパ造りで世界中に多くのファンが存在するRomano Levi ロマーノ・レヴィさんがイタリア・ピエモンテ州ネイヴェの自宅で急逝しました。享年80歳。

 レヴィさんはイタリアで唯一残るとされる直火式蒸留装置でワイン醸造に使用したブドウの絞りかす「ヴィナッチャ」から蒸留する酒、Grappa グラッパを60年以上に渡って作り続けてきました。時流に流されること無く、唯一無二なグラッパ造りに生涯を捧げ、詩人とも芸術家とも称えられたレヴィさんを慕う人は数多く、ファンクラブすら存在します。

 高齢のため、ここ2-3年は体調が優れず、トレードマークでもある詩的な手書きラベルを描くことがままならなかったレヴィさん。敬愛するレヴィさんのもとを2年前の10月に訪れ、ご本人とお会いする機会に恵まれました。ご挨拶をさせて頂いた際に触れたその人の手のぬくもりと柔らかな感触は、今も手に残っています。〈2007.6 拙稿「伝説のグラッパ職人、ロマーノ・レヴィ~天使のグラッパ職人は生き仏だった」参照〉 その折に頂いた私の名前入りドンナ・セルバティカのラベルをまとった文字通りハンドメイドなグラッパに至っては、開けるのが余りに勿体なく、ただ眺めるだけでした。

addio_romano.jpg【PHOTO】 虫や花、ブドウ、星、太陽などさまざまなものが登場するレヴィさんの手書きラベル。過去に数冊の画集が出版され、昨年はラベルの展覧会も催された。 ラベルに私の名 Kimura とコレクターの間では最も人気が高い「Donna Selvatica ドンナ・セルヴァティカ」が描かれたレヴィさんから頂いた世界で一本だけのグラッパ(右)と、自身の投影だという「Uomo Selvatico ウォモ・セルヴァティコ」が描かれたグラッパ(左)

 楽しげなラベルを描き続けたレヴィさんがいなくなってしまった今。天に召された故人のご冥福を祈りつつ、手持ちの一本を開けて、しみじみと味わうとしましょう。 献杯。 

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2008/05/03

うまっ!! 短角牛

短角牛一筋。熱い男の手ごねハンバーグ

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【Photo】岩手県久慈市にある「久慈市短角牛基幹牧場(通称:エリート牧場)」で。60ヘクタールにも及ぶ広大な放牧場でのんびりと草を食む短角牛たち

 思わず「うまっ!!」と口をついて出た「ウシ」の肉。そんなギャグはサラリと流してお付き合いのほど...(^0^;

 味を感知する舌の表面にある器官「味蕾(みらい)」の数が、およそ四万個まで増えて、人間に備わる五感のひとつ「味覚」が形成されるのは10歳前後の児童期とされます。加齢とともに味蕾は数が減ってゆき、成人では八千個が平均だといわれます。昨今、味を感知できない味覚障害の子どもが増加したことで、幼児期に味覚のトレーニングを積むことの大切さが改めて指摘されています。甘味・辛味・酸味・苦味・塩辛味と、古来より中国で分類された「五味」に加え、昆布やカツオなどのダシが生み出す「旨味」を感じる日本人の繊細な味覚を是非とも子どもたちに育みたいものですね。

 いわゆる"キレやすい"子どもやアレルギー体質の子どもの増加を見ても、毎日の食事を通して体内に取り込まれる化学物質が、遺伝子レベルを含めて人間に何ら悪影響を及ぼさないと言い切ることができるでしょうか?そのためには、スナック菓子やインスタントラーメンなどに使用される化学調味料と、市販の加工食品で多用されるタンパク加水分解物や防腐剤などの食品添加物の弊害から子どもたちを遠ざけなくてはなりません。 食にまつわる不安が増す時代だからこそ、子どもには良質で安全な食べ物を選びたいと思うのが親心。
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【Photo】牛舎で干草やサイレージなどを与えられ肥育中の短角牛

 子どもが好きな料理といえば、寿司、カレー、ハンバーグが定番です。食べ盛りのお子さんがおいでの家庭でも、家族で気兼ねなく行ける手頃な値段の寿司店が増え、今や寿司ネタも大方が輸入物に依存しています。

 成長期の子どもにとって良質なタンパク質の摂取は欠かせません。ところが、東南アジアのマングローブ林を伐採し、抗生剤を投与されて養殖されるエビや、不気味な排水を垂れ流しする中国から流れ出る大量の有機塩素系農薬やダイオキシン・水銀など、広く魚介の体内に残留する環境汚染物質も気になります。市販のカレールウには多くの場合、動物由来油脂や化学調味料・乳化剤・香料などが含まれます。

 「お肉大好き!」という子どもが多いなか、スーパーで扱う焼き鳥のは、産地を遡ると多くは劣悪な飼育環境で育つ中国産。BSEや鳥インフルエンザの発生が報告されて以来、食肉をめぐる不安も増大しています。「・・・いちいちそんなことを気にしていたら、何も食べられなくなる。」そんなお母さんたちの声が聞こえてきそうです。便利さと引き換えに失ったものは少なくはない。そんな思いがよぎります。

atsuiotokosasaki.jpg 東北の風土に根ざした健康で良質な牛肉だけを扱う精肉店をご紹介します。日本短角種(短角牛)を専門に扱う「短角考房 北風土」を岩手県久慈市山形町で営むのは佐々木 透さん(43歳)。かつて八戸藩と南部藩にまたがる三陸沿岸から北上産地を抜けて盛岡・鹿角といった内陸を結ぶ山間地を踏み固めて造られた"塩の道" を、塩や米を背に往き来したのが"赤べこ"の愛称で呼ばれた南部牛でした。傾斜地を歩むのに適した丈夫な脚を持つこの荷役牛と、1871年(明治4年)に米国から輸入されたショートホーン種(英国原産の世界三大肉用牛のひとつ)を交配して誕生したのが日本短角牛です。

kitafuudo.jpg【Photo】「北風土」の看板が目印の自宅兼事務所兼作業場「短角考房 北風土」で保冷中の肉を前に立つ佐々木 透さん

 東北の厳しい気候のもと、雪に覆われる冬は牛舎で過ごし、春に親子で山あいの牧草地に放たれて自然放牧で育ちます。夏の間、澄んだ空気と水のもと、広大な放牧地で豊かな牧草を食(は)みながら肥育されます。

 放牧期間中に自然交配がなされ、秋に里に降りる頃には、一回りも二回りも体が大きくなっています。そこでは牛の排泄物が土地を肥やし、牧草が育つ循環型の牧畜が成り立っているのです。この「夏山冬里」飼育によって、短角牛は大自然の中で暑さ寒さと病気に強い健康体に育ちます。こうして幾世代にわたって品種改良を加えられた肉用牛は、1957年(昭和32年)、固有の日本短角種として認定されました。現在、日本で飼育される肉用牛の95%は黒毛和種。霜降り信仰に支配された市場では、短角牛は乳牛並みの値段でしか取引されません。最盛期には300戸の肥育農家で年間4千頭あまりが出荷されていましたが、ここ10年でその数は1/4ほどに激減しています。人為的に網の目のようにサシを入れる霜降りの肉質に仕上げる黒毛和牛全盛の中、消滅の危機にある伝統食品を守る「味の箱舟」を推進するスローフード協会は、日本短角種をプレシディオ 〈注〉に指定しています。
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【Photo】。短角牛は温和な性格で人なつこい。牛舎で飼われる牛たちは、アポなし訪問者であるこちらに興味津々の様子で顔を出してきた

 短角考房 北風土の佐々木さんは、上質とされる黒毛和牛特有の柔らかさと甘味をもたらすのは、脂肪分だと語ります。ビッシリとサシが入った霜降り牛肉のとろけるような食感は、確かに脂身そのもの。牛舎の中で霜降りに仕上げるのに欠かせない濃厚飼料は、青草を食べる牛にとってハイカロリーなトウモロコシや大豆・油かす・麦などが主原料となります。濃厚飼料は、およそ9割を米国などからの輸入に依存しているのが現状。たとえ食味は優れていても、健康的な牛といえるでしょうか。かたや放牧中は傾斜地を移動しながら自然の青草だけを食べ、冬を越す牛舎では、干草や草を発酵させたサイレージ、デントコーンといった粗(そ)飼料で育つ短角牛。サシがほどんど無い肉質の短角牛は赤身が多く、しかもその肉には旨みの元となるグルタミン酸・アラニン・グリシンなどの成分が、黒毛和牛と比較すると飛びぬけて多いのです。噛み締めると口の中にじんわりと広がる牛肉本来の旨みと甘さ。短角牛は牛肉の美味しさを改めて教えてくれることでしょう。

 佐々木さんは高校時代、大手スーパーの精肉部門でアルバイトを始め、そのまま就職。肉を扱う技術を身に付けました。1995年に地元食材の加工・販売を行う目的で設立された第三セクターの「総合農舎山形村」の設立に協力。そこで短角牛と出合います。安全で美味しい地元原産の短角牛の良さをもっと多くの人に知ってほしいと考えた佐々木さんは、調理師免許を取得。惚れ込んだ生産者と消費者を直接つなぐため、7年後に農舎の職を辞し、2004年(平成16年)4月、短角牛を専門に扱う短角考房 北風土を自宅の裏に立ち上げました。地元の農協からの依頼で、食感を良くするため、肉の繊維に沿った包丁の入れ方や加熱の仕方、部位別の料理法など、短角牛の肉の扱い方を指南することに情熱を燃やす佐々木さん。モモ肉はカルパッチョに、肩ロースネックやスネ肉・モツは煮込み料理に、外モモや肩ロース・ランイチは焼肉やしぐれ煮にと、さまざまなレシピを公開しています。子どもたちが大好きなハンバーグを作り始めたのも、短角牛の美味しさを幅広い人たちに紹介したいという思いから。ミンチにした短角牛に玉ネギ・ニンジン・鶏卵などを加えたハンバーグの美味しさは評判を呼び、今では地元だけでなく、盛岡からも直接買い求めに来る顧客が増えたといいます。

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【Photo】ナイフが不要なほど柔らかいハンバーグからは、切らずとも肉汁が溢れ出る

 昨年10月、放牧地と牛舎をご案内いただくため、佐々木さんのもとを訪れました。短角牛にかける想いを滔々(とうとう)と語る佐々木さん。「熱い人だなぁ」というのが第一印象。BSE騒動以来、子牛の価格が跳ね上がったため、肥育農家の経営を圧迫しているのだそう。ご自宅で民泊を受け入れ、自ら調理した短角牛の料理を遠来の客に振舞っています。訪問を前に、あの感動を再び味わおうとハンバーグを先日注文しました。前回より若干値上がりをしたハンバーグは、1ヶ160gのものが2ヶ入りで900円。

 冷凍状態で届いたハンバーグの肉汁を逃さないため、佐々木さんの指定どおりに冷蔵室で解凍すること丸一日。こんがりとフライパンで焼き目をつけたハンバーグに佐々木さんオススメのニンニクを加えた醤油を加熱した香ばしいタレでハンバーグをほおばると、口の中にはたっぷりとした肉汁とともにふんわりとした肉の旨みが溢れんばかりに広がります。そこで口を突いて出たのが「うまっ!!」の一言。ぜひお子さんにこの短角牛のハンバーグを食べさせてあげて下さい。そして、できることなら人懐っこいこの牛たちが育つ放牧地を見せてあげて下さい。

 山での放牧を再開した短角牛と佐々木さんとの再会を果たすために今月再び久慈を訪れるので、改めて山での放牧の様子をご紹介します。 (⇒※レポートはこちらをClick!)

短角考房 北風土
岩手県久慈市山形町霜畑5-9 電話:0194-75-2370


〈注〉バックナンバー「Terra Madreテッラ・マードレに参加して」文末(注1)脚注参照のこと

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