あるもの探しの旅

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うまっ!! 短角牛

短角牛一筋。熱い男の手ごねハンバーグ

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【Photo】岩手県久慈市にある「久慈市短角牛基幹牧場(通称:エリート牧場)」で。60ヘクタールにも及ぶ広大な放牧場でのんびりと草を食む短角牛たち

 思わず「うまっ!!」と口をついて出た「ウシ」の肉。そんなギャグはサラリと流してお付き合いのほど...(^0^;

 味を感知する舌の表面にある器官「味蕾(みらい)」の数が、およそ四万個まで増えて、人間に備わる五感のひとつ「味覚」が形成されるのは10歳前後の児童期とされます。加齢とともに味蕾は数が減ってゆき、成人では八千個が平均だといわれます。昨今、味を感知できない味覚障害の子どもが増加したことで、幼児期に味覚のトレーニングを積むことの大切さが改めて指摘されています。甘味・辛味・酸味・苦味・塩辛味と、古来より中国で分類された「五味」に加え、昆布やカツオなどのダシが生み出す「旨味」を感じる日本人の繊細な味覚を是非とも子どもたちに育みたいものですね。

 いわゆる"キレやすい"子どもやアレルギー体質の子どもの増加を見ても、毎日の食事を通して体内に取り込まれる化学物質が、遺伝子レベルを含めて人間に何ら悪影響を及ぼさないと言い切ることができるでしょうか?そのためには、スナック菓子やインスタントラーメンなどに使用される化学調味料と、市販の加工食品で多用されるタンパク加水分解物や防腐剤などの食品添加物の弊害から子どもたちを遠ざけなくてはなりません。 食にまつわる不安が増す時代だからこそ、子どもには良質で安全な食べ物を選びたいと思うのが親心。
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【Photo】牛舎で干草やサイレージなどを与えられ肥育中の短角牛

 子どもが好きな料理といえば、寿司、カレー、ハンバーグが定番です。食べ盛りのお子さんがおいでの家庭でも、家族で気兼ねなく行ける手頃な値段の寿司店が増え、今や寿司ネタも大方が輸入物に依存しています。

 成長期の子どもにとって良質なタンパク質の摂取は欠かせません。ところが、東南アジアのマングローブ林を伐採し、抗生剤を投与されて養殖されるエビや、不気味な排水を垂れ流しする中国から流れ出る大量の有機塩素系農薬やダイオキシン・水銀など、広く魚介の体内に残留する環境汚染物質も気になります。市販のカレールウには多くの場合、動物由来油脂や化学調味料・乳化剤・香料などが含まれます。

 「お肉大好き!」という子どもが多いなか、スーパーで扱う焼き鳥のは、産地を遡ると多くは劣悪な飼育環境で育つ中国産。BSEや鳥インフルエンザの発生が報告されて以来、食肉をめぐる不安も増大しています。「・・・いちいちそんなことを気にしていたら、何も食べられなくなる。」そんなお母さんたちの声が聞こえてきそうです。便利さと引き換えに失ったものは少なくはない。そんな思いがよぎります。

atsuiotokosasaki.jpg 東北の風土に根ざした健康で良質な牛肉だけを扱う精肉店をご紹介します。日本短角種(短角牛)を専門に扱う「短角考房 北風土」を岩手県久慈市山形町で営むのは佐々木 透さん(43歳)。かつて八戸藩と南部藩にまたがる三陸沿岸から北上産地を抜けて盛岡・鹿角といった内陸を結ぶ山間地を踏み固めて造られた"塩の道" を、塩や米を背に往き来したのが"赤べこ"の愛称で呼ばれた南部牛でした。傾斜地を歩むのに適した丈夫な脚を持つこの荷役牛と、1871年(明治4年)に米国から輸入されたショートホーン種(英国原産の世界三大肉用牛のひとつ)を交配して誕生したのが日本短角牛です。

kitafuudo.jpg【Photo】「北風土」の看板が目印の自宅兼事務所兼作業場「短角考房 北風土」で保冷中の肉を前に立つ佐々木 透さん

 東北の厳しい気候のもと、雪に覆われる冬は牛舎で過ごし、春に親子で山あいの牧草地に放たれて自然放牧で育ちます。夏の間、澄んだ空気と水のもと、広大な放牧地で豊かな牧草を食(は)みながら肥育されます。

 放牧期間中に自然交配がなされ、秋に里に降りる頃には、一回りも二回りも体が大きくなっています。そこでは牛の排泄物が土地を肥やし、牧草が育つ循環型の牧畜が成り立っているのです。この「夏山冬里」飼育によって、短角牛は大自然の中で暑さ寒さと病気に強い健康体に育ちます。こうして幾世代にわたって品種改良を加えられた肉用牛は、1957年(昭和32年)、固有の日本短角種として認定されました。現在、日本で飼育される肉用牛の95%は黒毛和種。霜降り信仰に支配された市場では、短角牛は乳牛並みの値段でしか取引されません。最盛期には300戸の肥育農家で年間4千頭あまりが出荷されていましたが、ここ10年でその数は1/4ほどに激減しています。人為的に網の目のようにサシを入れる霜降りの肉質に仕上げる黒毛和牛全盛の中、消滅の危機にある伝統食品を守る「味の箱舟」を推進するスローフード協会は、日本短角種をプレシディオ 〈注〉に指定しています。
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【Photo】。短角牛は温和な性格で人なつこい。牛舎で飼われる牛たちは、アポなし訪問者であるこちらに興味津々の様子で顔を出してきた

 短角考房 北風土の佐々木さんは、上質とされる黒毛和牛特有の柔らかさと甘味をもたらすのは、脂肪分だと語ります。ビッシリとサシが入った霜降り牛肉のとろけるような食感は、確かに脂身そのもの。牛舎の中で霜降りに仕上げるのに欠かせない濃厚飼料は、青草を食べる牛にとってハイカロリーなトウモロコシや大豆・油かす・麦などが主原料となります。濃厚飼料は、およそ9割を米国などからの輸入に依存しているのが現状。たとえ食味は優れていても、健康的な牛といえるでしょうか。かたや放牧中は傾斜地を移動しながら自然の青草だけを食べ、冬を越す牛舎では、干草や草を発酵させたサイレージ、デントコーンといった粗(そ)飼料で育つ短角牛。サシがほどんど無い肉質の短角牛は赤身が多く、しかもその肉には旨みの元となるグルタミン酸・アラニン・グリシンなどの成分が、黒毛和牛と比較すると飛びぬけて多いのです。噛み締めると口の中にじんわりと広がる牛肉本来の旨みと甘さ。短角牛は牛肉の美味しさを改めて教えてくれることでしょう。

 佐々木さんは高校時代、大手スーパーの精肉部門でアルバイトを始め、そのまま就職。肉を扱う技術を身に付けました。1995年に地元食材の加工・販売を行う目的で設立された第三セクターの「総合農舎山形村」の設立に協力。そこで短角牛と出合います。安全で美味しい地元原産の短角牛の良さをもっと多くの人に知ってほしいと考えた佐々木さんは、調理師免許を取得。惚れ込んだ生産者と消費者を直接つなぐため、7年後に農舎の職を辞し、2004年(平成16年)4月、短角牛を専門に扱う短角考房 北風土を自宅の裏に立ち上げました。地元の農協からの依頼で、食感を良くするため、肉の繊維に沿った包丁の入れ方や加熱の仕方、部位別の料理法など、短角牛の肉の扱い方を指南することに情熱を燃やす佐々木さん。モモ肉はカルパッチョに、肩ロースネックやスネ肉・モツは煮込み料理に、外モモや肩ロース・ランイチは焼肉やしぐれ煮にと、さまざまなレシピを公開しています。子どもたちが大好きなハンバーグを作り始めたのも、短角牛の美味しさを幅広い人たちに紹介したいという思いから。ミンチにした短角牛に玉ネギ・ニンジン・鶏卵などを加えたハンバーグの美味しさは評判を呼び、今では地元だけでなく、盛岡からも直接買い求めに来る顧客が増えたといいます。

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【Photo】ナイフが不要なほど柔らかいハンバーグからは、切らずとも肉汁が溢れ出る

 昨年10月、放牧地と牛舎をご案内いただくため、佐々木さんのもとを訪れました。短角牛にかける想いを滔々(とうとう)と語る佐々木さん。「熱い人だなぁ」というのが第一印象。BSE騒動以来、子牛の価格が跳ね上がったため、肥育農家の経営を圧迫しているのだそう。ご自宅で民泊を受け入れ、自ら調理した短角牛の料理を遠来の客に振舞っています。訪問を前に、あの感動を再び味わおうとハンバーグを先日注文しました。前回より若干値上がりをしたハンバーグは、1ヶ160gのものが2ヶ入りで900円。

 冷凍状態で届いたハンバーグの肉汁を逃さないため、佐々木さんの指定どおりに冷蔵室で解凍すること丸一日。こんがりとフライパンで焼き目をつけたハンバーグに佐々木さんオススメのニンニクを加えた醤油を加熱した香ばしいタレでハンバーグをほおばると、口の中にはたっぷりとした肉汁とともにふんわりとした肉の旨みが溢れんばかりに広がります。そこで口を突いて出たのが「うまっ!!」の一言。ぜひお子さんにこの短角牛のハンバーグを食べさせてあげて下さい。そして、できることなら人懐っこいこの牛たちが育つ放牧地を見せてあげて下さい。

 山での放牧を再開した短角牛と佐々木さんとの再会を果たすために今月再び久慈を訪れるので、改めて山での放牧の様子をご紹介します。 (⇒※レポートはこちらをClick!)

短角考房 北風土
岩手県久慈市山形町霜畑5-9 電話:0194-75-2370


〈注〉バックナンバー「Terra Madreテッラ・マードレに参加して」文末(注1)脚注参照のこと

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