あるもの探しの旅

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2008/06/25

元気いっぱい!放牧牛

いわて山形村短角牛 牧場めぐり


 「夏山冬里」で飼育される短角牛の放牧が始まったというので、先月中旬、仙台市青葉区にあるイタリアン「Enoteca il Circolo エノテカ・イル・チルコロ」の吉田 克則シェフと岩手県久慈市山形町に出向いて牧場の牛たちを見てきました。

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【Photo】霧にかすむ久慈市短角牛基幹牧場

 庄イタが提唱し、生産現場を料理人と共に訪問するツアーは以前にも実施しています。2006年7月には、山形県庄内町の立谷沢川沿いでオーガニックなハーブと食用鳩を育てる「スパール」の山澤 清さんや、同町で発酵サイレージなどの粗飼料や安全な国産配合飼料を与えて飼育される庄内牛、だだちゃ豆の鞘や稲ワラを食べて臭みのない肉質に育つサフォーク羊を手がける鶴岡市羽黒町の「花沢ファーム」、同町で飼育されるキメの細やかな肉と美味しい脂身が堪らない山伏豚を扱う鶴岡市みどり町の「クックミートマルヤマ」などにご案内しています。

 これがきっかけで、山伏豚を店の看板メニューとして成長させた吉田シェフの声掛けで、そのとき同行されたのが、当時、太白区向山に店を構えて間もなかった「AL FIORE アル・フィオーレ」の目黒シェフと、青葉区一番町「IL CUORE イル・クオーレ」の渡辺シェフでした。高い志を持った生産者と安全で美味しい食材を求める意欲ある料理人を単なる食べ手の立場を越えて「繋(つな)ぐ」のも、それぞれにご縁が生まれた者としては嬉しいことです。

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 遠征には絶好の好天に恵まれたこの日。朝9時に東北道 泉PA・スマートICで合流した吉田シェフ家族の alfa 155と私のalfa Brera は、危惧されたマシントラブルもなく高速を北上、予約していた盛岡市の「パイオニア牧場 」(上写真)に予定より幾分早い時刻に到着しました。

 〝牧場〟とはいうものの、牧場併設のバーベキューハウスではなく、 (吉田シェフは最初そのように思ったのだとか...^ ^;) 盛岡市街中心部にあるれっきとしたレストランです。オーナーシェフの多田 久雄さんは、岩手の風土が生んだ短角牛に深い愛着を持ち、これまでその味を伝えてきました。多田シェフにこの日用意いただいたのは、短角牛の厚切りリブロースとサーロインのバーベキューセット。

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【Photo】レストランパイオニア牧場でのランチ「短角牛のリブロース(左)とサーロイン(右)、旬の野菜いろいろバーベキューセット」

 あれっ?? 短角牛の味わいのバリエーションを体感してもらうため、予約の電話では多田シェフにシチューなどの煮込みなども出してくれるようお願いしたのですが、すっかり抜けていたようです。モォ~、多田シェフったらぁ。

sig.tada_pioneer.jpg 【Photo】ある時は岩手短角牛の伝道師、またある時はレストラン「パイオニア牧場」のお茶目なシェフ、多田久雄さん

 いずれにせよ、ここはグリルする肉のファンタジスタ、「Nicuyakista ニクヤキスタ」を自認する吉田シェフの出番。一定期間、冷蔵で熟成させてグルタミン酸やイノシン酸などの旨み成分を増した庄内牛や山伏豚をいつも店で提供している肉のスペシャリストでもあるシェフに「餅は餅屋」と" 焼き奉行 "をお願いする流れに。オフだというのにモーしわけない!?

 グリルした短角牛を噛み締めると、深みのある旨みが肉汁と共に滲み出してきます。吉田シェフも改めて短角牛の「赤身」の魅力を再確認したようで、「脂がしつこくないですね」とも。自然放牧で傾斜地の草原を移動しながら肥育される短角牛は、もとより脂肪分が少ないのですが、脂自体のしつこさがないため、食べ疲れすることがありません。

 持ち帰り用にと打診した自家製ビーフシチューの缶詰めは残念ながら在庫切れとのこと。すべて自分の手作業で缶詰めまでこなすため、「あれ作るのって、大変なの」と笑う多田シェフ。牛肉の旨みに溢れた短角牛のシチューは、フルボディなカベルネ系の赤ワインとよく合います。

 聞けば、今食べた肉は久慈市山形町にある短角牛専門の精肉店「食考房 北風土」〈Link to Backnumber〉から仕入れたものだそう。その北風土の佐々木 透さんとは、放牧場で翌日お会いすることになっていました。夕食を弘前のイタリアン「ダ・サスィーノ」で予約していた私たちは、多田シェフに見送られ、さらに北を目指しました。

【Photo】久慈市短角牛基幹牧場で放牧が始まった短角牛の親子。生後間もない毛羽立った子牛のかわいいこと!
bambinitankaku.jpg  海から吹き付ける冷たい東風「ヤマセ」の影響からか、八戸道を東に移動するに従って空模様がどんよりとしてきた翌朝。九戸(くのへ)IC近くの道の駅「おりつめ」で待ち合わせした佐々木さんの先導で久慈市山形町荷軽部にある「久慈市短角牛基幹牧場」を訪れました。

 肉付きの良い牛を集めるため、「エリート牧場」とも呼ばれるそこへは、牛舎へ牛を戻す「山下げ」直前の昨年10月以来の再訪です。海抜400m以上と標高が 高いため、5月なかばとはいえ肌寒さすら感じます。牧草地の中を進みながら「フンを踏んだら大変なので、足元に注意して下さい」とオヤジギャグをかます佐々木さん。確かに、あちらこちらにエリートたちが残した地雷が落ちています。侮るなかれ、この有機肥料は、牧草と土を肥やすミミズなどにとっての大切な養分となるのですから。これぞ資源低投入循環型畜産。

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【Photo】 放牧期間中の牛たちの主食は天然の青草

 5月9日に牛舎から放牧場に牛を移す「山上げ」をされたばかりの短角牛たちは、60 ヘクタールにも及ぶ広大な牧草地の思い思いの場所を移動しながら草を食み、あるいはリラックスしている状態で行うという反芻(はんすう)をしながら座り込んで寛いでいる様子。放牧中に自然交配される短角牛の出産シーズンは2月から3月にかけて。生まれてまだ間もない子牛は、甘え盛りで、母牛からあまり離れようとはしません。飼育環境が山あいの傾斜地のため、おのずと運動量が豊富になる放牧牛は、舎飼いの牛と比べて心臓が大きくなるそうです。

 佐々木さんが営む北風土で冷凍保管されている成牛の心臓を見せていただきましたが、私の拳ふたつ分ほどの大きさでした。高地トレーニングを積むアスリートと同じで、放牧中の短角牛は心肺機能が発達、心拍数が減少する一方、赤血球が増えて余分な脂肪の蓄積が抑制されるのだそう。これは、逆に出荷を控えた牛舎での肥育段階で与えられる粗飼料や配合飼料の吸収効率が上がる効果もあるのだといいます。

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【Photo】すぐにそれと判るたくましい体躯の種牛(中央)が、一頭のメスの後をついて離れない。実に職務に忠実なエリート君。健康な肉牛を提供してくれるよう、産めよ増やせよ、ってか

 母牛と子牛合わせておよそ200頭が放牧されている中で一頭しかいないオスの種牛は、ガッシリと体が一回り大きく一目瞭然。ストレスフリーな自然環境の中では、繁殖率も上がるらしく、メスの分娩間隔が短くなる傾向があるそうです。発情牛が発する匂いに誘われるのか、マッチョな種牛が一頭のメスの後を追うようについてゆきます。佐々木さんの話では、ハーレムさながらの環境に置かれた種牛は、山下げの頃になるとゲッソリしているのが解るといいます。(笑) 種付けの激務がたたるためか、去勢した牛と比べて種牛は寿命が短いのだそう。両手に花の? 種牛に「男はつらいよ」と声を掛けたくなりますが、ヤツは"トラさん"ではなく、"ウシさん"なのでした...(爆)。

【Photo】佐々木さんが厚い信頼を寄せる肥育農家のひとり、落安兼雄さん。「牛が可愛くてね」と目を細める

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 すっかり体が冷えてしまったところで車に戻り、ヒエやアワなど雑穀類を脱穀・製粉するためにこの地域で伝統的に作られてきた「バッタリ」こと水車小屋を復活させた「バッタリー村」を通り抜けて、出荷を控え牛舎で肥育中の短角牛も視察。その足で北風土に立ち寄り、ストーブで暖をとりながら作業場での佐々木さんと吉田シェフの食談義が始まりました。

 出荷価格に高値がつき肥育農家にとって収益性が高い黒毛和牛、それもA-5ランククラスの銘柄牛の人気が日本では高いですね。つい最近も岐阜の「飛騨牛」において、偽装が疑われる事例がありました。そんな霜降り信仰が支配する市場では出荷価格が引く抑えられがちな短角牛(黒毛A-2ランク程度の枝肉価格だといいます)を大切に守り育てる生産者に惚れ込んで北風土を立ち上げたという佐々木さん。

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【Photo】北風土の作業場で思いのたけを語り合う佐々木さん(右)と吉田シェフ(左)

 20年前、北東北3県と北海道で2万2千頭あまりが飼育されていた短角牛のメスは、今や6千頭ほど。採算性を理由に黒毛に切り替える生産者が後を絶ちません。一部では枝肉価格の向上を目的とした黒毛和牛との交雑(F-1化)がなされ、純血種の希少性は増しています。北風土では、飲食店との取引きに際して、まず料理人に飼育現場に足を運んでもらい、互いに顔の見える関係でパートナーシップを築きたいと語ります。

 吉田シェフは短角牛一筋の情熱家、佐々木さんの熱い語りに魅せられたようで、一時間以上に及んだ語らいの末、晴れて取引き成立。今回もこうして新たなご縁を繋ぐことができました。今月から屠畜・枝肉加工後4週間熟成させた24ヶ月月齢から28ヶ月月齢の食べ頃を迎えた短角牛を新メニューがエノテカ・イル・チルコロに登場しています。

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【Photo】 アラカルトはもちろん、プリフィクスのディナーコースでもチョイス可能な山形町産短角牛の煮込みグレモラータ風味。重過ぎない味付けのグレモラータソースが短角牛の個性を最大限に引き出してくれる。付け合せは吉田シェフがおまけしてくれた特別栽培米ササニシキのグリーンピースリゾット

 リブロースの煮込みグレモラータ風味と、未食ながらニクヤキスタが本領発揮する炭火でグリエするビステッカがそれです。鶏のブロードを使用した短角牛の柔らかな煮込みは、味覚中枢を至福の喜びで満たす肉の芳香がムンムン。細かくスライスしてオイルで炒めた玉ネギ・ニンジン・セロリに、レモン果皮の砂糖漬けと少量のニンニク・パセリで香り付けした Gremolata グレモラータソースが爽やかな柑橘系の香りを添えてくれます。仙台で由緒正しき山形町産のエリート短角牛が頂ける店はそうはありません。
百聞は一食にしかず。andiamo!(= Let's go!

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レストランパイオニア牧場
※現在は移転し「レストラン PIONEER FARM」として営業中
住) 盛岡市本町通2-1-34
Phone:019-656-6224
営) 11:30~14:30
   17:30~22:00(L.O.21:30)

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※現在は「カフェ・エ・デリ・チルコロ」に業態変更
Enoteca il Circolo エノテカ・イル・チルコロ
住) 仙台市青葉区国分町1-7-10 SKビル1F
phone/fax : 022-227-0180
休) 日曜・祝日 
営) 12:00 - 13:45(火~土)
    18:00 - 23:00(L.O.22:00)
◎アラカルトメニュー(ディナータイムのみ

岩手県久慈市山形町産短角牛の煮込みグレモラータ風味  2,800円
同上   ビステッカ(炭火焼ステーキ)   3,900円


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2008/06/14

プリップリでとろける吹浦の岩ガキ

決め手はケッカソース

 海産物にもさまざまな「ブランド」があります。
横綱級の有名どころでは、大分・豊後水道の関アジと関サバ、下関のフク、明石のタコ、富山湾氷見の寒ブリ、青森・大間の黒マグロ、北海道・利尻や羅臼のコンブ・・・。これら全国に名前が轟く海産物は、局地的に特徴ある海流やエサとなるプランクトンの寡多などによってもたらされる優れた食味、ないしは卓越した加工技術によって、地域ブランドとして認知されてゆくものです。新鮮さが大切な海の幸だけに、「●●港直送」という謳い文句が付くだけで、価格面でメリットが生まれるため、各産地間で水産物のブランド化の動きが盛んです。

 5月30日に訪れた私のホームグラウンド、食材の宝庫・庄内で夏の訪れを告げる予期せぬ海の幸にありつくことができました。山海の幸からなるオールスター軍団が、飛び切りの旬を感じさせてくれる「アル・ケッチァーノ」で昼食のテーブルに付こうとする私の耳元で、厨房から出てきた土田 学 料理長がにじり寄って来て小声で囁きました。

 「ちょっとしかありませんが、今日は吹浦(ふくら)の岩ガキがありますよ」
 「ホ・ホント? じゃ、『鳥海モロヘイヤのケッカソース』で頼むわ」と私。

 夏の日本海の恵み、天然岩ガキ。まばゆい太陽の季節に欠かせない海の幸にいち早くありつけるとは。しかも庄内浜でも最も身が肥えてとりわけ美味とされる遊佐町吹浦産とは願ってもない幸運。聞けば庄内浜に夏の訪れを告げる岩ガキの素潜り漁が28日に解禁されたとのこと。吹浦漁協の方の話では、今年は燃料価格の急騰で、沖合いでの漁を取り止め、吹浦から酒田北港までの近場で行うbelgianoyster.jpg岩ガキ漁に切り替える漁師が多いのだそう。宮城の志津川湾や岩手の陸前高田などの南三陸と三重の志摩半島などのリアス式海岸地域や、鳥取の隠岐島などで最近は一部養殖が行われている岩ガキですが、おもに日本海側沿岸の水深5mから15mほどの岩礁に自生しています。産卵期に入る前の6月から8月中旬までが鉄、亜鉛などのミネラルとタウリン、グリコーゲン、ビタミンB類などの栄養分が最も豊富な旬となります。甘味が強く、「海のミルク」とも形容される濃厚な旨みの塊である岩ガキは、私にとって唯一生食がOKなカキです。江戸期に養殖が始まった松島湾から牡鹿半島を経て気仙沼・唐桑に至る東日本最大のマガキの産地に居ながら、生ガキだけはNG。

【Photo】ヨーロッパでは、夏にも生食されるマガキ(上写真)
サンマロ湾に遠浅の海が広がるカンカルは、カキ養殖が盛んなフランス北部のブルターニュやノルマンディー地方の中でも重要な産地。干潮時にはこうして岩場一面に広がるカキの養殖棚が現れる(下写真)

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 仙台と姉妹都市になっているフランス・ブルターニュ地方の街 Renne レンヌの北方60km、サンマロ湾に面した港町 Cancale カンカルでは、1960年代に発生した寄生虫による病気で死滅しかけた「ヨーロッパヒラガキ(別名:Belon ブロン)」の代わりに、宮城県から輸入したマガキの養殖が盛んになりました。いまや浜辺に並ぶ屋台で売られている主流はヒラガキではなく、宮城県からフランスに帰化したマガキ(Photo左側。右手前はブロン、右奥はムール貝)たち。そう思うと親しみがわいてきますが、いかんせん苦手なことには変わりません。

Oyster_Belon.jpg【Photo】脚付きの養殖棚でカキを育てるカンカルの漁師

 一般に「R の付く月以外は食べるな」とされるカキですが、ヨーロッパでは年間を通して生で食べます。5月にベルギーの首都ブリュッセルにある魚介料理専門レストラン「Rugbyman ラグビーマン」(→変な名前だ)で、希少なブロンを食べた時もそうでした。美食の都ブリュッセルでも評判のオマール海老をはじめとする魚介料理に定評あるこの店。殻付きで大皿に盛られてレモンを添えて出てきたのは、丸く平たい形状の「フランスガキ」とも呼ばれる希少なブロンでした。その時も一個だけを白ワインで飲み込んだだけで、あとは狂喜しながらそれを頬張るカキ好きの連れにすべて差し出しました。

 鮮度は抜群でも、私にとって問題は生食で顕著に感じるカキ特有の石灰質のヨード香。それを嗅ぎ分けると、いかにそれが新鮮だろうとダメなのです。 ┐(´~`;)┌ 前世がイタリア人だからフランスと名前が付く食材に拒否反応が出るわけではなく(笑)、イタリアでも主に南部のシチリアやカンパーニャ、プーリアなどの海沿いの地方では「Ostrica オストリカ(=カキ)」を生で食べます。南イタリアの海沿いのリストランテには「Frutti di Mare フルッティ・ディ・マーレ(=「海のフルーツ」の意)」なる料理があり、カキを Muscoli ムスコリ(=ムール貝)やMoscardino モスカルディーノ(=イイダコ)などの海の幸とともに、ソレント産の大振りなレモンをぎゅっと搾って「Greco di Tufo グレーコ・ディ・トゥーフォ」や「Fiano di Avellino フィアーノ・ディ・アッヴェリーノ」といった地ブドウを使用した白ワインとともに頂きます。

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【Photo】
「イタリア版・舟盛り」といった風情の(?)「フルッティ・ディ・マーレ」。さっとボイルしたイイダコや貝類など鮮度抜群の海の幸は、まさに海の果実。ナポリ湾に浮かぶ地中海の楽園・カプリ島のリストランテLa Capannina で

 2005年8月に山形県庄内町の響ホールで開催された「庄内国際ギターフェスティバル」にイタリアが生んだクラシック・ギター界の巨匠、オスカー・ギリア氏が参加しました。この時、休日返上で歓迎レセプションの料理を提供したのが、アル・ケッチァーノのスタッフの面々。師匠にあたるマエストロとの息の合った演奏を披露した日本のトップ・ギタリスト福田 進一氏ともども、トスカーナ州の港町Livorno リヴォルノ出身だというオスカー・ギリア氏は、岩ガキのケッカソース風味に「Ottimo!(=サイコーっ!)」と言いながら、むしゃぶりついていました。ホームシック気味だったマエストロ・ギリア氏は、この夜の料理にいたく感激し、一気に活力を取り戻しました。さすがは岩ガキ、強壮効果バッチリ!

 庄内地域における岩ガキのトップブランドは吹浦産ですが、全国で最も漁獲量が多いのは秋田県にかほ市象潟(きさかた)です。象潟産の岩ガキは、吹浦同様、品質においても一目置かれる岩ガキのトップブランド的存在。そこには、秋田・山形県境の海岸線から一気に2,236m の高みまで聳え立つ鳥海山の存在が大きく関係しています。亜熱帯性気候に属する鹿児島県屋久島の山岳部における年間 10,000mm の降水量をはるかに上回る 20,000mm もの年間降水量があるとされる鳥海山。降り注ぐ大量の雨水や雪解け水には、ブナなどの広葉樹の腐葉土層を浸透する際にosagawashimizuba.jpg水溶性のタンパク質や炭水化物が溶け出します。地中の火山性土壌からは、鉄分やケイ酸、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどが取り込まれ、豊富な地下水となって人里へと下りてきます。生物にとって欠かせない栄養分をたっぷりと含んだ伏流水は、地上はもちろん、象潟から遊佐にかけての海中にも湧き出してきます。

【Photo】にかほ市小砂川集落にある共同水場「小砂川の清水場(しみずば)」。上写真の水場の奥に水神の石碑が祀られた湧出口(下写真)がある。鳥海山南側に湧く「さんゆう」や「神泉の水」「滝ノ水」などの柔らかな水と比べると、硬い金属的なきりりとした味がする

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 植物性プランクトンを含む伏流水が海中に湧き出す岩礁には、多くの動物性プランクトンが集まってきます。漁師の話では、岩ガキもそうした場所に多くの群生が見られるといいます。卵から孵化した幼生は、やがて稚貝となって岩場に張り付き、5年、10年と時間をかけて育ってゆきます。象潟周辺では6月に漁が解禁される小砂川(こさがわ)漁港を除いて、7月と8月に岩ガキの漁期が限られます。生育に時間がかかる天然岩ガキの資源保護のため、各漁協では、素潜りで漁を行う漁業者一人当たりの一日の捕獲数を200個までと定めています。岩ガキ好きに言わせると、岩ガキの産地ブランドとして名高い象潟のなかでも、小砂川の岩ガキは身が肥えて一段と濃厚なうまみが詰まった絶品なのだとか。

 にかほ市象潟にある道の駅・象潟「ねむの丘」を夏に訪れると、大人の足の大きさほどもある優に10年以上は経たと思われる岩ガキを目にすることがあります。そこからR7を南下、本州の日本海側で唯一のウミウの営巣地がある大須郷(おおすごう)海岸から小砂川と山形県境の三崎公園を経て、岩に穿った羅漢像が奇観を呈する「十六羅漢」を過ぎると辿り着く吹浦湾にかけては、鳥海山の稜線が切り立った岩場となって海へと続いています。この周辺には、「奥の細道」で松尾 芭蕉が辿った北の果てとなった象潟への途中、雨宿りをしたと伝えられる「福田の泉」や、飲用水と生活用水として大切にされている小砂川集落の「小砂川の清水場」、遊佐町女鹿集落の「神泉(かみこ)の水」など、多くの湧水スポットがあります。それは海の中でも同様のことです。

【Photo】遊佐町女鹿の「神泉の水」。8月上旬、体にすぅーっと沁み込む非常に口当たりの良いこの湧き水を汲むためそこを訪れると、水槽の中にはスイカなどと共に岩ガキが(緑のネットの中)

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 そうした中には、神泉の水のように湧出口から順に、飲用、スイカなどの食べ物の冷却用、洗い物・洗濯用にと高低差をつけた水槽で区切られている水場があります。鳥海山周辺の海辺にある水場では、湧水の中に捕獲した岩ガキを入れておく場面に出くわすことがあります。海の生物である岩ガキを真水に入れておいて大丈夫なのかと思い、居合わせた地元の方に岩ガキを湧水に浸けておく理由を尋ねました。すると、「夏でも冷たい湧き水は鮮度保持の冷却保存に適しているからね」という答えが返ってきました。海中に湧き出す水温10℃前後の伏流水は、前述の通りミネラル成分などの栄養分が豊富。そうした汽水帯を好み、持久力の源となるグリコーゲンがもともと豊富な岩ガキにとって、そこは居心地の悪い場所ではなさそう。長期間は無理にしても、数日程度は全く問題ないとのこと。恐るべし、湧水パワー。

 日仏伊とカキを生食する場合は、レモンを添えて出てくるのが一般的でしょう。フランス文化圏では刻んだエシャロットを薬味にしたワインビネガーソースで食べることもあります。いずれにせよ、至ってシンプルな調理法です。かたや食材の宝庫・庄内をフィールドに奥田シェフが編み出したアル・ケッチァーノ夏の定番メニューといえば、私がリクエストした「岩ガキの鳥海モロヘイヤ・ケッカソース風味」です。本来「Salsa di Checca ケッカソース」は、甘味の強いフレッシュトマトを湯剥きしてダイスにカットし、みじん切りしたニンニクとバジルを加え、オリーブオイルと塩コショウで味を整えるのが基本。通常は冷たいソースで、さまざまなイタリア料理に使われます。面白いことにCheccaという単語は、男性の同性愛者、いわゆるオカマを指すイタリア語です。 なぜに冷製トマトソースの名前が「オカマソース」なのかなんて、ワッカンナイわよ(何故かオネエ言葉(*^.^*)

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【Photo】今シーズンの初物「吹浦産岩ガキ鳥海モロヘイヤのケッカソース」はアル・ケッチァーノ夏の定番スペチャリテ。岩ガキとしては幾分形は小ぶりながら、ぷっくりとした身には日本海の旨みがたっぷりと詰まっている

 鳥海山の森と水と海の恵みといえる新鮮極まりないプリプリの吹浦産岩ガキ。アル・ケッチァーノのケッカソースに使われるトマトは、6月末から地元の契約農家、井上農場の大玉種「麗夏(れいか)」が登場します。ビニールハウスの中で赤みを増し糖度が上がるまで樹熟させる井上さんのトマトは、甘いだけで水分が多い昨今のトマトとは一線を画す両者のバランスの良さが身上。もぎたてをかぶりつくと、トマト特有の青みを伴った甘く目の詰まった果肉が口の中で弾けます。うま味が凝縮したその味わいは月山水系のブナ原生林に端を発する栄養分をたっぷり含んだ梵字川の水と、夏の庄内特有のカラっと晴れ渡った空から降り注ぐ太陽の味。

 アル・ケッチァーノでの食事前に訪れた井上農場のハウスでは、トマトの黄色い花が咲き、青い実が付き始めたばかりでした。トマトと好相性のバジルの代わりにケッカソースに使われるのは、岩ガキが育つ遊佐町の鳥海山麓で栽培されたモロヘイヤ。ニンニクは用いずに、香りに高貴さをもたらすセロリとエシャロットが華を添えます。素材の持ち味を活かすため、個性が強いエキストラ・ヴァージン・オイルではなく、穏やかなピュアオイルを加えて最後に微量の塩で味をまとめます。モロヘイヤの粘りがトロトロのミルキーな岩ガキと一層の一体感を生み出します。

 ぷっくりとしたMade in 鳥海山な岩ガキが主旋律を奏で、オリジナルレシピのケッカソースが副旋律となる見事な対位法。その甘美な調べにトロけてください。(※記述は2008年夏時点)


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2008/06/06

♪ リンゴの花びらが~

リンゴの花びらドルチェは、はじらう乙女 francesca の味


azienda_mela.jpg【PHOTO】例年よりも雪解けが早かった今年の5月、岩木山の麓で完全無農薬で自然農法のリンゴを栽培する木村 秋則さんの畑を訪れた。周辺の畑でも可憐なリンゴの花が見渡す限りに咲き揃い、受粉用のミツバチの巣箱が置かれていた


 リンゴの花をご覧になったことがおありですか?

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 全国のリンゴ生産高の55%を占める青森県、なかでも最も栽培が盛んな弘前では、GWの頃に見ごろを迎える弘前城公園のソメイヨシノと入れ替わるように、周辺のリンゴ畑では191万本にも及ぶリンゴの樹々の花がほころび始めます。楚々とした美しさをたたえたその白い花は、サクラよりも幾分大ぶりで、青森県の県花にもなっています。ようやく訪れた北国の春を謳歌するかのように一斉に葉を芽吹き花開くリンゴの樹々と、残雪を頂いた岩木山は、5月の爽やかな空のもとに青緑と白の見事なコントラストを描き出します。

【PHOTO】五月晴れの青空に映えるリンゴの花

 枝先には紅を差したかのように赤くかわいらしい丸い蕾(つぼみ)が5~6個付きます。品種によって花の色や大きさに違いはありますが、赤い蕾から咲く花も桃の花のように赤いのかと思いきや、開花したての花びらには白地に赤やピンクが混じるものの、花弁は次第に白さを増してゆきます。

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【PHOTO】「ふじ」の蕾と花。可愛らしい蕾はまもなく摘まれる運命にある

 「花の命は短くて・・・」とは作家 林 芙美子の言葉ですが、果実の数を減らして味を凝縮させるため、リンゴは房の中心に咲いた花だけを残して、ほかの蕾や花はすべて摘み取られてしまうのです。だからリンゴの花言葉は「選ばれた恋」。リンゴは実にも「誘惑」という、もうひとつの花言葉があります。旧約聖書の記述では、ありとあらゆる果実がなるエデンの園で蛇にそそのかされたイブは、神の言いつけに背いて禁断の「知恵の果実」を口にします。イブに勧められるまま果実を口にしたアダム。BrancacciEden.jpg楽園を追放されたアダムとイブの子孫である人類は、それ以降、男には食料を得るための耕作の苦役を、女には出産の苦痛が課せられるようになりました。花開く前に蕾のまま摘まれてしまうリンゴのことを思うと、可愛らしい赤いリンゴの実がいとおしくなりますが、神の逆鱗に触れたアダムとイブが楽園から追放される原因となった「禁断の果実」もまたリンゴだったといわれています。うーん、フ・ク・ザ・ツ。

【PHOTO】初期ルネッサンス・フィレンツェ派の画家 マザッチョの筆になる名高い「楽園追放」 や「貢の銭」、この写真右上のマゾリーノ作「アダムとイブの誘惑」など見事な連作フレスコ画がある「ブランカッチ礼拝堂」。フィレンツェを流れるアルノ川の南、オルトアルノ地区の「サンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂」の内部にある

 昨日、昼食を食べたのが、仙台市青葉区のイタリアン「francesca フランチェスカ」。Donna Italiana ドンナ・イタリアーナ (=イタリア女性)の名前を持つこの店でオーダーしたのは「おすすめランチ」(1,500円)でした。どんな( ̄ロ ̄;)コースだったかといえば、「アスパラのズッパ」、「ルッコラのインサラータとシチリア産モスカート種デザートワイン風味のフォアグラテリーヌのブルスケッタ」が出た後の「蔵王地鶏とドライトマトの軽めのラグーソース風味のパッパルデッレ」がメイン。目の前のパスタマシンで作ったパッパルデッレに舌鼓を打った後、カッフェと共に2種類のドルチェが登場しました。新作だという「さくらんぼのコンポスタ、さくらんぼのムースのコッパ」(写真奥)、そして今回のお題である「実家のリンゴとリンゴの花のジェラート、リンゴのクロッカンテとイチゴ添え」(写真手前)です。
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【PHOTO】「実家のリンゴとリンゴの花のジェラート、リンゴのクロッカンテとイチゴ添え」

 五所川原出身の原田シェフの実家はリンゴ農家を営んでいます。「ふじ」、「紅玉」、「つがる」、「サンジョナゴールド」などを栽培しており、5月上旬に帰省を兼ねて原田シェフや鳥山オーナーらが五所川原を訪れたのだそう。その時、「♪ リンゴの花びらが、風に散ったよな~」と、美空ひばりが唄った「リンゴ追分」を口ずさみながらだったかどうかは知る由もありませんが(笑)、畑からリンゴの花びらを皆で持ち帰ったそうです。その花びらと晩秋から冬にかけて送られてきた旬のリンゴの果肉をジェラートに混ぜ込んでありました。甘酸っぱいリンゴがミルクの風味で優しい表情に変わり、決して派手ではないものの繊細極まりないリンゴの花の香りと、主張しすぎないシナモンの香りが、渾然となって広がります。瞑目してデリケートな香りを堪能していると、先月訪れた津軽のリンゴ畑の風景までが目に浮かんでくるではありませんか。
Bu.Bu.Bu...Buonissimo!! ・・・ブ.ブ.ブ...ブオニッシモ!! (→ここでは、イタリア観光のガイドブックに記載されているように「頬に人差し指を当ててグリグリ」は必要ありません。念のため)

 それは、蜜の入った熟した果実を実らせる前、あたかも蕾からまさに花開こうとしているリンゴの花弁のように、ぽっと頬を赤らめた乙女の姿を彷彿とさせるような、せつな~い味なのでした。
 残念ながら、今シーズンのリンゴは在庫切れ寸前だとかで、無くなり次第終了につき、売り切れ御免。今週末が食べ収めかも、とのこと。急げっ! (・・・そんなに煽らなくても...)


francesca フランチェスカ
仙台市青葉区大町2丁目5-3 コーポラティブハウス大町202号
PHONE/FAX: 022-223-8216
URL:http://www.francca.jp/
営) 11:30~14:00(L.O.)
    17:30~21:30(L.O.) 月曜定休

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2008/06/01

どぶろく特区@鳴子

農家レストラン土風里
 そして 鳴子の米プロジェクト

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【PHOTO】
大崎市街からR47を鳴子温泉に向かって江合川の対岸、小高い丘の上にある農家レストラン「土風里」からのうららかな春の眺め

 雪解けとともに巡ってくる山菜の季節。長い冬の眠りから目覚めた大地と木々の恵みである山菜には、強い香りと特有のアク、苦味があるものがあります。先人は冬の間に代謝が鈍って澱んだ体の細胞から毒素を排出する効果があるとされる山菜の働きを知ってか知らでか、コゴミ・ウド・ゼンマイ・ワラビ・ミズ・アイコなどの山菜を口にしてきました。甘味が多くなるよう人為的に生み出された野菜や、最近増えている人の手で栽培された山菜と比べて、山に自生する山菜は、雪と氷に閉ざされる冬の終わりとともに一斉に芽吹き始める生命のエネルギーを感じさせてくれます。

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【PHOTO】土風里(奥の建物)へと向かう小道沿いの斜面にも料理に使われる山菜があるのだという

 秋田・山形と県境を接する宮城県大崎市鬼首(おにこうべ)への出張を控えた先日、仕事のパートナーとなる滋賀と東京からの客人をご案内しようと、出張の下見で近場の鳴子温泉郷を訪ねました。ひとつの温泉場としては、日本一多彩な泉種を誇る鳴子温泉郷。地域資源を活かして地域おこしをしようという構造改革特区計画の一環として、温泉と自然・食文化などを組み合わせた「鳴子温泉郷ツーリズム特区」が、2004年(平成16)6月に国から認可を受けました。 国の規制緩和によって、民宿や飲食店を併せ営む稲作農家が、自ら生産した米を原料に濁酒(通称:どぶろく)製造の免許を取得する際、製造数量の制限が撤廃されたのを受け、鳴子町で農業を営んでいた高橋 直子さんが宮城県内初の製造免許を取得、「どぶろく特区」として認定されたのが2005年(平成17)4月のこと。同年5月、どぶろくが飲める宮城県内初の飲食施設となる農家レストラン「土風里(どっぷり)」はオープンしました。
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【PHOTO】土風里で提供するお米「ひとめぼれ」が育つ高橋さんの水田。コメが育つ田んぼを見渡しながら田舎料理を味わえるのは農家レストランならではの贅沢
 
 出張の下見とはいうものの、今回の遠征のもうひとつの目的は、この農家レストランを訪れること。1899年(明治32)に自家用酒税法の廃止で自家製造が禁止されて以降、かつては密造酒の代名詞だったどぶろく。旬の山菜を使った田舎料理もさることながら、白昼堂々と飲めるどぶろくを提供するという土風里には、かねがね行きたいと思っていたのです。小泉政権下の規制緩和の流れを受けて、各地でどぶろく特区が誕生しました。" 地方切捨てだ " との声も聞かれた小泉構造改革ですが、岩手県遠野に端を発したこの動きによって、表向きは100年以上の長きに渡って途絶えていたどぶろくの味が再び楽しめるようになったことは、素直に喜ぶべきだと思いませんか? 日本人の主食であるコメ文化の副産物とも言うべきどぶろくが鳴子の地で飲めることは、とりわけ喜ばしいことだと私が考えるのには少々訳があります。

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【PHOTO】荒雄岳の北東側に位置し、鬼首でも最も奥地にあたる岩入(がにゅう)集落に、2007年9月30日、地元の旅館関係者や県外の支援者らを招いて行われた稲刈り交流会

 肥沃な大崎耕土が広がる一大穀倉地帯、宮城県北の大崎市でも、鳴子地区は奥羽山脈の山懐に位置する県内最北の内陸部に位置します。仕事を通してご縁が生まれた鬼首は、鳴子温泉郷からさらに山あいの奥地にあり、日照時間の少なさと夏でも冷涼な気候によって、たびたび冷害に襲われた地域。かつては"うまい米はできない"とまで言われてきました。そんな鳴子や鬼首の稲作農家に光が射したのは、2001年(平成13)に宮城県古川農業試験場で誕生した新品種「東北181号」を試験的に導入した2006年(平成18)から。東北181号は、5月中旬過ぎに田植えをしても9月末には収穫可能な早生種で、優れた食味は優良銘柄米の「ひとめぼれ」に勝るとも劣らないとまでいわれます。加えて低アミロース米特有の粘りとコシは、冷めても失われることはありません。yukimusubi_kobir.jpg

 炊きたてはもちろんのこと、仕出し弁当やおにぎりで食べても美味しい用途が広いコメだと言えるでしょう。耐冷性・耐病性に優れた山間高冷地栽培に適したこの新品種を鳴子地域でも気候条件が厳しい鬼首など山間地に位置する3軒の農家の水田30アールで始まった取り組みは、「鳴子の米プロジェクト」と名付けられました。

【PHOTO】稲刈りと杭がけがひと段落したところで、ちょっと一服。地域のお母さん達が用意した東北181号のおにぎりなど、心尽くしのご馳走が振舞われる伝統的な農作業の休憩時間を指す「小昼(こびる)」が再現された

 コメの消費減少と米価下落を受けて、消費者重視・市場原理重視の考え方のもと、需要に即応した米づくりの推進を通じて、水田農業経営の安定と発展を目指すため、2002年(平成14年)に農水省が定めた「米政策改革大綱」。コメ余りのもとで霞ヶ関のお役人が定めたこの施策は、市場原理によって米価の下落に一層の拍車がかかる結果を生みました。コメを作った対価として農家が手にする額を指す生産者米価は、必要経費を差し引くと、もはや赤字の状態。大綱では「平成22年度までに農業構造の展望と米づくりの本来あるべき姿の実現を目指す」というものの、命をつなぐ食べ物、しかも日本人の主食であるコメ作りの担い手である農家の将来には、明るい展望は開けないままだと言わざるを得ません。 【河北新報朝刊連載の「田園漂流~東北・兼業農家のあした」を参照願います】

【PHOTO】県のアクティブシニア・ビジネスコンテストで起業モデルに認定された土風里を切り盛りする高橋 直子さん(右下)。開業4年目を迎えてどぶろく作りの腕にも磨きがかかる

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 日本の農村、なかでも高齢者が多い中山間地域では、いま耕作放棄地が急速に広がっています。鳴子の米プロジェクトでは、農家が生活を維持し、コメ作りを続けられる生産者米価をあらかじめ 1俵(60kg)当たり 18,000円と算出。農家には5年間この手取り額を保障しています。作り手の生産意欲と若干の利幅を確保した上で、営農希望の若い世代を受け入れる受け皿を地域に作るための社会資本整備の資金や、輸送・保管などの必要経費を1俵当たり 6,000円上乗せして設定した1俵当たり 24,000円(玄米5kg 2,000円・白米同 2,100円)で購入希望者からの事前申し込み制を採っている点が大きな特徴です。

 使用する農薬を地域慣行の半分に減らし、収穫後は棒がけによる天日干しをするという栽培条件で、3軒の農家から始まった鳴子の米プロジェクト。二年目だった昨年は、5月末に地元の旅館関係者や県内外の購入希望者を招いて田植え交流会を実施しました。作付けも 20軒の農家 3ヘクタールの水田へと 10倍に広がり、収穫された180俵は予約完売。秋には購入予約者を招いての稲刈り・くい掛け交流会が催され、地域との交流も生まれています。 doppuri_inside.jpg昨年末に「ゆきむすび」という品種名が付いた東北181号は、こうして"食べ手が作り手を支え続ける"という新たな相互の結びつきを生みました。地域の農家に希望の光を灯したゆきむすび。今年は35軒の稲作農家が合計 10ヘクタールの水田でコメ作りに取り組んでいます。

【PHOTO】古民家の部材を利用した土風里。高い天井の吹き抜けに渡された太い梁(はり)、宮城県北に伝わる釜神の面、鳴子漆器の組膳、代々伝えられた酒器。黒光りする魚形の大きな横木と囲炉裏

 こうして、鳴子では日本の農のあり方を根本から変えるかもしれない新たな胎動が始まっています。その地で日本のコメ文化が生んだどぶろくを地域の恵みと共に頂けるというのは、象徴的な意味を持っています。高橋さんにこの日ご用意頂いたのは、地元で採れたアイコや青コゴミ・ウルイなどのおひたしやタラの芽とウド・コシアブラなどの天ぷらduppuri_nerimono.jpg菜の花が添えられたヨモギとジャガイモの練り物の葛あんかけなど山菜中心のメニューでした。高台にある店の窓から「先だって田植えが終わったばかりです」と語る高橋さんの田んぼを見下ろしながら頂くのは自家製のひとめぼれ。高橋さんが手がけるのは、すべて米どころ宮城が誇る食味に秀でたこの品種です。よほど水の管理をしっかりされておいでなのでしょう、炊き立てのひとめぼれには、文字通り一目惚れする美味しさ。作り手と田んぼを目の前にしての食事は、豊かな農家の味そのものでした。

【PHOTO】手前より「ヨモギとジャガイモの練り物の葛あんかけ」と「煮付けたフキとニンジンの俵巻きアスパラのせ」。いずれも自然でやさしい味付けがされる(右写真)

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【PHOTO】コゴミの胡麻和え、ウルイとキクラゲ・もって菊の酢味噌和え、アイコのキムチ醤油味・・・。鳴子の地にようやく訪れた春の味を満喫できる素朴な料理が並ぶ(左写真)

 どぶろくは高橋さん自身が栽培した「ひとめぼれ」を、すぐ近所に湧出する温泉の「まつばら源泉水」で仕込んだもの。優良県産品推奨を受けたこの水は、飲用可能な純重曹泉の源泉をセラミックでろ過、さらに独自のミネラル還元装置を通したものだといい、ミネラルウオーターとしても販売されています。「かつてこのあたりでは、どの農家でもどぶろくを密かに造っていて、自分も子どもの頃にその味を覚えた」と笑う高橋さん。すると、居合わせた 60代と思しき男性客も「昔の農家では、みんなそうやってどぶろくを楽しんでいた」と相槌を入れます。うーむ、うらやましや古きよき時代。国税局の方、もう時効ですよね? (笑) 「仕上がったばかりで、もう少し経つと味にまとまりが出るのだけれど」と、地元の伝統工芸品である鳴子漆器の朱色のお盆に載せられた素焼きの酒器で出された自家製ひとめぼれのどぶろくは、どろりと濃厚で若干ピリピリとした口当たり。柔らかな酸味とコメ由来のほのかなでまろやかな甘味を備えています。どぶろくは上澄みを漉(こ)すことを禁止されており、よくかき混ぜて提供されるため、口の中ではしっかりと米粒が存在を主張します。発酵作用でアルコール度数が 12%程度に達する仕込みから 2週間を経過する頃が飲み頃というどぶろくは、酸味が出ないよう低温での管理が必要なため、冷蔵庫で仕込むのだそう。後を引く旨さのどぶろくを仕込む高橋さんには製造免許はあるものの、販売免許はないため、レストランで飲食用に提供する以外、持ち帰りはできません。
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 山菜料理の活き活きとした緑、朱色のぐい呑みで頂く純白のどぶろく。 ん? 緑と白と赤・・・。Verde,Bianco e Rosso...Brava!!  おお、偶然にもイタリア国旗と同じ「Italian Tricolore イタリアン・トリコローレ」な配色ではありませんか! 高橋さんは全く意図していないであろう私の前世の愛国心をくすぐる組み合わせにひとり勝手にご満悦。お土産に頂戴した「どぶろくプリン」ともども、素朴な田舎料理と共に頂いたどぶろくの味は、懐かしくも新鮮なものでした。

【PHOTO】「ひとめぼれ」で作った土風里のどぶろく。造り酒屋で味わう仕込み中の醪(もろみ)のように「どっぷり」とハマる味わい

 現在、鳴子地域では、土風里のほかに 2年前に製造免許を取得した川渡温泉の「旅館ゆさ」が「ひとめぼれ」を山中に湧く水でどぶろくに仕込み、鬼首地区で栽培した「ゆきむすび」を醸したどぶろくを提供する「鬼首ロッジ」も加わって、個性豊かなどぶろくを計3軒の施設で提供しています。今年1月に岩手県二戸で行われた「全国どぶろく研究大会」では、出品した17道県47銘柄の中から、鬼首ロッジのゆきむすびを使ったどぶろくが「濃醇(のうじゅん)」の部で製造開始4年目にして最優秀となった山形県飯豊町の「がまのどぶろく」に次いで、第2位(優秀賞)に輝きました。
 
 こけしと湯の町・鳴子に新たなコメにまつわる物語が生まれようとしているようです。
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農家レストラン 土風里 (どっぷり) 
宮城県大崎市鳴子温泉字蓬田124
季節料理 1,500円より  どぶろく1合 350円
TEL:0229-84-6641  ※完全予約制・1日限定20名
営:11:00-14:00 水曜・木曜定休

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※「ゆきむすび」の申し込み・問い合わせは
 鳴子の米プロジェクト事務局(大崎市鳴子総合支所 観光農政課 内)へ
 TEL:0229-82-2026 FAX:0229-82-2533 
 e-mail:n-kanko@city.osaki.miyagi.jp

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