あるもの探しの旅

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元気いっぱい!放牧牛

いわて山形村短角牛 牧場めぐり


 「夏山冬里」で飼育される短角牛の放牧が始まったというので、先月中旬、仙台市青葉区にあるイタリアン「Enoteca il Circolo エノテカ・イル・チルコロ」の吉田 克則シェフと岩手県久慈市山形町に出向いて牧場の牛たちを見てきました。

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【Photo】霧にかすむ久慈市短角牛基幹牧場

 庄イタが提唱し、生産現場を料理人と共に訪問するツアーは以前にも実施しています。2006年7月には、山形県庄内町の立谷沢川沿いでオーガニックなハーブと食用鳩を育てる「スパール」の山澤 清さんや、同町で発酵サイレージなどの粗飼料や安全な国産配合飼料を与えて飼育される庄内牛、だだちゃ豆の鞘や稲ワラを食べて臭みのない肉質に育つサフォーク羊を手がける鶴岡市羽黒町の「花沢ファーム」、同町で飼育されるキメの細やかな肉と美味しい脂身が堪らない山伏豚を扱う鶴岡市みどり町の「クックミートマルヤマ」などにご案内しています。

 これがきっかけで、山伏豚を店の看板メニューとして成長させた吉田シェフの声掛けで、そのとき同行されたのが、当時、太白区向山に店を構えて間もなかった「AL FIORE アル・フィオーレ」の目黒シェフと、青葉区一番町「IL CUORE イル・クオーレ」の渡辺シェフでした。高い志を持った生産者と安全で美味しい食材を求める意欲ある料理人を単なる食べ手の立場を越えて「繋(つな)ぐ」のも、それぞれにご縁が生まれた者としては嬉しいことです。

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 遠征には絶好の好天に恵まれたこの日。朝9時に東北道 泉PA・スマートICで合流した吉田シェフ家族の alfa 155と私のalfa Brera は、危惧されたマシントラブルもなく高速を北上、予約していた盛岡市の「パイオニア牧場 」(上写真)に予定より幾分早い時刻に到着しました。

 〝牧場〟とはいうものの、牧場併設のバーベキューハウスではなく、 (吉田シェフは最初そのように思ったのだとか...^ ^;) 盛岡市街中心部にあるれっきとしたレストランです。オーナーシェフの多田 久雄さんは、岩手の風土が生んだ短角牛に深い愛着を持ち、これまでその味を伝えてきました。多田シェフにこの日用意いただいたのは、短角牛の厚切りリブロースとサーロインのバーベキューセット。

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【Photo】レストランパイオニア牧場でのランチ「短角牛のリブロース(左)とサーロイン(右)、旬の野菜いろいろバーベキューセット」

 あれっ?? 短角牛の味わいのバリエーションを体感してもらうため、予約の電話では多田シェフにシチューなどの煮込みなども出してくれるようお願いしたのですが、すっかり抜けていたようです。モォ~、多田シェフったらぁ。

sig.tada_pioneer.jpg 【Photo】ある時は岩手短角牛の伝道師、またある時はレストラン「パイオニア牧場」のお茶目なシェフ、多田久雄さん

 いずれにせよ、ここはグリルする肉のファンタジスタ、「Nicuyakista ニクヤキスタ」を自認する吉田シェフの出番。一定期間、冷蔵で熟成させてグルタミン酸やイノシン酸などの旨み成分を増した庄内牛や山伏豚をいつも店で提供している肉のスペシャリストでもあるシェフに「餅は餅屋」と" 焼き奉行 "をお願いする流れに。オフだというのにモーしわけない!?

 グリルした短角牛を噛み締めると、深みのある旨みが肉汁と共に滲み出してきます。吉田シェフも改めて短角牛の「赤身」の魅力を再確認したようで、「脂がしつこくないですね」とも。自然放牧で傾斜地の草原を移動しながら肥育される短角牛は、もとより脂肪分が少ないのですが、脂自体のしつこさがないため、食べ疲れすることがありません。

 持ち帰り用にと打診した自家製ビーフシチューの缶詰めは残念ながら在庫切れとのこと。すべて自分の手作業で缶詰めまでこなすため、「あれ作るのって、大変なの」と笑う多田シェフ。牛肉の旨みに溢れた短角牛のシチューは、フルボディなカベルネ系の赤ワインとよく合います。

 聞けば、今食べた肉は久慈市山形町にある短角牛専門の精肉店「食考房 北風土」〈Link to Backnumber〉から仕入れたものだそう。その北風土の佐々木 透さんとは、放牧場で翌日お会いすることになっていました。夕食を弘前のイタリアン「ダ・サスィーノ」で予約していた私たちは、多田シェフに見送られ、さらに北を目指しました。

【Photo】久慈市短角牛基幹牧場で放牧が始まった短角牛の親子。生後間もない毛羽立った子牛のかわいいこと!
bambinitankaku.jpg  海から吹き付ける冷たい東風「ヤマセ」の影響からか、八戸道を東に移動するに従って空模様がどんよりとしてきた翌朝。九戸(くのへ)IC近くの道の駅「おりつめ」で待ち合わせした佐々木さんの先導で久慈市山形町荷軽部にある「久慈市短角牛基幹牧場」を訪れました。

 肉付きの良い牛を集めるため、「エリート牧場」とも呼ばれるそこへは、牛舎へ牛を戻す「山下げ」直前の昨年10月以来の再訪です。海抜400m以上と標高が 高いため、5月なかばとはいえ肌寒さすら感じます。牧草地の中を進みながら「フンを踏んだら大変なので、足元に注意して下さい」とオヤジギャグをかます佐々木さん。確かに、あちらこちらにエリートたちが残した地雷が落ちています。侮るなかれ、この有機肥料は、牧草と土を肥やすミミズなどにとっての大切な養分となるのですから。これぞ資源低投入循環型畜産。

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【Photo】 放牧期間中の牛たちの主食は天然の青草

 5月9日に牛舎から放牧場に牛を移す「山上げ」をされたばかりの短角牛たちは、60 ヘクタールにも及ぶ広大な牧草地の思い思いの場所を移動しながら草を食み、あるいはリラックスしている状態で行うという反芻(はんすう)をしながら座り込んで寛いでいる様子。放牧中に自然交配される短角牛の出産シーズンは2月から3月にかけて。生まれてまだ間もない子牛は、甘え盛りで、母牛からあまり離れようとはしません。飼育環境が山あいの傾斜地のため、おのずと運動量が豊富になる放牧牛は、舎飼いの牛と比べて心臓が大きくなるそうです。

 佐々木さんが営む北風土で冷凍保管されている成牛の心臓を見せていただきましたが、私の拳ふたつ分ほどの大きさでした。高地トレーニングを積むアスリートと同じで、放牧中の短角牛は心肺機能が発達、心拍数が減少する一方、赤血球が増えて余分な脂肪の蓄積が抑制されるのだそう。これは、逆に出荷を控えた牛舎での肥育段階で与えられる粗飼料や配合飼料の吸収効率が上がる効果もあるのだといいます。

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【Photo】すぐにそれと判るたくましい体躯の種牛(中央)が、一頭のメスの後をついて離れない。実に職務に忠実なエリート君。健康な肉牛を提供してくれるよう、産めよ増やせよ、ってか

 母牛と子牛合わせておよそ200頭が放牧されている中で一頭しかいないオスの種牛は、ガッシリと体が一回り大きく一目瞭然。ストレスフリーな自然環境の中では、繁殖率も上がるらしく、メスの分娩間隔が短くなる傾向があるそうです。発情牛が発する匂いに誘われるのか、マッチョな種牛が一頭のメスの後を追うようについてゆきます。佐々木さんの話では、ハーレムさながらの環境に置かれた種牛は、山下げの頃になるとゲッソリしているのが解るといいます。(笑) 種付けの激務がたたるためか、去勢した牛と比べて種牛は寿命が短いのだそう。両手に花の? 種牛に「男はつらいよ」と声を掛けたくなりますが、ヤツは"トラさん"ではなく、"ウシさん"なのでした...(爆)。

【Photo】佐々木さんが厚い信頼を寄せる肥育農家のひとり、落安兼雄さん。「牛が可愛くてね」と目を細める

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 すっかり体が冷えてしまったところで車に戻り、ヒエやアワなど雑穀類を脱穀・製粉するためにこの地域で伝統的に作られてきた「バッタリ」こと水車小屋を復活させた「バッタリー村」を通り抜けて、出荷を控え牛舎で肥育中の短角牛も視察。その足で北風土に立ち寄り、ストーブで暖をとりながら作業場での佐々木さんと吉田シェフの食談義が始まりました。

 出荷価格に高値がつき肥育農家にとって収益性が高い黒毛和牛、それもA-5ランククラスの銘柄牛の人気が日本では高いですね。つい最近も岐阜の「飛騨牛」において、偽装が疑われる事例がありました。そんな霜降り信仰が支配する市場では出荷価格が引く抑えられがちな短角牛(黒毛A-2ランク程度の枝肉価格だといいます)を大切に守り育てる生産者に惚れ込んで北風土を立ち上げたという佐々木さん。

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【Photo】北風土の作業場で思いのたけを語り合う佐々木さん(右)と吉田シェフ(左)

 20年前、北東北3県と北海道で2万2千頭あまりが飼育されていた短角牛のメスは、今や6千頭ほど。採算性を理由に黒毛に切り替える生産者が後を絶ちません。一部では枝肉価格の向上を目的とした黒毛和牛との交雑(F-1化)がなされ、純血種の希少性は増しています。北風土では、飲食店との取引きに際して、まず料理人に飼育現場に足を運んでもらい、互いに顔の見える関係でパートナーシップを築きたいと語ります。

 吉田シェフは短角牛一筋の情熱家、佐々木さんの熱い語りに魅せられたようで、一時間以上に及んだ語らいの末、晴れて取引き成立。今回もこうして新たなご縁を繋ぐことができました。今月から屠畜・枝肉加工後4週間熟成させた24ヶ月月齢から28ヶ月月齢の食べ頃を迎えた短角牛を新メニューがエノテカ・イル・チルコロに登場しています。

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【Photo】 アラカルトはもちろん、プリフィクスのディナーコースでもチョイス可能な山形町産短角牛の煮込みグレモラータ風味。重過ぎない味付けのグレモラータソースが短角牛の個性を最大限に引き出してくれる。付け合せは吉田シェフがおまけしてくれた特別栽培米ササニシキのグリーンピースリゾット

 リブロースの煮込みグレモラータ風味と、未食ながらニクヤキスタが本領発揮する炭火でグリエするビステッカがそれです。鶏のブロードを使用した短角牛の柔らかな煮込みは、味覚中枢を至福の喜びで満たす肉の芳香がムンムン。細かくスライスしてオイルで炒めた玉ネギ・ニンジン・セロリに、レモン果皮の砂糖漬けと少量のニンニク・パセリで香り付けした Gremolata グレモラータソースが爽やかな柑橘系の香りを添えてくれます。仙台で由緒正しき山形町産のエリート短角牛が頂ける店はそうはありません。
百聞は一食にしかず。andiamo!(= Let's go!

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レストランパイオニア牧場
※現在は移転し「レストラン PIONEER FARM」として営業中
住) 盛岡市本町通2-1-34
Phone:019-656-6224
営) 11:30~14:30
   17:30~22:00(L.O.21:30)

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※現在は「カフェ・エ・デリ・チルコロ」に業態変更
Enoteca il Circolo エノテカ・イル・チルコロ
住) 仙台市青葉区国分町1-7-10 SKビル1F
phone/fax : 022-227-0180
休) 日曜・祝日 
営) 12:00 - 13:45(火~土)
    18:00 - 23:00(L.O.22:00)
◎アラカルトメニュー(ディナータイムのみ

岩手県久慈市山形町産短角牛の煮込みグレモラータ風味  2,800円
同上   ビステッカ(炭火焼ステーキ)   3,900円


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コメント

庄内系イタリア人さん いつもお世話様です。

少々補足と修正です。グレモラータは、玉ねぎ・人参・セロリのみじん切を良く炒めたもの(いわゆるソフリットです)を 白ワイン・ブロード(ブイヨン)で煮込みます。
調理の仕上げでレモンピール・にんにく・パセリのみじん切で香りをつけます。
仔牛の骨付すね肉の煮込料理、「オッソブーコ ミラノ風」と同様の調理法を用いています。

▼ニクヤキスタ様

牛肉の煮込みにありがちな重い味付けの赤ワイン煮にせず、グレモラータ風味を選択されたシェフの慧眼ぶりに敬服しました。ご指摘いただいた箇所は直しておきました。ありがとうございます。

さて、次回お題は岩ガキと湧水でしょうか。オプションで遊佐のパプリカ名人と月山山麓のだだちゃ豆名人のもとを探訪してもよいかも。前回は覗けなかった幻のプレノアール&比内地鶏など食べることを前提にしたバードウォッチング(?)もいいカモ。

いずれにせよ官能的なエンジン音を奏でるように155 の出撃態勢は整えておいて下さい。こちらもブレ子を手なずけておきますので。 しかーし、山形自動車道も最高速度は80キロです ・・・(*ε*) incredibile in Italia !

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