あるもの探しの旅

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どぶろく特区@鳴子

農家レストラン土風里
 そして 鳴子の米プロジェクト

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【PHOTO】
大崎市街からR47を鳴子温泉に向かって江合川の対岸、小高い丘の上にある農家レストラン「土風里」からのうららかな春の眺め

 雪解けとともに巡ってくる山菜の季節。長い冬の眠りから目覚めた大地と木々の恵みである山菜には、強い香りと特有のアク、苦味があるものがあります。先人は冬の間に代謝が鈍って澱んだ体の細胞から毒素を排出する効果があるとされる山菜の働きを知ってか知らでか、コゴミ・ウド・ゼンマイ・ワラビ・ミズ・アイコなどの山菜を口にしてきました。甘味が多くなるよう人為的に生み出された野菜や、最近増えている人の手で栽培された山菜と比べて、山に自生する山菜は、雪と氷に閉ざされる冬の終わりとともに一斉に芽吹き始める生命のエネルギーを感じさせてくれます。

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【PHOTO】土風里(奥の建物)へと向かう小道沿いの斜面にも料理に使われる山菜があるのだという

 秋田・山形と県境を接する宮城県大崎市鬼首(おにこうべ)への出張を控えた先日、仕事のパートナーとなる滋賀と東京からの客人をご案内しようと、出張の下見で近場の鳴子温泉郷を訪ねました。ひとつの温泉場としては、日本一多彩な泉種を誇る鳴子温泉郷。地域資源を活かして地域おこしをしようという構造改革特区計画の一環として、温泉と自然・食文化などを組み合わせた「鳴子温泉郷ツーリズム特区」が、2004年(平成16)6月に国から認可を受けました。 国の規制緩和によって、民宿や飲食店を併せ営む稲作農家が、自ら生産した米を原料に濁酒(通称:どぶろく)製造の免許を取得する際、製造数量の制限が撤廃されたのを受け、鳴子町で農業を営んでいた高橋 直子さんが宮城県内初の製造免許を取得、「どぶろく特区」として認定されたのが2005年(平成17)4月のこと。同年5月、どぶろくが飲める宮城県内初の飲食施設となる農家レストラン「土風里(どっぷり)」はオープンしました。
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【PHOTO】土風里で提供するお米「ひとめぼれ」が育つ高橋さんの水田。コメが育つ田んぼを見渡しながら田舎料理を味わえるのは農家レストランならではの贅沢
 
 出張の下見とはいうものの、今回の遠征のもうひとつの目的は、この農家レストランを訪れること。1899年(明治32)に自家用酒税法の廃止で自家製造が禁止されて以降、かつては密造酒の代名詞だったどぶろく。旬の山菜を使った田舎料理もさることながら、白昼堂々と飲めるどぶろくを提供するという土風里には、かねがね行きたいと思っていたのです。小泉政権下の規制緩和の流れを受けて、各地でどぶろく特区が誕生しました。" 地方切捨てだ " との声も聞かれた小泉構造改革ですが、岩手県遠野に端を発したこの動きによって、表向きは100年以上の長きに渡って途絶えていたどぶろくの味が再び楽しめるようになったことは、素直に喜ぶべきだと思いませんか? 日本人の主食であるコメ文化の副産物とも言うべきどぶろくが鳴子の地で飲めることは、とりわけ喜ばしいことだと私が考えるのには少々訳があります。

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【PHOTO】荒雄岳の北東側に位置し、鬼首でも最も奥地にあたる岩入(がにゅう)集落に、2007年9月30日、地元の旅館関係者や県外の支援者らを招いて行われた稲刈り交流会

 肥沃な大崎耕土が広がる一大穀倉地帯、宮城県北の大崎市でも、鳴子地区は奥羽山脈の山懐に位置する県内最北の内陸部に位置します。仕事を通してご縁が生まれた鬼首は、鳴子温泉郷からさらに山あいの奥地にあり、日照時間の少なさと夏でも冷涼な気候によって、たびたび冷害に襲われた地域。かつては"うまい米はできない"とまで言われてきました。そんな鳴子や鬼首の稲作農家に光が射したのは、2001年(平成13)に宮城県古川農業試験場で誕生した新品種「東北181号」を試験的に導入した2006年(平成18)から。東北181号は、5月中旬過ぎに田植えをしても9月末には収穫可能な早生種で、優れた食味は優良銘柄米の「ひとめぼれ」に勝るとも劣らないとまでいわれます。加えて低アミロース米特有の粘りとコシは、冷めても失われることはありません。yukimusubi_kobir.jpg

 炊きたてはもちろんのこと、仕出し弁当やおにぎりで食べても美味しい用途が広いコメだと言えるでしょう。耐冷性・耐病性に優れた山間高冷地栽培に適したこの新品種を鳴子地域でも気候条件が厳しい鬼首など山間地に位置する3軒の農家の水田30アールで始まった取り組みは、「鳴子の米プロジェクト」と名付けられました。

【PHOTO】稲刈りと杭がけがひと段落したところで、ちょっと一服。地域のお母さん達が用意した東北181号のおにぎりなど、心尽くしのご馳走が振舞われる伝統的な農作業の休憩時間を指す「小昼(こびる)」が再現された

 コメの消費減少と米価下落を受けて、消費者重視・市場原理重視の考え方のもと、需要に即応した米づくりの推進を通じて、水田農業経営の安定と発展を目指すため、2002年(平成14年)に農水省が定めた「米政策改革大綱」。コメ余りのもとで霞ヶ関のお役人が定めたこの施策は、市場原理によって米価の下落に一層の拍車がかかる結果を生みました。コメを作った対価として農家が手にする額を指す生産者米価は、必要経費を差し引くと、もはや赤字の状態。大綱では「平成22年度までに農業構造の展望と米づくりの本来あるべき姿の実現を目指す」というものの、命をつなぐ食べ物、しかも日本人の主食であるコメ作りの担い手である農家の将来には、明るい展望は開けないままだと言わざるを得ません。 【河北新報朝刊連載の「田園漂流~東北・兼業農家のあした」を参照願います】

【PHOTO】県のアクティブシニア・ビジネスコンテストで起業モデルに認定された土風里を切り盛りする高橋 直子さん(右下)。開業4年目を迎えてどぶろく作りの腕にも磨きがかかる

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 日本の農村、なかでも高齢者が多い中山間地域では、いま耕作放棄地が急速に広がっています。鳴子の米プロジェクトでは、農家が生活を維持し、コメ作りを続けられる生産者米価をあらかじめ 1俵(60kg)当たり 18,000円と算出。農家には5年間この手取り額を保障しています。作り手の生産意欲と若干の利幅を確保した上で、営農希望の若い世代を受け入れる受け皿を地域に作るための社会資本整備の資金や、輸送・保管などの必要経費を1俵当たり 6,000円上乗せして設定した1俵当たり 24,000円(玄米5kg 2,000円・白米同 2,100円)で購入希望者からの事前申し込み制を採っている点が大きな特徴です。

 使用する農薬を地域慣行の半分に減らし、収穫後は棒がけによる天日干しをするという栽培条件で、3軒の農家から始まった鳴子の米プロジェクト。二年目だった昨年は、5月末に地元の旅館関係者や県内外の購入希望者を招いて田植え交流会を実施しました。作付けも 20軒の農家 3ヘクタールの水田へと 10倍に広がり、収穫された180俵は予約完売。秋には購入予約者を招いての稲刈り・くい掛け交流会が催され、地域との交流も生まれています。 doppuri_inside.jpg昨年末に「ゆきむすび」という品種名が付いた東北181号は、こうして"食べ手が作り手を支え続ける"という新たな相互の結びつきを生みました。地域の農家に希望の光を灯したゆきむすび。今年は35軒の稲作農家が合計 10ヘクタールの水田でコメ作りに取り組んでいます。

【PHOTO】古民家の部材を利用した土風里。高い天井の吹き抜けに渡された太い梁(はり)、宮城県北に伝わる釜神の面、鳴子漆器の組膳、代々伝えられた酒器。黒光りする魚形の大きな横木と囲炉裏

 こうして、鳴子では日本の農のあり方を根本から変えるかもしれない新たな胎動が始まっています。その地で日本のコメ文化が生んだどぶろくを地域の恵みと共に頂けるというのは、象徴的な意味を持っています。高橋さんにこの日ご用意頂いたのは、地元で採れたアイコや青コゴミ・ウルイなどのおひたしやタラの芽とウド・コシアブラなどの天ぷらduppuri_nerimono.jpg菜の花が添えられたヨモギとジャガイモの練り物の葛あんかけなど山菜中心のメニューでした。高台にある店の窓から「先だって田植えが終わったばかりです」と語る高橋さんの田んぼを見下ろしながら頂くのは自家製のひとめぼれ。高橋さんが手がけるのは、すべて米どころ宮城が誇る食味に秀でたこの品種です。よほど水の管理をしっかりされておいでなのでしょう、炊き立てのひとめぼれには、文字通り一目惚れする美味しさ。作り手と田んぼを目の前にしての食事は、豊かな農家の味そのものでした。

【PHOTO】手前より「ヨモギとジャガイモの練り物の葛あんかけ」と「煮付けたフキとニンジンの俵巻きアスパラのせ」。いずれも自然でやさしい味付けがされる(右写真)

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【PHOTO】コゴミの胡麻和え、ウルイとキクラゲ・もって菊の酢味噌和え、アイコのキムチ醤油味・・・。鳴子の地にようやく訪れた春の味を満喫できる素朴な料理が並ぶ(左写真)

 どぶろくは高橋さん自身が栽培した「ひとめぼれ」を、すぐ近所に湧出する温泉の「まつばら源泉水」で仕込んだもの。優良県産品推奨を受けたこの水は、飲用可能な純重曹泉の源泉をセラミックでろ過、さらに独自のミネラル還元装置を通したものだといい、ミネラルウオーターとしても販売されています。「かつてこのあたりでは、どの農家でもどぶろくを密かに造っていて、自分も子どもの頃にその味を覚えた」と笑う高橋さん。すると、居合わせた 60代と思しき男性客も「昔の農家では、みんなそうやってどぶろくを楽しんでいた」と相槌を入れます。うーむ、うらやましや古きよき時代。国税局の方、もう時効ですよね? (笑) 「仕上がったばかりで、もう少し経つと味にまとまりが出るのだけれど」と、地元の伝統工芸品である鳴子漆器の朱色のお盆に載せられた素焼きの酒器で出された自家製ひとめぼれのどぶろくは、どろりと濃厚で若干ピリピリとした口当たり。柔らかな酸味とコメ由来のほのかなでまろやかな甘味を備えています。どぶろくは上澄みを漉(こ)すことを禁止されており、よくかき混ぜて提供されるため、口の中ではしっかりと米粒が存在を主張します。発酵作用でアルコール度数が 12%程度に達する仕込みから 2週間を経過する頃が飲み頃というどぶろくは、酸味が出ないよう低温での管理が必要なため、冷蔵庫で仕込むのだそう。後を引く旨さのどぶろくを仕込む高橋さんには製造免許はあるものの、販売免許はないため、レストランで飲食用に提供する以外、持ち帰りはできません。
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 山菜料理の活き活きとした緑、朱色のぐい呑みで頂く純白のどぶろく。 ん? 緑と白と赤・・・。Verde,Bianco e Rosso...Brava!!  おお、偶然にもイタリア国旗と同じ「Italian Tricolore イタリアン・トリコローレ」な配色ではありませんか! 高橋さんは全く意図していないであろう私の前世の愛国心をくすぐる組み合わせにひとり勝手にご満悦。お土産に頂戴した「どぶろくプリン」ともども、素朴な田舎料理と共に頂いたどぶろくの味は、懐かしくも新鮮なものでした。

【PHOTO】「ひとめぼれ」で作った土風里のどぶろく。造り酒屋で味わう仕込み中の醪(もろみ)のように「どっぷり」とハマる味わい

 現在、鳴子地域では、土風里のほかに 2年前に製造免許を取得した川渡温泉の「旅館ゆさ」が「ひとめぼれ」を山中に湧く水でどぶろくに仕込み、鬼首地区で栽培した「ゆきむすび」を醸したどぶろくを提供する「鬼首ロッジ」も加わって、個性豊かなどぶろくを計3軒の施設で提供しています。今年1月に岩手県二戸で行われた「全国どぶろく研究大会」では、出品した17道県47銘柄の中から、鬼首ロッジのゆきむすびを使ったどぶろくが「濃醇(のうじゅん)」の部で製造開始4年目にして最優秀となった山形県飯豊町の「がまのどぶろく」に次いで、第2位(優秀賞)に輝きました。
 
 こけしと湯の町・鳴子に新たなコメにまつわる物語が生まれようとしているようです。
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農家レストラン 土風里 (どっぷり) 
宮城県大崎市鳴子温泉字蓬田124
季節料理 1,500円より  どぶろく1合 350円
TEL:0229-84-6641  ※完全予約制・1日限定20名
営:11:00-14:00 水曜・木曜定休

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※「ゆきむすび」の申し込み・問い合わせは
 鳴子の米プロジェクト事務局(大崎市鳴子総合支所 観光農政課 内)へ
 TEL:0229-82-2026 FAX:0229-82-2533 
 e-mail:n-kanko@city.osaki.miyagi.jp

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