あるもの探しの旅

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めづらしや山をいで羽の初茄子

松尾 芭蕉も愛でた丸小ナス「民田ナス」

 今からちょうど319年前の今日、1689年(元禄2)7月26日(陰暦6月10日)、奥の細道を訪ねる旅の途中で、松尾 芭蕉は出羽三山を詣でた後に鶴岡を訪れました。そこで芭蕉は城下の山王町、現在も長山小路と呼ばれる細い路地の一角に居を構えていた庄内藩士 長山 重行の屋敷に招かれます。俳句を嗜む重行は、江戸勤めをしていた折に深川に暮らす芭蕉と交友がありました。同行した曾良ら芭蕉の門人が集ってその夜催された句会で芭蕉が詠んだのがこの一句です。

 めづらしや山をいで羽の初茄子

【Photo】 芭蕉が滞在した長山重行邸跡(鶴岡市山王町)
《備考》 蛇足ながら現在そこにはなぜか「バナナハウス」という名のアパートが建っている。
せめて「ナスビハウス」にしてほしかった・・・?(笑)

mindenynagayama.jpg この句に登場する「初茄子(はつなすび)」が今回のお題、「民田(みんでん)ナス」です。山頂まで登った月山をはじめとする酷暑の中の山歩きよる疲れで、鶴岡滞在中の3日間は体調が優れなかったという芭蕉。俳聖をもてなす食膳に粥とと共に供された民田ナスは、旬真っ盛りならではの軽く塩で漬けた浅漬けだったに違いありません。初めて目にする民田ナスの小ぶりでコロンとした丸い形状と、パキッとした歯ごたえが、よほど芭蕉の心をとらえたのでしょう。在来作物の宝庫・庄内地方産の伝統野菜でも、だだちゃ豆と並んで有名なのが、この可愛らしい丸ナスかもしれません。

 昨年出版された「どこかの畑の片すみで」(山形在来作物研究会編)によれば、1908年(明治41)、東京で開催された蔬菜(そさい=「野菜」の意)展覧会に出品された民田ナスが表彰を受けたことで、全国の研究者から注目され、大正・昭和と多くの園芸書に登場したことで広く名が知られるようになったのだといいます。藤沢 周平の原作では「茄子」とだけ記され名前が登場しないものの、黒土 三男監督の映画「蝉しぐれ」では、緒方 拳が演じた牧助左衛門が組屋敷の菜園で育てていた丸小ナスは民田ナスの設定でした。2005年の封切りに先立って前年の9月に訪れた同市羽黒町松ヶ岡のオープンセットの庭に植えてあったのも、民田ナスのように見受けました。【注】
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【Photo】 民田地区の外れにある畑の2畝(うね)で栽培されていた民田ナス越に望む金峰山

 鶴岡を流れる赤川の分流「青龍寺川」と「内川」に挟まれた地区が「民田」です。鶴岡南バイパスから水田が広がる民田地区の平坦な地勢を車窓越しに眺めることができます。この一帯は、かつては暴れ川だった赤川の左岸にあたるため、砂利が多い土壌で、地下水が地中の浅い位置にあるのだといいます。隣接する「外内島(とのじま)」や「小真木(こまぎ)」を中心に鶴岡周辺で今も栽培が行われる民田ナスの由来は定かではありません。一説では「茄子太夫」なる神職が伝えたものとも、京都から流れてきた宮大工がこの地に種を持ち込んだものともいわれます。民田地区から青龍寺川を渡った目と鼻の先の西側には、古来より山岳信仰の山として知られる「金峰山(きんぼうさん)」の参道へと続いています。

 京都の伝統野菜では、大柄な丸ナス「賀茂ナス」が有名ですが、ヘタとの境界の実が白くなる小ぶりな形状や硬い外皮と締まった果肉などの特徴を備えている「椀(も)ぎナス」は、民田ナスとの類似性が認められます。ひょとすると、慶応年間から明治初期にかけて京都聖護院で選抜された「椀ぎナス」の原種が、民田ナスのルーツなのかもしれませんが、DNA鑑定でもしない限り、今となっては知る由もありません。
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【Photo】 さまざまな大きさで並んだ民田ナス。鶴岡市羽黒町狩谷野目の今野 惠子さんが害虫忌避剤として唐辛子の希釈液を撒くなど、手間のかかる有機無農薬栽培で育てたもの。ここで一句「ありがたや羽黒いで羽の丸茄子」・・・お粗末。「あねちゃの店」で取り扱う

 民田ナスの特徴である硬い外皮と締まった肉質を愛でるには、もぎたてを浅漬けで頂くのが一番。漬物に向くのは、せいぜい長さ3~4センチ、重さ15グラム程度の小さなものです。まだ小さいからといって、未熟なわけではありません。夏の庄内特有の強い日差しを浴びて育つ民田ナスは、わずか1日収穫時期を逃すだけで、ひとまわりもふたまわりも大きくなって、香りが飛んでしまうのだとか。主な用途となる加工用の需要は小ぶりなナスに限られるため、大きくなった民田ナスは、流通サイドの論理で「規格外」という理不尽なレッテルを貼られたにせよ、煮物や素揚げとして美味しく頂けます。組成の94%が水分からなるナスの栽培には、こまめな水遣りが欠かせません。米沢の在来種「窪田ナス」を選抜して後世登場した「梵天丸小ナス」や「薄皮丸小ナス」の系統とされる旧朝日村産の「沖田ナス」などと比べて虫がつきやすいため、現在では民田ナスから他の品種に切り替える農家が多くなっています。

 仙台市青葉区の勾当台公園市民広場を会場に、ほぼ毎月第3木曜日に合同定期市を開催しているのが、NPO法人「朝市夕市ネットワーク」です。安全な農産物・加工品を届けようという意識が高い生産者が集う、この青空市に鶴岡市民田から軽トラックでやってくるのが五十嵐 正谷さん・京子さんご夫妻。会話の中で庄内ローカルな単語(地名・食べ物etc)を連発する私とはすっかり顔なじみです。「旬菜畑」ブランドの豆餅や赤カブ漬けなど、旬の庄内の味をいつも届けてくれる五十嵐さんによれば、民田の農家では、稲作のかたわら、近隣の農家向けに販売する民田ナスの苗作りが盛んだったのだそう。しかしながら、実際に民田を訪れても、集落内ではほとんど民田ナスを栽培している畑を見かけません。
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【Photo】鶴岡協同ファームの民田ナス畑。「日本一!」の看板はご愛嬌

 民田の西隣、高坂地区には山形大学農学部の演習農場があり、その通り向かいに"日本一!「民田なす」の栽培面積"という看板が立つ鶴岡協同ファームのナス畑があります。地域特有の作物である在来野菜の作付け面積が日本一と言われても苦笑するしかないのですが、その志は立派なもの。なぜなら畑の持ち主、鶴岡協同ファームの代表、五十嵐 一雄さんは、自分が生まれた集落の名前が付いた伝統ある民田ナスが、お膝元でほとんど作られていない状況に疑問を感じ、2003年(平成15)から地元で栽培を始めました。連作障害が出やすく、害虫にも弱いため、高度経済成長が始まった頃から、徐々に安価な中国や韓国で生産された丸小ナスが漬物の加工用として用いられるようになっていたのです。こうした経緯は、仙台名産の「仙台長ナス漬け」でも起きたこと。最近は日本の食料自給率の低さとフードマイレージのズバ抜けた高さがやっと問題視されるようになりました。仙台の味として名高い牛タン焼きもそうですが、原料のほとんどを輸入に依存する名産品って、「なんだかなー」と感じてしまいます。仕入れ原価を抑えて利益を上げようという経済効率を重んずる価値観が跋扈し始めたこの時代以降、日本中でこうしたことが平然と行われてきました。
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【Photo】 収穫期真っ盛りの7月、民田ナスは次々と花を咲かせては実をつける
 
 6月、地植えして間もない民田ナスの茄子紺色の根元を見ると、接木がされているのがわかります。これは連作障害を避けるための処理。収穫期を迎えるころに咲き始める薄紫の花の黄色い花粉が付いた雄しべには、蜜蜂が飛んできます。その八角形の花の蕾は、茎から枝分かれした長いヘタが始めから下向きに付くのが面白いところ。はにかむようにうつむき加減で下を向いて咲く淡い紫の花の姿には、いじらしさを感じませんか? やがて結実する黒光りする実がリリー・フランキーの漫画「おでんくん」に登場する「ガングロたまごちゃん」にどこか似ている(「つみれちゃん」とも似ているかも・・・)ように思うのは私だけでしょうか。(「ガングロ・・・」が思い浮かばない方はコチラをどうぞ)

 民田ナスが、おでん鍋の中ですっかり煮染まったガングロたまごちゃんと違うのは、夏の庄内の食卓に欠かせない人気者である点。民田に最も近い鶴岡市外内島にある「産直もえん」や、同市西荒屋の「産直あぐり」、量り売りをしてくれる同市羽黒町狩谷野目「あねちゃの店」などで、まずはプリプリの民田ナスを入手しましょう。塩とミョウバンを加えて手揉みした採れたての民田ナスに水を加えて加圧すれば、半日から一日で浅漬けが出来上がります。鮮やかな青みが加わった浅漬けは、新鮮さが命ゆえ、召し上がるのはよく冷やしてお早めに。保存食としても活躍する民田ナスは、庄内町(旧余目町)特産のカラシ菜を使って加工される辛子漬けや、藩政時代以来の酒どころ鶴岡市大山地区で造られる酒粕漬け、味噌付けやたまり漬けなどとして、地元以外でも広く知られるようになりました。

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【Photo】 今野さんの民田ナスを仕込んだ自家製の浅漬け

 最もポピュラーな辛子漬けは、鶴岡で130年の暖簾を守る老舗「佐徳」の創業者、佐藤 徳次郎が1877年(明治10)に商品化したもの。1908年(明治41)に創業し、今年で創業100周年を迎える鶴岡市大山の「本長」の粕漬けは、仙台などの主要百貨店でもよくみかけます。観光で鶴岡を訪れた際には、都市間バスのターミナルにもなっている鶴岡IC近くの「庄内観光物産館」を訪れて下さい。試食サンプルをつまみながら、好みの製品を選ぶことができます。
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【Photo】月山パイロットファームの民田茄子からし漬け特別仕様

 個人的に最も美味しいと思う民田ナスの漬物は、以前も登場した鶴岡市三和の農事法人「月山パイロットファーム」製の「民田茄子のからし漬け特別仕様」です。私が敬愛するエコファーマー相馬 一廣さんは、1977年(昭和52)に月山山麓の未開地の開墾に着手、永年に渡る試行錯誤と研究の結果、輪作と緑肥の活用による独自の無農薬栽培法を確立しました。ご子息の大(はじめ)さんと共に栽培サイクルの中で自家栽培する民田ナスを塩蔵後、同じく自作するカラシ菜とササニシキを「竹の露酒造」に委託醸造してもらう吟醸酒(残念ながら(笑)非売品。うまいんだ、これがっ!!の酒粕を塩抜きのために加えたもの。添加物を全く使わないために日持ちはしませんが、それが自然の摂理。Non-GMO(「非遺伝子組み換え食品」)ゾーンを示すヘタウマな手書き看板が立つ雑草だらけの畑から採れる野菜は、どれも安全で美味しいものばかり。発酵によって旨みを増した素材の持ち味を活かした自然な味を知ってしまうと、蛍光色に近い色をした漬物など、到底食べられなくなってしまいます。一部の生協や特定消費者団体との直販システムのため、簡単には入手ができないのが唯一玉にキズですが、かつてイタリアにご一緒したご縁もあり、顔を出すたびに買わせていただいています。(いつもオマケして頂いてもっけです~
今年も間もなく赤川花火大会とだだちゃ豆の季節がやってきます。また伺いますね、相馬さん。

※「スピンオフな民田ナスのパスタ」に続く

【注】 藤沢 周平の生家は、東田川郡黄金村大字高坂(現在の鶴岡市高坂)にあった。すでにその家は取り壊されて現在は空き地になっている。唯一の名残りは「藤沢周平 生誕之地」と刻まれた石碑のみ。今は山形自動車道によって分断されているものの、民田とは青龍寺川を挟んで目と鼻の先。農家に生まれ育った藤沢 周平にとって、民田ナスは馴染み深い郷里の味だった

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コメント

庄内系イタリア人さん、初めまして~!!
庄内観光物産館のひよっこです。

夏なので民田なすの時期ですよねぇ!!
丸ナスの漬物、私も大好きです!!
機会がございましたら、当館までお越し下さい。

お待ちしております♪

▼ひよっこ店長さま

 あの庄内観光物産館の店長さまですかぁ。コメントを頂けて嬉しいです。いつもお世話になっております。実はこの21日にも伺ったばかりです。

 菅原さんや魚神さんでは庄内浜の旬が一目瞭然なので助かります。
 赤ワインのツマミには本長さんの「藤沢カブ甘酢漬け」や、辛味が効いた一霞組合の「温海カブ甘酢漬け」をよくカブりついています。
 ビールのツマミにはフリーズドライでも香りが楽しめる「殿様のだだちゃ豆」がピッタリ。(そろそろ「生」だだちゃの旬ですね!!)
 21日は暑かったので、日本酒コーナーで渡會本店さんの発泡性の日本酒「出泡羽酒」を見つけて、「夏にピッタリじゃん♪」と買わせて頂きました。ラベルデザインがサイダーみたいなので、会社で飲めちゃうかも…(^.^)_U
 
「機会がございましたら」とのことですが、次回は赤川花火大会にあわせて行きますよ~

庄内系イタリア人さん、いつもお世話様でございます♪
21日もいらっしゃっていただいたんですか???有難うございますぅ~!!

出泡羽酒はシャンパンのような爽やかな発泡清酒ですよね!!
本数限定品なので早い者勝ちです♪
会社で飲んだらかえって仕事が、はかどるかも!? (゚~゚;)

赤川の花火大会、10日ですよね♪
実は物産館も毎年恒例、河原のところに出店するんです!!

庄内系イタリア人さんの又のご来店、心よりお待ちしております。

P.S.岩がき最高☆★☆

▼ひよっこ店長さま

赤川花火大会は確かに「感動日本一」だと思います。音楽とシンクロする赤川の花火が残す感動と余韻は、選曲のセンスがイマイチな上、行き帰りの大渋滞でゲッソリする某・大曲の比ではありません。(完璧な演出だった3年前のエンディング「You raise me up」の感動が今も蘇ります(T-T )(T-T)( T-T))
鶴岡が日本一なのは、民田ナスの栽培面積だけではありませんよね(笑)。

「to be loved 」がテーマの今年も楽しみに伺います。でも、河川敷の出店で働く方たちって、花火をちゃんと観ることができるのでしょうか?
ちょっとお気の毒・・・。

P.S.岩がき最高☆★☆ ⇒ 激しく同意します

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