あるもの探しの旅

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今年も当たり年?

ボジョレー・ソードーは日本固有のお祭り

 恒例行事の観を呈するボジョレー・ヌーボー商戦がヒートアップする季節がそろそろやって来ます。Lyon リヨンの北方、ブルゴーニュ南部のボジョレー地区では、花崗岩土壌に適合したGamey ガメイというブドウの収穫が8月末から9月にかけて行われます。

 ヌーボーは通常のワインの仕込とは異なり、ブドウを破砕せず密閉したステンレスタンクに入れ、炭酸ガスの作用で促成醸造後、捕糖してアルコール度数を上げ、樽熟せずに瓶詰めする「マセラシオン・ カルボニック」、ないしは「マセラシオン・ボージョレ」という特殊な醸造法で造られます。何事につけイベント好きな日本人の国民性ゆえか、航空便で運ばれたヌーボーを解禁日の11月第三週木曜の午前零時に店を開けて売り捌くスーパーと酒販店、そして真夜中の解禁イベントの様子がニュースに登場したりします。

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 ピーク時(2004年)に比べてボジョレー・ヌーボーが売り上げを減らしている近年においても、昨年は輸出総額のうち54%は日本向けでした。第2位の米国が10%強に過ぎませんので、ボジョレーの生産者にとって日本は圧倒的なシェアを占める上得意先です。明らかに日本を意識したサンリオのキャラクター、HELLO KITTY ラベルのヌーボーまで最近では登場しています。日本人にとって、ボジョレー・ヌーボーは季節の風物詩的な特別な酒として崇められてきました。

Beaujolais_Sendai_AP.jpg【photo】 2006年の解禁日を控え、パリから仙台空港にチャーター便で空輸されたボジョレー・ヌーボーを検査する空港の税関職員

 実は日本だけが熱心に輸入しているのに「世界中が待ち焦がれる」とか、毎年の「最高の出来!」はおろか、2、3年おきに「100年に一度の世紀のヴィンテージ!!」などと喧伝されるボジョレー・ヌーボー。私は一連の騒ぎを「またボジョレー・ソードー(騒動)の季節か...」と右から左へ受け流すことにしています() ??。流布される美辞麗句が額面通りとすれば、ボジョレーには天候に恵まれないオフヴィンテージなど存在しないかのようです。

 ボジョレーに限っては、ネガティブな情報が決して関係者から発信されないのです。

 しかるに実態は、より上質だとされる「ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー」ですら、半年はおろか年越しすら叶わない酒質であることは、普通の作り方をした同価格帯ワインの味をご存知の方ならば容易にお分かりになる筈です。そもそも、ヌーボーは天候によって品質が劇的に向上する醸造酒なのでしょうか? 私見では断じてNoです。

 かつて Mommessin モメサンというボジョレー地区の有力なネゴシアン(酒商)が、同地区にある10のクリュのひとつ、Fleurie フルリで1990年に収穫されたガメイをマセラシオン・ カルボニックではない通常の醸造法で醸した「クリュ・ボジョレー」を飲んだことがあります。瓶詰め後9年を経て、綺麗に熟成が進んだそのボジョレーは、深みのあるフローラルな芳香と程よい体躯を備え、充分に私を満足させるものでした。

 本国では対価を支払って飲むワインとしての需要が見込めないボジョレー地区の新酒を売り込む先として、したたかな政府機関と関係業界が白羽の矢を立てたのが、当時一人当たりの年間ワイン消費量が0.6本程度と、一部の愛好家を除いてまだワインに親しむ素地が無かった極東の島国 Japonでした。"11月第3木曜日以降に解禁すべし"という現在のルールが定められた1985年は、ボジョレー・ヌーボーが日本に本格的な攻勢をかけ始めた年です。

「日本は世界で一番早くヌーボーが飲める!」というお馴染みの宣伝文句は、日付変更線のすぐ西側に位置し、日本よりも3時間一日が早く始まるオーストラリア東海岸とニュージーランドの存在を忘れた人々によって広められました。もっとも、20世紀初頭においては、真っ当なワインが世界のどこよりも市場に出回っていた英国からの移民が多いオーストラリアやニュージーランドでは、まともなワインの味を知らなかった日本とは違って、現地では2ユーロ(300円!)からせいぜい5ユーロほどのボジョレー・ヌーボーの解禁に飛び付く現象など起こりようがなかった筈ですが...。

 バナナフレーバーが漂うアセロラジュースのような大方のボジョレー・ヌーボーとは対極にある、長期熟成に耐えうる本格的な赤ワインだけが備える複雑味。その大切な構成要素のひとつである渋味成分の元となるのが良質なタンニンです。日本では、酸味を伴ったタンニンのあるワインは、「酸っぱい」「渋い」からと苦手にする方がおいでです。タンニンを感じさせないヌーボーは、ブドウ由来の甘味が残るスムーズな味が広く受け入れられたようです。

 世界で唯一ボジョレー・ヌーボーを競うかのように購入する日本人の多くは、ヌーボー以外の赤ワインを自家消費しておらず、年間一人当たりの赤ワイン消費量は、いまだに750mℓ瓶2本程度でしかありません。飲酒人口のおよそ2割は、ワインを日頃ほとんど口にしないにもかかわらず、ボジョレー・ヌーボーだけは買うのだとか。

 1970年代後半にブームとなった1,000円ワインや、その後登場した500円前後の低価格ワインと比べ、航空便ヌーボーの2,000円前後という価格設定は、「安酒ではない」という印象を抱かせるに充分だったでしょう。国名の前に「お」を付けて呼ばれるように、かつて日本に蔓延していた"おフランス"ないしは花の都パリへの漠とした憧れもボジョレーのイメージ向上に寄与したはずです。

 大方の日本人がワインといっても「赤玉スイートワイン」ぐらいしか飲んだことがなかったであろう1976年(昭和51)、日本にヌーボーを最初に輸入した業者は、"パリと同じ日に乾杯"という実態とはかけ離れたクサーいキャッチフレーズを使っていました。

Beaujolais_Aeon.jpg【photo】 午前零時の時報と共に販売が解禁されたヌーボーにおよそ500人もの客が群がった。2005年の解禁日となった11月17日(木)午前零時過ぎ、仙台市内のある大型店で

 今年も11月20日(木)の解禁日に向けてドル箱(⇒ここでは「ユーロ箱」か?)の日本にヌーボーが運ばれて来ることでしょう。流通の過程で倉庫保管料や中間マージンやらが付加され、3ユーロ前後の酒が2,500円以上の値段となって市場に出回ります。相変わらずのユーロ高と燃料代が高騰する今年は(9/27時点)、サーチャージも付加され、需要下落の傾向にあるヌーボーに価値を付加するキーワード、「ヴィラージュ・ヌーボー」や昨今流行の「自然派」の手になるヌーボーは、軽く3,000円を越える値が付いています。そこまで出せば、そこそこ上質なワインを探すことは容易なこと。元来は嗜好品であるワインの味の好みについて、とやかく申し上げる意図は毛頭ありませんが、肌寒さが加わる11月下旬ともなれば、しっかりとした味わいを持ったワインがより美味しく感じる季節です。一本750mℓのブドウジュースに3,000円を支払う余裕のある方はともかく、少しでも費用対効果を求めるのであれば、これまでのように付和雷同してヌーボーに飛びつかなくとも、選択の幅は広く持ったほうが納得の行く買い物ができるはずです。

bojyobojyo2009.jpg【Photo】ボジョレー・ヌーボー解禁日の深夜零時を待って発売された新酒を品定めする律儀かつお祭り好きな(?)ヌーボー愛好家。一方で完全に冷やかし客に過ぎない私は1本たりとも手を出さないのであった。仙台市内のとある大型店にて

 あまりに商業主義が目に付くボジョレー・ヌーボーを巡る日本の現状を見るにつけ、今回はぶっちゃけ本音トーク気味でした(笑)。" フランス・ボジョレー産の酒を口にしないイタリアワイン好きの前世イタリア人が贔屓目でグダグダ文句を付けているんじゃないの? (`-´) "とお感じになった方もおいでかもしれません。誤解の無いように申し上げておきますが、日本におけるボジョレーの成功に続けとばかりに近年出回るようになったイタリアの新酒Novello ノヴェッロとて私にとっては同じこと。多種多様なブドウが栽培されているイタリアワインの個性をあえて殺すようなマセラシオン・ カルボニックで造られるノヴェッロは、一部のワイン生産地で少量造られる程度で、イタリア人が発売を心待ちにするものではありません。伝統に培われた醸造法で仕込めば、ちゃんとしたヴィーノになるブドウのポテンシャルを引き出すことなく、特殊な製法でごく短期間にSucco di uva (ブドウジュース)を水で希釈したような味の飲み物に仕立ててしまうのですから、もったいない話です。

 かようにボジョレーの解禁には全く関心がない私ですが、今月15日に狩りが解禁された北イタリア産白トリュフは、今年質量共に最高の出来が期待される当たり年なのだとか(⇒ボジョレーの当たり年とは違ってこっちは本当ですよ)。重量当たりの値段が世界一高価な食材といわれるイタリア・アルバ産の白トリュフ狩り同行記については、またいずれ。

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