あるもの探しの旅

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結束を再確認

生産者の会、ふたたび。
@ il.ché-cciano

 昨年7月の「il.ché-cciano イル・ケッチァーノ」開店直後に行われた「生産者の会」が、今日9月28日(日)、再び行われました。この日は平年より11日、昨年と比べて15日も早く初冠雪を観測したという鳥海山が、八合目付近まで白い雪に覆われているのが遠望できました。もう山には冬の気配がひたひたと近付いている一方、すっかり黄金色に染まった庄内平野では、あちこちで稲刈りの真っ最中。深まる秋を実感させる爽やかな乾いた風に乗って、心地よい稲藁の香りが運ばれてきます。あ、実りの季節だな。この夜、鶴岡 al.ché-cciano と il.ché-cciano を支える庄内一円から集った生産者の数はおよそ40名ほど。「食の都・庄内」たるゆえんの多種多彩な農産物を手掛ける生産者の皆さんが、一年で最も忙しい農繁期にもかかわらず何を置いても一同に集ったのには理由があります。
20080928ilche1.jpg【photo】 生産者と料理人、小売店や食品加工業などの納入業者、研究者、間接的に恩恵に与る観光関連業者などが、食を軸とした稀有なコミュニティを形づくるアル・ケッチァーノの人脈。 本人の再三の固辞にもかかわらず、県から請われて決断したしばしの銀座進出に関する経緯をこの夜集った人々に報告する奥田シェフ

 地元の各メディアはもちろん、河北新報紙上【→会員登録(無料)の上、閲覧可能】でも報道されたとおり、先月まで東京港区虎ノ門にあった山形県のアンテナショップが来年3月、銀座に移転オープンするのにあわせ、その目玉として開店する県産食材を使ったレストランの運営を委託されたのが、「アル・ケッチァーノ」(以下、「アルケ」というファンお馴染みの共通語に略)のオーナーシェフ、奥田 政行氏です。2000年3月のアルケ開店以来、地道な相互扶助の関係作りを通して生産者や研究者、行政などからなるネットワークを築いてきました。そうして生まれた地元・庄内の食材を活かした数々の創作料理で、今では評判を聞き付けた人々が全国から訪れているのは周知の通り。事業案の選定に当たっては、公募という形を採ったものの、最終的な採択には「彼をおいて他にはあり得ない」という県の意向が強く働いたようです。県の行政の長は、対外的なアピールに欠かせないコンテンツとして、奥田シェフの抜群の知名度を放っておかなかったのでしょう。

 県のアンテナショップという性格上、庄内産のみならず、内陸産の米沢牛や蕎麦、ラ・フランスなど山形一円の食材を使った料理を提供することが求められるはずです。京阪や仙台などのプロの料理人に庄内産の食材を紹介し、彼らがその価値を認め、彼らの店で提供してもらい、一般の人々に認知を広めて販路拡大を図る「食の都庄内」事業で、奥田シェフは初年度の2004年からか親善大使を務めてきました。生産者を前にした挨拶の中で、有名店がひしめく銀座でも同様の活動を繰り広げたいという意欲と、レストランの監修と食材の販路を広げる目処が立った時点で地元に戻りたいという本人の意向が語られました。

 地元の顔として八面六臂の活躍をしてきたスタープレーヤーが、行政の意向で活動の場を東京に移すことが明らかになった以上、現在アルケの厨房を取り仕切るシェフの右腕、土田 学 料理長がシェフとして看板を引き継ぐことになります。その間留守宅を守るのは、今宵集まった生産者と地元に残る店のスタッフに他なりません。2003年5月、偶然店に立ち寄って以来、5年に渡って変幻自在で繊細極まりない奥田シェフの味に魅了された一人として、土田料理長には更なる奮起と一層の研鑽を望むところです。先月、およそ2年ぶりに(⇒負の影響が大きかった「情熱大陸」放映以前ということです)私を感動させる料理を出してくれたのは、il.ché-cciano をマンツーマンの貸切状態でお任せコースを出してくれた奥田シェフでした。
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【photo】 この夜の模様を収録するテレビ朝日系「素敵な宇宙船 地球号」の撮影クルー(写真右奥)

 シェフに対する餞(はなむけ)の言葉は、これまた庄内のスター生産者の皆さんが代わるがわるマイクを握りました。まもなく出回るまったりとした口どけが絶品のズイキ芋を植酸農法で水耕栽培する坪池 兵一さん、そろそろ本来の味が乗ってくる平田赤ねぎの後藤 博さん、樹熟トマトやスーパー小松菜の生産者 井上 馨さん、絶滅寸前だった藤沢カブを復活させた後藤 勝利さん、特有のクセが全くない肉質に仕上げるサフォーク羊で知られる綿羊飼養家・丸山 光平さんと、そのラム肉や山伏豚を扱う精肉店クックミートマルヤマのご主人・丸山 完さん、シェフの知恵袋役でもある山形大学農学部の江頭 宏昌准教授、魚介用のVino della Casa(=ハウスワイン)ともいうべき、アルケの水「イイデヴァの泉」で仕込んだ酒、「水酒蘭(みしゅらん)」を造る蔵元で、ご意見番としても頼れる存在、鯉川酒造の佐藤 一良社長などなど。
 この日出された料理には、ここに集った生産者が丹精込めた食材の数々が使われていたことは申し上げるまでもありません。

 遠来の友人としてスピーチを求められた私が、皆さんにお伝えしたのは、奥田シェフが不在となる来春以降も今まで通り店を支えてほしいこと、生産者や店を取り巻くさまざまな人々の関係性の上に成り立っている類い稀なこの店の良さを大切にしてほしいことでした。必ずしも生産者の皆さんは今回の決定を心の底から祝福しているのではないことは、どこか淋しげな皆さんの表情を見ていれば伝わってきました。だからこそ、地元では反対意見が渦巻く中で苦渋の決断をした奥田シェフと彼の家族、地元に残る店のスタッフをそこに集った人たちが今まで通りに応援しなくてはならないからです。私の訴えと同様の呼びかけをした鯉川酒造の佐藤社長にも賛同の拍手が巻き起こりました。

 そもそも、庄内の風土や生産者の顔を知らない東京の都市生活者が、そこでこそ光り輝くアルケの真価を見抜く慧眼を果たして持ち合わせているのか私には判りません。ましてや今回のシナリオを描いた県の思惑が、いかなる結果をもたらすのかも判りません。いずれにせよ「食の都・庄内」と言い始めた張本人が公務で地元を不在となる間、期待を胸に全国から集う人々をして、評判に違(たが)わぬ食の都だと舌を巻かせるか否か、真価を問われるのはこれからです。この夜の私にとっての収穫は、改めてそこに集った人々を結びつける絆の強さを再認識したこと。この日の模様は、取材スタッフが来ていたテレビ朝日系列で毎週日曜日午後11時から全国放送される「素敵な宇宙船地球号」で11月第一週に放映されるようです。Check it out!

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コメント

はじめまして。
 偶然見つけて記事をじっくり拝見致しました。庄内在住(中学、高校は仙台です)の者です。
先ほど、たまたま観ていたテレビで「宇宙船、、、」という番組で「また」奥田シェフが出て来る事を知りました。そういう訳でしたか。。。
 「情熱大陸」で取り上げられて、庄内一予約が取れない店になる前は、休日にぶらっと美味しいパスタを求めて気軽に入れるお店だったのですが、「あれ」以来敷居が高く感じている事は確か。
 昨年は自分の誕生日と横浜から親が来た時の2回(うち1回は奥田シェフは出張中)行きましたが、今年はまだ1度も行っていないのでした。「アルケ」「イルケ」の料理の旨さ、価値は理解していますが、私のように予約の電話を入れるのをためらう気持ちになる人も少なくないと思います。
 お客あっての料理屋としてはその時点ですでに「失敗」しているとも言えます。予約を断られる嫌な思いをするくらいなら、他の旨い店に行こう、と考えるからです。そしてさらに銀座進出!
 奥田さんの苦悩、苦渋は想像できますし、決まった以上は頑張ってほしいと思いますが、ますます遠い存在の店になってしまう気がします。なぜ、今、東京を相手にしなければならないのか?!東国原宮崎県知事の機動力、注目度に対抗したいという山形県の焦りでは?と感じてしまいます。
 でも応援しています。頑張れ!奥田シェフ!

balaine様

 恐らくは客の立場として大方の地元の方たちの偽らざる本音であろう声をお寄せ頂き、有難うございます。「良薬口に苦し」といったところですね。

 銀座のアンテナショップについては、県関係者も庄内の顔が地元から不在になるプラス効果、マイナス効果に関して発表後も揺れているようです。このブログ記事に関しても書き込みこそありませんでしたが、県関係者からの反響が幾度か間接的に聞こえてきました(苦笑)。

 「お客あっての料理屋」とは正しくその通りで、媒体を介して自分のスタイルを発信する以上は、来店客への信義上、本人が料理を作るべきだし、厳しい言い方をすれば、乞われるままに講演や取材対応でシェフが店を不在にするのは、期待を胸に店を訪れる客に対する背信行為以外の何物でもありません。スタッフの対応を含めて店側にその自覚がなくとも、受け手が「客を軽んずる店」だと思った時点で、その店は支持を失って行くことは自明です。

 「情熱大陸」放送後に店を訪れた人々の評価は、かねて常連を自負していた人々だけでなく、初見参の人たちからも芳しいものばかりではありませんでした。以前のアルケの味と姿をご存知の地元の方々にとっては、なおさらでしょう。もっとも幸運なことに予約が取れ、店に行くことが出来れば、の前提ですが…。それでも放映直後の乱痴気騒ぎが沈静化した最近では、幾分席が押さえやすくなっています。但し現在アルケの厨房に立つのは奥田シェフではなく土田料理長です。この点に関しても如何なものかと思う者の一人です。

 料理に対する考え方や店のスタイルは不変ではありませんから、変化があって然るべきです。しかしシェフが地元を大切に思い、生産者との繋がりを重視するのと同様に、食べ手である客がその輪の中にいてこそ表現できる料理人としての創造的で闊達な世界があるはずです。アルケの良さが伝わるフィールドは、決して取り繕った銀座などではなく、間違いなく土と潮の香りがする地元にあってこそ発揮されるものだと確信しています。

 彼個人が器用なだけに、なかなか周囲が放っておきませんが、一番のトロの部分は地元に取っておくべきですよね。アンテナショップの目的は一見客として山形に足を運んでもらうことではなく、リピーターになってもらうことにある筈ですし。

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