あるもの探しの旅

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「鳴子の米プロジェクト」稲刈り交流会【後編】

小昼(こびる)で頂く農家の味

【前編】 「作り手と食べ手を結ぶ収穫の喜び」 より続き

 食べ手である参加者が、生産者と心をひとつにして収穫作業を進めた「鳴子の米プロジェクト」稲刈り交流会。あらかた刈り取られて丸坊主となった田んぼの一角に、手付かずのまま 3列×4株=12株の稲穂が残され、その上に広げた新聞紙が置いてあるのが目に留まりました。稲刈り作業を終えたところで、この日ご一緒したNPO法人「鳴子の米プロジェクト」のメンバーで、「朝市・夕市ネットワーク」の理事でもある仙台在住のフリーライターで旧知の間柄の小山(こやま)厚子さんに「何ですか?これは」と質問しました。

2008.10.04kobiru1.jpg【photo】参加者が刈り取った田んぼの一角に残った12株の稲の意味を説明する小山 厚子さん(写真右)

 私の問いに小山さんは「これが私たちが一日に食べるご飯茶碗3杯分のコメです。一人の命を一日養うためには、ちょうど新聞紙を開いた大きさの田んぼのコメが必要なのです」と答えられました。なぁーるほど...。その日は九州で講演の仕事があって顔を見せなかった鳴子の米プロジェクトの総合プロデューサーで、民俗研究家の結城 登美雄氏に後日お会いする機会がありました。印象に残ったこのエピソードを切り出すと、どうやらこのシンボリックな演出は結城氏のアイデアだったことが窺えました。

2008.10.04kobiru4.jpg【photo】参加者全員を前にコメと耕作地の尊さを説くNPO法人「鳴子の米プロジェクト」の上野理事長

 食生活の多様化によってコメ離れが進む昨今、一人の日本人が年間に消費するお米はおよそ60kg(「宮城米コメナビweb」より)。鳴子の米プロジェクトでは、一俵(60kg)当たりの米価を24,000円に設定しています。プロジェクトのシンボル「ゆきむすび」の予約購入者が一日に支払う対価は、一年の日数365で割るとはじき出されますが、その額は65.75円でしかありません。ご飯茶碗に盛られるご飯は、相撲部屋でもない限りは60g前後ゆえに、一膳のご飯に要する支出はおよそ24円となります。

 昨年3月に鳴子温泉郷で400人もが参加して行われた「鳴子の米発表会」の席上、茶碗1杯のご飯と並んで、1/4大の笹かまぼこ一切れ・イチゴ1粒・グリコのポッキー4本を載せた3枚の皿が展示されました。これは、一膳のご飯と同じ24円相当の食べ物を並べて、米価下落を受けて青息吐息の米作農家が作るコメの価値を再認識してもらおうという結城氏の発案によるものでした。「稲刈り交流会の参加者に分かりやすい例えで自分の命をつなぐコメと農地の大切さを実感してほしかったのさ」と、結城氏は私に語りました。食卓で新聞に目を通しながら食事を摂ることがあったなら、あなたの一日の糧(かて)となるコメを作るのに、手にした新聞を見開いた広さの水田が必要で、そこで俗に言う"八十八の手間をかけて"コメを作る人がいることを、どうか思い起こして下さい。
2008.10.04kobiru3.jpg【photo】刈ったばかりの田んぼにビニールシートが敷かれた。作業が一段落したところで、そろそろ小昼の時間。おむすびをさまざまに味付けし、美しく盛り付けるのも、手際よく会場の準備を進めるのも、地元のお母さんたちだ

 落穂拾いを終える頃、農作業の合間に出される昼食、「小昼(こびる)」がお母さんたちの手で運ばれてきました。小昼を作って下さったのは、中川原地区のR108沿いにある産直「やまが旬の市」のお母さんたちです。朝方は雨よけに使われたビニールシートが刈り取った田んぼの中に敷き詰められました。手際よく小昼の準備が進む中で、残された12株の稲穂の前には、緋毛氈(ひもうせん)を敷いた台が設えられました。そこには昨年収穫された「ゆきむすび」を握ったおむすび三個と湯飲み茶碗に注がれたどぶろくが供えられました。交流会への参加者のみならず、駆けつけたお母さんたちにも集まるよう呼びかけた上野理事長が、残された稲穂の意味を説明し始めました。そこで私たちが稲刈りをした4アールの田んぼ一枚が、おおよそ一人の人間を一年間養うのに必要な広さであることが語られました。
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【photo】自ら握った彩り豊かなおむすび(下写真)を手に、屈託のない飛び切りの笑顔を見せてくれた鬼首地区の産直「やまが旬の市」のお母さんたち。皆さんの手の温もりが伝わるふっくらとしたおむすびと、おもてなしの心が伝わる郷土料理は、どれをとっても美味しかったです。皆さん、ごちそうさまでした。2008.10.04kobiru7.jpg

 小泉政権下、お題目のように唱えられた「改革」の号令のもと、"攻めの農業"への転換を図るために「経営所得安定対策等大綱」が定められました。大綱の三本柱のひとつ「品目横断的経営安定対策」では、山間地など地域条件による緩和措置はあるにしても、北海道を除く本州以南では耕作面積が4ヘクタールに満たない農家と20ヘクタール以下の営農組織は、国から補助金を受けることができる農業の「担い手」と見なされなくなりました。全ての農家、品目別に補償制度を設けていたため、バラマキとの批判もあった従来の農政から食料生産の現場に競争原理を導入する一大転換だと農水省はこの施策を自画自賛します。税金の使い道に関する議論はさておき、国は税収不足を背景に、大多数を占める中小の農家への補助を打ち切る道を選びました。ちなみに鳴子地域にある620軒の農家の中で、担い手農家に該当するのは全体の1%に満たない6 軒だけに過ぎません。

2008.10.04kobiru8.jpg【photo】自家製の漬物や野菜の煮しめなど、素朴な農家のおふくろの味が並ぶ

 耕土が限られる中山間地の農家は、もはや自活の道を探るしかありません。この日、稲刈り交流会が行われた後藤さんの圃場の周辺にも耕作放棄地が点在しているのを目にしました。地域住民の高齢化がこうした流れを加速させています。鳴子地域では、耕す人のいなくなった耕作放棄地がこの10年で4倍以上の70ヘクタールにも増えました。若い世代を含む参加者を迎えて行われた今回の交流会には、少しでも山間地におけるコメ作りに関心を持って欲しいという地域の切実な願いが込められています。寒冷な栽培環境にも適合し、用途が広く食味に優れた低アミロース米「ゆきむすび」は、鬼首地域の農家にとって、これからもコメ作りを続けていこうという希望の象徴でもあるのです。
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【photo】「よっ!待ってました!!」47銘柄が参加した全国コンテスト「濃醇(のうじゅん)」の部で、優秀賞(第二位)の栄誉に輝いたどぶろく名人、鬼首ロッジの奥山料理長が持参したどぶろく 

 お母さんたちが運んできたのは、プロジェクトの発足を受けて、"自分が出来る形でプロジェクトに関わりたいから"と地元の桶職人が自発的に作ったというおむすび専用桶に入った彩り豊かなおむすびと、地域に伝わる煮しめや漬物など心尽くしの手料理の数々。稲刈りが始まったばかりで脱穀が間に合わず、今年度産の新米で握ったおむすびが用意できなかったことを初代プロジェクト代表の曽根 清さんは詫びましたが、モチモチした粘りのある食感が特徴のゆきむすびのおむすびは、収穫後一年を経ても十分に美味しいものでした。太陽が顔を見せたかと思うと、時おり雨が落ちてくる変わりやすい空模様でしたが、田んぼの中で頂く家々で受け継がれてきた郷土の味は、どこか懐かしさを覚えるものでした。何を隠そう、私が2008.10.04kobiru9.jpgこの日の稲刈り交流会に参加する大きな要因となったゆきむすびで仕込んだどぶろくを持参されたのは、稲刈りにも参加された鬼首ロッジの奥山料理長ご本人。ついお代わりをしてしまい、白昼から茶碗で3杯も呑んでしまいました(●^^●)

【photo】気持ち良い秋晴れの空がようやく戻った。晴れがましい表情で挨拶に立ったお母さんの話を聞きながら、いつしかおむすび5個を平らげてしまった(右写真)。デスティネーション・キャンペーンのイメージビジュアルには、ゆきむすびのおにぎりが使われた。制作にまつわるエピソードを語る吉川 由美さん(下写真)
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 小昼では、自己紹介を兼ねて稲刈りの感想を参加者が述べ合いました。ゆきむすびの豆おむすびの写真がイメージポスターに使用された大型観光キャンペーン「仙台・宮城デスティネーション・キャンペーン」のポスター制作に関する裏話を披露されたのは、プロデューサー・演出家などのマルチな顔を持つ吉川 由美さん。昨年3月に現在の品種名が付くまでは、東北181号という系統名で呼ばれていたゆきむすび。その生みの親である古川農業試験場の総括研究員 永野 邦明氏は、この日小さな娘さんを連れて参加していました。永野氏は地域に希望を与え、多くの人の輪を生み出したコメの開発に携わった喜びを率直に語りました。今回の稲刈り交流会に先立ち、数日間を岩入地区の農家で過ごしたという大学生の参加者からは、山あいにある農家の暮らしを間近かに見ることができたことが大きな収穫だったとの声が聞かれました。鳴子の米プロジェクトがスタートから3年目にして、かくも2008.10.04kobiru11.jpg地元に深く根差した取り組みになっている背景には、この日もいつものように裏方として飛び回っていた大崎市鳴子総合支所 農業振興係の安部 祐輝さんの存在が大きいように私の目には映りました。

【photo】東北181号(ゆきむすび)生みの親、古川農業試験場の総括研究員 永野 邦明氏

 先祖から受け継いだ土を耕す人々の意欲を呼び起こし、都市部で暮らす若者の心も捉えた鳴子の米プロジェクト。総合プロデューサーの結城氏を含め、「こんなことができないか」「こうすればもっと良くなる」と、地域の人々の夢は広がります。そんな熱い人たちと繋がっていたい私は、今後もゆきむすびを予約することでしょう。稲刈りで動かした体をほぐそうと鬼首温泉郷に向かう途中、刈り取りを待つばかりとなった穂波が広がる鬼首の中心部にあたる田野地区を通りかかりました。西の空に傾き始めた太陽から放たれる光の粒子によって、萌え立つかのように黄金色に染まった鬼首の大地がキラキラと光り輝いていました。

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翌年の春に行われた交流会を含む田植えの模様はコチラをご参照願います。
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◆20年度産「ゆきむすび」の申し込み・問い合わせは-
 鳴子の米プロジェクト事務局(大崎市鳴子総合支所 観光農政課 内)へ
 TEL:0229-82-2026 FAX:0229-82-2533 
 e-mail:n-kanko@city.osaki.miyagi.jp
21年度産新米からは、受付窓口をNPO法人事務局へ移行の予定)

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コメント

やっぱり行きたかったぁ~!

ほんとに美しいおむすびと、漬物、煮物、なんといってもどぶろくが・・・。
そのために時刻表やシャトルバスの予約までしてたのに。
と、よだれを流しながら悔しがっておりました。

日々命をつなぐ米。それを作り続けている人々。その当り前のことに気付かずに過ごしてきた自分をはじめ都会に暮らす人々。どうしたら繋がっていられるのか。
おこりんぼしながら、そんなこんなを考えておりますが、まずは動かないとってことでしょうか。

▼おこりんぼシーサー様

再びコメントを頂きありがとうございます。鳴子の米プロジェクトは、コメを通してコミュニティ(=人の輪)を再生させようという挑戦に他ならないと思います。

ネット通販やお取り寄せは、便利なシステムではありますが、作り手と食べ手の関係を希薄にする一面もあります。透明性を低くする複雑な流通システムとあいまって、昨今頻発する偽装などの食をめぐるスキャンダルの一因には、こうした顔の見えない関係で成り立つ社会にいつの間になってしまったことが根底にある気がしてなりません。

気付きを得たなら、現実を直視し、仰るとおり一歩を踏み出すことが大切。そこで得られる人との出会いの中から、さまざまなことが見えてくるのではないでしょうか。次回は、幸いなことにそんな人の輪に恵まれた私のある一日についてレポします。

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