あるもの探しの旅

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2008/11/28

ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話

 今月20日(木)は「今年も当たり年?」の中で∋━ グサッ(゚ロ゚)━━ (`▼´) ウリャ! とばかりに槍玉に上げたボジョレー・ヌーボーの解禁日でした。ぶっちゃけ本音炸裂の言いたい放題ぶりからして、そして真紅のワインカラーからしても「血祭りに上げた」と表現したほうが的確かもしれない(笑)内容をご覧頂いた方は、よもやヌーボーなどお買いにならなかったと思いますが、いかがでしょう。

 そもそも勿体つけて"この日まで飲んじゃダメ" だなんて、エサを前に「待て!」と飼い主からお預けを喰らうワンコみたいだなぁ。ブツブツ... "飲みたい時が飲める時"を常とする一介の呑ん兵衛として、そんな偉そうな商法は甚だ不愉快。ブツブツブツ... フレッシュとかフルーティなどの常套句でいかに美化しようと、どう贔屓目に見てもその味は水っぽいし。ブツブツブツブツ... まして「飲んでよし!」の一声でありつけたソレが売り文句通りに美味しけりゃ、四の五の言わないんだけどねぇ。ブツブツブツブツブツ...

 立地条件や土壌以外に農作物であるブドウの作柄を左右する要因は、開花から結実して顆粒が熟してゆく過程における日照量と適度な降水量、そして収穫時の天候です。たとえ収穫直前まで生育が順調でも、収穫期に雨が続くと、それまでの苦労が水泡に帰することになります。イタリア人は何につけPassioneパッスィオーネ(情熱)の重要性を口にしますが、ブドウの栽培は自然相手の仕事である以上、作り手の熱い情熱をもってしても乗り越えられない壁は存在します。ヘミングウェイの「老人と海」ではありませんが、過酷な自然の前で人は自らの無力さを思い知らされる宿命にあります。

fiori_uva.jpg【photo】花を咲かせたブドウの幼果

 現地からの情報によると、開花期の5月から太陽の力で糖度を上げてゆく8月末にかけて雨が多かった2008年。ボジョレーではブドウが侵されやすい「べト病」や結実不良が発生、北部ではゴルフボール大の降雹被害もあり、決して天候には恵まれなかったようです。ひと頃のブームが去った今も行われていることに私などは驚きを禁じえない東京での解禁パーティーに登場したボジョレー大手の生産者によれば、「今年のヌーボーは例年にまして凝縮度が高い良い出来だ」といいます。たとえ収穫期は晴れたにせよ、いかに選果を厳しくしたにせよ、前段を知っている以上、額面通りにその言葉を受け取るわけにはゆきません。「ナメとんのかワレ(`Д´*)?!」と、庄内系から関西系に豹変して突っ込みを入れたくなるコメントを吐いたこの生産者は、日本では「ボジョレーの帝王」と呼ばれています。現地価格が2~5ユーロ(240円~600円)程度の安酒の帝王と言われても、なんだか激安王のドン・キホーテみたい・・・。(笑)

 ここ何年か「自然派」という耳障りの良いカテゴリー名で語られるワインが一部の人々の間で持てはやされています。この概念を最初にもたらしたフランスでは「Vin Nature ヴァン・ナチュール」と総称される自然派ワインとは? ごく簡単に言うと、栽培や醸造段階で人工的な要素を排除した主にフランス・ロワール地方やブルゴーニュ地方などの生産者とワインを指します。イタリアにもビオロジカルな栽培法で造られる美味しいヴィーノは山と存在しますが、このようなあざとい表現は使いません。もちろんワインは人が口にするものですから、除草剤を撒いたり化学肥料を多用する疲弊した土壌で、防疫のため薬剤を散布して造られるブドウを原料とするよりは、極力オーガニックな栽培環境のもとで造られるワインのほうが望ましいことは確かです。自然派の中には、有機農法だけでは満足せず、自然界のリズムを重視して天体の動きにあわせて農作業を行う「ビオディナミ」を取り入れる生産者もいます。醸造においては培養した酵母を使わず、無補糖・無清澄・無濾過など、古代ローマ時代さながらのワイン造りも行われています。

 輸送途中での温度変化による変質を避け、長期保存を可能にする殺菌効果や酸化防止効果を得るための最小限の(日本国内で販売されるワインは、食品衛生法で0.35g / ℓ以下と規定)亜硫酸塩すら添加しない場合もある自然派のワインは、雑菌による劣化リスクに加え、輸送や保管段階での環境変化に弱く、品質のバラツキが出やすいのが現実です。通常の飲酒量では亜硫酸塩による健康への影響は無いとされる以上、頭痛を発症するような過度の化学物質過敏症でもない限りは、雰囲気に流されて安易に自然派ワインに手を出さないほうがハズレを掴まされるリスクはずっと少なくて済むはずです。

【photo】葉が色付き収穫を待つばかりのブドウ

uva_autunno_06.jpg 事実、自然派ワインには、自然派を名乗るための生産手段の確立そのものが目的であるかのような、味や品質をなおざりにしたシロモノが少なからず紛れ込んでいます。一般の飲み手にとってワインを飲む目的は、食事をより美味しく楽しむためだったり、作り手がこだわり抜いたワインのみが持つ高貴で深遠な世界を窺い知るためではないでしょうか。自然派だから美味しいという必然性はどこにもありません。"そう名乗れば、「なんとなくカラダに良さそう」と連想させるから、自然派の看板を掲げよう"という作為をそこに感じてしまうのは私だけでしょうか。美味しいワインを生み出す手段として辿り着いた手法がビオやビオディナミであったというのが自然な成り行きですよね。"自然派を標榜しながら不自然"とはこれいかに??

 にも拘らず、目先の目新しさばかり追いかける雑誌や酒販サイトのいくつかが、自然派と称するワインをこぞって持ち上げました。消費低落傾向が顕著なヌーボーに付加価値を付けるには絶好のキーワードだったのか、昨年ぐらいのヌーボー商戦から、「自然派ヌーボー」が登場しています。予想通り今年も作柄の良さを強調する商才に長けた「帝王」氏とは違って、丁寧な仕事ぶりに定評ある自然派の若手リーダーと目され、日本での人気が高いフィリップ・パカレ氏は、今年が厳しい作柄だったことを輸入元のサイトで率直に認めています。

 大方の皆さんがそうであるように、お付き合いで購入したというボジョレー・ヌーボーを「自分では飲みきれないから」という知人から頂いたので、仙台のとある業者が輸入元になっているLouis Joseph なる作り手のヴィラージュ・ヌーボーをものは試しに飲んでみました。私にとっては初めて口にするこの生産者、輸入元によれば「採用基準の厳しい地元ヨーロッパの多くの航空会社をはじめ、日本の航空会社でもビジネスクラス以上でサーブ」されているとのこと。さりとてヌーボーは概して年越しすら叶わない超・若飲みの酒ゆえ、さっさと空けてしまったほうが得策です。「とりわけ品質の優れたヴィラージュ地域から醸し出された逸品」と記されたバックラベルをヤブにらみしながらグラスに注ぐと、エキス成分由来の粘性が皆無な水のようにさらっとした触感が見て取れます。色調は果汁20%程度の加水ジュースかと思わせる薄いガーネット色。グラスをスワリング(撹拌)すると、ヌーボー特有のバナナ香がベリー系の香りに混じって立ち上ってきます。口に含むと、ジャミーで甘酸っぱい痩せた酸味がまずは押し寄せ、アフターに残るのは儚げな尖った酸のみ。日ごろ飲んでいるワインは、グラスの中で時間の経過と共に香りが開いて、味わいの変化を見せてくれるのですが、このヌーボーは酸化の進行が驚くほど早く、味の変化と言ってもワインヴィネガーのように痩せ細ってゆくだけでした。

bojyo-bojyo2008.jpg【photo】 バックラベルには全く非の打ち所がない品質であるかのような期待を抱かせる記載が並ぶ。一口含んで、思わずそれを読み返してしまったボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボーの色合い

 人さまから頂いたモノをとやかく言うのは野暮なことは重々承知の上で、敢えて感想を述べれば、「これはブドウから作ったアルコール飲料には違いないものの、果たしてワインと呼べるだろうか?」 というのが正直なところ。軽めの味付けのビーフストロガノフと共に、日頃使うことが多いRiedel 社のワイングラス「ヴィノム・ボルドー」で(→形状が異なる「ヴィノム・ブルゴーニュ」で味の違いを試すまでもないと判断したため)3杯までは飲みましたが、我慢もそこまででした。残りは調理酒としての用途しか無さそうです。もっともこの酒質では劣化が早そうなので、すぐにワインヴィネガーに化けるかもしれませんが...。一応ネットで価格を調べたところ、昨年は2,880円で売られていた商品のようです。ヌーボーのご多分に漏れず、これは明らかに品質と不釣合いな値段と言わざるを得ません。全身を流れる血液がイタリアワインで出来ている私にとっては、4年ぶりに口にした(前回も頂き物だったっけ...)ボジョレー・ヌーボーはどうやら輸血ミスに等しい選択だったようです。ヘモグロビンが欠如した血液のように貧弱なヌーボーの摂取によって、モヤモヤした枯渇感が後遺症として残ってしまいました。

 そんな急性ボジョレー中毒(?)の症状から脱するためには、やはり特効薬として真っ当に造られたヴィーノを服用するのが一番。古来より「酒は百薬の長」というではありませんか。アハハ・・・ と、いうことで、翌日さっそく実行に移された食事療法のレポは次回 !

次回「記憶を呼び覚ますヴィーノ~ルチアーノ・サンドローネ 訪問記」に続く

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2008/11/09

ごっつぉだの もっけだの

≪地の恵みに癒された濃密な一日≫
「ごっつぉだの」篇

 土日の週末も催しが続き、月初から休み無しだった10月。仕事が生き甲斐というわけではありませんが、滅多に平日休むことはできません。"健全なる精神は健全なる身体に宿る" とは、ギリシア・ローマ時代から不変の真実です。昨今取り沙汰されるメンタルヘルスの見地からも、心身ともに充電をしたいところ。そこで英気を養おうと10月21日(火)に代休を取りました。いささかささくれ立ったココロの洗濯のために私が向かった先はどこか? 理想を言えばローマ・フィウミチーノ国際空港かミラノ・マルペンサ国際空港なのですが(笑)、現実にはそうもいきません。泰然自若とした仕事ぶりと誠実なお人柄にいつも元気を頂いている人々の顔が見たくなって向かった先は、お察しの通り、得がたい食を軸にしたご縁に恵まれた山形県庄内地方です。晴天に恵まれたその日の朝、alfa Breraで西北西に進路を取りました。

 私が仙台から庄内へ車で直接向かう際のルートはいくつかあります。最上峡に沿って道が伸びるR47は、さまざまに表情を変えてゆく最上川の流れを間近かに感じさせるコースです。名水スポットが多く点在する鳥海山一帯や、舟下りの船頭が名調子を聞かせる「 ヨーエ サノ マッガショ エンヤ コラマーガセ...」の掛け声で始まる最上川舟歌(→もじゃもじゃの髭面にすると、今は亡きルチアーノ・パバロッティに一層風貌が似るであろう〈←ぜひリンク先HPをご覧あれ〉山形が生んだ民謡界のスーパースター、大塚 文雄のキング・オブ・ハイC な美声をご堪能あれ)2008.10.21jyuuoutouge.jpgにある通り、「 酒田さ行(え)ぐさげ...」(=「酒田に行くので」)北寄りを進む道筋です。先を急ぐ時は月山ICまで山形自動車道を使いますが、いかんせん片側一車線の対面区間が多く、血の気が多いラテン系ドライバーが跋扈するイタリアの有料道路ではまずあり得ない制限速度が80~70kmに設定されたドライブルートは、若干味気ないことも否めません。その点、山形道とは寒河江川を挟んで川向いを進む旧「六十里越街道」の脇街道にあたる下道には、上道だった現在のR112とは異なる落ち着いた古道の面影と鄙びた田園風景が残っており、捨てがたい魅力があります。鬱積した俗世の汚れを晴らそうと、かなりナマグサな行者であろう私がこの日選んだのは、お山(湯殿山)詣での人々が行き交った街道の門前宿坊だった西川町本道寺の集落へと至る道でした。

【photo】 かつては閻魔大王などの十王を祀るお堂が建っていた十王峠。現在は静まり返った峠の往時を偲ばせるのは、越冬のため間もなく藁の雪囲いで覆われる三体の石仏のみ。誰が着せたのか赤い毛糸の胴衣が心を和ませる

 今年はこれまでのところ台風の上陸が無かったため、広葉樹の葉が傷んでおらず、紅葉が10年に一度の美しさだと聞いていました。その通り、ここ数年では最も鮮やかであろう朱に染まったR48 作並周辺のナナカマドやカエデを愛でながら、関山峠から山形内陸を抜けて月山山麓へと向かいました。月山道路周辺に広がるブナの原生林は、すでに黄から茶色に変化して晩秋の佇まいを見せています。標高が高い月山第一トンネル付近の木々は、もはや葉を落として冬に備えていました。R112 田麦俣トンネルの先をいつものように「道の駅・月山」方向に直進せず、大網地区方向へ向かって右折すると、古(いにしえ)より山岳信仰の道として使われた六十里越街道の庄内と内陸との境界だった十王峠へと至ります。
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【photo】 「浄心」と刻まれた岩をくり抜いた水盆に滾々(こんこん)と湧き出す「三鈷水」。手を清め口に含むと、不思議と心が浄化されたような気がした

 湯殿山への表口の役割を担った「注連寺」は、聖と俗を隔てる結界を意味する七五三掛(しめかけ)集落にひっそりと建つ寺です。弘法大師が開山したという霊気漂う古刹の境内には、湧き水の「三鈷水(さんこすい)」が引かれています。私が寄り道をした理由は、災難を払って煩悩を断ち切る密教の法具「三鈷杵(さんこしょ)」で山腹を突いた弘法大師が掘り当てたというこの清水でした。この日は昼食の予約時間が迫っていたので堂内に参詣こそしませんでしたが、注連寺には1829年(文政12)に入定した鉄門海上人の即身仏が安置されています。1951年(昭和26)夏から翌春にかけて執筆のため寺に滞留した作家 森 敦が、第70 回芥川賞を受賞した小説「月山」の舞台としたことでも知られます。三鈷水は清々しい気が横溢する霊場の手水になっています。こんこんと湧き出でる凛とした水を口に含み、内より身を清めてから寺を後にしました。

2003.10malpighi_monica.jpg【photo】 代々受け継がれてきた熟成樽を前に伝統的バルサミコの製法を説明するMalpighi社のモニカ・リーギさん

 吹き抜ける風が木々の葉をざわざわと揺らす以外、十王峠は静寂が支配していました。背後には死者が集う山とされ、精神世界の象徴ともいえる月の山。前方には豊かな実りをもたらしてくれる人々が現世を営む庄内平野が広がっています。そんな聖と俗、陰と陽の狭間にしばし身を置いてから再び結界を越えて向かったのは、鶴岡市越中山(えっちゅうやま)の進藤 亨さんのもとです。実はこの方、天明の大飢饉で苦しむ衆生の救済を願って大網の大日坊で即身成仏を果たした真如海上人の子孫にあたるのだとか。ご本人はその時お留守でしたが、進藤さんは現在「アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ・ディ・ショーナイ」造りに取り組んでいます。イタリア食材にお詳しい方ならご存知であろう高級バルサミコ「Aceto Balsamico Tradizionale di Modena (=モデナ産伝統的バルサミコ酢)」、あるいは「Aceto Balsamico Tradizionale di Reggio Emilia」 (=レッジョ・エミリア産伝統的バルサミコ酢)ならぬ、「ショーナイ産伝統的バルサミコ酢」とは何ぞや?? 本場と同じ12年以上の歳月をかけてバルサミコを木樽で熟成させるという、日本では他に例を見ないこの意表を突いた試みの仕掛け人は、アル・ケッチァーノの奥田シェフです。

2003.10AcetaiaMalpighi.jpg【photo】 バルサミコが眠りにつく屋根裏にある熟成庫で。(写真左より)青柳 孝フロアマネージャー(当時)、相馬一宏藤島町助役(当時)、筆者、青柳夫人 佳子さん、奥田夫人 みつよさん、奥田 政行シェフ

 事の発端は、イタリア中部エミリア・ロマーニャ州Modena モデナの伝統的バルサミコ酢製造元 Maplighi マルピーギ社を私の運転で訪れた2003年(平成15)10月に遡ります。奥田シェフ夫妻、青柳フロアマネージャー(当時)夫妻、相馬藤島町助役(当時)と「Acetaia アチェタイア」と呼ばれる醸造施設の2階にある熟成庫を見学した後、12年以上・25年以上・50年以上と熟成期間の異なるアチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレをテイスティングしました。多くの貴顕に愛され、単に「酢」と呼ぶには余りに恐れ多いこの地のバルサミコは、古くは1046年に書かれた文献に登場します。1987年以降は、DOC(原産地呼称規制)で製法が規定され、モデナ県とレッジョ・エミリア県両地域の生産者協会が定めた厳格な審査をパスしたものだけが、製品化されます。申請品の1/3の割合でしか審査を通過しないといわれるモデナの協会では、高度な鑑定技能を備えた上級審査官「Maestri Assaggiatori マエストリ・アッサジャートリ」5人全てを納得させなくてはなりません。

malpighi50anni.jpg【photo】 Malpighiで買い求めた「Extra Vecchio ストラヴェッキオ」。幾世紀に渡って使われてきたサクラ材の樽で50年以上の熟成を経た逸品。パルミジャーノ・レッジャーノのブロックに少量垂らしてヴィーノと、食後のジェラートと、あるいは陶製のスプーンに垂らしてそのままでも至福の時を味わえる

 名門エステ公爵領だったモデナとレッジョ・エミリア周辺の指定地域で収穫されたTrebbiano トレッビアーノ種やLambursco ランブルスコ種などのブドウ果汁をアルコール発酵させずに直火で煮詰めて冷却後、樽の中で酢酸発酵させた黒い液体は、熟成期間が長くなるにつれて高い粘性を帯びてきます。すでに製品化されたワインにワインヴィネガーとカラメルを加えた量産型の「Aceto Balsamico di Modena」とは比較にならない重層的な酸味と甘味が複雑に絡み合う深遠なる味わいは、まさに時と人間の共同作業がなせる味の芸術品。100mℓ入りの1瓶が日本では5万円もの高値で売られる希少な50年熟成のバルサミコが、155エウロ(⇒当時の為替レートでおよそ20,000円)だというので、私が1瓶を自家用に、奥田シェフは2瓶を店用に買い求めました。

2008.10.21shindo_yamauva.jpg【photo】 棚式に比べて果実が陽射しや地表の輻射熱を受けやすく、ブドウが健全に育つ仕立て法である「グイヨ方式」で栽培される進藤さんのヤマブドウ

 甘酸っぱいアチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレの風味をヤマブドウと重ねた奥田シェフは、本場の製法に倣ってヤマブドウを原料とする伝統的バルサミコ酢を庄内で造ってみようという遠大な計画をヴィンコットに加工するヤマブドウを店に納めていた進藤さんに持ちかけます。このヴィンコット、2003年5月に私が初めて夜に訪れたアルケであまりの旨さに悶絶した思い出深い一品、「米沢牛のタリアータ・朝日村の山ブドウヴィンコットソース風味」に使われていたものです。進藤さんはご本家ともどもかねてより旧朝日村の越中山でヤマブドウを栽培、月山一帯に自生するこの在来種100%のワイン誕生に情熱を燃やしていました。現在では「道の駅・月山」に併設される「月山ワイン山ぶどう研究所」が地元産山ぶどう100%のワインを造っています。

 Malpighi でもそうでしたが、モデナでは熟成度合いによって、オーク・クリ・サクラ・クワ・タモ・ニセアカシアなど材質の異なる樽に順次移し変えてゆきます。熟成庫は外気にさらした屋根裏部屋aceto2003.jpgなどに造られるため、次第に蒸発し凝縮してゆきます。最初の250ℓ容量の樽は徐々にサイズが小さくなってゆき、50年ものが眠る樽に至っては、せいぜい3ℓほどが入るサクラ材の樽でした。かたや進藤・奥田コンビは、製法に関する資料提供を私に依頼、収穫したヤマブドウを圧搾して煮詰めたヴィンコットを、15ℓサイズのボージョレ・ヌーボーの木樽(!!)で熟成させるという大胆な(?)製法で、本場モデナに果敢に挑んでいます。左写真に写っている初年度のものは保存環境が合わずに失敗したものの、二年目以降の仕込み樽は今も12年の眠りに着いています。前代未聞の「国産伝統的バルサミコ酢」造り。果てさて、どうなりますことやら...。

 こうして回り道をした挙句、13 時過ぎに「アル・ケッチァーノ(以下「アルケ」と略)」に駆け込みました。アルケで平日のランチを頂くことは、仙台で働く今では叶わぬ夢です。前任の急逝で突如決まった山形営業所の立ち上げに奔走する中でアルケと出合った2003年5月以降、仙台に戻されるまでの11ヶ月間、ビッシリと書き込まれた黒板メニューをあらかた食べ尽くしました。最近1/2サイズの一枚が加わって、3.5枚に増えた黒板を熟読していると、土田料理長が登場しました。手にしたボウルの中では、しきりに川ガニが這いずり回っています。モクズガニは良い出汁が出るので、リゾットに調理してくれるよう所望。新蕎麦を使った手打ちパスタ「ピッツォッケリ」のほかは、お任せにしました。

2008.10.21alche_funghi.jpg 2008.10.21alche_managatsuo.jpg 

 ほどなくオリーブオイルと粗塩風味の「天然松茸と天然白舞茸のオーブングリル」(上写真左)が運ばれてきました。今を盛りの秋を深山の香りで実感させてくれるシンプルな山の恵みのアンティパストです。直火で炙った薫り高い希少な天然キノコの味付け用に添えられたオーガニックなオイルは、優しく柔らかなタイプ。塩は、豊かな森林に覆われた中国南部福建省の台湾海峡で、森の養分を含んだ汽水が流れ込む浅瀬で作られたまろやかさが特徴の粗塩。

 二品目は「井上農場のスーパー小松菜と網焼きマナガツオのほのかなガーリックオイル風味」(上写真右)。寒さが厳しくなるこれからの季節が最高に美味しくなる井上さんご夫妻が育てる小松菜。口いっぱいに瑞々しい月山の水が弾けるオーガニックな朝採り小松菜のソテーは、網火を通したマナガツオとは鉄分つながりの好相性を発揮します。そこにオイルがつなぎ役として更なる一体感を演出していました。

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 隠し味の白ワインとアサリの出汁であっさり軽めの味付けがなされたプリモピアット一皿目は、「まるごと川ガニのはえぬきリゾット」(上写真)。今だから本音を言えば、店が混乱の極みにあったひと頃、概して味付けが濃くなった時期がありました。厨房現場の疲労からか、塩やニンニクをきかせたフツーにありがちなイタリアンに成り果てていたのです。この日の土田さんの料理は、どれも素材に対して我を押し通さない師匠譲りの薄味で好感が持てました。先ほどまでワサワサと動いていた川ガニは、さっと素揚げしてあるようです。そうして閉じ込めた旨みたっぷりなミソや爪に詰まった身を食べ尽くそうと、じっくり時間をかけ手づかみで挑みました。"ええぃ、刃物当然ナイフ&フォークを意味するつもり)は使わねぇぜい、素手でかかって来い!?" 

 余談ですが、藤沢 周平の原作を山田 洋次監督が映画化した「隠し剣 鬼の爪」では、永瀬 正敏演じる片桐 宗蔵が、謀反人の汚名を着せられた海坂藩きっての一刀流の達人、狭間 弥市郎(小澤 征悦)を討つよう藩命を受けます。藩命とあれば致し方なしと、私情を捨てて旧友との決闘に臨むものの、家老の堀 将監(緒形 拳)が、戦場刀の胴太貫一本で片桐に挑んだ狭間を、鉄砲で討ったことに激しい憤りを覚える場面が登場します。それが小説の舞台となった海坂藩のモデルとされる庄内人気質です。庄内系を自負する以上、「隠し剣 鬼の爪」ならぬ「隠し味 蟹の爪」には素手で尋常に勝負を挑んだ次第。 エ?c(゚.゚*) そんなつまらないギャグはさておき、私の胃に収まるため、命を全うした川ガニ君(⇒オスでした)に対するそれが礼儀でもありました。もって瞑すべし...

2008.10.21alche_pizoccheri.jpg 2008.10.21alche_cingiale.jpg
 高校時代から蕎麦屋巡りを始めて、山形内陸のそば切りにはすでに倦み飽きている私ですが、北イタリアの山岳地帯で栽培される蕎麦を平たいショートパスタに仕上げる Pizzoccheri (ピッツォッケリ)なら話は別です。この秋の初物となる新そばのプリモ2皿目は、契約生産者である「今野惠子さんの畑から朝採りしたホウレンソウをソテーして軽いアーリオ・オーリオ風味に仕上げたピッツォッケリ」(上写真左)。同じ山形県でも食材の幅が限られる内陸地方では、大同小異の「板そば」などのそば切りとなるところが、食の都・庄内のショールームのようなアルケでは、こうして旧朝日村産の地蕎麦粉を使ったそばも一風変わった姿で登場してきます。香り高い新蕎麦のピッツォッケリの陰には、香ばしく炒めた蕎麦の実が隠れていました。

 メインとなるセコンドピアット(上写真右)には、ソテーした天然アケビに津軽・鯵ヶ沢の岩木山麓で育った脂身が美味しいイノシシがラグー風に絡めてあります。付け合せは、惠子さんの畑で土田さんが朝採りして来るニンジンとキャベツに加えて、在来野菜の温海カブが強めに天火グリルされたもの。湯殿山近くの山中から土田さんが採ってきたというアケビのほろ苦さと、野菜本来の味と香りを加熱して際立たせた甘味、噛み締めると滲み出てくるイノシシの肉汁の旨みが三位一体となって木霊(こだま)しあいます。視覚と嗅覚も動員して野趣溢れる秋の恵みを味わったところで、お腹具合はおおよそ八分目に。約束の時間が迫っている次なる目的地へ向かわなくてはならなかったので、「まだ食べられますか?」との土田料理長の問いに、そろそろドルチェにしてくれるようお願いしました。

2008.10.21alche_dolchi.jpg 高級ブドウ品種の「高尾」と「甲斐乙女」、庄内柿、羽黒で育つヤギのミルクのジェラートが付け合わされたドルチェ「Uva Ciocco ウヴァ・チョコ(右写真)には、秋深しを実感させる赤く色付いた葉を付けた天然のヤマブドウが飾られていました。聞けばアケビ同様に土田さんが湯殿山から採ってきたのだといいます。ならばと一粒つまんでみましたが、脳天まで突き抜ける鋭角的な酸味に口がシビれるほど。進藤さんが栽培するヤマブドウも、十分に熟すと強い酸味に加えて甘味が乗ってきます。するとそれまではヤマブドウに見向きもしなかった野生のクマが畑を荒らしにやって来るのだそう。そりゃクマだって冬眠を控えて強壮効果が高いだけではなく美味しいヤマブドウが食べたいですよね。

 ヤマブドウの鋭い酸味で麻痺した味覚を呼び戻し、トロけさせてくれたのは「フルーツタウン」と呼ばれたかつての櫛引町R112沿いにある「産直あぐり」に減農薬栽培したブドウを出荷している佐久間ファームの糖度が高い白ブドウ品種「ハニーシードレス」でした。軽やかな甘味の生クリームとチョコスポンジに挟まった甘~い完熟ブドウは、その名の通り蜂蜜のような甘味が特徴です。ここ数シーズン頂いている秋の定番スペチャリテとエスプレッソ・ドッピオで、ひさびさに平日の昼からアルケで頂く「ごっつぉ」(=庄内弁で「ご馳走」の意)を締めました。

uvisakuma2007.jpg【photo】 昨年の9月23日(日)、佐久間さんの畑で採らせて頂いたブドウたち。奥から手前へ順に、小粒の黒ブドウ「メルロー」、同じく白ブドウ「ハニーシードレス」、大玉赤ブドウの「赤嶺」、「甲斐乙女」、細長い白ブドウ「ゴールドフィンガー」。3箇所に分散した畑で育つ20品種以上のブドウは、地域慣行の半分ほどの消毒回数で栽培される。

 店を出た私が向かったのは、ドルチェで食べたばかりのハニーシードレスを鶴岡市西荒屋で栽培する佐久間良一・みつご夫妻のブドウ畑でした。私にとってアルケの醍醐味は、こうして料理の背景がすぐ近くにあり、旬の素晴らしい素材をもたらしてくれる生産現場に直に触れられること。食の都・庄内においても、飛び切りの食材が揃うアルケを通して得た生産者とのご縁は、人間にとっていかなる時代も普遍的な価値を持つ「食」を媒介とした尊いものです。

 そこからは豊かな実りの秋を実感する「ごっつぉ」(=庄内弁で「おいしい食べ物・ごちそう」の意)調達となるはずが、日頃お付き合い頂いている生産者の皆さんからの頂き物で溢れかえる「もっけだの」(=庄内弁で「(申し訳ないのニュアンスを込めた)ありがとう」の意)な展開が待ち受けていたのです。 

地の恵みに癒された濃密な一日
「もっけだの」篇 へ続く
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