あるもの探しの旅

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新・ごっつぉだの もっけだの

≪地の恵みに癒された濃密な一日≫
「もっけだの」中篇 @月山パイロットファーム

 食を介した人との絆で結ばれた庄内での一日ついてご紹介してきた「ごっつぉだの篇」「もっけだの」前篇と続いてきた「ごっつぉだの もっけだの」シリーズ。実りの季節の頂き物で溢れ返った私の休日もいよいよ佳境に差し掛かってきました。

keiko_kazu_08.10.jpg【photo】今年の「Wa!わぁ祭り」に参加した相馬さんご夫妻

 旧朝日村越中山の進藤さんのもとを発ち、左手に庄内平野を一望する高台を進む「庄内こばえちゃライン」を北上、次なる目的地「月山パイロットファーム」に向かいました。それでいて実はそこに立ち寄るかどうか途中まで迷っていたのです。何故なら月山パイロットファームの相馬 一廣さん・恵子さんご夫妻は、5日後の10月26日(日)に開催される「あいコープみやぎ」恒例の「Wa!わぁ祭り」に毎年鶴岡から参加され、甘みがある身が詰まった男爵イモの煮転がしや自然な味付けの無添加漬物などを試食できるブースを出されているからです。私もそこでお二人にお会いするのを楽しみにしています。あいコープみやぎでは「安全なものを食べたい」「子供に本物の味を伝えたい」という思いから、厳しい取り扱い基準を設けています。その方針に賛同した生産者や食品加工業者からなる「共生会」の会員が消費者と直接触れ合う場であるWa!わぁ祭りは、自宅から自転車ですぐの距離にある台原森林公園を会場として毎年秋に行われています。

【photo】多くの来場者で賑わった今年の「Wa!わぁ祭り」wa!wa_festa08.jpg

 相馬さんは、1947年(昭和22)、稲作が盛んな旧藤島町の三和地区で米作農家の長男に生まれます。山形大学農学部卒業後、ご両親から受け継いだ3.8haほどの水田で、その頃急速に進んだ機械化と肥料・農薬を投入して増産と省力を目指す"近代的な"コメ作りを始めます。そのかたわら数頭の乳牛飼育を手掛け、稲作と畜産の複合による当時もてはやされた営農スタイルを取り入れます。就農7年目の1977年(昭和52)、月山山麓の旧羽黒町川代(かわだい)地区の未開地を農地に転用する国営開拓事業への入植募集が行われます。当時は機械化によって農業の効率化が進む反面、その2年前に出版されベストセラーとなった「複合汚染」で作者の有吉 佐和子が問題提起した通り、生態系が近代農法を支える農薬によって破壊されていることが広く認知され始めていました。
keiko-kazu2.jpg【photo】無農薬栽培した男爵イモを煮っ転がしにしてWa!わぁ祭りで振舞う相馬 一廣さん

 除草剤の普及によって重労働だった田の草取りからは解放されたものの、ドジョウやオタマジャクシが駆逐された生気のない無機的な水田でコメを作る慣行農法のあり方に疑問を感じていた相馬さんは、環境破壊を引き起こさずに食糧供給を行う手段として「有機農業」という言葉を我が国に広めた先駆者である一楽 照雄(1906-1994)が1971年(昭和46)に結成した「日本有機農業研究会」に知人の紹介で入会します。そこでは食糧生産に携わる生産者こそが消費者の意識を変える立場にあることや、両者が直接手を携える関係の上に成り立つ協同組合組織の可能性などが語られていました。会を通じて知り合った「生活クラブ連合会」から無農薬のバレイショ栽培を打診された相馬さんは、その巡り合せに自らの進むべき道を見出します。戦後の食糧難の時代を経て、生産効率を上げることが重んじられた当時、今でこそ環境保全型農業が普及する庄内地方でも、その言葉すら認識されていなかった有機農業に無農薬で取り組む生産者は存在していなかったといいます。

 30歳を迎えたばかりだった相馬さんは、一楽 照雄の勧めもあって処女地ゆえに土壌汚染を免れていた川代の開拓地 6haを借り受け、その実験農場(=パイロットファーム)を舞台に理想とする農と食のあり方を恵子夫人と共に模索しようと決意します。ところが入植地は砂礫や岩がゴロゴロする火山性の赤土で、加えて植物にとっての三大栄養素であるチッソ・リン酸・カリウムの含有量が検査の結果ゼロ!!という厳しいものでした。家畜の糞や稲藁・落ち葉・おが屑などの有機堆肥や米ぬかを発酵させたボカシ堆肥を使って土作りを文字通り一から始めなくてはなりませんでした。

patata_soma.jpg【photo】相馬さんの出発点となったのは、直径4cmほどのゴルフボール大の小さな男爵イモだった

 生活クラブの求めに応じて20トン分の収穫が見込める量の男爵イモと、痩せた土地でも栽培しやすいソバと少量の大豆も作付けしますが、そうたやすく荒れ地から収穫を得ることはできません。種芋を植え付けしながらも、「これは無収穫に終わるかもしれない」という思いがよぎったそうです。何とか発芽はしたもののバレイショには褐色の斑点が付く「そうか病」が発生、初年度に収穫できたのはピンポン玉程度の小さなもの10トン程度がやっとでした。通常40g以下のジャガイモは一般には流通しない規格外とされます。小さいながら試食してみた味には自信があったので、サンプルを送った生活クラブ側から、「美味しい男爵なので取り扱いましょう」との連絡が相馬さんのもとに入ります。「来年はどの程度作付けを増やして頂けますか?」という嬉しい問いかけにそれまでの苦労が報われた思いがしたそうです。以来、生活クラブとは30年以上の関係が続いています。仙台圏から石巻・一部宮城県南地域在住の方が利用できる「あいコープみやぎ」以外では、「大地を守る会」といった直販組織でも月山パイロットファームの食品を扱っています。

 相馬さんが一貫して追い求めてきたのは、「人間が口にするのに値する食べ物を、永続可能な方法で生産する」ことでした。収量効率を上げる化学肥料や農薬に依存せずに、土地の気候に合致した植物が本来持っている生命力を引き出し、連作障害を出さずに地力を上げるために、50品目にも及ぶ作物を手掛けてゆくなかで、およそ10年の歳月をかけて独自の輪作体系を編み出しました。簡単に説明すると、夏にナス科に属するバレイショや民田ナスの収穫を終えた畑では、秋冬野菜の赤カブやダイコン・青菜・カラシ菜などアブラナ科の作物を育てます。翌年は土中のリン酸の吸収効率を高める働きをする緑肥としてひまわりやイネ科の飼料作物であるソルゴーを、3年目は特産のだだちゃ豆や青大豆といったマメ科の植物を、4年目はユリ科のネギ・アサツキを、5年目はセリ科のニンジンを、6年目はイネ科の大麦・ビール麦を、という具合に異なる6科目の作物を育てることで、土壌消毒をせずに病害虫の発生を抑えるのです。

prodotti_soma.jpg【photo】月山パイロットファーム製の地方色豊かな漬物各種。左より民田ナスの辛子漬特別仕様、食用菊「もってのほか」甘酢漬、ハリハリ大根。いずれも素材の味を活かした自然な味付けがなされている

 栽培した作物を漬物に自家加工する施設では、防腐剤や着色料などの添加物を一切加えません。理想とする資源低投入型の生産手法を推し進めるため、従来から豚糞を加工した堆肥を仕入れていた㈱平田牧場の新田 嘉七社長と模索していた取り組みを4年前から実践しています。酒田と鶴岡にある平田牧場直営のとんかつ店【注】には、かねてより漬物を納めていました。その際、店から使用済みの廃植物油を安価に譲り受け、バイオディーゼル燃料(BDF)に転用して農機の動力に活用しているのです。一定量の確保と安定稼動が可能なBDF精製プラントの建設には350万ほどの投資が必要とされます。しかし月山パイロットファームでは、目と手が届く範囲の耕作に必要な最小限の量を確保するだけでいいのです。自宅敷地内の納屋でメタノールとアルカリ触媒となる水酸化カリウムを家庭用ミキサーで調合後、廃油に混ぜるという独自の加工法でBDFの精製に成功、トラクターなどの農機や農耕用小型トラックの燃料として使っています。植物油から精製したBDFは、植物が生育段階で大気中のCO2を固定するため、地球を取り巻くCO2総量に影響を与えないと見なされます。

pilotfarm-jyosou.jpg【photo】 夏の庄内特有の強い日差しのもと、トラクターでジャガイモの除草作業が続く

 8年前に跡を継いだ長男の大(はじめ)氏が法人としての月山パイロットファーム代表を引き継いだ現在でも、ほぼ目処がつきつつある独自の資源低投入型循環農法をより理想形に近付けるための挑戦は続いています。作物の収穫によって分け前を得た土の力を蘇えらせるため、単に堆肥を投入するのではなく、大気中の窒素を固定化させる機能がある大豆などマメ科の作物の作付けによって窒素系肥料の使用を抑えるといった、植物が本来持っている力を借りる農業を実践しているのです。一貫して反対の意思を明確に打ち出している遺伝子組み換え技術に頼ることなく、土に極力負担を与えずに永続的な収穫を得ること、次の世代のために地球資源を浪費せず、究極的には作物の種を撒くだけで収穫が持続できる術(すべ)を見出すことが自らの使命なのだと考えておいでです。アジア・アフリカ地域の農村開発従事者を留学生として招き、自立を目指す指導者として養成するNGO団体「アジア学院」の学生受け入れにも18年前から積極的に関わってきました。どこか飄々としながらも飾らないお人柄と遥かな地平を見据えたその姿勢にはいつも畏敬の念を禁じえません。

Tramonto_haguro_08_10_21.jpg 秋の日はつるべ落としの喩え通り、金峰山の稜線に赤く染まった太陽が沈みゆく光景に車を停めてしばし見とれました。旧羽黒町を縦断する庄内こばえちゃラインから眺める庄内の美しい田園風景には、いつも心が癒されます。週末のWa!わぁ祭りでお会いする際に買わせて頂く漬物の予約をしようと事務所を訪れた私をいつものように柔和な笑顔で迎えて下さったさった相馬さん。9月末に収穫した有機無農薬栽培のササニシキ新米5kgを「食べてみて」と持たせて下さいました。平田牧場の堆肥を10aにつき1t 投入、菜種油粕と魚粕を主原料とする有機アグレットという肥料を使用し、除草機と手作業で3度の草取りを実施して育てる相馬さんのササニシキ。かつては庄内地方で最も栽培が盛んだった宮城生まれのこの品種が最も美味しいコメだからと、周囲では後発の品種「はえぬき」がササニシキに取って代わってゆく中で、今も栽培を続けています。普段はササニシキを食べない我が家ですが、10aに200万匹の生息が確認されるイトミミズやカブトエビの幼生など、多彩な生態系の存在が確認されている相馬さんの田んぼで育ったササニシキは話が違います。圧力釜で炊いたツヤツヤしたご飯には、コシと粘りがあって甘さと香りもまた格別。宮城が生んだササニシキの実力を庄内産の米で見直すという、なんとも妙ちくりんな宮城県人なのでした。

riso_patata_soma.jpg  【photo】この日相馬さんに頂いた有機無農薬栽培したササニシキとバレイショ

 Alfa Brera のトランクにササニシキを積み込む私に「ちょっと転がしてみる?」と、還暦祝いで昨年手に入れた愛車Alfa 147 GTAのキーをちらつかせる相馬さん。迷わず誘い水に応じた私はまず助手席へ。農場前に伸びる直線道路で250馬力を発生する3.2 リッターDOHC4バルブV6エンジンの実力を体感させて頂きました。排気口からトンカツの香りがほのかに漂うBDFのトラクターで大地を耕すエコファーマーが一転、官能的な音を奏でながら強烈な加速Gを体感させてくれるギャップがまた愉快ではありませんか。相馬さんは旧藤島町の助役を務めておられた2003年(平成15)秋、有機農業を通したイタリア・マルケ州アンコーナ県にある町Arcevia アルチェヴィアsoma_prugatori@arcevia.jpgとの交流を図る目的でイタリアを訪れます。同町のオペラハウスで行われた有機農業の意義と可能性に関する報告会の席上、突如求められたスピーチを壇上で堂々とされたお姿が思い起こされます。両町の交流の橋渡しをしたアル・ケッチァーノ奥田シェフらと共にイタリアにご一緒し、伝統的バルサミコ酢と生ハムの加工現場見学のためにモデナとパルマを訪れた際、すぐ目と鼻の先にある車好きにとっての聖地、Maranello マラネロにあるフェラーリ本社工場とGalleria Ferrari フェラーリ博物館に行きたいと、しきりに仰っておられたのが相馬さんでした。日帰りで往復700kmを走破する超・強行スケジュールだったため、結局マラネロ行きは断念。非力なFIAT製ワゴン車のアクセルをベタ踏みし続けた私の右足が攣(つ)るという稀有な体験をさせて頂きました(^_^;)

【photo】シルヴィオ・プルガトーリ町長列席のもと、アルチェヴィア庁舎で行われた旧藤島町との友好都市協定の調印に凛々しい紋付袴姿で望んだ相馬さん

patata_del_casa.jpg

 去り際に「これも持って行って」と箱一杯に詰めたジャガイモまで相馬さんから頂いてしまいました。いやはや、もっけですぅ。その週末に仙台で催されるWa!わぁ祭りで、引き締まった身に甘辛い醤油タレの味が染み込んだジャガイモの煮っ転がしを頂くつもりでいました。これで自宅でもたっぷりと煮っ転がしを味わえます。作り手にとってはとりわけ思い入れが深いであろう小さな男爵には、その人が追い求めてきた飛び切り大きな食をめぐる夢がたっぷりと詰まっているのでした。

【photo】相馬さんから頂いた男爵で作った自家製の煮っ転がし

 そこから訪れようと思っていた目的地はまだ7箇所が残っていました。ラストスパートをかける前にロングドライブの疲れを取ろうと向かった先は、温まりの湯として抜群の泉質を誇る鶴岡市北端に位置する長沼温泉「ぽっぽの湯」です。150km以上離れた仙台で暮らすにもかかわらず、石油系の残り香が翌日まで持続する個性的な褐色のお湯がすっかり気に入ってしまい、地元以外では持つことが稀であろう入浴回数券すら持っています(笑)。いつものように体の芯まで温まったところで、平田赤ネギ調達のため、片道15kmは優に離れている酒田市飛鳥地区まで北上するにはちょっと遠いなぁ、と内心思いつつ、風呂上りに電話を掛けた平田赤ねぎ生産組合の組合長、後藤 博さんが居た場所とは・・・。


最後の ごっつぉだの もっけだの この展開はやっぱり「猿の惑星」シリーズだ...)
≪地の恵みに癒された濃密な一日≫
「もっけだの」後篇「最後のごっつぉだの もっけだの ~人の恵みに感謝。」へ続く

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<相馬家特製・ホクホクで香ばしい芋の煮っ転がし>

【材料】
(できれば月山パイロットファーム産の)男爵  適量

【調味料】
醤油 1.5 : みりん 1.5 : 砂糖1.5
酒 0.5
水 4

①ジャガイモを水洗いして熱湯で10分間下茹でする(無農薬なら皮は剥かずともOK)
②水分を飛ばした後で10分間油で揚げる
③水4に対して醤油・みりん・砂糖は1.5ずつ同量の割合で加え、酒少量(0.5相当)でコクを出す
④上記調味料を煮立たせてコトコト20分間イモを煮る
  →→→んめの~!

(有)月山パイロットファーム
  鶴岡市三和字堂地60
  TEL:0235-64-4791


【注】平田牧場では、地元と東京以外では初となる直営店を仙台市青葉区の複合ビル「仙台ファーストタワー」商業棟に出店を計画していることを先日明らかにした。これで仙台市民も、同社が日本の食料自給率向上のために取り組んでいる庄内産「こめ育ち豚」プロジェクトと、ブランドポークとして名高い「平牧三元豚」、トドメは「金華ハム」に使われる中国原産で異次元の肉質に昇華する「平牧金華豚」(→ホント旨いんだ、コレ)を通して、食の都・庄内の実力のほどと新たな魅力を知るはずである。ムフフフ・・・・

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コメント

実りの秋、食欲の秋到来です。
月山パイロットファームさんには、大地の会を通してお世話になっています。
安心して口にでき、そして美味しいのには、こうした背景があったのですね。

食欲の秋さま

 月山の初冠雪が早くも観測されたとかで、秋を通り越して、冬の足音がひたひたと近付いています。

 その山の麓で始まった相馬さんの挑戦が、今は息子さんも加わって続いています。機会があれば、庄内平野を見下ろす感動的な視界が広がる畑を一度訪れてみて下さい。

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