あるもの探しの旅

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冬季限定「滝の道」の名水

「鳥海三神の水」でプチ沢登り

 秋田と県境を接する山形県最北部に位置する遊佐町は、国土庁が平成6年に「水と緑の文化を育む水の郷100選」に選定した湧水の里。町内には数多くの湧水地点があり、その豊富な水は、"水筒要らずの山"といわれるほど水に恵まれた鳥海山の恩寵にほかなりません。

【photo】 稲刈りを終えた晩秋の遊佐町。雪を頂く鳥海山が里に冬近しを告げる

 清流「月光川(がっこうがわ)」沿いの道、酒田遊佐線を進むと、山の斜面に湧き出た伏流水が二筋の滝となって流れ落ちる有名な「胴腹滝(どうはらたき)」への入口が吉出地区の杉林の中に開けています。二筋の湧水はCa、Mgなどの成分上さして違いは無いものの、左側がきりっつと引き締まった硬質な味、右側は柔らかで優しい飲み口と、不思議なことに共に硬度が11の超軟水ながら、左右で明らかに味が異なります。そこに至る道は冬でも除雪されるため、年間通して水を汲みに訪れる人が絶えません。

doppara_yuza2006.jpg【photo】 山の斜面(胴腹)から伏流水が勢い良く出ていることから、安産を願う不動尊が滝の間に祀られた胴腹滝

 片道150km以上離れた仙台から鳥海山近辺まで足を伸ばすのなら、豊かな水の恵みを存分に堪能しない手はありません。そのため alfa Brera のトランクスペースには、いつも25ℓ容量のポリタンクが少なくとも二つは積み込まれています。しかしながら採水地から路肩の駐車スペースまで5分あまりズッシリと重い25kgのポリタンクを両手に抱えて苦難の道を戻らなくてはならない胴腹滝には、よほど気乗りしないと足が向きません。蒸発残留物が40~50mg/ℓ程度の良質な美味しい水なので、ペットボトルで持ち帰る程度なら別ですが、つい欲が出てしまって...(;^_^\

  鳥海山周辺には、多くの湧水スポットが存在し、そのいくつかは車で気軽に立ち寄れる場所にあります。口から喉を通ってお腹の中にすぅーっと吸い込まれてゆく柔らかな独特の飲み口が魅力の遊佐町女鹿地区の「神泉の水(かみこのみず)」と、同町三ノ俣(みつのまた)地区にある農林漁業体験実習館「さんゆう」前の「鳥海三神の水」は、気軽に車で立ち寄ることができる湧水ポイントの中でも、とりわけ美味しい水です。

sanyou2009_1.jpg 今回さんゆうを訪れたのは、1月11日(日)の夕闇迫る17時過ぎのこと。これまでも幾度となく通った道ですが、さすがに厳冬期に訪れるそこは、これまでとは様子がまるで違っていました。標高こそ海抜300m台とさして高くないものの、鳥海山の山懐へと分け入ってゆく三ノ俣集落に湧く鳥海三神の水を汲みに訪れるのは、山菜が出始める春から夏を経て美しい紅葉に山が燃え立つ時季だけ。降り積もった雪で一面の銀世界と化したそこを訪れるのは今回が初めてのことでした。人づてにそこが冬季間どうなっているのかを聞いてはいたのですが、そこには想像を超える「なんだこれ~!!?」という光景が待ち受けていたのです。

【photo】 標高2236m の頂きを雪雲のヴェールで包まれた鳥海山。山肌を覆う雪また雪。冬枯れのブナ。凍てつくモノトーンの世界。月光川大橋にて

 月光川に架かる旧朝日橋を右手に見ながら右折した道路は除雪されてはいるものの、白く輝く路面は圧雪が凍結し、ともすると車はハンドルをとられ、テールが流れ出します。そこは映画「おくりびと」で主人公・小林大悟(本木雅弘)が鳥海山をバックに堤防の上でチェロを奏でる場面と、身ごもった妻美香(広末涼子)に川原で石文(いしぶみ)を手渡すシーン、産卵のため遡上してくる鮭の姿などが撮影された場所です。

 ダッシュボードにデジタル表示された外気温はすでに氷点下。人家が点在する金俣集落を抜けると、月光川ダムに渡された月光川大橋に差し掛かりました。雪を縫うように眼下を流れる渓流と葉を落としたブナの原生林が広がる鳥海山とが織り成す水墨画のような風景に目を奪われます。命あるもの全てが雪に閉ざされ、じっと息を潜めているかのような静寂が支配するモノトーンの世界をカメラに収めようと、暖房の効いた車内から橋の上に出ましたが、あまりの寒さで早々に退散しました。

kanamata_takinomichi.jpg 橋を渡り切ると左カーブを描く雪道は、ほぼ直線の緩やかな上り坂となります。すでに陽は落ちて暗くなり始めていたため、最初はカーブから先が完全に除雪されてアスファルトの路面が顔を出しているかのように見えました。"何と完璧な除雪作業なことよ(*'0'*)"と感心する間も無く、よく目を凝らすと、そこは道幅いっぱいに水が流れているのです。

 「お、これが噂に聞いた"滝の道"かっ!」 道路は両側とも路肩が凹型にせり上がっており、上り坂の路面に流される水は、1~2cmほどの深さとなって流れて来るのです。それは世にも珍しい湧水が描き出す一筋の道なのでした。

strada_taki_sanyou.jpg【photo】路面を流れ下る湧水が川となって雪を溶かし、せせらぎとなった伏流水の道を「さんゆう」へ向かう

 そこまでは慎重な操作を強いられていたアクセルを踏み込むと、バシャバシャと派手な水しぶきが車のフェンダーから両サイドへと飛び散ってゆきます。路肩の枯れた雑草には、車に飛ばされた水が凍り付き、あたかも氷のオブジェのよう。温泉地で融雪のために温泉を道路に流している例は仙台近郊の秋保や鬼首などで目にしますが、距離にしておよそ1.4kmにも及ぶこの滝の道のスケールは、その比ではありません。そこでは滝登りする鯉や月光川を遡上する鮭の気分が味わえるはずです。

 三東ルシアが出演したTOTOホーローバスのCM(古っ!)「♪お魚になったワ・タ・シ」のフレーズを思い浮かべながら坂を進むと、さんゆう駐車場前に引かれた鳥海三神の水の水汲み場へと至ります。何やら由緒ありげな名前のこの湧水。本宮は夏山シーズンにだけ参詣が叶う鳥海山頂にあり、人里に置かれる口之宮が遊佐町吹浦と同町上蕨岡にある三つの鳥海山大物忌神社とは無関係だそうですが、この水を飲用水として使っている三ノ俣の住民の方たちが鳥海山の大いなる恵みに感謝して命名したそうです。

 鳥海三神の水は衛生上の配慮から、融雪に用いられる湧水の採水地とは少し離れた林の中に湧出する伏流水を引いています。駐車場のすぐ脇に水汲み場があることから、庄内一円はもちろん、県内外から多くの人々が訪れます。すっかり暗くなったこの日は、すでに人気は無く、勢いよく流れ出る清冽な水の音だけが響いていました。

【photo】 路面を流れる水は、道の先にある「さんゆう」の名水と同じ水脈。横着をしてその水を汲まないように。(←そんなズボラなヤツは居るまい) 名水と地元産ソバ粉を使う人気の「金俣そば」を、道幅いっぱいに流して、わんこソバも顔負けの食べ放題な「流しそば」にしてみては如何?

fiume_strada_sanyou.jpg 水汲みだけでは物足りないという欲張りな方は、さんゆうの産直施設と併設される飲食コーナーへもお立ち寄り下さい。産直では春先に出回るワラビやコシアブラなどの山の幸をはじめ、豊かな鳥海の水で育まれた個性的な古代米や、一般に流通している輸入物が霞んでしまうほど瑞々しいパプリカなどの地元の農産物を扱っています。飲食コーナーでは土日に20食限定で提供する地元産ソバ粉を鳥海三神の水で打った「金俣蕎麦」が人気。毎週水曜の定休日と週末には実施していないのが残念ですが、事前予約制で蕎麦打ちや豆腐・漬物・笹巻き作り体験(有料)も可能です。【旬の農産物カレンダーはコチラ

 遊佐町役場に問い合わせてみると、冬でも凍ることなく湧き出す伏流水を道路の融雪のために活用する事業は1981年(昭和56)頃に三ノ俣のほかに升川集落で行われましたが、今も稼動しているのは現在7世帯が暮らす三ノ俣だけだといいます。住民の高齢化のため、昨年からは町が11月中旬にそれまで住民が行っていた路面の清掃と補修を代行、集落から1kmほど離れた林間にある水源地の清掃を行い、雪が積もり始める12月から路面の雪が消える3月ごろまで住民の手で水が流され、保守管理がなされているそうです。「限界集落」という言葉がここにも翳を落としますが、湧水をこうして融雪に活用している事例は全国でも珍しいはず。鳥海山の恩寵である地域資源の水をこうして活用してきた住民の方たちに拍手を送りたいと思います。

fontana_sanyou.jpg【photo】 「鳥海三神の水」は駐車場に隣接しており、利便性が高い。駐車場の先は雪遊びが出来るスキー場になっている

 地区の飲用水や融雪用だけでなく、酒造りにこの水を用いているのが庄内町の造り酒屋「鯉川酒造」です。シーズンに1タンク分だけを仕込み、酒田周辺の一部酒販店で売り出される純米吟醸「極楽鳥海人」は、しぼりたての原酒では18度近いアルコール度数があるため、およそ15度まで度数を下げるための加水用に鳥海三神の水を使っています。蔵元の佐藤 一良社長によれば、この水を加熱して蒸発させると、鉱物成分である白い残留物が微量認められることから、日本酒の仕込み用としては不向きとのこと。それでも、1ℓ中の炭酸カルシウム含有量が12mg しかない超・軟水にカテゴリー分けされる鳥海三神の水は、当然殺菌は行っていませんが、汲んでから3週間程度ならそのままで飲んでもOKです。料理用はもちろん、お茶を入れたり、ご飯を炊く用途としても申し分ない美味しい水であることを申し添えておきます。

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農林漁業体験実習館「さんゆう」
住所)山形県飽海郡遊佐町吉出字金俣239-5
Phone)0234-72-4500
営)8:30-18:30 (3/15-10/31 は 8:00-17:00)
  水曜定休(祝日の場合は翌日休み)
  12/28-1/3休み
当然ながら「鳥海三神の水」は年中無休!

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