あるもの探しの旅

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2009/02/22

最後のごっつぉだの もっけだの

≪地の恵みに癒された濃密な一日≫
「もっけだの」後篇

 新・ごっつぉだの もっけだの」より続き

人の恵みに感謝。

 さっぱり更新されないことから、一部で未完説が囁かれ始めた畢竟の大作(?)「ごっつぉだの もっけだの」シリーズ四部作も、ようやく完結。 季節は昨年秋に遡ります...。

 食をめぐる得がたいご縁で結ばれた庄内を訪れると、日頃お付き合いさせて頂いている生産者の方たちのお顔を思い浮かべながら、辿るコースを組み立ててゆきます。この日('08年10月21日)、当初思い描いた行程の最後は、巡回ルートの北端にあたる酒田市横代(よこだい)で庄内の在来野菜「ズイキ芋」を水耕栽培する坪池 兵一さんのもとでした。そろそろ旬を迎えつつあったズイキ芋は、「カラドリイモ」あるいは濁らず「カラトリ」、「ジキイモ」とも呼ばれるサトイモの一種。一般的に茎を乾燥させて「芋ガラ」とするズイキの根の周りにできるサトイモと同じ子芋のみならず、親根も食用とします。最上川の南側では茎が赤い「赤ズイキ」、北側では茎が緑の「青ズイキ」が育てられ、茎自体も煮物などで食用とされる万能選手の作物です。

tsuboike@hatake.jpg【photo】 2005年(平成17)の晩夏、「ずいきの里」のランドマークが立つ自宅前の水苗代で熱く冗談を飛ばす坪池 兵一さん

 かつて、アル・ケッチァーノ(以下、「アルケ」と略)の奥田シェフを介して畑を見学に伺った坪池さんのズイキ芋との出合いは衝撃でした。それまで食べてきたサトイモとは全く別物のまったりとしたキメの細かいシルキーな口どけにすっかり魅了されたのです。素材選びには決して妥協しない奥田シェフいわく、ズイキ栽培にかけては腕自慢が揃う庄内でも一番美味しいのが坪池さんのものだそう。「このほうが美味しいから」と、畑栽培が一般的となった現在では、少数派となった水苗代でズイキを栽培する坪池さんは、「殖酸農法」のパイオニアでもあります。

 植酸農法とは、植物が生成する有機酸のうち、根から分泌される14種の有機酸の力で土壌を健全に保ち、化学肥料の力を借りずに海藻や貝化石などを投与して根の活力を高め、病害虫に強い作物を育てる農法のこと。坪池さんならではの澄んだ緑の葉が、風に吹かれてヒラヒラと揺れ、あたかも"おいでおいで"をしているようにも見える苗代で、時折ギャグを交えながら栽培理論を語る坪池さんとお会いするのは楽しみでもあります。

sig.tsuoike.jpg【photo】 植酸農法で栽培したズイキ芋とイモガラを前に、坪池理論を展開する坪池さん。うっかり真に受けて拝聴していると、突如ギャグが飛び出すので気が抜けない

 昼にアルケで食事をした際、取引先をもてなすために坪池さんから夜の予約が入っているとの情報を土田料理長から仕入れていました。そのため、「ズイキ芋をアルケまでご持参願えれば、それを購入させて頂きますよ」と、進藤さんのもとを出発する際に、坪池さんに電話でちゃっかりお願いしていました。なぜなら、食事を終えた時、すでに14時を回っており、生産者の皆さんのもとを回る移動時間を考えると、こうしたアドリブを加味しないと到底回りきらないと判断したからです。

 「ごっつぉだの、もっけだの」シリーズでご紹介してきたこの日午後の足取りを改めてざっとおさらいすると・・・・・十王峠を越えて4年ぶりの平日ランチを堪能した「アルケ」 ⇒ シーズン最後のブドウ狩りをした「佐久間ファーム」 ⇒ 絶品アップルパイの取材の申し出に伺ったつもりが、山形大農学部の平教授らの取材の合間に私までコーヒーとケーキをご馳走になった「知憩軒」 ⇒ 合流したアルケ土田料理長とミズの実の収穫をするため、庄内あさひIC付近まで戻った「進藤さんの山」、 ⇒ 馬鈴薯とササニシキのお土産をたっぷりと頂いた上に alfa147GTA の試乗というオマケまで付けて下さった「月山パイロットファーム」 ⇒ 仙台市民では持つ者などおらぬやもしれぬ入浴回数券を使ってひと休みした長沼温泉「ぽっぽの湯」へ。

08.10.21funghi@alche.jpg 【photo】 写真手前の白っぽいキノコが「ブナカノカ」

 ぽっぽの湯を発とうとする時点で、すでに真っ暗になっていましたが、この日決行した"庄内んめものオリエンテーリング"のチェックポイントは、まだ6箇所も残っていました。むせ返るほど濃密な森の香りをアルケで嗅がされた天然キノコ「ブナカノカ」を調達するため、アルケも仕入先として重宝している鶴岡市羽黒町狩谷野目の「あねちゃの店」はマル必で行かねばなりません。希少な天然もののキノコや山菜を扱う同店へは、これまで数多くの人々を仙台からご案内してきました。恒例の水汲みは、すぐ近くの猪俣新田にある造り酒屋「竹の露酒造場Link to Website」で仕込み水を頂けばOK。蔵名の由来となった竹林の中に湧く月山水系の超軟水は、蔵元・蔵人・杜氏らが自ら育てる「出羽の里」「亀ノ尾」「京ノ華」といった庄内生まれのコメたちと出合い、全国新酒鑑評会で数々の受賞実績を持つ銘酒「白露垂珠」hakurosuishu_kamenoo.jpgに生まれ変わります。地元のコメに愛着を持ち、金賞狙いの「山田錦」に安易に走らないこの蔵の姿勢には強い共感を覚えます。その芳醇淡麗な造りは、庄内オールスター食材軍団を見事に引き立てます。竹の露仕込み水を沸かしてしゃぶしゃぶにすると、羽黒の里で育つ「山伏豚」の融点が低い脂が適度に落ち、キメ細やかな肉質としつこさの無い風味の良さが引き出されます。今回は蔵で氷温貯蔵されていた平成19年醸造年度の吊雫生詰原酒、純米吟醸「はくろすいしゅ」亀ノ尾と共に頂くつもりでした。上品な吟醸香とコメのしっかりとした旨みが、透明感のある調和をもたらし、すっと綺麗に引いてゆくこの酒は、今年も3月上旬に上槽されるそうです。

【photo】 稲作の歴史に偉大な足跡を残した庄内生まれのコメ「亀ノ尾 Link to Backnumber 」を55%まで磨き、無濾過のまま火入れせずに一年貯蔵した希少な純米吟醸「はくろすいしゅ」吊雫原酒

 山伏豚のバラしゃぶ肉を扱うクックミートマルヤマ(鶴岡市みどり町)と、さっと湯通しして瑞々しさを頂く井上農場のスーパー小松菜(鶴岡市渡前)、同じく加熱すると、トロける甘さが生まれる平田赤ネギ(酒田市飛鳥)の豚しゃぶ用食材3点セットは欠かせないポイント。地理的に最も北にお住まいの坪池さんが、仙台への帰路で利用する山形道庄内あさひICの途中にあるアルケにおいでになることが分かっている以上、唯一ぽっぽの湯から北方15kmに位置する酒田市飛鳥までに行くのは、その後の行程を考慮すると、時間的に厳しいものがありました。平田赤ねぎ生産組合の後藤 博組合長に鶴岡市内で後藤さんの組合の赤ネギを扱う店があるかどうかを電話で確認し、ルート的にロスがない方法を選んだ方が得策です。
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【photo】後藤さんから譲っていただいた平田赤ネギ

 ぽっぽの湯の駐車場で、後藤さんの携帯電話をコールすると、電話口の後藤さんは、残念ながらその時期に鶴岡市内で赤ネギを扱う店はないと申し訳なさそうに応えるのでした。そうか・・・今回は赤ネギの入手は無理か ε-(´・`)... と諦めかけた時、後藤さんが私の居場所を確認されました。ぽっぽの湯に居ることを告げると、後藤さんは鶴岡市内の飲食店への納品を終えてR345の鶴岡市藤島地区に車でおいでだというのです。おぉ、それならあねちゃの店へ向かう途中で、しかも直線距離にして3kmほどの場所ではありませんかっ!! 私が電話を掛けた時、たまたますぐ近くにMr.赤ネギはいらっしゃったのです。喩えは悪いですが、カモがネギを背負って飛んできたかのよう。これで長沼温泉から北上する必要はなくなりました。これは奇跡に近い偶然です。きっと昼前に参詣した注連寺の「三鈷水(さんこすい)」で身を清めた功徳と、本堂に安置された鉄門海上人の即身仏、さらには末裔の進藤さんと会った真如海上人のお導きに違いありません。ありがたやありがたや。

08.10.21goto.jpg【photo】奇跡の巡り会いを果たした後藤さんとA-COOPふじしま前で

 待ち合わせした「A-COOPふじしま」の駐車場で、荷台に赤ネギを積んだ軽トラックを停めて私を迎えて下さった後藤さんから、たっぷりと束で赤ネギを譲って頂きました。それも市価とはおよそかけ離れた代金で。いやはや、もっけです。赤ネギのおかげでここ何年も風邪に罹っていないという後藤さんにあやかって、風邪知らずで来るべき冬を乗り切りたいところ。 (...おかげ様で今のところ風邪に罹っておりません。医食同源ですの)重ねがさね、もっけです。

【photo】 地吹雪が頻発する鶴岡市藤島地域では、暴風雪を遮るビニールハウスが葉物野菜の栽培農家には欠かせない。大雪警報が発令された今年の1月25日。珍しく雪を吹き飛ばす北西の風が弱かったため、前夜から降り続いた雪に埋もれたビニールハウスで小松菜の収穫をされておられた井上 馨さんご夫妻
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 期せずして赤ネギが手に入った上は、親子二代で徹底してこだわりのモノ作りに取り組んでいる「井上農場」Link to Websiteの小松菜を入手しなくてはなりません。昨年より一部地元のイオン系列の食品スーパーでも扱うようになった井上 馨さん・悦さんご夫妻の小松菜は、国内では探すことが困難な非抗生物質投与のニワトリの発酵鶏糞を鹿児島より取り寄せ、土に散布して栽培されます。専ら手掛ける「わかみ」という品種の小松菜は、寒中に最も食味が良くなるため、雪中でも収穫できるようにビニールハウス内で無農薬で栽培されます。柔らかな土の感触を確かめながら抜き取った小松菜をそのまま口に含むと、青い香りと共にミネラル豊富な地下水が口中に溢れ出してきます。我が家の定番となっている特別栽培米「はえぬき」(2,500円/5kg)の入手ともども、小松菜も直接畑やご自宅に伺っていつも購入させて頂いています。そのほうが誠実な仕事ぶりに触れることができるし、ラテン系なご夫妻の明るく前向きなお人柄に元気も分けて頂けますから。

2008.10.21inoue.jpg【photo】 井上さんからお裾分けの赤ズイキの茎、ヤーコン、購入した小松菜(左より)

 事前には何も連絡していなかったので、ご自宅の玄関前まで移動してから電話をかけようとイタズラ心が働きました。奥様の悦さんに5把の小松菜をご用意頂くようお願いする電話を切る間も無く、玄関を開けた私。電話の主が突如現れ、大笑いしながら中から出てきた悦さんは、採りたての小松菜と共に、頂き物だけどと仰いながら、ヤーコンと赤茎のズイキをお裾分けして下さいました。井上さんはいつもこうして旬の産物をお土産に持たせて下さいます。毎度〃もっけです~。最上川の南側では、こうして赤ズイキなのですね。こちらは芋ガラ用にさせて頂きます。

【photo】 あねちゃの店で頂いた平核無柿・茹で栗・柿しぐれ(左より)
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 すでに事務室の明かりが消えた竹の露酒造場に移動して、弱アルカリ性・硬度22という超軟水の仕込み水を25ℓ容量のポリタンクふたつに汲んだ後、「あねちゃの店」へ。ありました、ありました、お目当ての天然ブナカノカが。佐藤 典子店長は、「貴女のウチではどうして食べてる?」と居合わせた地元のお母さんに尋ねながらも、炒め物にすると美味しいわよと、食べ方を教えて下さいました。午前中にアルケの土田さんが来て、ブナカノカやクリタケなどをやはり仕入れていったそうです。量り売りのブナカノカを物色する私に「娘さんにどうぞ」と、茹で栗と庄内柿として広く知られる鶴岡で誕生した平核無(ひらたねなし)柿、そして市場デビュー4年目を迎えて県がブランド化に力を入れている「柿しぐれ」までお土産にと下さいました。これじゃ買い物に寄ったのか、頂き物に与るために寄ったのかわかりません。これまたもっけです~。平核無は果肉がソフトなので、しっとりとした北イタリアのサン・ダニエレ産生ハムと一緒に頂きますね。

 確立に5年を要した「樹上脱渋」技術は、固形アルコールを入れたビニール袋で柿を一粒づつ包んで、気化するアルコールで渋抜きするもの。パキッとした食感と実にゴマ状の褐斑が入るのが特徴で、2Lサイズ以上・糖度14度以上と厳格に規定された高級品種です。収穫後に脱渋する平核無には見向きすらしなかった山のクマたちにも、柿しぐれの美味しさが分かるようで、従来は発生しなかった食害が発生。丹精込めた柿を食い荒らされた生産者は、「クマったもんだ( ゚() ゚;;) 」と渋~い顔をしているのだとか。
 
 こうして寄る先々で雪だるま式に頂き物が増えて行く中、まだ豚しゃぶの主役を調達できていませんでした。食の都・庄内では、畜産にも力を入れており、ヘルシーで美味しい豚肉に関しても見逃せない産地です。国の減反政策で用途を失おうとしていた水田で飼料用のコメの栽培を農家に委託し、日本の食料自給率を向上させようという試みとしても注目すべき「平牧三元豚」で有名な平田牧場(酒田市)の「こめ育ち豚」推進プロジェクトについては、機会を改めて別途取り上げます。地元産のコメを飼料として与えられる平田牧場の「平牧金華豚」は、国内でほかに一箇所のみで生産される幻の金華豚を、よりグレードアップしたブランドポーク。牛のサシとは違い、豚の脂肪はむしろ健康に良いことが近年の研究で明らかになっています。不飽和脂肪が多い霜降り肉となる平牧金華豚は、食味に関して日本で間違いなくトップレベルにある豚です。その逸品は酒田市松原南にある平田牧場本店で購入することも出来ますが、いかんせん希少価値が高いために値段もそれなり(^ ^;)

 酒田まで北上しないことにしたこの日は、鶴岡市みどり町の精肉店「クックミートマルヤマ」Link to Websiteが扱う羽黒産庄内豚「山伏ポーク」のバラ肉をしゃぶ用にスライスして購入しました。月山山麓の空気のきれいな環境のもと、国産の安全な穀類中心の飼料で、じっくりと肥育するため、肉が旨みを増す熟成能力に優れた山伏ポーク。バラ肉が通常158円(100g当たり)、水・土曜は126円(同・店頭限定サービス価格)という極めて良心的な価格にもかかわらず、キメ細やかな赤身としつこさのない甘さが特徴となる脂身の旨さには、名だたる銘柄豚たちも尻尾を巻いて退散することでしょう(→ちなみに豚はもともと尻尾がクルリと巻いていることはご存知の通り...)

happou-sushi.jpg【photo】たっぷりと身の詰まった鶴岡「八方寿し」の大トロ手巻き。噛み締めると、ブーッツと大トロが口の中に広がり、至福の時が訪れる。

 昼食をゆっくり食べたものの、19時30分を回って、お腹が空いてきました。薪窯で焼き上げるマルゲリータを夕食にしようかと思い、鶴岡市馬場町のピッツェリア「Gozaya(ゴザヤ)」に寄りましたが、定休の火曜日につきCLOSE。そこでガラリと方向転換し、ネタの良さが光る同市神明町「八方寿し」へ。いつも混んでいる店のカウンターの隅にもぐり込みました。独特のアップテンポなリズムで店を切り盛りする親方にお決まりの特上(2,500円)を注文。脂の乗ったヒラメやノドグロ、大トロの握りや手巻きは、いつも至福の時をもたらしてくれます。軍艦からこぼれそうなイクラやウニも堪りません。このコストパフォーマンスは特筆ものです。晩の「ごっつぉ」に身も心も満ち足りて店を後にしました。

 長かった一日も、残すはアルケで食事中の坪池さんのもとに立ち寄り、ズイキ芋を譲って頂くだけ。談笑中の坪池さんが席を立ち、店の裏手へと私を誘(いざな)います。そこには、むき出しのままのアルケ用のズイキとは別に、三つの袋に入ったズイキ芋と青ズイキの茎がありました。酒田市中町の産業会館向かいにある産直「ヨッテーネ」で売れ残ったものだそうで、お代は要らないとのこと。外側の皮が黒ずんでいるものの、表面を洗い流せば、まだ充分に美味しく食べられるものです。08.10.21zuiki.jpgそれでも坪池さんは、もう売れないものだからと、代金を受け取ろうとしません。すっかり恐縮したものの、ここはご好意に甘えさせていただくことにしました。返すがえすももっけです~。

【photo】 坪池 兵一さんから頂いたズイキ芋と青ズイキの茎

 大きなポリタンク二つを積んだalfa Brera のカーゴスペースは、もはや頂き物でパンク寸前。そうして実りの季節を実感させる「ごっつぉ」と「んめもの」の数々に彩られた庄内での秋の一日は終わろうとしていました。皆さんから頂いた豊かな地の恵みと、何より得がたい人とのご縁に恵まれていることに感謝せずにはいられない一日となりました。
 い~のぅ、庄内。

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2009/02/15

?(・・;)。。o な湧水

やはりそこは異郷だった。の巻

 「山形赤根ホウレンソウ」という在来野菜をご存知でしょうか?
ギザギザの切れ込みが深い葉の形状と、根から茎にかけて鮮やかな赤に染まるのが外見上の特徴となる在来のホウレンソウです。食味ではシャキシャキとした葉の食感と、太く赤い根付近の甘さが印象的です。通常の西洋ホウレンソウに比べ、甘味が強いとされる「ちぢみホウレンソウ」の糖度が厳冬期に10度前後となるのに対して、スイートコーンや巨峰と同等レベルの17度以上まで数値が伸びる山形赤根ホウレンソウ。その主産地は山形県内陸の村山地方です。食味の良さから、近年では徐々に需要が広がりつつあり、山形市と天童市、上山市の周辺で栽培されています。もともとは奥の細道で松尾 芭蕉が立ち寄った山寺こと「立石寺」へと向かう途中、山形市の北端にあたる風間地区で作られてきたものです。

 美味しい食材の宝庫・庄内地方が主な行動範囲となる庄内系ゆえ、行政区分上は同じ県でも、食文化だけでなく、さまざまな側面において違いを肌で感じる村山地域は、当「あるもん探しの旅」において、あまり取り上げる機会がないままに今日に至っています。出荷される際にほとんど切り落とされる根っこの部分まで実は美味しく食べることができる赤根ホウレンソウの産地をどうしても見ておきたくて、風間地区へと足を運んで出合った驚愕の湧水について報告・連絡・相談(=ホウ・レン・ソウ)します... ?(・・;)。o

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 風間地区を通るJR仙山線が楯山駅近くで道路と立体交差になった場所に一軒の水車小屋が建っています。比較的最近建てられたと思われる水車小屋には「泉の里 延命水」の看板が掛けられていました。車を停めて立ち寄ってみると、水が引かれた水車の右手に岩をくり抜いた水盆があり、そこから湧水が溢れ出しています。水を含むと、まろやかな口当たりのなかなかの良水でした。

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 周辺は住宅地と畑が混在しており、すぐ先がスタジオジブリのアニメ映画「おもひでぽろぽろ」の舞台となった日本の原風景が残る高瀬地区で、そこから高瀬川が流れています。近くには造り酒屋の寿虎屋酒造㈱があり、蔵王山系に端を発する良質の水に恵まれた地のようです。記された由来よると、昭和18年に掘削して湧出した水とのこと。隣に延命地蔵尊があったことから「延命水神」と名付けられ、どんな日照りでも涸れることなく湧き続けるこの水は、地区の飲用水に用いられています。おいしい水との評判から、茶道愛好者が水を求めて訪れるまでに。ふむふむ、さもありなん。

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 もう一口頂こうかと、ふと水場の奥に目をやると、この水は殺菌消毒を施していない旨を告げる看板が立てられていました。塩素消毒したダムの水と比べれば、地下で磨かれた湧水のおいしさは比較になりません。生水がどうしても気になるのであれば、沸かして飲めば良いまで。水に恵まれた地に足を運ぶことが増えて以来、水の味には敏感になりました。

 湧水を消毒していない旨を記した注意書きは、地元住民のみならず、遠方から水を求めて人が訪れる場所で目にすることがあります。湧水ならば全てOKという訳ではなく、名水として有名な水でも、上流部に果樹畑があれば、そこで農薬が散布されている可能性が高いし、家畜を飼育する畜舎などがあっても、土壌への影響が懸念されるので、汲んで帰るのはパスすることにしています。そうでもなければ、消毒されていないことなど、いつも気に留めないのですが、その隣に立つ赤字で書かれた看板の内容には目を疑いました。あまりにナマな表現なので、文字にするのは差し控えますが、写真をとくとご覧下さい。
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あなたはこの水をナマで飲めますか?

 立て看板には、延命水道組合と地元町内会の名が記されています。「山菜・キノコを採らないで」を意味する「熊出没注意」の看板には臆さない私ですが、この看板にはさすがにビビりました。散歩中のワンコが急にしゃがみ込んで排泄に及ぼうとするのは仕方ないにせよ、よほどの大型犬でもない限りは、「そこじゃダメよ」と引っ張れば済む話。問題はむしろ飼い主である人間であって、そこを公衆トイレだと勘違いして用を足す粗忽者など果たしているのでしょうか? わざわざ赤字で「●●をしないで下さい!」と、しかも「!」付きの強い調子で書いてあるということは、そうした事例が実際に起きているのかも?? それとも、「オラホの水だから持ってくなっ! 」という意思表示なのでしょうか???

 この衝撃的な看板を前に、それを立てた人の真意を測りかねてしまいました。組合の皆さん、町内会の皆さん、どなたかこれをご覧になったら、事の真相を教えて下さいませんか。しばしそこに佇み、謎が解けぬままに泉からすごすごと退散したのは申すまでもありません。何事につけおおらかな庄内では見たことのない看板を前に、庄内系にとっては、そこがやはり異郷であることを実感させられたのでした。・・・以上、赤根ホウレンソウがさっぱり登場せぬまま、報告・連絡・相談、任務完了。


P.S.: のちにネットで検索したところ、2005年夏にはまだ赤字の看板が立てられていなかったことが判明 【山形フィルムコミッションWebサイトへ】。何らかの理由で、最近追加したと思われる赤字の立て看板に気付くことなく、延命水をそのまま飲んでしまったものの、これといって消化器系の変調は認められず、無事に延命していることを付け加えさせて頂きます。(⇒これが水の名前の由来だったりして...)

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2009/02/11

ルチアーノ・サンドローネ訪問記

記憶を呼び覚ますヴィーノ @Francesca by 非覆面調査員

 私もそうですが、つい飲みすぎてしまったワインで記憶を失った苦い経験ならば事欠かない方も多いのでは? 今回は逆に失った記憶を呼び覚ますワインに関するお話です。酒を呑んで記憶を取り戻すなんて、まるで「ア中」みたいですが、国内外問わずワイン産地や生産者を訪れたことがある方なら、きっと頷いて頂けるはずです。

 シチリアと北部山岳地域を除くイタリア半島のほぼ全域で栽培されるブドウ品種「Sangiovese サンジョヴェーゼ」を主体に、強靭な個性を主張する「Nebbioloネッビオーロ」や汎用性の高い「Dolcetto ドルチェット」など、イタリア原産ブドウ品種からなるセパージュで組成された血液が流れている特異体質ゆえ、免疫のないボジョレー・ヌーボーの摂取によって、急性中毒を発症した《Link to back number 》翌日のこと。カンフル剤となるヴィーノ・ロッソの摂取と口直しを兼ねて仙台市青葉区大町にあるイタリアン「Francesca フランチェスカ」を訪れました。

francesca_antipast2.jpg【photo】 自家仕込みしたフランチェスカのハム各種。奥から順に、コッパ、モルタデッラ、鴨の生ハム、赤ワイン漬けしたプロシュット

 ボジョレーを産する国の大手タイヤメーカーM社が発行するレストラン評価本のうち、アジア圏では初めてとなる同ガイドの東京版が、一昨年発行されて話題を呼びました。M社の行った事前の覆面調査は、3名のフランス人と2名の日本人調査員が担当したのだといいます。ん? Un moment s'il vous plaît!(ウン モメント シル ヴゥ プレ=「ちょっと待って」仏語)パンを主食とする3人のフランス人調査員は、自国ではほとんど栽培されないコメの味が分かるのでしょうか? どちらかといえば淡白な日本食をどれだけ客観評価できるのか、私には甚だ疑問です。自国の文化に絶対的なプライドを持つ「中華思想」にかけては、本家中国と並ぶ彼らが、自分の尺度でいかなる感想を抱こうと構いませんが、それをもとにランク付けした本を日本で発行すること自体が余計なお世話だし、時としてそうした不遜な姿勢は傲慢にすら映ります。

capo_harada_francesca.jpg【photo】 自ら仕込んだ県産ガーリックポークのプロシュットを切り分ける原田シェフ

 いっぽう米国発のレストラン評価本「Zagat Survey ザガット・サーベイ」(1979年創刊)は、一般の利用者によるアンケート結果から、ユーザー個々の嗜好や極端な意見を平均化した上で、専門スタッフが実際に足を運んで評価を検証する手法を取り入れています。最新の東京版では、5,500人超のユーザーが参加したアンケート結果をもとにしているのだといいます。12ヶ月に及ぶ食に関する研修を受けているとはいえ、日本の食に対する理解度にいくばくかの疑問を差し挟みたくなる3人の異邦人を含む5名の調査員による採点に比べれば、こちらのほうが客観性があり、信用度が高いと思うのですが、いかがでしょう。それにもかかわらず日本では後発となる仏国発のガイドのほうが売れているようです【注】。ここにもボジョレーに飛びつくのと同じ日本人特有の「おフランス信仰」が顔をのぞかせているように思えます。いくら日本が仏教国でも、そんなに「仏」を有難がたがらなくてもねぇ・・・(苦笑)

 ワインリストにボルドーやブルゴーニュが(→直接問い正してはいないが、ボジョレーは範疇外のはず)それなりに充実していないと、決して最高評価の☆☆☆を与えないのは、1956年に自国以外では初めて出版され、毎年版を重ねているM社によるガイドのイタリア版でも同様です。パスタやリゾットの命ともいえるアル・デンテが何たるかを、創刊半世紀を経てもなお理解しようとしないエスプリ(「Esprit(仏語)」→日本においては何故か言葉の知名度は高くとも、意味は謎 (゚_。)??ですよね)の国の尺度で語られる赤い装丁のガイドには、ゆえに興味はありません。そもそもが自動車旅行の普及で自社製品が売れることを目的に創刊した発行元のタイヤメーカーの動機を知ってかどうか、同社製のタイヤではなく、かといってイタリアのPIRELLI社製でもなく(→自国製自動車部品に対する自信の無さの表れか?)、米国GOODYEAR社製のEagle F-1 GS-D3を標準装備に選択したalfa romeo 車で東北を駆け巡りながら綴る当Viaggio al Mondo。持ち前の嗅覚で発掘したリストランテを、某ガイドの覆面調査員とは一線を画する以下に述べるような基準で取り上げてきました。

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【photo】 フランチェスカのPasta fresca パスタ・フレスカ(=生パスタ)二種。イノシシのラグー風味のピィチ(左)、ズワイガニのラザニア

 総合点を10点とすれば、その内訳は―― 形だけ取り繕うスタイルの模倣ではなく、こりゃ参った!と唸らせてくれるキラリと光る料理か⇒ 4.5割、ワインの充実度(品揃えだけでなく、実勢価格(≒おおよその仕入れ原価)に管理コストを上乗せしても2倍程度に留めた妥当な価格設定か、グラスの形状やサーヴする際の温度は適正か...etc)⇒ 3割、時として私が投げかけるマニアックな問いかけに、内心では舌打ちしつつも態度には出さず、うろたえた様子など決して見せずにフレンドリーな受け答えをしてくれるか、といった接客ぶり⇒ 2割、Pucara.jpg小物を含めた内・外装のクオリティとセンス(銀座コア7Fに広がるエレガントな「Enoteca Pinchiorri エノテーカ・ピンキオーリ東京店【本店のあるフィレンツェへワープできるWebサイトはコチラ」のようにとは言わないまでも、当然、そこで擬似イタリア体験できるほうが望ましい...)⇒ 0.4割、沈みゆく水の都ヴェネツィアが往時の繁栄を取り戻したかのように輝く黄昏時のラグーナが目に浮かぶアルビノーニマルチェッロのアダージョが、あるいはラテンの情熱を吐露するCore 'ngrato(カタリ・カタリ)などのカンツォーネが、かと思えばイタリアンポップスや早口でまくし立てるナポリのラジオ局のWebストリーミング放送が流れ、勿体ぶった響きでつぶやかれる陰気なシャンソンなどは決して流さないBGMの趣味⇒ 0.1割ぐらいの割合でしょうか。 ...ナンノコトヤラ(゚-゚;)

【photo】 蔵王土鶏と蔵王の裾野にあるボンディファーム
で育った野菜のしみじみとした旨みを味わえるプカラ

 パスタがメインの店は論外として、幾分ホスピタリティに難があるものの、共に正統派イタリアンを提供する「il Destino イル・デスティーノ」(青葉区本町)や「Marco Polo マルコ・ポーロ」(遠田郡涌谷町)、肩の凝らないイタリアのマンマの味を楽しませてくれる「il Golosone イル・ゴロゾ-ネ」(名取市相互台)と「Fiorentina フィオレンティーナ」(青葉区錦町→現在は子育てに専念するため閉店)といった僅かな例外を除いて、"もっと頑張らなきゃ!"というイタリアンレストランには事欠かない食材王国・宮城。街の規模からして、真っ当な店がもっと存在してしかるべきな仙台にも、赤・白・緑のTricolori トリコローリなイタリア国旗を店頭に掲げる店が、この10年でやっとこさ増えましたが、未だ玉石混交の感は否めません。

dolcetto_sandrone_francesca.jpg【photo】ルチアーノ・サンドローネのドルチェット・ダルバ'06

 ナポリ庶民の味を伝えるピッツェリアに関しては、本家本元で育ったナポレターノ、パンツェッタ・ジローラモ氏が「アソコはホンモノのピッツァ。オイシイデスネェ~」と、2001年当時私に太鼓判を押した「Pizzeria de Napule ピッツェリア・デ・ナプレ」を挙げておきましょう。Laura PausiniやEros Ramazzotti などのイタリアンポップスが流れる店は、今も変わらぬピッツェリアそのものですが、オーナー・ピッツアイオーロ(=Pizzaiolo ピッツァ職人)の香坂師匠が健康路線に目覚めた近年、素材をオーガニックに切り替えました。それまで同店が大切にしてきたピッツァの命、本場仕込みのモチモチした生地の食感が、小麦粉を替えたことでいささか変化しています。生地の外周「Cornicione コルニチョーネ」がパンのような点が気にかかりますが、薪の香り漂うナポリピッツァの片鱗には、富谷町富ヶ丘の「薪窯焼ピッツァ屋」こと「Pizzeria del Sol ピッツェリア・デル・ソル」でも出合えることでしょう。

 素材選びに心を砕き、日々料理を提供してくれるプロに対して甚だ不遜な閻魔帳など、実際につけてはいませんが、個々の飲食店に関するネガティブな情報をこの場で書き連ねることは本意ではありません。皆様にもオススメできる美味しい時間を過ごせるお店だけをこれからもご紹介してゆきます。
barolo_la_morra.jpg【photo】 朝霧にかすむランゲの丘。王のワインと例えられる風格あるバローロの中でも、土壌の違いで比較的しなやかな酒質を生むLa Morra ラ・モッラ村付近にて

 そんな店のひとつ、Francescaのオーナー、シニョール鳥山の勧めでその夜選択したのは、開店一周年を記念する「1st Anniversary Dinner」なるプリフィクスコースでした。プロローグは「お味見のひとくち」ことスプーンに載ったオーガニックなブラックオリーブとドライトマトのオイル漬け。アンティパストの「自家製生ハムの盛り合わせ」は、全て一周年に引っ掛けたおよそ12ヵ月の熟成期間を経たコッパ、モルタデッラ、鴨の生ハム、プロシュット赤ワイン漬の盛り合わせ。ガーリックポークの尻から脛にかけての部位を自家加工し、熟成11ヶ月目だというフレッシュな生ハムは、弘前「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」【Link to back number】の笹森シェフのもとで肉の加工を仕込まれた原田シェフが切り分けてくれました。「自慢のスープ」は村田町で自然循環農法に取り組むボンディファーム【Link to back number】から届く驚くべき糖度に達する白カボチャのポタージュ。

comune_barolo.jpg【photo】 威容を誇るカステッロ・ディ・ファレッティ城(通称:バローロ城)(写真右)はバローロ村のシンボル。ほまれ高き王のワインBaroloは、現在680人ほどが暮らすこの小さな村の名から付けられた
 

 プリモピアットは手打ちパスタ「Pici ピィチ」をイノシシのラグーソースで、...と、ここまでの料理には、原田シェフの古巣「ダ・サスィーノ」の雰囲気が明らかに感じられます。メインとなるセコンドピアットには、蔵王産土鶏とボンディファームの季節野菜をハーブで蒸し焼きにしたポルトガル料理「Pucara プカラ」を頼んだこともあり、さして強いワインを合わせる必要はありません。そこでワインリストからチョイスしたのが、北イタリアきっての銘醸地、ピエモンテ州Cuneoクーネオ県Baroloバローロ村にあるカンティーナ、「Luciano Sandrone ルチアーノ・サンドローネ」のDOC(統制原産地呼称)ワイン「Dolcetto d'Alba ドルチェット・ダルバ'06 」です。メインの鶏料理との相性には、トリ繋がりの(?)シニョール鳥山も太鼓判を押してくれました。

cantina_sandrone_luciano.jpg【photo】1999年に最新の醸造設備を導入する大規模な改装がなされたルチアーノ・サンドローネのカンティーナ

 産地は同じでも、バローロ、バルバレスコといった偉大なワインを生み出すブドウ「Nebbiolo ネッビオーロ」とは異なり、ニュートラルで幅広い料理に合わせられるヴィーノとなる「Dolcetto ドルチェット」。このブドウはピエモンテで最も栽培が盛んな「Barbera バルベーラ」と同様に、日常の食事の伴侶として飲まれるヴィーノの原料となるブドウです。一般にドルチェットは柔らかなタンニンと華やかな果実の香りが特徴の若飲みに適したヴィーノとなります。作り手のもとを訪れたヴィンテージだったのでオーダーしたサンドローネのドルチェット・ダルバは、前夜に飲んだヌーボーと同じ2千円台後半の小売価格帯のワインでした。
 
 早生種のドルチェットは、ルチアーノ・サンドローネが手掛ける一連のラインナップでは最も早い時期に収穫されます。私がカンティーナで試飲した'05vinは、9月20日から30日にかけて収穫作業が行われ、およそ30,000本がリリースされたそうです。「Dolcetto d'Alba ドルチェット・ダルバ」の醸造では、甘く華やかな香りを持つこの品種の風味を活かすため、ステンレスタンクだけで翌年の7月まで熟成させます。ネッビオーロやバルベーラの熟成には、甘くウッディなバニラ香を適度に付加する目的でピエモンテで伝統的に用いられてきた600ℓサイズの「Fusutoフスト」と呼ばれるオーク樽を使用します。世界的な潮流で一頃はイタリアでも急速に導入が進んだ225ℓサイズのバリック樽は、液面と樽の接触面積が大きくなるために、熟成期間が短縮できる半面、一般に樽香が強くなりがちです。ピエモンテでは第二次大戦期を挟んで2,000ℓ容量以上barbara_sandrone.jpgもの縦に長い楕円形の大きなオーク樽「Botte ボッテ」が普及します。混乱した世相下、略奪を防ぐ意味もあったといいますから、イタリアらしい話です。伝統の大樽熟成では、10年未満では強烈な渋味として感じられるタンニンが落ち着くまでに時間を要するものの、活き活きとしたブドウ本来の持ち味が20年・30年と持続する偉大なヴィーノが造られてきました。

【photo】 ルチアーノに代わって歓迎のご挨拶を頂いた娘のバーバラさん(右)

 ルチアーノ・サンドローネのドルチェットがリリースされるのは、瓶詰めされた2ヶ月後の毎年9月。収穫から一年でリリースされるわけです。カンティーナを訪問した'06年ヴィンテージの中で既にリリースされているドルチェット・ダルバは、若飲み用に一本すでに確保済みです。ドルチェットは、我が家のセラーアイテムとなって久しい「Barolo Cannubi Boschis バローロ・カンヌビ・ボスキス'98年」のように長期熟成向きのヴィーノにはならないため、天候に恵まれグレートヴィンテージの呼び声が高い'06年といえども、そろそろ飲み頃を迎えているはず。フランチェスカでこのヴィンテージのドルチェットを選んだのは、自宅でストックするドルチェットが既に楽しめる状態かどうかを見極める毒見を兼ねていました。

sig_luciano.jpg【photo】醸造所の壁面に描かれたブドウ畑でスクーターに乗るルチアーノの肖像とはご対面(?)が叶った

 私のワイン道楽のひとつに、(イタリアを訪れた年には)" 訪れた土地で収穫されたワインを必ずストックする"という鉄則があります。それは、ワインを通して、自分が一度はそこに身を置いて陽射しや土の香りを感じた濃密な時間を追体験できるからです。ブドウ畑を取り巻く風景や作り手を記憶していれば、時を越えたタイムスリップがいつでも可能です。実際に目にした畑で育ったブドウが収穫され、芳醇なワインとして生まれ変わり、数年後に飲み頃を迎えた時、もはや記憶の彼方へと押しやられた季節の恵みが凝縮された一杯を味わうことは、幸福なワインラヴァーだけの特権でしょう。

 1980年代に押し進められたバローロ改革の主導者の一人でもあるルチアーノ・サンドローネのカンティーナへは、3年前の訪伊メンバーと共に訪れています。ピエモンテ州Langhe ランゲ地方では、秋から冬にかけて頻繁に著しい濃霧が発生するにもかかわらず、抜けるような青空が広がった2006年10月27日の朝。Barbaresco バルバレスコから白トリュフの街として名高い Alba アルバを南西に進むと、両サイドの丘陵一面にブドウ畑が広がってきます。そこはイタリアきっての銘醸地Barolo バローロの心臓部、La Morra ラ・モッラ村とCastiglione Faletto カスティリオーネ・ファレット村の間に伸びる道なのでした。ピエモンテーゼが世界一美しいと自慢する手入れの行き届いた畑が広がる美しい丘陵風景を目にしながら、道沿いに立つBarolo の標識に従って進むと、前方の高台にバローロ村のシンボル「バローロ城」ことstainless_tank.jpg「Castello di Faletti カステッロ・ディ・ファレッティ城」が見えてきます。内部がその地方のワインに関する展示・試飲販売を行う州立の「Enoteca Regionale エノテカ・レジョナーレ」となっている城へは立ち寄らず、手前の枝道を左へ折れた先の明るいイエローの外壁の建物が目指す「Azienda Agricola Sandolone Luciano アジェンダ・アグリコーラ・サンドローネ・ルチアーノ」でした。

【photo】 醸造所の地下一階に並ぶ発酵用ステンレスタンク

 約束の朝10時過ぎに私たちが到着した時、当主のルチアーノは留守でしたが、娘のバーバラさんが一行を出迎えてくれました。バローロを代表する生産者の一人としてサンドローネの名を世界に知らしめることになる「Cannubi Boschis カンヌビ・ボスキス」の畑をルチアーノが取得したのが'76年のこと。日本でも'50年代から'60年代にかけてのバローロをたまに見かける大手醸造所Giacomo Borgogno ジャコモ・ボルゴーニョなどのもとで四半世紀近く醸造の仕事に携わった後に、自ら興した醸造所での初収穫は2年後の'78年からだといいます。醸造施設と貯蔵庫がある地下一階へ降りる階段の手前には、現在とは異なる意匠のSandolone 醸造所'70年代のボトルが床面に埋め込まれたアンモナイトをかたどったガラスケースに納められていました。屋外のテーブルの上に試飲用として用意されていたのは、「Dolcetto d'Alba'05 ドルチェット・ダルバ'05」「Nebbiolo d'Alba'04 ネッビオーロ・ダルバ'04」「Barbera d'Alba'04 バルベーラ・ダルバ'04」「Barolo Le Vigne '02 バローロ・レ・ヴィーニェ'02」の4種。'02年は天候に恵まれず、最も高い評価を受ける単一畑のバローロ 「Cannubi Boschis カンヌビ・ボスキス」が生産されなかった年ゆえ、残念ながらそこで試飲することはできませんでした。

fusto_sandrone.jpg【photo】 空調設備で温度管理がなされた熟成庫に整然と並ぶフスト樽で眠りに着くヴィーノたち

 低温と降り続く雨で厳しい年となった中、所有する3地区の畑からブドウを厳しく選別の上ブレンド、平年の半分にあたる8,800本だけを造ったというレ・ヴィーニェ'02は、高貴なネッビオーロらしい陰影のあるしっとりとエレガントな印象のヴィーノに仕上がっていました。天候に恵まれれば、更に奥行きが増すのでしょうが、厳しい条件下でよくぞこのレベルまで仕上げたと言うべきでしょう。サンドローネでは、除草剤の使用を最小限に留め、有機肥料を積極的に取り入れた畑でブドウを育てています。そんなブドウの持つ可能性を再認識させたのがバルベーラ・ダルバ'04でした。土壌の違いから東のAsti アスティ地区よりも骨格がしっかりとしたヴィーノに仕上がるAlbaアルバに所有する2つの畑で栽培する樹齢30年から40年のバルベーラ種から造られます。このブドウの特徴である酸味だけでなく複雑味も充分で味わいのバランスが取れたもの。目の詰まったキメの細かいタンニンが心地よい余韻を長く残します。バローロ、バルバレスコを生み出すネッビオーロの名声の陰で目立たないバルベーラですが、サンドローネのみならず「Hastaeハスタエ」や「Giacomo Bolognaジャコモ・ボローニャ」などの素晴らしいワインを生み出す生産者の労作を含めて、要チェックのブドウ品種です。恐るべし、イタリアの地方品種。

         dolcetto05sandrone.jpg barbera04.jpg
         valmaggiole_nebbiolo_04.jpg le_vigne_barolo_02.jpg 

【photo】試飲アイテム4種。ヴィーノの若さを表すガーネット色が印象的なドルチェット・ダルバ'05(上左)、凝縮度の高い秀逸な味わいを示すかのような深みのある色合いのバルベーラ・ダルバ'04(上右)、淡い特有の色調を呈するネッビオーロ・ダルバ'04(下左)、豊富なエキス成分由来の高い粘性を伴うバローロ・レ・ヴィーニェ'02(下右)

vini_sandrone.jpg

【photo】試飲テーブルに揃ったサンドローネの逸品

 ワイン単体で光り輝くネッビオーロやバルベーラのように強い自己主張をしないものの、さまざまな素材を拒絶することなく受け入れ、料理を引き立てる名脇役ぶりを発揮するドルチェット。理想的な天候の下で素晴らしい出来のブドウが収穫できたと語っていたサンドローネを訪ねた'06ヴィンテージのドルチェット・ダルバは、フランチェスカでの晩餐で期待に違わぬ役割を果たしてくれました。活き活きとしたベリー系やザクロのような果実味と、落ち着きある口当たりの良さからグラスが進み、セコンド・ピアットが出る頃には残りわずかになっていたのですが、抜栓後1時間あまりを経過し、立体的な複雑味を増してゆきました。ボンディファームのカブやジャガイモ、クリームピーマンなどの野菜たちの優しい旨みが、強めのローズマリーの香りをまとった地鶏のしっかりとした肉に染み込んだその夜の主役の料理を一層引き立て、より美味しく感じさせてくれました。

 満ち足りた時間の中で、前夜のボジョレーがもたらしたモヤモヤは、そうしていつしか雲散霧消していました。あたかも私がカンティーナを訪れた日の澄み渡った秋のすがすがしい青空が、グラスの中から広がってゆくかのように。Gazie gentile Dolcetto.

    
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Azienda Agricola Sandrone Luciano
Via Pugnane,4-12060 Barolo(CN) Piemonte ITALIA
phone:+39 0173 560023
info@sandroneluciano.com
URL / http://www.sandroneluciano.com
カンティーナの見学は要・予約。畑を含めて最低二時間はみる必要あり

Francesca フランチェスカ
仙台市青葉区大町2-5-3 コーポラティブハウス大町202
phone:022-223-8216
営) 11:30-14:00 17:30-22:00 月定休
URL / http://www.francca.jp/
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【注釈】Amazon.co.jp ランキング: 本カテゴリー中 M社のガイド2009年版が2,170位に対して、ザガット・サーベイ2009年版は8,889位に過ぎない。レストラン評価本として内容的には全く遜色がないのだが・・・

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