あるもの探しの旅

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最後のごっつぉだの もっけだの

≪地の恵みに癒された濃密な一日≫
「もっけだの」後篇

 新・ごっつぉだの もっけだの」より続き

人の恵みに感謝。

 さっぱり更新されないことから、一部で未完説が囁かれ始めた畢竟の大作(?)「ごっつぉだの もっけだの」シリーズ四部作も、ようやく完結。 季節は昨年秋に遡ります...。

 食をめぐる得がたいご縁で結ばれた庄内を訪れると、日頃お付き合いさせて頂いている生産者の方たちのお顔を思い浮かべながら、辿るコースを組み立ててゆきます。この日('08年10月21日)、当初思い描いた行程の最後は、巡回ルートの北端にあたる酒田市横代(よこだい)で庄内の在来野菜「ズイキ芋」を水耕栽培する坪池 兵一さんのもとでした。そろそろ旬を迎えつつあったズイキ芋は、「カラドリイモ」あるいは濁らず「カラトリ」、「ジキイモ」とも呼ばれるサトイモの一種。一般的に茎を乾燥させて「芋ガラ」とするズイキの根の周りにできるサトイモと同じ子芋のみならず、親根も食用とします。最上川の南側では茎が赤い「赤ズイキ」、北側では茎が緑の「青ズイキ」が育てられ、茎自体も煮物などで食用とされる万能選手の作物です。

tsuboike@hatake.jpg【photo】 2005年(平成17)の晩夏、「ずいきの里」のランドマークが立つ自宅前の水苗代で熱く冗談を飛ばす坪池 兵一さん

 かつて、アル・ケッチァーノ(以下、「アルケ」と略)の奥田シェフを介して畑を見学に伺った坪池さんのズイキ芋との出合いは衝撃でした。それまで食べてきたサトイモとは全く別物のまったりとしたキメの細かいシルキーな口どけにすっかり魅了されたのです。素材選びには決して妥協しない奥田シェフいわく、ズイキ栽培にかけては腕自慢が揃う庄内でも一番美味しいのが坪池さんのものだそう。「このほうが美味しいから」と、畑栽培が一般的となった現在では、少数派となった水苗代でズイキを栽培する坪池さんは、「殖酸農法」のパイオニアでもあります。

 植酸農法とは、植物が生成する有機酸のうち、根から分泌される14種の有機酸の力で土壌を健全に保ち、化学肥料の力を借りずに海藻や貝化石などを投与して根の活力を高め、病害虫に強い作物を育てる農法のこと。坪池さんならではの澄んだ緑の葉が、風に吹かれてヒラヒラと揺れ、あたかも"おいでおいで"をしているようにも見える苗代で、時折ギャグを交えながら栽培理論を語る坪池さんとお会いするのは楽しみでもあります。

sig.tsuoike.jpg【photo】 植酸農法で栽培したズイキ芋とイモガラを前に、坪池理論を展開する坪池さん。うっかり真に受けて拝聴していると、突如ギャグが飛び出すので気が抜けない

 昼にアルケで食事をした際、取引先をもてなすために坪池さんから夜の予約が入っているとの情報を土田料理長から仕入れていました。そのため、「ズイキ芋をアルケまでご持参願えれば、それを購入させて頂きますよ」と、進藤さんのもとを出発する際に、坪池さんに電話でちゃっかりお願いしていました。なぜなら、食事を終えた時、すでに14時を回っており、生産者の皆さんのもとを回る移動時間を考えると、こうしたアドリブを加味しないと到底回りきらないと判断したからです。

 「ごっつぉだの、もっけだの」シリーズでご紹介してきたこの日午後の足取りを改めてざっとおさらいすると・・・・・十王峠を越えて4年ぶりの平日ランチを堪能した「アルケ」 ⇒ シーズン最後のブドウ狩りをした「佐久間ファーム」 ⇒ 絶品アップルパイの取材の申し出に伺ったつもりが、山形大農学部の平教授らの取材の合間に私までコーヒーとケーキをご馳走になった「知憩軒」 ⇒ 合流したアルケ土田料理長とミズの実の収穫をするため、庄内あさひIC付近まで戻った「進藤さんの山」、 ⇒ 馬鈴薯とササニシキのお土産をたっぷりと頂いた上に alfa147GTA の試乗というオマケまで付けて下さった「月山パイロットファーム」 ⇒ 仙台市民では持つ者などおらぬやもしれぬ入浴回数券を使ってひと休みした長沼温泉「ぽっぽの湯」へ。

08.10.21funghi@alche.jpg 【photo】 写真手前の白っぽいキノコが「ブナカノカ」

 ぽっぽの湯を発とうとする時点で、すでに真っ暗になっていましたが、この日決行した"庄内んめものオリエンテーリング"のチェックポイントは、まだ6箇所も残っていました。むせ返るほど濃密な森の香りをアルケで嗅がされた天然キノコ「ブナカノカ」を調達するため、アルケも仕入先として重宝している鶴岡市羽黒町狩谷野目の「あねちゃの店」はマル必で行かねばなりません。希少な天然もののキノコや山菜を扱う同店へは、これまで数多くの人々を仙台からご案内してきました。恒例の水汲みは、すぐ近くの猪俣新田にある造り酒屋「竹の露酒造場Link to Website」で仕込み水を頂けばOK。蔵名の由来となった竹林の中に湧く月山水系の超軟水は、蔵元・蔵人・杜氏らが自ら育てる「出羽の里」「亀ノ尾」「京ノ華」といった庄内生まれのコメたちと出合い、全国新酒鑑評会で数々の受賞実績を持つ銘酒「白露垂珠」hakurosuishu_kamenoo.jpgに生まれ変わります。地元のコメに愛着を持ち、金賞狙いの「山田錦」に安易に走らないこの蔵の姿勢には強い共感を覚えます。その芳醇淡麗な造りは、庄内オールスター食材軍団を見事に引き立てます。竹の露仕込み水を沸かしてしゃぶしゃぶにすると、羽黒の里で育つ「山伏豚」の融点が低い脂が適度に落ち、キメ細やかな肉質としつこさの無い風味の良さが引き出されます。今回は蔵で氷温貯蔵されていた平成19年醸造年度の吊雫生詰原酒、純米吟醸「はくろすいしゅ」亀ノ尾と共に頂くつもりでした。上品な吟醸香とコメのしっかりとした旨みが、透明感のある調和をもたらし、すっと綺麗に引いてゆくこの酒は、今年も3月上旬に上槽されるそうです。

【photo】 稲作の歴史に偉大な足跡を残した庄内生まれのコメ「亀ノ尾 Link to Backnumber 」を55%まで磨き、無濾過のまま火入れせずに一年貯蔵した希少な純米吟醸「はくろすいしゅ」吊雫原酒

 山伏豚のバラしゃぶ肉を扱うクックミートマルヤマ(鶴岡市みどり町)と、さっと湯通しして瑞々しさを頂く井上農場のスーパー小松菜(鶴岡市渡前)、同じく加熱すると、トロける甘さが生まれる平田赤ネギ(酒田市飛鳥)の豚しゃぶ用食材3点セットは欠かせないポイント。地理的に最も北にお住まいの坪池さんが、仙台への帰路で利用する山形道庄内あさひICの途中にあるアルケにおいでになることが分かっている以上、唯一ぽっぽの湯から北方15kmに位置する酒田市飛鳥までに行くのは、その後の行程を考慮すると、時間的に厳しいものがありました。平田赤ねぎ生産組合の後藤 博組合長に鶴岡市内で後藤さんの組合の赤ネギを扱う店があるかどうかを電話で確認し、ルート的にロスがない方法を選んだ方が得策です。
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【photo】後藤さんから譲っていただいた平田赤ネギ

 ぽっぽの湯の駐車場で、後藤さんの携帯電話をコールすると、電話口の後藤さんは、残念ながらその時期に鶴岡市内で赤ネギを扱う店はないと申し訳なさそうに応えるのでした。そうか・・・今回は赤ネギの入手は無理か ε-(´・`)... と諦めかけた時、後藤さんが私の居場所を確認されました。ぽっぽの湯に居ることを告げると、後藤さんは鶴岡市内の飲食店への納品を終えてR345の鶴岡市藤島地区に車でおいでだというのです。おぉ、それならあねちゃの店へ向かう途中で、しかも直線距離にして3kmほどの場所ではありませんかっ!! 私が電話を掛けた時、たまたますぐ近くにMr.赤ネギはいらっしゃったのです。喩えは悪いですが、カモがネギを背負って飛んできたかのよう。これで長沼温泉から北上する必要はなくなりました。これは奇跡に近い偶然です。きっと昼前に参詣した注連寺の「三鈷水(さんこすい)」で身を清めた功徳と、本堂に安置された鉄門海上人の即身仏、さらには末裔の進藤さんと会った真如海上人のお導きに違いありません。ありがたやありがたや。

08.10.21goto.jpg【photo】奇跡の巡り会いを果たした後藤さんとA-COOPふじしま前で

 待ち合わせした「A-COOPふじしま」の駐車場で、荷台に赤ネギを積んだ軽トラックを停めて私を迎えて下さった後藤さんから、たっぷりと束で赤ネギを譲って頂きました。それも市価とはおよそかけ離れた代金で。いやはや、もっけです。赤ネギのおかげでここ何年も風邪に罹っていないという後藤さんにあやかって、風邪知らずで来るべき冬を乗り切りたいところ。 (...おかげ様で今のところ風邪に罹っておりません。医食同源ですの)重ねがさね、もっけです。

【photo】 地吹雪が頻発する鶴岡市藤島地域では、暴風雪を遮るビニールハウスが葉物野菜の栽培農家には欠かせない。大雪警報が発令された今年の1月25日。珍しく雪を吹き飛ばす北西の風が弱かったため、前夜から降り続いた雪に埋もれたビニールハウスで小松菜の収穫をされておられた井上 馨さんご夫妻
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 期せずして赤ネギが手に入った上は、親子二代で徹底してこだわりのモノ作りに取り組んでいる「井上農場」Link to Websiteの小松菜を入手しなくてはなりません。昨年より一部地元のイオン系列の食品スーパーでも扱うようになった井上 馨さん・悦さんご夫妻の小松菜は、国内では探すことが困難な非抗生物質投与のニワトリの発酵鶏糞を鹿児島より取り寄せ、土に散布して栽培されます。専ら手掛ける「わかみ」という品種の小松菜は、寒中に最も食味が良くなるため、雪中でも収穫できるようにビニールハウス内で無農薬で栽培されます。柔らかな土の感触を確かめながら抜き取った小松菜をそのまま口に含むと、青い香りと共にミネラル豊富な地下水が口中に溢れ出してきます。我が家の定番となっている特別栽培米「はえぬき」(2,500円/5kg)の入手ともども、小松菜も直接畑やご自宅に伺っていつも購入させて頂いています。そのほうが誠実な仕事ぶりに触れることができるし、ラテン系なご夫妻の明るく前向きなお人柄に元気も分けて頂けますから。

2008.10.21inoue.jpg【photo】 井上さんからお裾分けの赤ズイキの茎、ヤーコン、購入した小松菜(左より)

 事前には何も連絡していなかったので、ご自宅の玄関前まで移動してから電話をかけようとイタズラ心が働きました。奥様の悦さんに5把の小松菜をご用意頂くようお願いする電話を切る間も無く、玄関を開けた私。電話の主が突如現れ、大笑いしながら中から出てきた悦さんは、採りたての小松菜と共に、頂き物だけどと仰いながら、ヤーコンと赤茎のズイキをお裾分けして下さいました。井上さんはいつもこうして旬の産物をお土産に持たせて下さいます。毎度〃もっけです~。最上川の南側では、こうして赤ズイキなのですね。こちらは芋ガラ用にさせて頂きます。

【photo】 あねちゃの店で頂いた平核無柿・茹で栗・柿しぐれ(左より)
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 すでに事務室の明かりが消えた竹の露酒造場に移動して、弱アルカリ性・硬度22という超軟水の仕込み水を25ℓ容量のポリタンクふたつに汲んだ後、「あねちゃの店」へ。ありました、ありました、お目当ての天然ブナカノカが。佐藤 典子店長は、「貴女のウチではどうして食べてる?」と居合わせた地元のお母さんに尋ねながらも、炒め物にすると美味しいわよと、食べ方を教えて下さいました。午前中にアルケの土田さんが来て、ブナカノカやクリタケなどをやはり仕入れていったそうです。量り売りのブナカノカを物色する私に「娘さんにどうぞ」と、茹で栗と庄内柿として広く知られる鶴岡で誕生した平核無(ひらたねなし)柿、そして市場デビュー4年目を迎えて県がブランド化に力を入れている「柿しぐれ」までお土産にと下さいました。これじゃ買い物に寄ったのか、頂き物に与るために寄ったのかわかりません。これまたもっけです~。平核無は果肉がソフトなので、しっとりとした北イタリアのサン・ダニエレ産生ハムと一緒に頂きますね。

 確立に5年を要した「樹上脱渋」技術は、固形アルコールを入れたビニール袋で柿を一粒づつ包んで、気化するアルコールで渋抜きするもの。パキッとした食感と実にゴマ状の褐斑が入るのが特徴で、2Lサイズ以上・糖度14度以上と厳格に規定された高級品種です。収穫後に脱渋する平核無には見向きすらしなかった山のクマたちにも、柿しぐれの美味しさが分かるようで、従来は発生しなかった食害が発生。丹精込めた柿を食い荒らされた生産者は、「クマったもんだ( ゚() ゚;;) 」と渋~い顔をしているのだとか。
 
 こうして寄る先々で雪だるま式に頂き物が増えて行く中、まだ豚しゃぶの主役を調達できていませんでした。食の都・庄内では、畜産にも力を入れており、ヘルシーで美味しい豚肉に関しても見逃せない産地です。国の減反政策で用途を失おうとしていた水田で飼料用のコメの栽培を農家に委託し、日本の食料自給率を向上させようという試みとしても注目すべき「平牧三元豚」で有名な平田牧場(酒田市)の「こめ育ち豚」推進プロジェクトについては、機会を改めて別途取り上げます。地元産のコメを飼料として与えられる平田牧場の「平牧金華豚」は、国内でほかに一箇所のみで生産される幻の金華豚を、よりグレードアップしたブランドポーク。牛のサシとは違い、豚の脂肪はむしろ健康に良いことが近年の研究で明らかになっています。不飽和脂肪が多い霜降り肉となる平牧金華豚は、食味に関して日本で間違いなくトップレベルにある豚です。その逸品は酒田市松原南にある平田牧場本店で購入することも出来ますが、いかんせん希少価値が高いために値段もそれなり(^ ^;)

 酒田まで北上しないことにしたこの日は、鶴岡市みどり町の精肉店「クックミートマルヤマ」Link to Websiteが扱う羽黒産庄内豚「山伏ポーク」のバラ肉をしゃぶ用にスライスして購入しました。月山山麓の空気のきれいな環境のもと、国産の安全な穀類中心の飼料で、じっくりと肥育するため、肉が旨みを増す熟成能力に優れた山伏ポーク。バラ肉が通常158円(100g当たり)、水・土曜は126円(同・店頭限定サービス価格)という極めて良心的な価格にもかかわらず、キメ細やかな赤身としつこさのない甘さが特徴となる脂身の旨さには、名だたる銘柄豚たちも尻尾を巻いて退散することでしょう(→ちなみに豚はもともと尻尾がクルリと巻いていることはご存知の通り...)

happou-sushi.jpg【photo】たっぷりと身の詰まった鶴岡「八方寿し」の大トロ手巻き。噛み締めると、ブーッツと大トロが口の中に広がり、至福の時が訪れる。

 昼食をゆっくり食べたものの、19時30分を回って、お腹が空いてきました。薪窯で焼き上げるマルゲリータを夕食にしようかと思い、鶴岡市馬場町のピッツェリア「Gozaya(ゴザヤ)」に寄りましたが、定休の火曜日につきCLOSE。そこでガラリと方向転換し、ネタの良さが光る同市神明町「八方寿し」へ。いつも混んでいる店のカウンターの隅にもぐり込みました。独特のアップテンポなリズムで店を切り盛りする親方にお決まりの特上(2,500円)を注文。脂の乗ったヒラメやノドグロ、大トロの握りや手巻きは、いつも至福の時をもたらしてくれます。軍艦からこぼれそうなイクラやウニも堪りません。このコストパフォーマンスは特筆ものです。晩の「ごっつぉ」に身も心も満ち足りて店を後にしました。

 長かった一日も、残すはアルケで食事中の坪池さんのもとに立ち寄り、ズイキ芋を譲って頂くだけ。談笑中の坪池さんが席を立ち、店の裏手へと私を誘(いざな)います。そこには、むき出しのままのアルケ用のズイキとは別に、三つの袋に入ったズイキ芋と青ズイキの茎がありました。酒田市中町の産業会館向かいにある産直「ヨッテーネ」で売れ残ったものだそうで、お代は要らないとのこと。外側の皮が黒ずんでいるものの、表面を洗い流せば、まだ充分に美味しく食べられるものです。08.10.21zuiki.jpgそれでも坪池さんは、もう売れないものだからと、代金を受け取ろうとしません。すっかり恐縮したものの、ここはご好意に甘えさせていただくことにしました。返すがえすももっけです~。

【photo】 坪池 兵一さんから頂いたズイキ芋と青ズイキの茎

 大きなポリタンク二つを積んだalfa Brera のカーゴスペースは、もはや頂き物でパンク寸前。そうして実りの季節を実感させる「ごっつぉ」と「んめもの」の数々に彩られた庄内での秋の一日は終わろうとしていました。皆さんから頂いた豊かな地の恵みと、何より得がたい人とのご縁に恵まれていることに感謝せずにはいられない一日となりました。
 い~のぅ、庄内。

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