あるもの探しの旅

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手前味噌なハナシ

手作り味噌仕込み@我が家

 「手前味噌」・・・自分のことを誇ること。自慢。(出典「広辞苑」)

 あまり褒められたものではない意味合いで使われる手前味噌ですが、今回は、先月仕込みを行った我が家の定番「手前味噌」作りについて、あくまで謙虚にどこまでも低姿勢でレポートします。

kamehyou70s.jpg【photo】 1970年代初めごろの亀兵商店。煙突の右側の黒い屋根の建物が私の遊び場でもあった仕込み蔵。現在はビルが建つ広瀬通に面した敷地の裏手に当時の建物が一部残っており、今なお伝統の味噌・醤油造りを行っている
(写真提供:亀兵商店)

 
 仙台城のお膝元にある立町小学校に通っていた私の同級生に、1861年(文久元年)に創業した味噌・醤油醸造元「亀兵商店」【Link to Website】の6代目跡取り息子K 君がおりました。現在も暖簾を守り、専務取締役として味噌・醤油造りに取り組む彼の実家は、今でこそ表通りに面した部分がビルになっているものの、当時は木造の仕込み蔵があり、時々そこへ遊びに行っていました。kamehyou09s.jpg人間の五感の中で、最も記憶に深く刻まれるのは香りだといいます。蔵の中には大きな木桶やタンクがいくつもあり、仕込み中の味噌と麹、香ばしいもろみの香りが色濃く立ち込めていたのを鮮明に記憶しています。

【photo】現在も続く亀兵商店の味噌造り。スチーム暖房で室温30度ほどに設定された熟成庫で、FRP樹脂製の熟成箱で眠る味噌の上下を入れ替え、呼吸を促す「返し」の作業。仙台の市街地中心部にあるこの蔵でこうして4ヶ月近くを経たものが製品として出荷される

 藩政時代より、仙台の特産品として知られるのが仙台味噌。大友 克弘と共に宮城県登米市迫町出身である偉大な漫画家、石ノ森 章太郎原作の仮面ライダーでライダー1号を演じた「藤岡 弘、」同様、名前に句読点が入る数少ないタレント「ウィリーささき。」氏(プロフィールはコチラ)によって、「ミソ・ミソ・みそ汁」なる歌が作られるほど、地元では馴染みのある食品です。この歌、イントロとサビ部分の「♪ミソ・ミソ・仙台味噌・・・」の「味」と「噌」は、ちゃんと「♪ミ」と「♪ソ」で始まるのがミソ(笑)。「石ノ森漫画館」がある石巻出身のウィリー氏は、他にも「仙台牛たん音頭」も手掛けており、次作に登場する仙台名物は「笹かまぼこ」なのか「ずんだ餅」なのか、目が離せません。
Let's sing 「ミソ・ミソ・みそ汁」!
                  

 仙台味噌は、仙台藩祖伊達 政宗が、貯蔵の利く味噌を兵糧として重視し、仙台城内に「御塩噌蔵(おえんそぐら)」という味噌蔵を作らせたのが始まりとされています。開府400年以上を経た今も、お膝元の仙台市内と県内各地には、味噌造りを行う店が数多くあります(参考:宮城県味噌醤油工業協同組合【Link to Website】)。政宗公が生誕地の山形県米沢から仙台に居城を移す前の12年間統治し、後に嫡子である伊達 宗泰が領主となった宮城県北の岩出山にも、数軒の麹屋と味噌屋があります。食に関する造詣が深かった政宗が、その地に残した遺産のひとつ、岩出山納豆や凍み豆腐と共に、滋味深い味噌文化醸成の基礎を作った政宗公は、発酵食品にゆかりの深い武将だったようです。

ginjyou_konnno.jpg 【photo】イタリア人がオリーブオイルの味にこだわり、マンマが手作りするトマトソースの味を忘れないのと同様、ニッポン人なら、本物の醤油の味を忘れちゃイケマセン。まろやかな旨みに溢れた今野醸造の「吟醸」は、食材王国宮城が誇るべき逸品。化学調味料入りのだしの素や味噌は確かに便利かもしれませんが、味覚の形成途中にある子どもたちにこそ、醤油や味噌本来の味と、煮干しや昆布からとった出汁だけが持つ「旨み」をきちんと伝えたいもの

 倹約と謙虚さの大切さを説いている伊達 政宗の遺訓には、朝夕の食事が美味しくなくとも、褒めて食べるべし。人間は元来、この世の客の身ゆえ、好き嫌いは言わざること。とのくだりがあります。天下泰平の世になってからは、食通としても知られた政宗は、客人をもてなすには、料理が最も重要だと考えていました。政宗の含蓄ある名言を収集した命期集(めいごしゅう)には、旬の食材を自ら料理して振舞うべし、との言葉が残されています。我が家ではここ数年、伊達者ならば、味噌ぐらいは自ら仕込むべしと、自宅で使う味噌は自家製の手前味噌を使っています。その仕込み用の大豆と麹は、旧伊達藩・宮城県加美郡加美町の「今野醸造【Link to Website】」から調達しています。

taue_konnojyouzou.jpg【photo】 船形山の雪どけ水もぬるむ春。原料第一主義を貫く今野醸造が、味噌と醤油造りに欠かせない麹の原料となるコメ、ひとめぼれを自家栽培する田植え風景。今野さんの畑と水田で収穫される農産物は、県の農薬・化学肥料節減栽培認証を得ている


 明治期に創業した今野醸造が、醤油本来の味を作り出そうと1996年(平成8)から造り始めた濃口本醸造醤油「吟醸」は、ここ8年ほど我が家の定番調味料として活躍してくれています。「親戚が原料からこだわって造っているから」という知人の薦めで使い始めたその醤油は、やがて全国醤油品評会で濃口醤油部門の最高賞である農林水産大臣賞を受賞します。1ℓ入りが504円と、決して高価な醤油ではない吟醸。農業生産法人でもある同社は、自家製の原材料で製品を造っています。つい先日、国が "安全性に問題はない" との問題ある見解を発表した「遺伝子組み換えではない」ことぐらいしか明記されないアメリカやブラジル・中国・カナダ産などの輸入大豆。特定の除草剤(⇒製造元が遺伝子組み換えを行う米国資本の某多国籍企業であるという事実!)に対する耐性を高めるよう遺伝子操作を行った大豆の用途の大半は製油用などの加工用で、日本人が消費する大豆の国内自給率はわずか4%に過ぎません。外国産と比較して生産コストが10倍ともいわれる国産の食用大豆は、自給率が18%前後と幾分持ち直すものの、いずれにせよ調達が困難な状況です。納得のゆく原料を調達するbaodo_konnojyouzou.jpgには、高い品質の原料を自家栽培するしかないと、今野醸造の今野 昭夫(てるお)社長は大豆と麹の原料米を自らの手で減農薬有機栽培しています。味噌・醤油の醸造元自身が主原料の大豆やコメを共に栽培している例は、私が知る限りでは新潟や宮崎にある程度で、今野醸造の取り組みは得がたい希少なものです。


【photo】 今野醸造が所有する広大な大豆畑。トラクターで土を大豆茎の根本に寄せて成長を促すと共に、畝の間に生えてくる雑草を機械的に取り除く「培土」の作業が続く。夏場は人手のかかる草取り作業に追われるが、それも「あなたのために」という食べる人の健康を願ってゆえ

 今野さんが育てるコメは主力が「ひとめぼれ」と「まなむすめ」。大豆は「タンレイ」という品種です。吟醸の原料に使う大豆と小麦に種麹を加えた麹と、2年の歳月をかけて自然乾燥で作る天日塩の塩水からなるもろみは、一般的な製造法より塩水の割合を減らしているのだそう。原料から見直して丹念に仕込んだ吟醸は、3年連続で農水大臣賞を受賞するという過去に前例のない快挙を成し遂げました。毎年4本(濃口3・薄口1)が選出される同賞の濃口部門には、昨年181品が出品され、石巻の高砂長寿味噌本舗の「長寿醤油」も最高賞の栄冠に輝いています。日本食の味付けのベースとなる宮城の醤油が、こうして品質の高さが全国から認められ、頂点を極めたことを、かつて天下制覇を夢見た政宗公もさぞ喜んでいることでしょう。

tanrei_konnojyouzou.jpgkouji_konnojyouzou.jpg【photo】 《左写真》 今年の手前味噌の原材料。水洗いした大豆タンレイ(右)と一晩水に浸けて肥大化したタンレイ(左) / 《右写真》 種麹2種。今野醸造が自家栽培したひとめぼれから作る米麹(右)と静岡の麹屋から調達した麦麹(左)

 今野醸造から斡旋して頂いた手前味噌の原材料は、同社製の無添加味噌「あなたのために」でも使用する大豆品種タンレイと、ひとめぼれに酵母「まろい」を自家培養した種麹です。微生物の発酵作用によって仕上げる味噌の仕込には、雑菌が繁殖しにくい季節が適しています。よって正月明けから2月にかけての味噌の寒仕込みが我が家の恒例行事となっています。ただし風邪気味の場合は仕込みを控えましょう。麹菌が風邪のウイルスに感染してはいけませんので。仕込みに使う塩は、工業的に生産された鋭角的な塩味のものではなく、まろやかな自然塩がお勧め。今年の手前味噌には、新潟県村上市山北(さんぽく)地域の名勝天然記念物に指定される「笹川流れ」の日本海の澄み切った海水を汲み上げて薪火で煮詰める伝統製法で作る「笹川流れ塩工房」製の「海の磯塩」を使いました。

【手前味噌の製法は以下の通り】

◆分量: 大豆 1.2kg  米麹 1.2kg  塩 550g
◆用意するもの: 肉挽用機器(無い場合はフードプロセッサーや摺り鉢でも可)
            熟成用の容器(陶器製の甕や蓋付きのタッパーウエアなど)

◆作り方 (▼写真は製法が同じ「麦味噌」の仕込み)
1:大豆を一晩水に浸ける。
2:指先で潰れるくらいの柔らかさになるまで大豆を水煮する。煮汁を少量とっておく。
3:麹を揉みほぐし、塩とあわせる。
4:煮豆をザルに上げ、暖かいうちに挽肉機器などですり潰す。【photo1】 【photo2】
5:塩と合わせた麹と、挽いた大豆をよく混ぜる【photo】。その際、煮汁を1~2カップ加えて混ぜる
【photo】

6:手ですくったソフトボール大の塊【photo】を空気が抜けるように容器の底に叩き付けてゆく  
  【photo】。空気が入らないよう上にラップをして、カビ防止のため別途用意した塩2kg(一般的
  な食塩で可。ビニール袋に入れる)で塩蓋をして、冷暗所に置く。(我が家ではあまり実施しないが)
  夏場に熟成中の味噌の天地をかき混ぜて入れ替える「返し」を行うこともある。
7:およそ8ヵ月後には、美味しい味噌の出来上がり。 

2er_temae_miso.jpg【photo】熟成を経た2年目の手前味噌。黒ずんだ表面をかき混ぜると、内側はきれいな味噌色に仕上がっており、心地良い香りが漂う

 祝日の2月11日に仕込みを行い、ワインセラーが設置してある北東向きの部屋で只今発酵中の手前味噌。今年の10月頃には馥郁たる香りを放つ味噌となることでしょう。2年前からは、国産丸麦を使った麦麹1kgを静岡の麹屋から入手して、麦味噌造りも行っています。現在我が家の調理用に使っているのは、3年前に仕込んだ味噌がメイン。こちらは八丁味噌のような黒味の加わった色合いに変化しています。仕込みたては煮豆色だった味噌生地が赤みがかる頃には、香りの深みが増して、味わいに一段とまろやかさが加わります。気温によって発酵速度が変わってきますが、半年も経てば、自家製味噌として美味しく頂くことができます。年によって微妙に仕上がりが違うのも、かえって楽しいものです。3er_temae_miso.jpg味噌造りというと、大げさに聞こえるかもしれませんが、意外と簡単ですよね。我が家の味を大切にしたいとお考えの皆さん、手前味噌造りに挑戦してみてはいかがでしょう。

【photo】黒光りする3年目の手前味噌。さ、あなたも作ってミソ。...(゚・゚*)

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