あるもの探しの旅

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期間限定 散居の浮島

庄内系 北陸路を行く vol.1
5月の砺波はまるで松島だった

 見渡す限りの散居。散居を構成する家々のこんもりとした屋敷林。田植えを待つ満々と水を湛えた田んぼ。それらが生み出す美しい景観は、紛れもなく人の手が築きあげたものです。日本有数の豪雪地帯である白山と飛騨高地に端を発し、富山湾へと流れる庄川と小矢部川。その複合扇状地にある富山県西部の砺波市と南側の南砺市では、田植えを控えた毎年5月上旬、とりわけ美しい田園風景を目にすることができます。それは富山湾に出現する蜃気楼が地上に現れたようであり、鏡の海原に浮かぶ奇跡の浮島のようでもあり、多くの散居が水に浮かぶさまは日本三景の松島clicca quiさながらでもありました。
tonami_maggio2009.jpg【photo】砺波市散居村展望台から望む砺波平野の散居

 「散居」とは、農村における集落の形態のひとつで、耕作地の中に家々が点在する様式を指します。東北では岩手県奥州市胆沢区や山形県飯豊町でも同様の屋敷林を備えた散居が見られますが、砺波市から南砺市にかけての220km²に及ぶ広範な地域には、およそ7,000戸の家々が碁盤の上に散りばめられた碁石のように散在しています。この国内最大規模の散居は、範囲の大きさだけでなく水田の中に農家が100m~150mの間隔をおいて点在しており、屋敷林を備えた切妻の屋敷の形状からして、最も典型的な散居集落といわれています。砺波平野は水の確保が容易だったことから、網の目のように用水路が張り巡らされた水田が近世までに整備されました。水田と住居が隣接していれば水田の保守管理を効率的に行える上、コメの栽培にも便利だったことから散居が発達したのです。
tonami_maggio3.jpg 【photo】砺波平野の5月。水を張った田んぼには、もうひとつのカイニョに覆われたアズマダチの田園風景が描き出される

 集落を構成する家々が一箇所に集中する一般的な農村とは異なり、独立した住居が点在する砺波平野の散居では、強い冬の季節風を遮る防風と避暑を目的とする杉や欅などの屋敷林「カイニョ」で屋敷が覆われています。風が強い砺波の気候風土に適した切妻屋根の家は、三角形の妻部分の白壁に太い梁(はり)・束(つか)・貫(ぬき)が升目状に組まれた「アズマダチ」と呼ばれる明治中期以降に取り入れられた様式で造られています。カイニョに覆われた母屋の手前に納屋と蔵が加わるこの地方特有の散居住居は、端正で美しい佇まいを見せています。時として発生するフェーン現象によって気温が上昇する夏の午後でも、カイニョがある家と無い家では4~5℃の温度差が生じるそうです。フィトンチッドによる森林浴効果に加え、多様な生物を育むビオトープとしての役割も果たすLOHASな屋敷林は、多くの恵みをもたらしてくれます。2002年(平成14)には「散居景観を活かした地域づくり協定」が砺波・南砺の各地域で発効し、屋敷林の維持費用の補助に行政が乗り出しました。
tonami_maggio1.jpg【photo】鎮守の森も水に浮かぶ浮島のよう

 砺波一帯は加賀藩の領地で、山林の樹木は「七木の制」で保護を受けていました。成長が早く家屋の材料や落ち葉が燃料にもなる杉は特に重宝され、「百姓垣根七木」として屋敷内の樹木を伐採しないよう定められていました。「高(=土地)を売ってもカイニョを売るな」という砺波地方に古くから伝わる言葉は、立派なカイニョを誇りに思い、屋敷林を大切に守ろうという意思が込められています。しかしカイニョの維持には枝打ちや落ち葉の掃除など多くの手間がかかるため、最近では減少傾向にあるのだといいます。2004年(平成16)10月の台風23号では、全体の1/4にあたる14,778本のカイニョが倒れ、住居の損壊や電線の切断などの被害が出ました。わずか一夜にして砺波の美しい景観は深刻な打撃を受けたのです。散居村の景観を取り戻そうと行政が実施した助成金や苗木の配布によって、およそ1万本の植栽が住民の手で行われました。これも先祖から受け継いだかけがえのない地域資産であるカイニョに対する地元の人々の深い愛情の表れなのでしょう。
tonami_maggio2.jpg【photo】見事なまでに上下対称のシンメトリーな世界が出現する散居風景にさまざまな形をしたカイニョがアクセントを与えている

 特徴的な散居の風景は、北陸道と東海北陸道が交わる小矢部砺波ジャンクションと城端(じょうはな)SA 間の盛土によって高い視点が得られる東海北陸道沿いで見ることができます。散居を俯瞰して見渡すには、熱気球かハングライダーが最適でしょうが、なかなかそうもいきません。砺波市南部の鉢伏山にある散居村展望台や南砺市井波の閑乗寺公園からは、扇状地に広がる散居の様子が一望のもと。日没時には鏡面と化した水田に夕陽が映り込むドラマチックな光景と出合えるかもしれません。
toyama_cam2004.jpg【photo】2004年に富山県が展開したイメージアップキャンペーン【Link to Website】のポスター(上)には、豊かに水を湛えた砺波平野の散居風景が採用された。ヘッドコピーは「水の恵みの、富山から」

 2年前の9月中旬、世界文化遺産に登録されている白川郷・五箇山地方の合掌集落と飛騨高山地方を訪れました。その際、砺波ICで北陸自動車道を下車、山あいに23戸の合掌造りの家が寄り添うように残る五箇山相倉集落Clicca qui に向かう途中で通りかかったのが、砺波の散居村でした。思わぬ収穫ともいえる特徴的な散居の風景は強く印象に残り、今年のGWに郡上八幡へ遠征した際に再訪を果たしました。
tonami_maggio4.jpg【photo】一家総出で田植えの準備にあたる南砺の農家

 夏の名残のうだるような暑さのもとでも稲穂が黄金色に色付き始めた前回の訪問時とは異なる「水の里」の風景がそこには待ち受けていました。砂や小石が堆積して形成される扇状地は、保水力が弱いため水田には不向きとされます。砺波平野では庄川と支流の豊かな水の恵みによって、地中へ浸透する以上の水が供給され、十分な農業用水が確保できたことから、稲作が盛んに行われてきました。今回訪れたのが、田植えを控えた時期であったことから、満々と水を張った水田に囲まれた浮島のような散居が随所に見られました。鏡面と化した水田には、カイニョとアズマダチがくっきりと映り込み、そこに現れた見事な上下対称のシンメトリーな光景に目を奪われたのでした。

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