あるもの探しの旅

« トロける夏の誘惑 庄内編 | メイン | 香り米 »

だだちゃ豆は、ががちゃの賜物。

鶴岡の夏に欠かせない味、だだちゃ豆 

kuromatsu_hamanaka.jpg【photo】道沿いにメロンの直売所が点在する酒田市浜中付近。日本三大砂丘のひとつ、庄内砂丘に営々と植林されてきたクロマツがR112沿いに続く防風林を形作る。不毛の砂地を豊かなメロン産地へと変えたクロマツは、冬の北西風に耐えてすべからく東の内陸側に傾いている。鬱蒼としたこの林が人造林であるとは、にわかに信じ難い

 鶴岡市湯野浜から酒田を経て遊佐町に至るR112やR7沿いには、長さ34kmに渡って835haに及ぶ広大な面積におよそ1000万本のクロマツが防風林を形成しています。これは江戸期以降に、不毛の砂地に私財を投じてクロマツの植林を始めた酒田の豪商・本間光丘(1733-1801)など、多くの先人がたゆまぬ植林の努力を続けた結晶です。植林前は強烈な季節風による飛び砂の被害に悩まされてきた酒田市浜中地区は、現在では日本有数のメロン産地となり、砂丘メロンは夏の庄内の味覚として欠かせないものとなりました。

malone_hamanaka.jpg【photo】先人が脈々と植林を続けてきたクロマツ林の中に防砂ネットが張られた一角に広がる砂丘メロン畑。巨大なメロンのオブジェがある庄内空港近くの酒田市浜中にて

 1872年(明治5)、旧庄内藩士が未開の原生林を切り開いて桑畑と一大養蚕施設に変えた鶴岡市羽黒町の「松ヶ岡開墾場」には、酒井 調良(1848-1926)が10万本に及ぶ苗木を和歌山や新潟など各地へ広めた「平無核」(ひらたねなし)こと庄内柿と、福島から導入された「あかつき」などのモモ畑が広がっています。お盆の頃、松ヶ岡では甘味の乗ったモモが旬を迎えます。明治政府から賊軍の扱いを受け、禄を失った3000名の士族たちは、まかないの食事だけの全くの無給で311ha の桑園と10棟の大蚕室を築きました(うち5棟が現存)。クロマツの防風林と松ヶ岡は、公益を重んじる庄内の気風を今に伝えます。

akatsuki_matsugaoka.jpg

【photo】旬を迎えた松ヶ岡の主力品種「あかつき」

 砂丘メロンやモモのみならず、昨年取り上げた民田ナスや沖田ナス、岩ガキなどと並んで、食の都・庄内において夏の訪れを感じさせてくれる食べ物の代表選手が、鶴岡在来の枝豆「だだちゃ豆」です。

ooizumi_chokubai.jpg【photo】シーズン到来を待ち焦がれる多くのだだちゃ豆ファンの期待に応えて今年もJA鶴岡大泉支所前にオープンした直売所〈左写真〉

 先月19日、旬を迎えただだちゃ豆の直売所が、鶴岡市白山(しらやま)のJA鶴岡大泉支所にオープンしました。近隣の栽培農家で早朝に収穫されたばかりのだだちゃ豆が枝つきで持ち込まれる直売所は、同支所前の駐車場で例年8月末まで営業を続けます。鮮度が命のだだちゃ豆だけに、朝8時30分の開店に間に合うよう次々と軽トラックで農家が持ち込む枝付きのだだちゃ豆を買い求める人で、直売所には行列ができます。車で訪れる来店客のナンバープレートを見ると、地元庄内のみならず、内陸山形ナンバーはもちろん、新潟・宮城・秋田など、県外からもその味に魅せられた人々が訪れていることが窺えます。同支所内にあるJA鶴岡産直館では、用意された生産者別の試食品を品定めしながら、袋詰めされた好みの豆を選ぶことができます。産直館・直売所とも、飛ぶように売れてゆくため、午前中のほうが品数は多くなります。お買い物は早い時間帯の方がよろしいかと。

【photo】鮮度抜群のだだちゃ豆は午前中に完売することも多く、午後再び畑で収穫した農家によって、第二便が直売所に持ち込まれることもしばしば
ooizumi_09.jpg

 ほかの枝豆の追従を許さない甘さ・香り・旨みは、鶴岡でも極めて稀な例外を除くと、本来の産地を離れると失われてしまうデリケートな一面を持つだだちゃ豆。酒田市助役を3期務めた伊藤 珍太郎(1904-1985)は、郷土史家・名文家としても知られ、著作「庄内の味」(昭和49年刊)で、数ある庄内の優れた味覚のうち、誇るべき東の正横綱に位置するのが、旧大泉村白山産のだだちゃ豆であるとしています。噛み締めるほどに次々と異なる旨味が舌の上に生まれる白山だだちゃは、畑の芸術院賞ものに値するとも絶賛するのですから、ひとかたならぬ入れ込みようです。

edatsuki_dadacha.jpg

 収穫後、常温で長時間置くと味が変わりやすいため、だだちゃ豆はかつて庄内人だけの密かな夏の楽しみでした。予冷庫の整備と流通段階における保冷技術の発達、鮮度保持フィルム包装や脱酸素剤の導入で、今では全国にその名を轟かせるまでになりました。だだちゃ豆は築地市場で通常の枝豆の2倍にあたるキロ当たり1000円で取引されています。その登録商標権を持つJA鶴岡と鶴岡市が主体となった「だだちゃ豆生産者組織連絡協議会」(会長:富塚 陽一鶴岡市長)は、収穫時期が異なる10の品種【注】をだだちゃ豆として認めています。

【photo】根に根粒菌がついた枝付きのだだちゃ豆

 JA鶴岡の商標マークが入った袋詰めのだだちゃ豆は、厳格な基準に基づく採種・管理と、栽培法のもとで作られます。出荷されるのは、白山だだちゃの基本形となる2粒ザヤと3粒ザヤのみ。全体の15%程度発生する1粒ザヤは、手作業による選別の過程で規格外となりますが、旬に関係なくだだちゃ豆特有の風味を楽しめるフリーズドライの「殿様のだだちゃ豆」や、男女問わず好評だという「だだちゃ豆アイスクリーム」の加工用に回されます。鶴岡市大鳥ほか庄内地域をメーンロケ地に撮影され、今年8月全国公開されたホラーコメディ映画「山形スクリーム」(竹中直人監督)とコラボしたパッケージ商品が山形県内限定2万個で発売されています(8月末まで)。その旨さにあなたもきっと「んめの~!!(=庄内語「美味しい!!」の意)とscream(=英語「叫ぶ」の意)することでしょう。

dadacha_icecream.jpg 【photo】だだちゃ豆を使用したオススメ加工品2種。バニラアイスのひんやりミルキーな香りと、粒々になっただだちゃ豆の香りが溶け合う「だだちゃ豆アイスクリーム」は後を引く美味しさ(左写真)。オールシーズンだだちゃ豆ならではの芳香を味わえるフリーズドライの「殿様のだだちゃ豆」はビールのつまみやおやつに大活躍。どちらも やめられない 止まらない~(右写真)

 例年まず店頭に並ぶのは早生種の「小真木(こまぎ)」で、順に「甘露」「庄内1号」「早生白山」と続き、主力品種「白山(しらやま)」が出始めるのは、これからお盆の頃。今年は8月20日前ごろだろうといいます。この最も風味の良い白山の原型とされる系列「藤十郎」を創選したのが、良質のだだちゃ豆の産地として名高い現在の鶴岡市白山地区に生まれた森屋 初(1869-1931)という一人の女性でした。初の生家は、藩主から感謝状を受けたこともある篤農家で、明治期から昭和初期まで「亀ノ尾」「神力」と並ぶコメの三大品種とされた「愛国」の一系統「中生愛国」を創出したのは、実弟の利吉です。

【photo】収穫しただだちゃ豆の選別作業にあたるお母さんたち。鶴岡市白山地区にて

 1907年(明治40)、隣村の寺田にある長女の嫁ぎ先から「娘茶豆」と呼ばれる枝豆の種子を貰い受けた初は、実を結ぶのが遅い1本の変異種を偶然見いだします。茶色の産毛が覆ったサヤの谷間がくびれ、片側がほぼ平らで、反対側が大きく盛り上がり、多くが二粒入りであったその豆は、お世辞にも外見が良いとは言えませんでしたが、風味が優れていました。たいそうな働き者だったという初は、3年に渡って丹念に選抜を繰り返し、屋号に由来する品種「藤十郎」を確定させます。その豆の種子は、大豆のような球形ではなく、形状が歪んだシワの寄ったものでした。

shirayama_dadacha.jpg

 シワの寄った枝豆は、そうでないものと比較して発芽率が劣るとされますが、枝豆農家ではそうした種子から実を結ぶ枝豆が美味しいことが知られていました。初は地区のお母さんたちと種を交換する中で、「オライの豆は一段と香りたげのぉ(=うちの豆は一段と香り高いわよ)」「いや、わぁのだて負けちゃいね(=いいえ、私のだって負けちゃいない)」と味を競いながら次第に作付を増やしてゆきます。庄内では、伝統的にコメ作りは「だだちゃ」(=お父さん)、畑仕事は「ががちゃ」(=お母さん)の仕事とされてきました。

【photo】今から99年前に森屋 初が創選した「藤十郎だだちゃ」の流れをくむ「白山だだちゃ」(上写真) 金峰山(写真右奥の山)から湯田川を経て、だだちゃ豆の畑が両岸に広がる白山地区を流れる湯尻川(下写真)

yujiri_gawa.jpg 
 昨年4月に地域団体商標に登録された岩木山の麓で採れる津軽特産のトウモロコシ「嶽きみ」のような並外れた甘さと、茹でるそばから漂い始めるフェロモンたっぷりな香りを兼ね備えただだちゃ豆のトップブランドとして、藤十郎の直系品種である白山は後に品種が確立されます。直売所に持ち込まれる枝付きだだちゃ豆の根には、美味しさの証ともいわれる根粒がびっしりと付いています。これは空気中の窒素を葉から取り込んで固定化、自ら養分を生成するマメ科の植物に見られる現象です。白山地区は水はけの良い砂地土壌で、そこに良水に恵まれた金峰山麓より湯田川温泉を経由し、温泉水を含んだ湯尻川が流れてきます。川沿いの畑に朝霧が立ち込め、この適度な湿度が味わいに微妙な差異をもたらします。

 余剰米対策として国が生産調整を進める中で、コメどころ庄内では収益性の高い転作作物として、だだちゃ豆は農家にとって農地活用の救世主となりました。市町村単位で見た枝豆の作付面積は、鶴岡市が全国第一位の座に君臨しています。JA鶴岡大泉支所の直売所近くの公民館前には、森屋 初の業績を称える「白山だだちゃ豆記念碑」が2002年(平成14)に建てられました。白山だだちゃの誕生と普及にまつわる物語は、ひとめぼれ・ササニシキ・あきたこまち・コシヒカリdadacha_kinenhi.jpgなど、近代日本が生んだ良質米のルーツとなったコメ「亀ノ尾」を選抜した阿部 亀治の逸話にも相通じるエピソードです。庄内地域は民間育種が盛んな土地柄ゆえ、研究熱心な農家自身が品種改良を重ねる進取の気性が今も息付きます。碑文には豆の行く末を案じていた晩年の初が、家族に「豆の葉陰から見守る」と言い残したと記されます。

【photo】発祥の地に建てられた白山だだちゃ豆記念碑

 ニッポンの夏に欠かせないビールのつまみとしてはもちろん、皆さんにオススメしたいのが、数年前に農家民宿「知憩軒」の長南 光さんから教えていただいた味噌汁の具に使う調理法です。

 1:コメを洗う要領でサヤを洗って茶色の産毛を除く
 2:ダシ汁を沸騰させてサヤごと入れ3分ほど茹でる
 3:箸で茹で加減をみて、柔らかさが出たら味噌を加えて出来上がり
   ※風味が変わらぬよう、茹でるまで豆は必ず保冷状態に置くこと
 
ふっくらとしただだちゃ豆入りの味噌汁からは、アラ不思議、カニ汁のような香りが漂うではありませんか。普通に茹でる場合と同じで、くれぐれも茹で過ぎは禁物です。だだちゃ豆特有の心地よい香りが、美味しそうなカニの芳香に変化する不思議を味わえなくなりますので。

************************************************************************

大泉だだちゃ豆直売所
住所: 鶴岡市白山西野191 (JA鶴岡大泉支所・産直館白山店 駐車場内) 
時期: 7月20日前後 ~8月末
営業: 8:30~16:00頃 (売り切れ次第終了)
Phone: 0235-29-7865(大泉枝豆直売グループ)

JA鶴岡産直館白山店
住所: 同上
営業: 9:00~18:00(11月~2月は~17:30)
Phone: 0235-25-6665

JA鶴岡オンラインショップ「だだぱら」
URL: http://www.dadacha.jp/


【注】
「庄内一号」・「小真木(こまぎ)」・「甘露(かんろ)」・「早生白山」・「白山(しらやま)」・「庄内三号」・「晩生甘露」・「平田」・「庄内五号」・「尾浦」の10品種。このほか一般には種子が出回らず、「砂越(さごし)」・「細谷」・「金峯」・「外内島(とのじま)」などの地名や、「長五郎」・「庄左ェ門」・「伊兵ェ」など屋号の名がつく主に自家採種されてきた系列も存在する。saishu_dadacha.jpg(上写真:採種のため農家の軒先で風乾されるだだちゃ豆の株の様子)。天日干しの後、サヤから脱粒した種から、虫食いや病気の豆を除き、翌年の植え付けに使用する。森屋初が納得のゆく品種に育てるのに3年を要したように、自家採種は根気と時間を要する仕事である

baner_decobanner.gif

コメント

だだちゃ豆の紹介記事として、完璧な内容です。

よく取材されているなあと感心しました。

今年も本場の味をお楽しみいただけましたか?

▼Shigeru様

 先般はこちらのお願いを聞き入れてくださり、またコメントを頂きありがとうございます。

 ご本家と同じ「だだちゃ豆」とかつて名乗っていた「仙台ちゃ豆」が、その節はご迷惑をおかけしました。この場をお借りしてお詫び申し上げます。

 この夏も、月山山麓の無農薬栽培の畑から届く姉上の白山だだちゃや、エリア外ですがコメでお世話になっている藤島井上農場から頂いた茶豆を心ゆくまで頂きました。地元の皆さんがそうであるように、直売所で試食しながら好みの味を物色するのは鶴岡の夏の楽しみですね。

 庄内の方たちが「こっちがんめの」と言いながら次々と試食品を口に運び入れるスピードの速さは只ならぬものがあります(笑)。

 もう最晩生種が出回る頃ですが、またそちらに伺いたいと思います。

Luglio 2018
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

archive.gif

Copyright © KAHOKU SHIMPO PUBLISHING CO.