あるもの探しの旅

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モサと紀香と

犬猫スナック@酒田

 出張で酒田を訪れた日のこと。訪問先との打ち合せを終え、同市日吉町の老舗割烹「香梅咲」で歓待を受けた後、中町のとあるスナックに案内された。日本が生んだ世界のスタンダードカクテル「Yukiguni(雪国)」を50年前に考案した83歳の現役バーテンダー、井山 計一氏が今もカウンターでシェーカーを振る喫茶・バー「ケルン」には、酒田を訪れた際に時々足を運んでいたが、そこはケルンの斜め向かいにあった。ママが工芸ガラス好きなのだろうか、店の名を「Lalique ラリック」といった。

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【photo】すっかりいいムードの鈴木 豊さんと紀香。酒田市Laliqueにて

 色ガラスのシェードから漏れるスタンドの柔らかな明りに照らされたほの暗い店の一角で、アンニュイな雰囲気を漂わせていたのは、大柄な一匹のメス猫であった。ふさふさとした白く長い毛で覆われたその猫は、さも居心地が良さそうに指定席に身を横たえていた。外見からはノルウェージャンフォレストキャットか、恰幅の良いターキッシュアンゴラのようであるが、雑種なのだそうだ。客に愛想を振りまくでもなく、いつも普段はそうしているという。人に媚びることのない"我関せず"といった物腰からは、風格すら感じさせる。猫の常として当然だが、そこが接客業の店であるという自覚が全く無い彼女の怠惰な振る舞いから付いた名前は「モサ」。いつもモサっとしているから、モサ。ちょっと気の毒な名前かもしれない。

mosa@lalique.jpg【photo】美知代ママに抱きかかえられる気ままなモサは、この後プイッと店を出たまま戻らなかった

 ママの佐藤 美知代さんによれば、3年ほど前まで店のマスコット的な存在だった飼い猫が亡くなって半年ほど過ぎたある夜、彼女は連れ子を口にくわえた姿で現れたのだという。訳あり気な彼女は、そのまま店に居つき、そこに自然体で居るだけで店を訪れる男たちに構うでもなく癒しを与えてきた。獣医の見立てによれば10歳は下らないというから、人間の年齢に換算すれば70歳代のおばあちゃんということになる。齢を重ねてなお毛並みの良い彼女を愛撫してくる客を拒むでもなく、男たちの好きにさせるモサは、天性の水商売向きな猛者(もさ)でもある。

 私たちが時折ちょっかいを出しても微動だにしなかったモサが、突如体を起こして店の中庭に面したガラス窓のすき間から脱兎のごとく出て行った。何事かと振り返ると、男性客に連れられた一頭の大柄なゴールデンレトリーバーが店に入ってきたのだった。店の近くにある歯科医である鈴木 豊さんは、こうして犬連れで店をしばしば訪れるのだという。猫がいる飲み屋というだけでも珍しいと思ったのだが、その夜のLalique には犬までが揃った。「ちょうどいいタイミングでいらっしゃいましたね」とママは微笑んだ。

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 いっぱしの常連客であるその犬は、驚いたことにカウンターに腰掛けた鈴木さんの隣の椅子に器用によじ登り、ちょこんと座ってしまった。ママは「よく来たね、ノリカ」と呼びかけながら鈴木さんに酒と乾き物のお通しを出した。聞けば藤原紀香と同じ字のノリカなのだという。カウンターで寄り添う後ろ姿は親密な恋人同士のようにも見える。その様子を窓越しにじっと見詰めるモサ。並大抵のことでは動じないモサも、さすがに犬は苦手のようだ。Lalique は猫と犬と人がドラマを繰り広げる世にも珍しいスナックなのだった。肩を並べる鈴木さんと紀香があまりに絵になったので、野暮を承知でカウンターの中に移動し、正面から写真を撮らせて頂いた。

【photo】陣内智則になった気分で「紀香~」と名を呼ぶと、
小首をかしげて振り向く仕草がたまらなく可愛らしい

 紀香は同名の女優と同様、店を訪れる男たちを魅了する人気者である。私たちが店を引ける少し前に入ってきた紳士は、さも愛しそうに紀香を撫で回し、持ち合わせていた菓子を与えていた。語らずとも思いが通いあう男女のようにイイ雰囲気であった鈴木さんを差し置き、お手当てをくれるダンディな男性に心を許す素振りを見せる紀香は、奔放な一面も持ち合わせた魔性の女なのやもしれぬ。

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【photo】物欲しげな視線を送る紀香に「もっと食べるかい?」と問いかける鈴木さん。カウンターの中にはゴン太のササミジャーキーの袋が(写真左下)/ 美知代ママ(中央)が見つめる前で目尻を下げっぱなしの紳士にすり寄るおねだり上手な紀香(右写真)

 のちに写真を見て気付いたのだが、鈴木さんに出されたお通しかと思ったのは、毛並みが良く美形な紀香とは風貌が全く異なるものの、同じゴールデンレトリーバーのゴン太がユーモラス演技を見せるCMでお馴染みのドッグフード「ゴン太のササミジャーキー」であった。カウンター上に食べ物は見当たらないが、鈴木さんも紀香のササミジャーキーを酒の肴にしたのではよもやあるまい。

 
P.S. 鈴木さん、紀香とのツーショット、とても素敵です。かくなる上はもう一頭美形なワンコを飼って"両手に花"もオツだと思います。二頭目のワンコは仙台出身の美人女優の名前にあやかってみては? ノリカの次としてお勧めは「キョウカ」っすね。そう、鈴木京香。なぁーんて...(-_-; 
 酒場が舞台ということで、北方謙三や大藪春彦のようなハードボイルド路線でまとめようと目論んだ今回のレポート。いつもと文章の雰囲気を変えてみたものの、最後はオチをつけないと気が済まないのであった。

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Lalique(ラリック)
住所:山形県酒田市中町2丁目3-11
phone:0234-24-8583
営:19:30‐24:00 日曜定休

≪追 記≫
2011年3月11日、東日本大震災が発生した数日後、混乱のさなかにあった勤務先に「食べ物や飲み水など困っていることがあれば何なりとお申し付けください」という美千代ママ手書きのFAXが届いた。その年の暮れが押し迫った頃、癌で美千代ママが亡くなったことを知った。Laliqueの閉店によって居場所を失ったモサや指定席を失った紀香もさぞ淋しいことだろう。震災後の混乱にまぎれて人情味に厚いママに対して、何らお礼を申し上げることができなかったことが悔まれてならない。美千代ママのご冥福をお祈りします。

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