あるもの探しの旅

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2009/11/29

オフヴィンテージ考

Podere Salicutti / Brunello di Montalcino Poggiopiano '02
ポデーレ・サリクッティ / ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'02年
 @エノテカ・イル・チルコロ

 2009年は奇跡の年。 今年のボジョレー・ヌーボーの売り文句です。

 表現は違えど毎年グレートヴィンテージが宣言される唯一無二の産地、ボジョレーの新酒をお飲みになった方は、どんな奇跡を体感なさったのでしょう。商魂たくましい産地関係者が煽るお囃子に合わせ、"踊らにゃ損々"と盛り上がる11月の第3木曜日。一部インポーターや酒販店も加担して解禁日に向けたプロモーションが繰り広げられます。その動きを眉唾モードで受け流すことにしている私の記憶では、2、3年前にも聞いた記憶があるフレーズ、「50年に一度の出来!!」と、派手に持ち上げられても、どこ吹く風。総選挙で自民党が繰り広げたネガティブキャンペーン顔負けの「今年も当たり年? ボジョレー・ソードーは日本固有の祭りLink to back number」で持論を展開したのが昨年のことでした。その甲斐あってか(?)例年通り静観を決め込んだ今年の騒動は、いまひとつ盛り上がりに欠けた感があります。

selezione_hayashi.jpg【photo】イタリアワインを輸入業者に斡旋するエージェント、林 達史(たつし)氏が選んだモトックス社取り扱いのヴィーノが揃った「エノテカ・イル・チルコロ」でのワイン会。日に日に寒さが増してくる11月の3週以降ともなれば、しっかりとしたボディのある上質なヴィーノ・ロッソが一段と美味しく感じられる。どうせならこうした真っ当なワインを楽しみたいもの

 今年の商戦は解禁直前に大手スーパーが火花を散らした値下げ競争と、ペットボトル入りの低価格ヌーボーがトピックスとなりました。ブドウを原料とする醸造酒(→特殊な製法で速成醸造されるボジョレー・ヌーボーは"ワイン未満"であると考えているため、敢えてワインとは呼びません)カテゴリーでは、年間売り上げの重要な山場となるボジョレー商戦の売り上げ確保に躍起となる日本の酒販業界の努力もむなしく、ここ数年その売り上げは減少の一途をたどっています。今年の輸入量は、昨年比で15~20%の減少が見込まれるといいます。Bio (ビオ)だ自然派だと、特に女性を意識した付加価値をつけたところで、到底価格に見合った酒質が伴わない商材を持ち上げるかまびすしい商業主義が駆逐され、真っ当なワイン文化が日本に根付くまで、私の孤独な闘いは続くことでしょう(笑)。

tatsushi_hayashi.jpg

 前置きはこのぐらいにして、ワインの輸出斡旋業者であるクルティエの林 達史 氏をお招きして仙台市青葉区のイタリアン「エノテカ・イル・チルコロ」で行われたワイン会で出た一本のヴィーノが、今回の話題の中心です。1964年(昭和39)京都に生まれた林氏は、'90年代前半にイタリアワインと出合い、小規模な素晴らしい生産者が日本に紹介されていないことから、生産者と輸入業者の橋渡しを始めます。現在は一年の半分以上をフィレンツェの北隣りにある街Fiesole フィエーゾレに住まい、フィレンツェを拠点に自らの目と舌で選んだ生産者だけを紹介しています。

【photo】多彩なイタリアワインへの深い理解によって生産者から厚い信頼を得ているクルティエ 林 達史 氏

 その日のワイン会は、'95年に林氏がカンティーナ(=醸造所)に足を運んで日本に紹介したトスカーナの「Montevertine モンテヴェルティーネ」など優良生産者の中で、信頼のおけるインポーター「モトックス」が扱うラインナップからセレクトした6本のイタリアワインが出されました。特にヴィーノ・ロッソ(=赤ワイン)は、私が注目しているAzienda アジェンダ(=生産者)のワインを4種類も味わえるというので、万難を排して参加しました。

franciacorta_e_arneis.jpg【photo】スプマンテはロンバルディア州ラ・フェルゲッティーナのフランチャコルタ・サテン04(左)白ワインはピエモンテ州ブルーノ・ジャコーザのロエロ・アルネイス'07(右)ともに産地で品質面のリーダー格と目される生産者といえる

 まずはキメ細やかで持続性の高い泡が立ち昇り、淡いクチナシと明確なアーモンドのニュアンスがあるイタリア北部ロンバルディア州Bresciaブレシア県産のスプマンテ「Franciacorta Saten '04 フランチャコルタ・サテン」から。自家栽培したシャルドネの中から最良の状態のブドウおよそ35%だけを選別してステンレスタンクで一次発酵させ、1割をオーク樽にて熟成。36ヶ月の長期瓶内熟成を経てリリース後、わずか3ヶ月で完売してしまうというこのスプマンテの造り手は、Erbusco エルブスコで優良なDOCG(「統制保障原産地呼称」イタリアワイン法の最高位)Franciacortaを生産する「La Ferghettina ラ・フェルゲッティーナ」。Ca'del Bosco カ・デル・ボスコと並び称されるBellavista ベッラヴィスタで栽培・醸造責任者を20年務めたロベルト・ガッティ氏が'91年に興したカンティーナ(=醸造所)です。

 青リンゴのような香りが後を引くヴィーノ・ビアンコ(=白ワイン)はPiemonte ピエモンテ州の固有品種Arneis アルネイスを復活させた立役者、名醸地として知られるCuneo クーネオ県Neiveネイヴェに醸造所を構える「Bruno Giacosaブルーノ・ジャコーザ」の「Roero Arneis '07 ロエロ・アルネイス」。1929年生まれの現当主ブルーノ氏は、誰よりもLangheランゲ地区の畑を知り尽くしており、ランゲの伝統を重んじる醸造スタイルは、一貫したものです。天候に恵まれない年は、自社ブランドの醸造は行わず、すべてバルク売りしてしまいます。自社畑のほかに一部生産を委託しているブドウ生産者とは、作柄の善し悪しに関わらず、常に一定量を買い取りしており、地元で厚い信頼と尊敬を集める生産者でもあります。吉田シェフの作る有機野菜のパレット仕立てとホワイトアスパラガスの茹で上げ・茹で卵とパプリカのソース掛けとともに、ワイン会は上々のスタートを切りました。

dopoteatoro_e_rosso.jpg【photo】赤ワインはトスカーナ州ポデーレ・サリクッティのカベルネ・ソーヴィニョンをメイン品種とするIGT(=地域特性表示ワイン)ドーポテアトロ'04(左)と、翌'07ヴィンテージから格上のブルネッロ同様、畑名のSorgente が最後に付くようになったロッソ・ディ・モンタルチーノ'06(右)。エチケッタに描かれるのは古代ギリシア・ローマ時代のTeatro (=円形劇場)。いずれも素晴らしい作柄のブドウが収穫された年らしい深みのあるしっとりとした血筋のよさを備えている

 いやが上にも期待が高まるヴィーノ・ロッソは「Podere Salicutti ポデーレ・サリクッティ」の4本。何をおいても参加した私のお目当ては、旗艦となるヴィーノ「Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」でした。ローマで科学教師をしていたシチリア人のフランチェスコ・レアンツァ氏が、'90年にトスカーナ州最南部の名醸地Montalcino モンタルチーノに土地を購入して移住、Podere(=「農場」の意)にブドウを植えた4年後に誕生したカンティーナは、伝統ある産地モンタルチーノでは新参ながら今では揺るがぬ名声を築いています。19世紀初期の古地図に同じ名が認められるというPodere Salicuttiでは、科学者でもあるフランチェスコが栽培から醸造・ラベリングまで全てを自らの手で行っています。

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【photo】1.5haの区画Piaggione ピアッジョーネは風通しのよい南斜面に1haあたり4,500本の密植度でブルネッロ種ことサンジョヴェーゼ・グロッソ種が栽培される(右写真)  畑に立つオーナー兼醸造家フランチェスコ・レアンツァ(中央写真)  開花期のサンジョヴェーゼ・グロッソ(左写真)

 1967年に発足した「Consorzio del Vino Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会」【Link to website】では、産地全体としての作柄を5段階で自己評価し、毎年☆の数を公式に発表しています。毎年のようにグレートヴィンテージ五つ星を約束され、今年のような自称・奇跡の年に至っては六つ星すら付きかねない地球上唯一の産地ボジョレーとは違い、天候が比較的安定しているトスカーナ南部にあってすら、至極当たり前なことですが、年によっては厳しい天候のもとでブドウを育てなくてはなりません。直径16kmのエリアに24,000ha の耕作面積が広がるトスカーナきっての名醸地モンタルチーノ。協会に加盟する216軒の生産者は、標高や土壌など地域によって微妙に栽培条件が異なるため、brunello_02_03.jpg強靭なタンニンを備えた長期熟成型のヴィーノとなるサンジョヴェーゼ・グロッソ種(ブルネッロ種)だけを原料とするブルネッロ・ディ・モンタルチーノでも、一般的傾向として西側がエレガントで、ブドウの成熟が早い南側ではアルコール度数が高めになるなど、味に微妙な差異が生まれます。

【photo】ポデーレ・サリクッティの名を一躍世に知らしめたのが、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの生産を始めて2年目、良作年として話題になった'97ヴィンテージ。この夜は水浸しの年と渇水と酷暑が襲った年という違いはあれど、困難な年だったと多くの生産者が振り返る'02ヴィンテージ(左)と'03ヴィンテージ(右)を試飲

 ブドウが熟する過程から収穫期に雨が降り続いた'02年が'92年以来の☆☆二つ星評価で、作り手によっては、最良のグランヴァンにあたるブルネッロの生産を諦め、セカンドクラス Rosso di Montalcino ロッソ・ディ・モンタルチーノに格落ちさせざるを得ませんでした。セカンドクラスはブルネッロの半値程度で販売されるため、その決断は生産者にとって痛手以外の何物でもありません。翌'03年は☆☆☆☆四つ星評価ですが、欧州全体が記録的な猛暑に見舞われ、夏の間に降水が全く無かったイタリア中部以南ではブドウが干しブドウ状になる高温障害が発生。そのため糖度が高くジャミーな(=ジャムのような)ワインに仕上がるケースも散見され、インパクトはあるものの、長期熟成に耐えうる重要な要素となる酸味の乏しいヴィーノも見受けられました。

back_rabel.jpg【photo】権威あるイタリアの有機認証機関「ICEA」からビオ認定を受けているサリクッティのブルネッロは、バックラベルに「Con uva da agricoltura bioligica(=有機栽培のブドウを使用)」と記載される

 近年では'97年・'04年と、まだ法定熟成期間中で未リリースながら'06年・'07年のように最高評価☆☆☆☆☆五つ星の理想的な気候のもとでは、健全に育ったブドウからバランスの良い味わいを備えた偉大なヴィーノが生まれます。生産者によっては、☆☆☆☆四つ星の'99年・'01年にも素晴らしいブルネッロをリリースしました。

vigna_piaggione.jpg【photo】南方50km にある標高1,732m のアミアータ山は、地中海からの海風を遮り、安定した気候をモンタルチーノ周辺にもたらしている。ポデーレ・サリクッティのブドウ畑、Piaggione ピアッジョーネでは、主にブルネッロ用のサンジョヴェーゼ・グロッソが栽培され、例年10月5日ごろに収穫が行われる(上写真)

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 ポデーレ・サリクッティは、モンタルチーノ中心部から標識を頼りに世界遺産の「Val d'Orcia オルチア渓谷」方向に4.5kmほど進んだ高台にあります。すぐ近くにはイタリアで最も美しいといわれるロマネスク様式の修道院「Abbazia di Sant'Antimo サンタンティモ修道院」〈clicca qui〉がブドウ畑と草原に囲まれて建っています。キアンティ・クラシコ地域よりも年間降水量が50mmほど少ないモンタルチーノ特有の乾いた風が吹き抜けてゆくブドウ栽培に適したサリクッティ農場では、4つのブドウ畑のほか、オリーブも栽培しています。農村体験型の宿泊施設「Agriturismo アグリツーリズモ」を併設した建物の南側からは、火山としてはシチリアのMonte Etnaエトナ火山(3,315m)に次ぐ高さのMonte Amiata アミアータ山が遠望されます。

colori_vini.jpg【photo】1 泊から利用できる宿泊施設アグリツーリズモを併設したPodere Salicutti (上写真)
カベルネベースのドーポテアトロ'04(写真右)は、サンジョヴェーゼ・グロッソ100%のブルネッロ'03(写真中)'02(写真左)と比較すると、幾分黒味がかったガーネットをしている

 フランチェスコ・レアンツァ氏は、有機認証を受けた飼料のみで育てられた地元の牛舎から提供される堆肥を通常の1/4程度の使用にとどめ、ブドウの畝で栽培されるマメ科を中心に15種類ほどの草花を緑肥として活用しています。除草剤や化学肥料に依存することなく、自然に対して謙虚さを忘れず、いかなるヴィンテージでも最良の結果へと導くアプローチを忍耐強く探る姿勢を貫いています。欧州でも重要な有機認証機関の一つ「ICEA」からBio (ビオ)認証を受けるブルネッロ・ディ・モンタルチーノのファーストヴィンテージが'96年。米国の権威あるワイン評価誌「ワインスペクテイター」は、軒並み高評価を与えた'97年のブルネッロの中で、最高得点の98点をポデーレ・サリクッティに与えました。それまでほとんど無名であった創業間もない小さなカンティーナは、こうしてイタリア屈指の名醸地モンタルチーノの協会加盟のワイン生産者216軒の頂点として名乗りを上げたのです。

 【photo】ニクヤキスタこと吉田シェフの本領発揮、久慈市山形町産短角牛の肉料理

 プリモピアット「岩手産ホロホロ鶏のラグーソース風味パッパルデッレ」、セコンドピアット「岩手久慈市山形町産 短角牛リブロースの炭焼・同テールの赤ワイン煮込、レバーのソテー」が運ばれると、いよいよ料理とお互いを高めあうイタリアワインの美質を発揮するVini rossi (=赤ワイン・複数形)の登場です。4つの区画では最も標高が高いために成熟が遅く、糖度とポリフェノール成分が幾分少ないブドウとなるSorgente ソルジェンテのブドウを主に用いた「Rosso di Montalcino '06 ロッソ・ディ・モンタルチーノ」、カベルネ・ソーヴィニョンを9割使用し、トスカーナ原産とされるサンジョヴェーゼとキアンティでも補助品種として使用されるカナイオーロを各5%ずつ混醸したIGT「Dopoteatro '04 ドーポテアトロ」、ヴィンテージ違いの「Brunello di Montalcino Piaggione '02と'03 ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・ピアッジョーネ」という4種のヴィーノ・ロッソが次々とテーブルに並びました。

vigna_sorgente.jpg【photo】標高460~480 m の畑Sorgente ソルジェンテでは、0.8haの区画にサンジョヴェーゼのほかに外来種Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニョンと混醸用に用いられる品種Canaioloカナイオーロが栽培される

 太古は海底であったために貝殻の多い砂礫粘土質土壌のブドウ畑は、4箇所に分かれています。合計4haの畑で栽培するブドウだけを使用するサリクッティのヴィーノは、生産本数が極めて限られます。高い評価を得るブルネッロは、国内外で争奪戦が行われており、これだけの種類を一度に飲む機会はそうありません。マニア垂涎のラインナップが揃ったこの日、ともに最高の天候に恵まれた'04と'06 のヴィーノが期待通りだったのは申すまでもありません。そのなかで最も輝いていたのは、イタリアワイン愛好家の間では天候に恵まれなかった不作年として知られる'02ヴィンテージのBrunello di Montalcino Piaggioneでした。

salvioni_pacenti.jpg【photo】生産本数が限られるため、滅多に市場に出回らないサルヴィオーニとシロ・パチェンティのブルネッロ'01ヴィンテージ(私物。ウフッ)。天候に恵まれなかった翌年は、生産されずにセカンドクラスのロッソ・ディ・モンタルチーノに格下げしてリリースされた

 この年、完璧主義者の「Salvioni サルヴィオーニ」や「Siro Pacenti シロ・パチェンティ」のように高い評価を受ける生産者のいくつかは、ブルネッロの水準に達しないと判断、その生産を見送りました。愛好家を裏切りたくないというその英断は称えられるべきでしょう。一方で、サリクッティのフランチェスコ・レアンツァ氏は水浸しの天候のもと、実に高水準な渾身のブルネッロを作り出していたのです。

 開墾に着手した'94年から'95年にかけての最も早い時期に傾斜20度の南斜面1.5haにブドウの植え付けをした区画、Piaggioneで栽培するSagiovese Grossoサンジョヴェーゼ・グロッソを、一房ごと一粒ずつ手で選別し、アリエ産とスロヴェニア産のオーク樽で3年の熟成を経た後、5,333本だけがリリースされました。雨に祟られた年であることを感じさせないsalicutti_0102.JPG完熟したブドウ由来の加熱したバルサミコのような甘さの後、ベリー系の香りが現れ、ダークチョコレートのようなスパイシーな余韻が続きます。

【photo】エノテカ・イル・チルコロで昨年頂いたポデーレ・サリクッティのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'01。抜栓後、時間と共に開いてゆき、多彩な表情を見せた果ての最後の一杯が一番美味しかった

 シルキーな柔らかさと強靭な体躯を備えた素晴らしい出来映えとなった'01ヴィンテージのサリクッティのブルネッロをエノテカ・イル・チルコロで頂いたことがあります。それと比較すればわずかにボディは細く、柔らかさはあるものの、いささかの破綻もきたさない高い次元で融合したバランスの良さは、見事というしかありません。恵まれた天候のもと、質と量が両立した'01ヴィンテージが9,300本あまりの生産本数だったことを考えれば、いかにブドウの選果が厳格に行われたが分かります。

    tank_salicutti.jpg francesco_leanza.jpg tonaou_salicutti.jpg
【photo】ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'02 は、ステンレスタンク(左写真)で自然酵母を用いた主発酵後に乳酸菌によるマロラクティック発酵。モストを500ℓ容量のオーク樽に移し、12ヶ月を経た後、4,000ℓ容量のオーク樽(右写真)にて24ヶ月熟成される。仕上がったヴィーノを試飲するフランチェスコ・レアンツァ氏(中央写真)

 降雨状況の把握とカビの発生を抑制するための風通しを確保する細やかな剪定作業の積み重ねによって、過酷な自然を克服せんとした真摯な作り手の努力が詰まった珠玉の作品。それがポデーレ・サリクッティのブルネッロ'02です。中部イタリア以北のアジェンダが、おしなべて困難な年だったと口を揃える'02の翌年、欧州を多数の死者が出るほどの稀に見る猛暑が襲いました。過剰なまでの日照にさらされたブドウの選別は、前年同様に厳しく行われ、2年連続で少量しか確保できなかった健全なブドウから、ブルネッロ'03が生産されました。

con_hayashi.JPG 【photo】ワイン会終了後、モトックスの梶本氏(写真左)ら居残ったメンバーで美味しい料理をご用意頂いた吉田シェフと林氏を囲んで歓談後、感銘を受けたサリクッティのワインボトルを手に記念撮影

 米国の著名なワイン評論家ロバート・パーカー氏は、インパクトのあるワインに高い評価を与える傾向があります。案の定、試飲した'03ヴィンテージのブルネッロ22点に92ポイント以上のハイスコアをつけました。ポデーレ・サリクッティのブルネッロ'03は、93ポイントを獲得しています。(良年の'04年には95ポイントを献上)イタリアワインに造詣が深い林 達史氏は、サリクッティのブルネッロの特徴として、瓶熟による熟成能力の高さを指摘した上で、オーナー兼醸造家のフランチェスコ自身も驚くほどの出来だというしなやかな'02ヴィンテージのほうが、パワフルさを感じる'03ヴィンテージより寿命の長いヴィーノとなるでしょうと語ります。穏やかなタンニンの内に秘めたブドウのポテンシャルの高さは、穏やかで真摯なフランチェスコの人柄を偲ばせるものです。

 意図的に新酒の作柄を美辞麗句で飾り立てる産地がある一方で、☆☆二つ星で自己評価する決してブドウの作柄が良くなかった'02ヴィンテージのブルネッロ。しかしサリクッティのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'02年は、いかなる装飾語を用いるでもなく、たとえ困難な状況にあっても、造り手の情熱はそれを乗り越えるのだ、という真実を物語るかのように長く複雑な余韻を残すのでした。


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Podere Salicutti
Azienda Agricola di Francesco Rosario Leanza
Località Podere Salicutti, 174 - 53024 - Montalcino (Siena)
Phone / Fax:+39 0577 847003
URL: http://www.poderesalicutti.it/
email:leanza@poderesalicutti.it

協力:㈱モトックス
Phone:本社 06-6723-3131  東京オフィス 03-5771-2823
URL: http://www.mottox.co.jp/
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2009/11/21

満腹御礼

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第5幕
 作り手の思いに触れた二日間の旅

hiroshi_yoshihiro_goto.jpg【photo】吹き抜ける秋の風が心地よい酒田市飛鳥の平田赤ねぎ畑で、平田赤ねぎ生産組合長 後藤 博さんに赤ねぎの由来や特徴を伺った

 かつてその地に種を伝えた上方商人が船で往き来した酒田市飛鳥の最上川に面した「平田赤ねぎ」Link to backnumberの広大な畑では、「平田赤ねぎ生産組合」の後藤 博組合長(59)が柔和な笑顔で出迎えて下さいました。傍らには平田赤ねぎの品質向上と普及のために奔走してきた父の背中を見てきたご子息の喜博さん(30)の姿も。喜博さんは昨年4月に会社勤めをやめ、専業農家として赤ねぎの生産を手伝っています。次の世代を担う後継者が頑張っていることを嬉しく思う庄内系イタリア人なのでした。

 旧平田町(現酒田市)飛鳥地区一帯に伝わる在来野菜・平田赤ねぎは、その食味の良さが認められ、地元での再評価に加えて、後藤さんの組合が設けた厳しい品質基準に沿って出荷される首都圏でも好評を博しています。今年から取引を開始した大阪には、毎週100ケースを出荷するなど、全体の出荷量が昨年比で3割近く伸びているといいます。今年は10名の組合員が3haの畑で赤ねぎを栽培していますが、伸び続ける需要に出荷が追い付かない状況だとか。後藤さんは、着実にブランド力を上げ、販路を広げている平田赤ねぎに続く事例が周囲に登場することを願っていると語ります。地域全体に新たな活力が生まれてこそ、自分たちが歩んだ軌跡に価値が生まれるのだと言葉に力を込めました。

akanegi_chokai.jpg hiroshi_goto091025.jpg hiroshi_goto_091025.jpg

 後藤さんには、皆さんからお顔がよく見えるように搬出用の荷車の上で赤ねぎに関してご説明頂きました。ご用意願った鮮度保持包装フィルム入りの赤ねぎや、規格外となった赤ねぎを活用した粉末スープ、麺に赤ねぎを練り込んだうどんなどの加工品がテーブル上に並べられています。ひとしきり説明が終わると、藤沢カブの時と同様、熱気あふれる青空市の始まりです。喜博さんの隣で私も売り子になり、皆さんにたくさんお買い上げ頂きました。
 
 仙台で平田赤ねぎを入手できる店についてバスの中でお問い合わせ頂きました。そこでお答えした不定期に入荷するさくらの百貨店やイオン系列のほか、仙台駅前の朝市にある今庄青果本店では、10月から年明けまで後藤さんの組合が出荷する赤ねぎを一袋300円~350円(税込)というリーズナブルな価格で定番商品として扱います。"一度食べてもらえば必ずリピーターになってもらえる"と語る後藤さんの言葉通りになった方は、今庄青果本店へどうぞ。

sankyo_soko_091025.jpg 【photo】庄内米の備蓄倉庫として現在も使われている山居倉庫。裏手のケヤキ並木もすっかり秋の装い
 
 当初はそこから酒田市横代で坪池 兵一さんが絶品のズイキを植酸農法で栽培する水苗代にご案内する予定でした。しかしこの日は酒田を代表する観光スポットでもある山居倉庫を会場に「米フェスタ2009酒田市農林水産まつり」が行われており、坪池さんはそちらの農産物直売コーナーの特設テントにおいでとのこと。この日の昼食は湊町酒田を代表する寿司店「鈴政」で頂くことになっていたので、その道筋にあたる山居倉庫を目指しました。

nourin_matsuri09.jpg【photo】黄金色に輝くケヤキが青い空に映える「米フェスタ2009 酒田市農林水産まつり」会場となった山居倉庫は、食の都・庄内の実りの秋を彩るさまざまな産物を求めて訪れた人で大変な賑わいを見せていた

 今しがた畑を訪れたばかりの平田赤ねぎ、酒田沖に浮かぶ飛島特産のジャガイモ「ごどいも」、酒田市円能寺地区産の希少な餅米「女鶴」などなど、地域性豊かな逸品がところ狭しと並びます。話題の新品種「つや姫」の新米もあり、さまざまな試食コーナーには長蛇の列ができていました。人ごみをかき分けながら私たちが目指したのは「海鮮市場海の八百屋」のテント。そこに旬を迎えたカラドリ芋を前に並べた坪池さんご夫妻の姿がありました。

tsuboike_091025.jpg  【photo】葉以外の親芋・子芋・茎すべてを食する青ズイキを手に、時折ギャグを交えて説明いただいた坪池 兵一さん

 有機酸を用いて植物の根を活性化し、同時に土壌の改善も行えるという「植酸農法」の匠、坪池さんが手掛けるカラドリ芋はひと味もふた味も違います。坪池さんは原産地の東南アジアと同じ水苗代でズイキ栽培をしています。畑作と比べて水苗代は植え付けや収穫時の労力はかかりますが、味にこだわる庄内の生産者は水苗代でズイキを育てています。坪池さんに写真資料を見せて頂いたことがありますが、植酸農法で栽培したコメや野菜の根の張りが良いことは、一目瞭然。カラドリ芋はズイキの根にあたることから、植酸農法が適していることは理にかなっています。そんな難しい話は抜きにしてお得意のギャグを交えたセールストークに釣られるように、皆さんにお買い上げ頂きました。

suzumasa_sakata.jpg【photo】酒田市日吉町「鈴政」

 昼食を予約していた酒田市日吉町の鈴政は、1955年(昭和30)の創業。湊町酒田を代表する寿司の名店です。暖簾を受け継ぐ二代目の佐藤 英俊さんは、寿司はふんわりと握ったシャリが、厳しく目利きしたネタと職人の手の中で出合った瞬間が一番美味しいと語ります。そのため、本来は一貫ごとに若大将が握る寿司について説明を受けながらカウンターで頂くのが望ましいのですが、なにせこの日は総勢30名という人数。案内された二階の大広間には、既に寿司が用意されていました。それでも十分にネタの良さは伝わります。

suzumasa_091025.jpg 【photo】湊酒田の粋を頂く「鈴政」の江戸前寿司は、若大将の話を聞けるカウンターで楽しみたい

 6年前に情報誌ALPHAの取材で仙台から訪れた取材クルーは、「塩で召し上がって下さい」と出された白ゴマを散らした平目や、適度に上品な脂が乗ったノドグロ、庄内浜で揚がる近海ホンマグロ、全国を股にかけて最高のもの探し出すというウニなど、隅々まで職人の細やかで確かな技が行き届いた特上にぎりに、「もう宮城では寿司は食べられない」と語っていたほど。しかも特上で2,100円という価格です。そのコストパフォーマンスの高さにも舌を巻いていました。ちなみに酒田っ子の中には、鈴政は高級店だからと敬遠する人もいます。湊町だけに酒田の寿司は総じて高いレベルを保っています。皆さんには、改めて鈴政のカウンター席に足を運んで頂くとしましょう。

nk_agent091025.jpg【photo】オスカー受賞映画「おくりびと」でNKエージェントの舞台となった旧「割烹小幡」。フグの白子を眺める参加者

 予定よりも若干早めに食事を終えたので、映画「おくりびと」でNKエージェントの舞台となった旧「割烹 小幡」《clicca quiに皆さんをご案内しました。主人公の小林 大悟(本木 雅弘)が「安らかな旅のお手伝い」と記された求人広告を手に訪れた坂の先に、にわかに脚光を浴びることとなった古びた建物があります。納棺師の事務所として映画で使われた雰囲気そのままの一階から、急な階段で三階まで移動すると、社長(山崎 努)が主人公に勧めたフグの白子焼きの模型が餅焼き網の上に並んでいました。「旨いんだよなぁ、これが。困ったことに...」という山崎 努のセリフが蘇り、男二人が美味しそうに白子の中身をすする場面を思い起こすと、寿司を食べたばかりだというのに、じんわりヨダレが・・・。

watarai_shiryokan.jpg【photo】阿部 亀治の業績についてご説明頂いた渡會 幸江さん

 庄内町の「亀ノ尾の里資料館」では、近代日本で誕生したコシヒカリ・ひとめぼれ・ササニシキ・はえぬき・つや姫など優良銘柄米の系統を辿ってゆくと、その源流に名を留めるコメ「亀ノ尾」の生みの親、同町出身の育種家 阿部 亀治(1868-1928)Link to backnumberについて学芸員の渡會 幸江さんに解説して頂きました。

 東北が大凶作に見舞われた1893年(明治26)の9月29日、当時26歳の亀治は青立ちする「惣兵衛早生」の中から突然変異したと思われる黄金色の穂をつけた3本の稲穂を偶然見出します。そこが真夏でも冷たい月山の雪解け水が流れ込む立谷沢川の水を引く田んぼの水口だったことから、寒さに強い品種に違いないと直感した亀治は、4年の歳月をかけてそのコメを改良育種します。在来品種よりも倒伏しにくく、耐冷性・耐病性に優れ、食用米としての味の良さと多収性を兼ね備えたその新品種を、周囲の人々は創選者の名前にちなんで「亀ノ王」と名付けるよう亀治に進言します。"王ではおこがましいので、尾っぽでいい"と生粋の庄内人であった亀治が付けたのは「亀ノ尾」という名前でした。

kanoo_shiryokan.jpg【photo】阿部 亀治と亀ノ尾に関する展示を前に、渡會さんの説明に聞き入る参加者

 年間を通して圃場に水を張っておく湿田栽培から、乾田栽培にコメの栽培法が大転換をしてゆく中で、乾田に適した亀ノ尾の名声は高まる一方。各地からの求めに応じて、亀治は種籾を惜しむことなく分け与えたといいます。1905年(明治38)、東北の太平洋側は天保の大飢饉以来といわれる凶作に見舞われました。翌年植え付けする種籾が不足した宮城県庁あてに、一斗分の種籾を贈ったのも阿部 亀治でした。地元では先陣を切って導入した乾田馬耕と期を一にして亀ノ尾は作付けを増やしてゆきます。そうして大正末期から昭和初期においては、国内のみならず、台湾や朝鮮半島にも亀ノ尾は普及してゆくのです。

kameji_abe@60.jpg【photo】昭和2年4月、農事功労者として藍綬褒章を受賞した阿部亀治翁 60歳の写真。亀ノ尾の里資料館の展示より

 亀ノ尾の里資料館を後にした私たちは、亀ノ尾が発見された立谷沢川沿いの庄内町中村集落にある熊谷神社を訪れました。しかし大型バスでは神社に近付くことができず、亀の尾発祥の地と刻まれた記念碑《clicca qui》をお目にかけることは残念ながら叶いませんでした。亀治は参詣の途中で3本の稲穂を発見しているので、神社の手前でバスを停め、稲作史に偉大な足跡を残したコメが生まれた地で、しばしの時を過ごしました。

tachiyazawa080829.JPG nakamura_091025.JPG 【photo】116年前に阿部 亀治が亀ノ尾を発見した熊谷神社近くの稲刈りを終えた田んぼ。近代稲作史はここから始まったと言っても言い過ぎではない(写真右)。たわわな稲穂が豊かな秋の稔りを期待させる昨年8月末。立谷沢川沿いの庄内町中村地区から熊谷神社方向と鳥海山を望む。亀ノ尾の子孫である「はえぬき」「コシヒカリ」「ひとめぼれ」などが育つこの風景を阿部 亀治も目を細めて眺めているに違いない(写真左) 産直「あねちゃの店」(写真下)

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 ツアーも終盤。残すは観光ツアーには欠かせないお土産の買い出しタイムです。初日のトイレ休憩で立ち寄った産直あぐりを含め、佐久間ファーム・藤沢カブの後藤さん・竹の露酒造場・月山パイロットファーム、二日目に立ち寄った箕輪鮭孵化場・平田赤ねぎの後藤さん・山居倉庫で営業していたカラドリ芋の達人 坪池さんなどで、皆さんはすでに相当量の買い物をしてきたはずです。それでも鶴岡市羽黒町狩谷野目にある産直「あねちゃの店」にご案内すると、食の都・庄内の魅力に触れたためか、再びスイッチが入ったようでした。食WEB研究所のフードライターを務めておいでの管理栄養士 大河内 裕子さんは、店の雰囲気とどこかミスマッチな(笑)西洋野菜のCavolo rapa(カーヴォロ・ラパ=コールラビ・パープルまたはパープルベンナ)のほか、今年の収穫を終えるばかりとなった沖田ナスLink to backnumberを箱買いされるなど、両手に持ちきれんばかりにお買い上げ。大型バスの最大積載量も限界に近づいていました。

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【photo】青果品の買い物は「あねちゃの店」で、一般的な買い物は「庄内観光物産館」で、と皆さんをご案内した最後の買出し。畑と直結しているゆえの安さも手伝って、皆さん買うわ買うわ・・・。おかげ様で佐藤 典子店長から「お嬢さんにどうぞ」と袋一杯に詰め込んだ美味しい庄内柿を頂いてしまいました。もっけだの(●⌒∇⌒●)

 山形道に乗る前に訪れたのが、鶴岡ICすぐ近くの「庄内観光物産館」です。都市間高速バスの発着所にもなっており、庄内の観光ツアーではハズせないお買物スポットといえるでしょう。藩制時代以来の造り酒屋街であった大山地区ほか庄内の地酒や月山ワインなどがずらりと並ぶ酒販コーナーに直行したのはフードライターの女性利酒師 早坂 久美さん。竹の露・白露垂珠を制覇してなお、さらに庄内の酒を極めんとする探究心には頭が下がります。新鮮な海産物・漬物類・菓子類・加工食品などがズラリと並ぶ店内からバスに戻った皆さんには、初日に藤沢カブの後藤 清子さんから頂いたまま、バスのカーゴスペースに入れておいた泥付きの田川カブを小分けにしてお配りしました。

 帰路のバスではツアーに同行した食WEB研究所スタッフ 畠山 茂陽氏が集約した皆様からの「普段はどんな食生活なのか?」「仙台でお勧めのイタリアンはどこか?」など質問攻めに遭いました。ご参加頂いた皆さんには、今回より幾分ペースダウンして食の都を再び訪れて頂ければと思っています。ホームタウンを舞台にコアなトークを炸裂させた私自身は、楽しくも充実した二日間を過ごすことができました。微力ながら食を通して新たな絆が生まれるお手伝いが出来たかな、と皆さんから寄せられたアンケートに目を通しながら思った次第です。

ilche_090411.jpg 【photo】人を惹き付けるストーリーがある美味しい作物の作り手、消費者にそれを届ける流通小売に携わる人、作り手の想いを料理として皿の上に表現する料理人、学術的なアプローチで在来作物の価値に光を当てる研究者、地域のつなぎ役である行政など、さまざまな立ち位置で「食の都」の魅力を発信している庄内。今回のツアーでお会いした後藤 勝利さん・清子さんご夫妻、後藤 博さん・善博さん親子、佐久間ファームのご主人佐久間 良一さん(←何気にお茶目なピースサインをしてます)、坪池 兵一さん、あねちゃの店の佐藤 典子さん、偶然寒河江SAで鉢合わせした折に、皆さんに新米を差し上げますよとお申し出頂いた井上農場の井上 馨さん・悦さんご夫妻も参加した今年4月のアル・ケッチァーノ生産者の会で。食の都・庄内んめもの劇場の千両役者たちは、いつでも優しくあなたを迎え入れてくれるでしょう

 そろそろ「かほピョンくらぶ通旅 食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー」もお開きの時間となりました。いつかどこかでまたお会いしましょう。
・・・あっ、どこかでじゃなくて、食の都・庄内で、でしたね。
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2009/11/15

鳥海山と牛渡川と鮭

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第4幕
 ツアー二日目@箕輪鮭孵化場


chokai_2009.10.25.jpg【photo】山全体が紅葉で色付いた鳥海山がくっきりと姿を見せた二日目。左手前の杉林の中に鳥海の湧水が川となった牛渡川がある

 トリとウシとサケ。動物三題噺のようなお題ですが、お気になさらぬよう (゚o゚*)

 庄内平野最北の山形県飽海郡遊佐町を流れる牛渡川は、鳥海山に降る大量の雨や雪が山肌から地中に染み込んだ後に、地表に湧出してくる伏流水だけを水源とする澄み切った清流です。杉林の木漏れ日の中を音もなく流れる神秘的な牛渡川の岸辺からは、所々から水が湧き出ているのが確認できます【Link to back number】。

minowa_fukajyo.jpg【photo】牛渡川のほとりにある箕輪鮭孵化場。漁期となる10月~12月にかけては見学自由。私たちが訪れた10月末は早生鮭が遡上してくる最盛期とあって、いつになく多くの車が停まっていた

 江戸時代後期の1806年(文化3)、庄内藩は領下の月光川水系の二つの清流、滝淵川〈clicca qui〉と牛渡川を鮭が自然産卵しやすい環境を整備した「種川」として指定しました。隣接する越後村上藩では、1763年に世界初の種川が、鮭の母川回帰性を発見した村上藩士・青砥武平治によって村上・三面川に作られていました【Link to back number】。以来、たとえ食料が乏しい飢饉の年でも10月に入る頃から年が改まる頃にかけて生まれた川に帰ってくる鮭は、貴重なタンパク源として人々に恩恵をもたらしてきました。

sake_hokaku_minowa.jpg【photo】遡上のピーク期を迎え、ウライに誘い込まれた鮭は、タモで次々と水揚げされる。多い日には一日の捕獲数が1,000尾を越えることも珍しくなく、2,000尾を上回ることもある

 牛渡川と滝淵川はやがて一つの流れとなり、吹浦漁港の汽水域から1kmほどの河口付近で月光川に合流します。牛渡川に遡上してくる鮭は、年によって幅はありますが、年間平均3万匹~4万匹あまり。ゆったりとした流れに石菖藻や梅花藻が揺らめく清流のほとりに「箕輪鮭孵化場」はあります。河口からはわずか3 km弱しか離れておらず、澄みきった水の流れも穏やかなため、産卵のために川上へとに向かう鮭には遡上による魚体の損傷などのダメージが認められません。何故か海が荒れたほうが遡上数が増えるといいます。

bambini_sake.jpg【photo】水揚げされ、勢いよく飛び跳ねる鮭に腰が幾分引き気味ながらも、捕獲の手伝いをする子どもたち。子孫を残すために生まれ故郷の川に戻って来た鮭の捕獲を通して、命の尊さを身をもって知る

 鳥海山がくっきりと姿を現したツアー二日目の朝9時30分、到着した箕輪鮭孵化場の鮭採捕場では、遡上する鮭の捕獲作業の真っ最中でした。年によって時期の違いはあるにせよ、9月の遡上開始からピークを迎える10月下旬から11月下旬にかけては毎朝8時に捕獲が始まります。ひとたび中に入り込むと逃れることができない金属製の柵を設けた生簀「ウライ」に入り込んだ鮭たちには、黒味がかったブナの表皮のようなくすんだ緑や赤黒い縦模様などの婚姻色が現れています。

kazuo_togashi.jpg【photo】箕輪鮭漁業生産組合 富樫 和雄 組合長

 10月下旬は早生(わせ)の鮭で4~5kg前後の鮭が多いとのこと。男性がタモですくい上げ、勢い良く飛び跳ねる鮭の頭部には、こん棒の一撃が加えられます。動きを止めた鮭はオスとメスに仕分けられてゆきます。その作業を女性やまだ小さな子どもが手伝っていました。切り身になった鮭しか見ることのない都市部の子どもは、食べ物の背景にあるこうした命の現場を知ることはないでしょう。

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【photo】
メスの腹を割いて卵を傷つけないよう慎重に掻き出す採卵作業(右写真)

 コメの単作農家9名が加盟する「箕輪鮭漁業生産組合」の富樫 和雄組合長の説明によると、0.05%しかない自然交配による母川への回帰率を0.5%まで上げる効果がある人工繁殖用の卵を採取するのは、11月に遡上してくる晩生(おくて)の鮭から。早生のメス鮭に多くみられる筋子からイクラへの発育途上とでも言うべき未熟卵は、受精率も低いのだそう。そのため私たちが訪れた時期は、まだ人工繁殖は行っておらず、オスは食用として一尾1,000円で直売されるほか、メスの腹から取り出されたイクラ〈clicca qui〉は 1kg 2,000円で直売されます。

osusake_minowa.jpg【photo】オスは早生のうちはそのまま食用として、晩生になると生のほか、しょんびき(塩引き)や冬葉(トバ)などの加工に回される

 晩生のオスは型が大きくなり、なかには10kgを超える大物も揚がります。晩生鮭は脂が乗っており、風干して作る「しょんびき(=塩引鮭)」や身を長い短冊状にした「冬葉(トバ)」に適しています。風乾によって旨味成分であるアミノ酸が増えるため、加工作業は、寒さが厳しくなる11月下旬~12月に始まります。腹を開いて皮のぬめりを水洗いして除いた鮭に塩をすり込み、孵化場前に吊り下げ最低10日ほど風干しします。文字通り"風味"が乗った牛渡川の鮭の美味さは、塩漬け直後に冷凍される一般的な塩引きとは一線を画すものです。

 放流後4~5年を経て、牛渡川に戻ってくるよう数百万尾の稚魚が春先まで育つ孵化場のコンクリート製の遊魚槽は、空のままで稼動の時を待っていました。組合では2年前から地元の吹浦小学校に受精卵を提供し、生徒たちが孵化させ、放流に適した体長5cmほどになるまで育てた稚魚を牛渡川に放流する取り組みに協力しています。孵化場の裏手には、鮭の慰霊碑〈clicca qui〉があり、漁が一段落する毎年2月に組合員の手で供養祭が執り行われます。長い鮭との共存の歴史をもつこの地では、かけがえのない漁業資源や鮭が育つ水の大切さをこうして次の世代に伝えているのです。

ushiwatari_2009.10.25.jpg 孵化場の先に広がる杉林の中を流れる静謐な牛渡川を皆さんにお目にかけた後、手付かずの森に歩みを進めると、木々に囲まれた池が姿を現しました。エメラルドグリーンやコバルトブルーに色あいが変化するこの「丸池」は、牛渡川と同じ鳥海山の湧水を湛えています。地元では「丸池様」と呼ばれ、信仰の対象とされています。こうしてツアー二日目は、まず皆さんに水と命が循環してゆく現場をご覧頂きました。次なる見学地に向かう途中では、人の死と魂の再生を描いた映画「おくりびと」のロケ地となった月光川沿いの堤防に映画を再現して椅子が置かれた河原を車窓から眺められるよう、コースを設定しました。私が選んだルートには、こんな小細工が仕込んであったのです。

maruike_2009.10.25.jpg【photo】静寂が支配する杉林の中を流れる牛渡川(上写真)
地元で篤い信仰を集める丸池様は、直径20mほどの湧水からできた池(下写真)

 今回のツアーでは、事前のルート選びに苦慮する局面もありました。大型観光バスにとっては厳しい道幅のない直角カーブや狭隘なルートを進まざるを得ない箇所もあったからです。小回りのきく普通乗用車で移動するいつもとは勝手が違います。孵化場周辺は細い道が多く、遊佐町役場に電話で念のため不安な箇所の現況を出発の前日に確認しました。そこで想定ルートの途中に工事箇所があることが判り、現場担当者に特別の通行許可を頂く一幕もありました。今回お世話になった宮城県石巻市に本社があるバス会社のドライバーは、兼業農家の方だったため、道なき道と同然の難所を乗り越えて未知の訪問先を巡る今回の旅を職務としても楽しんでおいでのようでした。


 在来野菜「平田赤葱」と「カラドリ芋」の卓越した作り手や、近代日本の稲作史に偉大な足跡を残したコメ「亀ノ尾」ゆかりの地を訪れた行程の全容をお伝えするレポート最終章、食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第5幕 へ続く

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箕輪鮭漁業生産組合
住所:山形県飽海郡遊佐町直世字箕輪
phone:0234-77-2275 fax:0234-77-2309
URL:http://web1.nazca.co.jp/fukaba/
E-MAIL:minowa_fukaba@excite.co.jp
営:8:00~14:00頃(水揚げ量によって不定。10月~3月末)
  それ以外の農繁期は休業。FAXにて申し込めば、送料別途で地方発送可。
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2009/11/07

美味なる名匠 三重奏

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのツアー 第3幕
 月山パイロットファーム~レストラン欅~カクテル雪国

sheltering_sky.jpg【photo】月山パイロットファームから眺めた茜色の夕焼け雲。日本海に面した西の空が広い庄内では、時として出合える息をのむような残照に浮かぶ美しい光景に癒される

 夕方5 時をまわって西の空と西日に照らされた月山が茜色に染まってゆく中を、この日最後の見学先となる鶴岡市三和の「月山パイロットファーム」に到着しました。庄内地域における有機無農薬栽培のパイオニアで同法人の創業者である相馬 一廣さんの説明のもと、まずは温海カブの洗浄作業と、民田ナスの辛子漬の製造作業を見学。guidance_soma.jpg畑に使用する発酵完熟堆肥と農機のBDF(バイオディーゼル燃料)となる廃油を譲り受けている平田牧場との共同体制で確立している資源低投入型有機農法などについて、馬鈴薯の煮転がしと温海カブの甘酢漬けを試食しながら説明を受けました。
【photo】下処理した赤カブの洗浄工程について説明する相馬一廣さん(写真中央)

       senjyo_akakabu.jpg karashizuke_pilotfarm.jpg
【photo】自社農場で栽培した赤カブの洗浄作業(写真左) 自家栽培する辛子菜から製造した和辛子を加工用に用いるのは、全国でも月山パイロットファームをおいてほかにない。民田ナス辛子漬の加工作業は衛生上の配慮から室外から見学した(写真右)

 相馬さんの足跡については⇒≪Link to back number≫。月山山麓の未開の原野を開墾した相馬さんご夫妻の理想を形にした、いわば"Field of dreams"では、30年以上の歳月をかけて編み出した6 科目の輪作体系で、化学肥料や農薬類に頼ることなく地力を維持しながら野菜類が生産されています。加工においても添加物類は一切使用せず、味覚の形成過程にある子どもにも安心して食べさせることができる漬物などに製品化されます。郷土色豊かな製品はspeach_soma.jpg消費者とのつながりが深い生活クラブなど会員制直販組織を通して私たちのもとに届けられています。

【photo】相馬さんはエコロジーやサステナブルといった言葉など認知すらされていなかった30年以上前から遥かな地平を見つめてきた。ようやく時代が追いついた感のあるその人の語り口はあくまでも穏やか。それでいて言葉にはズシリと胸に響く重みと説得力がある

 食糧の生産過程において環境負荷を与えないことは無論のこと、地球資源を極力消費することなく持続的に人間が食するに値する食べ物を生産するという尊い仕事に携わってきた相馬さん。休業日前で出荷作業に追われるフル稼働状態だったにもかかわらず、私たちを受け入れて下さった相馬さんの奥様恵子さんは、「あまりお構いできなくて」と出荷用の温海カブ甘酢漬けをお土産としてご用意頂いていました。あまりに申し訳ないので、ここは是非とも購入させて下さいと曲げてお願いしました。granchef_ota.jpgならばと提示頂いたのは通常市価の1/3 程度の製造原価を割るような価格。相馬さんの講話に感銘を受けたに違いない皆さんに、じっくりと味わって頂きたい赤カブ漬をお一人様一袋限りで購入頂きました。

photo】「レストラン欅」総料理長の太田 政宏さん

 食の都・庄内の実力を知って頂くため、"百聞は一食にしかず"がポリシーの私が夕食の席として白羽の矢を立てたのは、酒田が誇る名店「レストラン欅」です。果たしてこの夜も太田 政宏シェフの独創的な「フランス風郷土料理」に唸らされました。亡き佐藤 久一と二人三脚で日本一のフランス料理店「ル・ポットフー」伝説を築いた功労者は、今も厨房の第一線に立つ傍らで、料理人を志す後進の育成にも尽力しています。横浜出身の太田シェフが佐藤 久一に腕を見込まれて酒田にやってきたのが42年前の24歳の時。美食の都リヨンに勝るとも劣らない庄内の食材、中でも魚の素晴らしさに魅せられた太田シェフならではの創作料理を皆さんに味わって頂こうと、魚介中心の組み立てをお願いしてありました。

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 本物しか認めなかった佐藤 久一が欅のハウスワインに選んだ蔵王山麓の山形県上山市にあるタケダワイナリー製のシャルドネとマスカットベリーAを混醸してオーク樽で熟成させた辛口白ワインをオーダーしました。一皿目はスライスされた温海カブと鮮度抜群なマトウダイの洋風刺身。そこには酒田の新たな特産品として取り組みが始まった食用の小ぶりな塩田ホオズキとエシャロット、湧水の町遊佐の清流で育ったクレソンが添えられていました。いずれも素材それぞれの澄み切った味が生かされています。軽やかで透明感のあるトマトソースで頂くヤリイカの詰物とカスベの香ばしい洋風天ぷらは旨みたっぷり。素材の甘みがまろやかに溶け込んだ焼き秋ナスの冷製クリームスープは、スプーンですくって一口ごとに減ってゆくのが惜しいほど(笑)

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 ふっくらとしたマトウダイとホタテのすり身をキャベツとホウボウで成型し、ブール・ブランソース風味のパイ包み焼きに仕上げたメインディッシュの付け合せは、ソテーしたホタテと温製の平田赤ネギに彩りのオクラ。佐藤 久一が実家である初孫酒造にフランス料理に合う日本酒として作らせた「秘蔵初孫 大吟醸」と頂いたのは、樹上脱渋する庄内柿の新ブランド柿しぐれのタルトとシャーベットのデザート。一品ごと太田シェフが席を回って外見が似ているホウボウとカナガシラの見分け方など、素材に関して丁寧に説明して下さいました。極めて充実したディナーの内容からすれば、仙台ではあり得ない二千円台前半という非常に良心的な価格と、いつに変わらぬ接客ぶりで、しみじみと心に染みる素晴らしい夕餉となりました。

2009.1.24kern.jpg【photo】カクテル雪国を味わうにはこんな夜がふさわしい。雪がしんしんと降る今年1月24日の夜に訪れた喫茶・バー「ケルン」

 公式日程はここまで。ホテルにバスで戻る皆さんをお見送りした後、素晴らしい食事の余韻に浸る13名で徒歩2分の至近距離にある喫茶・バー「ケルン」に移動しました。このオプショナルツアーのキモは、世界のスタンダードカクテル「Yukiguni 雪国」を考案した井山 計一さんご本人に作っていただいた雪国を、83歳にしてなお軽妙な井山さんの話を肴に酒田での一夜を締めくくろうというもの。

yukiguni_kern2009.1.24.JPG 
 1958年(昭和33)、壽屋(現サントリー)と洋酒天国社が主催した第3回ホームカクテルコンクールに出品、全国から応募のあった24,432件から翌年の全国大会に進んだ30点の応募作の最高位・グランプリを獲得したのが、カクテル雪国です。

【photo】井山さんが考案してから今年で誕生50周年を迎えた雪国。ケルンではグリーンの彩りが美しい名作カクテルを考案したご本人の手で作ってもらえる。その一杯と井山さんとの語らいで至福の時を過ごせる

 井山さんが温海町(現鶴岡市)の温海温泉にあるホテルに手伝いに行った際、コンテストへの出品を打診され、そこにあった有り合わせの材料を使って、さほど深く考えずに思い付きで作ったのが雪国だったという裏話も傑作ですが、林 房雄・岡本 太郎・宇野 重吉・安岡 章太郎・サトウハチロー・五島 昇ら、そうそうたる審査員から贈られたトロフィーに刻まれた賞の名称がまた傑作でした。現在も「サントリー ザ・カクテル アワード カクテル コンペティション」として半世紀以上の歴史を持つコンテスト史上唯一の「ノーメル賞」を贈られたのが雪国なのです。井山さんは「ノーベル賞なら何人も受賞しているけど、この賞は私だけしかもらっていません」と笑うのでした。

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【photo】すぐ近くにあった映画館グリーンハウスの上映を終えた支配人時代の佐藤 久一が、従業員を引き連れて夜な夜なこのカウンターでビールを片手に映画談義をしていた華やかりし往年の酒田や、修行時代を過ごした仙台のことを昨日のことのように語る井山さんの思い出話は、最高の肴になる(左写真) 「この街を 生き返らせるか おくりびと」など、ひねりが効いた井山さん作の川柳は定期的に更新され、カウンター背後に掲出される。この夜の一句は「聞くだけで 気が遠くなる 兆や億」(右写真)

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 流れるような手つきでカクテルグラスのエッジに細雪に見立てたグラニュー糖をまぶし、ミントチェリーを一粒沈める井山さん。長年の経験からメジャーカップを使わずにシェーカーにベースのウオッカを注ぎ、ホワイトキュラソーと甘口のライムコーディアルを加えてさっとシェーク。白雪の下で春の芽吹きを待つ緑に雪国の光景と、そこに暮らす人の想いを見事に表現した一杯が出来上がります。二杯目は一転して辛口のドライマティーニをお願いしました。癒し系で誠実なマエストロ相馬の講話、心のこもったマエストロ太田の料理、ノーメル賞のトロフィーが飾られたカウンターでエンターテイナーぶりを発揮するマエストロ井山による饗宴で、酔いも手伝ってすっかり気分が良くなりました。

norika_lalique1024.jpg【photo】ケルンの斜め向かいにある Lalique には、この夜も寄り添う鈴木さんと紀香の姿があった

 まだ飲み足りない酔いどれ精鋭部隊数名で向かった三軒目は、斜め向かいのスナック「Lalique」≪Link to back number≫へ。当ブログ Viaggio al Mondo で店を紹介してもらったお礼にと酒田市日吉町に蔵を構える酒田酒造の「限定品 大吟醸 上喜元」を1本ママに頂いてしまいました。カウンターには飼い主の鈴木 豊さんに寄り添う紀香と、店の中庭には気まぐれなモサの姿も。長かった一日目の余韻に浸る面々の酒田での一夜は、日本酒を酌み交わしながら、いつ果てるともなく更けてゆきました。

 鳥海山の伏流水でできた清流「牛渡川」と「丸池様」、鮭の捕獲採卵作業の見学を通して命の営みに触れた「箕輪鮭孵化場」訪問で幕を開けた翌日、食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第4幕 へ続く
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2009/11/03

酔って候

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのツアー 第2幕
 @竹の露酒造場 月山伏流仕込水

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【photo】蔵の敷地奥や孟宗筍の産地である高寺地区一帯まで広がる竹林が蔵名の由来となった竹の露酒造場

 稲刈りを終えた田んぼに囲まれた鶴岡市羽黒町猪俣新田にある「竹の露酒造場」【Link to Website 】では、代表社員の相沢 政男さんにお出迎え頂きました。蔵の敷地に最近整備された水飲み場には、地下300mから汲み上げている仕込み水が引かれています。月山山系のブナ原生林が水源となり、世界的にも珍しい火山性の石英質砂礫地層を通ったこの伏流水は、温泉法の定める25℃未満ギリギリの22-23℃と水温が高いのだそう。そういえば蔵から500mほどの距離に日帰り入浴施設「やまぶし温泉ゆぽか」があります。クリスタル地層でろ過された弱アルカリ性ph7.7、硬度19mg / ℓの超軟水は、一旦6基の貯水タンクで冷却ろ過した上で仕込みに使用しているそうです。

aizawa_kuramoto.jpgshikomimizu_takenotsuyu.jpg【photo】
ご案内頂いた竹の露酒造場 代表社員の相沢 政男さん(左写真) 蔵敷地内に湧く無菌超軟水の仕込み水。蔵元の話に耳を傾けながらもそのまろやかな味を確かめる参加者(右写真)

 蔵の中に取水口がついた導水管があり、声を掛けてから水を汲ませて頂く機会が多い竹の露酒造場の仕込み水は、湯田川の岩清水と並んで、鶴岡近辺では私が好きな湧水のひとつです。味の透明感が高く甘く柔らかなその水は、吟醸クラスではない例えば「特撰純米酒 白露垂珠」がそうであるように、精米歩合55%まで磨いた地元羽黒の米「出羽の里」と出合って酒として醸されると、より一層柔らかさが増すから不思議。sakamai_takenotsuyu.jpg口腔に広がる透明感のある柔らかな香り高い酒は、スッと綺麗に咽喉へと吸い込まれてゆきます。その元となる弱アルカリ性で健康増進と美肌効果も期待できるという水を皆さん美味しそうに味わっておいででした。

【photo】蔵には竹の露の酒造りで使用される地元の酒米が展示される

 民間育種が盛んであった庄内地方では、記録が残っているだけでこれまでに60人以上の育種家によって160種ものコメ品種が生まれています。一地域でこれほど多くの新品種を民間人が育種した例は他になく、研究熱心で進取の気風に富んだ庄内の一面を物語ります。その代表格が、近代日本が生んだ優良食用米の祖にあたり、近年では酒米として復活している「亀ノ尾」を創選した阿部 亀治の存在です。食する物の背景を知るのが目的である今回のツアーでは、竹の露で試飲用に亀ノ尾の酒をご用意頂き、亀ノ尾の原種となった3本の稲穂が発見された羽黒山の東、庄内町立谷沢の熊谷神社を二日目に訪れることになっていました。

daiginjyo_hakurosuishu.jpg【photo】IWCインターナショナルワインチャレンジ2009で金賞を受賞した「純米大吟醸 はくろすいしゅ」

 1858年(安政5)創業の歴史ある蔵では、自家栽培する亀ノ尾・京ノ華・改良信交・出羽燦々・出羽の里・美山錦の酒造好適米6種を始め、全て地元羽黒の米を使用した「地の酒」造りを行っています。同じ酒米でも作り手によって最適な水の浸漬が異なるため、仕込みはそれぞれ専用のタンクで行う徹底ぶりが、山田錦以外の酒米で競われる全国新酒鑑評会第一部で6年連続金賞受賞という輝かしい結果を生んでいます。今年の4月に162蔵元が359銘柄の酒を出品してロンドンで開催された「IWCインターナショナルワインチャレンジ2009」の

degstazion_takenotsuyu.jpg「sake部門」純米吟醸・純米大吟醸のカテゴリーで、最高賞のGold prize 金賞 全8銘柄のひとつに竹の露酒造「純米大吟醸 はくろすいしゅ」が選ばれました。精米歩合を40%まで高めた酒米の出羽燦々を蔵のお膝元で栽培したのは羽黒杜氏の本木 勝美氏。地の米・地の水が、地の技によって比類なき味わいを生み出します。

【photo】「こりゃ美味いわ」、「こっちは飲み口が柔らかいぞ」と熱気渦巻く試飲タイム

 待ちかねた試飲には、IWC金賞受賞酒の「出羽燦々 純米大吟醸 はくろすいしゅ」・「同 大吟醸 白露垂珠」・地元限定の「亀ノ尾 氷温三年熟成 純米吟醸 かすか」・「同 純米吟醸はくろすいしゅ」・県が独自に定めた基準に基づき、歴史風土を反映した優れた製品に与えられる戦略ブランド「山形セレクション」選定酒「出羽の里 純米吟醸 はくろすいしゅ」・現在では山形だけで栽培される酒米「改良信交 純米吟醸 はくろすいしゅ」・栽培地としては最北の「鶴岡山田錦 純米吟醸 はくろすいしゅ」・大正期に庄内で育種された「京の華 無濾過純米 白露垂珠」・出羽燦々の祖先に当たる「美山錦 純米吟醸 白露垂珠」の9種類の酒が用意されました。酸の立ち方や含み香などに酒米ごとの個性が表現されますが、いずれもこの蔵の特徴である芳醇端麗なキレの良さを持ち合わせているのが印象的でした。

tutti_takenotsuyu.jpg【photo】
食WEB研究所のフードライターとしても活躍中の女性利酒師、早坂久美さんもツアーに参加。地元以外では入手困難な「亀ノ尾 氷温三年熟成 純米吟醸 かすか」など、この日試飲した全アイテムを前にご満悦

 正直に白状すると、いつものように自分が運転する立場ではないのをいいことに、もはや試飲の域を超えてしまったワタクシ。居並ぶ美酒を前にしてほとんど仕事を忘れそうになる自分を葛藤の末にやっとの思いで引き戻し、再びラッシャー木村ばりのマイクパフォーマンス(?)を繰り広げながら向かったのは旧藤島町(現鶴岡市)が循環型農業の実践などを通して実現を目指すエコタウン構想の旗振り役であった相馬 一廣さんがおいでの「月山パイロットファーム」です。

 その夜、太田 政宏グランシェフ自ら解説付きでフランス風郷土料理の神髄を魅せて頂いた「レストラン欅」と、オプショナルツアーで訪れた"生ける伝説のバーテンダー"井山 計一さんの店「喫茶・バー ケルン」での一部始終はまた次回。

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第3幕 美味な名匠三重奏 に続く
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Giugno 2016
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