あるもの探しの旅

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美味なる名匠 三重奏

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのツアー 第3幕
 月山パイロットファーム~レストラン欅~カクテル雪国

sheltering_sky.jpg【photo】月山パイロットファームから眺めた茜色の夕焼け雲。日本海に面した西の空が広い庄内では、時として出合える息をのむような残照に浮かぶ美しい光景に癒される

 夕方5 時をまわって西の空と西日に照らされた月山が茜色に染まってゆく中を、この日最後の見学先となる鶴岡市三和の「月山パイロットファーム」に到着しました。庄内地域における有機無農薬栽培のパイオニアで同法人の創業者である相馬 一廣さんの説明のもと、まずは温海カブの洗浄作業と、民田ナスの辛子漬の製造作業を見学。guidance_soma.jpg畑に使用する発酵完熟堆肥と農機のBDF(バイオディーゼル燃料)となる廃油を譲り受けている平田牧場との共同体制で確立している資源低投入型有機農法などについて、馬鈴薯の煮転がしと温海カブの甘酢漬けを試食しながら説明を受けました。
【photo】下処理した赤カブの洗浄工程について説明する相馬一廣さん(写真中央)

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【photo】自社農場で栽培した赤カブの洗浄作業(写真左) 自家栽培する辛子菜から製造した和辛子を加工用に用いるのは、全国でも月山パイロットファームをおいてほかにない。民田ナス辛子漬の加工作業は衛生上の配慮から室外から見学した(写真右)

 相馬さんの足跡については⇒≪Link to back number≫。月山山麓の未開の原野を開墾した相馬さんご夫妻の理想を形にした、いわば"Field of dreams"では、30年以上の歳月をかけて編み出した6 科目の輪作体系で、化学肥料や農薬類に頼ることなく地力を維持しながら野菜類が生産されています。加工においても添加物類は一切使用せず、味覚の形成過程にある子どもにも安心して食べさせることができる漬物などに製品化されます。郷土色豊かな製品はspeach_soma.jpg消費者とのつながりが深い生活クラブなど会員制直販組織を通して私たちのもとに届けられています。

【photo】相馬さんはエコロジーやサステナブルといった言葉など認知すらされていなかった30年以上前から遥かな地平を見つめてきた。ようやく時代が追いついた感のあるその人の語り口はあくまでも穏やか。それでいて言葉にはズシリと胸に響く重みと説得力がある

 食糧の生産過程において環境負荷を与えないことは無論のこと、地球資源を極力消費することなく持続的に人間が食するに値する食べ物を生産するという尊い仕事に携わってきた相馬さん。休業日前で出荷作業に追われるフル稼働状態だったにもかかわらず、私たちを受け入れて下さった相馬さんの奥様恵子さんは、「あまりお構いできなくて」と出荷用の温海カブ甘酢漬けをお土産としてご用意頂いていました。あまりに申し訳ないので、ここは是非とも購入させて下さいと曲げてお願いしました。granchef_ota.jpgならばと提示頂いたのは通常市価の1/3 程度の製造原価を割るような価格。相馬さんの講話に感銘を受けたに違いない皆さんに、じっくりと味わって頂きたい赤カブ漬をお一人様一袋限りで購入頂きました。

photo】「レストラン欅」総料理長の太田 政宏さん

 食の都・庄内の実力を知って頂くため、"百聞は一食にしかず"がポリシーの私が夕食の席として白羽の矢を立てたのは、酒田が誇る名店「レストラン欅」です。果たしてこの夜も太田 政宏シェフの独創的な「フランス風郷土料理」に唸らされました。亡き佐藤 久一と二人三脚で日本一のフランス料理店「ル・ポットフー」伝説を築いた功労者は、今も厨房の第一線に立つ傍らで、料理人を志す後進の育成にも尽力しています。横浜出身の太田シェフが佐藤 久一に腕を見込まれて酒田にやってきたのが42年前の24歳の時。美食の都リヨンに勝るとも劣らない庄内の食材、中でも魚の素晴らしさに魅せられた太田シェフならではの創作料理を皆さんに味わって頂こうと、魚介中心の組み立てをお願いしてありました。

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 本物しか認めなかった佐藤 久一が欅のハウスワインに選んだ蔵王山麓の山形県上山市にあるタケダワイナリー製のシャルドネとマスカットベリーAを混醸してオーク樽で熟成させた辛口白ワインをオーダーしました。一皿目はスライスされた温海カブと鮮度抜群なマトウダイの洋風刺身。そこには酒田の新たな特産品として取り組みが始まった食用の小ぶりな塩田ホオズキとエシャロット、湧水の町遊佐の清流で育ったクレソンが添えられていました。いずれも素材それぞれの澄み切った味が生かされています。軽やかで透明感のあるトマトソースで頂くヤリイカの詰物とカスベの香ばしい洋風天ぷらは旨みたっぷり。素材の甘みがまろやかに溶け込んだ焼き秋ナスの冷製クリームスープは、スプーンですくって一口ごとに減ってゆくのが惜しいほど(笑)

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 ふっくらとしたマトウダイとホタテのすり身をキャベツとホウボウで成型し、ブール・ブランソース風味のパイ包み焼きに仕上げたメインディッシュの付け合せは、ソテーしたホタテと温製の平田赤ネギに彩りのオクラ。佐藤 久一が実家である初孫酒造にフランス料理に合う日本酒として作らせた「秘蔵初孫 大吟醸」と頂いたのは、樹上脱渋する庄内柿の新ブランド柿しぐれのタルトとシャーベットのデザート。一品ごと太田シェフが席を回って外見が似ているホウボウとカナガシラの見分け方など、素材に関して丁寧に説明して下さいました。極めて充実したディナーの内容からすれば、仙台ではあり得ない二千円台前半という非常に良心的な価格と、いつに変わらぬ接客ぶりで、しみじみと心に染みる素晴らしい夕餉となりました。

2009.1.24kern.jpg【photo】カクテル雪国を味わうにはこんな夜がふさわしい。雪がしんしんと降る今年1月24日の夜に訪れた喫茶・バー「ケルン」

 公式日程はここまで。ホテルにバスで戻る皆さんをお見送りした後、素晴らしい食事の余韻に浸る13名で徒歩2分の至近距離にある喫茶・バー「ケルン」に移動しました。このオプショナルツアーのキモは、世界のスタンダードカクテル「Yukiguni 雪国」を考案した井山 計一さんご本人に作っていただいた雪国を、83歳にしてなお軽妙な井山さんの話を肴に酒田での一夜を締めくくろうというもの。

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 1958年(昭和33)、壽屋(現サントリー)と洋酒天国社が主催した第3回ホームカクテルコンクールに出品、全国から応募のあった24,432件から翌年の全国大会に進んだ30点の応募作の最高位・グランプリを獲得したのが、カクテル雪国です。

【photo】井山さんが考案してから今年で誕生50周年を迎えた雪国。ケルンではグリーンの彩りが美しい名作カクテルを考案したご本人の手で作ってもらえる。その一杯と井山さんとの語らいで至福の時を過ごせる

 井山さんが温海町(現鶴岡市)の温海温泉にあるホテルに手伝いに行った際、コンテストへの出品を打診され、そこにあった有り合わせの材料を使って、さほど深く考えずに思い付きで作ったのが雪国だったという裏話も傑作ですが、林 房雄・岡本 太郎・宇野 重吉・安岡 章太郎・サトウハチロー・五島 昇ら、そうそうたる審査員から贈られたトロフィーに刻まれた賞の名称がまた傑作でした。現在も「サントリー ザ・カクテル アワード カクテル コンペティション」として半世紀以上の歴史を持つコンテスト史上唯一の「ノーメル賞」を贈られたのが雪国なのです。井山さんは「ノーベル賞なら何人も受賞しているけど、この賞は私だけしかもらっていません」と笑うのでした。

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【photo】すぐ近くにあった映画館グリーンハウスの上映を終えた支配人時代の佐藤 久一が、従業員を引き連れて夜な夜なこのカウンターでビールを片手に映画談義をしていた華やかりし往年の酒田や、修行時代を過ごした仙台のことを昨日のことのように語る井山さんの思い出話は、最高の肴になる(左写真) 「この街を 生き返らせるか おくりびと」など、ひねりが効いた井山さん作の川柳は定期的に更新され、カウンター背後に掲出される。この夜の一句は「聞くだけで 気が遠くなる 兆や億」(右写真)

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 流れるような手つきでカクテルグラスのエッジに細雪に見立てたグラニュー糖をまぶし、ミントチェリーを一粒沈める井山さん。長年の経験からメジャーカップを使わずにシェーカーにベースのウオッカを注ぎ、ホワイトキュラソーと甘口のライムコーディアルを加えてさっとシェーク。白雪の下で春の芽吹きを待つ緑に雪国の光景と、そこに暮らす人の想いを見事に表現した一杯が出来上がります。二杯目は一転して辛口のドライマティーニをお願いしました。癒し系で誠実なマエストロ相馬の講話、心のこもったマエストロ太田の料理、ノーメル賞のトロフィーが飾られたカウンターでエンターテイナーぶりを発揮するマエストロ井山による饗宴で、酔いも手伝ってすっかり気分が良くなりました。

norika_lalique1024.jpg【photo】ケルンの斜め向かいにある Lalique には、この夜も寄り添う鈴木さんと紀香の姿があった

 まだ飲み足りない酔いどれ精鋭部隊数名で向かった三軒目は、斜め向かいのスナック「Lalique」≪Link to back number≫へ。当ブログ Viaggio al Mondo で店を紹介してもらったお礼にと酒田市日吉町に蔵を構える酒田酒造の「限定品 大吟醸 上喜元」を1本ママに頂いてしまいました。カウンターには飼い主の鈴木 豊さんに寄り添う紀香と、店の中庭には気まぐれなモサの姿も。長かった一日目の余韻に浸る面々の酒田での一夜は、日本酒を酌み交わしながら、いつ果てるともなく更けてゆきました。

 鳥海山の伏流水でできた清流「牛渡川」と「丸池様」、鮭の捕獲採卵作業の見学を通して命の営みに触れた「箕輪鮭孵化場」訪問で幕を開けた翌日、食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第4幕 へ続く
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コメント

月山パイロットファーム
素晴らしいですね
地元の食材の料理 素敵です

▼ryuji_s1 様

 相変わらず美味しそうな自作イタリアンを楽しんでおいでのようですね。

 相馬さんのお人柄が滲み出た漬物は、仙台なら10月末の「Wa!わぁ祭り」でご本人を前にして試食することができます。機会があればぜひどうぞ。

 月山を望む庄内で頂くのが一番ではありますが…

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