あるもの探しの旅

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満腹御礼

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第5幕
 作り手の思いに触れた二日間の旅

hiroshi_yoshihiro_goto.jpg【photo】吹き抜ける秋の風が心地よい酒田市飛鳥の平田赤ねぎ畑で、平田赤ねぎ生産組合長 後藤 博さんに赤ねぎの由来や特徴を伺った

 かつてその地に種を伝えた上方商人が船で往き来した酒田市飛鳥の最上川に面した「平田赤ねぎ」Link to backnumberの広大な畑では、「平田赤ねぎ生産組合」の後藤 博組合長(59)が柔和な笑顔で出迎えて下さいました。傍らには平田赤ねぎの品質向上と普及のために奔走してきた父の背中を見てきたご子息の喜博さん(30)の姿も。喜博さんは昨年4月に会社勤めをやめ、専業農家として赤ねぎの生産を手伝っています。次の世代を担う後継者が頑張っていることを嬉しく思う庄内系イタリア人なのでした。

 旧平田町(現酒田市)飛鳥地区一帯に伝わる在来野菜・平田赤ねぎは、その食味の良さが認められ、地元での再評価に加えて、後藤さんの組合が設けた厳しい品質基準に沿って出荷される首都圏でも好評を博しています。今年から取引を開始した大阪には、毎週100ケースを出荷するなど、全体の出荷量が昨年比で3割近く伸びているといいます。今年は10名の組合員が3haの畑で赤ねぎを栽培していますが、伸び続ける需要に出荷が追い付かない状況だとか。後藤さんは、着実にブランド力を上げ、販路を広げている平田赤ねぎに続く事例が周囲に登場することを願っていると語ります。地域全体に新たな活力が生まれてこそ、自分たちが歩んだ軌跡に価値が生まれるのだと言葉に力を込めました。

akanegi_chokai.jpg hiroshi_goto091025.jpg hiroshi_goto_091025.jpg

 後藤さんには、皆さんからお顔がよく見えるように搬出用の荷車の上で赤ねぎに関してご説明頂きました。ご用意願った鮮度保持包装フィルム入りの赤ねぎや、規格外となった赤ねぎを活用した粉末スープ、麺に赤ねぎを練り込んだうどんなどの加工品がテーブル上に並べられています。ひとしきり説明が終わると、藤沢カブの時と同様、熱気あふれる青空市の始まりです。喜博さんの隣で私も売り子になり、皆さんにたくさんお買い上げ頂きました。
 
 仙台で平田赤ねぎを入手できる店についてバスの中でお問い合わせ頂きました。そこでお答えした不定期に入荷するさくらの百貨店やイオン系列のほか、仙台駅前の朝市にある今庄青果本店では、10月から年明けまで後藤さんの組合が出荷する赤ねぎを一袋300円~350円(税込)というリーズナブルな価格で定番商品として扱います。"一度食べてもらえば必ずリピーターになってもらえる"と語る後藤さんの言葉通りになった方は、今庄青果本店へどうぞ。

sankyo_soko_091025.jpg 【photo】庄内米の備蓄倉庫として現在も使われている山居倉庫。裏手のケヤキ並木もすっかり秋の装い
 
 当初はそこから酒田市横代で坪池 兵一さんが絶品のズイキを植酸農法で栽培する水苗代にご案内する予定でした。しかしこの日は酒田を代表する観光スポットでもある山居倉庫を会場に「米フェスタ2009酒田市農林水産まつり」が行われており、坪池さんはそちらの農産物直売コーナーの特設テントにおいでとのこと。この日の昼食は湊町酒田を代表する寿司店「鈴政」で頂くことになっていたので、その道筋にあたる山居倉庫を目指しました。

nourin_matsuri09.jpg【photo】黄金色に輝くケヤキが青い空に映える「米フェスタ2009 酒田市農林水産まつり」会場となった山居倉庫は、食の都・庄内の実りの秋を彩るさまざまな産物を求めて訪れた人で大変な賑わいを見せていた

 今しがた畑を訪れたばかりの平田赤ねぎ、酒田沖に浮かぶ飛島特産のジャガイモ「ごどいも」、酒田市円能寺地区産の希少な餅米「女鶴」などなど、地域性豊かな逸品がところ狭しと並びます。話題の新品種「つや姫」の新米もあり、さまざまな試食コーナーには長蛇の列ができていました。人ごみをかき分けながら私たちが目指したのは「海鮮市場海の八百屋」のテント。そこに旬を迎えたカラドリ芋を前に並べた坪池さんご夫妻の姿がありました。

tsuboike_091025.jpg  【photo】葉以外の親芋・子芋・茎すべてを食する青ズイキを手に、時折ギャグを交えて説明いただいた坪池 兵一さん

 有機酸を用いて植物の根を活性化し、同時に土壌の改善も行えるという「植酸農法」の匠、坪池さんが手掛けるカラドリ芋はひと味もふた味も違います。坪池さんは原産地の東南アジアと同じ水苗代でズイキ栽培をしています。畑作と比べて水苗代は植え付けや収穫時の労力はかかりますが、味にこだわる庄内の生産者は水苗代でズイキを育てています。坪池さんに写真資料を見せて頂いたことがありますが、植酸農法で栽培したコメや野菜の根の張りが良いことは、一目瞭然。カラドリ芋はズイキの根にあたることから、植酸農法が適していることは理にかなっています。そんな難しい話は抜きにしてお得意のギャグを交えたセールストークに釣られるように、皆さんにお買い上げ頂きました。

suzumasa_sakata.jpg【photo】酒田市日吉町「鈴政」

 昼食を予約していた酒田市日吉町の鈴政は、1955年(昭和30)の創業。湊町酒田を代表する寿司の名店です。暖簾を受け継ぐ二代目の佐藤 英俊さんは、寿司はふんわりと握ったシャリが、厳しく目利きしたネタと職人の手の中で出合った瞬間が一番美味しいと語ります。そのため、本来は一貫ごとに若大将が握る寿司について説明を受けながらカウンターで頂くのが望ましいのですが、なにせこの日は総勢30名という人数。案内された二階の大広間には、既に寿司が用意されていました。それでも十分にネタの良さは伝わります。

suzumasa_091025.jpg 【photo】湊酒田の粋を頂く「鈴政」の江戸前寿司は、若大将の話を聞けるカウンターで楽しみたい

 6年前に情報誌ALPHAの取材で仙台から訪れた取材クルーは、「塩で召し上がって下さい」と出された白ゴマを散らした平目や、適度に上品な脂が乗ったノドグロ、庄内浜で揚がる近海ホンマグロ、全国を股にかけて最高のもの探し出すというウニなど、隅々まで職人の細やかで確かな技が行き届いた特上にぎりに、「もう宮城では寿司は食べられない」と語っていたほど。しかも特上で2,100円という価格です。そのコストパフォーマンスの高さにも舌を巻いていました。ちなみに酒田っ子の中には、鈴政は高級店だからと敬遠する人もいます。湊町だけに酒田の寿司は総じて高いレベルを保っています。皆さんには、改めて鈴政のカウンター席に足を運んで頂くとしましょう。

nk_agent091025.jpg【photo】オスカー受賞映画「おくりびと」でNKエージェントの舞台となった旧「割烹小幡」。フグの白子を眺める参加者

 予定よりも若干早めに食事を終えたので、映画「おくりびと」でNKエージェントの舞台となった旧「割烹 小幡」《clicca quiに皆さんをご案内しました。主人公の小林 大悟(本木 雅弘)が「安らかな旅のお手伝い」と記された求人広告を手に訪れた坂の先に、にわかに脚光を浴びることとなった古びた建物があります。納棺師の事務所として映画で使われた雰囲気そのままの一階から、急な階段で三階まで移動すると、社長(山崎 努)が主人公に勧めたフグの白子焼きの模型が餅焼き網の上に並んでいました。「旨いんだよなぁ、これが。困ったことに...」という山崎 努のセリフが蘇り、男二人が美味しそうに白子の中身をすする場面を思い起こすと、寿司を食べたばかりだというのに、じんわりヨダレが・・・。

watarai_shiryokan.jpg【photo】阿部 亀治の業績についてご説明頂いた渡會 幸江さん

 庄内町の「亀ノ尾の里資料館」では、近代日本で誕生したコシヒカリ・ひとめぼれ・ササニシキ・はえぬき・つや姫など優良銘柄米の系統を辿ってゆくと、その源流に名を留めるコメ「亀ノ尾」の生みの親、同町出身の育種家 阿部 亀治(1868-1928)Link to backnumberについて学芸員の渡會 幸江さんに解説して頂きました。

 東北が大凶作に見舞われた1893年(明治26)の9月29日、当時26歳の亀治は青立ちする「惣兵衛早生」の中から突然変異したと思われる黄金色の穂をつけた3本の稲穂を偶然見出します。そこが真夏でも冷たい月山の雪解け水が流れ込む立谷沢川の水を引く田んぼの水口だったことから、寒さに強い品種に違いないと直感した亀治は、4年の歳月をかけてそのコメを改良育種します。在来品種よりも倒伏しにくく、耐冷性・耐病性に優れ、食用米としての味の良さと多収性を兼ね備えたその新品種を、周囲の人々は創選者の名前にちなんで「亀ノ王」と名付けるよう亀治に進言します。"王ではおこがましいので、尾っぽでいい"と生粋の庄内人であった亀治が付けたのは「亀ノ尾」という名前でした。

kanoo_shiryokan.jpg【photo】阿部 亀治と亀ノ尾に関する展示を前に、渡會さんの説明に聞き入る参加者

 年間を通して圃場に水を張っておく湿田栽培から、乾田栽培にコメの栽培法が大転換をしてゆく中で、乾田に適した亀ノ尾の名声は高まる一方。各地からの求めに応じて、亀治は種籾を惜しむことなく分け与えたといいます。1905年(明治38)、東北の太平洋側は天保の大飢饉以来といわれる凶作に見舞われました。翌年植え付けする種籾が不足した宮城県庁あてに、一斗分の種籾を贈ったのも阿部 亀治でした。地元では先陣を切って導入した乾田馬耕と期を一にして亀ノ尾は作付けを増やしてゆきます。そうして大正末期から昭和初期においては、国内のみならず、台湾や朝鮮半島にも亀ノ尾は普及してゆくのです。

kameji_abe@60.jpg【photo】昭和2年4月、農事功労者として藍綬褒章を受賞した阿部亀治翁 60歳の写真。亀ノ尾の里資料館の展示より

 亀ノ尾の里資料館を後にした私たちは、亀ノ尾が発見された立谷沢川沿いの庄内町中村集落にある熊谷神社を訪れました。しかし大型バスでは神社に近付くことができず、亀の尾発祥の地と刻まれた記念碑《clicca qui》をお目にかけることは残念ながら叶いませんでした。亀治は参詣の途中で3本の稲穂を発見しているので、神社の手前でバスを停め、稲作史に偉大な足跡を残したコメが生まれた地で、しばしの時を過ごしました。

tachiyazawa080829.JPG nakamura_091025.JPG 【photo】116年前に阿部 亀治が亀ノ尾を発見した熊谷神社近くの稲刈りを終えた田んぼ。近代稲作史はここから始まったと言っても言い過ぎではない(写真右)。たわわな稲穂が豊かな秋の稔りを期待させる昨年8月末。立谷沢川沿いの庄内町中村地区から熊谷神社方向と鳥海山を望む。亀ノ尾の子孫である「はえぬき」「コシヒカリ」「ひとめぼれ」などが育つこの風景を阿部 亀治も目を細めて眺めているに違いない(写真左) 産直「あねちゃの店」(写真下)

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 ツアーも終盤。残すは観光ツアーには欠かせないお土産の買い出しタイムです。初日のトイレ休憩で立ち寄った産直あぐりを含め、佐久間ファーム・藤沢カブの後藤さん・竹の露酒造場・月山パイロットファーム、二日目に立ち寄った箕輪鮭孵化場・平田赤ねぎの後藤さん・山居倉庫で営業していたカラドリ芋の達人 坪池さんなどで、皆さんはすでに相当量の買い物をしてきたはずです。それでも鶴岡市羽黒町狩谷野目にある産直「あねちゃの店」にご案内すると、食の都・庄内の魅力に触れたためか、再びスイッチが入ったようでした。食WEB研究所のフードライターを務めておいでの管理栄養士 大河内 裕子さんは、店の雰囲気とどこかミスマッチな(笑)西洋野菜のCavolo rapa(カーヴォロ・ラパ=コールラビ・パープルまたはパープルベンナ)のほか、今年の収穫を終えるばかりとなった沖田ナスLink to backnumberを箱買いされるなど、両手に持ちきれんばかりにお買い上げ。大型バスの最大積載量も限界に近づいていました。

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【photo】青果品の買い物は「あねちゃの店」で、一般的な買い物は「庄内観光物産館」で、と皆さんをご案内した最後の買出し。畑と直結しているゆえの安さも手伝って、皆さん買うわ買うわ・・・。おかげ様で佐藤 典子店長から「お嬢さんにどうぞ」と袋一杯に詰め込んだ美味しい庄内柿を頂いてしまいました。もっけだの(●⌒∇⌒●)

 山形道に乗る前に訪れたのが、鶴岡ICすぐ近くの「庄内観光物産館」です。都市間高速バスの発着所にもなっており、庄内の観光ツアーではハズせないお買物スポットといえるでしょう。藩制時代以来の造り酒屋街であった大山地区ほか庄内の地酒や月山ワインなどがずらりと並ぶ酒販コーナーに直行したのはフードライターの女性利酒師 早坂 久美さん。竹の露・白露垂珠を制覇してなお、さらに庄内の酒を極めんとする探究心には頭が下がります。新鮮な海産物・漬物類・菓子類・加工食品などがズラリと並ぶ店内からバスに戻った皆さんには、初日に藤沢カブの後藤 清子さんから頂いたまま、バスのカーゴスペースに入れておいた泥付きの田川カブを小分けにしてお配りしました。

 帰路のバスではツアーに同行した食WEB研究所スタッフ 畠山 茂陽氏が集約した皆様からの「普段はどんな食生活なのか?」「仙台でお勧めのイタリアンはどこか?」など質問攻めに遭いました。ご参加頂いた皆さんには、今回より幾分ペースダウンして食の都を再び訪れて頂ければと思っています。ホームタウンを舞台にコアなトークを炸裂させた私自身は、楽しくも充実した二日間を過ごすことができました。微力ながら食を通して新たな絆が生まれるお手伝いが出来たかな、と皆さんから寄せられたアンケートに目を通しながら思った次第です。

ilche_090411.jpg 【photo】人を惹き付けるストーリーがある美味しい作物の作り手、消費者にそれを届ける流通小売に携わる人、作り手の想いを料理として皿の上に表現する料理人、学術的なアプローチで在来作物の価値に光を当てる研究者、地域のつなぎ役である行政など、さまざまな立ち位置で「食の都」の魅力を発信している庄内。今回のツアーでお会いした後藤 勝利さん・清子さんご夫妻、後藤 博さん・善博さん親子、佐久間ファームのご主人佐久間 良一さん(←何気にお茶目なピースサインをしてます)、坪池 兵一さん、あねちゃの店の佐藤 典子さん、偶然寒河江SAで鉢合わせした折に、皆さんに新米を差し上げますよとお申し出頂いた井上農場の井上 馨さん・悦さんご夫妻も参加した今年4月のアル・ケッチァーノ生産者の会で。食の都・庄内んめもの劇場の千両役者たちは、いつでも優しくあなたを迎え入れてくれるでしょう

 そろそろ「かほピョンくらぶ通旅 食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー」もお開きの時間となりました。いつかどこかでまたお会いしましょう。
・・・あっ、どこかでじゃなくて、食の都・庄内で、でしたね。
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